XXXⅧスレ268 氏_The Second-grade Syndrome2

Last-modified: 2012-09-30 (日) 02:38:52
 

太平洋に浮かぶ小国、リモネ○ア共和国。
それより北へ約40km離れた山中にて、MSの一個小隊が展開していた。
しかしこの小隊、少々おかしな所があり、構成するMSが右からムラサメ・ザク・ゲイツ・ウィンダム・ダガーL等、
所属も年代もバラバラな計12機が統率らしい統率を全くとらず皆我先にとリモ○シアを目指している。

 

『はっ!今日こそ俺が一番強いって所見せてやるぜ!』

最も先行していたウィンダムを操縦する若い男が叫ぶ。

『MSも持ってないド田舎相手にしてどう見せる気だよ、野蛮なナチュラルさんよぉ』

するとウィンダムに追走するザクから茶化すような声が上がり、他の機体から失笑が漏れる。

『うるせぇよ宇宙の化け物が!』
『なんだぁやる気か?』
「止めろ」

ウィンダムとザクの間に邪悪な空気が流れかける。
それを制止したのは部隊の一番後方に居たムラサメのパイロットだった。

 

「盗賊に身を堕とした時点で、コーディネーターもナチュラルも無い筈だ。
 喧嘩なら仕事が終わってからにしろ」
『……ちっ、分かったよ』
『へいへい』

恐らくムラサメのパイロットが彼等の中で一番の年長者なのだろう。
渋々頷いたウィンダムとザクのパイロットに、ムラサメのパイロットは溜息を吐く。

 

「……こうも足並みが揃わんとはな」

 

彼等はここ最近リリモネ○ア周辺で活動する、前大戦終結後世界的に行われた大幅な軍縮により、
行き場を無くした者達による混合盗賊団である。
その中で一番の年長者であったムラサメのパイロットが一応の隊長を勤めて居るのだが、
主義や主張、人種から嘗ての命令系統までてんでバラバラだった「はみ出し者」達を
まとめるのは不可能に近く、度々今のようないざこざが発生していた。
MSを持たない、或いは素人のパイロットしかいない小国が相手なら純粋な力押しで何とかなる為問題は無い。
しかし、統率のとれた同規模のMS隊を相手にしたら10分と保たず全滅するだろう。

 

「情けない話だ」

 

生きる為仕方なくとはいえ、僅か数ヶ月前まで力の無い人々を守る為に軍人となった自分が、
今では全く逆の立場に立つ事になるとは。
ムラサメのパイロットが自虐的な笑みを浮かべたその時、異変が起こった。

 

「センサーに反応?」

ムラサメのセンサーが、正体不明の機影を捉えたのだ。

『何だ!?敵か!?』
『この反応…戦闘機や輸送艦の類いじゃい、MSだ』
他のパイロット達も謎の機影に気付いたようで、皆足を止め各々声を上げ始める。

 

『同業者か?』
『いや、俺達とリモネシ○の丁度中間地点に陣取ってる』
『連合軍……はないな。識別番号が出てない』
『つまり○モネシアの護衛って訳?話が違わないかい、隊長殿』
「うむ…」

ザクのパイロットからの通信に隊長が頷く。
リモネシアは護衛用のMSを用意出来るほど余裕 のある国では無い筈だ。だから今回の標的に選んだのだ。

 

「数は?」
『今確認して……おいおい、たった2機だぜ?』
「2機だと?」

ウィンダムからの報告に、隊長は慌ててセンサーを確認する。
すると報告通り2つの光点が点滅しているだけで、それ以外の反応は見当たらなかった。

『どうやら、リモネシアが無理して中古MSでも購入してたようだな』
『何だよ、驚かせやがって』

敵がたった2機だけという事に安心した盗賊団は、再び進行を開始する。

 

「………」

 

ただ1人、隊長だけは浮かない顔でセンサーを凝視していた。
敵はたった2機。
国が購入した中古MSならばパイロットは素人同然。過去に同じ様な状況の時があったが、
此方に被害は被らなかった。
今回もその時と同様。楽な仕事だ。

(本当にそうか?)

