山穿轟突のガイアス

Last-modified: 2025-10-18 (土) 16:29:59

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山穿轟突のガイアス.webp
Illustrator:西木あれく


名前ガイアス
年齢32歳
職業中年戦士

かつて、世界を支配していた魔王を倒した、希望の象徴の一人。
魔王の置き土産から故郷を守るため、彼は旅立つ。
その旅路の果てに待つものとは――

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1【NORMAL】
ゲージブースト(VRS)
×5
10×5


【NORMAL】ゲージブースト(VRS)

  • ゲージ上昇率のみのスキル。
  • 初期値からゲージ6本に到達可能。GRADE 151から7本到達も可能になる。
  • LUMINOUS PLUSまでに入手した同名のスキルシードからのGRADEの引き継ぎは無い
  • スキルシードは400個以上入手できるが、GRADE400で上昇率増加が打ち止めとなる
    効果
    ゲージ上昇UP (???.??%)
    GRADE上昇率
    ▼ゲージ6本可能(160%)
    1175.00%
    6175.50%
    11176.00%
    51180.00%
    101185.00%
    ▼ゲージ7本可能(190%)
    151190.00%
    251200.00%
    351210.00%
    400~214.90%
    推定データ
    n
    (1~)
    174.90%
    +(n x 0.10%)
    シード+50.50%
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期所有キャラ数最大GRADE上昇率
2025/8/7時点
VERSE31311206.00% (7本)
X-VERSE11111186.00% (6本)
所有キャラ

所有キャラ

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 墜落した戦士ガイアス


 かつて、この世界は魔王に支配されていた。
 魔王は人間では持ち得ない強大な力を持ち、人間を害する生物――魔物を従えていたのだ。
 魔王の前に人間は戦いを挑むも為す術もなく、世界中が恐怖に怯えることとなる。
 だが、人間の中には希望を持つ者が残っていた。
 ある少年は勇気と光を、少女は魔法と知恵を、そして、亜人は破壊と力を。

 影が落ちた世界を照らし出した、希望の象徴。
 人々は、中心となった少年をこう呼んだ。

 『勇者』と――。

 三人の若人は互いに手を取り合い、襲いかかる魔物たちを退けていった。
 そして世界を巡り、魔王を討ち果した彼らは世界に大きな希望をもたらした。

 そして、月日は流れ。

 魔王との戦いから、十数年のときが経った。
 勇者は滅びた王国を再建させ、若き王としてその手腕を振るった。
 もちろん、少女と青年とともに。

 希望の勇者アイテル。
 献身の魔女ネレウ。
 亜人の戦士ガイアス。

 魔王を倒した彼らの名を知らない人間は、この世界にいない。

 ――ったく、ホント嫌になるよな。

 「どいつもこいつも。アイテルアイテルってよ!魔王をやったのはあいつだけじゃねぇってのに!」
 「それはもう何回も聞きましたよ、ガイアス団長」

 そう言いながら、団員が俺のことをなだめてくる。

 「俺だってな、昔は“山砕きのガイアス”って呼ばれて恐れられたもんだぜ! まあ、俺はこんな見た目だ。昔は魔王の手先だ、勇者から離れろ! って石を投げられたけどな、ハハッ!」
 「だから、それも何度も聞きましたって。酔っ払ったらホント、その話しかしませんよね」
 「うるせえ!」

 俺はジョッキを手に、残ってた酒を一気に呑み干す。
 そして、それをガンッとテーブルに叩きつけた。

 「あーあ、そんな乱暴に。またテーブル壊して弁償することになっても知りませんよ」
 「なにが弁償だ。金ならいくらでも払ってやるぜ。なんたって、こっちは天下の王国騎士団団長。ガイアス様なんだからな!」
 「またそうやって……」

 実際、いくら払おうが俺には関係ない。
 ここにいる団員にいつも奢ってるくらいだ。
 魔王を倒した勇者一行。
 その一人として申し分のない地位と金を貰ってる。
 正直な話、こうやって酒をかっくらうだけで働かなくても十分に生きていけるほどだ。
 とはいえ、なにもしねえってのも性に合わない。
 だから、やつの頼みもあって仕方なく王国騎士団とかいうのを世話してやっている。
 なんてことを考えていると急に店の外が騒がしくなった。

 「んっ、なんだ。酔っ払いが暴れてんのか?だったら、この俺が直々に黙らせて――」
 「また仕事中にこんなところで呑んでたのかい。まったく、君は……」
 「こ、国王陛下!?」

 やつの姿を見るや否や団員たちは慌てて敬礼する。

 「おう、アイテルか。どうだ、お前も一緒に呑まないか?」
 「呑まないよ。僕は君と違ってあまり呑めないから。それに、まだ公務が残っているしね」
 「公務ねえ……魔物を斬り倒して回っていた勇者様が今ではお城に引きこもって紙と遊んでばっかですか」
 「あの頃は無我夢中だったからね。今は国王としての責務を果たしているだけだよ」
 「はいはい……」

 そんなアイテルを横目に俺は酒を呑む。
 その姿を見てやつは呆れた顔をしてため息をついた。

 「だから、呑まずに働いてほしいんだけどな。魔物が襲ってきたらどうするつもりだい?」
 「これも立派な仕事だっての。こうやって団員を飲みに連れてきて英気を養ってんだ。それに魔物だって魔王がいなくなってからは昔みたく大人しくなってんだろ?」

 事実、この十数年で強力な魔物が現れたのは最初の数年だけだ。今は元々いた気性の激しいやつらが、ときたま人間を襲うくらいだった。

 「俺たちが相手にするのは暴れてる人間だけだよ。大体だな。魔物はもともと昔からいたんだ。それを魔王のやつがうまいこと利用してただけ。俺様たちがその気になりゃなんとでもなる相手だよ」
 「それでも魔物の被害は無くなってないんだ。いざというときは頑張ってもらわないと」
 「はいはい、その時が来たらな。そんなことより酒を止めるために王様がわざわざ会いに来たんじゃねえんだろ?」
 「……空の“アレ”が落ちてくる日が迫ってきてる。明日そのことで話をするから、呑むなら二日酔いしない程度にね」
 「……そっか」
 「それじゃあ、邪魔したね。みんなもガイアスに付き合う必要はないから、ほどほどに。この酒豪に付き合ってたら身体がいくつあっても足りないよ」
 「はいっ!」
 「俺は無理に呑ませたりしねえよ!」
 「はいはい。でも、本当にほどほどにしなよ。じゃないと、またネレウに叱られても知らないから」
 「うへえ……」

