_LP ◆sgE4vlyyqE氏_「訣別」

Last-modified: 2008-10-19 (日) 08:15:51

「ああもうっ……一体何回叩きのめせば諦めるんだよ!!」
「ほんっとうにしつこい連中よね……」
2人は慣れた手付きで銃やらナイフを懐にしまった。

 

毎度毎度の恒例行事、つまりはクライン派の過激派による襲撃。
何度潰しても潰しても幾らでも沸いて来るし、むしろ増えて来ている。

 

それでも、彼らとてザフトのアカデミーで赤服を受け取り、最悪な
前線を経験した者達。そんじょそこらの連中が束になってかかったところで
どうにかできるほどか弱くは無い。というよりも、今まで来た連中が
ひよっ子ばかりという運もあった。中心メンバーは忙しくてそれどころじゃあないのだ。

 

「どうにかならないのかこれ……流石にこれ以上増えたら不味いだろ」
「いっその事MSでも強奪する?」
「そりゃ魅力的な提案だな……はぁ……」

 

ルナマリアの冗談ももはや冗談に聞こえない。というか、マジでそのぐらいしたい。
などと考えていたところで

 

「く……黒T………」

 

ルナマリアの足元で伏していた男が、とんでもない事を言い放った。
シンは、すぐ起こるであろう悲劇に対して目と耳を閉ざした。

 
 

「悪は滅びたわ」

 

正確に言えば、壊したと言う所だ。

 

覗き込んだ者以外も見ただけで判るレベルの
再起不能に追い込んだ赤い竜巻はようやく収束した。

 

「いや、この状況じゃあどう見ても俺らの方が悪だろ」

 

片や正義?と平和?のために英雄へと尽くす品行方正?な方々。
片や、目つきの悪い青年と血塗れのミニスカ女。

 

どちらが悪党に見えるかなど問う必要性が感じられない。

 

「ていうか、自分の女のスカートの中見られて何でそんなに冷静なワケ?」

 

”あ、やばい”

 

矛先が自分に向かいそうな状況であると気付いたシンの行動は早かった。

 

「その程度じゃ嫉妬しないさ。それ以上見てるからな」

 

と、なるべく余裕ぶった笑顔でのたまいやがった。
そう、流れた月日はラッキースケベだった少年を単なるスケベ男へと変えていたのだ。

 
 

安ホテルの一室で2人は寝そべっていた。

 

「けど、そろそろ本気であいつらどうにかする方法考える時期かも知れないな」
「それはそうだけどさ、方法がね……」

 

世界最大の宗教相手に2人の男女でどう対抗すりゃいいのかと。

 

「あの4人を消すってのは……逆効果だな」
「それこそ死ぬまで安息の無い日々になるわね」

 

生きる英雄よりも死んだ英雄の方が厄介だ。特に彼らレベルになると。
しかもそれ以前に、四六時中色んな連中の色んな方法でガードされてる
一応世界最高クラスのVIPに近付くような伝手も無い。
というか近付きたくも無い。

 

「あーあ、議長かレイがいれば妙案思いついたかも知れないのになあ」
「こっちは死人に口無しってヤツね……悔しいけど」

 

ああだこうだ言い合うが、やはり良案など出ない。
2人共裏であれこれ考えるよりも直接叩きのめす方が性分に合うタイプなので
それはそれで仕方の無い事かもしれないが……

 

「あーもうやめだやめ。明日の事は明日考えよう」
「そうね……シャワーでも浴びて寝た方がまだ時間の有用利用になるわ……ってあららら」

 

急に立ち上がった所為か、立ち眩みに襲われたルナマリアは、足元にあった荷物を盛大に
蹴り上げながら転んでしまった。

 

「大丈夫か?」

 

とりあえず、最初にルナマリアを助け起こし、そこから荷物の整理を始めたシンだったのだが

 

「何だこりゃ」

 

その手に握られているのは、1枚の映像ディスク

 

「え?シンの荷物じゃなかったのそれ?」
「いや、俺のじゃない。ルナのでも無いのか?」

 

2人が2人とも知らない荷物の存在。
とりあえず好奇心に負けた二人はそれを見る事にした。
いい暇つぶしになりそうだ などと思っていたそれが二人の運命を変える程の
物だったとは知らずに………

 
 

