Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第45話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:43:54

第四十五話「それぞれの戦い」

メサイヤの司令室で、デュランダルはモニターに囲まれた椅子に腰掛けていた。
周りには騒然たる数の職員がコンピューターの画面に向かって忙しそうにキーボードを打っている。その中の一人が、オーブ・連合艦隊の接近を知らせた。
 
メサイヤから全ザフト部隊に命令が下る。数多あるナスカ級やローラシア級戦艦から更に多くのMS群が飛び出してくる。
オーブ・連合軍はもう間近まで迫っており、部隊の展開も済んでいた。これまでとは比較にならない規模の戦闘を予感させる。
ザフトにとってはデスティニープランの発動の為の、オーブにとってはレクイエムを発射させない為の、どちらも背水の陣での戦いだった。
負けられないこの戦いは互いの威信を賭けた総力戦である。
最後の一滴まで振り絞る戦いの幕が、開こうとしていた。
 
 
ミネルバからも各MSが出撃する。
出撃した瞬間、各員は最高の仕上がりを見せた乗機に感動した。
マッドを中心としたメカニック達の労力を惜しまない頑張りの成果だった。
 
『ザフトの皆様は道を空けてください。レクイエムは、人の世にあってはならぬ兵器です。それを守るという事はどういう事か…よくお考えになって下さい』
 
ラクスからの全周波による通信が流れる。
その時、前方で光の筋と爆発の閃光が各パイロットの視界に入った。
 
「この声…戸惑いを感じる……」
 
聞こえてきたラクスの声にカミーユは何かを感じ取っていた。ラクスの声に含まれる感情が、複雑なものであることをカミーユはわかっているのだ。
しかし、ラクス自身もレクイエムを放って置いてはいけない事を感じていた。故に、こうしなければならない自分を嫌悪しながらも戦うしか彼女には出来なかった。
カガリの提案を拒否すれば全てが無駄になってしまうからだ。
 
『ラクスの言葉に反発したな!始まったぞ!』
 
ミネルバは前線よりも引いた中盤の配置を任されていた。戦闘は開始されているが、まだ敵の姿は見えない。
 
『前線の部隊が踏ん張っている、ミネルバの各員は敵がこちらに来るまでは堪えろよ!』
 
ハイネからの指示が伝わる。
 
「あたし達が行った方が持ち堪えられるんじゃないの?」
『俺たちはザフトの主力の一翼を担っている。先ずは前線に任せて、突破してきた敵部隊を確実に落とす!』
「ああ、成る程ね…了解!」
 
ルナマリアは逸っていた。あの閃光の向こうにアスランが居ると思うと気が急いてしょうがなかった。
しかし、その想いは以前の様にアスランを慕う余りに求めていたものではない。
無責任に感じる彼に対して彼女なりの決着をつけようとしていた。
その上、いつまでもアスランを引き摺って居たくないという気持ちがルナマリアの気を逸らせていた。

『ハイネ、MS部隊の指揮権は俺に委譲してもらうぞ』
 
まだオーブ軍が前線で食い止められている。そんな時にレイからハイネに通信が入った。
 
「……どういう事だ、レイ?」
『議長の意思だ、従ってもらうぞハイネ。シン、ルナマリア、カミーユもいいな?』
 
レイの通信が全員に行き渡る。
 
「え……どういうことだよ?タリア艦長からは何も無いんだぞ?」
『分かっているだろ、シン。俺が議長から直接言い渡されたってことが……』
「……そっか……」
 
シンとレイの会話を聞いてカミーユは顔を顰めていた。ハイネのセイバーの方に視線を移してみたが、沈黙したまま動こうとしない。
 
(……議長に先手を打たれたか?どうする、ハイネ?)
 
