くもだんなとかえる

Last-modified: 2021-12-17 (金) 18:36:06

検索してはいけない絵本。発売は1969年(昭和44年)。内容が、子どもが読む絵本としてはあまりに残酷として一週間で販売禁止となったそうだ。実際、この本を読み聞いた子どもがひきつけを起こしたという抗議があったとのこと。
作品は元々アフリカの民話で、松谷みよ子さんが取材して再話。絵は田島征三さんが描いていて、とてもダイナミックなタッチで威圧感がある。
実物は希少なためマニアの間では高額で取引されるらしい。

内容

(一部の文字を修正してお送りします)

――― 暗い夜を見つめながら、とある老爺は話しだした。
「クモ旦那は、たいした狩人だった。
クモ旦那にかかったら、どんな獲物も逃しっこなかった。と、いうのも、カエルがいたからさ。
どういうわけか知らないが、一体いつからそうなったのかわからないがクモ旦那はカエルを顎でこき使っていた。
まず、獲物をとる時がそうだ。クモ旦那は網を張って待っているだけだ。待っていると言っても、涼しい木陰でひっくり返っている。
ところがカエルはそうはいかない。あっちへぴょんぴょん、こっちへぴょんぴょん跳ね回っては、クモ旦那の網にかかるように 獲物を追い出す。
やっとこさ、獲物がかかると、クモ旦那はのそのそと出てきて
獲物をしばり上げる。そして顎をしゃくってカエルに言うわけだ。
『これを家へ持っていけ! ちゃんと料理をしておけ!そうしてオレ様のお帰りを待つんだぞ!』
『水を飲ませてくれ ひと口でいいだ。』
カエルは頼む
『アフリカのお天道は、特別あつらえだ、おらあカサカサに乾いただよ、このまんまでは燃えちまうだ、水を飲ませてくれ。』
『帰るんだ!』
そこでカエルはトボトボと、焼けつくような草原を歩いて家へ帰った。
家では、クモ旦那の女房が昼寝をしていたがカエルを見ると飛び起きて怒鳴った。
『火を焚くんだよ! 肉を炙るんだ! 腹が減ってペコペコなんだよ、そうだ、すぐ掃除をおし、薪は取ってきたの?なにをしてるんだろ、この怠け者め!あたしゃ眠いんだよ!』
かえるは、あっちへ跳ねて行っては怒鳴られ、こっちへ跳ねて行っては怒鳴られ、あんまり慌てて柱に鼻をぶっつけたりした。
こうして長い間、かえるは、クモ旦那と、その女房にこき使われていたがある日、突然
『なんでだ?なんでおらぁクモのいうことをへいこら聞いているんだ?』
と、思ったら、全くそれは変だと気がついた。
そこでカエルは、しばらくは目ん玉をパチクリさせていたが
なにを考えたか、料理場の肉の中に潜り込み、じっと隠れていた。
やがて日が暮れた。その日は雨だったから、クモ旦那は、雨で濡れた上に、腹を空かせて帰ってきた。
いつものつもりで、『おおい カエル、メシの支度はできているのか。』と怒鳴った。……返事がない。
クモ旦那は、カッとして、また怒鳴った。『ばかもの、うすのろ、どこにいるんだ、返事をしろ!かえるう。』
……それでも返事がない。
クモだんなは、わめきながら料理場へとびこんだ。
や、うまい具合に肉がある。旦那は肉をペロリと丸ごと飲み込んだ……。
すると、おかしなところから声がした。
『へーい、クモ旦那よ、おらはお前さまの思っているほどバカじゃない。バカでうすのろは、おまえさんさ。なんでそうガツガツと噛みもせず肉を飲み込むだね?』
クモ旦那は、あたりをきょろきょろ見回した。
『カエルめ出てこい! どこでぶつぶつ言っているんだ?いい気になると しょうちしないぞ!』
『おらは、おまえさまの心臓の近くにいるだよ。』カエルは丁寧に言った。
「心臓だって?』
『ああ、心臓のそばで座って、端っこのほうをくわえているだ。
おらの考えしだいでは、おまえさまを殺すことだって出来るというわけだ。さあ、話がわかったら、おらの言うことを聞け、今からすぐ村へ行くんだ。』
クモ旦那は肩をいからした。
「雨が降っているんだよ、お前には見えないのか?外へ出かけるのは、いい日じゃないよ。さあ、カエルくん、おれの腹から出てくるんだ、お前のいるところじゃないよ。」
クモ旦那がこう言ったか言わないうちに、カエルの歯は心臓に入り込んだ。クモ旦那は悲鳴を上げた。
「わかった、わかったよ! すぐ出かけるよ。」
そこで、クモ旦那は、さっきより、もっとひどくなった雨の中へ飛び出した。もう、真っ暗で雷は鳴り出す、稲妻が光る、その中をクモ旦那は走っていった。
「さあ、村だ。なにをしろというんだい?」
