イティハーサ

Last-modified: 2008-10-15 (水) 22:05:29

イティハーサ/水樹和佳子

135 名前:イティハーサ1 投稿日:04/06/21 02:59 ID:???

氷河期を終えた、およそ1万2千年前の古代日本。
「目に見えぬ神々」は人々に知恵と力を授け、人々は「真言告(マコトノリ)」を唱えることで
その知恵を実現した。
目に見えぬ神々を信奉する村の少年・鷹野(タカヤ)は、ある日川で赤児を拾う。
生まれたばかりで捨てられた赤児は弱り、死にかけていたが、村人の真言告の声明に
よって生命を救われた。
またこの時、巫女による予言が伝えられた。
「外國(トックニ)に目に見える神々があらわれて、世は大いに乱れるであろう」
赤児は巫女の神託により「トオコ」と名付けられ、鷹野の妹として育てられることになった。


7年後。鷹野は15歳に、トオコは7歳になっていた。
ある日鷹野は夢を見た。村の少年たちが7年前の巫女の予言を繰り返し、外國から海を
越えてやってきた目に見える神々が子どもたちを攫うと言う。振り向いた鷹野の目に入った
のは村の少年ではなく異形の神々の姿。異形の神々は「トオコは死ぬぞえ」と予言する。


目を覚ました鷹野は、夢に不安を覚えながらもいつもの村の仕事に向かった。
兄貴分の青比古(アオヒコ)・トオコと一緒に、真言告の声明に使う陽石(アカイシ)と陰石(カゲイシ)
を探す仕事である。
陽石は病気を治したり植物を成長させることに使われ、陰石はその反対に人を呪ったり
病気を重くしたりすることに使われる。ゆえに、陰石の真言告は巫女とその伝承者しか
伝授されず、トオコは村人からその巫女としての才があると見られていた。
山に入った鷹野たち3人は、ふと村の方角に煙が上がっていることに気付く。
先に村へ取って返した鷹野と青比古の目に入ったのは、燃え上がる村と皆殺しにされた村人
であった。虫の息であった村人のひとりによって、外國の神々が子どもを攫ったと告げられる。


136 名前:イティハーサ2 投稿日:04/06/21 03:01 ID:???

一方、後から2人を追いかけていたトオコは、大勢の足跡と、それが鳥居の下で突如
消え失せているのを見つける。
鳥居の傍には、やはり瀕死となった巫女が倒れていた。巫女はトオコに、外國の荒ぶる
神々とその信者が、突如鳥居から現れ、また戻っていったことを告げる。
鳥居は目に見えぬ神々が行き来するために作った通用門。そこを出入りする外國の神々も
また、人ならざる神であるに違いなかった。彼らは「銀角神・鬼幽(キユウ)」の一派を名乗り、
子を差し出すこと、自分たちに仕えることを求めたが、村人が断ったため、皆殺しにしたのだ。


トオコを心配して山に戻った鷹野は、トオコと共に巫女の最期の言葉を聞く。
村に伝わる目に見えぬ神々のご神宝と知恵の書が樹の根元に埋めてあること、
そしてその知恵をまずはトオコに伝えること、がその内容であった。
この遺言は青比古に伝えるように告げられたものであったが、鷹野は合流した青比古には
ご神宝と知恵の書のことのみを伝え、トオコの件については口にしなかった。


夜になり、ご神宝を探す3人を襲う者達があった。襲撃者は3人に「亜神(アシン)の者か、
威神(イシン)の者か」を問う。通じず戸惑う3人に襲撃者は、亜神である律尊(リツソン)の手の者で
あるとを名乗る。問う青比古に、目に見える神々には亜神と威神があること、亜神は善を好み
聖を欲し平和を望み、威神は悪を好み魔を欲し破壊を望むと答える。
問答するうちにご神宝を探して根元を掘っていた大木が倒れ、その場はそれで仕舞いとなった。


137 名前:イティハーサ3 投稿日:04/06/21 03:02 ID:???

