意識調査の事例

Last-modified: 2009-10-09 (金) 16:58:42

生活関連科学技術課題に関する意識調査

(NISTEP Report No.45)
 
生活関連科学技術調査研究プロジェクトチーム
 
1.調査目的
科学技術会議の第18号答申「新世紀に向けてとるべき科学技術の総合的基本方策について」においては、科学技術と人間・社会との調和を図ることが科学技術政策上の重要課題として位置づけられており、この趣旨に沿い科学技術政策の展開を図ることが求められている。このため、本調査は、人間・社会に関わりの深い研究課題の抽出を行い、一般国民及び有識者の意識を調査すること等により、人間・社会に関わりの深い科学技術の総合的な推進方策及び各研究課題に係る施策の立案に資することを目的として、2ヵ年計画で実施したものである。平成7年度は主に有識者の意識の調査結果をまとめた。

 
 

2.調査方法
平成6年度の一般国民に対するアンケート調査に引き続いて、平成7年度は、調査の実施方針等について助言を得るため、科学技術政策研究所内に有識者5名からなる「生活関連科学技術調査委員会」を設け、以下の調査を実施した。

 

①有識者に対するアンケート調査(主として選択肢方式による回答を求めた。)
対象者:大学教員、ジャーナリスト等343人(回収数175人)
実施時期:平成7年11月~12月

 

②技術予測調査の分析
第5回技術予測調査(平成4年度公表)で設定された未来技術から、人間・社会に関わりの深い191の未来技術を抽出し、それらを10の領域に分類して、各領域毎の実現阻害要因等の特徴を分析した。

 

③海外における事例調査
米国及び欧州の生活関連科学技術に係る制度及び諸事例を調査した。

 

 
3.調査結果
①有識者へのアンケート調査

 

ア.有識者の早期実現期待度
第5回技術予測調査(平成4年度)で設定された人間・社会に関わりの深い191課題を10の領域(「交通・物流」「労働環境」「環境保全と資源・エネルギーの有効利用」「高齢者・障害者等の生活支援」「健康・医療」「情報・通信」「消費生活・家事」「災害対策」「住宅・住環境」「教育・余暇」)に分けて、一般国民(平成6年度調査)の間で早期実現期待度が高かった上位2課題、計20課題について、専門家が予想した実現時期に比べての早期実現期待度を質問した。
フロン代替品、重油汚染海域修復、がん予防薬などの環境保全、健康・医療、防災、福祉分野で早期実現期待度が高い。これは一般国民の調査と同様の傾向で、安全・安心追求型の分野の課題に対して期待が高いといえる。
 
イ.領域別重要度
10領域のうち、今後もっと研究開発に力を入れることを望む領域を質問した。(図1)
「環境保全と資源・エネルギーの有効活用」、「高齢者・障害者等の生活支援」、「健康・医療」、「災害対策」等が上位を占めている。一般国民に対する結果と若干順位は異なるものの、同様の領域が上位を占めている。

ウ.総合的な推進方策
生活関連科学技術についての総合的な推進方策の重要度をどのように認識しているかについて質問した。(図2)
「高齢者、障害者、女性のニーズの積極的な反映」、「人文・社会科学分野の研究者との共同研究」等の順で重要度が高かった。

 

意識調査.gif

 
 
 

意識調査事例.JPG

図2  総合的な推移新方策の重要度
 

エ.人文・社会系分野との共同研究のあり方
生活関連科学技術の推進にあたっての自然科学分野の研究者と人文・社会科学分野の研究者との共同研究の推進に必要な方策を質問した。「自然科学分野と人文・社会科学分野の研究者の交流制度の設立」が必要と回答した人が5割以上(52.6%)となっており、以下、「自然科学分野と人文・社会科学分野の融合的な学問領域の確立」、(42.3%)「自然科学分野と人文・社会科学分野の融合した学科の新設」(35.4%)の順になっている。

