XXXスレ360 氏_SEED DESTINY AFTER 銀色の腕の少女、紅い目の少女編_第4話

Last-modified: 2010-02-22 (月) 00:02:56

○前回までのあらすじ
ルナがシンとキスをする。

 
 

ナスカ級《パトクロス》のモビルスーツハンガーに並ぶ5機の《ダガーⅡ》を見上げながら、
ルナマリアは満足げな笑みを浮かべた。
「こうやって見ると、まあまあサマになってるわ」
「ホーク隊長、ご機嫌ですね…」
「ちゃんと頭があるなら、初めから用意しろっていうのよ」
赤と黒に染められたルナマリア機には、頭部がデュアルカメラ型に挿げ替えられた。
試作パーツの余り物で性能向上が期待できる処置では無いのだが、彼女曰く「気分の問題」とのこと。
それだけの理由でわざわざパーツを運んできた企業の人には、大変申し訳なく思うボーラスであった。
しかし、彼女の機嫌が良い理由はそこじゃない事も、ボーラスは重々承知している。

 

「モビルスーツ5機に各種オプションパック、換装用フライヤーにプローフも満載…
 何でもできそうですよね、うちの船」
ハンガー一杯に詰め込まれた装備と、それらのチェックでてんてこ舞いになる整備班を見つめながら
ボーラスが漏らす。
「その分コキ使われるってことでしょ、3ヶ月無補給で巡回任務とかさせられるかも」
「冗談ですよね?隊長」
「タブン…きっと…めいびー…」
「そこで不安にならないで下さいよ!」
機種転換訓練を終えた《パトクロス》のクルー達は再編成を経て今日からまた通常任務、
プラント領内や公宙域のパトロールに戻る事になる。
(しばらく会えなくなるなあ…)
「顔に出てますよ、隊長殿」
舐めた口を効くボーラスは、とりあえずパンチで黙らせる事にしている。
「へぶう…本当の事言っただけなのに。アスカ隊長、じゃなくてアスカさん、早く全快するといいですね…」
「あれ、泣くほど痛かった?」
「涙違います、心の汗です…」

 

シン・アスカはザフトから除隊される事となり、
ルナマリアの肩書きも正式に《パトクロス》MS隊隊長となった。
これまで以上に責任も重くなり、ただパイロットをすれば良いだけにはならなくなった。
シンと会える機会も減ってしまうだろう。
それでも自分は平気だと、自分に言い聞かせるように、

 

(そうよ、私たちは確かめ合ったんだから、私とシンは繋がっているから、どれだけ離れてても…)

 

「隊長、またにやけていますよ」
「一々突っ込まなくてもよろしい!」
もう一撃ボーラスに与えつつ、反芻してしまった自分に反省。
「隊長に殴られて死んだら、戦死扱いなのかな…」
「知らないわよ…時間ピッタリに来たわね」
ルナマリアは今しがたハンガーに入った、緑服の女性軍人と彼女の後ろを歩く赤服の男二人組を見やると、
女性は凛と、男達は怯えたような様子で敬礼をする。

 

「ケルビム、イヤン、イーオス。以上三名は現時刻より《パトクロス》に配属、待機に入ります!」

 

おしとやかなクィン・ケルビムにもこんな声が出せるのだとルナマリアは感心する。
赤服の二人組はルナマリアとクィンが訓練で叩きのめした相手であった。

 
 

第4話「Oath of Druids」

 

「いたたた!あだだ!おごごご!」
「大の男が何情けない悲鳴上げているんですか、ちょっと曲げただけじゃないですか」
「イヤこれホントに、うぎー!」
「このくらい我慢できないとリハビリなんて夢また夢ですよ?…ふふ」
「今アンタ笑ったろ!絶対楽しんでやってるだろ!ぐひー!」
痛みにもだえてさっきから叫んでいる男が、シン・アスカである。
回復が早かった右手のギプスを取り、リハビリの前段階として看護師に手を揉んで貰っただけで、
このザマであった。
指は一本たりとも、まるで石になったかのように動かず、触ったり曲げたりするだけで激痛が走る。

 

「神経は通っているみたいですね、しばらくすれば痛みも治まると思いますけど」
「うう…頑張ります…」
「その意気ですよアスカさん、右腕治らないといじる事もできませんからね」
「ナニを!?」
「でも毎日来てるそっくりな従姉妹さんに頼めばいいのかしら」
「だから何の話だよ!看護師のチェンジって出来ないのか…」
「追加料金とりますよ」
「マジ!?」
シンを担当している若い女性看護師はとてもいいせいかくで、しんみになってせっしてくれるので、
とてもたすかっています。という事にしておいた。

 

「にしても今日は従姉妹さん遅いですね、お陰でオモチャに出来てるんですけど」
「アンタは一体何がしたいんだ…寝坊でもしたのかな」
エルフはプラントでは一応、
『生き別れていたけど最近再会した、シンにそっくりの従姉妹』
ということで通している。
キラ・ヤマトが根回ししてくれたお陰で正式に、エルフ・アスカという名前の移民として
戸籍登録したともいう。
こっちとしては助かるのだが、ヤマトさんに世話になりっぱなしだな、とも思うシンだった。
「案外ナンパされているのかも」
「だとしたら相当物好きですよ、その男」
俺と同じ顔なのになあ、と漏らすシンに、看護師は顔を近づける。
「可愛い顔してると思うけどなあ、生意気そうなのもポイントアップ?」
「さいですか」
「早く髪の毛も生えるともっと可愛くなるんだけどなあ」
「ジョリジョリするな!エルフ早く来ないかなあ…」