翌日、襲撃者のひとり、桂(カツラ)という女性に律尊との謁見を持ちかけられた青比古達は、
律尊に、なぜ目に見える神々がこの土地へ渡ってきたかを問うが答えは得られない。
一方、この会見で律尊の霊気に触発されたトオコは、自分が攫われる姿を幻視する。
怖がり、鷹野に抱きつく透コと、透コを守り抜くことを誓う鷹野。
桂は青比古達に共に闘うことをもちかけるが、青比古は悪徳にしか快楽を見出せない者
たちを哀れに感じると言う。
そんな青比古に、桂は反発しながらも惹かれるものを感じるのであった。


数日後、律尊の一団に食中毒が発生した。
威神の脅威からは守ってくれるが、人の病には手出しができぬという律尊に代わって、
青比古と鷹野は真言告で人々を癒す。
まだ真言告を習っていなかった透コも、2人の真言告を聞き覚え、2人を助けた。
トオコを幸せにするためにも真言告からトオコを遠ざけたいと思っていた鷹野は、
どんなに止めようと思っても止められないトオコの才能に、運命を感じるのであった。


一団が助かったその夜。倒れるように眠る青比古の元に律尊が現れる。
あらためて共にいくことを拒否する青比古に、律尊が覆いかぶさる。
目に見えぬ神々の秘密を求めて律尊と共に行くことは青比古の意志だ、
と意識に植え付けられた青比古は、桂たちと共に律尊についていくことを決める。
威神と闘うことを望んでいた鷹野は、誰よりも強くなることを決意する。


138 名前:イティハーサ4 投稿日:04/06/21 03:05 ID:???

生まれ育った村を離れ、桂たちと闘いの旅に出た3人。
ある日トオコは鳥を握り殺す一狼太(イチロウタ)を目撃する。それに気付いた一狼太に乱暴に
口止めされながらも、必死の目に浮かぶ涙に誰にも言わないことを誓うトオコ。


トオコは自分を探しにきた桂や鷹野のところに戻るが、そこで「神鬼輪(ジンキリン)」をつ
けた威神の戎士と行き会う。神鬼輪は威神がその御力ではめ込むもので、一度つけられ
ると死ぬまで外せず、手傷を負うと意志のない獣となって人に襲いかかる。
今回は威神の戎士を倒したものの、威神の後手に回ることに苦慮する桂たち。
その夜、トオコは自分が一狼太のように小鳥を殺し、その手で命が消えていく感触を愉しむ
夢を見て恐怖するのであった。


鷹野が桂について闘いの技量を挙げる一方、青比古は自分の村から持ち出してきたご神宝と
知恵の書の秘密がどこにあるかを思慮していた。そうする内、ご神宝のひとつである珠飾りに
触れると、トオコは共鳴して珠飾りの記憶を幻体験する。
そんなトオコに鷹野はトオコが小さい頃に起こした不思議な現象の数々を思い出してあらためて
不安を感じずにはおれず、青比古もまたそんな鷹野を見ながら、かつて村の巫女が「鷹野には
決して陰石の真言告を教えてはならぬ」と告げたことを思い出して不安を感じるのであった。


そんなある日、森でトオコが青比古と真言告の訓練をしている時、離れ威神と遭遇する。
離れ威神とは、徒党を組まずに単独行動する威神。
青比古はトオコを逃がすため、自ら囮となり谷から落ちる。一方トオコは、自分を探しにきた
鷹野たちと合流するが、威神に操られた仲間に人質にとられ、鷹野が袋叩きにされる。


139 名前:イティハーサ5 投稿日:04/06/21 03:06 ID:???

