コードギアスDESTINY
第10話 決意
「急いで医務室へ…」
シンの口には酸素マスクが取り付けられ運ばれていく。
それを追っていくルナマリアとステラ。
二人を見送りながら、慣れない無重力にカレンは水泳で泳ぐようにして動いている。
カレンだけでなくルルーシュ、ラクシャータも無重力体験は初めてである。
このような体験をするのは、今は不謹慎だが楽しいというものだ。
「こんな壊れたの、よくもってきたね~誘爆したらどうするつもりだったんだい?」
早速、修理班が、ディスティニーの修理のための解体を始める。今のままでは危険で手が出せない。
ラクシャータは無重力になれていないせいか、カレンから見て逆さになりながら話をしている。
「アハハ…。すいません。だけど、紅蓮は完璧でした。ありがとうございます」
「とーぜん。私の設計にミスなんかないよ」
ラクシャータはカレンに笑顔で言うと、改修するほうの指揮に回る。
カレンは報告を兼ねて、ブリッジにと向かった。
「どういうことだ、カレン!」
案の定、怒られることとなったわけだが…。
「仕方が無い状況でした。私達は敵に張り付かれ帰還できない状況でしたので、敵機を助ける代わりに見逃すという手段でしか…」
「それが、俺たちを危険に晒すことになったとしてもか。しかも医務室まで借りて…。俺たちは戦争をしているんだぞ?敵を倒すためにやっている!」
「わかってる。わかってるけど…、目の前で死にそうな人を見殺しにはできない」
ゼロ=ルルーシュは、敵を助けるようなお人好しであるカレンを追い出そうかと考えたが、それを告げようとする前にC.C.が言葉を出す。
「いいじゃないか。敵は最新鋭のMSパイロット。MSとパイロットがこちらにある以上、ザフトの戦力はそがれたと考えるべきだ。それにステラを助けてくれもしたしな」
カレンは思わぬ助っ人に裏があるように感じてしまう。
「…その元凶であるアスランや、オーブの民衆のように裏切られるかもしれないぞ」
アスランの行動やオーブの人間達の行動。
アスランに関しては突然だった。
無言で切りかかるアスランに、ステラは反応しきれなかったという。
「あいつ、元々アークエンジェルのメンバーだったのだろう。だったら奴らが現れたことで裏切ったんじゃないか?」
「あぁ、そうかもしれない。だったらそれと同様に、今のあの2人もミネルバがくれば裏切るかもしれないだろう。
ならば今のうちに手を打つべきだ」
「ギアスを使うか?」
「…」
カレンとC.C.はルルーシュを見る。
「……」
ルルーシュはそんな2人の目を見て、少し間を置き
「……話をして、それ次第だ」
ルルーシュは渋々、決断し己の感情に流されないよう努める。
そのためにいるC.C.とカレンである。
さらにいえば、前の世界でのユーフェミアのようなギアスによる凄惨な被害者を食い止めることも必要である。
ギアスは便利な道具ではない、己の精神をも蝕む、この諸刃の剣を抑える必要がある。
―――
医務室では手術が行われており、シンの容態を確認していた。
運ばれていたときは意識を失っていたようだが…。
手術中の赤い明かりはともされ続けている。
その前で待つステラとルナマリア。
「…シン、私を守って…こんなことに…」
ステラは自責に念に駆られてつぶやく。ルナマリアはそんなステラのほうを見て
「自分のせいにするんじゃないわよ!シンは、自分で…勝手にやっただけ。あなたは何も悪くないわ」
ルナマリアは、ステラを見つめ怒鳴る。
シンが自らの命をかけて守った相手…。
今まで、誰かを倒す、その相手がフリーダムであり、アスランであった人が、守った唯一の人。
「…」
きっと、シンは彼女を自分の妹のように思っていたんだろう。
だから守りたかったんだ。彼女が連合にいたときも必死になっていたように…。
なら、シンはこれから、どうするんだろう。ザフトに戻るんだろうか。
「お姉ちゃん…」
その声に振り返るルナマリア。
それはシン同様、愛してやまない大切な家族…。
「メイリン!!…バカ、心配…したんだから。お姉ちゃんを、1人にしないでよ!」
「ごめん、ごめんね…お姉ちゃん」
メイリンと再会を果たすルナマリア。
しっかりとそこに彼女がいることを確かめるように抱きしめるルナマリアは、そのぬくもりを、目を閉じて感じる。
「お姉ちゃん、シンは?」
「…今、中に」
「…」
それぞれが、シンを想う中で…シンは生と死の狭間にいた。
目の前に広がる光景。
ベルリンでの戦い…ステラ!?
