Zion-Seed_51_第44話

Last-modified: 2007-12-26 (水) 01:52:02

 オーブで戦闘が起きる少し前。その艦隊はデブリベルトに紛れて地球へと向かっていた。パトリックの提唱
したオペレーション・スピットブレイクに参加する降下部隊である。
 このスピットブレイク参加部隊の中にはクルーゼの姿もあった。クルーゼはデュランダルが指摘したとおり、
最前線へと向かわされることになったのだ。本人としては複雑な心境なのだが、一先ず戦場へと戻れたことを
感謝しつつ、今日に至っている。

 

「ラウ・ル・クルーゼ」

 

 鋭い刃のような声にクルーゼは振り向いた。そこには眼帯をした女性軍人が立っている。

 

「お前の機体が届いたよ」

 

 彼女はヒルダ・ハーケン。今作戦においてクルーゼの部下となる赤服の女性だ。彼女個人の戦歴はクルーゼ
程ではないがヘルベルト、マーズとのチームはザフトでも有数の武名をほこっている。
 ヒルダもまたクライン派だが、彼女はクルーゼのことを快く思ってはいない。幾らザラ派からクライン派に
鞍替えしようと、裏切り者が簡単に信用されることはない。彼女からして見ればクルーゼはコウモリなのだ。

 

「何だこれは?」

 

 格納庫に入ったクルーゼは開口一番に疑問を述べた。彼の目の前には見慣れない青いシグーが鎮座している。

 

「シグーだ。お前の乗り慣れたね」
「私の乗っていたシグーは青くない」
 この青いシグーはシグーディープアームズという。奪取したXナンバーから入手した小型ビーム兵器の技術
を検証する為、シグーをベースに試作型熱エネルギー兵器を搭載した実験機である。約10mもの全長を持つ
ビーム砲が両肩に取り付けられているのが特徴だ。
 しかし、機体を渡されたクルーゼは、渋い顔でこの実験機を見上げていた。正式機でない機体を渡されても
パイロットからして見れば迷惑なのだ。
 
「前のとは違ってビーム兵器を装備しているから、Xナンバーが出てきても対抗できるわ」
「ちょっと待て。私の記憶が正しければ、この機体は実験機だった筈……」
「そうね。でも、貴方の腕なら問題ないでしょう」

 

 ヒルダは抗議するクルーゼを鼻で笑い、冷たくあしらってしまう。だが、クルーゼもそう簡単に引き下がる
わけにもいかない。自分の命を預ける機体なのだから。

 

「腕は問題ではない! 動くかどうかも分からん機体は信用できんと言っている!」
「貴方と同じね。お似合いだわ」
「……クッ!」

 

 強烈な皮肉を言われ、返す言葉もない。

 

「言っておくけど、私たちの乗る機体も先行量産型のゲイツなんだから。文句言わないでね」

 

 不条理だと叫ぼうとしたクルーゼであったが、これ以上の醜態を晒すわけにもいかず、泣く泣く仮面の下で
爆発しそうな感情を抑えるのであった。

 
 

――――第44話

 
 

 アークエンジェル艦橋では、今だ救援に来ないオーブ軍にナタルたちが苛立っていた。

 

「一体オーブ軍は何をやっているんだ!!」
「オーブは戦力だけは揃ってますが、実戦経験がありませんからね」
「どれだけ……っ!」

 

 実戦経験がないからといってもあまりにも対応が遅すぎる。今思えばヘリオポリス襲撃時でもオーブは抵抗
らしい抵抗をしていなかった。まったくもってナンセンスである。

 

「艦長。マス伍長のスカイグラスパー、発信準備出来ました!」
「出撃させろ! 今すぐに!!」

 

 ナタルは些かキレ気味に命じた。

 

「スカイグラスパーは海上を警戒! 敵はまだいる筈だ!!」
「本当にそうでしょうか?」

 

 アズラエルは基地を暴れるゴッグに目をやり、眉を吊り上げ呟いた。

 

「敵はまだいると言いますが、第ニ陣が今だ現れないのはどうも……」
「理事、相手はジオンです。アークエンジェルがあるからといっても、たった2機のMSでオーブを攻撃する
とは思えません。あまりにもリスクが大きすぎます」
「そうなんですよね~。でも、そのリスクが生じる程の何かがこの艦にあれば……」

 

 そこまで言いかけて、あることに思いつく。

 

「クックックッ、なるほど。そういうことですか」
「理事?」
「どうやら相手の正体はジオンではないかもしれませんね」

 

