コードギアスDESTINY
第1話 雪原に木霊す声
旧ドイツ、首都ベルリン。
優雅な都市も、ここまでの戦争、そして巨大建造物であるユニウスセブンの落下による気候変動の影響から、大雪に見舞われ、瓦礫の山と化していた。
そこに現れた連合軍の容赦ない攻撃は疲弊していた市民をいとも簡単に潰していく。
戦争の被害者は常に一般市民である。だが、戦争の加害者もまた一般市民に他ならない。
報道に先導され、世論を煽るのは一般国民だからである。
「大丈夫か?ルルーシュ?」
「あぁ…少しばかり頭がぼんやりとするが、問題ない」
ルルーシュは、目の前でギアスにより自決した兵士から銃を奪うと、同時にアッシュフォード学園の学生服の上に、兵士の防寒着を羽織る。
「まずは敵戦力の殲滅だな…、あまり時間はないが…この数、ギアスだけでなんとかできるか…」
建物の影から敵の人型兵器と、歩兵を見る。先ほどの銃声でこちらに向かってくるものもいるようだ。
ギアスはいかなる存在であろうとも、その効力を発揮する。
だが、多人数であり、多方向、さらには目を見なければ力が出せないことが問題となってくる。
この乱戦の中では、それも難しい。
「ここはC.C.が囮になり、撃たれているところでギアスをかけるしか…」
「なんで私がそんな痛い思いをしなくてはいけない!!」
「どうせ死なないだろう」
「痛いことは痛いからな、それに…対戦闘用のものならいるぞ?」
「なに?」
C.C.が振り返った先にいたのは銃を握る、赤い髪をした女…紅月カレンの姿がある。
「か、カレン?」
「……」
カレンはルルーシュの前に歩いてくると、ルルーシュの頬を叩く。
大きい乾いた音がその場に響きわたる。
ルルーシュは、カレンを見つめる。
「…今ので、私に本当のことを話さなかったことの罰は許してあげる」
カレンはルルーシュを叩いた手を握り締める。
カレンにはゼロレクイエムのことを知らせなかった。
業を背負うのは自分達だけでいい。
カレンはいわば巻き込まれた存在なのだから…未来を生きてもらわなくてはいけない。そう、判断したのだ。
それは今でも間違ってはいなかったと思う。
「今度こそ、私はゼロではなく、あなたに…ルルーシュのために戦う」
カレンは強い目でルルーシュを見る。
「C.C.。どうしてカレンまでがこの世界に飛ばされているんだ?」
ルルーシュはカレンを関わらせたくなかったが、ここまできてしまってはそうもいかないだろう。
だが…どうして関係のない彼女までがここにいるのか。
「さぁな。ギアスに関わったからか、お前に対する執着心か…。
だが、これでお前も心強いだろう?感謝してもらいたいな。
カレンがここにきて記憶を取り戻したのは、私のおかげでもあるんだぞ?」
「記憶?」
「わぁ!!な、なにいってんのよ!言わないって約束したでしょうが!」
確か…記憶を蘇らせるには、一度、この魔女とのキスを受け、そして……。
ルルーシュはカレンを見る。
「なによ!その目は!もう一発欲しいの?」
拳を握るカレンにルルーシュは、どこか懐かしい気持ちを感じる。
アッシュフォード…そして黒の騎士団のときの和やかな場所での記憶。
今はなき、自分のいた場所…。
機動兵器の音が近づいてくる。時間はない…。
「カレン、歩兵の戦闘における露払いはお前に任せる。C.C.は負傷していない一般人を集めてくれ。
自分達が勝っていると思い込んでいるものを打ち倒す」
「はい!」
「任せろ」
この2人。
俺がいなくなっている間、ト部とともに騎士団残党を率いてゲリラ活動を行っていたと聞いた。
確か、そのときのあだ名は『騎士団の2人はプリキュア』といっていたそうだったが…。
―――
ネオ・ロアノーク、連合軍大佐はベルリン市内に前進するMS部隊を、灰色の空の下で、MSウィンダムに乗り、見下していた。
圧倒的な破壊力を持つ黒い巨大MS『デストロイガンダム』を見つめながら…。放たれる光に飲み込まれ炎上するベルリン市内。
「約束、破っちまったな。坊主」
