Zion-Seed_51_第53話

Last-modified: 2008-03-28 (金) 18:30:18

 旗艦グワランの艦橋では、徐々に近づきつつあるヤキン・ドゥーエを目の前に、上陸作戦の準備を取り掛か
るようドズルが命じていた。現在のユウキ艦隊は、既に13隻が撃沈。残った艦艇も大半が小破ないしは中破し
ている。もはや第三艦隊だけでも対応は可能だった。
 上陸は空母を除いた第一艦隊が任に当たるが、中心となるのはランバ・ラル大尉率いる第二航宙戦隊である。
彼らをヤキン内部に突入させることがジオンにとっての勝利の鍵だが、その前に招かれぬ客が現れてしまう。

 

「敵の増援を確認しました。数は20」
「ほう。もう来たのか」

 

 ドズルは敵艦隊の早い戻りに感心する。それとは対称的に、参謀のラッコクは戦略の見直しを提言した。

 

「この増援ではヤキンへの接近は困難と思われます。一旦後退すべきかと……」
「いや、このままヤキンに向かう」
「!? 閣下、宜しいので?」
「コンスコンにはドロワを預けてある。我々は速攻をかけるぞ!」

 

 そしてグワランを中心とした第一艦隊はヤキンへ向けて進撃を開始した。ドズルの意図に気づいたザフト艦
が侵攻を止めようと進路を遮るが、グワランの主砲が邪魔者に向けて火を吹いた。ザフト艦はMSを展開する
暇さえ与えられず爆発の中に消える。
 このドズルの行動を見たウィラードは、どうすべきか判断を委ねられた。だが、今はユウキ艦隊を壊滅せん
とするコンスコン機動艦隊を優先的に叩く決断をした。
 ウィラードの判断によって、第一艦隊はヤキンへの接近に成功したが、ヤキンにも数多くのMSが配備され
ている。ドズルはこれら敵MSの猛攻を受けながら強襲上陸を果たさなければならない。護衛部隊は宇宙攻撃
軍でも選りすぐり者たちが勤めているとは言え、困難であることに変わりはなかった。
 しかし、彼らの志は一つであった。自身の危険を顧みず、最前線に立って指揮する勇将に、多くの将兵が心
を打たれたのだ。この男の為ならば死ねると。

 

「ここまで来たのだ。今更引けるものか!!」

 

 ドズルの激に全てのジオン将兵が奮い立った。

 
 

――――第53話

 
 
 
 

「何だとっ!?」

 

 そのMSから放たれたビームがガトーのゲルググに降り注いだ。直撃ではないが、彼の愛機はライフルごと
右腕を失ってしまう。誘爆の可能性は皆無だが、火器が使えなくなったのは致命的だ。また四肢を一つ失った
ことにより姿勢制御にも影響が出る。
 どうするか考えている間も、敵は第二射を放ってきた。ガトーはそれを難なくかわし、カリウスを呼び戻す。

 

「カリウス。残弾は?」
「ハンドグレネードは使い切りました。マシンガンは予備のマガジンが1つだけです」

 

 カリウス以外の兵は残弾が少なかった。経験が少ない分、余計に撃ったのだろう。残弾には気をつけるよう
日頃から指導していたが、相手がPS装甲となるとそこまで気を使えとは言えなかった。彼らからしてみれば
周囲を警戒できただけでも上出来である。

 

「少佐、どうなさいますか?」

 

 カリウスの問にガトーは、少し逡巡して答える。

 

「……後退するしかあるまい」

 

 見ると敵は1隻の戦艦。その前には数機のMSと追加ユニットを背負ったMSが2機。さらに悪いことに、
はるか後方に敵の増援が確認できる。自分は火器を失って、部下も残弾が心もとない状況では、補給と整備を
受けなければならない戦闘は不可能である。
 しかし、敵がおいそれと通してくれるとは思えない。事実、赤い機体が仕切りに射撃を加えてくる。ガトー
はシールドを構え警戒するが、意外なことにその射撃はお粗末としか言い様のないものであった。

 

「何だこれは!? 私はこんな奴に当てられたのか!!」

 