 アークエンジェルからスカイグラスパーが発艦するのを見ながら、トールは懸命に105ダガーを操っていた。
牽制のポッドは既に弾が尽きたので捨てている。シュベルトゲベールを引き抜き、ゴッグに向ける。本格的な
接近戦は初めてだが、シミュレータでは何度も経験済み。まして、敵機は水中用MSである。接近戦を得意と
したソードで負ける訳にはいかない。が――

 

「何で当たらないんだ!」
「ほーれ、こっちだ!」

 

 そこは百戦錬磨のモラシムである。そう簡単にトールに間合いを取らせることはない。巧みに機体を操作し
紙一重でトールの猛攻をかわしている。その動きに無駄はまったく無い。

 

「くらえ!」

 

 ゴッグの腹部からメガ粒子砲が放たれる。トールは一瞬焦ったものの、ギリギリのタイミングで回避した。
モラシムは接近戦に自信が無いわけではない。だが、シュベルトゲベールの一撃は確実にゴッグの装甲を貫く。
幸いゴッグのエネルギーには余裕がある。今はメガ粒子砲による攻撃で十分だった。

 

「こう間合いを取られちゃ」

 

 こんな事ならエールかランチャーで出ればよかったと後悔しながらトールは呟き、手持ちの武器を確認した。
モニターにはパンツァーアイゼンとマイダスメッサーが点滅している。

 

「使えないんだよな。この武器……」

 

 パンツァーアイゼンは通用しないことが分かっている。ストライクでさえ力負けしたのだ。105ダガーでは
勝てる筈が無い。かと言ってマイダスメッサーはもっとダメだ。これは投擲兵器、つまりは一種のブーメラン
なのだが、トールからして見ればこんな装備は愚の骨頂だった。戻ってきたマイダスメッサーをキャッチする
ことが出来ないのである。シミュレータで何度も練習したが、成功率はOSの補佐があっても2~3割である。
MSは常に機動しているのだから当然だ。ある意味でコーディネイターでも成功させるのは困難な代物だろう。
とても実戦で扱う武器ではない。

 

「ううう、でも悠長なこと言ってられないし……」

 

 他に手もないので、仕方なくマイダスメッサーを抜き放った。

 

 ミハルは兵士を横目に、軍港への侵入に成功した。混乱した基地内、MSの奇襲など想定していないのか、
基地兵士は右往左往している。彼女は周囲を確認しながら、アークエンジェルが停泊しているドックを目指し
歩き始めるが、

 

「よし。このまま……」
「見つけましたよミハルさん!」

 

 振り向くと、仁王立ちしているミリアリアがいた。その後ろではカズィが自転車にもたれ掛かっている。

 

「何でアンタがここにいるんだい!?」
「バカな真似はやめて戻ってください!!」
「もう後には引けないんだよ。コーディネイターがいなければあたし達だって、今も以前みたいに……」

 

 淡々と言うミハルだが、言葉尻から感情を抑えて話しているのが分かる。

 

「あの子たちはどうなるんですか」

 

 ミリアリアが言うと、ミハルは少し目を伏せた。

 

「両親がいないあの子たちには貴女しかいない。なのに貴女がいなかったら」
「思い出させないでおくれよ。チビたちのこと!!」

 

 うろたえながら言うミハルに、ミリアリアが続ける。

 

「そこまで大事にしてるのなら戻るべきですよ!」
「でも、でもアタシは……」

 

 直後、轟音と共に衝撃が降り注ぎ、地面にしゃがみ込んだミハルの上に瓦礫が降りかかろうとしていた。

 

「あぶない!!」

 

 時間を少し巻き戻す。アッガイに怒涛の攻撃を仕掛けるストライク。その姿は鬼神が宿ったとも表現できる
凄まじさだ。水中用MSであるアッガイを相手に一進一退の攻防を繰り広げていた。しかし、やはり汎用機と
専用機では性能の差が出てしまった。

 

「ぐっ!? 後ろに……!!」

 

 アッガイの戦闘能力はゴッグ程ではないが、運動性能は大きく上回っている。アスランは何とかキラと話し
合おうとストライクの死角に回り込んだ。アッガイに対してキラはシュベルトゲベールを振り回すが、そんな
ものに当たるアスランではない。

 

「アスラン……! どうするつもりだ!?」

 

 キラの叫びにアスランが応じた。

 

「一緒にクストーまで来るんだ!」
「嫌だっ! 僕はザフトの艦へなんか行かない!!」
「いい加減にしろ! 来るんだ、キラ。でないと……俺は、お前を撃たなきゃならなくなるんだぞ!」
「今更、何なんだよ!!!」

