Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第12話

Last-modified: 2008-05-25 (日) 09:26:05

ディオキアの基地での補給を終え、出航したミネルバをダーダネルス海峡で待っていたのは
連合軍とオーブ軍から成る同盟艦隊であった。
相手の数は尋常ではない。空母から次々と飛び立つMSの群れをミネルバのクルーは呆然
と見ていた。

 

「皆、何やってんの!敵が来ているのよ!しっかりなさい!」

 

士気の下がったクルーをタリアが奮起させる。

 

「す、すみません!」
「謝る暇があるならミサイルの一つでも撃ちなさい!」

 

慌てるクルーを尻目にタリアも苛ついているのか怒鳴り声を上げる。

 

MSデッキでは浮き足立ったクルーの中で一人気を吐くマッドの姿があった。

 

「落ち着けお前等!敵の数が多かろうがこちらの戦力でも十分戦えるぞ!」
「で、でも親方……」
「うちのパイロットは精鋭揃いだ!信じるんだよ!」

 

何とかしてクルーを落ち着かせているマッドを尻目にアスランを筆頭に次々とMS部隊が
発進していく。

 

「ブリッジ!敵の数は!?」
『あ、シン!ごめん、まだ……』
「何やってんだ!仕事が遅いんじゃないか!?」

 

メイリンからの報告が無意味な事に愚痴をこぼしながらもシンは発進する。

 

「こうなりゃ、また片っ端から落としてやる!」

 

部隊のエースの自覚を持ってシンは敵部隊に突撃をする。

 

「いきなりの実戦にしちゃ随分と大変な事だな!こりゃ貧乏くじ引いたかな?」
「何言ってんです!ハイネ隊長殿ならこの位一ひねりでしょう?」
「ははっ、そーかもな!」
「よし、ハイネ機、出すぞ!」

 

軽口をマッドと叩き合った後、グフをカタパルトに移動させる。

 

「…なんて景気の良いこと言っちゃたけど、こりゃ骨が折れそうだぞぉ……!」

 

パネルを弄りながらもハイネは不満を口にする。
そして、各種装備を整えたグフの一つ目が光る。

 

「ハイネ=ヴェステンフルス、グフ出るぞ!」

 

ハイネのパーソナルカラーのグフがオレンジを見せびらかすかの如く勢い良く飛び出した。

 
 

一番最初に出撃をしたアスランは順調に連合軍のMS部隊を撃墜していた。
これまで不甲斐無かったアスランであったが、前回の事もあって冷静に事を成そうと心掛け
ていた。

 

「単純な防衛戦なら!」

 

ザフトに復隊してから何度かの戦闘を経験したせいか、アスランの動きも良くなってきてい
る。二、三機に囲まれた程度では苦戦することなく切り抜けられる状態になっていた。
その事がアスランの自信になり、より動きを良くしていく。

 

「よし、これなら行ける!」

 

余計な事を考えずに戦闘に集中しだしたアスランは次第に"英雄"の真の姿を現していく。
そこへカミーユのΖガンダムに似た形状の戦闘機が突撃してくる。カラーリングこそ全く違う
オレンジとホワイトとブラックの配色であるが、その形状はウェイブライダーのそれにそっくり
であった。

 

「ムラサメ!?」

 

それはオーブの次期主力MS。
MS形態のままでも単体で飛行できるが、高速で移動する際には戦闘機形態になるという
可変形MSだ。コンセプトとしてはアスランのセイバーの量産型と言ったところだろうか。
オーブに思い入れのあるアスランにとっては、戦場では雑念以外の何ものでもなかった。

 

「くっ…オーブはなるべく撃ちたくは無い……!」

 

そのアスランの呟きは、彼の傲慢であるのと同時に差別であった。
連合製であるウインダムはアスランにとって落とすべき敵であるが、オーブの人間が操縦し
ているであろうムラサメには私情を挟んでしまう。現に今襲ってきているオーブに対するこの
発言は、聞く人によってはザフトに対する背信と同列に捉えられてしまってもおかしくない。
ハイネと語った時の決意がこの時は裏目に出たのだ。割り切っている筈のアスランでも、
やはりオーブに関しては別件だ。もしもシン辺りがこれを聞いていたらきっとその左頬に鉄拳
がめり込んでいただろう。
だが、今のアスランにそんな事が気付けるはずも無く、ムラサメをやり過ごしつつ連合製の
MSのみを撃墜していった。

 
 

ミネルバの上で襲い掛かってくるMSの群れを毎度の如く迎え撃っているのはレイとルナマリ
アだった。潜り抜けてきた戦場がほぼ毎回海上戦の為、ミネルバの甲板は彼らのお決まりの
ポジションになりつつあった。
そして、その上空には同じ一つ目でありながらも単独飛行の出来るハイネのグフがいた。

 

「ほうら、お客さんがやって来たぜ!」

 