 部下たちも余裕を持ってかわしている。肩透かしを食らったガトーは対象への警戒を解くと、そのまま後退
を始めた。流れ弾に注意しながら、部下が離れないよう加速し、母艦ドロワへと帰投するのだった。

 

「……」
「ね、やっぱりダメでしょう?」
「……確かにな」

 

 逃げられた第302哨戒中隊を尻目に会話するのはクルーゼとプレアである。二人が乗っているのはザフトの
核動力機フリーダムとジャスティスである。
 部外者であるプレアが今だフリーダムに乗っているのは不可解だが、プラントを護るというラクスとの約束
もあってか、クルーゼの部下という理由を使いフリーダムに乗り続けた。残ったジャスティスにはクルーゼが
乗ることになった。

 

「マルチロックオンシステム……解らん。技術部はなんでこんなものを付けたのだ」

 

 クルーゼは呆れるように首をかしげる。マルチロックオンシステムとは最大10機の目標に対して同時ロック
オンを可能としており、1対多数の戦闘を前提とした圧倒的な攻撃力を有する機能なのだが、その性能はミノ
フスキー粒子のために著しく低下していた。それでも止まっている相手には絶大な効果を発揮するが、戦場で
足を止めるものはまずいない(ゲルググに当てられたのは運が良かったと言えよう)。おかげでガトーという
エース級を取り逃がした要因となっていた。技術部はミノフスキー粒子下を想定していないのだろうか。余談
ではあるが、現在開発中のZGMF-X13Aも特殊兵装がミノフスキー粒子によって無効化されることが発覚し、
完成が遅れている。
 ちなみにミーティアという巨大補助兵装は、MSに戦艦並みの推力と火力を有しており、大口径ビーム砲や
多数のミサイル発射管、大推力のスラスターなどを備えている一方、射撃管制をマルチロックオンシステムに
依存している所為で扱いづらい代物になっていた。運用試験すら行わず実戦配備されたために、クルーゼたち
はミーティアの試験も余儀なくされている。

 

「自動はダメだ。手動に切り替える」
「辛いですよね。フリーダムだけなら問題ないんですけど、ミーティアだと武器が多すぎます」
「もう少し簡略化して欲しいものだな。兵装が多ければ良いと言うものでもあるまい」

 

 これはジオンとザフトの運用思想の違いから来ていた。ザフトは、ミーティアのような高火力武器を数多く
設置するためである。これは人的資源の乏しいザフトが一騎当千の活躍をするのが目的となっている。一方の
ジオンは、機体性能と稼働時間の向上が中心。エースを長時間戦場に立たせるのが目的だ。
 散々愚痴りながら二人はイザークの機体に目を移した。彼のデュエルは既にPS装甲が解除されている。
ガトーとの戦い以前から機体に無理をかけ過ぎていたのである。

 

「危ない所だったなイザーク」
「クルーゼ隊長……」
「後は我々に任せて、君は下がりたまえ」
「い、いえ。まだやれます!」
「エネルギーがもう無いだろう。PS装甲がダウンしてるぞ」
「そ、そんな筈は……」
「無理だ。外から見ると分かる。コンピューター表示を当てにするな」

 

 クルーゼはバスターに目をやると、デュエルを任せる。

 

「ディアッカ。イザークをヴェサリウスまで連れて行け。お前も弾薬が切れているだろう」
「了解です。助かりましたよ」

 

 二人を見送り一息つくと、クルーゼは戦場を見渡した。

 

「さて……」

 

 戦況はザフトが若干不利であった。

 

「クルーゼ隊長。敵主力がヤキンへ向かっています」
「ほう。どうやら奴らは白兵戦に移るつもりのようだ」
「そんな他人事みたいに……」

 

 エターナルからの通信に楽しそうに言った。このままではザフト司令部が占拠される危険性がある。だが、
同時に第一艦隊を殲滅できるチャンスでもあった。ウィラードはユウキ艦隊救出を優先させたが、クルーゼ隊
なら今からでも追撃にかかれるが、当のクルーゼは笑みを漏らしていた。

 

「ウィラードからは何も言ってこない。放置してもよかろう」
「はあ……」

 

