「コードギアス逆襲のシン」
あの時、父や母、そしてマユを失ったあの日、自分はこう思った。『自分に力さえあれば』と。
そして自分は力を手に入れた。友もいた。その力を糧にして『戦争がない平和な世界』を手に入れようとした。
純粋な何も考えていない馬鹿なガキの様に・・・力ですべてを薙ぎ払おうとした。
だが・・・自分は負けた。かつての上司に。自分が欲した力そのものに。
戦場でのアスランの言葉だ。
「シン! もうやめろ! お前が今守っているものが何なのか・・・・わかっているのか!?」
「わかっているさ、そんな事は!! でもあれは戦争のない平和な世界を作るために必要な力だ!!
デスティニ―プランを成功させるために!!」
「間違っている!! そんな力で・・・強制された平和で・・・本当に人は幸せになれるのか!?」
「だったらどうすればいいっていうんだ!? あんたらの理想ってやつで戦争を止められるのか!?」
「何!?」
「戦争がない世界以上に幸せな世界なんて・・・あるはずがないっ!!」
それだけ。自分が愛した家族、愛した人を失ったシンにとっての願いは唯一それだけだった。
その思いを胸にデスティニーで攻撃しても、∞ジャスティスは一向に応戦しようとはしない。
「なぜだ。なぜ本気で闘おうとしない! アスラン!!」
「それは・・・今のおまえの姿が昔の俺と似ているからだ」
「・・・・・・え?」
「俺はかつては母を殺された憎しみだけで戦いに身を投じた・・・。だからわかる! 今のおまえの気持ちが!!
自分の無力さを呪い、ただ闇雲に力を求めて・・・」
シンは唖然となった。裏切ったとばかり思っていた奴が、自分と同じだったということに。
アスランは言葉を続けた。
「だがなシン! その先には何もないんだ! 心は永遠に救われはしない!!
だからもうお前も過去にとらわれて戦うのはやめろ・・・。明日に・・・未来に目を向けるんだ!」
アスランの言うことは納得できた。だが、もう自分は戻れないところまできている。
やると決めた。選んだ道を、行くしかないのだから。
「あんたが正しいっていうのなら! 俺に勝ってみせろっ!!」
そして・・・シンは負けた。
月で手足をもがれたデスティニーは何も行動することもできず、ただ沈黙するのみ。
∞ジャスティスはとどめをささずに去って行った。
――アスランが正しいということを証明されてしまった。
シンの目の前が真っ暗になる。
『結局俺はだれも守ってやれなかった・・・』
ただの嘆き。無力感。手に入れた力は所詮、最後の最後で役に立たなかった。
『無駄だった。何もかも・・・』
“そんなことないよ・・・!”
『誰?』
背中越しに聞こえる声。綺麗な澄んだ声。自分に好きだと言ってくれた声。
“ステラ・・・シンに会えて良かった・・・”
『ステ・・・ラ・・・』
誰よりも守りたかった少女がそこにいた。天使の微笑みをこっちに向けて。
“だから前を見て。明日を・・・”
「――そうだな・・・ステラ・・・俺はまだ・・・生きている」
目を開ければ自分が願った世界がある。シンは自分の生を確かめた。
ゆっくりとメサイヤが落ちていく。
すなわち、議長たちが討たれたということだろう。
「生きている限り明日はやってくるさ」
「なあ、レイ・・・・・・。俺はどこに行けばいいんだろう?」
目の前が真っ白になった。
―――
「う、うぅん・・・・・・」
目にやわらかな夕日が差し込んできた。それに同時に鋭い針のような頭痛がした。
「大丈夫ですか?」
シンは横を見た。そこにはメイドが一人、優しそうな目を向けて座っている。
「ここは・・・」
「アッシュフォード学園だ」
シンのつぶやきに誰かが答えた。
白い天井に向けていた目線を横に向ける。背が高めの黒髪の青年がそこに立っていた。
「アンタは・・・・・・」
「ルルーシュ・ランぺルージだ。君、俺のクラブハウスの前で倒れていたらしくてな。ナナリー・・・俺の妹が君を見つけて咲世子さんがベットに寝かしたんだ」
「そうか・・・」
シンは生きていることを確かめ、明日を迎えていることに安堵する。
ベットの近くにある窓から差し込んでくる夕日が眩しく感じ、右手で日差しをさえぎる。
「俺は、生きているんだな・・・」
「ああ、そうだ。四日も寝てたんだ。ところで君の名前は?」
「俺は・・・シン・アスカ」
のどが渇いて、声を出すだけで痛みが走るので、蚊の鳴くような声でいった。
「よろしくな。シン」
ルルーシュが細くて長い手を差し出したので、シンはおぼつかない手で握った。
「よろしく・・・」
右手の感覚がしっかりしてくると同時に脳もはっきりしてきた。
――――アッシュフォード学園? そこはどこなんだ? ちょっとまて、俺はさっきまで月面に・・・。
「気付かれたんですか!」
ガチャリ、と扉が開かれ車いすの少女が部屋に入ってきた。
「ああ、ナナリー。彼はシン・アスカ。シン、紹介しよう。俺の妹のナナリーだ」
「大丈夫ですか、シンさん」
「あ、ああ」
さっきから状況がうまく飲み込めず混乱気味のシンだが、とりあえずルルーシュとナナリー、メイドの咲夜子が自分を助けてくれたのはわかった。
「ありがとう。俺を助けてくれて・・・」
「いえいえ。・・・・・・でもよかったです。ずっと寝ていてもう起きないんじゃないかと思うほどでしたから」
ナナリーという少女はずっと目を閉じている。車いすに乗っていることから、体が不自由なのが分かった。
少し、部屋が静けさに満ちたときに、それを壊すように電話の音が鳴り響いた。
咲夜子が少し急ぎ駆け足で取りに行った。
シンは考える。今感じているのは月の重力じゃない。どう考えても地球の重力だ。
「ここは地球なのか・・・」
「何あたりまえなことを言っているんだ、シン。ここは日本。今はエリア11という名だが」
(日本・・・エリア11・・・)
ルルーシュが言うにはここは地球の日本らしい。余談だが、オーブも日本の文化が強く根付いていた。
ルルーシュは深刻な顔をしてシンと面を合わせて質問した。
「それより、シン。君は何人だ? イレヴンか? ブリタニア人か?」
(イレヴン・・・? ブリタニア人・・・?)
その言葉が何なのかはわからなかった。だが、この質問はかなり重要な気がした。
二つの選択によって、自分の運命が変わるかもしれないことに。
「アスカ様、すみませんが、お電話です」
「・・・誰からですか?」
「いえ、本名は明かせれない、と。ただ、『フリーダム』という方だそうです」
『フリーダム』。
その言葉を耳にして、シンはベッドから跳ね起きた。