一狼太が発見して、その場は辛くも助かったように思われたが、そこに離れ威神が姿を現した。
一狼太はかつて「那智(ナチ)と呼ばれ、鬼幽の下にいたことがあったのだ。離れ威神によって、
心の闇をひきずり出されそうになった一狼太であったが、そこへ桂と律尊が現れ、事なきを得る。


青比古は行方不明、鷹野は虫の息となり、「鷹野が死んだらあたしも一緒に死ぬ!」と
激しく慟哭するトオコに、桂は2人の結びつきの深さを心配するのであった。
一方、トオコは鷹野に生命の気を渡す真言告を唱える決心をする。
相手に生気を渡す代わりに施術者の生命を削り取るこの真言告は、一歩間違えれば2人ともが
死に至る非常に危険な真言告であった。
その甲斐あって、鷹野は息を吹き返すが、代わりに透コは死んだように冷たくなってしまう。
冷たくなったトオコは、夢の中でもう一人の自分と出会っていた。もう一人のトオコは言う。
「あんたはあたし、あたしはあんた」「きっとこれが最初で最後」「もう一度会ったら、きっとあたしは
あんたを殺す・・・それがあたし達の宿命だって」


その頃、青比古は律尊によって探し出されていた。
律尊は青比古に「必要な人間だ」と告げ、人を癒さぬはずの亜神が人を癒すのであった。


5日後。鷹野とトオコを看病する桂の元に、その間の記憶を失った青比古が戻ってきた。
ふだんの気丈さも忘れて青比古に駆け寄る桂。そんな桂に、桂に惹かれる一狼太は
「おまえほど涙の似合わぬ女はいない、二度と泣くな」と吐き捨てる。
かつて威神の元から逃げてきた那智をただ一人信じ、一狼太と名付けてくれたのが桂
だったのだ。「桂が必要だ」とその思いを吐露する一狼太に、青比古は相手をせず、
「桂にそう言え。必要なことが一番強い」「俺は誰も必要としない」と冷たく告げるのであった。


163 名前:イティハーサ6 投稿日:04/06/22 03:55 ID:???

青比古が戻ったことで鷹野とトオコも快方へ向かいはじめたある夜、桂は森で青比古と会う。
青比古は桂に語った。自分の血筋は男に容赦がなく、いずれ精神を病み、正気を失うこと。
その際まで人として在りつづけ、「知ること」「考えること」「伝えること」の3つを成しえること
のみを望みとすること。
青比古の話を聞いた桂は、青比古と口吻を交わし、自分の想いは思い出として隠し通して
青比古を守り続けることを決意する。


7~8年後。鷹野もトオコもすっかり成長して年頃になっていた。
ある村で青比古たちは、目に見えぬ神々の知恵を受け継ぐ部族の巫覡・弥仙(ミセン)との知見を得る。
トオコの首にかかる珠飾りを見た弥仙は、いわくありげな様子に過去視の必要はないかを尋ねる。
珠飾りは、トオコが拾われた時に共に置かれていたもの。トオコが捨て子であったことは本人には
隠されていた。しかし周りの大人の言葉の端々から自分が拾われた子どもであることを察していた
トオコは、自分がどこから来たのかを知りたいと望む。
鷹野は動揺し、一体いつから知っていたのかとトオコを問い詰めるが、生まれがどうあろうと自分の
妹であることにはかわりない、とあらためてトオコを抱きしめる。
そんな鷹野に、トオコは鷹野との距離がさらに開くだろうと複雑な想いをかみしめるのだった。


弥仙の導きによって、トオコたちは珠飾りの過去視を行う。
トオコは双子として生まれたが、生まれた時に「互いを殺しあう宿命」を予言され、その予言を避ける
ために片割れが川に捨てられたのだった。さらに幻視を続けたトオコは、双子の片割れが威神に
攫われ、その額に神鬼輪をつけられ鬼幽に囚われていることを知る。


164 名前:イティハーサ7 投稿日:04/06/22 03:55 ID:???