 ――渡りに船とはこのことだな……。
 この時クルーゼの発した呟きは、誰も聞くことはなかった。

 

               *     *     *

 

 同じ頃ドロワでは、第302哨戒中隊が帰還の徒についた。機体を整備兵に預けて休息に入る。
 暫らくすると先に後退していたMA隊が発艦準備に取り掛かった。敵の増援に乾坤一擲の一撃を与えるため
である。右腕の修理と補給を受けている間、次々と発艦していくMAを眺めていたガトーは部隊の中にケリィ
の機体が無いことに気付いた。

 

「おい。ケリィのビグロはどうした?」
「レズナー大尉ですか? 大尉はMIAです。おそらくは……」
「何だと!?」

 

 整備兵の物言いに気が高ぶりながらもガトーは問いただす。そして詳細を知ると唖然としてしまった。

 

「バカな……」

 

 ガトーとケリィは士官学校からずっと同じ道を歩んできた戦友だ。その彼が味方を脱出させるため殿になり、
帰ってこない。ケリィはMSとMAの違いはあれど互いに実力を認め合った仲である。まさか落とされるなど
考えもしないことだった。

 

「腕の交換はまだなのか!?」
「既に付け替えました」
「では出撃する!」
「ま、待ってください。只でさえ少佐の機体はデリケートなんです! 融合炉のチェックもしないと……」

 

 だが、ガトーはそんなことは必要なしとばかりに愛機へと乗り込んでしまう。

 

「整備兵、ビームライフルの予備はないのか?」
「敵の増援で補給が火の車なんです。試作型は残っていますが」
「それで構わん。カリウス、着いて来い!」

 

 そうしてガトーたちは、整備兵の呼び止める声も無視して戦場へと舞い戻る。戦況は打って変わってジオン
の劣勢に成りつつあった。
 増援を得たユウキは全ての指揮権をウィラードに委譲し、残存艦をウィラード艦隊に合流したのだ。二つの
艦隊が合流したことにより艦艇、MSともに上回ったザフト軍は紡錘陣形にあったジオン艦隊を包囲し始める。

 

「空母だ! 空母を狙い撃て!!」
「何をしている! 敵艦隊へ攻撃を集中しろ!!」

 

 互いに指揮官の怒号が飛び交う中、至る所で激しい戦いが繰り広げられる。
 ザフトの意図に気づいたコンスコンは、直ちに紡錘陣を解いて艦艇とMS、MAを二分する。艦艇は空母の
防衛とMSの支援に徹し、周辺防御はMSとMAに任せる形をとった。これにザフトもMSを前面に押し立て、
艦隊を後方に配置してゆっくりと前進してくる。自然と艦対艦、MS対MSという構図が出来つつあった

 

「ザフトのためにっ!!」
「邪魔だぁぁぁ!!!」

 

 迫り来るハイマニューバを一刀の元に切り伏せるガトー。彼は戦友の死に少し頭に血が上っていた。

 

「たわいのない。こんな奴らにケリィは……」

 

 その刹那――。
 光の矢がガトーのゲルググに迫った。

 

「真上!?」

 

 警報を聞く前に機体を右に逸らして回避する。放たれたビーム砲の方向から、漆黒に塗られた機体が降下し
てくる。ザフトを代表するMSジンの改修機のようだ。しかし、ハイマニューバとは少し形状が異なっている。
分かるのは動きが間違いなくエース級であること。

 

「少佐、攻撃します!」
「いかん。ビスレィ、ダルシム!」

 

 カリウスが止めるも二人は仕掛けた。ジンごときザク改ならば対抗できると踏んだのだろう。マシンガンを
撃ちながら、左右から挟みこむように接近する。

 

「こんなひよっ子どもに!」
「!?」

 

 ジンは放たれた銃弾を余裕で避け、その姿勢のままで斬機刀を引き抜く。そしてビスレィ機に向けて機体を
走らせた。そのスピードは従来のジンはおろか、ゲイツすら凌駕している。

 

「我等の想い、やらせはせんわ!」

 

 両者が交差すると、後には真っ二つにされたビスレィ機だけが残った。

 