『ルナ、いつもの様な勝手な行動は控えろよ?この戦いは世界の未来が掛っているんだからな』
『分かってますよ』
 
レイが隊長らしくルナマリアに釘を刺すように注意を与える。そんなレイの態度に不満を感じたのか、ルナマリアは呆れたように返事をした。
 
閃光が徐々に近付いてきていた。先ず最初に前線を駆け抜けてきたのは三機編成のムラサメだった。
 
「来た…ハイネ!」
『う…何だ……?』
「ハイネ!?…敵が来てるんだぞ!」
『あ…済まない!』
 
直ぐに正気を取り戻し、セイバーは慌ててビームライフルを放ってムラサメを追いかける。だが、射撃の正確さがいつもよりも劣っているように見えた。
このままでは取り逃がしてしまう。
 
『カミーユはハイネのフォロー!俺とシンは残りの二機を叩く!ルナマリアは援護!』
「行くぞ、レイ!メイリン、周囲の部隊に通達、抜けてくる敵が居るぞ、警戒を!」
 
ザフトの中でも突出した性能を誇るデスティニーとレジェンドは簡単にムラサメを撃墜した。
一方のカミーユとハイネもΖガンダムのハイパーメガランチャーの狙撃でムラサメを撃墜していた。
 
「どうした、ハイネ?動きが鈍いじゃないか?」
 
通信で語り掛けたが、ハイネはそれを嫌って接触回線での通信を求めてくる。多少のノイズも混じってしまうが、内容が外に洩れる事は無い。
 
『先手を打たれた。議長は俺を信用していなかったみたいだな……』
「まさか…ハイネをミネルバに配属させたのは議長じゃないか?」
『最初はな……多分レイだ。アイツが何処かで俺に不審を持って議長に報告したのだろう。その結果が指揮官から平のパイロットに格下げとはね……』
「その程度で済んでよかったじゃないか?」
『そうさ。けど、そのお陰で少し戸惑っちまった!』

またもや抜けて来た敵部隊がやって来る。今度はM1アストレイとウインダムの混成部隊。それを確認するとハイネはセイバーで躍り掛かる。
どうやら先程は本当に少し戸惑っていただけのようで、今度はいつもの様に切れのある動きで一度に二機を撃墜する。
 
「心配は無いみたいだな」
 
Ζガンダムもハイパーメガランチャーを構え、ムラサメの射程距離外から狙撃をする。
 
 
「く……オーブか……!」
『おい、イザーク……』
 
ステーション・ワン付近ではイザーク率いるプラント守備隊が成り行きを見つめていた。
彼等も前大戦では最終的にアークエンジェル側についた。その事が彼等を複雑にさせていた。
 
『どうすんだよイザーク?相手はオーブだぜ?』
「馬鹿者!我らの使命はプラントを守る事だ!どうするもこうするも無い!」
『けどよ…ミリィだって乗ってるしなぁ……』
「女に現を抜かしてる場合か!あの男が又裏切ったのだぞ!俺達まで裏切るわけにはいかんだろうが!」
(アスランが裏切ってなかったらよかったのかよ?)
 
ディアッカは心の中でそう呟いた。口に出せばイザークは余計に五月蝿くなる事は分かっていたからだ。
 
「ディアッカ、奴が現れても手加減はするなよ?恥知らずには折檻だ!」
『分かってるって、俺だって頭にきてるんだ。けど、出てくるか?いくらなんでもこの場で出て来たら面の皮厚すぎだろ?』
「ふん、奴がそんな恥や外聞を気にする奴か?」
『気にするんじゃないか?』
「甘いなディアッカ、そんなものがあれば、何遍も裏切ったりはしないだろうが」
『さっすが隊長、厳しいねぇ!』
「真面目にやれ!戦闘は始まっておるのだぞ!」
 
不真面目なディアッカの態度にイザークは注意を与える。しかし、直ぐに冷静な顔つきをしてディアッカが話しかけてくる。
 
『だが、実際勝てるのか、俺達?相手はフリーダムとジャスティスだぜ?それに、オーブの新型の報告も入ってる』
「例の金色とザフトのアウトレットか……だが、守らねばならん!攻められているのはこちらなのだ!」
 
イザークが周囲を警戒しつつゴンドワナのブリッジにグフのマニピュレーターを接触させる。
 
「いいか、深い位置だからって油断は……」
 
イザークがそう言いかけた瞬間、十時方向から爆発の光が輝いた。
 
「な、何ッ!?」
『イザーク、敵だ!奴等、もうこんな所まで来てやがる!』
 
ハッとして爆発のあった方向に顔を向ける。ディアッカのガナーザクがバックでイザークのグフに接触する。

「何だと!?ブリッジ、何故気付かなかった!?」
『そ、それが……』
「索敵はしていたのか!?索敵班は寝てたのか!?」
『敵MSがこちらの網に掛る前にここまで接近してしまったのです!とてもじゃありませんが、速すぎて我々には捉えられません!』
「くぅ……!ミネルバは何をしておったのだ!?ジュール隊、掛るぞ!」
『了解!』
 