目に見えぬ神々の秘密を求める律尊は、弥仙との会見により、不二山(フジサン)・永久蛇山(トワダサン)
にその秘密の源があると考える。


その頃、青比古は湖のほとりで蹲る一狼太に出会う。
青比古が優しいのはその方が自分にとって楽だからそうしているにすぎない、と詰る一狼太に、
青比古は否定も反論もせず、一狼太の言葉をそのまま肯定する。その様子にさらに苛つく一狼太。
「威神にも亜神にもつけぬ半端者」と自らを揶揄する青比古に、一狼太は「どちらにもつけぬのでは
なく、つかないだけだ」と、威神と共にあっても亜神と共にあっても囚われの身にしかなれぬ自分に
飽いていることを告げるのだった。


一方、過去視の後落ち込むトオコの傍には鷹野がいた。励まそうとする鷹野に「兄妹のふりをやめよう」
と言う。小さい頃から傍にいた鷹野に、トオコはいつしか恋をするようになっていたのだ。
そんな時、村の娘と鷹野がキスする場面に行き会ったトオコは、鷹野がずっと好きだったことを告白する。
あくまでも妹としてしかトオコを見られない鷹野と、鷹野が好きなトオコ。
気まずくなった2人はすれ違いの日々を送る。


青比古や桂たちが、目に見えぬ神々の秘宝の一部を探して出かけたある夜。
再びトオコが死ぬ不吉な予言を夢に見た鷹野は、トオコを探しに外へ出た。トオコと言葉を交わした
鷹野は「そばにいてほしい」と頼む。想いの種類は違っても、深く結びついている2人。
長い気詰まりをそれでも和解したと思ったその時、2人は村の本陣の様子がおかしいことに気付く。
そしてトオコは、すぐそばに自分の片割れがいることを感じ取るのだった。


165 名前:イティハーサ8 投稿日:04/06/22 03:56 ID:???

「互いに殺しあう宿命」と予言された2人に、鷹野はトオコに森に隠れているように告げ、
自らは片割れを探しに村に戻ることにする。「必ず見つけて助け出す」と約束する鷹野と、
それを見て微笑むトオコ。それが鷹野がトオコを見た最後の姿となった。


鷹野が村に戻ると、村は威神の戎士で溢れていた。本陣の守り神である律尊も、今は
単身留守にしておらず、村はすでに追い詰められた状態にあった。
闘いながらトオコの半身を捜す鷹野であったが、すでに満身創痍の状態であった。


一方山で隠れていたトオコは、山に逃げ込んできた村の年少組が待ち伏せされて戦うの
を耳にして、戦いに加わるため合流しようとする。
かけつけたトオコの目に入ったのは、神鬼輪をつけた自分とそっくりの少女であった。
ヨオコと仲間に呼ばれるその少女は、既に神鬼輪によって正気を失っており、トオコを襲う。
自分のためにどんな境遇に陥っても生命を絶たなかったヨオコを思い、その槍先を避け
ないトオコ。待ち伏せに気付き、山へ取って返した鷹野の目前で、トオコはヨオコの凶刃に
よって生命を絶たれた。


そのままトオコと共に死のうとする鷹野。
トオコが倒れると同時に、ヨオコも倒れたはずであった。
ところが数舜の後、トオコを殺したヨオコだけが生き返ったのである。怒りに我を忘れた
鷹野は、物に触れずに木を裂く超人的な力を発揮するが、大量の矢により倒れる。
その後、鷹野はかろうじて動くことのできた仲間の一人によって助けられるのだった。


村では一狼太が生きたまま捕えられ、鬼幽の元に差し出されていた。
鬼幽によって、自らの暝い望みを実現する悦楽を思い出した一狼太は、神鬼輪を
つけ、「那智」として鬼幽の一軍に加わることとなった。


166 名前:イティハーサ9 投稿日:04/06/22 03:58 ID:???

