Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第44話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:43:40

第四十四話「カミーユの時間」

星が冷たく輝く宇宙で地球から旅立った人類が静かな無限空間で喧騒を起こす。
かつて人類は一つの種族だった。だが、やがて一部の人類は更なる自己の可能性を求めて自らを人工的に進化させた。
 
 私は今、私の秘密を話そう
 
その人物の告白は、この言葉から始まった。
人工的進化を遂げた最初の人類…ファースト・コーディネイターのジョージ=グレンは、その存在が世間に認知されていない時期に初めてコーディネイターの存在を立証した。
その告白は世界を大きく揺るがし、その後ジョージ=グレンは何者かに暗殺されてしまう。
やがて遺伝子の操作によってジョージ=グレンの様に進化を遂げようとする者が増え、その人口は時間が経過する毎に数を増やしていった。
いつしか二つの人類には従来の通りに自然に生まれてくる者をナチュラル、遺伝子改造によって強化されて生まれてきた者をコーディネイターと呼ぶようになった。
ナチュラルはコーディネイターを妬み、コーディネイターはナチュラルを蔑んだ。
それが反目し合って反発を起こし、人類同士による戦争の歴史を綴り出した……
 
争いの歴史に終止符を打つためにデュランダルが用意した計画、ディスティニープランは、極端な言い方をすれば、人の運命を強制的に決め付けてそれに従って平和に暮らそうというものである。
もし、この計画がまかり通るなら、それは平穏な世界への第一歩となるだろう。そして、やがてデスティニープランが世界のシステムとして当たり前に馴染めば、人は他人を妬むような事はしなくなるだろう。
しかし、自由と引き換えに手に入れた平穏は、人から欲望という名の向上心を取り上げる事になる。それは人類の進化を止める事なのかもしれない。
それでも、憎しみを争いでしか晴らせない現在の愚かな人類にはこうする事が最も望ましいとデュランダルは考える。パトリック=ザラやラウ=ル=クルーゼを知っている彼は余計にそう思えたのかもしれない。
そして、彼自身、過去に運命を強く思い知らされた経験があった。それは自分の歴史の中で最も忌むべきもので、悲しい事だった。
デュランダルは寂しい人だった。
 
「投降してくるオーブ艦隊はどうなっている?」
「はい、あと数時間ほどでこのメサイヤの近くまで辿り着くものと思われます。中には報告通りアークエンジェルも居ります」
「結構だ」
「いえ、それだけではない様で…」
「それだけではない?」
 
眉を顰めて訊ねる。少ないのなら話は分かるが、逆に増えているのはいかがなものか。
 
「どういうことだ?」
「未確認情報ですが、どうやら艦隊の中にエターナルも含まれているようなのです」
「エターナル……」
 
デュランダルは呟くと、椅子に腰掛けた。
 
(ラクス=クラインを担ぎ出すか……しかし…)
「こちらに攻撃を仕掛けるにしてもオーブ艦隊だけでは対抗できないはずだが……何よりも理念を崩壊させては姫の立場は……」
 
顎に手を当てて考え込む。どう考えてもいきなりの投降は不自然極まりなかった。

攻撃してくるにしても数が少ないだろうし、何より攻めればカガリは元首のままで居られないだろう。
ところが、その予想を裏切る報告が入ってくる。

「報告いたします。投降するオーブ艦隊に連合の宇宙艦隊が攻撃を仕掛けています。どうやら同盟をオーブが一方的に破棄した事に対する報復行為のようですが…」
「…オーブ艦隊の損害はどうなっている?」
「まだ大きな被害は出ていないようです。連合もザフトの勢力圏に近いとあって手を出しあぐねていると思われます」
 
その言葉にデュランダルの目が光る。確証は無いが、先程の疑問が瞬時に納得の行く考えに変わった。
 
(成る程…まんまと劇を観賞させられたわけか……ならば、姫は覚悟を決めたわけだな)
 
疑い深いという事はいい事だとデュランダルは思う。
 
「全艦隊に戦闘配備を告げろ。敵はオーブ、連合の艦隊だ。レクイエムには決して近寄らせるなよ」
 
見抜かれたオーブの思惑。しかし、作戦は既に成っていた。ここまで近づければ、後は総力戦でレクイエムを破壊すれば良いだけである。
それを知っていながらも、デュランダルはこの戦いに勝利する事でデスティニープランを成功させる事が出来ると確信していた。
 