イザークの部隊は爆発のあった方向へ向かう。
すると其処には既に他の友軍が交戦中であった。戦っているのはデスティニー、レジェンドとストライクフリーダム、インフィニットジャスティスだった。
 
『シンはアスランを、俺がフリーダムをやる!ここを突破されれば俺たちの負けだ、しくじるなよ!』
 
レイが命令と共に檄を飛ばす。
 
「こんな無責任野郎を見逃すかよ!」
 
『ミネルバ隊、ジュール隊が援護する!各員は抜けてくるムラサメを食い止めろ、ディアッカは俺に続け!』
『了解、援護なら任せろよ!』
 
入り乱れるようにイザークとディアッカが乱入してくる。イザークはシンに、ディアッカはレイにそれぞれ援護に入る。
 
「覚悟しろ、アスラン=ザラ!」
 
デスティニーがインフィニットジャスティスに襲い掛かる。両の腕でしっかりと握り締められたアロンダイトを振りかぶり、インフィニットジャスティスの肩口に向けて体重の乗った一撃を振り下ろす。
 
「止せ、シン!」
 
イーゲルシュテルンで誤魔化しながらインフィニットジャスティスはデスティニーの攻撃を回避するが、シンは返す刃でインフィニットジャスティスの脚部を狙う。
 
「く……!」
 
それを爪先のビームサーベルで蹴り弾き、インフィニットジャスティスはバランスを崩したデスティニーから距離を置く。
 
「まだぁ!」
 
態勢が整っていない状態でもデスティニーは高エネルギー砲を構え、しかし、確実に照準を合わせたビームを放つ。
シンは無様な操縦しか出来なくとも、一級品の腕を持つパイロットと十分に渡り合える技術を持っていた。それはキラとの戦いでも証明されており、本人の意識しない所だった。
しかし、デスティニーとは違い、態勢に余裕のあったインフィニットジャスティスはデスティニーに突撃しながらそれをすり抜けるようにかわし、連結した両刃のビームサーベルを振り回してきた。
ただでさえバランスを崩していた姿勢から高エネルギー砲を放ったばかりに、シンはアスランの攻撃を回避出来ない。

「や、やられる!?」
『しっかりせんか!』
 
致命傷を与えるかと思われたインフィニットジャスティスの一撃だったが、その間に割り込んだのはヒートソードでビームサーベルを受け止めるイザークのグフだった。
 
「あ、あんたは!?」
『プラント守備隊隊長のイザーク=ジュールだ!しっかりしろ、デスティニーのパイロット、機体が泣くぞ!』
 
イザークはシンに檄を飛ばすとインフィニットジャスティスのビームサーベルを弾いた。
 
『久しぶりだなぁ、アスラン=ザラ!』
「こ、この声、イザーク!?」
『貴様はそこで…何をしておるのだぁぁ!』
 
急に叫び声を上げたかと思うと、突然イザークはヒートロッドをインフィニットジャスティスに向けてしならせる。
それをアスランはビームサーベルで切り払ったが、イザークは続けてソードを構えて突進してくる。
 
「お前も止せ、イザーク!もう議長の為に戦うのは止めるんだ!」
『痴れ者がぁ!偉そうに言うな!』
 
距離を詰めさせない為にアスランはビームライフルを構えるが、グフがばら撒く四連重突撃銃が邪魔で上手く照準を合わせられない。
仕方なしに四連重突撃銃を回避するに留めるが、ソードを振りかぶる為に撃つのを止めたグフの一瞬を突いてビームライフルを構える。
 