シンはデストロイを操るステラを見つめる。
自分は、MSにも乗れず、ただそこで連合軍に悲鳴を上げながら殺される人々を見ていることしか出来なかった。
助けることも出来ない。目の前の子供もまとめて焼かれていく。
「やめろ!やめろぉぉぉ!!」
そこに現れたインパルス!?それはまさしく自分が乗っている。
なんで、なんで俺があそこに…!!
自分の操るインパルスは、まっすぐ、サーベルをデストロイのコクピットに貫く。
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫する中で、デストロイはステラの声と共に爆散する。
シンの手に残ったのは、ステラの亡骸だけ…。
動くこともぬくもりも感じられない。
豪雨の中、脱走したアスランと一緒に乗るメイリン。
「シン!奴らは敵だ!撃ち落せ!」
シンはそこでも見ていることしか出来なかった。
レイの言葉に自分とは違う自分がディスティニーを操り、そして2人が乗るグフ・イグナイデットを撃墜する。
「うわああああ!!」
アスランの絶叫と供に爆発する機体…。
さらには…ヘブンスベース…。
MSの大群、そしてローエングリーンの発射台の集中砲火を前にして、次々と味方機が撃破されていく。
「きゃあああああ!!」
「ぐわあああああ!!」
目の前で撃墜されるレイとルナマリア。
だが、自分は助けることが出来ない。助けられない。
目の前で見ているだけ…。そして、そのまま自分は戦闘に向かい、徹底的な攻撃を加える。
無抵抗の人間も、手をあげ戦闘の意思がないものもMSでサーベルで焼いていく。
「あ…あぁぁ!!」
シンは目を閉じようとするも、その光景は続いていく。
どうして…俺は、こういう世界をつくらないために、戦っているんじゃないのか!?
なんで…。
そうか…。
俺は、これと同じようなことをやってきたんだ。
守りたい人を守ろうとする一方で、守ることも出来ず、ただ人を殺しているだけ。
俺は、俺は!!
結局、マユと……マユと同じ被害者をつくっているだけなんだ。
戦争という無限ともいえる惨劇に身をゆだねながら、シンは己の居場所が分からなくなり始めていたのかもしれない。
だが、そのどろどろとした感覚から一転、誰かの手が腕を掴み、引っ張られる。
そこは…まるで海に漂う感覚…真上には、これでもかという青空が見える。
温かく…気持ちが落ち着く。
『お兄ちゃん』
忘れるはずも無い…それは愛してやまないマユの声。
二度と聞けることはないと思った声…。
自分の前に…マユがいた。あの最後の瞬間に見たときと何一つ変わらない顔のマユ。
「マユ…」
『…お兄ちゃん。会いたかった』
「あぁ、俺も、会いたかった…マユ」
『お兄ちゃん……今までいっぱい苦しんできたんだね』
「…俺は、誰も助けられてなんかいない。マユと同じ苦しみを持つ人をたくさん作り続けていただけ。
俺が思うマユと同じ人間をつくらないって言ったのは…結局、夢に過ぎなかった…」
『…』
「俺は、マユといたい。また前のように…一緒に…」
『…私は、お兄ちゃんを癒すための手も、身体も…何も無い。
こうやって、声をかけてあげることしか、今は出来ない。
だけど…、私はお兄ちゃんと、いつも一緒だよ?』
「…マユ」
『私はお兄ちゃんと苦しみも哀しみも一緒に受ける。
受けるから…、まだ、まだこっちに来ちゃダメ』
「……」
『お兄ちゃんのことを待ってくれている人がいる、お兄ちゃんのことを必要としている人たちがいる。』
「…マユは、厳しいんだな」
『お兄ちゃんが甘いんだから。いつまでも妹に頼ってばかりじゃ…みんなに笑われちゃうよ?』
「…また、くるよ。マユ」
『うん』
シンの気配が無くなる。
マユは腕で顔を拭う…。そう、私はお兄ちゃんといつも一緒、だから寂しくなんかない。
―――
「…強いな、お前は」
