コードギアスDESTINY
第11話 ラクス・クライン
「プラント議長であったシーゲル・クラインの娘、ラクス・クライン…」
資料を見ながらゼロ=ルルーシュは、その姿を眺めていた。
魅力的なものではあるかもしれないが…。
この女が前の大戦を抑え込み、集結させたというのは、なかなか信用できないものだ。
「どうした?シン・アスカ、ルナマリア・ホークを尋問するんじゃないのか?」
C.C.が声をかける。
手術後、シン・アスカは目を覚まし、今はベットで安静な状況だ。
ルナマリア・ホークに関してもステラ、カレンを交代で監視としている。
「今はそれどころではない。月の軍備を合わせ、さらにはジブリールの指示の元で例の兵器を実戦配備中だ。
近いうちにザフトはここを攻め込んでくるだろう。その前に敵を崩せるところから崩しておきたい」
「…それで、様々な所に諜報部を動かしていたようだが、面白いものが引っ掛かったぞ」
C.C.は一枚の写真をルルーシュの前に出す。
それは帽子を被り、眼鏡をかけて移動するものの姿。
「ラクス・クライン?」
「その影武者に仕立てられた女のほうだろうな」
「…さて、どうするか。こんな簡単に所在がばれるようでは…」
ルルーシュはイスにもたれながら考える。
今更、このラクスの偽物に利用価値があるかどうか…。
どうせなら本物のラクス・クラインのほうに用があるのだが。
いないよりかは、あったほうがましか…。
それに、仮にもラクス・クラインを務めたのだ、デュランダルの近くにいた可能性はある。
情報収集は常に必要だ。さらには、これだけザルな警備。
他にもこの偽物に用があるものにも…あえるかもしれない。
無論、罠という可能性も考慮に含めなくてはいけないが。
「私が直接行こう。護衛を数人…ステラとカレンは置いておこう、もしもの場合に備えて、ナイトメアフレームに乗れるものは残しておくことが必要だ」
「では、早速行こう。あいつのことだ。知ったらついてくるぞ」
カレンが気がつくのは、これから一時間後のことだ。
「またC.C.の奴、ルルーシュ勝手にどっかにつれてったな!!ッヴァァカアアアア!!」
案の定怒鳴るカレンを見て、メイリンは笑い、ルナマリアとステラは顔を見合わせる。
―――
こうしてカレンを置いて、ルルーシュとC.C.は護衛を数人連れて、ミーアがいる月面の連合軍・ザフトどちらにも属さない、中立都市であるコペルニクスに乗り込むことになる。
勿論ゼロの仮面などは使うことが出来ないからルルーシュの素顔で向かうことになる。
こういうときのためではないが、ゼロというものは有名だが、ルルーシュというものでは、この世界では容易く様々なところに向かうことができる。
「久しぶりなんじゃないか?ルルーシュとして行動するのは」
「スザクは、こういったことは二度と味わえないわけか」
柩木スザクという立場を捨ててゼロという存在になったスザク…。
世界を壊し、そして創生するのはそれだけの覚悟が必要だ。
そのために、人殺しという傷をナナリーに負わせ、シャーリーたちも犠牲にしてきた。
「自分が選んだ道なのだろう?」
「…感謝しているさ。お前にも…そして俺につき従うカレンも」
「フ…、嫌な奴だ。今はカレンのことぐらい忘れさせてもらいたいものだな」
2人は、旅客機にて、偽ラクスがいるコペルニクスに潜入することになる。
その場にいる諜報員と合流。偽ラクスを確保する作戦が立たれた。
時間はさほどない。
なにせザフトの総攻撃が始まる前には、ダイダロス基地に戻り戦う体制を整えておかなくてはいけない。
後は…月面における最終兵器の完成が待たれるわけだ。
月面都市を見て、最初は驚いた。
このような地球環境を持ったものが月に存在しているということに。
これだけの科学力をもちえていながらも、人間は相変わらず、無益な戦いを繰り広げているのか。
いや、これだけの科学力をもっているからこそ、あふれ出す利益…。人間は宇宙に出るのは未だ早い存在なのかもしれない。
精神的に未発達な子供が、外に出たところで周りに迷惑しかかけない。
諜報員たちは既に偽ラクスを発見、敵に見つからないよう監視をしているところに合流するルルーシュ。
「敵の護衛は?」
「さほど見かけられはしないが…?ん、あの女、護衛から離れたぞ」
「なに?」
ピザを食べているC.C.から双眼鏡を取って、それを見る。