月面を舞台に、レクイエムを守るように機動要塞メサイヤ、そして月軌道にザフトの部隊が展開している。その中には当然ミネルバの姿もあった。
本格的な戦闘配備まではまだいくらか時間が残されている。その時間を、シンは身を強張らせて過ごしていた。
 
「宇宙って、冷たい感じ……だから皆で寒くないように一緒にコロニーに住むのかな?」
 
ステラの言葉にシンは顔を向ける。
 
(そんな感じ方、考えた事も無かった……)
 
決戦の前、緊張していたシンはステラの不思議な雰囲気にマッサージをされている気分になる。
窓の外は吸い込まれそうな黒。その中に幾つもの砂金のように輝く星が微かな暖か味を醸し出している。
それが余計に宇宙を寒そうに見せた。
 
「シンは戦いが終わったらどうするの?」
 
ステラが唐突に問い掛けてくる。
 
「え……?戦いが終わったら……?」
 
聞かれたシンは困った顔をして首を傾げる。戦争を終わらせる事ばかりを考えていて、その後の事は全くと言って良いほど考えていなかった。
 
「そうだなぁ……普通の暮らしに戻りたいかもな」
「ステラもシンと一緒に行ってもいい?」
「勿論だよ、ステラ。…一人じゃ寒いもんな」
「シン寒いの?なら、ステラがあったかいコーヒー持ってきてあげる!」
 
そう言ってステラは流れて行ってしまった。

「お、おいステラ……」
 
突飛なステラの行動にシンは手を伸ばしかけたが、すぐにステラの姿は見えなくなった。
 
「そういう事じゃないんだけどな……」
 
ステラの言動に微笑ましくなったシンは口元を緩めて軽く溜息をついた。
 
「何やってんだ、一人でニヤニヤして?」
「げっ…!カミーユ!」
 
通りがかったカミーユがシンの顔を見て怪訝そうな顔をしていた。
 
「またステラといちゃついてたんだろ?」
「止めろよ、そういう言い方!」
「怒るなって、別にお前を軽蔑してるわけじゃないんだぜ?」
「嘘だな、カミーユは寂しくて俺とステラに嫉妬してんだろ!」
「そんな子供かよ」
 
無重力の中でカミーユは巧みに体をコントロールして通路を流れる。シンを追い越した所で足を床につけた。
 
「お前が気負いすぎてるんじゃないかと思ってさ」
「余計なお世話だね!カミーユの方こそ、未だに元の世界に戻れる手段が見つかってないのに余裕だな?」
「焦っても仕方ないだろ?訳の分かんない事に躍起になったって解決できる保障はないんだから」
「そんな事言ってる場合じゃないだろ。次の戦いは死ぬかもしれないんだぞ」
「そうならない様に頑張るよ」
 
カミーユがシンの世界にやってきてザフトに参加し、ここまで来た。
思えば最初は分からない事だらけだった。
今でも分からない事はあるが、しかし少なくとも反発しあっていたシンとも仲間と呼べる関係になれた。
最初は自分がこの世界に介入する事でどうなってしまうか不安な事もあったが、シンにとってカミーユのフォウに当るステラが生きていた事は素直に嬉しかった。
それだけでカミーユがミネルバに乗った価値はあったのだ。
 
「それで、シンはどうするんだ?」
 
敢えて具体的に口に出さず、曖昧な言葉でシンに問い掛ける。
 
「どうするって…何を?」
 
シンもその意味を何となく理解していたが、ワザととぼけて見せた。少し考えれば意地の悪い質問である事に気付いて、カミーユの方から核心を引き出そうとする。
それをカミーユは分かってか、周囲を気にして人が居ない事を確認してから口を開く。
 
「デュランダル議長のやる事、シンは協力的なのか?」
「言うなよ……」

シンにも分かっている。
ディスティニープランの発動の為に、その意にそぐわない勢力をレクイエムの恫喝によって従わせる。既にアルザッヘル基地は撃たれ、その被害は甚大である。
だが、レイの手前もある。
自分の存在を賭けてでもデュランダルの理想に殉じようとするレイに、シンは同情を感じざるを得ない。
ならどうするか…その答えは未だにシンの中で見つかっていない。
 