 

 キラの声に含まれた気迫に押され、アスランの反論は宙に浮いた。

 

「グッ……キラ、俺の母は、血のバレンタインで……」
「ヘリオポリスを破壊しといてぇー!!!」

 

 人のふり見て我がふり直せという言葉がある。ユニウスセブンの悲劇を知ってるなら、尚更ヘリオポリスを
攻撃した意味が分からない。

 

「…………」

 

 痛いところをつかれてぐうの音も出ないアスランに通信が入った。

 

『アスラン。ストライクは始末したか?』

 

 予想外の敵の強さにアスランの援護が欲しかったモラシムである。

 

「いいえ。敵機の捕獲を試みています」
『ナニィ!? そんな命令は出していないぞ!!』
「捕獲するに超した事はありません」

 

「アスランの奴は何を考えておるんだ!?」

 

 アスランの返答にモラシムは毒づいた。今回の作戦はアズラエルの暗殺であって、小数による奇襲が作戦の
成否を分ける。連合のMSを捕獲する余裕など無い。

 

「本国は英雄ともてはやしていたが……ふん!」

 

 モラシムはアスランに対する信用度を急落させながら、105ダガーが投げたマイダスメッサーを叩き落す。
 避ける以前に叩き落されたマイダスメッサーを見たトールは、呆れるように溜め息を吐く。

 

「やっぱりこうなったか」

 

 ブーメランは慣性で飛んでいるので、威力がないのは当然である。

 

「……どうしてこんな使えない武器造ったんだよ」
『それは聞き捨てならないわねトール君』

 

 トールの不満をどこから嗅ぎ付けたのか、機内にマリューの声が響きわたる。

 

「ラ、ラミアス大尉……」
『ブーメランが役に立たない。それは違うわ、人型兵器とブーメランの組み合わせは人型兵器とドリルと同じ』
「はぁ? 何を――」

 

 ――言っているんだこの説明おばさんは?
 と言いかけた言葉を飲み込んだ。

 

『ドリルは漢の浪漫で動く、いわば漢エネルギーの結晶! ブーメランも同じよ。漢エネルギーで方向転換し、
正確に敵に誘導させるの!!』
「んなこと出来るわけないでしょう!!!」
『気合で何とかしな……ピッ!』

 

 一先ず通信を切り、再びゴッグと相対するトール。

 

「シュベルトゲベールとパンツァーアイゼンだけで何とかしないと」

 

 言うのは簡単だが、どうすればいいかが分からない。アンカーの先にシュベルトゲベールをくっつけて鎖鎌
のように振り回すことも考えたが、さすがに無理がある。

 

「うー……んっ!?」

 

 そんな悩める少年の目にとんでもない物が映りこむ。

 

「ミリィ?」

 

 モニターに映ったのは、間違いなくミリアリアが着ていた軍服。ピンクの目立つ軍服は、間違うはずも無い。
まさかの事態にトールは呆気に取られた。だが、その一瞬を見逃すモラシムではない。

 

「戦場で隙を見せるとはな!」

 

 105ダガーの動きが止まった瞬間を狙いメガ粒子砲を放つ。トールは避けようとするが、時既に遅く、機体に
メガ粒子砲の直撃を受けてしまった。だが、モラシムが次に見たのはMSの爆発ではなく、装甲が焼け焦げた
105ダガーの姿であった。

 

「バカな! メガ粒子砲を受けて無傷だと!?」

 

 トールの命を救ったのはラミネート装甲のお蔭だった。これはビームのエネルギーを熱エネルギーに変換し、
装甲全体に拡散させてビーム兵器を無力化することが可能。アークエンジェルにも採用された装甲でもある。
コストが高騰するため量産には向かないが、105ダガーには例外的に取り付けられていた。

 

「あ、危なかった……って、ミリィ! ミリィは!?」

 

 直に先程の場所を見るトールだったが、そこは非情なことに瓦礫が崩れていた。信じられないトールはもう
一度確認するが、何度見ても同じ光景しか映らない。

 

「そんな、そんな筈……」

 

 考えたくない状況にトールは訳が分からなくなった。シュベルトゲベールを振り被り、不用意にもゴッグに
向けて突撃する。無謀すぎるその行動にモラシムは嘲笑う。太刀筋を簡単に見切り、アイアンネイルによって
シュベルトゲベールは弾き飛ばされてしまった。

 

