ヴェルト・ジョイス

ネゲントロピー

ノベル「ネゲントロピー」の話
1955年10月22日
男は頭に袋をかぶせられ、どこかを車で運ばれていた
彼はΩ1、天命の貴重な実験体
届け先は帝国研究院第42実験室、受取人はアインシュタインと名乗る少女
Ω1はベルリンで起きた大規模な崩壊の唯一の生存者であり、目覚めた時、全ての記憶を失っていた
そしてその後の3年間多くの実験室を渡り歩き、世界のより多くの人を救うために必要だという耐えがたい苦痛を伴う実験を受け続けていた
Ω1がそんな地獄のような日々の中で正気を保っていられたのも、フールαと名乗る文通相手の存在があったからだろう
フールαの話す「聖女カレン」の物語は彼の心を支え、自殺を思いとどまらせていた
しかし、苦しみの日々は突如終わりを迎える
帝国研究院第42実験室のリーダーであるアインシュタインは過去を失った男にそのコードネームであるΩ1から文字を取り、『Welt』、世界を意味する名とモルモットであった過去を忘れさせる日々を与えた

ある日の午後、アインシュタインと共にイタリア料理店「コーヒーコンチェルト」で昼食を取り第42実験室に戻ってきたところ、エリアスというフィンランド人の男がアインシュタインに手紙を届けに来た
手紙にはなんてことはない穏健な内容と謎の記号が書かれていた、少なくともヴェルトにはそう読めた
しかしアインシュタインはこれを読むなり明らかにただ事ではないような反応を示し、急ぎアメリカへ飛ぶ準備を始める
アインシュタインによるとそこに書かれていた謎の記号は『アイダ』なる5万年前の計算機の本来の名を表しており、これが書かれていること自体が何らかのメッセージになっているらしい
支度を命じられたヴェルトは訳も分からないまま汚部屋で酒瓶抱えて寝ていたテスラを叩き起こし、ネグリジェ姿のまま出てきた彼女にぶん殴られたりしながら、一行はロンドンを後にした
この時、偽造パスポートに表記するためにユリシーズの作者から引用してジョイスの名字をもらい、フルネームは『ヴェルト・ジョイス』と決まった

アメリカ、モンタナ州、ビリングス
半日がかりで到着したこの街の空港には2人の出迎えが来ていた
プランク教授──アインシュタインとテスラの師匠にして天命北米支部の名目上のトップ、陽気でうわキツな17の倍数歳の淑女
シュレーディンガー博士──例の手紙の送り主、真面目でつまらないことしか言わない女性
その夜は歓迎会で伊勢海老が仔牛の金玉喰わされたり楽しいひとときを過ごし、そして翌日、一行はイエローストーンへ向かった

イエローストーンには前文明の遺跡があり、その調査が今回第42実験室の面々がアメリカまで呼ばれた理由である
ちょうど遺跡から出てきてテスラ博士を煽り倒して嵐のように去って行った男装の麗人はエジソン、アメリカ屈指の大金持ちで天命北米支部のスポンサーであると紹介され、ヴェルトにもこの遺跡調査の重要性が理解できた
しかしこの遺跡にはヴェルトから見ても不審な点がいくつか見られた
湖底に眠り水を抜きでもしなければ入れないはずの遺跡の中には破壊の跡があり、インディアンが設営したテントや旧式の銃、そしてインディアンの死体も遺されており、そして奥の部屋の天井には『H.A』なる人物が遺した謎かけが現在英語で書かれていた
アインが謎かけを解いたところ、どうやらここにあった何らかの研究について記された魂鋼がイギリスへ持ち去られたらしい
状況証拠からすると明らかに現文明になってからこの魂鋼を巡って武力衝突が起こったように思われる
とりあえず持ち出された魂鋼を確保するため遺跡の調査にはシュレーディンガー博士とフィンランド人を残してアインとテスラとヴェルトはイギリスへ戻ることにし、ついでに天命本部との折衝をエジソンから任されウィーンへ向かうプランク教授も途中まで同行することになった
飛行機の中、ヴェルトはプランク教授からある頼まれごとを受ける
H.Aの持ち出した魂鋼を狙っているのはおそらく天命、これからそれを追いかける2人は危険に曝される可能性があるからどうか守ってあげてほしい