続々と押し寄せてくる敵MSの群れに、ハイネはおちゃらけた様に言い放つ。

 

「毎度毎度やってくれるわねぇ!こっちが…空飛べないのをいいことにさ!」
「敵がこちらの都合を考えてくれると思うか?来た敵を落とす、それが俺達の任務だ」
「…にしても今回はいつもより敵が…多いわね!」
「連合とオーブの混成部隊だからな」

 

ある意味ミネルバのおまけ的な配置の二人だが、実際にはかなり良くやっている。
ルナマリアが高火力のランチャー"オルトロス"で敵を散らして敵の火力を分散し、その散った
敵をレイやハイネがレスポンスの良いビームライフルや四連重突撃銃で狙撃していく。
レイとルナマリアに関しては、ここ数回の戦闘でそんな役割分担が出来つつある二人である
が故に、戦闘中の会話もどこか余裕がある。ハイネの性格がそうであるからなのか、若い彼
らには無言で対応しきるよりはそれくらいが丁度良かったのかもしれない。
勿論、その余裕も前線で活躍している三人や上空のハイネの活躍の賜物でもある。

 
 

各パイロットそれぞれが善戦を繰り広げる中、カミーユは何ともいえない不快感を感じていた。
どこか遠い所から何かが近づいてくる…そんな気がしていたのだ。
いつものように変形を繰り返しながらウインダムを相手にしていると、ムラサメがやってくる。
それを見たカミーユは余りにもウェイブライダーそっくりな形状を見て素っ頓狂な声を上げる。

 

「な、何だぁ!?」

 

一瞬不意を突かれた状況になり、カミーユは慌てて集中砲火を切り抜ける。

 

……自分の世界とは違う世界だと言う事は分かっていた。しかし、このパクリとも言える
ムラサメのフォルムを見たとき、カミーユは驚かずにはいられなかった。

 

「ゆ、油断した…あんな物が出てくるなんて……出来の悪い映像ディスクを観てるみたいだ…!」

 

首を振り、気を取り直してカミーユはムラサメに仕掛ける。
似たような形状、似たような使用用途のMS同士であったが、カミーユのΖガンダムは
ワンオフ機である。プロトタイプMSと言えども、そこにはアナハイムの技術の粋が集まってい
るのだ。簡易量産型のムラサメに遅れを取る事は無い。

 

「こいつら…猿真似でΖとのドッグファイトに勝てると思うなよ!」

 

そのカミーユの叫びは全くの的外れではあるが、長いことΖガンダムのパイロットをしていた
せいで誇りを持っていたカミーユにとってムラサメの存在は面白い物ではなかった。
お互いMA形態のまま追いかけっこ紛いの事をしていたが、カミーユはすぐさま急旋回を行い、
そのままムラサメの後ろを取り、これを撃墜した。
しかし、それでもカミーユの不快感は消えることは無かった。

 

「この感覚…まだ大分距離があるけど段々近づいてきている……」

 

カミーユはそのまま次の相手の下へΖガンダムを向けたが、その不快感に向けて感覚の
センサーは鋭くさせたままであった。

 
 

『ユウナ司令?なかなか突破が出来ないようですな』

 

オーブの旗艦空母タケミカヅチのブリッジにファントムペインのネオ=ロアノークからの通信が
入る。

 

「さぁ…こちらは精一杯やってますけどね。何分オーブはそちらと違って実戦には慣れてない
ものでして…精鋭と呼べる部隊は存在していないのですよ」
『ほぉ…?ではあなた方と同盟を結んだのは失敗でしたかな?』
「とんでもない、数は増えたじゃないですか?これではご不満ですか?」
『ふっ…ま、いいでしょう』
「そちらこそ精鋭を出してもらいたいものですけどねぇ……?確か、ザフトから奪った三機のG
があったでしょう?一機は陸戦用で使い物にならないかもしれませんが、後の二機は使える
んでしょう?それを出してくださいよ」
『もう出ましたよ』
「は?」

 

ネオの言葉を受けてユウナは慌てて望遠鏡を取り出す。レンズ越しに戦闘空域に目を凝らす
と、何やらミネルバの辺りが慌ただしい。

 

「成る程……」

 

望遠鏡を下ろし、ユウナは画面のネオに向き直る。

 

「これは失礼。何分僕も戦争は素人でしてね」
『勿論、承知しておりますよ、ユウナ艦隊総司令殿?」

 

ワザと厭味に聞こえるように言った後、ネオは通信を切った。
その言葉を余裕の表情で受けたユウナであったが誰にも聞こえないような声で一言呟く。

 

「戦争屋風情が……お前達は死ぬまで戦争をやっていろ……」

 

まるで自分はそうではないかのようなユウナの言い草。大西洋連合と同盟を組み、その戦い
にオーブを加担させながらも、ユウナは父・ウナトとは違う思惑で何かを待っていた。