そして、プラントの一番偉いお方のいる、つまりはプラント官邸の議長室には
疲れ切った表情の歌姫議長がいた。

 

「退屈な重労働程面倒な物はありませんわね……」

 

表向き、笑顔と必要な場合の硬い表情をきっちり人前で使い分けるラクスではあったが、
本当の彼女はそこまでご立派な人物でもなかった。
仕事はしっかりこなすが、本当はブレイクザワールド直前のような、
使い切れない資産をゆったりと無駄遣いする、怠けた生活が恋しい。

 

「やはり政治家なんて若輩者がやる仕事ではありませんね。
あれなら子供達と遊んでいる方がよっぽど有意義な時間ですわ」

 

周囲の目が無い安堵感からか、彼女の支持層が聞けば絶望した後に自殺か、
殺しに来るような発言ばかりぼやく。

 

「どうにかこの生活から抜け出せないものでしょうか……」

 

だが、彼女の願いは思わぬ形で叶う事となった。

 

「ら、ラクス様!!大変です!!!」

 

それこそドアを叩き壊さん勢いで議長室に飛び込んで来たのは
彼女の腹心中の腹心でもある、ヒルダ、ヘルベルト、マーズの3人組だった。
机に突っ伏しただらしない姿を思いっきり見られたが、彼らはラクスの本性を
知っているので全く問題は無かった。

 

「とにかくテレビを!!」
「は、はあ。判りました」

 

3人に押し切られる形でテレビを付けたラクスの目が点になった。

 
 

『はあ……やっぱり戦争なんて馬鹿らしいですわ。
面倒ですけど、巻き込まれたからにはさっさと終わらせて
また元の生活に戻らないといけませんわね。ほんっとメンドクサイですわ~』

 

これは確か、アークエンジェルとフリーダムを使ってカガリを
誘拐した頃、私室でぼやいた時の様子だ。映像はまだまだ続く。

 

『はあ、わたくし達は何時になったらあの孤児院に戻れるのでしょう?』
『邪魔な連中潰したらすぐでしょ。面倒事はさっさと片付けるが吉だよ』

 

ああ、これは確かストライクフリーダムの初戦の後のお楽しみの後か。

 

それだけでなく、彼女の信者が知れば絶望して月を地球に落とすぐらいの
爆弾発言ばかりが放映されている。

 

無論、身に覚えのある物ばかり。

 

「現在プラントのあちこちで暴動が起きています!!ここは早く逃げるべきです!!!」

 

どうやら冗談抜きでクーデターでも起きそうな勢いらしい。

 

「まあ、何と大変な事でしょう。ならば善は急げですわ。キラと合流致しましょう」

 

心なしか、素晴らしく輝いた表情をしている。
とてもじゃないが、今現在プラント住人の殺すランキング1位に輝いているであろう
人物のする物じゃあない。もう、思いっきり今の立場を捨てて愛する男と逃げる気満々である。

 
 

一方、官邸内の私室同然の部屋でパソコンを弄りながらにぎやかし程度にテレビを付けていた
キラの行動は早かった。まず、自室と議長室までのルートの敵となりそうな人物を
スプリンクラーと落とし穴を利用した水責めにて排除。その後、隔壁を強引に作動させ、
安全を確保してから余裕を持ってラクスとの合流を果たしたのだ。

 

「キラ、何時の間にこんな仕掛けを………」

 

流石のラクスもキラの恐ろしいまでの準備の良さには呆気に取られていたようだった。

 

「いや、ラクスと違ってそんなに仕事無かったから暇つぶしに色々やってたんだよ」

 

いつか、こんな日が来ないかと思いながら ともつぶやく。

 

罠を仕掛けたりシステムを掌握したり非常時の敵味方になりそうな人間の選別をしたり、
暇つぶしにやるにしては物騒な真似をする辺り、世間で言われるような人物像とは
圧倒的にかけ離れている。

 

「じゃあ、とりあえず後はいつも通りに」
「ええ、逃げましょう」

 

走る。走る。走って走って走り抜く。今度こそ永遠の自由を得る為に。
だからだろうか。全力で走りながらも、息の上がる気配は微塵も無い。
それはコーディネーターだからとか、スーパーコーディネーターだからなどという理由ではない。

 

簡単に言うと、キラもラクスも”最高にハイってヤツだああああ”な気分で脳内物質とかが
溢れ出しそうな状態というだけの話。

 
 

