_LP ◆sgE4vlyyqE氏_「因縁の終わり」02

Last-modified: 2007-11-30 (金) 18:42:58

赤く、紅く、アカク。彼の目の前に広がる光景は真赤に染まっている。
血の紅、炎の赤、僅かに残った生存者の血涙。

自らも自分の流した紅に染まっていたが、そんな事は本当に些細な事だった。
誰よりも真赤になってしまった愛する人に比べてしまえば、全て色褪せた

―――無色―――

「あ、あああああ」

また、奪われた。目の前で奪われた。
伸ばし合った手が届く瞬間に拡がった閃光が、再び彼の全てを奪い去った。

愛する人も、自分達を受け入れてくれた気のいい人達も、
全て全て全て全てスベテ

焼きついているのは、あの忌々しい青い機体に似た量産機が一斉に、
自分達の住むこのガルナハンを焼き払った姿。

”そうか。なら安心しろ。二度と会う事は無いだろうからな”

つまり、最後にあの男の言った言葉の意味は

「はははははははははは!!あはははははははは!!」

泣き笑う。哂いながら嘲う。何処まで俺は馬鹿だったんだ。
あの連中が自分の思う通りにならない事など許容する筈が無いじゃないか。
仲間にならないならいっその事殺してしまった方が安心だと、
そう考える方が自然に決まってるだろうが。何故そんな当たり前な事に
気付かなかった。何故再びあいつらに奪わせた。
何故何故何故何故何故

判りきった事を問う必要は無かった。大事なのは何故ではなく、
これからどうするか。

やる事は決まっている。

「キラ・ヤマトオオオオオオオオ!!」

家族と友を奪った男を

「ラクス・クライイイイイイイイン!!」

守ろうとした未来を蹂躙した女を

「カガリ・ユラ・アスハアアアアアアアアアアアア!!」

故郷を、家族を守らずのうのうと生きてきた女を

「アスラン・ザラアアアアアアアアアアアアア!!」

再び彼の想いを踏み躙った男を

「カナラズ………コロシテヤルカラナアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

炎と血に染まったガルナハンに、ありったけの怒りと、憎しみと、嘆きを込めた絶叫が響く。

「正気か?君は」
「自分が何に関して正気を問われているのかが判りませんが」

ベルリンにあるデュランダル派の拠点。そこで開発された新型の前で、
基地司令と研究者が言葉を交わしていた。

「スペックは認めよう。これが戦線に投入されれば、今までのように
敵の主力に尻尾を向ける必要すら無くなるかも知れん。だが、こんなモノ、
誰に扱えると言うのだね、君は?」
能力だけならば問題は無い。しかし、使える者がいないという問題があった。
「ザフトにいた、最高レベルの技能を持った者であれば扱えるレベルですが?」
「そんな人間がここにいないのが問題だと言っているのだよ私は!!」

過去、ザフトにおいてこの機体を扱えるような人間は彼が知る限り5人もいない。
裏切り者、敵を含めるなら数は少し増えるが、そんな連中が自分達の希望でもある
この機体に乗る姿など、想像する事すらおぞましい。

「済まん。少し取り乱してしまったようだな」
「いえ、気にしてませんよ。司令の気持ちも判らなくはありませんから」

研究者は、司令の要求に―――未だ最強を誇るストライクフリーダムやインフィニットジャスティス
を倒し得る最強のMSを作れ―――という要求に答えたに過ぎない。

2人はその機体を見上げる。
新型ブースト”エルメス”を戦闘機動に利用しようという無茶過ぎるコンセプトから
生まれた新型、否改良機。ZGMF-X425AEXデスティニーセカンド。

ミラージュコロイドによる分身機能、対艦刀、ビーム砲、パルマフィオキーナ等
オミットされた武器を除いたフラッシュエッジと、ビームライフル、
そして、両腕部に追加された三連装ビームマシンガンだけという、異常な偏り具合だ。
核エンジン搭載という点を考慮しても、進んで乗りたがる人間はいないだろうと思われる。

司令は判っていた。研究者が、誰を乗せるためにこの機体を作ったかは、一目瞭然だからだ。

「―――だが、彼は……シン・アスカは」
「殺された―――という話もありますね」

素っ気無い声で研究者は言った。

噂はあった。とある土地で起きた大虐殺は、ただ1人の男を殺すためだけに起こされた
プラントによる陰謀であるという噂が。

「まあ、私は死んだとは思ってません」
「何故かね?」
「彼は、フリーダム、ジャスティスと正面からやり合って追い詰めて、
それでもなお生き延びた男だからです」

それが当然だと言わんばかりの態度に、流石の司令も呆れるしか無かった。

「全く……技術屋という連中はどいつもこいつも夢見が激しいな」
「それは当然です。我々の仕事は夢を現実に変える事ですから」

研究者の夢は、自らの作ったMSが、最高のパイロットを乗せ、
戦場を蹂躙する事だった。デュランダル派を選んだ理由は至極単純。
もし、シン・アスカが反抗勢力に加わるなら、ここしか無いと
判りきっているからだ。最高のパイロットとして彼を選んだ理由は
単純。強さは無論の事、現在最強と呼ばれる英雄達に欠けているモノ、
一貫性という美が有ったからだ。

強さだけなら、勢力だけで決めるのなら、現時点で世界を支配する
プラント、オーブに行けばいい。ハードの組み立ても楽で、
人材も豊富だろう。だが、その人材が駄目だ。

誰も彼も、彼女から見ると美学が感じられない。
恩人も故郷も服を洗濯機に突っ込む程度の気軽さで
切捨て、利用し、蹂躙し、最後の最後で美味しい所だけを掻っ攫う。
それでは駄目だ。最後の最後まで自分を貫き通すような
人物でなければ、自分の最高傑作を託すなど到底できない。

それに、現時点の最強を叩き潰さなければ、意味がない。

ハードは作った。残りはソフトのみ。
揃う可能性は低いが、それだけで諦める気にはなれない。
簡単に諦めるようではこんな仕事はやってはいられない

「司令!!」
そこへ、1人の男が飛び込んできた。

「どうした?緊急事態か?」
「それが……」

彼の後ろから、もう1人やって来る。
その顔を見た瞬間、司令と研究者の顔が驚愕―――そして、歓喜に染まった――――

思惑は違えど、2人の想いは同じ。

彼らは夢にまで見た最高のカードを得た。つまりはそういう事だった。

「力をくれ……」

息は荒く、身体中包帯だらけで、今にも倒れそうだが、その目は

「あいつ等を地獄に落とせるだけの力を俺に……」

何よりもギラギラとした光を放っていた。

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