地獄変(芥川龍之介の小説)

Last-modified: 2022-01-03 (月) 23:49:07

『地獄変』(じごくへん)は、芥川龍之介の短編小説。説話集『宇治拾遺物語』の「絵仏師良秀」を基に、芥川が独自に創作したものである。初出は1918年(大正7年)5月1日から22日まで『大阪毎日新聞』『東京日日新聞』に連載され、1919年(大正8年)1月15日に新潮社刊行の作品集『傀儡師(くぐつし)』に収録された。主人公である良秀の「芸術の完成のためにはいかなる犠牲も厭わない」姿勢が、芥川自身の芸術至上主義と絡めて論じられることが多く、発表当時から高い評価を得た。なお、『宇治拾遺物語』では主人公の名の良秀を「りょうしゅう」と読むが、本作では「よしひで」としている。

物語

時は平安時代。絵仏師の良秀(よしひで)は高名な天下一の腕前として都で評判だったが、その一方で猿のように顔はしわだらけで唇が油でも塗ったかのように赤いという醜い容貌を持ち、しかも恥知らずで高慢な性格であった。そのうえ似顔絵を描かれると魂を抜かれる、彼の手による美女の絵が恨み言をこぼすなどと、怪しい噂にもこと欠かなかった。

この良秀には娘がいた。良秀は娘を大変にかわいがったが、ただ可愛がるだけで将来のために良い夫を探してやるなどということは決してせず、それどころか娘に言い寄る男がいればその男に制裁を加えるなどその愛は家族の愛というよりむしろ独占に近いものであった。

この娘は親に似もつかないかわいらしい容貌とやさしい性格の持ち主で、ある時当時権勢を誇っていた堀川の大殿*1に良秀と名づけられた猿がミカンを盗み、大殿がこれを打ち据えようとしたが良英の娘がこれを「畜生でございますからお許し下さい、それに私の父が咎められているようで辛うございます」と庇ったことがきっかけで大殿に見初められ、女御として屋敷に上がった。娘をこの上なく溺愛していた良秀はこれに不満で、絵の報酬を頂くときなど事あるごとに娘を返すよう大殿に言上していたため、彼の才能を買っていた大殿の心象を悪くしていく。一方、良秀の娘も、大殿の心を受け入れない。

そんなある時、良秀は大殿から「地獄変」*2の屏風絵を描くよう命じられる。話を受け入れた良秀だが、「実際に見たものしか描けない」と頭を抱える。この後良秀は昼寝をするがその時見た夢の中で地獄絵図のインスピレーションを得た彼は、地獄絵図を描くため、ある時は弟子を鎖で縛り上げ、またある時はミミズクに襲わせるなど、狂人さながらの行動をとる。

こうして絵は八割がた出来上がったが、どうしても仕上がらない。燃え上がる牛車の中で焼け死ぬ女房の姿を描き加えたいが、どうしても描けない。つまり、実際に車の中で女が焼け死ぬ光景を見たい、と大殿に訴える。話を聞いた大殿は、その申し出を異様な笑みを浮かべつつ受け入れる。この行動に出た大殿は自分に心を開いてくれない良秀の娘に対しあまり良い感情を抱かなくなっていた、と噂されたが実際は良秀の行為を遠回しに責めるためであった。

数日後、良秀は大殿に都から離れた荒れ屋敷に呼び出される。恐ろしいことに、火にかけられる牛車には良秀の娘が乗せられていた。間もなく牛車に火がかけられ、燃え盛る炎の中に縛り上げられた娘は身悶えしながら、まとった豪華な衣装とともに焼け焦がれて行く。そこに良秀と名付けられた猿も我が身を燃え盛る業火に投じた。その姿を良秀は、驚きや悲しみを超越した、厳かな表情でただ眺めていた。娘の火刑を命じた殿すら、その恐ろしさ、絵師良秀の執念に圧倒され、青ざめるばかりであった。
やがて良秀は見事な地獄変の屏風を描き終える。日頃彼を悪く言う者たちも、絵のできばえには舌を巻くばかりだった。屏風を献上した翌日、良秀は部屋で首を吊って自殺するのであった。

芥川が下敷きにした『絵仏師良秀』

『絵仏師良秀』とは、仏画を描く職人・絵仏師である良秀の話。
良秀は、自分の家が火事になったとき、家が燃えるのをうなずきながら見ていた。しかも、その家の中にはまだ妻子がいるのに笑って見ていた。
まわりにいた人があきれて、「もののけ(妖怪)でもとりついたのですか」と言うと、「私は長年、不動明王の炎を下手くそに描いていたが今この火事を見て炎はこのように燃えるのだと改めてわかった。だからもうけものだ。仏画を上手に描ければ、それで得た金で家は百軒でも千軒でも建てられる。あなたたちはたいした才能をお持ちでないから、火事になればせいぜい物を惜しみなさるがいいだろう」と、嘲笑しこれを聞いた者たちは驚いて呆れたことこの上なかった。
その後、良秀が描いた不動明王の絵は「良秀のよぢり不動」と称賛されるようになったという。

外部リンク

『地獄変』:新字旧仮名 - 青空文庫

コメント欄

  • 読みづらいかな。改行とかをした法が良いと思う -- 2022-01-02 (日) 19:21:53

閲覧者数

今日?
昨日?
合計?

*1 藤原基経か
*2 地獄を描いた図のこと。「地獄変相図」の略。