Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第07話

Last-modified: 2008-05-25 (日) 09:05:49

補給を終えたミネルバに次の指令が下る。スエズへの支援である。
新たにアスラン=ザラという強力な兵士を得たミネルバは彼をMS隊長とし、潜水艦
デグチャレフと共にカーペンタリア基地を出発してすぐ近くのインド洋へとやってきた。
すると、突然どこかに潜伏していたのであろうか、連合のMS隊が襲い掛かってくる。
その部隊編成の中には事の発端とも言うべき、ネオ=ロアノーク率いるファントムペインの
姿もあった。

 

「敵MS隊出現、こちらへ向かってきています!奪取されたGの姿もあります!」
「こんな所で……?コンディション・レッド発令!対MS戦用意!レイとルナマリアは前回の
戦闘同様ミネルバの上で援護!前線をアスランとシン、カミーユで敵を引き付けます!」
「了解!コンディション・レッド発令、各パイロットは直ちに配置に就いて下さい!」

 

警報の鳴り響く中、パイロット各員が自分のMSへと向かう。

 

「アスラン=ザラ、セイバー出る!」
「シン=アスカ、コアスプレンダー行きます!」
「カミーユ=ビダン、Ζ行きます!」
「レイ=ザ=バレル、ザク出るぞ!」
「ルナマリア=ホーク、ザク行くわよ!」

 

ミネルバよりMS隊が出撃する。
ΖガンダムとセイバーはMAへと変形し、シンはインパルスのフォースシルエット装備で
これに続く。
それを確認したネオ=ロアノークは編隊の一部をミネルバへ向かわせ、残った部隊で
カミーユ達を迎撃に掛かった。

 

「あいつら、ミネルバに仕掛けるつもりか!?」
『シン、構うな!奴らはレイとルナマリアに任せる!目の前の敵に集中しろ!』
「っ……了解!」

 

(くそっ、フェイスだか何だか知らないが偉そうに……!)

 

胸の内で悪態をつくシンをよそに、アスランは受領したばかりのセイバーで次々と敵機を撃墜
していく。そしてカミーユも前回同様変形を繰り返しながら戦っていく。
そのカミーユの戦い方をシンは初めてじっくりと見た。前回は助けてもらった時以外彼の戦闘
は見ていなかった。その圧倒的に不合理な戦闘スタイルにシンは目を見張る。

 

(何だよあの戦い方……滅茶苦茶だ!それであれだけ戦えるのかよ……!)

 

シンはカミーユに助けてもらった事に関しては、前回の戦闘では自分があの窮地を救ったん
だという自負があったために認めないことにしていた。
しかし、空を飛べるのが当たり前の現在のMS戦に於いて、空中戦に不適格な機体で戦い
退けてしまっているカミーユの実力は認めざるを得なかった。
そして、それはアスランにとっても同じような心境であった。
(カミーユ……予想以上にやる……!)

 

『戦闘中に余所見をするとは、余裕かい!?』

 

一瞬カミーユに気を取られていたアスランにネオ=ロアノークの指揮官用ウインダムが
襲い掛かる。セイバーとの距離を一気に詰められ、ビームサーベルで切りかかってくる。

 

「むぅっ……!」

 

アスランは間一髪それをかわすと、一旦上昇して距離をとってビームライフルを撃とうとする。
が、間髪いれずに追撃してきたネオの攻撃に、今度は後方に回避せざるを得なかった。

 

「フッ、やるようだな。だが……いつまで持つかな!?」

 

ここからはネオとアスランの追いかけっこの始まりであった。
一瞬見せた隙にすかさず付け込んだネオは、アスランに態勢を立て直す間を与えずに
どんどん攻撃を仕掛けていく。
一方のアスランも何とか牽制の砲撃をするが、それも効果無しと言わんばかりにネオは
ビームサーベルを振り回してくる。
仕方なしにアスランもセイバーにビームサーベルを抜かせるが、勢いのあるネオの攻撃に、
大して戦いの変化に効果は無かった。

 

『逃げるのは得意かい、紅いの!』
「くそっ!ブランクか!?」

 

