誰もいない森の中で木が倒れたら音はするか?

Last-modified: 2022-10-17 (月) 16:49:55

誰もいない森の中で木が倒れたら音はするか?(英語:If a tree falls in a forest and no one is around to hear it, does it make a sound?)とは、哲学的な疑問のひとつ。

If a tree falls in the forest, and no one hears it, does it make a sound?
Albert: "Of course it does. What kind of silly question is that? Every time I've listened to a tree fall, it made a sound, so I'll guess that other trees falling also make sounds. I don't believe the world changes around when I'm not looking."
Barry: "Wait a minute. If no one hears it, how can it be a sound?"(Disputing Definitions(lesswrong.com)より)
森で木が倒れたとします。そこには誰もいません。さて、この時音はするでしょうか?
Albert: 当たり前だろう、なんてバカげたことを聞くんだ。私が聞いた限り、木が倒れると決まって音を立てたのだから、ほかの木が倒れても音はするはずだ。私が見ない間に、世界が変わるとも思えない。
Barry: じゃあ聞くが、誰もいないなら、どうやって音を立てるんだい?

概要

いかにも「木は音を立てて倒れるだろう」と答えたくなる質問だが、哲学上では「音はしない」と答えることができる。なぜなら、観察者がそれを観察するまであらゆる可能性があるなかで、質問では観察者自体がいないのであるから、音を立てずに倒れたと考えることができるためである。

言い換えれば、受け取る側がいなければ音は存在しない、ということになる。あるいは、木が倒れたとしても、誰もいない時に発するのは音波であって、人が聞く音とは別物である、とも言うことができる。

18世紀の哲学者ジョージ・バークリーが著書「人知原理論」で提示してからというもの*1、今に至るまで議論が交わされている質問であり、1883年刊行のThe Chautauquanにも以下のように記述されている。

Q. If a tree were to fall on an island where there were no human brings would there be any sound?
A. No. Sound is the sensation excited in the ear when the air or other medium is set in motion.(The Chautauquan Volume Ⅲ. pp.543-544より)
Q. もし誰もいない島で木が倒れたら、音はする?
A. いいえ。音というのは空気などの媒質が振動した時、耳が刺激されることによって生み出される感覚です。

1884年刊行のScientific American Volume 50 Number 14 p.218 (18)にも似た趣旨の質問がなされているが、回答もThe Chautauquanのそれと変わっていない。

Boston College Librariesでは「音という言葉の解釈次第」と回答している。であれば、振動を重視する物理学的観点に鑑みれば「音はする」、聴覚経験を重視する哲学的観点に鑑みれば「音はしない」という回答になるのだろう。

音の定義

おと【音】
①空気・水などの振動によって聴覚に引き起こされた感覚の内容。また、その原因となる空気などの振動。音波。人間は振動数20~20000ヘルツくらいの音波を音として感じる。音の性質は強さ・高低・音色の三要素で表すことができる。(スーパー大辞林より、一部引用)

音は実在せず主観的な感覚にすぎないと見なす主観主義という考え方はあるが、一般に「音」というのは、「空気や水などの媒質中を移動し耳に到達した音波」とする見解が標準となっている。

一方で、音波が生じるのは音源となる物体が振動するからであるという意見もある。前者はWave-based accoundProximal Theory、後者はSource-based accountDistal Theoryと呼ばれている*2

音波説では「真空中では音はしない」ことを根拠に主張されることがあるが、音源説ではそれに対して「真空中でも音は存在するが、それを知覚する条件が満たされていないから聞くことはできない(→物体が振動すれば音は存在している)」と反駁する*3。また、音波説では音の高さも大きさも音色も、それぞれ音波の周波数と振幅と波形と見なされるが、これを音源説では物体の振動によるものと見なす。

雷が鳴ったときを考える。この雷鳴となる音波は秒速約340メートルで空気中を移動し、観察者の耳に伝わる。そして、観察者が音源となる雷から3キロほど離れていたとすると、光ってから10秒経って雷鳴が聞こえることになる。

音波説を取るにしろ音源説を取るにしろ、物理的には振動という現象として一緒くたに扱えるものだが、哲学上、存在論においては、音源と音波が離れているというところに大きな違いが見出される。今に至るまで議論されているものであり、どちらが正しいかというこの認識論的議題は解決を見ていないが、知覚を多様な観点から再解釈することに取っ掛りがあるかもしれない。

備考

関連項目

  • シュレーディンガーの猫 - 1935年の思考実験。「箱を開けるまで中の猫が死んでいるかどうかは分からない」というフレーズでも知られる。

参考リンク

  1. 誰もいない森で木が倒れたら、音はするでしょうか?(NEW VISION)
  2. 誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる(砕け散ったプライドを拾い集めて)
  3. 誰もいない森で木が倒れたら音はするか?~音楽制作で考える脳科学45(音楽教室運営奮闘記)
  4. 機能する組織の条件(3)~情報を基盤としなければ存続すら出来ない~(テクノビジョンダイジェスト)
  5. 誰もいない森で倒れた木は、音を出したか?(アーティエンス株式会社(Archived))
  6. 何が聞こえているのか一音の存在論について一(哲学の探求38, pp.147-160)
  7. Department of History and Philosophy - What is Philosophy?(Plymouth State University(Archived))

関連リンク

コメント欄

  • 初版作成者です。若干「音」でゲシュタルト崩壊しました。 -- 乾物屋のビーバー 2022-09-27 (火) 00:01:10

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*1 …とされることが多いが、David R. Wilkins ed.(2002)を見てもそれらしき文言は確認できない。せいぜい「XXIII. But say you, surely there is nothing easier than to imagine Trees, for instance, in a Park, or Books existing in a Closet, and no Body by to perceive them.(…)」「XLV.(…)The Objects of Sense exist only when they are perceived: The Trees therefore are in the Garden, or the Chairs in the Parlour, no longer than while there is some body by to perceive them.(…)」くらいか
*2 哲学の探求38 p.147ではそれぞれ音波説、音源説と呼称
*3 哲学の探求38 pp.149-150「このことは、色とその知覚を考慮すれば理解できるものだろう。物体が照明され、物体からの反射光が目に到達しているときには物体の色を見ることができるが、暗闇の中では色を見ることはできない。しかしだからといって、色は光と同一である、あるいは、光がなければ色は存在しない、とは通常は考えられていない。むしろ、物体は暗闇でも色をもっているのだが、照明が当てられていないため見ることができないと考えられているのではないだろうか。つまり、光は、(中略)色を知覚するための条件であって、色と同一であるとは考えられていないのである」
*4 BUBKA 2022年6月号p.56など