XXXスレ360 氏_SEED DESTINY AFTER 龍宮の守人編_第12話

Last-modified: 2009-07-01 (水) 01:50:06

○前回までのあらすじ
サイとカズイって、種デス時代何をしてたか本気でわからない。

 

では本編です。

 
 
 

時間は少し遡る。
シンとイザークがボートに乗せられ案内された先は島のように浮かぶコロニーの居住区の、
港にあたる場所だった。
モーターボートを着岸させた後、一行を出迎えるように一人の少年がこちらに走り寄ってきた。

 

「アインさーん!アハトさーん!おかえりなさーい!」
「げ、今度はニコル…じゃないか」

 

イザークが一瞬、すでに鬼籍に入っているニコル・アマルフィと勘違いしたのは
彼が少女のような顔をした少年だったからだ。
良く見れば顔立ちは違うし、髪だってサラサラの金髪をおかっぱにしている。
「ようこそいらっしゃいました!シン・アスカさん。貴方には是非この中を見せたかったんです!」
エルフもそうだったが、ジーベンと呼ばれた少年も嬉しそうな顔をシンに見せる。
自分では、《エル・クブレス》の子供達に何かしたわけでもないので、妙な気分にさせられてしまう…

 

「中か…すごいな、本物みたいだ」
シンはプラントの砂時計型コロニーしか見たことは無いが、《エル・クブレス》と比べれば
プラントのコロニーなど都市の振りをしたシェルターくらいにしか形容できなかった。
身体に当たる風、鼻を突く潮の匂い。『天井』に水は張っているせいで差し込む太陽光が
妙な色合いを見せている以外は、実際の地球を模しているかのようだ。
「コレをたった四人で作ったって言うのか」
「流石にそれは無理ですよ、実際の建築には沢山の技師の方が来ましたし。
 環境システムの調整は僕の担当なので、頑張りましたけど」
ジーベンの言葉にシンはただただ感心し、イザークは眉をひそめた。
「でも、わざわざ地球の環境を再現する意味ってあるのか?ユニット毎に分業したほうが」
「デュランダル先生の論なのですけど、人間というのはやはり、
 地球に対して回帰的な本能を持つものだとして…心理テストも兼ねているんですよ。
 宇宙で生まれたコーディネイターだって、一世紀もしないうちに
 地球にレコンキスタしようとしたわけですし」
「レコンキスタ、とは酷い言い回しだな」
嘗ては積極的にナチュラルの排斥に勤めようとしていたイザークには、少し耳が痛い話だった。
「だってそうでしょう?《ユニウス7》の復讐をお題目に戦争を仕掛けるのなら、
 隕石爆弾で地球を死滅させるほうがまだ理屈に合います。
 シーゲルもザラも、結局地球を欲していたことには変わりなくて…」
「ストップ、ご高説はそこまでだ、ジーベン。今日はそんな話をしに来られたんじゃない。
 シン・アスカとイザーク・ジュールは、プラントの代表団だと思うんだ」
アインはジーベンの話をさえぎるようにする。
しかし、別に代表団だというつもりは無かったのだが。

 

「これで俺達の素性と目的は分かって戴けたと思います。
 そしてプラント評議会にお願いしたい。俺達のやることは、静観して欲しいと」
「静観?保護とか、支援じゃなくてか?」
アインの言葉にシンは眉をひそめる。
これからもたった4人で、この壮大な計画を完遂できるとでもいうのか。
「どうなんですか?ジュールさん」
「俺だって、今では立場は貴様と殆ど同じだ、シン。只のザフトの一指揮官に過ぎない。
 俺に出来ることはせいぜいこのコロニーの情報を報告するだけだ」
事情があれど、イザークは二度も評議員の座から降りた男だ。
しかも母でであり嘗て有力者であったエザリア・ジュールも最早評議会に影響を及ぼせるような力は無い。
メサイア戦役後にイザークが評議員になれたのも、ラクス・クラインの差し金であったから…
「だが、お前達の事情は必ず伝えてやろう。
 プラントにとって問題にならない存在ならば、黙認するのがベストだからな」
「十分です、有難うございます、イザーク・ジュール」
そう言って、アインは右手を差し伸べる。イザークは少し逡巡した後、彼と握手をした。

 