何故かは分からない。
しかし何か嫌な感覚を隊長は感じていた。

 

『どうしたんだい隊長殿?』
「……君、拠点に『アレ』を持って来る様連絡してくれないか?」
『アレって、虎の子の事かい?何でまた」
「念には念を、というやつだ」

本当は撤退を考えていた隊長だったが根拠の無い事で進行を中止するわけにもいかず、
2~3度首を振る事で雑念を振り払い、バーニアを噴かせる。
しかし彼の頭から嫌な感覚が消える事はなかった

 
 

【マスター、レーダーニハンノウガアリマス】
「おいでなすったようね」
狭く薄暗いMSのコックピットに、2人の女性の声が響いた。
片や無機質で機械的、片や陽気で躍動的な響きを持っているが、まるで同一人物の様によく似た声である。
無論、同一人物ではない……と言うか片方は「人」ですら無い。

 

「ナナちゃん、待機モードから戦闘モードに移行」
【リョウカイ、セントウモードニイコウシマス】
その言葉と共に、薄暗かったコックピットに光が灯り、周囲の景色が見渡せるようになる。
ムーンライトから「ナナちゃん」と呼ばれる女性の声の正体、
それは擬似人格コンピューター『8(ハチ)』を基に開発された
非量子型コンピューター『7(セブン)』であった。

 

「後、今日の私はシスター・ムーンライトだから、そこのとこよろしくね」
【リョウカイデス、マスター】
「もう、ノリ悪いわね~」
わざわざウインクまでして名前を強調したにも関わらず無視された事に腹を立てたムーンライトは、
口を尖らせながら眼前のコンソールをペシペシと叩く。
「もっと愛想良くならないとベル君に嫌われるわよ?」
そして意地の悪い笑みを浮かべながら先の言葉を呟いた。

 

【エッ……】

 

すると突然MSの動力が切れ、コックピットが暗闇に包まれた。
電源が切れる瞬間、『7』の悲しそうな声が響いたような気がしたのは幻聴だろうか?
「あっウソウソ!!冗談だってば!?」

突然の出来事に驚いたムーンライトは、慌てて言葉を並べる。
「ベル君、今のナナちゃんが一番好きだって言ってたもん!大丈夫だって!!」
【………ポッ】
ムーンライトの必死の説得(?)のおかげか、再び立ち上がり始めるOS達。
モニターに一瞬、頬を赤らめた少女の姿が写った気がしたのは目の錯覚だろうか?

 

「ふぅ~危なかった」

相棒との他愛ない談笑の筈が、いきなり命の危機に立たされかけたムーンライトは大きく息を吐く。

 

『何遊んでるんだ?』

 

それと同じタイミングで通信が開き、モニターにミスター・トゥルーの姿が映し出された。
バイザーのせいで表情は伺えないが、声色は冷ややかである。

『もう直ぐ視認可能になる距離まで近付いてる。遊んでる場合じゃ無いぞ』
「分かってるわよ」

トゥルーの言葉に、ムーライトは手をヒラヒラさせながら応える。

 

「それより『あの』約束、覚えてるわよね?」
『……本気でやるのか?』
「モッチロン!勝負に勝ったら何でも言うこと聞いてくれるって言ったでしょ?」
『………』
「ベル君も例のモーションお願いね」
[任せろ]

言葉に詰まるトゥルーの変わりに、モニターにデカデカと表示される「(b^ー°)」の顔文字。少々うざい。

「OK、OK。じゃ宜しくね、トゥルー」
『………』

その表示に満足そうに頷いたムーライトの問いに応える事なく、トゥルーからの回線が切断される。

 