「う、うあああぁぁぁー!!!!」
「ダルシム、後退しろ! ダルシム!!」

 

 ガトーの声も聞こえていない。恐怖に駆られたダルシムが狂ったように乱射するがまるで当たらない。
 ガトーとカリウスが援護に入るが、全ては遅かった。
 ジンは躊躇せず斬機刀を振るう。

 

「隊長ぉーッ!!」

 

 そしてダルシムもビスレィ同様の運命となった。

 

「ビスレィ……ダルシム……」
「アナベル・ガトー!!!」

 

 無線に飛び込んできた声は、獣の咆哮を思わせる。

 

「ガトー、聞こえているだろう! 貴様が忘れても、我らは忘れはしない!!」

 

 聞き覚えのある声だった。いや、忘れようとしても忘れることの出来ない声だった。

 

「いつぞやの男か!」
「プラントには近づけん。それは墓標を落とされた我らにとって、屈辱なのだから!!」

 

 あのブリティッシュ作戦時、単機で自分に挑んできた男、サトーであった。

 

               *     *     *

 

「戦況はどうなってるんだ?」
「こっちが勝ってるに決まってるだろ!」
「でも、相手はジオンだぞ。裏切者も大勢いる」

 

 アスランはざわつくブリーフィングルームに入った。彼の部下たちが不安げに近づいてくる。
 まだ幼さの残る彼らは士官学校の訓練生だ。戦力不足からベテラン兵の多くをヤキンに置いたため、本国の
防衛は彼らのような未熟な兵で補わなくてはならなかった。

 

「ザラ隊長。我々も出撃ですか?」

 

 血気盛んな訓練生がアスランに尋ねる。

 

「落ち着け。命令が出るまで待機だ」

 

 彼らのような戦場を経験していない兵士は二つに分かれる。早く戦いたいと血気にはやるか、来るべき初陣
に不安になるか。アスランはそんな彼らの中で、赤い髪が印象的な訓練生に話しかけた。

 

「君はいくつになるんだ?」
「5月で15になります」
「まだ子供じゃないか……」

 

 ザフトでは成人を満15歳としている。士官学校も15歳にならなければ入学できないが、長引く戦況から兵力
不足を解消するためにその基準が下げられていた。

 

「失礼ですがザラ隊長はおいくつで?」
「16だが」
「二つしか違わないじゃないですか。それで子ども扱いはしないでください!」
「す、すまない」
「第一、女性に年齢を聞くのは失礼です!」

 

 気の強い子に話しかけてしまったなと苦笑いをした。
 そんな何気ない会話をしていると、兵士が慌てた様子で飛び込んでくる。

 

「どうした?」
「敵の増援がプラントに向かってきてます!」

 

               *     *     *

 

 突撃機動軍総旗艦“グワジン”ではキシリアがヤキンの戦況を見守っていた。
 彼女の艦隊は戦闘が行われているNフィールドとは真逆のSフィールドを進んでいた。彼女の突撃機動軍は
L1宙域に集結することなくグラナダから侵攻した。ザフトの警戒網にかかることなく、秘密裏にL5宙域ま
で進んだ。そしてザフトの注意が宇宙攻撃軍に集中した際にプラントへ動き始めたのだ。
 当初は、回りくどいことをせず全軍をもってヤキンを攻略しようと発言していたキシリアも、こうまで見事
に策がはまるとは予期しておらず、作戦の成功に逆に驚いていた。

 

「ドズルも親バカとはいえなかなかやるようだ。私の手を借りないという自信は本物のようだな」
「ドズル閣下は虚勢を張るかたではありません」
「NTの勘というやつか、シャリア・ブル少佐?」

 

 キシリアの問いにシャリアは笑って違うと答えた。
 それがシャリアの本心かどうか図りかねたキシリアは話題を変える。

 

「ふむ。ところで、どうなのだ? 部隊は」

 

 彼女がこの日の為に作った隊――NT部隊を、着任早々シャリアに任せていた。隊員はフラナガン機関から
連れられたNTで、シャアと一緒にいたララァ・スンも加わっている。

 

