アンドレア・ドーリア

イタリア王立海軍の戦艦カイオ・ドゥイリオ級の2番艦。1912年に建造が開始され、第一次世界大戦中の1916年に竣工した弩級戦艦である。
起工そのものは姉よりこちらの方が早かったため、アンドレア・ドーリア級とする資料もある。元々はアドリア海を挟んで対峙するオーストリア＝ハンガリー帝国への対抗として建造された戦艦であった。
最大速度は21ノット程度と低速ではあったが、竣工当時は30.5cm主砲13門（連装2基、三連装3基）とイギリスの弩級戦艦エジンコートに次ぐ高火力を誇り、同じく13門艦であるコンテ・ディ・カヴール級3隻（うち1隻は爆発事故により沈没）と合わせて第一次大戦中のイタリア海軍の主力を担った。
戦後、超弩級戦艦の台頭により旧式化が否めなくなった本級だったが、それでも小改装を重ねながら主力艦として運用され、代替艦の目処がつき次第コンテ・ディ・カヴール級と共に退役へと向かう……予定だった。実際、1932年には同型2隻とも予備艦に指定され、あとは退役を待つばかりとなっていた。
ところが、オーストリア＝ハンガリー帝国に代わってイタリアの仮想敵となったフランスがダンケルク級高速戦艦の建造を決定したことにより運命が変わる。対抗策として設計されたヴィットリオ・ヴェネト級戦艦の竣工はどう頑張っても1940年。イタリア海軍は急場を凌ぐために練習艦任務に就いていたカヴール級2隻の近代化魔改造により対処することを決定したものの、こちらも終了予定は1937年。戦艦の空白を避けるため、カイオ・ドゥイリオとアンドレア・ドーリアは間に合わせとして急遽現役に復することになった。
カヴール級の改装が終了した後には再び退役話が持ち上がりかけたが、その時点でフランスはダンケルク級2番艦ストラスブール、さらにはヴェネト級に対抗するためにリシュリュー級の建造も開始しており、新規の建艦計画が追い付かないことを悟ったイタリアは、遂にカヴール級に続きドゥイリオ級2隻にも徹底的な近代化改装を施す決断を下す。
射角が狭く使い勝手が悪かった艦中央部の第三砲塔を撤去してスペースを確保し、それを機関出力強化に回した上で艦首構造も延長することで最高速度を21ノットから一気に27ノットまで引き上げ、下がった砲火力は砲身内部をボーリングし砲口径を32cmに拡大することで対応。これらは先立って実施されたカヴール級の改装に準じたものだが、副砲も新開発された砲塔形式の13.5cm三連装砲を搭載し、高角砲配置もより機能的なものに変更するなど細かい改善点は多岐に亘っている。さらには艦上構造物もヴェネト級の建造で得られたノウハウを惜しまず注ぎ込み最新の使いやすいものに刷新された。こうしてドゥイリオ級は時代遅れの弩級戦艦から『最新技術が詰め込まれた高速戦艦』へとジョブチェンジを果たした。
……ただし改装完了は1940年となり、第二次世界大戦開戦には間に合わなかった。また、これだけ肝煎りで改装工事が行われたにも関わらず、大戦中はイタリア海軍の燃料逼迫による艦隊保全主義のため出撃機会も多くはなく、目立った戦果は残せないままにイタリア敗戦の日を迎えることとなる。
しかし、同じイタリア戦艦のカヴール級残存艦であるジュリオ・チェーザレがソ連に賠償艦として渡されたり、新鋭のヴェネト級がモスボール状態から解体へと向かう中、アンドレア・ドーリアとカイオ・ドゥイリオは2隻揃って新生イタリア共和国海軍の戦艦として保有が許され、戦後も運用され続けた。1947年から49年まではドゥイリオが、1949年から51年まではドーリアが艦隊旗艦任務を勤め上げ、NATO演習にも参加して海軍の健在ぶりを内外に示した。
主力艦として誕生し、紆余曲折はあっても最後まで主力艦のまま地中海に君臨し続けた姉妹は1956年、老朽化により退役し、40年以上に及ぶその長い艦生を終えた。