アスランはセイバーの操縦に慣熟しておらず、その上この機体での実戦は初めてである。
尚且つ本格的な戦闘も前大戦以来となる彼にとって、普通の一般パイロットに対しては
ともかく、エース級のパイロット相手には思うようにいかなかった。
その一方で他のウインダムを相手にしているシンは、そんなアスランの戦いぶりに苛立って
いた。

 

「何やってんだあの人は!防戦一方じゃないか!?」

 

ファントムペインの主力MSであるウインダムを相手に、シンは苦戦するアスランを見つめる
余裕があった。インパルスに慣れている分、アスランのセイバーよりも動きがいい。

 

「あんなんでよくも偉そうな事が言えたもんだ!……ん?」

 

戦闘空域が海の上から陸の上へと移行しつつある中、シンは隠れるように存在する基地を
見つけ、その中に囚われている人々の姿が目に入った。
強制的に働かされていたのであろう、その姿はひどくやつれている様に見えた。

 

「あれは…くそっ!あいつら酷い事しやがる……!」

 

恐怖におののく人々の姿に目を奪われていると、ウインダムが一機インパルスに
襲い掛かってくる。

 

「うわっ!?こいつ!」

 

何とかその攻撃をかわし、返り討ちにするがいまだ周囲にはウインダムがうようよ点在して
いる。シンは基地に囚われている人々を助けてあげたいと思ったが、今はまだMSの相手で

 

そんな事が出来る状況ではなかった。

 

「お前ら……好き勝手やってくれてぇー!」

 

シンは連合に深い怒りを感じ、その怒りをぶつける様に敵へと向かっていった。 

 

一方、ミネルバの甲板で応戦しているレイとルナマリアの下に水中から忍び寄ったアビスが
襲い掛かる。

 

『お姉ちゃん、レイ!下から接近するMSが居るわ!』
「下!?水ん中って言うの!?」
「それ以外に何がある!」

 

当たり前の事を口にするルナアリアに多少の苛立ちを覚えながら、レイが言葉を発する。

 

「連合の水中型なら…奪取されたアビスだな……!デグチャレフをやるつもりか!」
『アビス!』
『二人はウィザード換装後、潜ってデグチャレフを守って!』
「了解した」

 

急遽ミネルバの格納庫に戻り、水中戦に対応したウィザードへの換装が行われる。
マッドの迅速な指示もあり、換装はスムーズに行われた。
再びミネルバを出撃し、アビスが向かってくるであろう水中に潜る。

 

「ルナマリア、水中装備でもアビスの性能には敵わん。デグチャレフを守る事だけを考えてい
ろ」
『了解、レイも気を付けてね!』

 

ルナマリアの言葉に通信を切る。

 

「ルナマリアに心配される云われは無いが……気を付けるべきなのだろうな……」

 

相手は奪取されたザフト製のセカンドシリーズの中でも随一の火力を持つMS。
いくら士官学校時代に成績が優秀であったレイでも、その実力を侮るようなことは出来ない。

 

「来たな……!ルナマリアはデグチャレフの正面へ!俺がアビスを引き付ける!」

 

そう告げてレイのザクがアビスに攻撃を仕掛ける。

 

「はっ!量産型の木偶人形が生意気にもこのアビスの道を塞ごうってのかよ!
身の程を知れって!」

 

アビスのパイロット・アウル=ニーダが叫び、MA形態のアビスからミサイルがばら撒かれる。
それを回避したレイであったが、その直後にアビスがMSに変形し、巨大なランスを片手に
襲い掛かってきた。

 

「ぬっ!?」
『ほぉ…良くかわしたじゃないか!褒めてやるぜ、木偶人形!』

 

レイはそれも何とか回避したが、水中の抵抗の中では専門のアビス相手には分が悪すぎた。
そのままアウルはデグチャレフに目標を移し、そちらへ向かっていく。

 

「ルナマリア!アビスが行くぞ!」
『任して!狙撃ならこのルナマリア様!』

 

言ってルナマリアがアビスを狙うが全く当りもしない。水中である事を考えても、その射撃は
余りにもへたくそ過ぎた。

 

「何をやっているルナマリア!」
『くぅ…卒業しても練習はしてたのに……!』

 