 そういうとアイテルは酒場から出ていった。

 「アイテル国王陛下!」
 「アイテルさまー!」

 外から店の中にまで歓声が響いてきた。
 やつが国民に好かれ、信頼され、憧れられてるか。
 これを聞けば誰でもわかる。
 ホント、人気者だよな。勇者様は。

 「あいつのせいで酔いが覚めちまったぜ! おい、酒もってこい!」
 「まだ呑むんですか!?」
 「当たり前だ! 今日もとことん呑むぞ! おーい、マスター! 新しい酒だ!」

 そんなこんなで……呑み続けた結果――
 俺は陽の光が店の中に差し込んだのに気づく。

 「今日はお開きだな! って、誰も起きてねえか。マスター、こいつらの面倒任せたぞ。その分の金だ」
 「はいはい、わかったよ。まったく、あんたはいっつも置き去りにしていく。……もう慣れたけどね」
 「はははっ! 頼んだぜ!」

 俺は金の入った袋をマスターに渡すと店から出た。

 「いやあ、呑んだ呑んだ。ふあああっ……俺も帰って寝るとするか」

 あくびをしながら、酔った身体にはちょうどいい朝の澄んだ空気を思い切り吸い込む。
 その拍子に、視界に“アレ”が入ってきた。

 「ったく、鬱陶しいな。せっかくいい気分だってのに酔いも覚めちまうぜ」

 俺は空へ向かって悪態をつく。

 そこにあるのは、でっかい“石ころ”。
 ……実は、俺たちと魔王との戦いには、語られていない話がある。
 あれは、魔王との決着の時だ――。

 「はぁ、はぁ……これで終わりだ、魔王!」
 「人間ごときにこの我が……!」
 「はあああああっ!」

 長い死闘の果てに、勇者の剣が魔王の心臓を貫いた。

 「ぐおおおおおっ!」
 「やった、ついに魔王を――!」
 「おのれ……許さぬぞ、人間……ッ」

 今にも力尽きようとしていた魔王が両手を空へと掲げた。

 「てめえ、なにを!」
 「滅びの日まで、怯え、震え続けるがいい。貴様らの上に滅びの星が輝き続ける限りな!」
 「それは、どういう――」
 「ふふふ……わははははは!」

 敗北したはずの魔王は高らかに笑うと、身体を霧のように散らしていく。

 「終わった、のか……?」

 確かに魔王という脅威は消えた。
 だが、魔王の置き土産があるかぎり、俺たちの戦いは終わらない。

 アレは、いつか地上に墜ちてきて、たくさんの人間に絶望を与えるだろう。
 俺たちは、あの石ころをこう呼んでいる。

 ――天に戴く『魔王の星』と。


EPISODE2 呑んだくれの大戦犯


 ある日、いつものように酒を呑みに出かけた俺は、不意に誰かに呼びとめられた。

 「待ちなさい、どこに行くつもり!」
 「げっ……」
 「なによ、今のげっ、ていうのは!」

 振り返ればそこには魔法使いの少女……ではなく、魔女がこちらを不機嫌そうに睨んでいた。

 「なんでもねえよ。俺はこれから出かけるんだ、用があるなら言ってくれ、ネレウ」

 こいつは俺たちと一緒に魔王軍と戦った魔法使い。今ではアイテル国王の右腕として国を支えているひとりだが……。

 「用があるなら? 貴方ね、それ本気で言ってるの?今日なにをするか忘れたわけじゃないでしょうね」

 この通り、かなり口が悪いし面倒くさいやつ。
 昔はちっこくて可愛げがあったってのに、人間は10年と経たぬうちに成長して性格まで変わりやがる。

 「ん? なんかあったかな……」
 「魔王の星のことで会議があるって言ったでしょ。昨日も、一昨日も! そう伝えたはずなんだけど!」
 「あ、ああ! わかってるわかってる! これから会議室に行こうと思ってたところだ」
 「ウソ。会議室は逆方向じゃない」

 バレバレだった。

 「どうせ忘れてるだろうからと思って迎えに来て正解だったわ」
 「さすがネレウだな。でもよ? 呼ぶなら別に城の誰かに頼んだらいいじゃねえか」
 「どうせ他の人に頼んだら適当なことを言って逃げてたでしょ」
 「よくわかってんじゃねえか……」

 こういうところは変わらず鋭いんだよなぁ。

 「ほら、早く行くわよ」
 「わかったわかった……ったく、面倒だな……」

 逃げるに逃げられず、俺は仕方なくネレウに連れられて会議室へと向かった。
 俺たち以外には、色んなお偉方が既に座っている。
 そいつらをざっと眺めた後、アイテルの隣に座った。

 「やあ、ガイアス。ちゃんと逃げずに来てくれたんだね」
 「ああ、こいつのせいでな」

 ネレウのほうを指差すとアイテルがクスリと笑った。
 こっちにとって笑い事じゃないんだけどな。

 「人を悪者みたいに言わないでくれない? 会議から逃げようとするほうが悪いんだからね」
 「はいはい……」

 俺が席につくと、それを待っていたかのようにアイテルが口を開いた。

 「さて、上空の魔王の星についてですが――」

 またつまらない話が始まった。
 いつ落ちてくるかは長年の調査でわかってる。
 問題はどこに落ちるかだけだ。
 あのでかさだと、被害はせいぜい街が1つ2つ吹っ飛ぶくらいだろう。
 俺はアイテルの話を聞きながらウトウトし始める。
 どうせ俺が話すことなんてないし、定期報告みたいなもんだ。
 適当に寝ててもいいだろう。
 ここで休んで、夜はまた酒を呑みにでも行くか。