「彼女たちとエルメスの組み合わせは絶大であります。ゲルググ一個大隊を優に勝るものです」
「ほう……それは凄いな」

 

 エルメスはNT専用として新技術のサイコミュを搭載した最新鋭のMAだ。ビットと呼ばれるビーム砲台を
装備したこの機体は、以前シャアが行っていたNT専用機の運用レポートを参考に作られている。有線式では
なく無線式のサイコミュの開発に着手したのである。

 

「NTの実戦部隊……いよいよか」

 

 今日までNTが実戦投入されることが少なかった。あまり成果の出ないフラナガン機関。実績を作ることの
できないキシリア。何れもギレンは揶揄し続けていた。
 それが今日変わる。NT部隊でプラントを制圧すれば全てが変わる。

 

「見せて欲しいものだな。エルメスの働きを……」

 

 その時、敵機襲来の報が届いた。キシリアはこれをハスラー准将の第六艦隊に任せると、一路プラントへの
艦隊を突き進めた。

 

               *     *     *

 

 ヤキン・ドゥーエ司令部では、パトリックらもまた敵艦隊を補足していた。彼らは愕然としてスクリーンに
映し出されたグワジンを見つめ、身動きすら出来ずにいた。
 何故ここまでの接近を許したのか。パトリックは憤怒に顔をゆがめる。

 

「おのれ!」
「議長閣下……!」

 

 うろたえるエザリア・ジュールが声をかける。ウィラードたちが戻ったことで戦況は優勢になる筈だった。
事実、機動艦隊は防戦に徹している。主力艦隊は些か猪突しているが、この勢いは今だけだろう。それも機動
艦隊を始末してからでも遅くはない。
 そんな折に二個艦隊の増援である。皆あまりのことに動揺しきり、まともに考えることが出来ない。そんな
一同にパトリックが告げる。

 

「ジェネシスを使うぞ」

 

 その声を聞いたエザリアらはうろたえるのも止め、一瞬、彫像と化したように立ちすくんだ。
 ジェネシス――それは最終決戦に備えて極秘裏に造られている新型兵器の名称だった。しかし、今回の戦闘
では諸事情により使用を見送られていた。誰もが実際に使うなど考えもしなかったのだ。

 

「御待ちください!」
「待つ必要などない」
「しかし……っ!」
「貴様には敵艦隊が見えんのか? プラントが危機に瀕しているのだぞ
「ですがジェネシスはまだ試射も行っておりません!」

 

 ジェネシスは現段階で完成はしているが、肝心の試射を行っておらず、理論上の発射は可能でも失敗すれば
ジェネシス自体が爆発する危険があった。

 

「それがどうした!!!」

 

 周囲の静止にもパトリックは意に介さない。

 

「試射を行う機会がなかっただけだ! 今、試射を兼ねて撃てばいいではないか」
「そ、それに迎撃に出た防空隊もいます。ジェネシスと敵艦隊の密集部を結ぶライン上には味方がいるのです。
退避を完了するまでには……」
「その必要はない」

 

 それでもパトリックは言い放つ。

 

「退避すれば敵にこれから撃つと教えるようなものだ。少々の犠牲には目を瞑る!」
「理には適っていますが……。で、では味方にこれから撃つとの警告を……」
「その必要も認めん!」
「で、ですが……」
「通信を傍受されたらどうする」
「ひ……」
「どんな手を使ってでもプラントを傷つけるわけにはいかん! あそこには我々ザフトを信じている民がおる
のだ。彼らのためにも、ユニウスセブンの二の舞は絶対に避けなければならない!!」

 

 この時参謀たちはパトリックの様子に抗う気力が失せた。そして理解した。もはやパトリックは議長として
の立場云々ではなく、只プラントを護るという一存のみで行動している。

 

「撃つのだ……今すぐにっ!!!」

 

 そしてジェネシスはその姿を現した。巨大な建造物が空間にゆっくりと姿を現したので敵、味方問わず驚愕
する。ジェネシスはその身の色を変え、本体内部で核兵器を炸裂させ、発生したガンマ線レーザーを一次反射
ミラーに照射した。その閃光は、敵の前に味方が度肝を抜くことになった。