「シン、コーヒー!」
 
シンにとって気まずい空気を壊してくれたのはカップを二つ持ったステラだった。
 
「俺は邪魔だな、それじゃ」
 
一言残してカミーユはその場を離れる。
 
「カミーユと何話してたの?」
 
コーヒーカップをシンに差し出してステラが訊ねる。
 
「別に…寂しいんだってさ、カミーユ」
「ふぅん……?」
 
誤魔化すようにシンは答えたが、ステラはそれを気にしない。
迫り来る時を、シンはゆっくりと待っていた……
 
 
シンと別れたカミーユはMSデッキにやってきていた。
決戦を前に整備士達が所狭しと行き交っている。最後の整備に余念の無い各員は汗と油に塗れて戦場さながらの空間を形成していた。
カミーユはマッドが整備しているΖガンダムの前にやって来る。
 
「マッドさん!」
「んぁ?」
 
胸部の排気口に首を突っ込んでいるマッドが気の抜けた返事をする。
 
「整備、手伝いますよ!」
「んんっ!?」
 
声を聞いてマッドが排気口から首を出して振り向く。Ζガンダムの足元を見て顔を顰めた。
 
「カミーユか!お前ぇの手なんか借りなくたってちゃんと整備してやるよ!」
「でも、大変そうじゃないですか?手伝います!」
「馬鹿たれ!パイロットは戦いに備えて休むのが仕事だろが!余計な気を回すんじゃねぇ!こっちはプロなんだ、アマチュアは黙ってろ!」
 
マッドは怒鳴ると再び排気口に首を突っ込む。
 
「万全の状態で送り出してやるからな、絶対に負けるんじゃねぇぞ!俺の誇りも込められてんだからなぁ!」
「……」

排気口の中からくぐもった声でマッドは話す。だが、それに返事をしないカミーユを不思議に思ってか、マッドの手が止まる。
 
「どうした、カミーユ?」
「いえ……」
 
職人気質なマッドでもカミーユが何か悩んでいるのが分かる。そんなカミーユに偉そうにも一つ講釈でも垂れてやるか、とマッドは話を続ける。
 
「……俺たちメカニックマンの仕事はな、戦場でパイロットが死なないようにMSをきちんと整備しておくのが仕事だ。それ以外にパイロットにしてやれることはねぇからよ、どうしても力が入っちまうんだ」
 
背を向けたままマッドは語る。
 
「けどよ、別に押し付けがましいことを言ってる訳じゃねぇんだ。ただ、お前等に生きて帰ってきて欲しい、それが叶えば俺たちの戦いは無駄では無かったって事になる。それが嬉しいんだよ」
「でも、僕は……」
「お前さんが何考えてるか知らねぇが、生きてさえ居ればいい。だから、お前さんはお前さんの思う通りに行動すればいい。それが俺達メカニックのプロフェッショナルな誇りに繋がるってもんだ。まぁ、細かい事情は抜きにした話ではあるがなぁ!」
 
そう言ってマッドは大声で笑う。彼らしい豪快な笑い方だった。
 
「戦ってるのはお前等だけじゃないんだぞ。けどな、実際に命を張るのはお前等だ。だから、お前等は実戦に疲れを残さないようにするのが使命なんだ。死んじまったら俺達も責任を感じちまうからよ。だから、とっととこんなむさ苦しい所を離れて休んでろ!」
「…分かりました、Ζの整備、よろしくお願いします!」
 
軽く頭を下げてカミーユはMSデッキを後にする。
 
「けっ、これだから勘の鈍い餓鬼は嫌いなんだ。恥ずかしい事言わせやがって……」
 
再びせっせと手を動かし始めたマッドは悪態をついたが、その表情は晴れやかであった。
 
 
MSデッキを出た所でカミーユはハイネと出くわす。
 
「何だお前、MSデッキに居たのか?」
「ああ、何か手伝おうと思って……」
 
カミーユの言葉を受けてハイネは血相を変える
 
「何言ってんだ、今は休むのがパイロットの仕事だろ?それなのに働きに行ってどうすんだよ!」
「同じ事をマッドさんに言われたよ。確かにそうだよな」
「気が逸ってんのか?なら、俺にちょっと付き合えよ」