落胆するルナマリアを余所に、アビスはルナマリアの紅いザクを攻撃し、腕を破損させて
デグチャレフの正面からどかせる。
後は水中戦の得意なアビスの独壇場であった。

 

「そらそらぁ!でかい水中花火を咲かせてやるぜ!」

 

デグチャレフからの応戦もあったが、高機動のアビスはそんな攻撃をものともしない。
嘲笑うようにデグチャレフの周囲を飛び回ってかく乱させた後、ありったけのミサイルを放って
デグチャレフを撃沈させた。

 

「ははは!ごめんねぇ、強くってさぁ!」

 

アウルはコックピットの中で高笑いを浮かべ、方向転換して去っていった。

 

「くっ……!デグチャフを落とされた……!」

 

レイはデグチャレフ防衛に失敗して落胆していた。

 
 

アスランがネオを、シンがその他の敵MS数機を相手に戦っている頃、カミーユは奪取されたG
"カオス"と取り巻きのように居るウインダムを相手にしていた。
ウインダムがΖガンダムを取り囲むように連携を取り、その合間にカオスが本命として攻撃を
仕掛けているのだが、カミーユはそれを全て見透かすかのような動きでひらりひらりとかわし
ていく。
カミーユのニュータイプ能力は既に戦場に居る人間全てを把握出来るぐらいの域に達してい
る。視認出来る範囲の敵が次に行う行動ぐらいは当たり前のように予測出来ていた。

 

「んなろぉ……!何で当たりやがらねーんだ、こいつはぁ!?」

 

理解不能な回避力を披露するΖガンダムに、気味の悪さを感じ始めたカオスのパイロット・
スティング=オークレーはそれを払拭するかのごとく叫ぶ。

 

「ザフトの人形がぁ……!よくも!」

 

Ζガンダムがやがて周りのウインダムを撃墜し終わり、続けてカオスへと仕掛けようと
ビームサーベルを抜く。

 

(……!殺気のようなものを感じる……!)

 

しかし、その時カミーユは背後に何かを感じ、咄嗟に回避行動を取った。
すると一瞬前にΖガンダムが居た場所に砲撃が通り抜ける。それは、地上から放たれた
ガイアのレールガンであった。戦場が陸地に移行したため、飛行能力の無いガイアがカオスの
援護にやって来たのだ。
まるで獣のような風貌をしたMA形態のガイアのパイロット・ステラ=ルーシェは、完全に取った
と思っていた砲撃が外れた事に驚いていた。

 

「外れた……何で……?」
『馬鹿がっ、しっかり当てろよ!』

 

不意打ちの一撃を外したステラに対し、スティングは苛立つ。

 

「うるさい!」
『あぁ!?』

 

口喧嘩しながらも、二機はそれでも空と地上の双方から連携を取りつつΖガンダムを追い
詰めに掛かる。
彼等の連携攻撃は、並みのパイロットなら既に落とされていても不思議は無い位合っている
のだが、ウェイブライダーに変形したΖガンダムには掠りもしない。

 

「気味の悪いヤローだぜ!おいステラ、ちゃんと狙ってるのか!?」
『うるさい!こいつ……こいつ……!』
「うるさいだと!?当てられもしないくせに生意気言うんじゃねぇ!」
『スティングも当ててない!』
「黙れ!俺はここからだっつーの!」

 

流石にΖガンダムの異常な回避に気付き、焦り始める二人。
普通、回避の上手いパイロットでもこれだけの攻撃を受けたらシールドで防御もするのが当た
り前なのだ。しかし、今回カミーユはまだシールドを一度も使用していない。変形を繰り返しながら
砲撃をすり抜けていくだけである。

 

Ζガンダムはウェイブライダーで高度を確保しないと空中戦ができない。故にそんな中で
シールドでの防御も駆使していたら滞空時間が短くなってしまうのだ。
その為にカミーユはシールドでの防御を極力行わない事で、他の空中戦MSを相手に同じ
だけの滞空時間の確保を可能にしている。
尤もこの戦法を可能にして戦い退けてしまっているのも、カミーユがニュータイプ能力による
高い直感力で異常な回避力を持っているからこそであった。

 

「こいつら……なかなかしつこい!」

 

「直接叩いてやる!」
『馬鹿!ガイアで突っ込むな!』

 