キラの手回しにより、エターナルの占拠は既に終わっており、後は彼らが乗り込めばすぐにも出発可能だ。
だが、どんなに周到な準備をしようとも、それをすり抜ける予定外の事態という物は存在する。

 

たとえば

 

「この裏切り者おおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

運良くキラの掌握した監視カメラに映らない位置に潜んでいた兵士とか

 

だが、残念ながら彼らはこの程度のハプニングで落ちる程の凶運は持ち合わせていなかった。
アサルトライフルを構え、突撃してくる彼は、後ろからの銃撃により、戦闘能力を奪われた。

 

「後ろには気をつけるべきですね」

 

ま、頭に血が上ってるその状況じゃ無理でしょうけど と言いながらマーチン・ダコスタは男を拘束した。

 

そして、主を迎えたエターナルは発進する。
キラの搭乗するストライクフリーダムに先導されながら、管制官の声も無視して突き進む。
で、外に出た瞬間思いっきり囲まれた。

 

殆どが先の放送で頭がおかしくなるぐらい怒り狂った連中だ。
言うまでも無く、エターナルとフリーダムの姿を確認すると同時に、恐ろしい勢いで攻撃を開始した。
こうして、もう抑える必要も無く、これ以上抑える気も無い一人の男の怒りが爆発した。

 

「あのさあ……いい加減にしてくれないかな?被害者は僕達の方なんだけど?
勝手に持ち上げられた挙句自由奪われてプライベートは公開されるわ勝手に失望されていきなり殺されそうになるとか、
一体何なの?君ら何様のつもりだよ?」

 

元々、ここまで大きい事をする気なぞ無かったのだ。ギルバート・デュランダルを少しばかり
脅かして、あの日の襲撃の件の落とし前を付けさせて、あの紫ワカメの魔の手から姉と親友を
救えるだけで良かったのだ。それが周りの連中が勘違いして無茶苦茶な暴走を始めて、
気が付けば碌にラクスとも会えない退屈な日々。

 

「数だけ揃った程度で僕に勝てるワケ無いでしょ?」

 

遅い。全て遅すぎる。これだったらシンやアスランとタイマンする方が数千倍は恐ろしい。
機を見て、ミーティアと機体をドッキングさせ、軽く一蹴する。

 

「あー、すっきりした」

 

後に残った物は残骸だけ。それでもキラは一応、不殺は貫いておいた。
これ以上どうでもいい連中からギャーギャー言われる理由を作りたくないという
至極個人的な理由からではあるが。

 

こうして、キラとラクスは逃げた。
以後、プラントはそれでもラクスへの信望を捨てない者達と、愛しさ余って憎さ100倍と
なってしまった者達、そして少数のそんな事どうでもいい者達による大混乱の時代へと突入した。

 
 

オーブ、首長室。そこには現在の国家元首であるカガリ・ユラ・アスハと、その秘書を務める
メイリン・ホークがいた。恋敵である筈の2人がこんな関係になっている理由は1つ。
お互いの監視の為である。抜け駆けの無いようにするには、それ以外の方法が無かった。
おかげでオフの日もアスランの取り合いとならないように、3人一緒の行動と
なってしまっているのは本末転倒と言えなくも無い。その上

 

「決着……着くのかなあ」
「どうしたんです?代表」
「いや、今は何時も通り頼む」
「はあ、判りました。で、どうかしました?」
「いや、私達の決着ってちゃんと着くのかなあって思ってさ」

 

その発言に対し、メイリンは返す言葉を持たなかった。何故なら

 

「アスランがさ、そんな決断下せると思えないんだよ」

 

その言葉に、メイリンは沈黙を以って同意とした。

 

アスラン・ザラ。やると決めればやりすぎな領域のレベルでやるべき事をやるが、
そこに辿り着くまでの過程が酷くまだるっこしい男だった。

 

それに、2人共最近は何だか今のままな関係でもいいんじゃないかとも
思い始めている事もあったりはするがそれはそれで少し腹が立つ。
等と考えていたところで、首長室のドアが乱暴に開けられた。こんな真似ができるのは、
現在のオーブには1人しかいない。

 

「カガリ、メイリン!!不味い事になった!!!」

 

彼女達の想い人である、アスラン・ザラその人である。

 