ハイネがカミーユを誘う。
 
「付き合うって……?」
「いいから、俺の話に付き合えよ」
 
何か言いたそうなハイネに急かされるようにカミーユは人気の無い場所に連れてこられた。
 
「こんな所で話しって…何の話だ?」
「お前、ザフトを抜けていいぜ」
 
突然のハイネの言葉にカミーユは目を丸くした。
 
「な、何言ってんだハイネ!ここまで来て何故そんな事を……!」
「お前は元々ザフトとは関係無かったからな。今の赤服も暫定的なものだし、次の戦いは生き残れるか分からない」
「だからって……!」
「お前が議長に懐疑的になっているのは分かってる。なら、ザフトというしがらみを解いてやるから元の世界に戻る方法が見つかるまで何処かに身を隠して居ろよ」
「そんな事して……上には何て報告するんだ?」
「次の戦いで戦死したって事にしておく。勝手に殺して申し訳ないと思うが……」
「ハイネだって…議長に疑問を持っていたじゃないか?どうするんだ?」
「……俺は、俺の思う通りにやる。例えそれがザフトを裏切る事になっても、な」
「それで、いいのか……?」
 
ハイネが一つ息を大きく吐くと、少し顔を緩ませてカミーユに向き直る。
 
「皆、意思を持ってんだ。議長の言うデスティニープランって言うのはそれを徹底的に無視した方法である事は分かってるだろ?確かに平和にはなるけどよ、そこに人として生きていく意味は無い」
 
ハイネの声はどこか諦めに似た雰囲気がした。これまで信じてきたザフトの最終的な結論に内心でがっかりしていたからだろう。
 
「その上、逆らう者にはあんな物騒なもの突きつけて脅す始末だ。最初の一発はもう撃たれちまったしな……。そんなやり方、誰が見たっておかしいと思う」
「……なら、ハイネはオーブに付くのか?」
「それも違うな…あいつらはあいつらで何処かおかしい。やたらと非戦だなんだと喚いて置きながら、アークエンジェルの行動は矛盾している。そんな奴等の言う事なんて信用できると思うか?」
「じゃあ、一体……」
「俺はな、アイツが何かするんじゃないかって思ってんだ」
「アイツ……」
 
カミーユはレクイエム発射阻止作戦の前のハイネの言葉を思い出す。
しかし、レイの存在も気掛かりだったカミーユはそんなハイネの決断に不安を持った。
 
「けど、動かなかったらどうするんだ?保証は無いんだぞ?」
「関係ないな…どちらにしろ俺が議長を止める」
「……」
「表向きはザフトの味方さ。でも、頃合を見て俺は途中でザフトを抜ける。そしてレクイエムをぶっ壊して議長も説得する」
「一人で出来るのか?」
「シンが加わってくれれば心強いんだが、レイがどう動くか分からんからな……。けど、これを俺一人でこなせれば、今度は俺が英雄だぜ?プラントを守って議長の暴走も食い止める、これをチャンスと思わなければ男じゃないからな!」

不安を誤魔化す為だろうか、ハイネはいくらかおどけた調子で話す。恐らくカミーユを安心させたいが故の軽口だろう。
 
「だからな、この戦争の事は俺に任せろよ。お前までこんな事に付き合う必要は無い」
 
ハイネは真っ直ぐな瞳でカミーユに意思表示をする。
そんなハイネの決意は理解するが、カミーユもそんな言葉を受け入れるつもりは無かった。
 
「気を遣ってもらってありがたいけど、俺はミネルバを降りるつもりは無い。ここまで一緒に戦ってきたのに最後だけ除け者なんてずるいぜ?」
「お前……」
「俺の力だって必要だろ?相手にはフリーダムとアスランも居るんだ。ハイネだけじゃ不安だもんな」
「お前、人が気を遣ってやったってのにそんな事言うか、普通?」
「ハイネだけに気を遣わせるもんかよ」
 