【テッキカクニン、キマス】
「おっ、グットタイミング」

次の瞬間『7』から発せられた報告に、ムーンライトは待ってましたとメインカメラを最大望遠に切り替える。
すると『7』の報告通り、此方に接近するMS軍を確認できた。

「12機、ほとんどが旧式か」

これなら大丈夫そうね、と笑みを浮かべるムーンライト。

「それじゃ、行くわよナナちゃん」
【イエス、マスター】
「ミュージック・スタート!」

 
 

「……何だあれは?」

 

それが隊長の第一声だった。
彼は予想で、待っている2機のMSはガズウードかダガーL、良くてM1アストレイ辺りだと考えていた。
しかし眼前に立つMSは今まで見た事の無い形状だった。
片方はムラサメのV字アンテナを無くしたような頭部を持ち、全身黒一色。
装甲があるのかと疑いたくなるほどシャープな身体部分に、不釣り合いに大きいバーニアが背負わされている。
もう一方のMSの頭部はウィンダムに近いバイザー型で、色は黒に近い紺色。
先のMS同様細身だが通常のMSより流線的なフォルムをしており、
腰部からロングスカートの様に装備されている複数の装甲板の存在も相まって、
まるで女性の様な印象を与えていた。

 

「……新型、なのか?」

予想もしていなかった謎のMSの登場に、思わず足を止める隊長。
それは他のパイロット達も同様で、結果的に盗賊団と2機のMSは一定の距離を保って対峙する形となった。
妙な静寂が、一帯を包み込む。

 
 

『みんな~おっはよ~!!』

 
 

その静寂を破ったのは、年甲斐もいかない少女の様な声であった。

 
 

『今日も2人はふらこれ、は~じま~るよ~!!』

 
 

「……はっ?」

 

オープン回線から聞こえてきた間の抜けた声に首を傾げる盗賊達を尻目に、
今度は少女の声に続けて軽快な音楽が流れ始める。
それと同時に今まで微動だにしていなかった2機のMSに変化が訪れた。
なんと、その音楽に合わせて踊り始めたのだ。

 

『あ、あれはっ!』
「!?何か知っているのか、アオバ?」

 

先ほどから続く予想外……と言うか非常識な出来事に頭が痛くなってきた隊長だったが、
軍属時代からの戦友であるもう一機のムラサメパイロットに尋ねる。

 

『知らないのですか隊長!?あれは知る人ぞ知る伝説のアニメ、
 『ふたりはふらこれ(flag Collecter)・ぶらっくはあと』のBGMではありませんか!!』

 

「……はっ?」

 

再び首を傾げる隊長を余所にアオバの力説は続く。

 

『前大戦終了直後、ジパングの有料国際映像チャンネルにて発信され、
 平均視聴率38.9%を記録した人気アニメですよ!!
 しかもあの振付は、ふらこれのメインイベント、主人公のフレスタちゃんとシェステちゃんの
 変身シーンじゃありませんか!?
 三次元では再現不可能と言われていたあの振付を、よもやMSで彼処まで再現するなんて……
 完成度タケーなおi』

 

「………」

 

たれ流されるファンシーなBGMと戦友だと思っていたアニオタ野郎の解説を回線ごとぶっちぎった隊長は、
ズキズキと響くこめかみの辺りを抑えながら未だ踊り続ける2機のMSを見つめる。
冷静に考ると、MSを音楽に合わせて踊らせるというのは見た目に反し
かなりの高技術を要求する行為である。
戦闘には関係ないと思われる動きはOSの補助を受けられない為、
フルマニュアルで操縦する必要があるからだ(ライブ用ザクに使われていたような専用OSを使えば別だが)

 

「中身は……オートパイロットか?」

 

何故MSを踊らせる必要があるのか?
一番考えられるのは、2機のMSは自分達を足止めする為のデコイで、
別の場所から迎撃の準備を行っている可能性である。
2機である必要があるのか疑問ではあるものの、それならあの見たことの無い外見も
目を引く為の張りぼてという事で解決するが、

 

「……ん?」

 

その時、隊長はある違和感を覚える。
踊り続ける謎のMSの片割れ、女性的なフォルムを持つ機体の手が淡く光っていた。
正確には指先から赤く輝く4本の棒が伸ばされていたのだ。

 

(……サーベル?)