 
 

《アーモリー1》の軍病院への道を自転車で走るエルフは、すれ違った男に
「シン!?シンじゃないのか?」と叫ばれてしまい、思わず止まってしまった。
それがいけなかった、その男のしつこい事なんの…

 

「シンじゃないか!何してるんだこんな所で、今日はオフなのか?」
どうも目の前の男は自分をシン・アスカ本人だと思い込んでいるらしい。
例えラフな格好をしていたとしても、身長が違うし髪だって伸ばしているし、
それでもシンと間違われてしまうのは自分の顔のせいなのか相手のせいなのか。
男は藍色の髪をラフに分けていて、黒いスーツとサングラスを身に着けていた。
相当怪しい格好だが、こんな往来のど真ん中で何かをされるとも思えず、
エルフは仕方なく相手をする事にした。
「私…シン・アスカじゃありません」
「は、えっ?女、の子?」
「私用事ありますから、それじゃ…」
そういい残して去ろうとしたのに、今度は急に肩を掴まれる。
「待ってくれ!君は、もしかして…まさか…」
「離してよ…叫びますよ?」
「あ、ああ、すまない…」
咄嗟に掴まれた肩が痛い、嫌な感触が残る。しかし男も申し訳無さそうにこちらを見るものだがら、
エルフも何とも言えない気分になってしまう。

 

「本当にすまなかった、俺も見たものが信じられなくて…」
「はあ…」
自分の顔に驚かれる事はあったが、こんな過敏な反応は初めてだった。
「俺はアレックス・ディノ。シンの元上司だった男だ」
サングラスを取って名乗る男の顔を見て、エルフは男の素性を思い出した。
「隠さなくていいですよ、アスラン・ザラさん」
「どうして知っているんだ!?」
「いちいちビックリしないでください…貴方の顔はメディアによく出ていますから」
「そ、そうだよな」
エルフは嘘をついた。彼の顔は《エル・クブレス》のデータベースで見たからだ、
デュランダル先生を討ち倒した男の1人として…
その事実を思い出すと、エルフは一刻も早くこの男から離れたくなったのだが、
エルフの顔はそれを許してくれないようだ。

 

「君はシンの知り合い…いや、家族なのか?まさか、オーブで亡くなったという妹…」
「違います、よく似てると言われますけど、従姉妹です」
この男に本当の事を喋っても、面倒になるだけだ。ますます離さなくなるだろう。
「もう行っていいですか?病院に急いでいるので」
「病院?《アーモリー1》の病院なんて軍病院くらいしか…」
そこまで呟いた後、アスランはまた急に血相を変え、エルフの肩を掴む。
「そうだ!シンは入院しているのか!?意識は戻ったのか!大丈夫なのか!?」
「うるさーい!あとちょっとは加減しろ!」

 
 

シンは珍しく遅れて来たエルフが憮然とした表情を浮かべて、あまり会いたくない男を伴って
病室に入ってきたのを見て、呆然とするしかなかった。
「シン…お前…おまえぇ…」
しかも涙目になっているし。誰から聞いてここに来たんだろう?
「ああ、虎さんかメイリンからかな…」

 

「意外と元気そうだな、シン」
ようやく落ち着いたアスランはパイプ椅子に腰を掛けシンの様子を見る。
身体の殆どがギプスで覆われ、痛むのか偶に顔をしかませていたが、
メイリンから聞いた状況からは脱したようで安心できた。
「身体、さっぱり動きませんけどね」
アスランに右手でも見せてやろうと思ったのだが、少しプルプル震えただけで全く動いてくれない。
「で、何で来たんです?オーブの栄光ある准将殿は」
「ついでのついでだ、
 明日《エターナル》艦内でレセプションがある、それに出席するためにプラントに来た」
「ふーん…もう一つのついでは?」
「そっちは…個人的な用だ。話す事じゃない」

 

「ルナとメイリンの親父さんに、結婚のお許し貰いに行くんでしょ」
「な!」

 

またしても『どうして知っている』という顔をして、大げさにビックリするアスランに構わず、
シンは種明かしする。
「レセプション云々は知りませんでしたけどルナから聞きましたよ、『お父さん』」
「ぐっ」
「まっ、頑張ってくださいよアスラン。願わくば二度と顔を合わせたくない」
「シン…」
「今ならアンタの気持ちも分からなくないですけどね、それでもアンタは…
 俺たちに、酷い事をした。トライン隊長やヴィーノに会わないように気をつけてくださいよ?
 二人とも、死ぬほど恨んでるから」
それには何も答えず、静かに席を立ち背を向けるアスランは、病室を出る手前で、立ち止まった。
「…すまない」
「謝らなくたっていいですよ、元からスパイだったと思えば、怒る気も失せましたから」

 

1年半ぶりの再会だった。
その年月で編み出した、シン・アスカなりの折り合いの付け方だった。
「メイリンから大体の事は聞いた…アンタだって悩んで苦しんだんだと思う。
 立場が違うだけなんだ、みんな、全部…」
「変わったな、お前…」
背中越しにそれだけ言い残して、アスランは今度こそ病室を去った。

 
 
 
 

今回はここまでです。
アスランの扱い、アスランとシンの関係を想像するのがとても難しく、結局こんな形に。

 

次回、アスランの頭皮に最大の危機が。

 
 

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