油絵

Last-modified: 2020-09-17 (木) 23:59:33

油絵(oil painting)とは顔料を亜麻仁油その他の植物性乾性油を主成分とする展色剤で練り合わせてつくった絵具(油絵具)で描いた絵画。油彩画とも。

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油絵の例(戦艦テメレール号・ターナー)

概要

上述したように顔料を溶かす媒剤としてリンシード油を用いる絵画。テンペラ画,フレスコ画と異なり,流動性,輝きの表現,写実的描写に適合する技法としてルネサンス期以来絵画技法の主体となり今日にいたる。 16世紀以来,カンバスが用いられることが多いが,板,カルトンも用いられる。伝説的にはファン・アイクによってこの技術が発明進歩させられたというが,技術的にはそれ以前から知られ,またファン・アイクはむしろテンペラの技法により多く依存している。初期フランドル派によって使用されはじめたこの技法を,イタリアで最初に用いたのはアントネロ・ダ・メッシナで,彼が媒剤のための油をつくったのは 1460年とされる。

歴史

油絵の起源は、乾性油が美術工芸品になんらかの形で塗料の材料に使用され始めたときにさかのぼることができる。乾性油そのものについていえば、1世紀のローマの植物学者ディオスコリデスがすでにくるみ油とけし油について記しているが、これは医薬品としての乾性油である。美術工芸品に乾性油が使用されたことを記しているもっとも古い例は、ギリシア人の医者アエティウス(502―575)の著した医学書である。彼は、「クルミの実を突き砕くか圧搾し……熱湯に入れて」つくったくるみ油が、医薬用のほかに「金箔(きんぱく)職人やエンカウスティック画家に使用された。くるみ油は乾燥し、金箔やエンカウスティック画を長期間にわたって保護するからである」と述べている。これは、乾性油が保護膜のワニスとして使用されていたことを意味しているが、油やワニスに黄色を混ぜたグレーズ(メディウムの多い薄く透明な被膜)を、銀箔や錫(すず)箔の上にかけて金箔のように見せかけたり、金箔の上にかけて金の色を強めたりする技法の起源を示している。このようなグレーズを用いる技法は中世にも例があり、イタリア・ルネサンス期や16世紀ドイツにも多くの例がみられる。たとえばウッチェロの『サン・ロマーノの合戦』では、金の上に赤のグレーズがかけられている。この油性メディウムによるグレーズが、どのようにして伝統的なテンペラ技法と併用されるようになったか、つまり絵画技法の一つとして使用されるようになったかは明らかではない。しかし、油性メディウムをはっきりと絵画材料として使用することを記しているもっとも古い例としては、10~11世紀ごろの画家エラクリウスの画論や12世紀ごろの修道士テオフィルスの『諸芸提要』などがある。またギベルティはその著『彫刻論』のなかで、ジョットがときによって油で描いたと記している。フランドルのヤン・ファン・アイクと同時代のイタリアの画家チェンニーニ(1370ころ―1440ころ)が1400年ごろに著したと推定される『芸術の書』には、テンペラ用のあまに油の調製法、顔料をあまに油で練り合わせる方法、そして卵テンペラの上に油性グレーズをかけて絵を仕上げる方法などが記述されている。バザーリは、油絵の技法はファン・アイクによって発明されたと記している。しかし、実際には数世紀にわたる長い間、多くの画家たちの試行錯誤が繰り返され、ついに15世紀に至ってファン・アイク兄弟をはじめとするフランドルの画家たちによって油絵技法が体系化されたと解釈すべきである。油絵技法の確立とその急速な伝播(でんぱ)はルネサンスの合理的な自然観、飽くなき写実表現の追求と軌を一にしている。三次元の立体と空間、光と影、物の質感などの迫真的な描写は、油絵技法によって飛躍的な発展を遂げることができたのである。