「イザーク!どうしても戦うと言うなら……なっ!?」
 
ビームライフルのトリガーを引こうとした時、デスティニーのビームライフルがそれを阻害する。
 
「シ…!」
 
叫ぶ間も無くグフのヒートソードが襲い掛かる。アスランはそれを展開したビームシールドで受け止めた。
 
「イザーク!」
『アスラン!二度も裏切った貴様を、俺は許さん!』
 
インフィニットジャスティスはチューンアップされたグフであろうとも、苦戦する程のものではない。いくらイザークのグフが搭乗者に合わせてチューニングされていようとも、インフィニットジャスティスは基本が全く別格だったからだ。
インフィニットジャスティスはキラのストライクフリーダムと同じく特別な機体で、それと肩を並べられるザフトのMSはデスティニーとレジェンドだけだった。
量産型のチューンアップ機とは住む世界が違うのだ。
だが、そんないかにも簡単に決着がつきそうな状況にあってもアスランは拳を振り上げられずにいた。今は敵とは言え、旧知の仲であるイザークと積極的に戦おうとは思えなかった。
二機は攻める側と受ける側に分かれて密着し、シンはそれに手を出せずにいた。

「お前はデュランダル議長の言っている事がおかしいと思わないのか!?あのラクスだって、偽者だって知っていたんだろ!?」
『貴様でもあるまいし、ラクス=クラインがどうであろうと俺には分からぬわ!それに、議長の言っている事がおかしかろうが俺はザフトだぞ!』
「それが分かってて……何故未だに議長の為に戦う!?世界が滅んでしまってもいいと言うのか!?」
『俺が守るのはプラントだ!議長の為では無い!』
「なら、イザーク!」
『……貴様はいつもそうだな、アスラン?そうやって奇麗事を並べて自分を正当化しようとする……だから俺はプラントに仇為す貴様を討とうと言うのだ!』
「くっ……!なら…俺もお前を討つ!」
 
お互いの持論が相容れないと分かると、アスランは力任せにイザークのグフを弾き飛ばす。
吹き飛ばされたイザークはアポジモーターを調節してバランスを立て直そうとするが、間髪いれずにビームサーベルを構えるインフィニットジャスティスが襲い掛かってくる。
 
「イザーク隊長、ここは俺に任せて!」
 
グフとインフィニットジャスティスが離れたのを見計らって、デスティニーが二機の間に介入しようと掌のパルマフィオキーナを前面に出して突っ込む。
 
「あんたはいい加減に自分の正義の間違いに気付けよ!」
『ここで邪魔をするのか、シン!?』
 
デスティニーはパルマフィオキーナでインフィニットジャスティスのマニピュレーターごと握りつぶそうと手を伸ばす。しかし、アスランは復帰してから一番の反応を見せ、デスティニーの攻撃を辛うじてかわした。
 
「こいつ!」
「くぅ…シンとイザークが相手では……!」
 
デスティニーはビームライフルを連射してインフィニットジャスティスを追い掛けて行く。
 
『俺はここを動けん!行け、デスティニーのパイロット!』
「シン=アスカです!」
 
イザークに促され、シンはアスランを追いかける。
デスティニーのスラスターから光の羽が展開され、あっという間に虚空の彼方へ消えていった。
 
 
「キラ=ヤマトだな!?」
 
レジェンドがドラグーンを展開してストライクフリーダムを囲う。
 
「あのMS…前にも見た事がある?」
 
展開されたドラグーン、そして同じ系統である事を印象付ける背部の大きなドラグーンのマウントパック。色合までも同じ灰色だった。

「キラ=ヤマト…貴様の存在は未来に悪害しかもたらさない……故にここで消えてもらう!」
 
展開されたレジェンドのドラグーンがストライクフリーダムに向かってビームを一斉射する。ストライクフリーダムはそれをロール回避とビームシールドの防御で何とか防いだ。
ドラグーンは長時間の独立稼動が出来ない為、一撃離脱の精神でレジェンドの背部に再びマウントされる。こうしてエネルギーを再びチャージするのだ。
 
「やっぱり、あの機体は……!」
 
ストライクフリーダムも八機のドラグーンを切り離し、お返しと言わんばかりにレジェンドに向けて囲うように展開させる。
しかし、レジェンドはストライクフリーダムのドラグーンの展開が終了する前にマウントされたドラグーンを様々な方向へ向かせ、拡散ビームの様に撃ち出した。
 