 「ちょっと! 聞いてるの、ガイアス!」
 「えっ!?」

 ネレウの急な大声に驚いて眠気が吹き飛んだ。

 「な、なんだよ、急に!」
 「貴方ね、話聞いてなかったの? 西の山脈に魔王の星を落とすって話をしてたのに」
 「お、おう、そっか。西の山脈か……」
 「まあ、今更軌道を変えろって言われても無理なんだけど」
 「下手に砕いても被害が増えるだけだしな。落っことすのが無難だ。にしても、西の山脈か」
 「ああ。君の故郷があるところだ、ガイアス」
 「そっかそっか。俺の故郷……は!? どどど、どういうことだよ、俺の故郷って!?」
 「確かに動揺する気持ちもわかるけど、これはもう前に決まったことじゃないか。君だって了承してくれただろう?」
 「えっ、俺が……あっ」

 アイテルの言葉で全部思い出した。
 確かに、どのあたりに落とすのが安全かって話になり、俺の故郷の辺りがいいんじゃないかって流れになったんだ。

 「ま、まあ、決まっちまったもんは仕方ねえ。あんな辺境だからな、落ちても被害は大きくないだろ。村の連中を逃がせばいいだけだしな」
 「それも君がやってくれてるんだろ」
 「……」
 「ちょっと! まさか避難させてないなんて言わないわよね? 貴方が言ったのよ。『俺が一筆書いときゃ、村の連中は素直に言うことを聞くぜ。なんたって俺は村の英雄だかな!』って」
 「あー……おう! そりゃもうバッチリよ! 俺が言ったら一発だったぜ!」

 もちろん、そんなわけない。
 手紙の話なんて今始めて聞いた……というか、聞いてたはずだが、すっかり忘れてた。

 「そう? なら良かったわ。貴方のことだから、手紙のことなんてすっかり忘れてると思ったけど」
 「おいおい、俺のことをバカにしすぎだろ。そこまでマヌケじゃねえよ」
 「……実際、マヌケでしょ」
 「うるせえ!」

 はい、忘れてました。俺はマヌケです。
 俺は普通の人間じゃない。伝承に残る亜人だ。
 亜人っていってもほとんど人間と変わらない。大岩を担げたり、魔力を操ったり、一軒家を飛び越えたりなんかして、ほんの少し普通の人間より強いだけだ。
 そして、西の山脈にあるのは俺の故郷。亜人たちが方々から集まってできた変な村だった。

 「彼らはあの土地に思い入れが強いからね。正直、君の力を借りなきゃ説得は無理だっただろう。ありがとう、ガイアス」
 「はははっ! だろ?」
 「ったく、調子がいいんだから」
 「国民には告示として、もう知らせは出した。多少の混乱はあるものの、それも収まってきてるよ。中には“魔王の最期”と銘打って見世物にするなんて人もいるそうだよ」
 「我が国民はたくましいな、まったく」

 そうして、つつがなく会議は終わった。

 「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい! 手紙なんて送ってねえよ! このままじゃ、村の連中が石ころで吹き飛んじまう!」

 今更、アイテルたちに手紙なんて送ってないなんて言ったら……国を追い出されるどころか、村の連中を殺した歴史に残る大戦犯だ!!!
 かといって、手紙が間に合ったとして、あの村の連中が簡単に土地を離れるとは思えない。

 「こうなったら、俺がなんとかするしかねえ!」


EPISODE3 ひとりぼっちの旅路


 俺がやらなければいけないことは3つ。
 ひとつ、魔王の星が落下する前に村へ着くこと。
 ふたつ、村の連中をなんとか説得すること。
 みっつ、アイテルにバレる前にこれ全部をやること。

 とにかく、急いで村へ行かなきゃならねえ。
 馬で飛ばしていきゃなんとか間に合うだろうが……。

 「ええっ!? 旅行ですか?」
 「おう、ちょっと……あれだ。東の隅っこのほうに温泉がわく観光地があるだろ。そこに行ってくるから、あとは頼んだぞ」
 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
 「早く行かねえとネレウにバレちまうだろうが!じゃあな、すぐに帰って来るから安心しろ!」

 と言って、俺は準備もそこそこに王都を飛び出し村へと馬を走らせる――はずだったんだが。

 「くそっ……なんで馬が使えねえんだよ! ちょっと借りようとしただけじゃねえか!」

 管理してる兵士に馬を一頭借りようとしたら、私用での貸出は無理だと言われた。
 無理やり借りていこうとしたらネレウに言いつけるとか言い出しやがったし。
 こっちは王国騎士団団長様だぞ?
 俺専用の馬なのになんで許可が必要なんだ!

 「前に馬のレースに連れ出したのがダメだったか?盛り上がったし、いい金になったんだけどなぁ」

 とにかくだ。
 馬が使えないなら馬車でもなんでも借りていくかそれこそ歩いていくしかなくなる。

 「そうそう、途中までは馬車があったよな……」

 俺の故郷が僻地とは言え、その道中には他にも村がある。
 近くまでは馬車で行くとして、あとは歩きだな。
 それか、村で馬でも借りるか買うか。
 まあ、とりあえず行ってみるしか無いよな。

 「一人旅なんていつぶりだ……」

 アイテルと出会ってからはひとりでいる時間は本当に少なくなっていた。
 魔王を倒すための旅。
 あの頃はとにかく戦えるならそれでよかったからな。
 それが今では……

 「まあ、今まで魔物やら魔王やらと戦ってきたんだ。楽させてくれてもいいよな」

 まあ、ネレウのやつは真面目に働かないとクビになるぞって脅されてるけど。
 冗談だとは思うが、あいつの場合は本当にやりかねないからな。
 特に今回の一件がバレたら……。

 「うし! さっさと解決して、何事もなかったように城に戻らねえとな!」

 なんてことを考えてたら、村が見えてきた。
 こっからは歩きになるんだが、まあ、今日はもう日が暮れるし、宿でも探すとするか。

 「って、しまった!? この村、宿がねえんだ!」

 そうだったそうだった。
 アイテルたちと旅してるときもそれで困ったんだ。
 そのときは確か、村のやつの家に泊めてもらって難を逃れたんだったな。
 今回もどっかで泊めてもらうしかないか。
 いや、待てよ。
 あれからだいぶ経ってるんだ。
 宿のひとつくらいあってもおかしくない。