 

そう、まるで獣の爪のように鋭く突き出された「ソレ」の見た目は、
間違い無く近接戦闘用の武器・ビームサーベルである。
では何故今「ソレ」を引き抜く必要がある?
疑問に思う隊長をよそに、謎のMSは盗賊団に背中を見せる。
それまでの踊り振付の中にもあった華麗な一回転。
悪寒……!

 

「ッ!?全機散開!!」
叫ぶのと同時にムラサメを急上昇させた隊長は、何かがそのすぐ足下を高速で駆け抜けるのを感じる。

 

『ぐわっ!?』

それと同時に、部隊の一番先頭にいたウィンダムが爆散した。

 

『ウィンダムが墜ちた!!』
『な、何が起こった!?』

突然の出来事に盗賊達はパニックになりかける。

「全機戦闘準備!仕掛けてくるぞ!!」

 
 

[グゥレイト!]
「……流石だな」

 

先程から踊りを披露していたMSの片割れ、シャープな外見を要する機体のコックピットに収まっていた
ミスター・トゥルーは、爆散するウィンダムを確認し感心したように呟く。

『あ~!!2機外した!?く~や~し~い~』

しかし通信機からはムーンライトのじたんだを踏む声が聞こえて来た。

(いや、十分だろう?)

戦果が気に食わないらしいムーンライトの様子に、トゥルーは溜め息を吐きながら、
彼女の「得物」を眺める。
ムーンライトが搭乗するMS『プリースト』の指先……
正確には指と指の間に挟むようにして展開されているビームサーベル。
片手に4本、計8本展開されたソレは、本来のビームサーーベルとは些か異なった用途をする武器である。
その用途とは、

 

『それじゃあ、もういっかい……!』
気を取り直したのかムーンライトがそう呟くと、プリーストの上半身が捻り、
まるで野球のピッチャーのような格好になる。

 

『せ~のっ!』

そして豪快なオーバースローと共に、右手に展開されていた4本のビームサーベルが、
盗賊達に向かって「射出」された。
放たれたビームの刃が先程墜ちたウィンダムのすぐ右隣に居たガナーザクへと迫るが、
すんでのところで右に回避する。

 

『甘い!』

しかし回避される事を予測していたムーンライトはプリーストの左手を振り上げる事で
残りのビームサーベルを射出しており、体制を崩していたガナーザクは回避する事が出来ず
4本のビームサーベルが突き刺さり機能を停止した。

 

『よっし!』
「……なんで当たるんだ?」

 

ガッツポーズをとっているのが容易に想像できるムーンライトの声を聞き、
トゥルーは肩をすくめながら尋ねる。
そう、プリーストに装備されているのは「投擲」する事を前提に開発された
強化ビームサーベル『ビームバイヨネット』であった。
貫通能力に関しては従来のビームライフルを軽く凌駕し当たり所が良ければ
ビームシールドですら破る事が可能だが、予備動作が大きすぎるのとロックオン機能がない事から
完全な目測で放たなければならない為、常人には扱えない代物である。
トゥルーも幾度かシミュレーターで使った事があるのだが、ビームブーメラン搭載MSに搭乗経験のある彼ですら
満足に扱う事はできなかった。

 

『有象無象の区別なく、私の銃剣は許しはしないは(キリッ』
「(何故その技術を普通の射撃では活かせられない?)……まぁ良い、来るぞ」

 

謎のポーズを決めながら答えにならない答えをするムーンライトに頭の中でツッコミを入れたトゥルーは、
眼前で戦闘態勢に移行する盗賊団を眺め呟く。
混乱しているのか隊列すらまともにとれていない有象無象だが、圧倒的に不利な数の差に変わりはない。
逆に言えば、連携が取れていたら勝率が更に下がっていたという事だが。