構造

油彩画は絵画の内でもすぐれて明確な積層構造をとる媒体である。塗膜の接着を良くする意味で、"Fat over lean"という慣(ならい)に従い、上層が下層より油分が多くなるようにする。油彩絵具による塗膜にそのまま水性絵具を重ねると剥落などの問題を起こすので避けられる。経年によって、鉛白などは乾性油と反応し金属石鹸を生じ、透明度が高まるので、凡そ100年以上経過すると描き直しや躊躇いが見えるようになる。これをペンティメントと呼ぶ。パウル・クレーの『ドゥルカマラ島』のように、経年による絵具層の変化が利用された作品も知られている。油彩の基本的な構造は以下の通りである。
・支持体
支持体は絵画の塗膜を支える面を構成する物質である。下地や描画層を物理的に保持する部分。多くの場合、キャンバス(帆布)や、木製のパネル(羽目板)や単独の板に麻布や綿布が用いられる。
・絶縁層
油彩絵具は乾性油の酸化重合によって固化する絵具であるため、布地などに直接描画すると布を酸化してしまう。それを防ぐために支持体と絵具層の間に、絶縁する層が必要となる。麻布を用いる場合、伝統的には麻布に膠水を引くことで絶縁する。これは前膠(まえにかわ)と呼ばれる。代表的な膠は、兎膠と牛膠である。前者は柔軟性が高く、後者は接着力が強い。特に後者は工業的にも用いられており、純度の高いものはゼラチンとして流通している。絶縁にはPVAや酢酸ビニルなども用いられている。
・地塗り層(下地)
絵具は下層の影響を受けるため、絶縁層と描画層との間にしばしば、地塗りをして絵具の発色を良くし描画特性を高める層を設ける。地塗り層は、上層であるの絵具層からある程度の油分を吸収することで絵具の固着を良くする役割も果たすことから、地塗りは技法の中でも重要な役割を果たす。キャンバスには予め地塗りを施してあるものが市販されているほか、木枠に張られた商品もある。これは便利であるが、本人の要求を満たす適性を備えているとは限らない。購買層の多くは初学者や絵画教室の生徒である。
・描画層
地塗り以外の絵具の層のことを描画層と呼称する。
・保護層
絵具層の上に保護の目的で施される層。油絵具に用いられる顔料の中には、硫化水素などの物質によって化学反応を起こし変色するものがある。またホコリや煙草のヤニによっても絵画は汚れる。これを防ぐ目的で描画が終了して一年程経過した後(のち)に、保護バーニッシュを塗布する。例えば、展覧会直前まで制作した絵画をその展覧会で販売し、購入者がバーニッシュの塗布を専門家に依頼する等しなかった場合、その絵画には保護バーニッシュが塗布されていない状態が続き、絵画が汚れる危険に晒され続けることになる。このバーニッシュには、後に再度溶解による除去が可能で、バーニッシュの塗り直しを許容するものを用いる。バーニッシュは剥離や剥落を抑える効果を生じる場合もある。

油彩画の材料

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支持体

油彩画は布(画布・キャンバス)に描かれているという固定観念があるが、必ずしも正しくない。紙やパネル、金属板もしばしば用いられる。

  • 布(亜麻、大麻(麻)、黄麻、綿、合成繊維など)綿は麻よりも酸化に弱いとされる。目の細かいものや荒いものなど様々な種類が絵画用途に供給されている。一般の麻布も適切に扱えば絵画に使用出来る。
  • 木(合板、ボード類など)
  • 金属板(アルミニウム、銅、鉄など)
  • 革(羊皮紙など)

塗膜を形成する材料

油彩絵具
乾性油を主成分とする固着材と顔料の屈折率の差が小さいことから、油彩絵具は高い透明性を示す。更に、固着材を多くしても問題が起き難いので透明な塗膜を作ることが出来る。粘稠度が高いことから光沢のある画面を作る。透明感と光沢のある画面が本来の特徴であり、油彩絵具が遅乾性であることから良く探究された精緻な階調の絵画も多い。肉痩せ・目減りが少ないことから、近代・現代の油彩絵具は厚塗りにも向く。乾燥が早く描画する上で規制が大きく透明性の変化に乏しいフレスコに対し、技法に対する柔軟さ、光沢、透明性や遅乾性といった性質から支持され発展してきた絵画材料である。現在市販されているチューブ入りの油絵具には、扱いやすいように体質顔料や乾燥促進剤などの助剤が練り合わせられており、容易に描画できるよう調整されている。
地塗り塗料(地塗り絵具)
炭酸カルシウム、白亜(炭酸カルシウムが主成分)、チタン白などの顔料と、膠水や加工した乾性油などを固着材とする材料が用いられる。水性地は上の絵具層から多くの油分を吸収して塗膜が艶消しになり易い。油性地は上層の油をあまり吸収せず画面に艶が生まれ易いものの、絵具の固着性が劣る場合がある。膠水と乾性油を混合しエマルションにした材料を用いた半油性地は両者の中間の性質を持つ。
メディウム
狭義には練り合わせ材や展色材の中の固着材を指す。広義には絵具そのもの、溶き油を含める場合もある。ただし溶剤のみのものは含めない。

