ぼくんち

Last-modified: 2008-11-14 (金) 15:35:10

ぼくんち/西原 理恵子

555 :ぼくんち1 :04/03/23 19:36 ID:???
登場人物

二太 ……不幸ながらも明るい少年。馬鹿だが深読みし過ぎる癖もある。
一太 ……二太の父親違いの兄。弟と姉を守ろうと必死に大人になろうとする。
かの子……一太、二太の父親違いの姉。風俗嬢。楽天家。
母ちゃん…無類の男好きであちこちで子供を作っているが失踪癖もあり子育ても放棄している。
こういち…となり町の不良。シンナーを売り生計を立てている。一太二太を可愛がる?姉の夢を叶えてあげる事が夢。
姉ちゃん…こういちくんのお姉ちゃん。こういち君と瓜二つ。風俗嬢。彼女の夢は南の島で自給自足でのんびり暮らす事。



556 :ぼくんち1 :04/03/23 20:27 ID:???
彼等の住む町は山と海しかない静かな町で端に行けば行くほど貧乏になる。
その一番端の家に住む一太とニ太。母ちゃんは3年前にお買いものに行ったっきり帰ってこない。
そしてある日、お母ちゃんがキレイな女の人を連れて帰ってくる。なんとその女性は二人の姉だった。
名前は、かの子。またしても父親違いの姉のようだ。
「なんで3年家出して姉つれて帰ってくるんや!? 普通こういう場合妹か弟をこさえてくるもんやろ。」
と一太が怒鳴るが母は真面目に取り合わない。
それでも母とは違いとても優しい、かのこ姉ちゃんに一太とニ太が懐くのにそんなに時間はかからなかった。
そしてまた、当然のように母親はよそに男を作り失踪してしまう。
落ち込む一太とニ太に「そんなら今日からあたしがあんたらのお母ちゃんや。」と笑う、かの子。
こうして一太、ニ太、かの子の3人の生活が始まる。

2ヶ月経ったある日、ニ太が偶然知らない子供が母ちゃんをママと呼んでいるのを見かけてしまう。
かのこの前で泣き叫ぶニ太。
そんなニ太を全力で殴り叱り飛ばす、かのこ。「泣いたら腹がふくれるか!? 泣いてる暇があったら笑え!」
この日、ニ太は鼻血を流しながらも笑う事を覚える。今後の辛い人生のためにも。
かの子が二人を風俗で養ってくれているがそれが嫌な一太とニ太は少しでも自分で金を稼ごうと
町の雑用をこなし小銭を稼ぐ。
楽しくも馬鹿馬鹿しくも忙しい充実した日々を過ごしていると、ある日、ぷいっと母ちゃんが帰ってくる。
何事もなかったように母を迎える、かの子とニ太だったがそんな二人の思いを裏切るかのように翌日、
母は家の権利書を持って再び失踪してしまう。
こうしてニ太たちは「ぼくんち」を追い出される事になった。



558 :ぼくんち2 :04/03/23 23:02 ID:???
家を追い出されてしまった3人だったが、運良く、かの子の知り合いの「いい人」がマンションを用意してくれた。
以前の家より広く、寿司も食べられて大喜びのニ太だったがなぜか一太に元気がない。
どうやら、かの子姉ちゃんの「いい人」に嫉妬しているようだった。
一太は時折「いい人」に殴られて顔を腫らして帰ってくる、かの子を見ながら
自分の力だけでかの子姉ちゃんを養いたい、という思いを強めていく。

そしてある日、一太は悪事に手を染めてでも金を集めようと一念発起。
近所の造船所からペンキの薄め液を盗んできて、ビンに詰めて売り出そうと考える。
だが、自分達ではどうする事も出来ないので仕方なく一太と二太の二人は隣町で一番有名な不良、
こういち君にシンナーを売りに小舟に乗り隣町の港へ出かける。
しかし当然、シンナーを売りにきた子供など相手にするはずなく一太を海に殴り飛ばす、こういち君。
海で溺れる一太を必死に船上のニ太が救出する。
こういち君はそんな二人におかまいなしに二人が持ってきたシンナーを海に流しながら語りかける。
「シンナーはとても体に悪いのよ。吸うと成長止まるんだから。
そしたら喧嘩に勝てないでしょ?君たち今悔しい?がんばって大きくなってね。」
そう言うと持っていたタバコを海に放り投げ、海の上をただようシンナーに引火させる。
文字どおり火の海を逃げまどう一太とニ太。
そんな二人をこういち君はいつまでも笑顔で手を振っていた。
その日から一太とニ太はこういち君とも微妙に顔見知りなってしまった。