 

(それだけでも意味があったと言うべきか)

 

ムーンライトとの勝負に負け、訳のわからない踊りを披露してしまったが、
敵を混乱させる事ができただけでも良しと思いたい。

 

「ベル、突っ込むぞ」
[まかせとけ]
モニターに映し出された相棒、『8』や『7』とは別のアプローチから開発された自立型AIのプロトタイプ
『mindbell』の返事に軽く微笑み、トゥルーは操縦桿を握り直す。

 

「バビロン、出るぞ」

次の瞬間、名状しがたい爆音が辺りを包んだかと思うと、彼の搭乗するMS『バビロン』の姿が消えた。

 

「おっ、行ったわね。ナナちゃん、どっち?」

轟音と共にバビロンが姿を消すのを確認したムーンライトは『7』に訪ねる。

【ミギカラデス】

「りょーかい」

連携もなにもない盗賊団からの射撃を軽くいなしながら、ムーンライトは再びバイヨネットを放つ。
しかし幾ら異質な武器といえど2度も見れれば慣れたのか、盗賊団はそれを余裕を持って回避した、
ハズだった。
次の瞬間、盗賊団の左、ムーンライトから見て最も右に居たダガーLの頭部が吹き飛ぶ。

 

「はっや」

思わず、といった感じで呟くムーンライトの視線の先は頭部を無くしたダガーLの背後。
そこにはまるで最初からそこに居たかのように静かに佇むバビロンの姿があった。

 

それは冗談のような光景であった。
突如MSの装甲越しにも聞こえて来るような轟音が辺りを包んだかと思えば突如敵MSの1機が姿を消し、
気が付いたらソレが味方の背後をとって居たのだ。

 

『うわぁあ!?』
「馬鹿、止めろ!!」

瞬間移動でもしたかのように目の前に現れたバビロンに、周囲に居た仲間が叫び声を上げながら
銃口を向けた事に気付いた隊長は慌てて静止する。しかしもう遅い。
放たれた複数の銃弾をバビロンは上昇することで回避、行き場を無くした弾は
頭部を無くしたダガーLに叩き込まれた。

 

「だから止めろと…っ!」

無残に崩れ落ちるダガーLに舌打ちした隊長は、上空へと回避したバビロンに向かってビームライフルを放った。
しかし再び謎の爆音が周囲を包むとバビロンは姿を消し、放たれたビームは青空へと吸い込まれる。

 

『ぐわぁぁあ!!』

間髪入れずに訪れる悲鳴。

「なっ!?」

慌てて視線を移した隊長の目に映ったのは部隊の右端、
先ほどのダガーLから一番距離が遠い位置に居たM1アストレイが、
バビロンの右手に持たれたビームサーベルでスラスターを貫かれ大破する姿であった。
即座にビームライフルを構えたが、今度は引き金を引く暇も無くバビロンの姿が消える。

 

『また、消えた!?』
『一体何なんだよ、こいつら!?』
「ちぃ…!」

不味い。味方の存在を気にせず攻撃した時点で分かっていたが、皆完全に混乱してしまっている。
混乱するなと言う方が無理な話だ。
敵の動きは明らかに常軌を逸している。
「『アレ』の到着はまだか!?」
「後3分で到着すると!」
「3分だと!?」

アオバからの報告に隊長は歯軋りする。この状況では全滅してもおかしくない時間。
しかもアレが到着したからと言って状況が覆ると決まった訳ではない。

 

「皆聞いたな!?できるだけ距離を取り、3分間持ちこたえろ!!」

 
 

「ん?」

散発的にバイヨネットを放ちバビロンを援護して居たムーンライトはある変化に気付いた。
右往左往するだけだった盗賊達が、明らかに此方と距離を取り始めたのだ。

 