「なっ!?」
 
これにはキラも対応しきれず、一度展開したドラグーンを慌てて呼び戻す。
 
「ふ……ドラグーンの扱いは素人だな、キラ=ヤマト!……何!?」
 
これで形勢が自分に有利になったと思ったその矢先、戻って行ったストライクフリーダムのドラグーンはマウントされずに周囲に固定されている。
そして、ストライクフリーダムは二丁のビームライフルを両手に持ち、クスィフィアスを前面に向けている。
お決まりのポーズをとるストライクフリーダムを見て、レイは慌てて回避行動をとる。
 
「ぐぅ……!」
 
案の定の攻撃がストライクフリーダムから放たれる。以前のフリーダムの時とは比較にならない凄まじい攻撃だった。
レイはそんな無数のビームの嵐の中で、巧みにレジェンドを操って何とか回避を試みる。その数が余りにも多い為にかわしきれない攻撃も存在したが、それもビームシールドで防ぐ事が出来た。
 
「やはり、貴様のような人間は生かしておいてはいけない……!俺と共に滅ぶんだ、キラ=ヤマト!」
 
追いかけるレジェンドだったが、ストライクフリーダムはステーション・ワンの方向へ進路をとる。機動性ではストライクフリーダムに若干劣るレジェンドでは追い着くのが難しい。
だが、そんなストライクフリーダムの行く手を遮るようにオルトロスの一撃が横切った。
 
「誰!?」
『行かせるかよ、そんなもんで!レジェンドのパイロット、ディアッカ=エルスマンが入るぜ!』
 
キラが視線をビームの発射方向に移すと、そこにはディアッカのガナーザクがストライクフリーダムを狙っていた。ガナーザクから二撃目が撃たれる。

「あなたは!」
『キラだろ、お前?そう易々と行かせないってね!』
 
ストライクフリーダムはディアッカの放ったビームを避けてビームサーベルを引き抜く。鈍重そうなガナーザクならば、接近戦に持ち込んで一気に決めてやろうと思っていた。
 
「そうはさせないぞ、キラ=ヤマト!」
 
そこへ追い着いてきたレジェンドがビームサーベルでストライクフリーダムの行動の邪魔をする。鍔迫り合いのように拮抗する二機の側でディアッカはオルトロスの照準を正確に合わせる。
 
『レジェンドのパイロット、ちゃんとお前は外してやるからな!』
「援護感謝します!」
 
目の前のレジェンドと離れた所のガナーザクに囲まれ、キラはピンチを迎える。
 
「ディアッカさん!ミリアリアを放っておいてあなたは何をしているんですか!?」
 
何とかディアッカに分かって貰おうとキラは彼に呼びかける。過去には仲間として共に戦った事もある間柄故に理解してくれるだろうと思っていた。
 
『お前こそ何してんだよ?俺は仕事をしているだけだぜ?』
「それが世界を誤った方向に向かわせているんです!あなたのせいでミリアリアが傷付いているんですよ!」
『ふざけんな!被害者は俺の方だぞ!』
「言い訳は聞きたくありません!」
『テメェ、俺が振られたって事を知っていてワザと言ってんのかよ!?』
「えっ……?」
 
「おしゃべりとは余裕だな、キラ=ヤマト!」
 
気を取られているキラに気付き、レイはレジェンドのマウントされているドラグーンを全てストライクフリーダムに向ける。
 
「今生に別れを告げるがいい!」
「ぼ、僕は!」
 
咄嗟にキラはクスィフィアスを至近距離でレジェンドに直撃させる。衝撃の勢いもあってレジェンドはストライクフリーダムから離されてしまったが、それでもレイはドラグーンの一斉射を放つ。
しかし、そんな攻撃もストライクフリーダムのビームシールドに薙ぎ払われる様に弾かれてしまった。
その脇からディアッカのガナーザクがストライフリーダムを狙撃するが、それも簡単に避けられてしまう。
 
『やっぱ打つ手なしかよ!』
「えぇい、もう一度!」
 
レイは再びレジェンドのドラグーンを射出する。

「また……?」
 
キラもストライクフリーダムのドラグーンを射出する。
二機合わせて合計十六機のドラグーンが飛び交っている。レイとキラ、どちらの方がドラグーンを上手く扱えるかが勝負の肝だった。
ストライクフリーダムはドラグーンを切り離しても本体には豊富に固定兵装が残っているが、レジェンドの方はドラグーンが無くなれば残されている有効な武器は、基本装備のビームライフルとビームサーベルのみである。
故にここでのドラグーン合戦は決して負けるわけには行かなかった。
 