ロンドンデリー、謎かけから推測された北アイルランドの都市には再び謎かけが残されており、次はロンドンのナショナルギャラリーに『レディ・ジェーン・グレイの処刑』なる絵画を探しにいくことになった
1928年のテムズ川洪水で水に浸かり、そのまま修復待ちで倉庫に放置されているというその絵は、しかしながら在りし日の美しい姿のまま残していた
それを可能にしたのが絵画の表面を覆う謎の透明な被膜、いや被膜として偽装された魂鋼だった
その魂鋼の抽出時、指示に従わず自分の身よりアインを優先したヴェルトにテスラが本気でキレ散らかす一幕もあったりもしたが、とりあえず無事目当ての魂鋼は手に入れられた
頭を冷やすために1人酒を飲みにいったテスラと別れ、帝国研究院第42実験室に戻ってきた2人はさっそく魂鋼の解析作業に入る
そして解析の鍵を握る存在としてアインがヴェルトに紹介してくれたのが件のアイダ、その正体は前文明のスーパーコンピュータだった
アイダの解析により魂鋼の中には映像データと暗号化されたデータが残されていることがわかった
映像データにはイエローストーン遺跡で撮影されたとみられるH.A、旧式の戦乙女制服を纏った傷ついた女性が映されており、そして持ち出された魂鋼が現在解析しているものではないことを語っていた
次なる謎かけは暗号化されたデータ、この暗号はアイダの計算能力をそれだけに割り振ったとしても解読に4週間かかるという
そう4週間の待ち時間、ヴェルトの帝国研究院第42実験室助手として与えられた一番の仕事は、こういった空き時間に2人の博士が楽しめるようもてなすことである
まあ空き時間とはいえアインは完全に遊び呆けるようなタイプでもない、問題は数時間前に怒らせてしまったもう1人の赤髪の方だ
とりあえずヴェルトは酔って帰ってくるだろう彼女を待つことにした

ヴェルトにとっても久々の待ち時間、その時間でヴェルトは届いていたフールαからの手紙を読んでいた
ハロウィンを間近に控え、天命本部では大主教の催した盛大な仮装パーティに皆が駆り出されたらしい
同封されていた写真には吸血鬼に扮したフールαが写っていた
ちょっとこの羅刹人いつにも増して格好よすぎるしお酒も入って少し緩んだ表情なんかえっちすぎるんだけど←お前の出番は別のノベルだ
酔いのまま筆を走らせたらしい手紙にはフールαの聖女カレンに対する熱い想いが綴られており、ヴェルトは少し彼の素の姿に触れられたような気がした

そうこうしているうちにテスラが帰ってきた
案の定酩酊していたテスラは「人呼んでお酒で途端におしゃべりになる博士！」などと自己紹介しながらヴェルトにダル絡みを続け、そしてまだ酒を飲むつもりでいた
4週間も空き時間が出来たと聞けばなおさら暴走は止まらず、何やらスケベ親父のようなことを言いながらヴェルトを夜の遊びに誘おうとする始末
ようやくテスラが眠りについたのは、騒がしい酔っ払いにブチ切れたアインが彼女の後頭部に辞書を投げつけて一喝した時だった
ん？…これ死…まあいいかァ！