 

ユウナが確認したミネルバの騒動はアビスの急襲によるものだった。水中戦に特化した
アビスは水の中からミネルバに砲撃を加える。
ハイネは空中の敵を相手にしている為、甲板の上のレイとルナマリアが対応してはいるが、
状況は圧倒的に不利であった。
敵は一機とは言え、ミネルバは埒があかない状態であった。

 

「ルナ!そっちに行ったぞ!」
「嘘!?どこから……きゃっ!」

 

海面から突如現れるアビスにルナマリアは不意を突かれる。それでも最初の一撃を何とか
かわし、反撃の一発をお見舞いするが、その時には既にアビスは海中に潜ってしまった後
だった。
強力だが隙の大きいガナー・ザク・ウォーリアのオルトロスでは素早く現れては消えてゆく
アビスを捉える事は出来なかった。

 

「換装は出来ないの!?」
「上からも来ている!そんな時間は無い!」
「そんな…こんな命懸けのもぐら叩きなんてごめんよぉ!」
「チィっ!」

 

いつ現れるのか分からない敵を警戒している間にも、ミネルバの底は段々と削られていく。
ミネルバはピンチを迎えていた。

 
 

一方、同じ頃にシンはカオスと交戦していた。
お互いに空中戦に特化している分、戦いは互角であった。

 

「ザフトの新型だぞ!勝手に使ってんなよ!」
『あぁ!?何言ってんだてめぇは!』

 

お互いがお互いを罵りながらも周りのウインダムやムラサメが近づけないほどの激闘を繰り
広げる。

 

『俺達が貰ってやったんだからよぉ!ちゃんと整備して大事に使ってやってる所を見せてや
るよ!』
「ふざけんな!誰がお前達なんかにMSをプレゼントするもんか!」
『遠慮するなって!新型の性能、身をもって知れ!』

 

カオスが機動兵装ポッドから弾をばら撒く。しかし、フォースシルエットはそう易々と攻撃を受け
るような機動性ではない。

 

「喰らうかぁー!」
『ははは!やるじゃねぇか!いつまでもつかぁ!?』
「くっ!……調子に乗るなぁー!」

 

ビームサーベルで切りかかるインパルスだが、その攻撃もカオスは右に避ける。しかし、
そのまま左腕を伸ばしたインパルスのシールドにド突かれ、カオスは衝撃で態勢を崩した。

 

『うおっ!…このやろぉ…やりやがったな!?』

 

慌ててスティングはカオスの態勢を立て直し、インパルスを警戒して向きなおる。

 

「はんっ!性能に頼ってるだけの癖に!」
『そりゃ、てめぇだろうが!』

 

シンの言葉に苛立ち、カオスはビームサーベルを引き抜いてインパルスに躍りかかる。
それに対してインパルスもビームサーベルで応戦する。
ビームサーベル同士の鍔迫り合いになった。

 

「何だと!?」
『何だよ!?』

 

まるで子供の喧嘩の様な罵倒のし合いであるが、やっている事は互いの命の奪い合いであ
る。その自覚があるのか無いのかは不明だが、お互いの実力が拮抗したまま長期戦の様相
を呈していく。

 

窮地に立たされたミネルバのブリッジでは、タリアが必殺の兵器の使用を考慮していた。

 

「……アーサー、タンホイザー起動!」
「はっ!目標は!」
「前方の敵艦隊のど真ん中に打ち込みなさい」
「は?し、しかし…あれはオーブの艦です!
…かつての恩ある彼らにタンホイザーを撃ち込むので…」
「何を寝言を言ってるのよ!撃たなければ私達が死ぬのよ!?
…タイミングを逃す前にさっさと準備なさい!」
「はっ、はい!了解であります!」

 

(この感じ…もう近くまで来ている……!)

 

少し落ち着いたカミーユは先程の不快感が直ぐ其処まで来ているのを感じていた。
そして、それが何処からやって来るのかを感知する。

 

(少し離れた所に大きなプレッシャーを感じる……いや、違う!)
「ミネルバの上!?」

 

咄嗟にミネルバの方へ視線を向けた時、ミネルバは丁度タンホイザーの起動が終わって
エネルギーのチャージを開始した所であった。
そこへタンホイザーの砲身を貫く一筋の光が奔る。チャージ中のタンホイザーは大きな爆炎と
共にその機能を停止した。

 

「やられた!?」

 

カミーユは急いでΖガンダムをミネルバへ向かわせる。

 

その様子は各所で戦闘を繰り広げるパイロット達にも確認されていた。
ミネルバの起こした謎の爆発……その不可解な出来事に、戦場は一時その動きを止めた。
そして照りつける太陽を背負い、高空から舞い降りてくる一機のMS。
白を基調としたカラーリング、背に青い六翼を持つGタイプのヘッド。
それは、"ヤキンのフリーダム"であった。