「撤退してくれるのかしら?」
『どうかな』
「わっ!?」

独り言のつもりで呟いた一言に返事が返ってきた事に驚きの声を上げるムーンライト。
気が付くと、何時の間にかプリーストの隣にバビロンが佇んでいた。

「ビックリさせないでよ!消えてる間の貴方位置、ナナちゃんにしか分からないんだから」
『そう言われてもな』

頬を膨らませ抗議するムーンライトに対し、トゥルーは溜め息混じりに呟く。

 

トゥルーの搭乗する巨大バーニアを背負った機体『バビロン』
最大の特徴は先程から行っているまるで瞬間移動でもしているかのような移動方法にある。
と言ってもタネは至ってシンプル。行動を起こす際、ミラージュコロイドを展開しているだけだ。
勿論、唯ミラージュコロイドを展開しているだけではバビロンのような移動はできない。
本来ミラージュコロイドを展開中にバーニアを吹かすと、せっかく展開したコロイドが拡散し姿が見えてしまうからだ。
先の大戦でデスティニーに搭載されたミラージュコロイドが隠密機能ではなく
分身によるかく乱機能だったのはこの為だ。

 

ではバビロンはどうやって移動しているのか?
その答えはバビロンの細身には不釣り合いに背負わされている巨大バーニアにある。
行動を起こす直前、つまりミラージュコロイドを発生し始めるその一瞬のみ最大出力でバーニアを展開し、
後は慣性のみで移動しているのだ。
バビロンが姿を消す直前に発生する爆発音の犯人がこれである。
勿論ちょっとでも左右に曲がろうとバーニアを吹かしただけでコロイドが剥がれるため
単純な直線移動しか出来ないし、そもそもそんな一瞬で最大出力を発生させたら
パイロットに掛かる負荷は尋常では無い。
しかもこのバビロン、考え得る最高速度を実現する為に装甲を限界まで取っ払っている為、
ライフルどころか宇宙のそこら中に漂うデブリに接触しただけで大破する可能性を持つすてき仕様である。

 

「そもそも、素直に撤退させる気あるのか?」
『まさか』

そんな泥船、どころか魚雷にパイプ椅子でもくくりつけた様な機体を操るトゥルーからの問いに、
ムーンライトは鼻で笑いながら否定する。

『逃げ出してくれるなら、拠点も一緒に叩けて楽だと思っただけよ』
「それには同感だな」

 

軽い口調だが、その言葉の端には中途半端に逃がすつもりは無いという意志がありありと見て取れた。
見敵必殺、それが彼等が己に課した唯一無二のルールである。
別に彼等は戦闘狂でも無ければ、殺人快楽者でも無い。
寧ろ出来るだけ誰も傷つけたく無いと考えている人間だ。
今ここで盗賊団を逃がせば、おそらく二度とリモネシ○には近付かなくなり、
容易に契約は達成されるだろう。
だがそれだけ。
盗賊達が新たな獲物を見つけ出し、再び罪のない人々が傷付く事になるだけだ。
彼等にはそれが耐えられない。盗賊達が二度と再起出来ない様全力で叩き潰す。
それが彼等の行動理念だった(勿論生活が掛かっている為報酬はキッチリ頂くが)

 

[熱源接近]
「何?」
離れていく盗賊団に対し、追撃するかこっそり後を付けるか考えを巡らせていたトゥルーだったが、
どうやらそれは早計だったようだ。

「増援?こんなに早く?」

モニターに表示された『ベル』からの報告に目を通し、トゥルーは眉をひそめる。

「しかもコイツ…聞いたな?」
『ナナちゃんが教えてくれたわ』
「よし。もうすぐに来る……見えた!」

鋭く叫んだトゥルーは、バビロンのカメラを最大望遠に切り替える。
撤退し始めたと思われた盗賊達の更に後方から此方へと近付いてくる機影。
MSと比べると明らかに巨大なその姿に、トゥルーは見覚えがあった。

 