道具

・パレット
パレットは、絵画を描く際に使う、絵具を混合するための板。合成樹脂や紙(紙パレット)、木等が使われる。
・油壺
絵画用の液体を入れる容器。金属製や陶器製がある。特に日本では、これ以外にディステンパー用の「とき皿」も似た役割を果たす道具として使われている。
・画筆
画筆(ガヒツ)は絵画制作に用いる、画(えが)く為の筆である。油絵具はふつう剛毛筆を用い面的に塗布する。繊細な描写には柔毛筆の腰のあるものが好まれる。フィルバート(平)、フラット(平)、ラウンド(丸)、ファン(扇)などの形状がある。原毛は天然毛(獣毛)と合成毛(合成繊維)に分けられる。硬さによって、剛毛と柔毛・和毛(にこげ)に分けることも可能である。筆は同じ形状でも毛質によって描き味が異なる。
・ナイフ
ペインティングナイフとパレットナイフは、コテのような道具である。油絵具を練ったり、画面についた不要な絵具を取ったりするのに用いる。描画は筆によるとは限らず、ナイフを用いる場合もある。スクレパーのように刃のついたものも用いる。
・その他
ローラーや篦(へら)などを用いる人もいる。指などで絵具を画面に乗せる人も居る。

技法

  • 平塗り 絵具を平たく塗ること。
  • モデリング 肉付け。物理的な立体感についても言うが、絵画の分野では主としてバルールを成立させ形体を描き出す工程について言う。
  • インパスティング 盛り上げ。
  • 暈し(ぼかし) 画面上の絵具を暈して階調を豊かにすること。
  • スフマート 色の境界を際立たせずに、形体を描き出す技法。レオナルド・ダ・ヴィンチほか16世紀の画家が創始したとされる[2]。
  • グレーズ 透明性の高い絵具を薄く重ねて、下層の効果を活かす技法のひとつ。
  • スカンブル 不透明性の高い絵具を薄く重ねて、下層の効果を活かす技法のひとつ。
  • ハッチング 一定の面を斜線で埋める技法。
  • クロスハッチング 交差させたハッチングのこと。
  • マスキング マスキングテープなどで一部をマスクすること。
  • デカルコマニー 絵具を転写する技法のひとつ。
  • フロッタージュ ものの模様などを写し取る技法のひとつ。
  • コラージュ 紙などを絵画に貼付ける技法のひとつ。
  • ドリッピング 絵具を垂らす技法のひとつ。
  • ドライブラシ 硬めの絵具を用いて、掠れ等を活かす技法のひとつ。
  • ウエット・オン・ウエット(Wet-on-wet)

制作の流れ

①モチーフを選ぶ
モチーフは、気に入ったものを使えばいいが、形や色、大きさなど変化があるものを取り合わせると面白い構成ができる。また、モチーフを置く場所は、モチーフにあたる光が一定で、モチーフの物質感などを見るのに適した場所を選択する。
②下描き
キャンバスに木炭や鉛筆でモチーフの配置、関係、形を大まかに描く。ペインティングオリ油絵具(おつゆ描き)で描き始めると、画面が濁らずに下絵ができる。 色は、後からのせる色の邪魔にならないイエローオーカーなど茶系を用いるとよい。
③下塗り
構図とモチーフの関係を確認しながら豚毛の筆を使ってに色を置いていく。いきなり厚く塗るというより、絵具をキャンバスの目に摺込むように彩色していく。絵具を重ねるにつれ、少しずつペインティングオイルを加え、絵具の乗りを調節し、だんだんに形を整えていく。
④描き込み
各種の筆やペインティングナイフなどを用いて、モチーフの形と質感の描写する。絵具が重なっていくにつれて、テレピンを減らし、ペインティングオイルを多くして使う。下地の色を生かした重色による表現は、作品の構造を密にし、深みを増す。
⑤仕上げ
全体の色調や、明暗の関係、色のメリハリなどを調節しながら色を置く。この段階では、透明色によるグラッシ技法とたっぷりとした隠蔽性のある絵具を使うことにより、 全体の色調と一つ一つの形が際立ってくる。気に入ったところでサインを入れ完成。
⑥ニス掛け
完成した油絵には、保護と艶を整えるためにタブローを塗る。乾燥により画面の艶が部分的にアンバランスになったり、色が引いてくることがあるので、描いた時の新鮮さを保つ意味でニス掛けは不可欠な作業と言える。通常は、完成後、半年程度置いてからニスを掛ける。

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