sin-kira_シンinキラ_第04話

Last-modified: 2011-12-10 (土) 18:31:43

「ううっ!」
「気が付きました?キ…シンー! マリューさん気が付いたよ!」
「やあ、お目覚めで。手当てはしときましたよ」
「ありがとう…って、なんなのよ! これは! 早く解きなさい」
「暴れませんか?」
「暴れるわけ無いでしょう! あ、あなたたち! その機体から離れなさい! あれは軍の重要機密よ。民間人が無闇に触れていいものではないわ」
「やっぱり暴れる?」

 

俺はリスのように小首をかしげた。

 

「暴れないから! お願いだから止めさせてー! あれは重要機密なのよー!」
「わかりましたよ。みんなー! その機体から離れてくれってさ!」

 

みんながマリューさんのところに集まってきた。
マリューさんは涙目で俺達に懇願する。

 

「お願い! 協力して頂戴!」
「って言ってもなぁ」
「俺達も避難しなきゃなんねぇし」
「ああ、ここらへんのシェルターはやられてるか、一杯だったからな。他を探すなら急がないと」
「それなら! ここで待ってればいいわ!」

 

気乗りがしない様子のみんなにがっくりしていたマリューさんが、希望を見つけたように明るい顔になった。

 

「いざと言う時は、ここに連合軍の最新鋭艦が来る事になってるのよ!」
「そんなものまで作ってたのか!」
「カガリ、落ち着いて」
「あ、ああ。すまない」
「シンはどうするの?」

 

話を振られた俺は言った。

 

「やってもいいぜ。またザフトが攻めてくるかも知れないんだろ? ただ逃げるのって趣味じゃないんでね。ヘリオポリスは守らなきゃ!」
「ありがとう! シン君!」

 

……? ミリアリアが俺を見つめてる。

 

「ほんと、なんか、変わったね。男らしくなった気がする」
「そ、そうか?」

 

ちょっとやばいかな。あまり違和感持たれないようにしないと。

 
 

……

 
 

「ナンバー5のトレーラー……あれでいいんですよね?」
「ええそう…ありがとう」

 

結局俺達は、マリューさんに協力する事にした。
よかった。頼むぜみんな! ヘリオポリスが崩壊するかの瀬戸際だ。

 

「それで? この後はどうすればいいんです? 」
「ストライカーパックを装備して。そしたら、シン君もう一回通信をやってみて!」
「(確か、ストライクはウィザードシステムみたいので何種類かあったよな)ストライカーパックって、一種類しかないんですか?」
「いえ、3種類あるわ。ビームサーベルに高出力スラスターの機動性重視のエールストライカー、320mm超高インパルス砲にバルカン砲、ガンランチャー装備の砲戦用のランチャーストライカー、対艦刀にビームブーメラン装備で接近戦用のソードストライカー。今持ってきたのは砲撃戦用のランチャーストライカーよ。一応どれもビームライフルの装備が可能よ」
「コロニーの中じゃ、砲撃戦なんてできませんよ。エールがいいです」
「わかったわ。サイ君、赤いストライカーパックを持ってきて。急いで!ナンバー3のコンテナよ!」
「じゃ、俺はコクピットに戻ります」
「ええ、お願いね」

 
 

「こちらX-105ストライク。地球軍、応答願います。地球軍、応答願います!」

 

何回呼び続けたんだ。いい加減飽きてきた。

 

「シンー! エールストライカーって奴を持ってきたわよ!」
「ありがとう、ミリアリア」

 

ミリアリアはコクピットまで上って来た。

 

「でも、うまく考えたね。キラ。とっさに偽名なんて。連合軍だものね、用心しなきゃ。あー、あたしも偽名使えばよかったかな」
「気をつけろ、シンって呼べよ」
「はいはい、シン。……ふふ」

 

だってなー。キラって言われても即座に反応できんぞ。キラの記憶があるっていったって記憶じゃなくて知識って感じだもんなぁ。

 

「シーン! 差し入れだっ!」
「おう、サンキュ!」

 

カガリが缶ジュースを持って上がってきた。ある意味、気楽に話せるのがこいつだけになっちまうとは……

 

「ん?」
「どうした、シン?」
「…ちら…ク……ジェル……こちらアークエンジェル!」
「繋がった! こちらX-105ストライク。アークエンジェル、応答願います!」

 