翌日、午後に起きてきて昨夜の自分の破廉恥な様を煽られひとしきり赤面したテスラに連れられ、ヴェルトはハイゲイト墓地に来ていた
彼女は飲酒運転の罰則で奉仕活動を命じられて以来、毎週土曜にこうして墓地に来て猫に餌をやるのが習慣になっているのだという
既に傾き始めた日の下で墓地中の猫に餌をやるため2人は手分けし、ヴェルトは西側を任される
ふと1人の墓参者に目が留まった、ヴェルトは彼女に見覚えがあり、そして相手もまたヴェルトのことを知っていた
彼女はリアーナ・ブリガンティア、先のアメリカ行きで経由した空港でアイン達と話していた中年男性の護衛をしていた金髪の女性、そして天命のS級戦乙女
墓の主はマーサ・リリー・ジェイコブス、ベルリンで起きた崩壊に出撃し、1人生き残ったものの心を病み、自ら命を絶ってしまった少女
故人に祈りを捧げ、星が瞬き始めた空の下、ヴェルトはリアーナの助けを借りて猫の餌やりを終えたが、リリーの話を聞いて気分を沈めずにはいられなかった
しかし突如飛来した未確認飛行物体(テスラの最新作)をリアーナが脅威として破壊してしまったとすれば、静かに落ち込んでるわけにもいられないのだが
ヨアヒム・ノキアンビルタネン、あのフィンランド人の息子はよく父の職場である第42実験室に預けられており、2人の博士、特に遊び好きな赤髪の方はそんな少年のことを楽しませるためいつも持てる科学力を使って精一杯もてなしていた
ヨアヒムはそんな赤髪のお姉さんのことが大好きだった
時はハロウィン、この日テスラがヨアヒムに披露するのはロボットを使った悪戯、そして今そのターゲットは薄暗い墓地に1人マヌケ面を晒している……はずだったんだけどね……
というわけでテスラは自慢のオモチャを壊され怒り、リアーナはオモチャを修復不可能なとこまで分解してしまい申し訳なさそうにし、ヨアヒムはなんとか場を和ませようと気を使い、結局最後にとばっちりを受けるのはやはりヴェルトだった
しかしロボットをスクラップにしてしまった神の鍵とやらのことは気になる

その頃、アメリカではエジソンの指揮の下、シュレーディンガーとルイス・スローティンがある発電装置の実験を行っていた
この装置は実験室レベルの小規模なものだったが、それが発生させた熱エネルギーは文字通り世界の電力事情を一変させるほど膨大なものである
しかしそれすらもこの装置がもたらすだろう世界の変化の中では副次的効果に過ぎない
この装置は崩壊を消し去り、崩壊を必要とする天命の存在意義をも消し去り、人類に長く君臨する斜陽の国王からの解放をもたらすだろう
──昇れ、美しい月よ！妬み深い太陽の光を消してしまえ！自分に仕える乙女であるあの人の方が美しいと、怒り嘆き、両目を赤くしているあの太陽の光を消してしまうのだ！──
人類史上最も偉大な「民間」発明、その装置の名は『月光の玉座』(ムーンライト・スローン)

まだ

ヨアヒムを庇ってオットーの疑似誓約の十字架の攻撃を受け、その状態でミサイル撃墜のために力を解放したことでこれが致命傷となり、死去
ヴェルトの名と理の律者コアはヨアヒムに託された

アラハト

大型人型機甲アラハト、テスラ博士が開発を主導するこの兵器はしかし予算が足りず、その計画は廃案となる寸前だった
だが予算がないのであれば増やせばいい
アラハト開発の予算を転用して作られたアニメ『重装機甲アラハト』は空前の大ヒットを記録し、続編である『魔剣神機アラハト』や各種グッズの売上によって大元の機甲開発計画も順調に進むこととなった
そしてそれから40年後、公式からシリーズの名を汚す超絶クソゲーが販売されることになる
関係者が見れば一目瞭然ではあるが、このアニメアラハトシリーズの主人公と悪役はそれぞれヴェルトとオットーがモデルになっている
ページトップのセリフも崩壊世界ではアラハトの主人公の決めゼリフとして有名
エデンの星を使ってこのセリフを言おうものなら厨二病扱いは免れない、むしろこっちが本家に近いのに…
もちろんもう一方の当事者であるオットーがこのアニメを見て凹んだことは言うまでもない

三代目の理の律者へ

本編第28章の話
ムーンライトスローンの多重構築のため律者コアとの完全同期を図るブローニャの前に彼の幻影が現れる

ローズマリーの花詞イベントの舞台が彼の荘園だよ
興味があったら見て見てね