威神の仲間の下に戻ったヨオコは混乱していた。断片的なトオコの記憶や鷹野の
子守唄。ヨオコは自分がトオコなのかヨオコなのかわからなくなっていた。
混乱するヨオコは、捕えられたトオコの村の者に会えるよう画策する。トオコしか
知らないはずの記憶を話し、トオコそっくりの容姿をしたヨオコに、首長はヨオコの
中にトオコがいることを感じとる。
「鷹野が呼んだ名がお前の名だ」「鷹野と青比古に会え」と忠告する首長。
首長はその後、鬼幽に寝返った一狼太との引き合いに出されるが、一狼太に自分
を殺させぬために、その目前で自刃して果てるのであった。


目に見えぬ神々の秘法を探してイサナの里を訪れた青比古・桂・弥仙の3人は、
そこで亜神である須弥神・聖良(キヨラ)から、村が全滅したことを告げられる。
青比古は、遠視した瀕死の鷹野に、聖良の力を借りてその癒しの力を送り込んだ。


運び込まれた洞窟でひとり目を覚ます鷹野。
だが、運び込んでくれた仲間はとうに事切れた後だった。
鷹野はトオコの死の瞬間を思い出し、強烈な憎しみに威神への復讐を誓うのであった。


そこへ、鷹野を探していたヨオコが飛び込んできた。
ヨオコは鷹野の名を呼び、近づこうとするが、トオコを殺したヨオコを許せない鷹野は、
激情のままにヨオコを殺そうとする。
それでも最後の理性で、ヨオコを殺すことを踏みとどまろうとする鷹野に、ヨオコが語りかける。
信じきれぬ鷹野に、ヨオコは、トオコしか知らぬはずの鷹野の子守唄を謡い、「あたしは
ここにいる」「ヨオコの身体の中にいるあたしを見つけて」と訴えかける。
ヨオコの中にトオコを見つけた鷹野は、号泣しながらトオコを抱きしめるのだった。


275 名前:イティハーサ10 投稿日:04/07/07 03:00 ID:???

鬼幽の次の標的がイサナの里であることを察した青比古たちは、イサナの里に伝わる陰石を用いて
迎え撃つことを決意する。青比古と弥仙は陰石の真言告を唱えるためにイサナに残り、真言告を使え
ない桂は村人と避難することになった。
その夜。桂は青比古に自分の頬の傷のことを語る。かつて威神の戎士が家族を惨殺した時、戎士の
ものになることを拒んだ桂の頬を切りつけたのだ。生涯消えぬ醜い傷が自分を戦いに駆り立てる、
と語る桂の傷を見て、青比古は「誇りの証」「美しい傷」と言う。自分の長年の恨みを言葉ひとつで溶か
していく青比古に、桂はなぜ自分が青比古に惹かれるのかを悟る。


鬼幽に囚われていつも死にたがっていたヨオコは、トオコを生かすためにこれまでを生きてきた。
そう語るトオコに「トオコの御魂がヨオコの御魂に溶け込んでひとつになったのさ」と鷹野は語りかける。
だが、「変わらぬトオコの笑顔、なのに身体は自分が育てたトオコでない」ことに心中複雑な思いを抱く。
一方トオコは、鬼幽の元にいたときの仲間・火夷(カイ)を救いださねば、鷹野と共には行けないと告げる。
ヨオコが逃げれば、代わりに火夷が処刑される仕組みになっているのだ。
鷹野は止めようとするが、トオコは頑固にその意志を通すのだった。


トオコが鬼幽の元に戻ると、火夷は狂児(キョウジ)の預かりに、トオコは比々希(ヒビキ)の預かりになった
と告げられる。姿が見えなくなったため、逃亡を疑われたのだ。


その頃、トオコと別れた鷹野は、一足先に青比古たちと合流することになった。


276 名前:イティハーサ11 投稿日:04/07/07 03:01 ID:???