次の瞬間、コロニー内に爆音が響き、大地が割れ、爆炎の中から一隻の戦艦が現れた。

 
 
 

着陸してきた地球軍の戦艦――アークエンジェルから黒髪のショートの髪型の女性が降りて、駆け寄ってきた。
朝に会った女性だ! やっぱり軍人だったか。

 

「ラミアス大尉! 御無事で何よりでありました!」
「あなた達こそ、よくアークエンジェルを……」
「……艦長以下、艦の主立った士官は皆、戦死されました。無事だったのは艦にいた下士官と、十数名のみです。
私はシャフトの中で運良く難を逃れました」
「艦長が……そんな……」
「よって今は、ラミアス大尉が最上級者であります。ご命令を、お願いします」
「……わかりました。奪われなかったこのストライク、なんとしても本部へ届けましょう!」
「ところで、この子供たちは?」
「ああ……ヘリオポリス工科大学の学生達よ。彼らのおかげで、先にもジン1機を撃退し、このストライクを守れたわ」
「それはお手柄です! さすがラミアス大尉!」
「いえ、その、この子達がOS改良してくれたり操縦してくれたのよ」
「この子供たちがですか!?」
「ここはオーブです。彼らの中に協力して操縦してくれたコーディネイターがいたのよ」
「ふむ、そういう訳でしたか。緊急事態であったからには仕方ないでしょう。感謝せねばなりませんね」

 

ほー、無事すんなり済んだよ。

 

「と言うことで、俺が操縦しました。よろしくおねいさん」
「あ、ああ! 今朝の!」
「やっぱり軍人さんだったんですね。似合いますよ。制服」
「あ、ああ、よろしくな」

 

――! 爆発音がした! 見上げるとシャフトの一部が爆発し、そこから一機のメビウスが飛び込んできた。それに続いてシグー!? この時期なら隊長機か。G強奪は確かクルーゼ隊…げ! まさかネヴュラ勲章受賞のラウ・ル・クルーゼか!?

 

「シン君! 直ちに迎撃して頂戴!」
「へーい」

 

俺は一転してヘドロのような重い気持ちでコクピットに向かった。

 

「無事でな! シン!」
「おう」

 

カガリも避難しに走って行ってしまった。
アークエンジェルからミサイルが放たれ始めた。敵のモビルスーツはそれをかわし……ミサイルはシャフトに当たってい
る! このままじゃコロニーが!
ああ! スクリーンでは、地球軍の戦闘機がやられたところだった。

 

「シン・アスカ、ストライク、行きます!」

 

俺は大地を蹴って飛び立った!

 

「さあ、見せてもらうぞ!」

 

ザフトで評判になっていたその力を! 相手は実弾兵器しか持っていない! たとえラウ・ル・クルーゼでも!
俺は気持ちを奮い立たせた!
シールドでシグーの重突撃機銃の弾丸を防ぎながら突進!
コクピットを狙ってビームライフルを連射!

 

「くっ、避けられた? なんだか、操作が重い……」

 

……鈍い。反応が、速度が鈍過ぎる。
そりゃそうだよなぁ。自分の意識じゃまだ今日、だよ。未来でデスティニー操縦してたのは。

 

さっきのジンとの戦いではさほど意識しちゃいなかったが、今の相手がその差を思わせるぐらいに手練と言う事だろう。
幸いこの肉体の反応速度は素晴らしいものの……なおさら機体の鈍さが感じられる。
なんでこいつ鍛えてねーのにこんなに反応はいいんだよ!? 今は自分の身体ながら、キラ・ヤマトに頼っているようで癪に触る。

 

それでもさすがストライク、あっという間に接近戦圏内にシグーを捕らえた!
ビームサーベルを抜き袈裟懸けに――

 

「……ああ、まただ!」

 

俺の想像したより一瞬遅く機体が動き、相手のシグーはふわりと沈み込むように下へと移動し紙一重でかわされる……

 

『シン君焦らないで! 倒すなんて考えなくていいから! 対応してくれているだけで助かるわ!』

 

くっ情けない! 俺の力はこんなものだったのか? 思い出せ!初めてジンに乗った時の感覚を!

 

「負けられないんだよ! マユに会うためにはなぁ!」

 

俺は頭の中が澄み渡る感覚を覚えた。
赤ブースト全開急加速! 反応の鈍さも計算に入れる。角度とか!