559 :ぼくんち3 :04/03/23 23:15 ID:???
それから、こういち君と銭湯で人生のヒントを教えてもらったり、トルエン市場に参入してたのがバレて、
ボコボコにされたりしながらも不思議な友情を築いていった。
そしてある日、ついに一太が姉に食わせてもらっている今の状況に耐えきれずマンションを出て、
こういち君のところで世話になりはじめる。
ガソリン泥棒など、こういち君の元で次第に生きる力を身に付けていく一太。
そんな中、こういち君の元へ、こういち君のお姉ちゃんから電話が入る。
仕事を手伝ってほしいそうだ。
こういち君のお姉ちゃんはほとんど逆レイプまがいの暴力ホテトルという不思議な店を一人でやっている。
その手伝いにかり出される一太。こういち君と共に、逃げ出そうとする男が逃げられないよう家の扉を押さえつける。
仕事も一段落し、3人で焼き肉屋で打ち上げ。
こういち君のお姉ちゃんが自分の夢は南の島を買ってノンビリ暮らす事だと幸せそうに語る。
こういち君も夢を語っている時のお姉ちゃんが一番好きだそうだ。

ある日、港で松じいちゃんという人の死体があがった。たぶんこの人がこういち君のお父さんなのだと言う。
こういち君は小猾く、小心者の父が嫌いだった。だがなぜこんなことになってしまったのか、と時折思いふける。
自分も働き者の漁師になれたのかもしれないのに、と。
その日から、こういち君は特に理由もなしに父の船を使い、漁を始めてみることにした。



564 :ぼくんち4 :04/03/24 13:32 ID:???
道楽で漁を始めたこういち君。その帰り道、裸足でゴミ捨て場に座り込んでいた女が気になり声をかける。
外人になりたいのだと言う。外人になれば毎日嫌な事は何一つない、そう女は信じているのだ。
こういち君は、たぶんこの女も何か嫌な事から逃げているのだろう、と悟り、女に「マリア」という名前を付けてあげる。
だが、女は喜び、こういち君のあとについてきてそのまま家に居座ってしまった。野良なんかかまうんじゃなかった、と後悔するこういち君ではあったが
ひたむきにこういち君を慕うマリアに少しずつ恋心を抱くようになる。こういち君は少し幸せになった。

この街には医者がいない。
だからこの街の人間はどこかしら悪くても我慢してしんどい、しんどいと言いながら生きている。
ある日、こういち君のお姉ちゃんが死んだ。
しんどい、しんどいと一言も言わなかったのできっと人の何倍も我慢したのだろう。
こういち君は悲しみの中に閉じこもった。
「姉ちゃんの夢を叶えるのが俺の夢だった。俺は姉ちゃんの夢が叶わなくなるなんて一度も思わなかった。
俺はどうすればいい?姉ちゃんの夢のために俺はこの町で悪い事を沢山した。そしてこの町をもっと悪くした。
俺のせいだ。姉ちゃんは悪い町に殺された。俺が殺した。俺が殺した。俺がねえちゃんを殺した。」
と、自分を責め続けるこういち君。
 
 悲しみに沈むこういち君。そんなこういち君にマリアはある提案をする。
「小さな女の子をもらおう。あんたの姉ちゃんは娼婦やったから母親が娼婦で捨てられた小さな女の子をもらおう。
 この街やもん、探したらそんな女の子いっぱいおるわ。そんでな、引き取って大事に大事に大事に育てよう。
 そんでその子が大きくなって娼婦になってもずっとずっと愛し続けよう。」
 翌日、街をさまよう女の子が一人見つかった。こういち君に家族が出来た。



568 :ぼくんち5 :04/03/24 21:39 ID:???
そしてそれからしばらく月日が流れ、こういち君は子分の一太に商売の全てを任せ、
自分は本格的に海に漁に出るようになった。
一方、商売を任された一太。なんとか苦労しながらも次第に商売がうまくなっていく。
そしてある日、一太は溜まった金を見てある事に気付く。
このまま仕事がうまくいき、あといくつか大きな商売ができれば以前、母親のせいで手放す事になった家を買い戻せる。
家を取り戻せたら。ニ太と姉、3人で自分の家で鍋を食べる事を夢見る一太。
そして自分達の家を取り戻すべく嫌な仕事にも進んで参加し、人を傷つけていく一太。
だが、ある日。やはり一太に完全にこういち君のかわりが務まるはずもなく腕の立つやくざに殺されかける。
しかも不幸にもその日は年に何回もない大きな商売の売上金を持っていた。
殺されかけながらも金を必死で手放さない一太。
だが、腕の骨と足の骨を何本か折られた辺りで恐さのあまり、金を差し出してしまう。
助かった安心からかそのまま自分で漏らした小便の中、失意の中、気絶。