「戸を叩いて、中へ入るだ。そうして、男たちには、こんにちは奥様方、といえ。女たちには、こんにちは、旦那様方、というだよ。」
クモ旦那は飛び上がった。「そんなバカなことができるか! 俺はクモだんなだぞ! バカもんじゃないんだ!」
するとカエルは、また、クモ旦那の心臓をひと噛みした。
そこで、クモ旦那は、村を一軒一軒まわっては、女たちに「こんにちは奥様方。」男たちには「こんにちは旦那様方。」と挨拶した。
クモ旦那は、バカにされ、笑われ、あげくの果てに、ののしられ、叩かれた。クモ旦那は、ヒイヒイ泣きながら逃げ出した。
すると、カエルがまた命令した。「家へ帰って、女房を棒で叩け!」
「なんだって?」クモ旦那は立ち止まった。
「女房は俺を愛している。俺も女房を愛している。それを、叩けだと?」
「嫌だちゅうかね?」
カエルはひと噛みした。そこで、クモ旦那は家へ駆け込むと、ひっくり返ってぐうぐう寝ている女房を叩きのめした。
この女房は、食べている時以外は、ぐうぐう寝ている女だったが、
棒で殴られたものだから、目を覚ましてわめきだした。クモ旦那に飛びついて、ひっかいたり、噛みついたり、
さあ、その騒ぎが村まで聞こえたから、村長がかけつけた。
「クモ旦那、おまえ、気でも狂ったかね!」
ところがクモ旦那はのぼせ上がっていたもので、村長を投げ飛ばし、草原に駆け込んで隠れてしまった。しかし、カエルはまだ許さなかった。
「もう一度村へ行くだ、そして村に火をつけろ。」
「そんなことできるものかね! 見つかったらぶち殺される!」
クモだんなは、せいせい言いながら断った。しかし、カエルがちょっとアゴを動かしたので、クモ旦那は飛び上がって
「わかったよ!」
とさけんだ。そして村へ引き返すと、火をつけた。
火はあっという間に村中に広がった。屋根は大きな音をたてて焼け落ちた。
人も牛も逃げまどい、村人たちの泣き叫ぶ声は、草原の果てまで響いた。
朝になった。女たちはまだ熱い焼けあとから、壺やお碗を掘り出していた。泣きながら掘り出していた。
カエルはクモ旦那にいいつけた。
「さあ、村長のところへ行って、これはみんな私のしたことだといえ。」
クモだんなは、震え上がった。
「かんべんしてくれ、そんなことをしたら……」
ひと噛みで、クモだんなの心臓に血が滲んだ。クモ旦那は、またとぼとぼと歩き出し、村長の前に出て行った。
「村長さま、火をつけたのは私です。というのも、にくい、カエ……」
言い終わらないうちにカエルは噛み付いた。
クモ旦那は倒れ、人々は、かわいそうなクモ旦那にとびかかり、棒で叩き、引っ張り回した。
『殺してしまえ!』
『まて。』
村長は手を上げた。
『裁判をするまで、殺してはならん。』
そこで人々は、クモ旦那を放り出した。
それから縄で縛ろうとしたが、クモ旦那は、もう息をしていなかった。
しかし、クモ旦那は死んではいなかった。ちゃんと生きていた。人々がいなくなると、片目を開けて、そばの木に飛びつき、暗くなるのを待って、草原へ逃げていった。
その途中、クモ旦那は、一匹の年をとったカメに出会った。カメは、クモ旦那の古い友だちだった。
『私のいう通りにするんだね、クモ旦那。』
カメは、のろのろと歩きながら、低い声でつぶやいた。
『急いであそこの池まで走っておいき、そして池の淵にしゃがんで言うんだ。水だ! とびだせ! とね。』
クモ旦那は、じろじろとカメを眺めた。
まったく、ヨボヨボでぶざまなカメだった。けれどカメは、いつも本当のことを言う。
クモ旦那は駈け出した。そして池の中に、ひと足踏み込んで、叫んだ。
「水だ! とびこめ!」
カエルはそれを聞くと、もう、じっとしていられなかった。
クモ旦那の口から飛び出すと、池めがけて真っ逆さまに飛び込んだ!
クモ旦那は、深い息をした。あの、思っ苦しい胸を押さえていた
変な感じは消えていた。
そのとたん、クモ旦那は、真っ黒になるほど腹が立ってきた。
『待て! カエルめ!』
しかし、カエルの姿は、もうとっくに影も形もなかった。それはそうさ、泳ぎはうまいもの。
それからというもの、くもは、池のまわりや、川のまわりに、巣を作った。
カエルが出てきたら、ただじゃおかないぞ、というわけだ。
カエルのほうだって、そんなことぐらい、ちゃんと承知さね。だから、いつでも水に飛び込める用意をしているのさ。」
――― そうだったのか、それでなんだね? と、夜の声はいった。

~おしまい~

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