 「おっ、ちょうどいいところに。そこのアンタ。この近くに宿とかねえか?」

 通りかかった村の男に話しかけてみるが、困ったように首をかしげる。

 「へっ、宿? そんなもんないよ。こんなところに来る人なんていないからね」
 「……マジかよ」

 まあ、確かに俺たちが立ち寄ったときとそれほど村の様子も変わってない。

 「泊まる場所が無いなら、うちに泊まっていくか?」
 「おっ、いいのか!」
 「いいぞ。困ってる人がいたら助けなきゃな。旅の人は知らんと思うけど、うちの村じゃそれが当たり前なのさ」
 「へえ」
 「じゃあ、こっちだ。ついてきな」
 「ああ」

 俺は男のあとについていき、家へと招かれた。
 男が言ってた通り、困ってた俺を村の人は歓迎し食事まで振る舞うという。
 俺は金を払おうかと言っても、そういうのはいらないんだよ、って突っ返されちまった。

 「なんだってこんな親切にしてくれんだ? 俺はふらっと立ち寄ったよそ者だぞ」
 「その逆だな。ふらっと立ち寄った人だからこそ歓迎しているんだよ」
 「どういうことだ?」
 「実はな、この村はあのアイテル国王様が勇者時代に立ち寄ってくれた村なんだ」
 「お、おう、そうなのか」
 「そのときに村は魔物に畑を荒らされててな。ほとほと困ってたところに勇者様が現れたんだ! 彼は話を聞くと快く魔物退治を引き受けてくれてな。旅で疲れてるだろうに、その足のまま魔物の元へ向かってくれたんだよ!」
 「あー、そうなのかー」

 覚えてる。疲れたんだから明日にしようぜって俺が言ったのに、あいつがひとりで行くって言うもんだから仕方なく付いてったんだよな。

 「俺たちはお礼をしようと村の金をかき集めて彼に渡そうとしたんだが――」
 「受け取らなかったのか」
 「そうなんだよ! 代わりに一晩泊まれる宿を貸してくれないかってな! 魔物たちのせいでどこも貧しい思いをしてたのに、なにも要求してこない人がいるなんてって村の中で今でも話が残っててな。それからだよ。困った人がいたら助け合おうってなったのは」
 「なるほどね……」

 あいつらしいと言えば、あいつらしいな。
 そういや、あのときはせめてものお礼って言って食事も振る舞われたんだっけ。
 案の定、あいつは僕たちじゃ食べ切れないからみんなで食べましょうって言い出して。
 かなり賑やかな食事になったな、そういや。

 「勇者様はいいけどよ。同行してた他のふたりはどうだったんだ?」
 「ネレウ様とガイアス様ですか? ネレウ様はケガをしていた村の者を治療していただいたと聞いてますよ。知識も豊富で荒れた畑をどうすればいいかアドバイスもいただきました」

 あいつ、そんなことやってたのか。どおりで途中から姿が見えないなと思ってたんだ。

 「ガイアス様はまあ……とても豪快な方だったとしか……」
 「そ、そうか……」

 なんかあるだろ! って反論したいのは山々だが確かに俺は魔物をぶっ飛ばしたくらいだしな。
 村に貢献したふたりに比べたら印象は薄いか。
 泣けるぜ、まったく。

 「こちらの野菜もアイテル様やネレウ様のおかげで荒れた畑が再生して採れたものです。ここまで来るのに長い年月がかかってしまいましたがね」
 「……そうか、どおりで美味いわけだ」

 いくらネレウでも魔法で土地を再生することなんてできないからな。
 時間をかけて出来上がった野菜を、まさかこんな形で味わうことになるなんてな。

 「ホント、勇者様々だな……」

 そして――ここから俺は勇者の軌跡を目にすることになっていく。


EPISODE4 戦えない戦士


 俺は故郷へ向けて旅を続けた。
 自分でもわかっていたつもりだが、俺の故郷へと向かう中でどうしても付きまとう話があった。
 それはアイテルたちとの思い出だ。

 ああ、この森で魔物と戦ったな。
 ここで野宿をしたときに食べたのは――

 そんな他愛のない思い出が蘇ってくる。

 「今じゃあいつらも付き合いが悪いからな。呑みに行こうって誘っても来やがらねえし」

 どっちも偉くなっちまったから仕方ねえけど。
 昔みたいに気楽にやりたいもんだぜ。

 「……ん? こっちの道で合ってたっけか?」

 物思いに耽りながら歩いていたら、今自分がどのあたりを歩いているのか、わからなくなっちまった。

 「ええっと……ああ、こっちで合ってるな。ったく、ややこしいな」

 ちょっと前に来たときと若干、道が違ってやがる。
 十年そこらしか経ってないってのに勘弁してほしいぜ。

 「さて、今日はこのへんで野宿するか。次の村まではまだ遠いし」

 長旅にするつもりはないが、野宿をするための支度はしてきている。
 ただでさえ俺の故郷は山奥にあるからな。

 「とりあえず、焚き火用の木を集めて――」
 「あんた、こんなところでなにやってんだ!?」
 「うおっ!? な、なんだよ?」

 こんなところで人に会うと思ってなくて、完全に油断していた。
 昔なら相手の気配に気づかないなんてことなかったってのに。

 「もしかして、ここで野宿するつもりか!?」
 「あ、ああ、そうだけどよ。そういうお前もか?だったら、ここで一緒に野宿でもどうだ?」
 「なに言ってんだ、どっちも違うよ。いいから、早くこっちに来い!」
 「お、おい、なんだってんだよ!?」

 強引に俺の腕を引っ張っていこうとする男に抵抗しようと考えるが、あまりにも必死な様子に仕方なくついていくことにする。
 まあ、いざとなればぶっ飛ばせばいい。
 男に引っ張られるまま付いていくと、そこにはいくつかのテントが設営されていた。
 そのうえ、そこにいる連中は誰も彼もが武装していて物々しい雰囲気を漂わせている。