ストライクフリーダムは両手のビームライフルを連結させてそれをレジェンドに向けて撃つ。
レイはそれをかわすが、様々な角度からストライクフリーダムのドラグーンが狙っている為、自分のドラグーンのコントロールを兼任しながらの戦いは普通の何倍も神経を磨り減らす作業だった。
一方のキラは武装豊富なストライクフリーダムの為にレイよりは余裕が持てる。
もし、ドラグーンを破壊されてしまったとしても、本体の武装だけでも戦えるだけの戦闘力を秘めているからだ。
この状況で慌てる道理は無いが、しかしレジェンドのドラグーンの方が若干動きが良い。
 
「やはり、ドラグーンの性能はこちらの方が上のようだな!」
「僕の方がドラグーンを上手く扱えてない!?」
 
虫が飛び交うが如く飛び回る十六機のドラグーン達は、光の筋を放って幻想的な空間を形成する。その中でレジェンドの灰色のドラグーンは、ストライクフリーダムの青いドラグーンを凌駕する動きを見せている。
最初のうちはキラも本体による攻撃を積極的に仕掛けていたが、時間の経過と共に次第にドラグーンの制御の方に労力を注ぎ込まなければならない状況に陥る。
いくらキラが最強のパイロットであろうとも、初期型のドラグーンを実戦でいきなり鮮やかに使って見せたクルーゼと同じクローンであるレイにはドラグーンの使い合いでは敵わない。
 
『俺も忘れるなよ!』
 
狙い済まされた一撃が要所要所で挟まれる。ディアッカの正確な射撃は、連射こそ出来ないまでも、レイの相手をするキラにとっては脅威であった。
 
「焦りすぎたの!?…一旦退くしかないのか……!」
 
レイとディアッカのコンビネーションによる攻撃に堪えきれなくなったキラはドラグーンを回収してストライクフリーダムをステーション・ワンの側から撤退させる。
 
『俺はここまでだ、後はお前がしっかりやれよ!』
「了解です」
 
レイもドラグーンを回収し、逃げるストライクフリーダムを追いかけてその空域を離脱する。
 
『イザーク、こっちは何とか追い返す事が出来たぜ!』
「こちらもだ。正直、まだ言いたい事が腐るほどあったのだがな……」
『ミネルバに任せろよ、俺達はここで死守するのが任務だろ?』
「フン、違いない……が、お前に言われるとはな?」
『副官の役目だからな』
「ふっ、偉そうに……。補給に戻るぞ!」
 
イザークとディアッカは連れ立って母艦へ帰還していく。
二人は一先ず防衛する事が出来た事に安堵していた。
だが、直ぐにまた次の戦いに備えて気を引き締めなおす。気が抜けない戦場である事は分かっていた。

 
一方、カミーユとハイネはミネルバの付近で次々と突破してくるオーブ軍の相手に忙殺されそうになっていた。
 
「数が多い…前線は持ち堪えられないのか!?」
 
いくらオーブ・連合軍に勢いがあろうとも、前線を抜けてくる敵が多すぎる事にカミーユは不思議に感じていた。
 
「どうにも多過ぎる……あっちで何かあったか?」
 
ハイネもカミーユと同じ感想を抱いていた。ハイネはミネルバのメイリンに通信を繋げる。
 
「ミネルバ、前線の動きはキャッチできているのか!?」
『バートに繋ぎます!』
 
メイリンは索敵のバートにハイネとの直接回線を開く。
 
「どうなっている、バート!突破してくる敵が多過ぎるぞ!」
『確定情報ではありませんが、前線部隊でオーブ軍のMSが猛威を振るっているようなのです!』
「何?どういう事だ、フリーダムとジャスティス以外にそんな凄腕がいるって事なのか!?」
『暫定的な目撃情報になりますが、どうやら例の金色と新型の黒い奴が三機、合計四機の突出した性能のMSが猛威を振るっているようなのです!』
「金色と黒い奴……?あいつらか!」
 