 

位置エネルギーも加速に変えた一撃は、見事にシグーの左腕を捕らえ、バルカン内蔵のシールドを切り裂き、シールドは爆発する!

 

「やったぜ! もう一撃!」

 

急降下から急上昇! 敵は巧妙にシールドの爆炎に身を隠しているが、今の俺には敵がどこにいるのかわかる気がする! 下からビームを連射!
爆炎が収まった時、シグーは右脚を失っていた。

 

シグーは完全に逃げの体勢に入って一目散に逃げていく。

 

「あんたみたいのは、今ここで殺らなきゃ!」

 

すぐに追尾しながらビームライフルを放つ! じりじりと距離が詰まっていく!
何射目かで左脚を殺った! シグーはバランスを崩しながらシャフトに潜り込む!

 

『シン君、ありがとう! 十分よ! 一旦戻って!』
「でも、あいつみたいなのはここで逃すと、もういつ殺れるかわかりませんよ!」
『こちらはストライク一機しかないのよ! アークエンジェルを無防備にはできないわ!』
「ちっ悪運の強い奴だ」

 

俺は涙を飲んで引き返した。

 
 

帰還し、コクピットから降りる。だいぶ汗をかいたようだ。べたつく汗が気持ち悪い。

 

「お疲れ様っ! シン! ほらタオルとジュース」
「ああ、ありがと、カガリ。気が利くな」
「私は、こんな事くらいしかできないからな。でも、お前、すごかったな!」
「へー。君みたいな子供がねー」

 

見知らぬ青年が声をかけてきた。

 

「誰ですか?」
「メビウスのパイロットさ。ぼろぼろにされちゃったけどね」
「はぁ」

 

俺は、疲れていた。カガリが持ってきてくれたジュースをぐびっと飲む。

 

「ぷはー、生き返る!」
「君は知らないかも知れないけど、君が戦っていた相手はザフトの英雄、ラウ・ル・クルーゼだよ? よくもあいつ相手にあんなに戦えるとはね」
「そうですか、やっぱり。逃がした事が禍根にならなきゃいいですが……」
「Gは結構使い物になるって事かな? しかし、俺は、あれのパイロットになるヒヨっこ達の護衛で来たんだがねぇ、連中はときたら……君と何が違うんだい? コーディネイターってそんなにすごいのかって思ってね」
「基本的なOSがだめだめでしたよ。後は、俺にはモビルスーツ操縦の天性の才能があった。そんなところでしょう。もういいですか? 疲れてるんで」
「ああ、すまないな、ゆっくり休んでくれ」

 

俺は、座り込むとあちこち破壊された空をぼけーっと眺めた。
なぁ、マユ。俺はこの空を守れるんだろうか?

 
 

◇◇◇

 
 

ヴェサリウス艦内

 

無様だ! 着艦などと言えるものではなかった。両脚、片手を失い、かろうじて着艦補助ネットに受け止められただけだった。

 

「隊長、ご無事ですか!? 早く降りてください!」
「ああ! わかっている!」

 

『クルーゼ隊長機帰還。被弾による損傷あり。消火班、救護班はBデッキへ』

 

機体から降りると、つい膝を突いてしまう。胸が酸素を求めてあえぐ。
なんなのだ、あれは! まるで次元が違う! ザフトの次期主力機として開発されたシグーとこの私を持ってすらこの始末とは!

 

「ヴェサリウスの動けるパイロット全員に招集をかけろ! すぐにブリーフィングだ! 奴を逃せばプラント百年の禍根になるかも知れん!」

 

 

「ブリーフィングを始める。言い訳はせん。大笑いしてくれてもかまわんよ。だがオリジナルのOSについては、君らも既に知っての通りだ。なのに何故! この機体だけがこんなに動けるのかは分からん。だが我々がこんなものをこのまま残し、放っておく訳にはいかんと言うことは、はっきりしている。捕獲できぬとなれば、今ここで破壊する。戦艦もな。侮らずにかかれよ!」
「は!」
「マシュー、オロールは直ちに出撃準備! D装備の許可が出ている。今度こそ完全に息の根を止めてやれ!」
「「はい!」」
「アデス艦長!私も出撃させて下さい!」
「ん? アスラン、君は機体が無いだろう」
「いいだろう、アスラン。機体は君が奪取したイージスを使え。君ならできるな? 確実に仕留めて来い」
「……は!」

 
 
 
 

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