[照合完了、型式番号YMAF-X6BD:ザムザザーである可能性、99.2%]
「言われなくても分かってるよ」

ベルからの報告を待つまでもない。あの甲殻類のような外観。
陽電子砲すら弾き返す鉄壁のリフレクタービームシールド『シュナイドシュッツ』を持つ巨大MAだ。

 

「むしろ後の0.2%は何なんだよ」
[新種の生命体]
「…それは盲点だったわ」

というかその可能性が0.2%もあるほうが驚きだ。

 

「なんて言ってる場合じゃないか」

『ベル』と漫才のようなやりとりをしていたトゥルーだったが、気を取り直すように呟く。
少々面倒な事になった。
ザムザザ-は射撃戦に関してはほぼ無敵に等しいが、接近戦にはめっぽう弱い。
これは他のMAにも共通して言える事だが、懐に潜り込んでしまえば幾らでも対処出来る。
ではいったい何が面倒なのかと言うと。

 

『ふっ……ふふふふふ』
(ああ、やっぱり…)
通信機から聞こえてくるムーンライトの笑い声に、トゥルーはウンザリとした表情を浮かべる。

 

『ついに……ついに実戦でこの装備を試す機会がやってきたわね』
「いや、無理に使わなくても、俺が行ってバーニアでも破壊すればすぐに無力化…」
『イヤよ!私がこの瞬間をどれだけ待っていたと思ってるの!』

恐らく瞳をランランに輝かせているであろうムーンライトの言葉に、トゥルーは何を言っても無駄だと悟る。

 

「……分かった。俺が囮になるから、好きなタイミングで攻めてくれ」

そう言い残したトゥルーは、ムーンライトからの返事を待つ事無く再び姿を消す。
そして僅かなタイムラグの後、盗賊団の目の前に姿を現した。

 
 

「よーし、いよいよね」

餌になってくれているバビロンの姿を横目に確認し、ムーンライトはウキウキとコンソールを操作する。

「ナナちゃん、準備OK!?」
【イツデモイケマス】

そう『7』が返事をするのと同時に、モニターに表示される文字。

 

『SHOUT!NOW!』

 

その文字を確認したムーンライトはニンマリとした表情で叫んだ。

 

「モード反転、コード名『パージ』!!」
【コードニンシキカンリョウ、モードハンテンカイシ!】

 

次の瞬間、プリーストに変化が訪れる。
まず腰部からまるでロングスカートのように両足を覆っていた複数の装甲版が突如外れ、
隠れていた脚部が露出された。
更に外れた装甲版が、まるで自らの意志でも有るかのように重なり合い、ある形を作り始める。
数泊後、身軽になったプリーストの右手にはひとつの武器が握られていた。
見た目は巨大なライフルかバズーカ。しかし本来銃口があるべき場所に穴は無く、
代わりに鋭い銀色の杭が突き出していた。

 

【セツゾクカンリョウデス】
「……(にっこぉ)」

 

対艦・対MA特化型武装『ホーリーネイル(パイルバンカー)』を構えたムーンライトは邪悪な笑みを浮かべる。
そして次の瞬間、

 

「突貫しまーーす!!」

 

盗賊団のド真ん中、今まさにバビロンに向かってビーム砲を放とうとしていたザムザザー目掛けて突撃した。
ちょこまかと逃げるバビロンに躍起になっていた盗賊団は完全に虚を突かれた形になる。
しかし標的となっているのは鉄壁の守りを持つザムザザー。
一直線に向かって来るバビロンをあざ笑うかのようにシールドを展開し、迎撃体制に入る。

 

「まだまだぁ!!」
そんな事はお構いなしとでも言うように、プリーストはさらに加速。

 
 

「どっせぇえぇえええいぃいいい!」

 
 

さながら一発の弾丸にでもなったかのごとく速度を付けたプリーストはその勢いを殺す事無く突貫。
シールドごとザムザザーの巨体を『貫いた』

 
 
 

「イタタタ……まいっちゃうわね、コレ」
「自業自得だろ」

 