 「おいおい、なんだってんだこれは?」
 「このあたりで魔物が出たって情報が入ってな。俺たちはその退治に来てるんだ。あんた運がいいぜ、俺が見回りしてなかったら、今頃は魔物の腹の中だったぞ」
 「魔物だと?」

 ということは、ここにいる連中は国から派遣された兵士ってことになるが。
 ここにいる連中に見覚えはないな。

 「お前らは国から派遣されたのか?」
 「違う違う。俺たちはただの自警団だよ」
 「はあ!? 魔物退治は国の仕事だろ。なんで自警団がやってんだ」
 「自分たちのことは自分たちでやらなきゃな!誰かに頼りっぱなしなんて良くないだろ」
 「いや、でもよ」
 「大丈夫だって! なんたって俺たちはあのアイテル様と一緒に戦ったことがあるんだぜ!」
 「またあいつかよ……」
 「ん? どうかしたか?」
 「アイテル……様がこんなところまで足を運んでたなんて知らなかったな」
 「いや、一緒に戦ったのは親連中だよ。俺は姿も見たことない」
 「なんだよそれ」
 「でもな、親からその意志は引き継いでるぜ。黙ってやられるだけじゃいけない。こういうときこそ団結して困難に立ち向かうんだって」
 「ああ、そうか……」

 あいつがどっかで助けた村の連中の子供か。
 そういや、あいつはそんなことよく言ってたな。
 僕はひとりじゃなにもできない。みんなの力を借りたいって。
 勇者って呼ばれるようになってから特にそうだった。

 「なあ、魔物が出たら教えてくれよ。俺だってそこそこ腕は立つほうだからな」
 「確かに。でも、これは俺たちの仕事だ。あんたはここから離れず、ゆっくりしててくれ」
 「わかったよ」

 戦わなくていいならそれでいい。
 俺も面倒事に巻き込まれるのは嫌だからな。
 ……とはいえ、最近は実戦から離れちまってるし、たまにはひと暴れしたいところだが。

 「状況見て乱入してやるか」

 魔王を倒したのは勇者だけじゃない。
 このガイアス様だって捨てたもんじゃないだろってところを見せてやるのも一興だ。
 となれば、魔物が現れるまで寝て待つとするか。

 「久しぶりに“山砕きのガイアス”の名を、轟かせてやろうじゃねえか」

 「――おう、あんた。昨日はぐっすりだったな!あんたが寝てる間に魔物は退治しといたぜ!」
 「……」

 目が覚めてテントを出ると、そこには狩られた魔物たちが転がっていた。小さい魔物ばかりだったが、少し大きいのも混じってる。
 これを倒すとは、中々やるじゃないか。

 「って、そうじゃねえ! 俺の活躍は!?」

 山砕きのガイアス、未だ見せ場なし。


EPISODE5 友が残していったもの


 俺の故郷に近づくにつれて、いよいよ道は険しくなっていく。
 ……と思っていたが、なぜか道は綺麗に整えられて快適に進めるようになっていた。

 「この道、明らかに人が通るように整備されてる。いったい、どうなってんだ」

 不思議に思いながらも道を進んでいくと、チラホラと家が見えてくる。
 向こうから声がした。声に導かれるように進むと、村……いや、規模的にはもう街と呼べるような家々が並んでいた。

 「こんな街、前はなかっただろ。おいおい、店まであるじゃねえか。だが……その割には人がいないな」

 俺がいる場所から商店がいくつか見えたが、どこも閉まっている。

 「おっ、お兄さんも観光かい?」
 「観光? おいおい、観光するような名所がこんな辺鄙なところにあるのかよ」
 「なっ……本気で言ってんのか? ここを知らないなんて、田舎にでも住んでたのかい」
 「な、なに言いやがる! 俺は王都暮らしだぞ!田舎モンなんかじゃねえよ」
 「なんだ、王都住みかい。観光じゃないなら、なんだってこんなところに」
 「色々と事情があるんだよ。それより、観光ってなにが見られるんだ?」
 「アイテル様が切り裂いたっていう大岩さ!あんたも見たら驚くぜ!」
 「アイテルが斬った大岩だと?」

 あいつにそんな、トンデモ技があったか?
 てかよぉ、そんなもんでここが観光地になってるなんて、アイテルのやつは知ってんのか?

 「……急ぐ旅だが、ちょっとだけ寄り道するか。俺が知らねえってことは、あいつに会う前の話だよな」

 あいつは自分がやったことを自慢するようなやつじゃねえからな。

 ……にしてもだ。
 この土産物はなんとかならないのか?
 斬った大岩を再現したまんじゅうだの、アイテルを模した人形焼だの。
 おまけにあいつが使ってた剣そっくりな模造刀だの。
 観光地にしたって他にやり方あっただろうに。

 「どれもこれもアイテルのばっかだな。なんで俺たちのは無いんだよ、ったく……」

 世界を救った勇者様なのはわかるけどよ。

 「それにしては肝心の観光客がいないようだが?」
 「どうもみんな怖がってるみたいでね。こっちに落ちてくるんじゃないかって騒ぎになってからは、あっという間だったよ」
 「まあ、そうだよな……」

 ここまで明確に魔王の星を恐れている人と会うことはなかった。
 それはたぶん、アイテルの恩恵があるからだろうな。
 だが、王都から離れれば離れるほど、アイテルの……勇者の威光も薄れていくんだろう。

 「お前は逃げないのか?」
 「俺はアイテル様を信じてるからな。それに、誰かがここを護らないとさ」
 「……そうか」

 ここまで信じてもらえるんだ。
 アイテルのやつも喜ぶだろうな。

 「で、その斬った大岩ってのは何処にあるんだ?」
 「任せてくれ、しっかり案内するよ」

 連れて来られた先にあったのは、俺の4、5倍はありそうな巨大な岩。

 「おい、これって……」
 「これがかの勇者アイテル様が魔物を切り裂いた際に衝撃で一緒に斬られたという大岩だ! 凄いだろう?」

 ――こいつは、俺が砕いた岩じゃねえか!?

