Z-Seed_942_第09話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 13:02:53

第09話『力の確約』

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あらかじめアポイントメントを取り、私は議長に当てがわれた部屋へ向かった。
議長に直接物を申すような機会はめったに無いのだから、失敗は許されない。

「失礼します」
「どうぞ」

議長の言葉を確認した後、私は部屋に足を踏み入れた。

「用は、何かね?」
「議長殿に畏れ多くも上奏したいことがございまして、参った次第であります」
「言ってみたまえ」

言葉を飯の種にしている人種を説き伏せるのは容易ではないが、やらねばならない。

「新設部隊の結成でございます」
「ほぅ……詳細は?」
「今回の強奪騒ぎ、原因は精兵不足であると私は分析します。
護衛の部隊はあっさりと撃破され、進水式もしていない当艦が追撃するという非常事態に陥りました。
もし、護衛の部隊が圧倒的な力で強奪部隊を制圧していたらどうだったでしょうか?
議長がわざわざミネルバにお乗りになるようなことにもならなかったでしょう」
「……」
「精兵が戦場を制すというのは、先の大戦でのフリーダム、ジャスティスによって立証済みでございます。
故に私は具申したいのです!
有事の際には迅速に動き、颯爽と制圧して行く精兵揃いのエリート部隊の結成を!」

食い付いてくれればいいのだが……
この提案、かなり危険である。一歩間違えれば危険分子とみなされかねないのだ。
「確かに君の言う通りだ。人員は君の方で決めてくれて構わない。君の実力は先の戦闘で立証済みだしな。
……私も命拾いをしたよ。
法案もこちらでねじ込んでおこう」

嫌に物分かりが良すぎるな……。

「ありがとうございます。欲深くも、もう一つお願いがございます」
「構わんよ」
「捕虜のことですが、私の一存で処理させて頂けないでしょうか?
彼等は見込みがあります。是非、新設部隊に引き入れたいのです」
「一向に構わん。それも、こちらで何とかしよう」

おかしいっ!?政治家は勘定に合わんことはやらん人種だ!明らかにこちらの申し出が通り過ぎている!

「ありがとうございます。では、本国に着きましたら、新設部隊の手続きをよろしくお願いします」
一抹の不安を感じながらも、私は一礼をして議長の部屋を去ろうとした。その時だった。

「シロッコ君。新しいMS、期待しているよ」

戦慄が走った。何故かは知らないが、この男は私がインパルスやザクを設計したことを知っていたのだ。
それならば、あれほどこちらの要求を飲んだことも説明が付く。
議長は、新しいMSの設計の代わりに要求を飲んだのだと暗に言っているのだ。

「励ませて頂きます」

冷たい汗を感じながら、私は部屋を後にした。
この男、食えんな

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――三ヶ月後――

「うぇーい」
「こらこら、髪を引っ張るな。設計図が上手く書けないだろう」
「うぇーい?」
「これかい?これの名前は『グフ』というのだよ」

そんなやりとりをしていると、私の自室に来訪者が訪れた。

「パプティマス様、兵達に挨拶を」
「ご苦労。副長殿」

皮肉たっぷりに言うと、男は頬を赤らめた。

「や、止めてくださいよぉ」
「悪かった。冗談だよ、シン」

ブリーフィングルームに向かって歩く。私たちはこれから、この部隊の為に作られたミネルバ二番艦、『アテナ』で処女航海に出るのである。
ブリーフィングルームでは、兵士達が着席して私の登場を待っていた。パプティマシズムに属する者も見られ、彼等たちの視線は熱かった。
大抵の兵士が行儀良く座る中、アウルは気だるそうに腰を下ろしていた。
まったく……。

「ほら、ステラも着席して」
「うぇーい」

シンの促しによって、ステラが元気良く席に着いた。
アウルやステラが連合にいたことはもはや揉み消され、
外部にも漏出していなかったため、兵士たちとの衝突はなかった。
この手腕が、デュランダルをして議長たらしめる要素なのだろう。

「諸君らは、数ある部隊の中でも選ばれた存在である!」

私の演説が始まると、場に緊張感が走った。

「この平穏な時の中でも、軋轢は生じ、こ競り合いも生まれるだろう!
その時!圧倒的な力をもってそれを制すのが我々の役目だ!
私はここに宣言する!
『ティターンズ』の結成を、ここに宣言する!」

歓声が上がり、兵士たちの賛歌に私は包まれた。
私は戻って来た。そう、力を持つ者として。
それを象徴するかのように、胸に着けたブローチが白く輝いていた。

第一部完