どうやら変装をしていた偽ラクスは、護衛にトイレといってレストラン内部に入り、そこで窓から逃げ出したようだ。
誰かに会いに行く予定でもあるということか。
このタイミングで会いそうな奴といえば…。
「部隊を集め、先回りをしろ!すぐに取り押さえる」
ミーアは怖くなった。
自分を守る護衛に言われたのだ。
ラクス暗殺に協力すれば、貴方の活躍の場が生まれる。
だが、それがなければ…あなたは存在する価値が無いと。
ラクス様はここにきている。私がわざと見つかるように…囮としてだ。
私はラクス様になりたい。あの優雅に歌を謡い、自分とは逆に輝かしい人生を歩むあの方に…、
だけど、そのために…私はラクス様を殺すことになる。
矛盾…だけど私はやらなくてはいけない。
私の存在をかけて。
そこは…公園だった。
周りを森林に囲まれながら、どこか昔のお城をイメージされた建物が残る場所…。
ここで…待ち合わせをしている。
そして、ここがラクス様殺害の現場となる。
「ミーア」
振り返るミーア、そこにはアスランがいた。
オーブ、ザフト、騎士団に流れわたりながら…その中で本来の居場所を見つけ出したのね。
偽物の私では、やはりラクス様の代わりは出来ない。
「大丈夫か?」
「えぇ…私は、なんとか隙を見て逃げ出してきましたから」
ミーアも視線はアスランにはいらない。
そう、来ているだろうラクス・クラインを探している。
「あなたが…、ミーア・キャンベルさんなのですね?」
「ラクス?」
出て行くことを押し留めようとしたキラとともに、建物の影から姿を現すラクス。ピンクの長い髪、そして透き通るような声…。
いつも鏡で見ている自分と同じ姿をするもの。
いや、鏡に映っているものは自分のほう。虚像、模写、コピー…。結局自分は成り代わることしか出来ない存在。
そう、今日、私はそれから脱却する。いつも隠れていた。自分の容姿に、自分の性格に。
誰からも受け入れられず、好かれない。
そんな私に議長は手を差し伸べてくれた。
私にラクスとなってくれと、言ってくれた。
嫌いなミーア・キャンベルは死んだ。
そして私は生まれ変わった。
ラクス・クラインに…憧れだった存在になれたんだ。だから…、私は。
「私は…ラクスをやめたくない!!」
ミーアは腰から拳銃を握りラクスにむける。
「ミーア!」
「くっ!」
キラがラクスの前に立ち、アスランはミーアの行動を押し留めるように大声を出す。
ミーアは拳銃をラクスに向けながらも、身体が震えている。
「かまいませんわ、キラ…」
自分を守るキラにどいてもらい、ラクスはミーアを見つめる。
「ラクス・クラインが欲しいのでしたら、差し上げますわ。
名前なんて、誰かを特定するためだけの仮初のものに過ぎませんわ。 人間を判断できる材料は、心ですもの」
ミーアは、目に涙を浮かべる。
どうして…どうして自分は、こんなにも劣等感を感じなくてはいけないのか。
拳銃を持ち、私のほうが明らかに有利に立っているというのに、ラクス様の言葉は、私をどれほど小さい存在かということを認識させる。
「私は、私は…」
その場で膝をついて身体を落とすミーア、拳銃を握っていた腕も力なく下がっていく。
「ミーアさん、人は、誰かになることなんか出来ませんわ。人それぞれ、その人にしか出来ない、その人にしか歌えないものがあるものです。あなたにだって…」
「イヤなんです。私…ラクス様がいいんです。ラクス様になれて、みんなに愛されて…幸せで…」
ミーアは自分が思っている言葉が次々と溢れてくる。
議長とともにいたときに抑えていた言葉。
ラクスに対する敬愛と嫉妬…。
「それは、あなたが愛されていることにはなりませんわ?」
「それでもかまいません…。どうせなら、ミーアでいたことの記憶をなくしてしまいたい」
「…わかりました。それでしたら、わたくしと共に来ませんか?」
「え?」
ミーアは顔をあげて、ラクスを見つめる。ラクスは優しい笑みを向けて手を伸ばす。
「あなたが、自分を見つけられるまで…わたくしと貴女でラクスを演じましょう?一役2人ですわ」
その優しい微笑み、ミーアはすべてを委ねてしまいたくなるほどだった。
これがラクス・クラインという名の光。
ミーアはラクスに手を伸ばし、彼女の手を握ろうとした。
そこで響きわたる銃声。
「!?」
キラとアスランがミーアとラクスを建物の陰に隠し、自分たちも隠れながら周りの様子を伺う。
どうやら公園の中で銃撃戦が行われている。
誰と誰が戦って!?