「おいおい、アスラン。何だよいきなり……今は執務中だぞ」
「来てくれたのが嬉しく無い訳じゃ無いですけど、今は不味いと思います」

 

いつものアスランならここで「ああ、すまん」とか言って引き下がる筈だが、
今日起こった事態はそんな真似をアスランに許さなかった。

 

「俺達の関係が週間現在にすっぱ抜かれたんだよ!!」

 

2人の顔色が変わる。週間現在といえば、オーブでも有名なゴシップ雑誌だ。
この雑誌によって失脚、失踪した有名人は大勢いる。

 

そんなモノにすっぱ抜かれた内容は

 

「こ、これは……」
「確か前大戦の時にカガリさんがオーブに戻る前の……」

 

3人が、某都市のいかがわしいホテルから出る時の写真だった。

 

「これは……どうしよう……」
「随分古い物を引っ張り出して来た物ですね………」
「そんな事は問題じゃない!!判ってるとは思うが、こんなスキャンダルが
明るみに出た時点でカガリの政治生命は終わった。後は知る権利がどうだこうだ
言って俺達のプライベートまでズタズタにしようとするハイエナ連中に追われるだけだ!!」

 

このオーブという国、政治家に求められる物が能力よりもイメージ的な物の方が大きいのである。
でなければ、ウズミやカガリのようなお世辞にも政治家向けとは言えないような
者達が国のトップになどなれる筈も無いのだ。

 

カガリとメイリンが途方に暮れる中、アスランだけは違った。

 

「逃げるぞ。2人とも」

 

今のアスランに迷いは無い。逆境であろうがどうだろうが全て叩き潰すという気迫に満ち溢れていた。

 

確かにこの状況では本気になったアスラン程頼りになる者はいない。けど、だけど

 

((もっと違う時にその姿が見たかったなあ))

 

と考えてしまう女性2人の嘆息交じりの想いは決して彼女達の想い人には届かないだろう。

 
 

官邸の入り口前、そこにはマスコミという名の目の前の餌を貪る事しか考えない
ハイエナのような者達が集う魔境となっていた。

 

「2人はここで待っていてくれ」

 

返事も聞かず、アスランは1人彼らの前に立つ。
それと同時に、カメラのシャッター音、フラッシュが雨あられのように
彼に降り注いだ。

 

「納得の行く説明を(ry」
「裏切られた国民の気持ちをどう(ry」
「カガリ様と秘書のメイリン氏は(ry」

 

やはり自分1人で来て正解だった。こんな下衆共の前に彼女達を晒し者にする事はできない。
アスランは全ての声を無視し、懐からある物を取り出し

 

「全員これを見ろ!!!」

 

と、上に掲げ、それを地面に勢い良く叩き付けると、官邸の中に引っ込む。
そして、アスランの投げた物、つまりは特製の超強力スタングレネードが爆音と光を放った。

 

そして、落ち着いた頃を見計らって、アスランは2人を伴って堂々と正面玄関からの脱出を果たした。

 

「うわ、痙攣してるぞこいつら」
「意識も完全に飛んでますね……」

 

アスランを怒らせるのは辞めておこう。2人ともそう思わざるを得ない地獄絵図だった。

 

正に死屍累々の玄関前を通過し、アスランの車で官邸から脱出した後、
彼らはステルス機に乗り、アスハ家の隠し別荘のある島まで逃げた。

 

「これからどうしようかなあ………」
「オーブには戻れませんよね……かと言って他の国に行くって言うのも……」

 

流石に不安の色を隠せない二人をまとめて抱き寄せると、アスランは言い切る。

 

「先の事は判らない。だが、2人とも俺が守るさ」

 

甲斐性とか、そういう物では無いだろう。彼なりの責任感から出た台詞なのだろう。
3人の関係に決着はまだまだ付かないのだろう。けど、それでも

 

「そんな事言われたら……何も言えないじゃないか。この卑怯者………」
「アスランさん……貴方って本当に酷い人ですね……」

 

やはり、彼女達はこの優柔不断で、その癖変な所で格好いいこの男を嫌いはなれなかった。
その後、オーブでは氏族同士の権力闘争が始まるが、彼らにはもう全く関係の無い話だった。

 
 