デストロイガンダムに搭乗するMSパイロットであり連合軍の強化人間であるステラ・ルーシェ。
彼女を一度は奪還し、二度と戦わせないという約束を元にして返してくれたザフト軍、ミネルバのガンダム乗りパイロット…。
自分は、その約束を破り、彼女に戦いを強要させている。
作戦とはいえ…心を締め付けるものがあるのは当然だ。
願わくば、はやくこの作戦を終わらせることが出来れば。
『大佐、MSがこちらに接近中。到着までは10数分です』
最悪のタイミング…。戦闘とはこうも上手く行かないものか…。
「なるべくなら、坊主には見せたくはなかったが」
この状況でやってくるのは…間違いなくミネルバであろう。
ということは…あの坊主もくるというわけだ。
「作戦を急がせろ」
ネオは、命令を下す。いつかは罰せられるだろう罪を自覚しながら…。
しかし、そのネオに対する罰はすぐに襲い掛かることになる。
『隊長!味方機との通信が次々と途絶しています。歩兵ですが…』
まったく予期していない言葉にネオは驚きを隠しきれない。
「なに?間違いじゃないのか?まだザフトはきていないぞ」
『はい、ですが…歩兵部隊とは通信が途絶しており、現場にMS部隊を向かわせています』
「妨害電波かなにかもしれない。こちらの戦力もそっちに送る」
まさか…ミネルバとは別のザフト軍がいたというのか?
ここの防衛部隊は壊滅させたから、それはない。
それともゲリラ?ゲリラにしては行動がはやい。
いや、この場合は遅いということか。ここまで都市部にダメージを受ける前にゲリラなら行動しているはずだ。
「嫌な感じだな…こいつは」
ネオは、言い知れぬ不安感に襲われ、先ほどの地上に降りたMSパイロットに、現場の状況を問うため、通信を送る。
「ネオ・ロアノーク大佐だ。状況を報告しろ」
『……』
「おい!聞こえているのか?こちら、ネオ・ロアノーク…」
なんってこった。MSパイロットからの指示も途絶した!?
なにがどうなっている…。こっちの戦力は圧倒的だ。
さらには、ザフト軍は壊滅状態。抵抗勢力もデストロイを前に圧倒されている。
こんな状況下で一体、何が起こっているというんだ。
ネオは、自分から戦況を見定めるために、護衛数機とともに地上の状況を探るため、デストロイのいる前線まで接近する。
あたりは炎が上がり、煙が高らかに空に上っていく。
作戦は順次上手くいっているように見えるが…。
「!」
地上から放たれたビームライフルが、MSの肩に被弾する。
撃った相手を視認する。やはり、敵がいたのか?ゲリラなのか?
しかし、そのネオの推測は間違っていた。それは味方の機体である量産型のウィンダムである。
「なに?!おい!パイロット、俺は味方だ。なにをして…」
ネオはそこで、おぞまし光景を見た。味方同士が攻撃をしているのだ。
まさに常軌を逸した状況である。敵にMSが奪われたとしか考えられないが…。
こんなことがないように、MSには各々が自分の機体の暗証コードをつかっており他人が奪って搭乗できないようになっているはずなのだ。
「なんなんだ…これは」
『ネオ!味方が、味方が私を撃ってくる』
ステラの声…どうやらステラは大丈夫のようだ。
攻撃してくるのは先ほどの歩兵を捜索にあたったMS隊か。
「各員に告げる。攻撃してくる我が軍のMSは敵に奪取された可能性がある。攻撃を許可する、各自撃破しろ」
こんな無様のことがあってたまるか…。
『ネオ…怖い、怖いよ』
「大丈夫だ。ステラ…お前は強い。俺がついている。こんなことでやられはしないぞ」
『う、うん…。ネオがいてくれる。それに、私は強い。私は…負けない!』
不安を与えてはいけない
ステラのブロックワードである死は…彼女の精神を崩壊させる恐れがあるからだ。
残念ながら、既にそれがなくとも…強力な強化により、危ない状態ではあるが。
瞬時、爆音が地面から響きわたる。
『きゃああああ!!』
ステラの悲鳴が響く中、雪の粉末が空に舞う。
ネオが見たのは、落とし穴だ。雪で隠していたのだろう。