翌日、病院で療養する一太の元にこういち君が現れ、「あの縄張りは昔自分が人から取ったものだ。
だからいつかは誰かに取られる。気にするな」と慰める。
だがそんな訳にはいかない。こういち君からもらった縄張りを取り戻すため。
自分達の家を取り戻すため。傷を治す事なく地獄の日々に身を投じる。
やらなければやられる。こっちがやられる前にやり返す。毎日がただその繰り返し。今度捕まったら殺される。
多分明日かあさって、自分は誰かを殺すのだろう。あまりの恐怖に震え、名も無き路地で凶器を抱いて眠る一太。
そんな一太に誰かが話しかけた。目を開けるとそこに立っていたのは、かの子ねえちゃんだった。



569 :ぼくんち6 :04/03/24 22:10 ID:???
かの子姉ちゃんは一太に以前自分達が住んでいた家に忍び込んで家族で鍋をしようと提案する。
いつの間にか自分の夢が姉ちゃんにバレていた事が気恥ずかしかったが、
言われるままに、かの子の後をついていく一太。
ニ太とかの子姉ちゃん。3人で楽しく鍋をつつく一太。
そして鍋を食い終わり、何も言わず家に火を放つかの子姉ちゃん。
3人で家から逃げ出し、遠くの丘。なぜ、と疑問を投げかける一太にかの子姉ちゃんは
「見てみ。燃えたらなくなるやんか。なんであんなもんに一生懸命に。
今が嫌やったら逃げたらええやないの。」と答える。
いつのまにか、かの子ねえちゃんより自分の方が背が高くなっていた事に気付いた一太はその夜、そのまま街を出た。

一太は見知らぬ街に流れ着き、その街のあまりの凄惨さに呆れ果てる。
この街には本物のおでん屋が必要だと感じた一太はその町でおでん屋さんの屋台を開業。
そしてそれからまたしばらくして、ニ太とかの子の元に一太から手紙が届いた。
「僕は元気です。おでん屋をはじめる事にしました。姉ちゃんも体に気をつけて。ニ太にもよろしく。」

そしてある日、やっと街に慣れはじめた一太のおでん屋台が無情にも放火される。
だが、落ち込む暇もなく、再びおでん屋台を再建するために日給いくらの仕事をこなす一太。
そんな中、ニ太とかの子の元に再び一太から手紙が届く。
「姉ちゃんへ。おでん屋は順調です。
ただこの街は、ずるくて運がなくて弱い人ばかりの街で少しだけ慣れるのに時間がかかりました。
姉ちゃんへ。少ないですけど二万円入れときます。また溜まったら送ります。
ニ太へ。嘘をつかない人間になって下さい。」
そして、それから一太から手紙が届く事は二度となかった。



570 :ぼくんち7 :04/03/24 22:11 ID:???
一太の手紙を読んだかの子姉ちゃんはこのままではこの街にいるせいでニ太まで不幸になるのではと心配し、
ある日、ニ太を「宝物を掘りにいこう」と、住んでいた家の焼跡に連れ出す。
しかし、いくら掘ったところで宝物は出てこない。あきらめかけたその時、
かの子姉ちゃんはニ太に「明日親戚のじいちゃんが来るからもらわれていきなさい」と告げる。
突然の別れの言葉に呆然とするニ太。姉ちゃんは背を向けたまま宝物を探し、地面を掘っている。
すると姉ちゃんは小さな声で、
「姉ちゃんはここにいるから。姉ちゃんはタイムカプセルやから。
いつか一太とニ太に一緒に迎えにきてな。」と泣き出した。

翌日、ニ太は自分を迎えにきた親戚のおじいちゃんの漁船に乗り込む。
どんどん街が小さくなり、ついには見えなくなっていく。
いつまでも寂しそうに街の見えていた方向を見つめるニ太。
そんなニ太を「寒いだろうから中に入っとけ」と船内に誘う親戚のじいちゃん。
そんなじいちゃんにニ太は笑う。
「じいちゃん。ぼく知ってんで。こうゆう時は笑うんや。」