そして、世界中が喧騒に包まれる中、2人の男女が疲れ切った表情で
公園のベンチに腰掛けていた。今、世界は議長がロゴスの存在を暴露した時と
同じぐらいの暴動の嵐が起こっていた。英雄のスキャンダルを見た瞬間、
民衆は彼らに思いっきり負けた軍への怒りが爆発したのだ。つまりは

 

『あんな連中に負けたのかお前ら!!この税金泥棒のクソッタレがあああああ!!!』

 

と言った感じで。

 

「何なんだろうな……これ」
「………さあ」

 

そのつぶやきは、たったあれだけで手の平を返したように
英雄への弾劾を始めた世界へ対するもの。

 

彼らが見つけたディスク、その中に収められていた物は、
英雄という幻想を木っ端微塵に砕いて、その廃棄物を川へとばら撒くような
それはもう酷い物だった。

 

何故、デュランダルが最初からこれを使わなかったのか。
それは彼らでも判る。デュランダル自身も、すっぱ抜かれればヤバイモノを
大量に抱えていたという事なのだろう。

 

人妻との不倫疑惑、ロリショタバイセクシャル疑惑etcetc

 

「結局、俺達の戦いって何だったんだろうな………必死に戦ったのに……あんな連中に負けた……」

 

今となっては全てが虚しい。ルナマリアにも、その気持ちは痛い程判る。
彼らが必死になって得た力など、神に愛された者達の気紛れの前では無意味でしかないと、
つまりはそういう気分になってしまっているのだ。

 

でも、それでも

 

「確かにさ、私達は最後の最後でズタボロに負けたわよ。
けど、それでも私達がやった事全部否定する事なんて無いじゃない」

 

例えば、止められはしなかったが、ブレイクザワールドの被害を最小限に食い止めたり、
連合に弾圧された人を助けたり、死の商人の親玉連中を潰したり、レクイエムから
プラントを守りもした。その結果が完全なる敗北であったとしても、
そこに至るまでの戦いは絶対に無意味なんかじゃ無い。

 

「他の誰が何と言おうが私はシンを、貴方の成し遂げた事を誇りに思う」

 

「ルナ………」

 

ああ、そうか。問う事自体が馬鹿げていたのか と。
ようやく彼は理解した。

 

確かに、多くを失った。一生忘れられないであろう悲しみも屈辱も与えられた。
だが、それでも自分にはこんなにも思ってくる人がいる。
こんな自分を自らの誇りであると、そこまで言ってくれる、大切な人が。

 

「ああ、そうか。確かに無意味なんかじゃ無かったよ」

 

負けただと?それがどうした。

 

「ルナが傍にいるもんな」

 

それだけあれば十分だ。苦しみと痛みの代価には十分過ぎる。

 

「真顔でそんな事言わないでよ……照れるじゃない」

 

忘れてはいるが、ここは天下の往来。
大っぴらに愛をつぶやくような場所なんかじゃない。

 

「そりゃ無いだろう、先に恥ずかしい事言い出したのはそっちじゃないか!」
「何よそれ、元はと言えばシンが不貞腐れてたのが悪いんじゃない!」

 

2人とも照れ隠しに、大げさに言い合って、どちらとも無く笑い出した。
ひとしきり笑った後、ルナマリアが自分と、そしてシンに言い聞かせるように、話出す。

 

「結局、背負い込むのが間違い。ザフトにいた頃とか、勘違いしてたのよ。
自分達は大勢を……いえ、世界を救えるとか。けどさ、見てみなさいって。みんな結局こんなもんよ?」

 

ルナマリアが、街頭テレビが映す暴動の場面を見ながら笑う。

 

「そうだな。俺達が意気込んでどうにかしようなんてお門違いだし、馬鹿らしいよな」

 

誰も彼も自分勝手なのだ。だったら自分達だって自分勝手に、自分達の幸せだけの為に生きればいいだけの話じゃないか。

 

「なんか色々すっきりしたよ」

 

それは憑き物が落ちたような、晴れ晴れとして表情だった。

 

「シンは考えすぎなのよ」

 

2人は、手を繋いで、歩き出した。そう、全てこれから始まる。

 

「そうだな。考えるのは俺達の未来だけにしとくよ」

 

そのまま、周囲を気にせずに、シンは愛しい人の唇を奪った。
そう、もはやどうでもいい。世界やら他人やら周囲やら、そんな物は
目の前の大切な人1人に比べれば余りにもちっぽけな物なのだから。