第3話 出逢…2人のステラ
唐突の宣戦布告。
プロフェサーOと名乗る謎の人物による宣言。
遺伝子組み換えによる、理想の人間による新たな種の確立と、旧人類の抹殺。
ナチュラル・コーディネイターなどとはまた違った人間を造り上げるつもりなのか。
『う、うわああああああ!!!!』
悲鳴をあげるオルガ。無茶苦茶な操縦で攻撃を仕掛けてくる。
「きゃあ!」
ルナマリアは、なんとか回避するが、暴走したオルガは、止まらない。
『俺は、俺はぁあ!コピーなんかじゃねぇ!俺は、俺はオルガだあああ!!』
その光景をただ眺めるレイ。自分も今のオルガと大差ない。所詮は複製である存在であるのだ。
ただ、自分にはしっかりとそれを認知する精神力がある。
「はあああ!!」
ステラが暴走するオルガの機体を切り裂く。
そのまま地上に落ちていくオルガ。人間は、こういったことを平気で行なうというのか。
生命を、こうも易々と勝手に作り上げ、ゴミのように捨てていく。
レイは操縦桿を握り締める。
「レイ、大丈夫か?」
シンが声をかける。レイは頷くとミネルバにと戻っていく。
澄み渡る青空の中、皆の心は曇り始めていた。
人間の果て無き欲望に深い怒りと悲しみを持って…。
研究施設では、大々的な宣言をして汗をかいたプロフェッサーが錠剤を複数、手のひらにおいて飲み込んでいた。
「…あんな言い方だと余計に、向こうは本気でくるんじゃないんですか?」
影に隠れている男は、プロフェッサーの先ほどの言葉に対して注意に近い言葉を告げる。
「いいの、いいの。向こうが本気じゃないと、こっちも実験の意味が無いんだからさ」
「…僕は、彼女が無事戻ってくるならそれでかまわない」
水槽の中、浮かぶピンク色の髪。それは、遺伝子技術により蘇ろうとしている本物の歌姫。
男にとっては、彼女が蘇ればそれで十分だ。他に必要なものなどない。
プロフェッサーの計画自体にも興味はない。
「わかっているよ。ボクにとっても彼女の存在は大切ですから…」
青白く光る水槽の中…その。かつての歌姫の形をしたものは、
今にも目が開きそうになっていた。
「今回の実験機αに乗っていたパイロットは、かつて連合軍にいた、ブーステッドマンである、オルガ、シャニ、クロトの三人であることが判明した」
三人は、連合軍戦艦ドミニオンに乗り、アークエンジェルを攻撃したが、全員が戦死している。
「その遺伝子を使い、複製を作り出したと?」
「おそらくは…。敵の言い分がどうあれ科学力だけは本物と認めざるを得ないわ」
「酷い。死んだ人まで戦わすなんて…」
ルナマリアは、タリアの言葉を聞き、オルガの最後を思い出して言う。
「…敵は、ただ単に複製技術だけを持っているだけではない」
「え?」
レイは前に出て、説明を始める。
「本来ならば、複製というのは、容姿などをコピーする外見のものでしかない。
だが、今回攻めてきた三人には記憶も同じものであった」
「そういわれればそうね。記憶までは複製でコピーは出来ないわ。ならば、一体どうやって…」
タリアはそこでステラを見る。ステラはレイの言葉に頷いて。
「うん。きっと…ステラがされたことと、同じことをやっている」
連合軍、ブルーコスモスが行なった強化人間による処置。
それは薬品による身体的強化と供に記憶における強化も施されていた。
記憶による催眠療法。
これにより、ステラもシンに記憶を消されたり好戦的な性格にされたり、処置を受けた。
「ブルーコスモスとザフトの双方の技術を持ち合わせているということか」
「あぁ。奴らはその気になれば遺伝子を持っているものの複製を記憶もそのまま…送ることができるということだ。
最初に攻撃を仕掛けたMSに乗っていたキラ・ヤマトのように」
そう、基地を襲ったMS。
それにのっていたのは癖からみてキラ・ヤマトだろう。
それまでもが複製ということになる。
その気になれば、アスラン、そしてシンも…。
「なんて奴らだ。急がないと…。艦長!」
シンはタリアのほうを見て、進言する。
「待ちなさい、シン。焦ってもそれは、敵の思う壺よ。あそこまではっきり言うということは、それなりの対策が既に出来ている可能性が高いわ」
「だけど!!このまま黙ってみているって言うんですか!?