 覚えてるぞ、この岩!
 確かあのときは酔っ払ってたんだよな。
 酔った勢いでつい力を使っちまって……。

 「さ、この岩の間を通ってみてくれ!」
 「何か意味があんのか?」

 男は何も言わず、ただ前に進むよう促すだけ。
 ったく、もう少しだけ付き合ってやるか。

 「……これでいいのか」
 「感じただろ?」
 「はあ?」
 「そこを通ると、身に降りかかる災難を振り払えるアイテル様の加護が得られるんだ! もう、身体が変わったのを感じるだろ?」
 「お、おう、そいつは……すごいな」

 いいように扱われてるな。
 そんなご利益があるとも思えないが、観光地なんてこういうもんか。

 「……なあ、これって本当にアイテル……様が砕いた大岩なのか?」
 「もちろん! 村の者がアイテル様の目の前で大岩が砕ける瞬間を見たって証言したんだ!」
 「あー……」

 確かに、俺が砕いたときに近くにあいつもいたし、そう見えてもおかしくなかったかもしれない。
 間違ってないんだ、間違ってないけど、アイテルがやったことではないんだよな。

 「はあ……まあいいか……」

 俺が砕いたって伝えたところで意味はない。
 アイテルだからこそ、ここまで観光地として発展してるんだろうし。
 知らなくていい真実があるとしたらこれか。

 「そういえばお兄さん。今日の宿は決まってるのか?よかったら、いいところ紹介するよ!」
 「ああ、そうだな」

 さすがに観光地なだけある。
 石ころ騒ぎで客も少ないだろうし、少しは奮発して――なんてことを思っていたそのとき。
 目の前を数台の場所が通り過ぎていった。

 「……ん? なんで馬車が?」
 「ここは観光地ですからね。王都からここまで馬車が出てるんですよ」
 「え?」
 「もしかして、馬車を使わずに来たんですか? この距離を?」
 「ウソだろ……」

 俺、ここまで来るのにそこそこ時間使ったぜ?

 「はあ、ホント。快適な世の中になったもんだ……」


EPISODE6 ガイアスってあれでしょ……


 勇者アイテル。
 魔法使いネレウ。
 戦士ガイアス。

 魔王を討伐した勇者パーティー。
 その名前は誰もが知っているが、その功績や軌跡を知っている人間はごく僅かだ。
 そのわかりやすい例が前の観光地だな。
 俺たちが成したことは“俺たち”ではなく“勇者”の成したことになっていた。
 それだけ勇者という言葉は人々の希望になり、平和の象徴として描かれるようになったんだろう。

 「だからこそ、今の平和があるんだよな」

 全部が全部、アイテルがやったことじゃない。
 それ自体は別に気にしてない。
 俺が気にしてるのは、別にある。

 ――俺はなにか残すことはできたのか?

 アイテルと少なくともネレウは名を残すだろう。
 ただ、俺はどうなんだろうな。
 生きた証を残すことが、できるのかどうか。
 俺は馬車に揺られながら、そんなことを考えていた。

 「ホント、あいつはすごいな……誰もが頼りにするってのも、やつの人徳なんだろうが」
 「ヤツって誰のことだい?」
 「ああ、いや……」

 馬車に乗っていた男が反応する。
 乗客は俺を合わせて4人。
 俺が乗ってるのは、観光地から故郷の近くを通る馬車だ。
 世の中には珍しいやつもいるらしく、わざわざ俺の故郷まで立ち寄るとかなんとか。
 だから、こういう馬車も数は少ないがいくつか出ていると聞いて乗り込んだんだ。

 「勇者様ってのは本当に凄かったんだなって」
 「そりゃそうですよ! アイテル様なんですから!」
 「お、おう」

 返事をしたのは男ではなく、別の乗客の女だ。

 「アイテル様は勇者としてはもちろん王としても世界の復興に力を注ぎました。今の生活があるのはアイテル様がいてこそですよ」
 「そ、それは――」
 「確かにアイテル様は素晴らしいよ。でも、ネレウ様だって!」

 と、また別の乗客が話に入ってくる。

 「ネレウ様はその知識を広めるために学校などの教育や施設に力を注いでくださいましたよ。みんなが正しい知識を得られる体制を整えたのは間違いなくネレウ様です!」
 「ま、まあ、そうか」

 なんなんだ、こいつらは。
 勝手になんか盛り上がって話し始めたし。
 あの観光地に足を運ぶくらいのやつらだからアイテルたちのことが好きなんだろうけど。

 「な、なあ、ガイアスはどうなんだ?」
 「え?」

 この空気に耐えられず、思わず自分のことを聞いてしまった。
 まさかアイテルたちのことばっかりで俺の名前が1回も上がらないんじゃ、言いたくもなるだろ。

 「ガイアス様は……とても強い方ですね」
 「なんでも暴れまわっていたガイアス様をなだめて更生させたのがアイテル様だとか」
 「はあ!?」
 「え? 私はネレウ様の魔法で善良な心を取り戻したって聞いたわよ」
 「なにぃ!?」
 「俺はアイテル様との力比べに負けたから従ったって聞いたぞ」
 「……」

 俺って、ここまで曲解されてたのか。

 「どれも違うぞ! お……ガイアスは魔王のやつが気に食わなくて、たまたまアイテルと標的が同じだったから一緒に旅してたんだよ!」
 「アイテル様でしょ」
 「お、おう。アイテル様だな」
 「ガイアス様は確かに強いかもしれませんけど、おふたりに比べたらちょっと……」
 「昔話はもういい。今はどうなんだよ、今は」

 無理やり話題を変えたが、俺は直ぐに後悔した。

 「今は団長の立場を利用して、怠慢な生活をしてるそうですよ」
 「酒場に入り浸って仕事もまともにしてないって聞いたことがありますね」

 そこはちゃんと伝わってるのかよ!