痺れを切らせたステラがガイアでウェイブライダーに突撃を計る。だが、そのせいでカオスに
よる砲撃が迂闊には出来ない状況になる。その瞬間をカミーユは待っていた。

 

「突っ込んできた!……今だ!」

 

カミーユは変形を解き、MS形態で一直線に向かってくるガイアに向けてビームライフルを構え
る。

 

「あっ……?」
「くそったれが!」

 

地上戦に特化したガイアに空中での機動性の自由は少ない。カミーユが狙いを定めた瞬間
勝敗は決したのだ。
カミーユがΖガンダムにビームライフルのトリガーを引かせ、ライフルの銃口からビームが
放たれる。

 

「いやっ!」

 

ステラは直撃を覚悟した。空中に飛び出したガイアではΖガンダムの攻撃を防げない事を
直感した。

 

「馬鹿が!」

 

だが、Ζガンダムとガイアの間にカオスが割って入り、機動兵装ポッドの一つを楯にしてその
攻撃を防いだ。それを見たカミーユはすぐさまウェイブライダーに変形して離脱をする。

 

「今のが弾かれた!?こいつら、連携はなかなか出来るみたいだ!」

 

「この間抜け!飛べもしねーのに迂闊に突っ込むんじゃねぇよ!死にてぇのか!?」
『死……?死ぬ……ステラ……死ぬの……?』
「くぁっ……しまった……!」

 

ステラの様子が少しおかしい。スティングはメットに掌を叩きつけ、顔を顰める。

 

『死ぬの……嫌……死ぬの……死ぬの、嫌ぁー!』
「やっちまったぜ……迂闊なのは俺の方かよ……!」
『嫌ぁー!死ぬのは嫌ぁー!』

 

「……!?四本足のパイロットの様子がおかしい……?……!?これは……」

 

急に動きが変則的になったガイアの様子にカミーユは直感する。

 

「この苦しみの波動は…強化人間のものだ!」

 

実際にはカミーユの知っている強化人間とは違うのだが、ステラの苦しみの波動がカミーユに
そう錯覚させたのだ。

 

「この世界でも強化人間が存在していたのか……!」

 

人のエゴによって生み出された悲しい存在を察知したカミーユの怒りが、一気に沸き上って
いく。

 

「くそっ……人は貴様らの玩具じゃないんだよ……!
……こんな事……人間がすることじゃない……!」

 

「あぁ……ああぁぁぁぁあぁー!死ぬの嫌!死ぬの嫌ぁぁぁー!」

 

カミーユの怒りの感情がプレッシャーとなって拡散して行き、それに触発されたステラは更に
錯乱していく。最早ほとんど理性は失っており、ガイアはのたうち回る様に不規則に動き
回っている。

 

「おい、ステラ落ち着け!」
『あぁぁぁぁあぁぁー!嫌ぁぁ……嫌ぁぁぁー!』
「駄目かよ!……仕方ねぇ」

 

ステラの発作が普通ではない事を察知したスティングはネオへ回線をつなぐ。

 

「……おい、ネオ!悪ぃ、やっちまった!」
『どうした?こちらはまだ戦闘中だぞ!』
「うっかり俺がステラの"禁句"を言っちまったんだよ!今かなり混乱してる!」
『何?どういう状態だ?』
「それが、いつもより余計におかしいんだよ!落ち着かせようにも普通じゃねぇんだ!」
『チッ……仕方ない、全軍撤退だ』
「全軍!?いいのか!?」
『ウインダムをやらせすぎた』
「そんならせめて一撃してからでもいいじゃねぇか!」
『だが、アウルが潜水艦をやってくれたようだ。それで十分だ』
「ちっ…!結局アイツの一人勝ちかよ!」

 

アウルの活躍にスティングが不満を漏らす。
アスランと交戦していたネオであったが、彼を追い詰めていたものの逆に構いすぎていた。
落とせそうで落とせないセイバーの動きがネオの判断を鈍らせたのだ。
アスランにしてみれば、ただ必死に攻撃をかわしていただけだが、それがかえって良い結果
に繋がったのだ。
ネオが気付いた時には、既に半数以上の味方のMSがシンによって沈められていた。
しかし、一方ではアウルがデグチャレフを落としたという報告も聞いていた。
この状況を見て、ネオは全軍に撤退の指示を出す。