今、俺達がこうやっているときにもでも、敵は複製を作り続けている可能性が高いんですよ。
そうなると敵の兵力は無尽蔵に膨らむ可能性だってあるんだ」
それが、優秀なパイロットなら尚更だ。
「艦長、今回の基地施設というのは、それだけの場所なのですか?」
ルナマリアが問いかける。タリアは、少し間を置いて
「私が伝えられている任務は基地施設における敵勢力の偵察および、排除。それしかないわ。
だから敵の狙いがなんなのか、施設に何があるかまでは、わからなかった」
「…随分といい加減なんですね」
「シン!そんな言い方しなくていいじゃない、艦長が悪いわけじゃ…」
シンの素っ気無い態度に、ルナマリアが強く言う。シンが焦る理由が分からないわけじゃないが…。
「いいえ、シンの言うことも、最もね。私は改めて上層部に報告して真意を問いただすことにするわ。
それまでは待機していて頂戴」
タリアはアーサーのほうを見て、すぐに連絡を取るように通信を送る。
シンは、壁をたたき、悔しそうな表情を浮かべる。
「シン…」
ステラは、シンの動揺を感じ取り、落ち着かせようと声をかける。
「…時間をかけている場合じゃないんだ!!」
そのシンの強い言葉に、ステラは驚いて、身をすくめてしまう。
「シン!」
「…焦るな、シン。それこそ奴らの思う壺だ。複製といっても、容易く行なえるものではない。
もし、奴らがそれだけの技術を持っているならば、基地施設奪取などということはしていないはずだ。
大きく言ってはいるが、それだけ、奴らもこの作戦にかけているということになる、今はできることからやっていくことだ」
ルナマリアとレイの言葉にシンは黙って、部屋に戻っていく。
「シン…私の事嫌いになった?」
「そんなことないわ。イライラしているのよ。シンも……」
ステラの不安気な表情を見て、ルナマリアはステラを元気付け、気が立っているだろうシンの部屋にはいっていく。
残されるステラ、レイ。
「…気にするな。ただ、何も出来ない自分に怒りを感じるのは仕方が無いことだ」
「レイもそうなの?」
「かつて、ルルーシュたちと戦ったときもそうだった。
焦りが俺を支配していた。だからこそ、今は落ち着いていられる」
ステラは、その懐かしい名前を聞いて、お守りとしている、かつて彼女が乗っていた機体の起動キーを握り締める。
自分が頑張らないと…シンを守るためにも…。
ステラは強い決意で艦内の廊下を走っていく。
「シン、あんな言い方しなくてもいいじゃない。ステラはあなたのことを思って…」
ルナマリアはシンを叱るように声をあげる。シンは振り返りルナマリアを見る。
「さっきの三人は、連合軍の強化人間だった」
「え?」
「…複製されている奴が連合軍からだとしたら…、次は」
「まさか…」
ルナマリアはシンの言いたいことが、やっと理解できた。
だが、そんなことが起こり得るのか、いまだに信じられない。
だいたいレイが、クローンだっていうのも、いまいち、想像として浮かばないのだから。
だが、そんなルナマリアに、1つ思い出したことがあった。
それは、爆破された基地で出会った、ステラと瓜二つの人物のことだ。
ルナマリアは、そのことをシンに伝えようとした…。
その時警報が鳴る。シンとルナマリアは、急いで格納庫に向かう。
その2人が部屋を出たときに、既にステラのガイアは出撃をしていた。
「…みんなを守るために、私は!!」
ステラの前に迫る機体。三機の機体だ…。
前回やってきた機体とはまた別の機体、そして、それはあの『キラ・ヤマト』が乗っていたストライクノワールと同じ形式の機体。
ただ色が白である。
「お前達に、シンはやらせない!!」
ステラはライフルを撃ちながら、三機を牽制する。
散開する三機、その中の一機が、サーベルを抜いて、ステラに突撃してくる。
ステラは、その目の前の一機に対してサーベルをむけ、ぶつけ合う。
激しいスパークが光る。
「うぅっ!!」
強烈な頭痛…。ステラは頭を押さえる。
(なんなんだ、これは…)
頭の中に別の人間の声がする。ブルーコスモスにいたときの頭痛に近い。
「声が…き、聞こえる?」
(誰だ、誰が喋っている!)
ステラは、その声が、目の前サーベルをぶつけ合わせているものからであることに気がつく。
そんなステラの後方からライフルで援護をするものたち。
「ステラ!無理をするな!」
シンの攻撃に鍔迫り合いをしていた、相手が離れる。
ルナマリアとレイは、距離をとる三機を見て、その動きに、あるものを思い出す。
それはルナマリアの嫌な予感が的中した瞬間でもあった。
「まさか…」
「…ルナマリア、気にするな。奴らは敵だ!」
レイはライフルを撃ちこみながら。距離をつめようとする。
敵は上手く連携しながらレイから距離を開けつつ攻撃を繰り返す。
相手を懐にとびこませないようにしている。
「ちっ!こちらの動きを見切っているのか!?シン!」
「うおおおお!!」
シンの操るディスティニーは、空たかくから、急降下してサーベルを振り下ろす。
上手く回避できなかった、一機の腕を切り裂く。
「やった!うわぁ!!」
だが、その切り裂いた瞬間、動きを止めたシンを狙う敵MS。
それを止めにステラが再びライフルを撃ちこみ、シンに狙いを定めないようにする。
(さっきから、なんなんだ!お前は!)
「くっ!お前こそ!!」
ステラの頭の中に轟く言葉…。まるで鐘の音のように響きわたる。
それが、ステラの操縦を散漫にする。敵のMSのサーベルがステラのガイアに突き刺さる。
なんとか回避するものの、ブースターが切られ、空中から落ちていく。
「しまった!」
『これでとどめだ!』
だが、ステラは相手にしがみつき、距離をゼロにすることで、敵の攻撃が行なえないようにする。
頭部のバルカンを放つが、しがみつかれ、
バランスを失った二機は、そのまま山岳地帯の、森林に落ちていく。
「ステラ!!」
シンが墜落したステラを追おうとした所、撃ってくる敵MS
「くそぉぉぉお!!」
シンは声をあげながら、ルナマリアとレイたちと供に、そのまま攻撃を続行する。
森林に墜落したガイアと敵のMS、森林というクッションと、
敵のMSにはブースターがついていたことから、真っ逆さまに落ちることが無かったことが、
2人のパイロットの生死を分けた。
墜落のショックに、耐えたステラは、コクピットをあけて飛び出す。
その手にはしっかりと銃が握られている。
「止まれ!」
後から響く声…。ステラは横目でその声の方向を見た。
そこでステラは目を見開く。それは、自分と瓜二つの存在。
まるで鏡に映った虚像のようだ。
「ステラ…?」
ステラは小声でぼやく中、相手もまた、思わず銃を落としそうになっていた。
「…ば、バカな。なぜ私が……うぅ」
再び強い頭痛が両者を襲う。
空中での戦闘の中…。
運命を違えた、二人のステラが交錯する。