 「アイテル様もお優しいですよね。私ならいくら同じパーティーだった人でも愛想を尽かしそうですけど」
 「本当ですね」
 「……確かにな」

 改めて言われると本当にそうだ。
 アイテルが俺のことを城に置いてくれてるのはあいつが優しいから。
 俺みたいなのでも放っておけないからだろう。
 実際、あいつと最初に会ったときもそうだったな。
 お前なんかに魔王は倒せないってケンカを売った俺に

 「じゃあ、僕と一緒に倒しに行かないか?」

 そう言って手を差し伸べてきた。
 勇者なんて呼ばれて調子に乗ってる野郎の鼻をへし折ってやろうと思ってた俺は、完全に戦意を削がれたのを今でも覚えてる。
 ホント、あいつは昔から変わらないよな。

 「それに比べて、俺は……」

 ふと空に目をやる。
 そこには今にも落ちてきそうな石ころが我が物顔で居座っていた。


EPISODE7 本当の最後の戦い


 俺はようやく故郷に到着した。

 「さて、行くか……」

 俺は深呼吸して村へと向かう。
 そこにあったのは昔となにも変わらないムカつくほどそのままの光景が広がっていた。

 「まるで時間が止まってるみたいだな」

 ここまでの道のりと比べてしまう。
 まあ、だからこそ俺はこの村があまり好きじゃない。閉鎖的でいつまでも殻に閉じこもって――。
 そのとき、俺の姿を見かけた村のやつが駆け寄ってきた。

 「お前、ガイアスか?」
 「……ああ、帰ったぜ」
 「城に住んでるって聞いてたけどな。もしかして、追い出されたか」
 「ちげえよ! そんなことより、村長は?」
 「村長なら集会所にいるぜ。今ちょうど会議をやってんだ」
 「そうか、ちょうどよかった」

 俺は記憶を頼りに集会所に急いだ。

 「入るぜ」

 そう言って家の中に入ると、村長や村の年長者たちが雁首揃えていた。

 「おお、ガイアスか。久しいな」
 「挨拶はあとだ。伝えなきゃいけないことがあってここまで来たんだから」
 「おい、村長に対してその態度はなんだ!」
 「よい。で、話とは?」
 「空にある魔王の星のことは知ってるな? あれがここに落ちてくる。さっさと避難しろ」
 「……アレがこちらに向かってることは、我々も把握している」
 「なんだ、知ってたのかよ。だったら話は早い。すぐに――」
 「いや、我々は村と運命を共にする」
 「はあ!?」

 村長の口から出た答えに驚いてしまう。
 いくらなんでも、それはないだろうが!

 「バカか! ここは由緒正しい場所でもなけりゃ神聖な地でも無いんだぞ! ただの隠れ家みたいなもんだ! そんなもん捨てて、よそに新しい隠れ家見つければいいじゃねえか!」
 「動かぬ」

 他のやつらも村長に従うように首を横に振った。
 相変わらず頑固な奴らだ。

 「亜人が今も避けられてると思ってんのか? もう時代は変わったんだ。ここに縛られる必要なんかない。俺を見ろ、俺はずっと王都で暮らしてるが、そんな扱い受けたことないんだぜ?」

 この旅の中で俺は一度も恐れられたり指を刺されたりしなかった。
 こんな見た目だ。普通は目立って仕方ないってのにそれを言うやつはいなかったんだよ。

 「いい加減、こんな古臭い場所に籠もらず王都に出てこいよ! なんだったら、俺が住む場所を用意してやっても――」
 「本当にそうか?」
 「……なにがだ」
 「お前も捨てられて村に戻ったのではないのか?」
 「は?」
 「お前のことだ、勇者殿に見捨てられたのだろう。いつ落ちてきてもおかしくない場所にお前を使いに寄越すということは、我々共々葬る気やもしれぬ」
 「ち、違えって! そんなんじゃねえ!」
 「では、なぜお前が来た? 文の一つでも寄越せば済む話だろうに」
 「うっ……」

 い、言えねえ。俺のせいでこの村が標的になって、それを注意する手紙を出し忘れてたなんて。

 「外で生きていく術を我々は持たぬ。ならば、この場で――」
 「いい加減にしろよ! そんな逃げてばっかりだからこんな僻地に引きこもることになっちまうんだ!」
 「……」

 こいつらはもう梃子でも動かないだろう。
 そういう覚悟を決めた目をしてやがる。
 もう、俺にできることはないのか? こいつら全員ぶん殴って移動させるとか……まてよ。
 そこで俺は、あの大岩を思い出した。

 「よし、決めたぜ。俺はお前らと一緒にここに残る」
 「そうか」
 「だが、ただで死ぬつもりはねえ。あの石ころは、俺が砕いてやるッ!」

 村長たちの表情が変わった。

 「な、なにをバカなことを。いくらなんでもあれを砕けるわけが」
 「どうせ死ぬなら一緒だろ? でもって、約束しろ。俺が石ころを砕いたら、俺たちが救った世界を! その目に焼きつけろ!」
 「ガイアス……」
 「山砕きのガイアスの二つ名が、伊達じゃないってこと、証明してやるよッ!」

 俺は村長の家を飛び出した。
 向かう先は山の頂上。
 あそこが一番、星に近い。

 山を登っていくとだんだん魔王の星が近づいてくる。
 真正面から向き合うと、本当にでかい。
 拳を握る手が、震えていた。

 「ここに来て、ビビッてんのか? この俺が?違う、そうじゃねえだろ。俺は今、魔王とやり合ったあのときみたいに、昂ってるんだ」

 すべての魔力をこめた拳を引き、狙いを定める。

 「俺はお前をブッ飛ばして、“星砕きのガイアス”になってやるぜッ!!」
 「――それはいいね。僕たちにも手伝わせてくれないかな」
 「っ!?」

 急に聞こえてきた聞き馴染みのある声。
 そいつは、自分がどれだけボロボロになっても、平然と手を差し伸べる、そういう奴だった。

 「ア、アイテル……どうしてここに!?」
 「ちょっと、私もいるんだけど?」
 「ネ、ネレウまで!?」

 訂正。おまけ付きだった。

 「ほんっとバカね。気づかれないって思ってたの?」
 「へ?」
 「馬を使おうとしたんだってね。何か事情がありそうだったって報告が上がってきたよ」
 「そういうの向いてないのに、いい加減学習したらどうなの?」
 「う、うるせえ!」
 「さて、君が放置してきた様々な問題についてのお説教は後でネレウにしてもらうとして。……まずはアレをなんとかしよう」