 

「……?敵が退いて行く?」

 

この戦闘でも獅子奮迅の活躍で魅せたシンが、敵が撤退を始めたのを確認してある事を思い
立つ。

 

(今ならあそこの人達を解放してやれる……)

 

シンにとって基地に拘留されている人達は気になっていた。敵が撤退し始めた今、彼等を
解放するには絶好の機会であると踏んだのだ。
シンはインパルスを基地へと移動させる。

 

「シン?……どこへ行くつもりだ?」

 

ネオが退いて戦闘終了の命令を出そうとしていたアスランは、急に動き出したインパルスに
難儀を示した。仕方なくアスランもシンの向かった方向へ進路を向ける。

 
 

基地に配置されていた連合兵が驚いた顔をしている所へインパルスが降り立つ。
そこには我先に逃げようとする兵士と、ほったらかしにされたままの捕囚が見える。

 

「こいつらが酷い事をしたんだ!」

 

シンはインパルスのチェーンガンで基地施設を破壊し始めた。無論、捕囚が居る場所は避けて
いるのだが、連合兵の事は気にせずにひたすら撃ちまくる。
基地施設はあっという間に炎に包まれていった。
そこに追いかけてきたセイバーがやってくる。

 

「こんな所に連合の基地……?カーペンタリアの目と鼻の先じゃないか……!」

 

思わぬところに存在していた連合の新設基地にアスランは驚いていた。
しかし、その間にもシンは基地を破壊していく。

 

「くっ……止めるんだシン!基地を破壊しろという命令は出していない!」
『ここに囚われている人達を解放してやるんだ!邪魔をするな!』
「お前のやっている事は単なる一方的な虐殺だ!今すぐ攻撃を止めるんだ!」
『うるさい!』
「これは命令だぞ!」
『聞けるか!』
『止せ、シン!』

 

シンとアスランの会話に、異変を感じてやってきたカミーユが割り込んでくる。

 

『聞いてくれ、シン!お前のその怒りから来る正義感は大事なものだ!でも、それを虐殺に
使ってはいけない!』
「何を言っている……!?」
『今はその怒りを使う時じゃないと言ってるんだ!』
「戯言を……!」
『それに命令違反は重罪だぞ!ザフトを敵に回すつもりか!?』
「そ、それは……!」
『分かったらもう止めろ。これ以上は無駄な被害を大きくするだけだ』
「くっ……」

 

アスランとカミーユの説得に納得した訳ではないが、仕方ない様子でシンはミネルバへと
戻っていった。

 

『すまないカミーユ……俺がもう少ししっかりしていれば……』
「気にしなくていい。シンはまだ軍や戦争の事をよく分かってないみたいだ」
『あぁ、シンは戦争をヒーローごっこと勘違いしている節がある』
「帰ったら修正かな」
『修正?何だそれ?』
「問題行動を起こした奴を殴って気合を入れるんだ。前は俺もよくやられたよ」
『カミーユが!?』
「そんなに驚く事かよ?」
『いや……結構過激な軍隊に居たんだな、と思って……』
「別に不思議な事じゃないさ。違反を起こせばペナルティがある。
…例えそれが納得できない事でも違反は違反だ」
『……』
「軍とは理不尽な所ってさ……上司の人に言われたよ」

 

カミーユにそう告げた人物はエマ=シーンという女性だった。彼女はしとやかな外見通りの
規則にうるさい性格だった。
そんな彼女はカミーユにとって姉のような存在だったのかもしれない。違反を繰り返す彼を
幾度と無く引っ叩いていた。
それに反発を覚えることも多々あったが、カミーユにとってエマは好意に値する人物だった。
しかし、そんなエマも最終決戦の折にカミーユの見守る中で息を引き取った。
そんな事を思い出し、カミーユは少しだけしんみりとしていた。

 

『……戻ろう』
「……?あ、あぁ……」

 

沈黙していたかと思うと突然言葉を発したアスランにカミーユは少し驚く。
カミーユから"修正"の話を聞かされ、アスランは何かを決意したように戻っていく。
それに続いてカミーユもミネルバへと帰艦する……