「…お初にお目にかかるな。ラクス・クライン」
それはゼロ。
黒き仮面を持ち、オーブを制圧し、今は月のダイダロス基地にいるもの。
悪魔・魔王、それらの言葉で表される一方でオーブを解放した救世主とも言われている謎の存在。
「そこの偽ラクスについてきた暗殺部隊は私がすべて処理した」
ミーアは何も知らないといった風に首を横に振る。
建物の影で、怯え震えているミーアを優しく包むラクス。
「出てきてもらおう?いるのだろう…」
ラクスはミーアを包んだまま姿を現す。その凛々しい姿は容姿が同じとはいえ、どちらが本物のラクスなのか一目瞭然である。
「あなたが…ゼロですか?」
ラクスを守るようにして立つ、キラとアスラン。
ルルーシュからしてみれば、アスランには裏切り者が、と怒鳴ってやりたいところだが…、
これ以上に裏切ってきた男を知っている身としては、深くは突っ込めない。
「貴女の、鶴の一声で戦局を変えてしまう手腕には脱帽したよ。
王が、いや、この場合はクイーンか、戦場に自ら出るところも感服するな。
王が動かなければ部下はついてこない。だが、お前の…その力はやがてこの世界に対する驚異となる」
「始まった戦いは、誰かが終わらせなくてはいけません」
「それがお前だというのか?お前達のやっている行為は戦いを無用に広げているようにしか見えないぞ」
―――
アークエンジェルの出現。
ベルリンでの戦いでも、もう少しでステラが殺されそうになった。
確かに、あの場合では戦火を広げるデストロイを倒すのは間違ってはいないかもしれない。
だが、彼らのようにどこの軍にも属さず戦いを納めようとすることは混乱しか生み出さない。
「私達は、今はオーブに属する軍として、この戦いを終わらせます」
「お前の自慢の歌声でか?世界の人間全てが、お前の歌声に聞き惚れはしない」
「いいえ。聞きますわ」
「たいした自信だ。ならば…」
ゼロが指を鳴らすと、前にラクスを包囲するように、ゼロの部隊が姿を現す。
ゼロの部隊は銃を握りラクスたちを取り囲む。
さすがのキラとアスランといえど、この人数ではどうすることも出来まい。
「この状況で、その貴様の力…見せてみろ!」
ラクス・クライン…この女はやはり、早めに始末しておくべきだな。
何事にも動じない、その覚悟といい…敵に回ると厄介だ。
「ラクス様…」
「…」
ラクス・クラインは包んでいたミーアを離し、前に出る。
キラとアスランは止めようとするが、ラクスは恐怖を感じないのか…動じない。
「いいでしょう、見せて差し上げますわ、これが…私の力です」
ラクスは、目からコンタクトを外す…その見せた目は赤く輝く。
周りが一気に赤いオーラに包まれる。
それはまさしく…ギアスの力。
「まさか…ギアス能力者!?」
「ルルーシュ、奴の目を見るな!」
C.C.がルルーシュを押し倒し、ラクスからの視界から外す。
ラクスは、ルルーシュ以外の兵士たちを見つめる。
すると兵士達は、ラクスに向けていた銃を下ろすと、ラクスのほうに背中を向けて、こちら側に銃を向ける。
ルルーシュは、ラクスの視線を避けるようにして、立ち上がる。
「これが、人々を惹きつける力の『裏』か」
「フフ…あなたもギアスユーザーなのですね。それなら納得いきますわ。この短期間にオーブを制圧、ジブリールもその手中に収めてしまった意味が」
ラクスは微笑みながら、ルルーシュとC.C.を見つめている。
ラクスはそのまま、先ほどミーアが握っていた銃を拾い、ルルーシュたちに向ける。
「形勢逆転ですわ。どうします?黒の騎士団ゼロ…、ここで舞台を退場してもらいましょうか?」
ルルーシュは、その突然のことに頭の整理が追いつかない。
この世界にギアス能力者がいるとは…、能力は?効果範囲は?
こちらのものが寝返った…ということは、
くっ…、わからない。
奴は何も口に出していないぞ!!ギアス検索は後回しだ。
それよりも…今は、この状況をなんとかしなくては。
このままでは…。