「お、おのれ! ジオン軍め!」
レセップスの艦橋で、マーチン・ダコスタは一人苦悩していた。
今、彼が居るバナディーヤの周囲を無数の戦車とMSが囲んでいる。
さらには――<北アフリカ駐留軍司令官アンドリュー・バルトフェルド! 聞こえるか、私はジオン公国突撃機動軍中将のマ・クベだ。ただちに降伏せねば、我が軍はバナディーヤを焦土に変える用意がある>――といった、脅しと取れる降伏勧告を行なっているのだ。
「こうなったら、残存戦力で奴らに特攻を行なうしか!」
「ダメだよそんなの……」
後ろから声が上がる。艦長席の横に置かれた簡易ベッドの上に横たわった男が言ったのだ。彼は体中に包帯が巻かれており、左眼・左腕・左足が無い。
「バルトフェルド隊長!」
「ダコスタ君……ダメだよ、特攻なんて……」
「しかし! 他に手がありません!」
「あるじゃないか。あの中将殿がさかんに叫んでいる方法が」
「!!」
「降伏するんだダコスタ君。僕らに出来るのはそれだけさ」
言いながら窓の外を見るバルトフェルド。無数の戦車とMS、更に後方にはダブデ級陸上戦艦とガウ攻撃空母もいた。
「僕が大天使に敗れたのを知って、即座にこれだけの戦力を投入してくるとはね……」
「ガルマ様。どうやら、こちらの要求に応じるようです」
「そうか……」
ガルマは緊張感から解き放たれた。
今回の作戦は、ある意味賭けに近かったからである。
事の発端は数日前、ランバラル隊が“砂漠の虎”と“木馬”の抗戦を目撃したことから始まる。
“木馬”とは連合が開発したといわれるMS運用艦で、ジオン内部ではいささか有名な艦だ。だが、それは良い意味ではなく、悪い意味でだ。
なぜなら、ジオン軍人の間では“運用するMSを奪われた艦”で知られているからだ。
その“木馬”が、アフリカに降下した。しかも、ランバラル隊が駆けつけると“砂漠の虎”と交戦中だったのだ。“虎”と交戦後も、
その動向は随時監視させていた。そして先日、“木馬”が“砂漠の虎”を打ち破ったという知らせがガルマの元へと入る。
北アフリカのザフトを一掃するため、カイロで戦略を練っていたガルマは、動かせる軍を総動員して進軍を開始したのだ。手負いの“虎”を
狩るためにである。
しかし、ジオン軍よりも早く、レセップスはバナディーヤに帰還し、町に陣取って抗戦の意思を示したのである。
ザフトの戦力低下は明らかであり、現状ならば容易く攻略できたが、ガルマはバナディーヤの住人が気になっていた。
「いかんな。このままでは民に犠牲が出てしまう。いい策は無いものか……」
そこに知恵を出したのがマ・クベであるが、それは降伏勧告という名の脅迫であった。
「しかし、それは……」
「これは駆け引きです。ザフト側が我々の要求を無視すれば、その報いを受けさせればいいのです」
マ・クベは更に続ける。要求を無視すれば住人もろとも殲滅する。その上で、ザフトは己の身を護るために原住民を人質にした挙句、
最後は人質もろとも自爆したことにする。逆に要求を受け入れれば、何も問題は無い。住民に対しては、“明けの砂漠”を通して誤解を解いてもらう
といった内容であった。
「早急に行わなければジブラルタルから増援がやってまいります。ガルマ様、ご決断を」
「……わかった」
こうしてマ・クベの策は採用され、見事に的を得たのである。
結局の所、民間人はおろか、ジオン、ザフト双方に血は流れることなくバナディーヤは陥落することになった。
バナディーヤを占領したことにより、アフリカにおけるザフトの戦力は、南部のビクトリアと北部のジブラルタルに面した部分のみとなった。
ビクトリアに関しては、ノイエン・ビッター少将がデザート・ロンメル中佐と共に、キンバライト鉱山基地で動向を伺っている。
そうなるとガルマ達の次の目標は――
「ジブラルタルか」
ガルマは砂漠に落ちる夕日を見ながら、激戦を覚悟するように呟いた。
――――つづく?
気が向いたらジブラルタル編