デストロイの片方の足が雪に埋もれていく。抜け出そうと暴れるステラは、むちゃくちゃな操縦をして巨大な閃光をあちこちに放つ。
それはベルリンの街をさらに廃墟と化していく。
射線上にいたMSの爆発音があちこちで起こる。
雪というのは、軽いように見えるが、量によっては、かなりの重さとなる。
雪に埋もれ、足をとられたデストロイは、自力での脱出が困難となる。
「落ち着け!ステラ!」
そのネオの声も今やステラには届かない。
『いやあぁあぁ!!』
デストロイは完全にバランスを失い、大きく横に倒れる。
巨大なMSであるデスロトイはその巨体であるが故に、バランスが非常に不安定である。
バランスを保つための巨大な足がついてはいるが、足に対する防除は胴体と比べて貧弱といえる。
普通のパイロットならばMSのコクピットを狙うのが定石であるのを逆手に取った形だ。
巨大な地響きと供に轟音を鳴り響かせて、デストロイは雪の中に横に倒れて、雪の中、自らの重さで自沈していく。
「手の空いているものでデストロイの救助、最悪パイロットを助け出せばいい!」
ネオは、身動きの取れないデストロイに近づこうとするが、そこでレーダーに反応を見る。
ザフト軍、そしてザフト軍エースが乗るMSインパルスである。
「くっ…このままじゃ、デストロイがいい的になっちまう」
救助を断念し、迎え撃つことになるネオ。
ステラの声が聞こえなくなったのが心配だが…。
機体の損傷は少ないことから倒れたことによる衝撃で通信が損傷したのか…。
「こいつら、よくもぉぉ!!」
ザフト軍のMS、インパルスに乗るシン・アスカは、ベルリンの街の凄惨な状況を見て、怒りを露にする。
駆けつけたシンは、早速、連合のウィンダムを横に真っ二つにして撃破する。
『シン!なんだか様子が変だ』
それはシンとともにやってきた同じくザフト軍のレイ・ザ・バレルである。
彼の操るMS、ブレイズ・ザク・ファントムがあたりを見回す。
そこで見られたのは、連合軍同士が戦闘していること、さらには圧倒的だといわれていた敵の巨大MAが既に倒されているということだ。
「どうなってんだ?これは!」
『それはこっちが聞きたいな』
シンのインパルスの前に現れるネオ。
「あんたは!?」
シンは、その相手の声で、すぐにそれが、ステラを受け渡したときにいた仮面の奴だということを知った。
『…まず、坊主には謝らなくちゃいけないことがある。あの黒い機体に乗っているのはステラだ』
「なに!?お前は!!」
約束だった。
ステラを戦場のない場所に渡すこと…。
優しいステラに戦場は合わない。戦場は彼女のいていい場所じゃない…
無理矢理戦わす兵器であってはいけないんだ。
『怒られて当然の事をしていると思っているよ。恨んでくれていい…
ただ、これが戦争なんだ。現場だけではどうしようもないことが…』
「そんな大人の理屈!」
シンは、闘志をむき出しにして、ネオに襲い掛かる。
ネオはその勢いに押されて、後退しつつ、味方の機体の援護を受けてシンに攻撃をする。
先ほどの味方の攻撃の謎の反逆もあったせいか、こちらの数も予想以上に減ってしまっている。
ザフトに与えた打撃も大きいが…。
『シン!ここは、俺に任せろ!増援もすぐにくる…、お前はあの子を助けろ』
シンの前に入るレイ。
レイは敵のウィンダムをビームライフルで吹き飛ばす。
「だけど、レイ!お前が…」
『フ…、俺を信じろ、シン。行け!』
「わかった。死ぬなよ!レイ!」
シンはレイに言われたとおり、雪の中、倒れているデストロイに向かう。
ステラがそこにいる。
もう戦場にいかせはしない、戦場に、つれては行かせない。
俺が、俺が守るから…。
そんなシンの目の前で1つの光の閃光が天から降り注ぐ。
シンの眼前で、デストロイは撃ち貫かれた。
巨大な閃光がベルリンを明るく照らす。
シンは、そこでフリーダムを見つけた。
様々な戦闘に介入しては場を混乱に陥れる存在。
そして…今度は、今度はっ!!
「ステラぁあああああ!!!」
悲痛な絶叫がベルリンの灰色の空で、木霊していく。