ピピピ、と軽い電子音が聞こえたのはその時だった。
どうやらジーベンのズボンに入っていた携帯端末から鳴っていたようだ。
文庫本程度のサイズのそれを取り出し、ディスプレイを見たジーベンの顔は見る見る青ざめる。
「大変です!こちらに海賊が向かってきているようです!」
「わかった、ジーベンは環境システムをスリープモードにしてくれ。アハト、頼む」
アインの指示に従って、ジーベンはどこかへと走っていき、アハトは港の近くにあった小屋に向かう。
「ジュールさん、俺達も…」
「わかっている。アイン、俺達も艦に戻る。近道はあるか?」
「こっちです、宇宙港に直行するリニアトレインがあります。通信も其処から出来るはずです」
「感謝する」
そして3人は、駆け足でトレインが停まる駅へと向かった。

 

「こちら《エル・クブレス》よりシン・アスカ。応答してくれ」
『シン!?よかった、中々繋がらないから、何かあったのかと…』
「アビーか?状況を教えてくれ」
リニアトレインの通信室で、シンは《パトクロス》と回線を開くことが出来た。
『海賊と思われる船は全部で4隻。モビルスーツも展開中、予測された最大積載数は32機』
「大艦隊じゃないか!」
おもわずシンは狼狽する。
こちらが使えるモビルスーツは、先のアハト、エルフの《インパルスもどき》との交戦で
すり減らされているというのに…
「こちらは何機出せるんだ!」
『《パトクロス》からは《ダガーⅡ》二機と《ゲイツR》一機、
 《ボルテール》からはジュール隊長の《グフ》と《ザク》が三機。
 状態が完全なモビルスーツはそれだけです…』
普通なら尻尾を巻いて逃げる戦力差だ。
相手が海賊といえども、5倍近い戦力にすりつぶされるのは目に見えている。

 

「逃げてください、シン・アスカ。海賊の狙いは恐らく《エル・クブレス》でしょう。
 なればこちらの戦力で…」
「馬鹿言え!たった二機で何ができる!死ぬだけだ!」
アインの提案を、シンは殆ど反射的に拒絶した。
「ですが、《Nインパルス》は通常のモビルスーツではありません。
 何度か実戦は経験していますし、旧式相手に遅れは」
「それはどうかな?」
否と言ったのはイザークだ。
「《フリーダム》も《プロヴィデンス》もシステムとしてはすでに4年前の旧式だ。
 枯れた技術相手なら、対応策もある」
「相手はそれを用意していると…?」
「そう考えて行動するべきだ。《ボルテール》と《パトクロス》に通達。俺達も加勢するぞ。
 俺とシンが戻ったら展開する。トライン艦長とディアッカを呼び出してくれ、作戦を立てないとな…」
テキパキと指示を繰り出すイザークは平静としていて、迷うことなく《エル・クブレス》を守るために
戦うことを決めたことを含め、シンには意外に映った。
案外自分も、イザーク・ジュールの事を誤解していたのかもな、と。

 
 

《エル・クブレス》の宇宙港には既に《パトクロス》が待機していた、しかも…
「ルナ!持ってきてくれたのか、助かる!」
『当然、って言いたいけどトライン艦長の指示よ』
ルナマリアの《ダガーⅡ》が、シンとイザークのモビルスーツを港の中まで持ってきてくれたのだ。
二機とも重装備が施されている。数の差を埋めるためにも、取り合えず火力が欲しかったからだ。
「俺のモビルスーツも運んでくれたか…装備まで勝手につけやがって」
イザークが悪態をついたのは、いつもとは違う様相を見せている《グフ》に対してであった。
白い《グフ》が青い追加装甲で覆われていて、アーマーにはミサイルランチャーを兼ねているものもある。
全くイメージの違うモビルスーツであるような印象を与えるそれは
《グフ》用に開発されたオプション・アーマー《アサルトシュラウドR》だった。
角が生えた肩部装甲は両方ともレールガンを連結した大型シールドに丸ごと換装されて、
ソードは腰に取り付け直されいる。嘗ての《デュエル》で用いられた装備のアレンジではあるが、
イザークもこの手の重武装機に乗るのは久しぶりだった。
「俺のも変なの持たされてるな…箱?」
シンの《ダガーⅡ》にも、いつものエールパックと斬艦刀のほかに、
大きな長方形の箱にしか見えない装備を持っていた。
『最近地球から送られてきた複合武装だってさ。
 使いづらかったら捨てていい、ってヴィーノが言ってたわ』
「わかった。気をつけてくれよ。ルナとディアッカさんの役が、一番危険かもだからな」
『サンキュ。シンも無茶しないでよ!』
言い残してルナマリアは、自分の《ダガーⅡ》を《スペースグゥル》の上に乗せ、
作戦宙域へと向かわせた。
ルナマリア機もいつものスナイパーパックの代わりに、《ザク》用のガナー・ウィザードを装備していた。

 