「ハッハッハッ! あの大物が無ければどうしようもあるまい!」
「こうなったらヤケクソだぁぁぁ!」

 

 武器を失い絶体絶命の事態にトールは賭けに出た。距離を取り、パンツァーアイゼンをゴッグ目掛けて撃つ。
ロケットによって発射されたアンカーは真っ直ぐにゴッグへと向かう。

 

「そんな物でっ!!!」

 

 一直線に迫るアンカーをいとも簡単に避け、モラシムは105ダガーとの間合いを縮める。105ダガーにはもう
武器は無い。懐に潜り込まれた段階でトールの運命は決まる――その筈だった。

 

「ナニィ!?」

 

 モラシムの目に信じられない物が飛び込む。それはパンツァーアイゼンの先端に付いたシュベルトゲベール。
先のアンカーはゴッグを狙ったものではなく、弾き飛ばされたシュベルトゲベールを狙うものだったのだ。

 

「ぬかったわ!!」

 

 急いで間合いを詰めようとするモラシムだが、トールは距離を取ろうとしている。ゴッグの爪が105ダガーを
捉えるよりも先に、シュベルトゲベールが持ち主の手に舞い戻った。

 

「うあああぁぁぁっ!!!」

 

 トールは叫びながら無我夢中でシュベルトゲベールを振り下ろす。だがモラシムはあえて105ダガーに突貫し、
サーベルの切先から根元へと切る位置をずらした。光刃はゴッグの頭部を直撃するが、上手く力が加えられず、
破壊したのは頭部のメインカメラだけで、中枢部へのダメージは退けられた。

 

「まさか、こんな事に……」

 

 不覚を取ったことにモラシムの顔がゆがむ。しかもサブカメラに切り替えると映ったのはキラのストライク。
アスランが取り逃がしたのだ。しきりに海を警戒していることからアッガイはやられていないようだ。

 

『すいません隊長。ストライクを取り逃しました』
「だから破壊しろと言ったのだ!」

 

 これ以上戦っても勝ち目はありはしない。アスランから通信に怒りをあらわにしながら、モラシムは苦渋に
満ちた顔で撤退を決断するのだった。

 

「イテテ……ハッ、ミハルさん!」

 

 飛び起きたミリアリアは周囲を見渡した。すると小さな瓦礫がぶつかったのか、ミハルが倒れている。

 

「ミハルさん、ミハルさん。しっかりして下さい!」
「う、うーん」
「良かった。大丈夫みたい」

 

 とにかく彼女を揺さぶり起こす。目を開けたミハルは確認するように聞いた。

 

「せ、戦闘はどうなったんだい!?」
「もう終わりましたよ」
「……そう、かい」

 

 うなだれるミハルの手を取ると、ミリアリアは手近にあった建物に連れて行こうとする。

 

「それよりミハルさん。直に服を脱いで!!」

 

 その言動にミハルは顔を赤くする。

 

「ちょっ! こんな時に何言ってるんだい!!」
「ち、違います。変なこと考えないでください! ミハルさんがその服を着てるのを連合の人に見つかったら
大変なことになるから言ってるんです!」

 

 ミリアリアは怖い艦長を思い浮かべながら着替えを済ませ、基地の外までミハルを連れて行く。
 カズィが疲れて座り込んでいる場所まで行くと、彼女を家に戻るよう促した。

 

「さあ、早くジルたちのところに」
「……ああ」

 

 あきらめたミハルは帰路に着く前に言った。

 

「一つだけ覚えといて。あたしは今の仕事やめないよ」
「!?」
「今更生き方は変えられないよ」

 

 ミリアリアは悲しそうに俯くが、これは仕方のないことだ。工作員となったからには、簡単に寝返る訳にも
いかないし、家計が火の車であることは変わりない。

 

「でも、あの子たちを悲しませるようなことはしないからさ」

 

 そうしてミハルは走り去った。
「……これで良かったのかなぁ」

 

 最後に見せた笑顔にミリアリアは何を感じたのか……。

 

「あの人、ミリィの知り合い?」
「えっ! ああ、うん。そんなもんかな」

 

 彼女の後姿を見守る二人に、遠くからキラとトールの声が聞こえてきた。

 

「どうやら敵は退いたようですね」
「そ、そんな……」

 

 ナタルはジオンが定石に無い行動をしたことに納得がいかないのか、「そんなバカな」と呟き続けている。

 

「まあ、このような事もあるのでしょう」

 

 ナタルを気遣いつつ、ストライクに目をやる。戦闘が終わった時点でアズラエルの注意はキラに移っていた。
彼にとってキラ・ヤマトは是非とも欲しい存在なのだ。

 