ハイネはオーブ戦で出会った三機編成のドムを思い出す。金色の方は遭遇してなかった為に思い当たる節が無かったが、ドムの方は手強い相手だった事が印象に残っていた為に直ぐに思い当たった。
 
『あの三機が来ているのね!』
 
ルナマリアのインパルスが前線に向かおうとする。
 
「ルナマリアはミネルバを守れ!奴等は俺とカミーユで抑える!」
『何で!?あたしだって戦えるわ!ジブリールを捕まえたのよ!?』
「母艦を空にして行けるか!お前は帰ってくる場所を確保するのが任務だ、ミネルバを守ってくれ!」
『ハイネはもう隊長じゃないんでしょ?だったら!』
「それでミネルバが沈んだらどうする!お前の実力を見込んだ上での俺の判断で、俺はフェイスだ!従って貰うぞ!」
『……分かったわよ』
 
ルナマリアを何とか諌め、ハイネはカミーユに連絡を取る。

『聞いていたか、カミーユ!状況が変わった、俺達は前線の援護に出るぞ!』
「了解!」
『ミネルバ、俺とカミーユは前線の援護に向かう!レイにもその旨を伝えておいてくれ!』
『ミネルバ了解です!』
『よし、行くぞカミーユ!』
 
セイバーとΖガンダムはMAに変形して閃光が煌く前線に向けて飛び立っていく。
残されたルナマリアは不満そうにコックピットの中で戦場を見つめていた。
 
そんな中、ミネルバのブリッジでは新たな敵の接近を捉えていた。バートからタリアに報告がはいる。
 
「艦長、新たに突破してくる戦艦を確認!これは…アークエンジェルです!」
「来たわね……!ルナマリアに通達、アークエンジェル以外の敵は無視し、アークエンジェル討伐に力を注ぐように!…これよりミネルバは他の突破してくる敵を友軍に任せ、アークエンジェルの排除に全力を注ぎます、総員対艦戦用意!」
「了解、総員隊艦戦用意!」
 
アーサーがタリアの言葉を復唱する。
 
「マリク、指示を出した時以外の操舵はあなたに全てを一任します。状況を見誤らないように」
「はっ!」
「チェン、ルナマリアには当てないように」
「心得ています!」
「バート、メイリンはこちらに仕掛けてくるオーブのMSが居たら友軍の艦に連絡して援護を求めなさい」
「「了解です!」」
 
タリアはブリッジクルー一人一人に指示を与える。
 
「アーサー、あなたに一時的に私と同じ権限を与えます。必要と思ったら私に指示を仰がずに即座に命令を下しなさい」
「わ、私がですか!?」
「あなたも立派な指揮官よ、自信を持って」
 
タリアは子供に言い聞かせるようにアーサーに伝える。
 
「私一人の目ではアークエンジェルには勝てないわ。あなたの目も必要よ」
「……私に出来るでしょうか……」
 
アーサーは自信が無かった。それというのも、アーサー自信が艦長の器ではない事を自覚していたからだ。確かに彼は人の上に立つ人材ではないかもしれない。
しかし、そんなアーサーであっても、タリアは彼の優れた戦術眼の良さを知っている。だからぶっつけ本番のような形になってしまったけれども、彼にもう一人のミネルバのブレーンになる事を言い渡したのだ。
 
「あなたがあなたの力を引き出せればアークエンジェルだって落とせるわ。もっと自信を持ちなさい、私はあなたを高く評価しているのよ?」
「アークエンジェル接近!視認出来る距離に居ます!」
 
バートからの報告が時間が無い事を証明する。アーサーに愚図っている時間など無かった。

「分かりました、やります!」
「頼んだわよ」
 
アーサーは目に力を入れ、頭をフル回転させてアークエンジェルの映るモニターを睨む。
 
「ナイトハルト一番から七番を順次発射!」
「同時に回避行動を!ローエングリンの射線には決して入るな!」
 
タリアの指示に続いてアーサーも指示を出す。タリアの指示の穴をアーサーが埋める、理想の形を作っていた。
 
「それでいいわ、アーサー!」
「はっ!」
 
タリアはアーサーの存在を頼もしく思い、視線の先に居る宿敵に思いを馳せる。
彼女はここで長きに渡るアークエンジェルとの決着をつけようとしていた。