史上初となったMS同士の戦闘は、コロニー内で、しかも公国軍が相打つ形でおこなわれることになった。
先行部隊を率いていたニアーライト少佐は、部下のサカキ中尉を含めた3機のザクが伏兵により撃破されたことで、
このクーデターが排除目標に察知されている事を悟った。
「フンッ! でも、だからと言ってやることが変わるわけでもないわねぇ」
伏兵のMSはほぼこちらと同じくザク、だが、2機ほど機体色の異なるMSがいた。
青系に塗装され、ヒートソードを構える形の異なる2機のMS。
「グフ・カスタムにイフリート!! なかなかやってくれるじゃない!」
近接戦用に特化した局地専用MS制式採用機に、それを更に近接戦用に特化した実験機。
そして、動きから察するにパイロットはエースクラス。
不利を悟ったニアーライトは宇宙港までの後退を決めると、部下に殿を任せ一目散に逃げ出した。
目指すは宇宙港、そこに到着してあるであろうコムサイ。
地上用のMSのため、コムサイでの輸送を行わざるをえなかった6機のMSが後続部隊により運ばれている筈である。
「ザクでグフに勝てるわけないじゃないの!」
この後退中にクーデター部隊は更に2機のザクを失うことになる。
■ グール隊 ■
「アッハッハッハ! あのオカマ野郎、大口叩いといてこんなものかい? 所詮は寄せ集めのクズどもでしかないか。
ボクのようなエリートが何とかしてやらないとダメだねぇ?」
「中尉、MS隊発進の準備が整いました」
「ああ、わかったよクローディア。それでは騎兵隊の出撃と行こうか諸君!」
「「「「「イエッサー!!」」」」」
■ 海兵隊と外人部隊 ■
「まずは、作戦成功ってとこかね?」
「そのようですな、少佐。問題は第二波、こちらの存在がばれた以上、敵も本腰入れてかかってきますね」
「そうだねぇ、少尉。アチラさんも局地専用のMSくらい用意してるだろうしね」
「おそらくは」
このとき、海兵隊と外人部隊のMSはコロニー内での戦闘に配慮して、銃火器はすべて模擬弾、ペイント弾を使用し、
グフ・カスタムとイフリートに至ってはヒートソードのみの装備で戦っている。
その為、完全な奇襲状態での伏撃を決めたにもかかわらず、撃破できたのは敵の半数のみで、しかもそのすべてが
グフ・カスタムかイフリートのヒートソードでの撃破となっている。
また、クーデター部隊はコロニー内での戦闘だというのに、気にすることなく銃撃をおこなったため、各MSともに
少なくないダメージを受けていた。
「さて、ここからが踏ん張りどころだね。少尉、本隊到着までの予定時間は?」
「あと、2時間15分。今度はこちらが後退して守る事になりそうですな」
「やれやれだね。最悪、政庁前まで引くことになるかもね」
「そうならないことを期待しましょう」
『少佐! 宇宙港から新たなMS確認! 機種は……グフタイプ5機!』
「はぁ、これは厳しいかもだね……」
「そのようで……」
この時の両軍の戦力は以下の通り。
・海兵隊・MS特殊遊撃隊
MS-06F2:5機(海兵隊MSパイロット搭乗)
MS-06FZ:2機(遊撃隊MSパイロット搭乗)
MS-07-B3:1機(ケン・ビーダーシュタット少尉搭乗)
MS-08TX:1機(シーマ・ガラハウ少佐搭乗)
・クーデター部隊
MS-05:4機(ムサイの護衛)
MS-06C:2機(ムサイの護衛)
MS-06F:4機(マッチモニード。先行部隊、2機が初撃で撃破される)
MS-06F2:4機(マッチモニード。先行部隊、2機が後退中に撃破される)
MS-06FZ:2機(ニアーライト少佐とサカキ中尉が搭乗。初撃でサカキ機が撃破される)
YMS-07:1機(グール隊。後続部隊)
MS-07A:2機(グール隊。後続部隊)
MS-07B:2機(クロード中尉とクローディア少尉が搭乗)
YMS-09:1機(後退したニアーライト少佐が搭乗)
MS比は9:22でクーデター部隊が圧倒していたが、鎮圧部隊の伏撃による先制攻撃で3機のMSを
失っており、後続の増援が来るまでの間に、更に2機が撃破されている。
しかし、後続部隊は近接戦闘に優れたグフタイプで構成されており、銃火器による攻撃力が皆無な海兵隊と
外人部隊は大いに苦戦する事になる。
幸いにして、クーデター部隊は複数の私設部隊からなっており、相互支援の観念が絶望的なまでに無かった。
これにより、海兵隊とMS特殊遊撃隊は、本隊が到着するまでの貴重な時間を得る事になるのである。
■ つまらないオチ ■
「なるほど……抜かりは無い。ということですか……」
「……そうでもない。デラーズ、賭けはお前の勝ちだな」
「親衛隊長か……」
「私は撃たないと言ったが、デラーズは撃つと確信していたようでな」
「この罠、食い破る自信はありましたが……兄上の用心さには敵わなかったようです……」
「……つれていけ」
キシリア・ザビの放った銃弾は、総帥執務室を隔てる防弾ガラスによってその役割を果たすことなく終わる。
銃声とともに執務室に警備兵がなだれ込んだ時点で、クーデターが完全に失敗に終わったことを悟り、キシリアは
銃を捨てた。
キシリアが登庁した直後にジオン政庁を襲撃した、上級将校を中心とした500名ほどのクーデター部隊本隊は、
キシリアが総帥執務室に入室すると同時に、政庁内に潜んでいた親衛隊の攻撃を受ける事になる。
激しい銃撃戦が政庁内で繰り広げられるが、数に勝る親衛隊によってクーデター部隊はじわりじわりと鎮圧される
こととなった。
また、ジオン政庁での戦闘が終結するとほぼ同時に、ア・バオア・クーより取って返した親衛隊と本国防空隊が帰還。
エリック・マンスフィールド大佐率いる本国防空隊の精鋭が、首都コロニーに取り付いていた5隻のムサイ、その
護衛の6機のザクを瞬く間に撃破する。
占拠されていた宇宙港をたちまちのうちに奪取すると、海兵隊と外人部隊の粘り強い防戦にてこずるクーデターMS部隊
の背後を強襲した。
この強襲によりYMS-09で指揮を取っていたニアーライト少佐が戦死、マッチモニードが崩れかけた隙を逃さず
ガラハウ少佐とビーダーシュタット少尉がクロード兄弟のMS-07B2機を撃破する。
指揮官を失ったクーデター部隊はなおも交戦を続けるが、その1時間後には鎮圧されている。
このクーデター失敗により、所謂キシリア派は完全に失墜する。
突撃機動軍は解体され、公国軍は完全にギレンただ一人によって掌握されることになる。