 アイテルが魔王の星を睨む。
 その横顔は、勇者と呼ばれ、魔王との死闘を繰り広げたあのときと同じだった。

 「なんとかできると思うか?」
 「さあ、どうだろうね。でも、3人いればなんとかなるんじゃないかな。これまでだってそうだったし」

 俺とアイテルは、同時にネレウへと振り返る。

 「ハイハイ、どうせそうなると思ってたわよ。無計画なんだから……」

 ネレウは不満を口にしてはいたが、その表情は満更でもないとでも言わんばかりに微笑んでいる。

 「あの質量の物体を砕いたら、どうなるか分かる?砕けた破片が散らばって落ちるだけでも凄い衝撃なの。下手すれば、星が山に直撃するより広範囲に被害を与えてしまうのよ」
 「策は?」
 「デカい獲物はあなたの担当。だから、私の魔力をあなたに分けてあげる。あの岩を砕いた時と同じ感覚でやれば、理論上はできるはずよ」

 もうずっと前の話だってのに、覚えてたのか。

 「何よ、人のことジロジロ見て」
 「なんでもない」
 「アイテルは星の欠片をよろしく」
 「え、それだけ?」
 「簡単でしょ、勇者様」

 アイテルはうなずくと、腰にはいた鞘から聖剣を抜き放つ。

 「はは、昔を思い出してきたよ。さあガイアス、あの石を砕いて、魔王との戦いに終止符を打とう!」
 「応よ!」

 ああ、そうだった。
 俺は、こういう男だったんだ!

 「エェェェテル・シフトッ!!」

 ネレウが呪文を唱えた途端、俺の体の奥底に眠っていた魔力がネレウの魔力と共鳴して、うねりを上げた。
 俺はそれをひとつにまとめ上げ、岩山に並ぶ大きさの魔拳を出現させた。

 「ネレウ! 俺を飛ばせ!」
 「いくわよ! レビテェェェションッ!!」

 全身を浮遊感が包みこんだ。
 次の瞬間には、俺は魔拳とひとつになって、魔王の星目掛けて一直線に飛び立っていた。
 距離が一気に縮まっていく。
 太陽を背に怪しげな光を放つソレは、余りにも大きい。
 だが、今の俺に砕けない物はねえ!

 「魔王よ! このガイアス様が、因縁を断ち切ってやるぜッ!」

 これが、全身全霊、最強の拳<俺>だ!


EPISODE8 残された者の旅路


 ――これは、世界を救った三人の若人の物語である。

 「おじいちゃん、その話は飽きたって! 勇者アイテル様は偉い人だってもうわかったから!」

 椅子に座った男の子がつまらなそうに足をぶらぶらさせている。
 話を聞かせていた老人はやれやれといった顔をしていた。

 「それよりもさ! ぼくがききたいのは!」
 「ま、魔物が出たぞ!」
 「お、おい、早く逃げるんだ!」
 「自警団はなにやってんだ! じいさんたち早く逃げろ!」
 「は、はい!」
 「おじいちゃんはやく!」

 男の子が手を引っ張って老人を急かすが、そこへ魔物が立ち塞がった。

 「う、うわあっ!?」

 追い詰められた2人は、逃げることも忘れてその場に倒れてしまう。

 「お、お前だけでも逃げなさい!」
 「いやだ! おじいちゃんをおいてけないよ!」

 男の子は木の枝を拾って魔物の前に立った。

 「グルル……!」
 「こ、こわくなんかないぞ! ぼ、ぼくだってえいゆうみたいになるんだ!」

 男の子は木の枝を振り回すが魔物はそれを容赦なくへし折る。その勢いで男の子は倒れ込んでしまった。

 「うわっ!?」
 「や、やめ! その子だけは!」

 魔物が襲いかかろうとした瞬間、老人は男の子を庇うように覆いかぶさり、そして――

 「ガアっ!?」
 「……えっ?」

 魔物が低い声を上げながらその場に倒れ込んだ。
 老人の視線の先にはひとりの男が立っていた。

 「ったく、百年経っても魔物はいなくならねえな。ホント困ったもんだぜ」
 「あ、あなたは……?」
 「ん? 俺か? ただの旅人だよ。悲鳴が聞こえてきたんで何事かと思って見に来たんだ」
 「あ、ありがとうございます!」
 「いいってことよ」

 老人が立ち上がると男の子も立ち上がった。

 「お前、ケガはないか?」
 「う、うん……」
 「じいさんを守ろうとしたんだな、偉いぞ」
 「でも、かてなかった……えいゆうみたいにはなれなかったよ……」
 「英雄? 勇者じゃなくてか?」
 「そうだよ、えいゆう! ほしくだきのえいゆうガイアス!」
 「はっ、はは……英雄か」
 「なんでわらうの! ガイアスはすごいんだよ!おっきなこぶしになって、ひとりでいんせきをやっつけたんだから!」
 「ひとりだぁ? また変に話が変わってるな……ま、たまにはいいか」
 「どうしたの?」
 「なあ、ちょっと腹減っててさ。美味い飯が食えるところ知らねえか?」
 「でしたら、ぜひうちに来てください。さきほどのお礼を!」
 「おっ、そうかい。だったら甘えようかな。ついでに」
 「なに?」
 「聞かせてやるよ。ガイアスってやつがどんな男だったのかをな」
 「ホント! おじさん、がいあすさまのことしってるの!」
 「ああ、知ってるぜ。たぶん、この世界にいる誰よりもな」

 男は空を見上げる。

 「やっぱ、空はこうでなくっちゃな。そうだろ。アイテル、ネレウ――」

 そこに隕石はなく、どこまでも続く青い空が一面に広がっていた。




■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
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