緑の色の髪の毛をなびかせながら、C.C.は笑顔で彼女につぶやいた。
「C.C.!!」
カレンの怒声にC.C.は眠たい目をこすりながらちーず君を抱えながら起き上がる。
「なによ!こっちは宇宙間戦闘用に機体を変えていて、寝る暇さえなかったって言うのに!」
ようやく解放されてクタクタなカレンはそのままゼロの関係者しかはいれない部屋の個室のソファーに倒れる。
「お前はルルーシュを守る楯だからな。私はあいつを刺激してやる針のようなものだ」
C.C.は倒れたカレンを見ながら答える。
「だからなんだっていうのよ…。あ~私もあんたみたいにグダグダな生活したいわ…」
「すればいい。今まで以上にスタイルが気になることになるぞ」
「だぁあああ!!うるさわいね!」
カレンは怒鳴りながらもよほど疲れたのだろう。
ソファーから動けない。
「フ…。お疲れさま…カレン」
その言葉がカレンにはもう聞こえていなかった。
寝息が漏らしつつカレンは眠りにつく。
少しばかりの安息だ。
再び目を開ければ戦いがそこにはある。
いかなるものも、逃げられない…。
ならば、どうすればいいか?同じ傷を負わないよう、やはり立ち向かうしかない。
目を背いたところで、何もかわりはしないのだから。
少なくとも、シン・アスカは…前を見た。
その先にある未来を…己の手で掴み取るために。
―――
デュランダルは戦いを終わらせるため、戦力を宇宙に上げることになる。
「…シンとルナマリアは未帰還か」
レイは悔しそうに拳を握り締める。騎士団の戦力を見誤った。
そしてシンの行動…まさか敵を庇うとは。
だが、あのステラという女が生きていたのだ。
仕方が無いことなのかもしれない。
「だが、このまま…放っては置かない、ギルの計画を実現させるために」
タリア率いるミネルバもまた、そんなレイを乗せて宇宙にと上がる。
一度プラントに戻り戦力を立て直してから、
騎士団とロゴスの部隊がいる月面ダイダロス基地に向けて攻撃を仕掛けるために。
「…君は、宇宙に上がったら、身を隠すといい」
デュランダルはミーアにそう声をかける。
本物のラクスが現れたことで世間は大きく割れていたが、アークエンジェルにいるラクスが本物という意見が強まり始めていた。
デュランダルは、ミーアを使っての大衆の力を使うことが困難になり始めていることを知り、今後は遣わない方針を固めていた。
「…私は用済みですか?」
ミーアは不安そうに問いかける。
デュランダルは顔を横に振り
「君には、戦後のために生きてもらわなくてはいけない。
ラクス・クラインとの戦いの中で、彼女を…こうは考えたくは無いが討つことがあるかもしれない。
もし、そのときがきてしまったら、君は、その後継者となるんだ」
「私が?」
「あぁ、そのときは…本当のラクス・クラインを君にあげることを約束しよう。だから、そのときのために身を隠していてくれ。安全な場所を用意させる」
ミーアは頷くが、アスランに言われた言葉がどうにも頭の中に残っている。
もしかして議長は、このまま私を…。そう思うと不安になる。
―――
オーブの艦隊もまた宇宙にと向かう…全ての戦いを終わらせるために。
「アスラン、よく戻ってきてくれましたね。あなたのための機体も用意してあります。これでぜひ頑張ってくださいね」
「ありがとう、ラクス。俺は…必ず、この戦いに勝って…」
「えぇ、すべては平和の歌を世界に届けるため…」
ラクスは微笑みながらアスランに告げる。
誰もが戦いを止めようと動く、誰もが戦いを争いを止めようと考える。
それを諦めるもの、認めるもの…利益とするもの、新たな力で止めようとするもの。
ラクスは、それらのどれもを否定する。
戦いは…終わります。
わたくしの手で、わたくしの歌で……終わらせて見せますわ。
そう…人知を超えた『ギアス』という歌で。