「そういえばエルフは何処だ!?ルナと一緒じゃ無いのか?」
歪な手足をした《インパルスもどき》が見つからない。疑問に答えたのはアビーからの通信だった。
『それが、敵襲を察知した時点で、飛び出してしまって…』
「あの馬鹿!」
怒号をあげながらも、シンは機体のチェックを行う。
右手に持たされた箱には、近接戦用の武器と長距離砲が十徳ナイフのように格納されている代物のようだ。
強度、大丈夫かな。暴発したらシャレにならないんだが…

 

『どうも俺には、あのじゃじゃ馬のほうがシン・アスカに思えてしまうな』
「下らない事言わないで下さいよ。俺達も前に出ないと…」
『ああ、手はず通りに行くぞ。俺達は時間稼ぎだ。各員!準備はいいか!』
指揮官の声を出したイザーク・ジュールに、彼の声が聞こえた者全員が応じる。
こんなところで海賊相手に死んだら笑いの種だ。必ず生き残る。誰も、死なせるものか!
それは、シン・アスカが常とする決意であった。

 
 

「来たな、海賊め…」
薄暗いコクピットの中で、エルフは呟きながら笑みを浮かべる。
シン・アスカが自分の戦いを見てくれていると思うと、何時も以上の力が出る気がしたからだ。
高速で接近したエルフの《Nインパルス》の眼前には既に敵の姿が映っていた。
正確にはまだ光点としか捉えられないが、10以上の光の筋がランダムな軌道を描きつつ
こちらに迫ってくるのがわかる。
「クブレスには!指一本触れさせるかあ!」
エルフは背負わせているフリーダム・シルエットを展開する。
レールカノンを肩越しに、プラズマ砲を脇の下から通して前面に構えるフルバーストモードだ。
多数の目標を同時に捉える《フリーダム》特有のFCSがロックオンを完了する。
間髪置かずにエルフは引き金を引いた。
たった一機のモビルスーツから暴風雨のような砲撃が放たれる。
一発一発が致命弾のそれは核エンジンがもたらすパワーをフル活用した、
《フリーダム》最大のウリともいえる攻撃。
しかし、直撃を与えているはずなのに脱落するモビルスーツの数は3機しか確認できなかった。
(シールドを使う敵?こうまで効果が薄いならリフレクターか?)
エルフの思考を中断するかのように、かなりの加速を得ながら砲撃を掻い潜りつつ接近する
機影を確認できた。
その機体はミサイルやレールカノンをエルフの《Nインパルス》に集中させながら真っ直ぐ突破を図った。
「舐めるな!…また効かない!?」
接近した敵機にライフルを見舞ってやるが、それも防がれてしまう。今度は正体をはっきりとつかめた。
突破を図る機体は《コスモバクゥ》…海賊が好んで使う、《バクゥ》を宇宙戦用にリフォームした代物。
加速力が厄介な程度で、あまり脅威になる敵ではないはずだった。
しかし海賊の《コスモバクゥ》は陽電子リフレクターを展開して、エルフの射撃を防いでいた。
いや、正確には、リフレクター発振機は別の機体の物か?
結局、3機の《コスモバクゥ》がエルフの攻撃を掻い潜り突破に成功した。
「このっ…!私を無視するなあ!」
連中の狙いはあくまでも《エル・クブレス》であるという証左だった。
相転移装甲を持つ機体には致命弾を与えられない《バクゥ》の実弾兵器も、
未完成のコロニーにとっては十分な火力だ…
エルフは急ぎ、《コスモバクゥ》を追撃しようとするが、
それを許すまいと別の一団がエルフ機に攻撃を仕掛ける。

 

マンボウを横にしたようなずんぐりとしたボディに、
砲を積んだだけの単純な構造のモビルアーマーが三機。
《ユークリッド》に酷似していたそれは、1機当たり3基、合計9基のガンポッドを展開している。
(さっきのリフレクターは、これか?)
当てずっぽうにライフルを放つと、モビルアーマーはガンポッドを射線上に置いて、
リフレクターを展開する…見たことが無い装備だった。
そして、3機の《ユークリッド》と、彼らの影に伏せていたモビルスーツ…
《ゲイツ》に《ウィンダム》と統一性の無い編成だったが、統制の取れた動きでエルフ機の包囲を開始する。
(嵌められた!?早く助けに行かないと、行けないのに!)
海賊どもはビームを撃ちながらエルフを追い詰めにかかる、
濃密な砲火に晒されて、《Nインパルス》もビームシールドを展開して、自分の身を守るのがやっとだった。

 

「海賊ごときに、負けてらんないのに!」

 
 

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