カミーユにだって結末を知る権利がある。異邦人とて関係無いのだ。
ここまで来て脱落したくは無かった。
 
「死ぬかもしれないぞ?」
「何もしないまま運命に従うのは嫌だ。俺は俺の信念の下に行動する。ハイネと同じさ」
 
カミーユの言葉を聞いてハイネは呆れたように腰に手を当てて溜息をつく。だが、すぐに表情を戻してカミーユに握手を求めた。
 
「最後までよろしく頼むぜ、カミーユ!」
「ああ、こちらこそ!」
 
カミーユも差し出された手を握る。
がっちりと握手を交わす。
 
「じゃ、余計な事は考えずにしっかり休んどけよ」
「ああ」
 
ハイネは去って行った。そして、それと入れ違いになるようにルナマリアとレイがやって来た。カミーユは何事かと目を丸くさせる。
 
「カミーユ、ハイネと居たんだ?」
「あ、あぁ。何か用か?」
 
ルナマリアの視線が何かを見透かすようで少しだけカミーユは動揺してしまった。
どうもカミーユはルナマリアが苦手なのかも知れない。
 
「ね、カミーユってさ、エスパー?」
「はぁ!?」
「そうでしょ?」
「何言ってんだ?そんなわけ無いだろ」
 
呆れたようにカミーユは言う。突拍子も無いルナマリアの言葉に、顔を顰める。

「あたし、この間の作戦の時に聞いちゃったのよ」
「何を…」
「カミーユの声…通信も出来ないはずなのに、カミーユの声だけ聞こえたのよ?絶対エスパーでもなきゃ出来ない事でしょ」
「何を馬鹿なこと言っているんだ。戦闘前だぞ」
「いや、俺もカミーユに聞きたい。あの声は一体何なのだ?」
 
沈黙していたレイも訊ねてくる。
 
「レイまで…お前がそう言う事気にするか?」
「幻聴で済ますにはハッキリとしすぎていた。しかも、あのような場面で…」
「あたしが助かったのはレイのお陰だけど、レイもカミーユの声を聞いてたって言うのよ。吹っ飛ばされちゃったコアスプレンダーを見つけられたのも、カミーユが教えてくれたお陰だって」
 
詰め寄ってくる二人。
 
「別に…気にする事じゃないだろ?結果的に良ければそれで良いじゃないか」
「良くないわよ。これから大きな決戦だってのに、気になる事を残しては置けないわ。カミーユを幽霊と思いたくないのよ」
「疑問は残しておきたくない。カミーユを信頼しきるにはな」
「……」
 
ハッキリ言ってニュータイプの事を話して意味があるのかとも思った。カミーユはそんな事を考えて貝の様に口を噤むだけである。
 
「ハッキリしてよ、あたし達仲間じゃない?」
「…俺は」
 
ルナマリアの懇願するような声に、カミーユは観念する。
 
「何となく分かるんだ、人の心の叫びというか、何と言うか分からないけど。そういう力を持った人ってのが俺の世界にはたまに居るんだ」
「カミーユもその特別な人なの?」
「ニュータイプって呼ばれている。だから、その力がルナマリアとレイに話しかけたのかもしれない」
 
カミーユの話を聞いて二人は複雑な表情をする。最初から納得できるはずも無かったが、更にピンと来ない。
一方のカミーユは最初からほぼ諦めていた。こんな話をしたところで、自分の世界でだって一般的でないのだからこの反応は当然だと思った。
 
「何か…不思議な感じ……。まるで御伽噺の中の話みたい」
「にわかには信じられんし、納得できるわけも無いが…実際に聞こえたのは事実だ……」
「そりゃあ、俺自身が有り得ない存在だからだろ。俺は異世界から来たんだから…」

今まで忘れていたのか、そのカミーユの言葉を聞いて急に二人の顔が明るくなる。
そう、言われてみればピンと来ないのは当たり前なのだ。長い時間一緒に行動していたせいか、いつの間にかそのことを忘れていた。
異世界の事だと割り切れば、これ程納得しやすい事は無い。非常識に思えても、既に目の前に存在する男自体が非常識なのだ。テレパシーみたいな力を持っていても何ら不思議はない。
……二人はそう思うことにした。
 
「…何か急にどうでも良いって顔してるぞ……」
 
カミーユの突っ込みも意味は無い。二人はそれでいいと思ってしまったのだ。
 
「気にするなカミーユ。これで心置きなく戦える」
「頑張ろうね、カミーユ!」
 
去っていく二人。
 
「そういう完結の仕方、しますかね?」
 
二人の突然の納得の仕方に、カミーユは苦笑するしかなかった。ただ、この先ハイネと共に起こす事になるであろう行動を思い浮かべると、心苦しくなる。
大事な決戦の前に苦悩するのは良くない。出来るだけ気持ちを真っ直ぐに保つべきである。
そう心の中で呟き、カミーユは決戦の時を待った……