顔をしかめながら肩や首を回すムーンライトに、トゥルーが半目になりながら湿布薬を投げてよこす。
場所はリモネシアで最も高価なホテルのスイートルーム。
盗賊団を撃退したお礼にとの自警団から好意に甘えた形だった。

 

「いくら博士の御墨付きだからって、本当に突貫する奴がいるか」
「だって~、私ああいう大きな近接武器ってなかなか縁が無いんだもん。対艦刀とか」
「あんなの使うもんじゃ無い。すぐ折れるし、白刃どりされるし」

 

唇を尖らせるムーンライトに対し、まるで何かを諭すように語るトゥルー。
どうやら対艦刀に対して何か思う所があるようだ。

 

「それより早く湿布貼って下さる?手が届かないのよ」
「はいはい」

そんなトゥルーの様子などどこ吹く風、いつの間にか上半身裸でベッドにうつむせになった
ムーンライトの手招きに、トゥルーは溜め息を吐きつつも湿布薬を手にとった。

 

「できればそのままマッサージもしてくれれば嬉しいなって(チラッチラッ」
「……全力でしてやろうか?」
「やっぱ遠慮しときます」

ブルブルと首を振るムーンライト。

 

「冗談だよ」

そんなムーンライトの様子に、トゥルーは軽く笑いながらマッサージを開始した。

「あら珍しい」
「仕事明けぐらいはな」

本当にマッサージをしてくれるとは思ってなかったムーンライトは驚きの声を上げる。
しかしすぐに弛緩した声に変わった。

「あ~気持ちいい~……そういえば良かったの?」
「何が?」
「盗賊団」
「ああ」
ムーンライトの言葉にトゥルーは納得したように呟く。

 

今まで彼等は敵を殲滅する事を第一条件に仕事をして来たが、今日の戦闘で初めてそれが覆った。
ザムザザーを倒した時点で、盗賊団の隊長から降伏宣言の通信が入ったのだ。
トゥルーはそれを受諾。
今頃地球軍が引き渡した盗賊達からアジトの場所を聞き出し、部隊を派遣している事だろう。

 

「殺さずに済むならそれに越した事はないさ」
「今まで問答無用で殲滅してた癖に」
「人聞きが悪いな。今まで投降して来た奴らがいないだけさ」

 

彼等は基本的に2人だけで行動するため、多勢に無勢な状態になる事が多い。
そうすると、例えどれだけ力の差を見せ付けても、最後まで抵抗する敵ばかりになる。
今回のように盗賊が早い段階で武装解除し、投降したのは初めてだった。

 

「よく言うわ。投降勧告もしたこと無いの癖に」
「まぁな」

 

呆れた声を上げるムーンライトに苦笑いをするトゥルー。
確かに過去の戦闘では、逃げ出そうとする最後の1人まで容赦なく殲滅し、
通信機に手をかける事すらしていない。

 

「辛いか?問答無用で敵を殺すのは」
「まっさか」

トゥルーからの問い掛けに、ムーンライトはカラカラと笑い返した。

「逃がした敵が他の誰かを殺すかも知れないって考える方がよっぽと辛いわよ」

それに、とムーンライトは身体を反転する。
丁度腰から肩にマッサージする場所を変えようしていたトゥルーと見つめ合う形になった。

 

「もう貴方を裏切りたく無いもの。嫌って言っても最期まで離してあげないんだから」
「……!」

 

そう言ってニッコリ微笑んだムーンライトは、何か言いかけたトゥルーの唇に自分の唇を重ね合わせた。

 
 
 

数日後、彼等が盗賊達に披露した「ふたりはふらこれ」の変身シーンの再現を、
とあるジャーナリストが撮影しその映像が全世界にバラまかれる事件が発生。
さらにそれはとある理由から彼等の行方を探していた者達の知るところとなり、
全世界を巻き込む怒涛の追いかけっこの発端になったりならなかったりするのだが、
それはまた別の話である。

 
 

】【