オ.科学技術が人間・社会に及ぼす影響
科学技術が国民に受け入れられていくために必要な方策について質問した。「科学技術と人間・社会の調和に関する研究の推進」(50.9%)、「科学技術に親しめる環境の整備」(37.1%)等の順になっている。
 
②技術予測調査結果の分析
第5回技術予測調査の結果を用いて10領域別の分析を行った。実現阻害要因として全般に技術的要因とコスト的要因が大きなものであった。次いで資金的な要因が多く挙げられ、その他、制度的な要因や文化的な要因等も存在することが指摘されている。健康・医療や災害対策では、特に技術的な要因が大きく、高齢者・障害者等の生活支援、住宅では特にコスト面の要因が大きいという領域別の違いがある。こうした領域別の特徴は生活関連科学技術の推進にとって参考になるものと考えられる。
 
③海外における事例調査
ア.生活関連科学技術に関する研究開発例
米国ではNIHなどにおけるリハビリテーション工学研究の充実、地理情報システム開発の先行、電気自動車の普及のインフラストラクチュア整備、高齢者ドライバーのヒューマンファクターの問題点の研究などで日本より進んでいるところが見受けられた。欧州では、EUで障害者・高齢者対策としてTIDE(TelematicsfortheIntegrationofDisabledandElderlyPeople)計画が実施されている。ノルウェーでは、全国の自治体で無料で障害者に対する機器の貸与が行われている。
 
イ.生活者の希望・意見を反映するシステム
米国では大統領科学技術政策局において、生活者を含む各界からの意見を聞くためのフォーラムを開催している。各省庁の研究プログラムについても生活者が委員となる常設諮問委員会がある。欧州のTIDE計画では、テーマ選定の段階からパネルの中に障害者団体の代表が参加している。また評価段階にもユーザーが参加している。
 
④生活関連科学技術の推進方策についてのまとめ
ア.生活関連科学技術の総合的な推進方策
a)環境保全、健康・医療、防災、福祉関連分野の重要性
昨年の一般国民の意識調査結果と同様に、今回の有識者調査においても、これらの分野が重要度が高く、早期に実現が期待されていることが実証された。生活重視の政策展開にあたっては、これらの分野の研究開発をより一層強化していく必要がある。
 
b)生活者のニーズの把握及び生活関連科学技術に関する情報提供の重要性
i)生活者ニーズの把握
2ヵ年の調査で、生活関連科学技術に生活者のニーズが十分反映されていないことが明らかになったので、科学技術を生活者の多様な希望に沿ったものとするための施策が求められる。また、欧米では、生活者の意見を聴取するための審議会やフォーラム等が開催されているので、それらを参考にしていく必要がある。
ii)情報提供方策のあり方の検討
生活関連科学技術に関する情報を効果的に提供するための方策について検討することが求められる。
 
c)高齢者、障害者、女性等の視点の重要性
生活関連科学技術にとって、高齢者、障害者、女性等の視点が重要なので、これらの者に対する意識調査の実施等のニーズを吸い上げるメカニズムを検討していく必要がある。
 
d)生活関連科学技術に関する研究開発体制の検討
自然科学系と人文・社会科学系の交流の促進、産官学の連携協力と役割の分担、地域のニーズに密着した研究の推進、国際共同研究の推進を図っていくことが必要である。
 
e)科学技術の人間・社会への影響の配慮等
科学技術の人間・社会への影響評価の実施、研究者の倫理の問題への対処、国民の科学技術に対する理解の増進を図っていく必要がある。
 
イ.個別研究課題の推進方策
平成6年度調査では、191の個別課題の実現に際して、3割以上の人が不安、心配を感じると答えた課題が半数に達している。したがって、個別課題の実施にあたっては研究の意義、内容、問題点といった点をできるだけ国民に明らかにし、課題推進にあたってのコンセンサスを得る必要がある。