「さあて、彼の心境はどうなったか……」
「アズラエル理事。理事宛に通信が届いています」
「おや? 一体なんでしょう」

 

 アズラエルはロメロから渡された通信用紙を目で追うと顔色を変えた。

 

「バジルール少佐……」
「そんなバ……へっ、え? 少佐? 理事、私は特務大尉ですが」
「いいえ。貴女は今、この瞬間から少佐です。無能な連中を降格させるので、クックックッ……」

 

 ナタルを無視し、通信用紙を握り潰しながら笑い出す。

 

「ハハハハハ……アハハハハハハッ!!」
「り、理事?!」
「よくもやってくれたね変態仮面!! この僕にニセの情報を掴ませるなんて!!! 何がアラスカ奇襲だ。
チクショウ!! いいだろう、こうなったらブルーコスモスの総力を挙げて貴様を捕まえてやる!!!」

 

 顔を歪ませながらアズラエルは、何処の誰とも分からぬ輩に向けて暴言の限りを吐き続けている。ナタルと
してみれば、今まで余裕のあった目の前の男が憤慨している事とアラスカの言葉から、最悪の事態を考えるが、

 

「アラスカが奇襲されたのですか!」
「違う!」

 

 その考えは一蹴されてしまった。しかしそうであっても、事実が最悪であることは変わらなかった。

 

「パナマが奇襲されたんだ!! マスドライバーが破壊されたんだよ!!!」

 

 狂ったように笑い続けるアズラエルの姿を見つめるクルーたちは先行きに不安を感じるのであった。

 
 

「私、やっぱりこの艦に残るわ」

 

 ミハルと分かれたミリアリアは、駆寄ってきたキラとトールにそう言った。

 

「なっ!? ダメだよミリィは……」
「トールがどんなに反対しても決めたから」
「どういうことだよ!?」
「“軍隊なんかに入るな”って、親に言われたのよ!」
「そんなの、親から見れば当たり前だろ!」

 

 トールはやや強い口調でミリアリアに言った。だが、ミリアリアはそれ以上の口調で言い返す。

 

「心配してくれるのはいいの。でも、皆を悪く言うのは我慢ならないわ!」

 

 サイやトールだけでない。親の言葉はナタルやマリューまで悪く言う口調だった。

 

「オデッサではたくさんの人が死んだわ。私は、他人に人殺しさせといて、自分だけ安全なところで軍隊批判
なんて納得できないのよ。それに……」

 

 ミリアリアはミハルを思い浮かべる。

 

「オーブの外からオーブを見てみたい……。だから私は、アークエンジェルに残る」

 

 彼女の口調に、はっきりとした意思を感じ取ったトールは仕方なく説得を諦めた。

 

「僕は……オーブに残るよ」

 

 カズィも凛とした表情で決意を語り始めた。

 

「僕の親、今は親戚の家に厄介になってるんだ」

 

 オーブに実家があるトールたちとは違い、カズィの家はヘリオポリスにあった。両親は、必死な思いをして
オーブにたどり着いたが、自分達は着の身着のままである。仕事はあっても苦労な生活をしていた。

 

「父さんも母さんも疲れた顔しててさ……。僕の前では無理して笑ってたけど、やっぱりほっとけないんだよ。
ただ、アークエンジェルが気になるのは本当だからね」

 

 自分だけが退艦するということへの後ろめたさは確かにある。それでも、両親を置いていくことは出来ない。
カズィが自分で決めたことなのである。

 

「あ、残るんだったらサイの実家に遺品渡しといてよね」
「安心して。ちゃんとやっておく」
「私の両親にも上手く言っといて」
「ぜ、善処するよ」

 

 談笑する二人の姿を見ていたキラは、自身のことで考え込んだ。トールもミリアリアもカズィも、自分自身の
意思でこれからのことを決めた。アークエンジェルも直にオーブを発つ。キラも決断しなければならないのだ。
 案の定、皆がキラの方に振り向いた。

 

「で、キラはどうするの?」

 

 キラは今までの出来事を思い出す。アスランやシャアとの戦い、脱走してソンネンに会い、レナに扱かれ、
オデッサではサイの死に分かれた。そしてアズラエルと出会い、オーブの闇を知ってしまった。

 

「僕は……」

 

 ヘリオポリスからオーブ本国に着くまで色々な事があった。その上で、キラは決断した。

 

「僕は、アークエンジェルに残る」

 

 それは間違いなくキラの決意だった。