その夜、トオコはヨオコの身体に残る巫女としての才で体外離脱し、鷹野たちのもとを訪れる。
村の様子を垣間見て、青比古たちが鬼幽を迎え撃つために、陰石を用いるという危険な賭けに
出ることを決意したことを知るトオコ。
そのまま空を浮遊していたトオコはヤチオウと名乗る不思議な人物と邂逅する。


次の日、斥候を立ててイサナの里の者を追おうとする鬼幽たちを、青比古の陰石の真言告が襲う。
枯れ果てる木々と倒れ苦しむ鬼幽の戎士たち。神路の真言告を用いて、鬼幽たちが逃げ込むため
の鳥居を開くトオコ。
陰石の強い力は、その間にも、鬼幽の戎士のみならず青比古の生命をも蝕んでいた。
そして諸共に倒れこむ青比古を、鬼幽が攫う。人質にとられた格好となった青比古を前に鷹野たち
は手出しをできず、それを見たトオコは、身動きできなくなった火夷を鷹野たちのもとに残すと、
自分は青比古を助けるために鬼幽の下に残るのであった。


鬼幽の下に残ったトオコは、鬼幽の戎士たちの中で青比古の生命を守るために、キレイなものが
大好きな狂児をたきつけて、青比古の護り役につけることに成功する。
やがて青比古は、鬼幽たちの前に引き出されるが、亜神と見間違うほど邪念のない美しい波長を
持つ青比古の魂には、威神の霊波が入り込むスキがまるでない。
鬼幽に呼び出された那智は、自分のことには頓着しない青比古の弱点はトオコの片割れたるヨオコ
であると答える。青比古は、ヨオコの身を形代として虜囚となることを承知した。


277 名前:イティハーサ12 投稿日:04/07/07 03:03 ID:???

一方、イサナの里に戻った鷹野の身体に異変が起こる。
背に2つの瘤ができ、そこから翼が生えてきたのだ。そのままにすれば死に至るほどの激痛に
襲われる鷹野。
鷹野の名もまたトオコと同様、巫女の神来によってつけられたものであった。神来によってつけ
られた名はその子どもの運命や未来を暗示する。鷹野の名は、その背に生える鷹の翼を暗示
したもの。鷹野は真魔那(ママナ)の一族だったのだ。
ヨオコによって助けられた火夷の背にもたてがみが生えており、真魔那の者であった。
真魔那は「特異な姿を持ち、優れた一族」と語られる一方、子どもは半分以上が動物とまぜこぜ
の姿で生まれる。そうでない姿で生まれても、大人になってから転変するとほとんが死に至る。
特に背に瘤をもって生まれたものは、その瘤が割れたときに死ぬ、と伝えられていた。
やがて聖良の力をもってしても翼が生える激痛を抑えることができなくなり、瀕死の状態となる鷹野。
すると真魔那の不思議な力によって地鳴りや雷が起きるが、もはや鷹野にはそれを止める力もない。
余分な苦しみを与えぬために鷹野を安楽死させようとする桂のもとに、ギリギリのタイミングで
村に戻ってきた律尊がその命を救うのであった。


首長が自刃するときに「一狼太を信じ抜いた証」として自分に負わせた刀傷。
癒えた後も痛むその傷に、那智が物思いにふけっていると、鬼幽が語りかけてくる。
鬼幽に対して、いずれ青比古の命を自分にくれと申し立てる那智。
「憎いのか」と問いかける鬼幽に、「わからない、ただそれがどれほど醜い行為であろうと、おれが
おれであり続けるためにどうしても殺さねばならない」と答える那智。
鬼幽はそんな那智に「そなたが必要だ」と話すのであった。


278 名前:イティハーサ13 投稿日:04/07/07 03:05 ID:???

鬼幽の囚人となった青比古は、青比古の知る真言告をヨオコに教えるよう命じられた。
真言告を教える時間を利用して、意志を交わす機会を得たトオコと青比古。
自分にはもはや残された時間はあまりないと感じる青比古は、逃げ出せる機会があれば
迷わず自分を見捨てるようにトオコに言い渡す。


自分の預かりとなった青比古に、盗んだ品を罪悪感なく差し出す狂児。
「盗むことはいけないことだ」と青比古は狂児を諭す。それに対して「木の実がなっていたら
採って食べる」ことと「盗み」は同じことだと狂児は答える。
「やってはいけないこと」を知らない狂児には、奪うことも殺すことも楽しいことなのだ、と。
善だけでなく悪にも惹かれるのが人間の性であり、律尊の傍にいるより鬼幽の下でよほど
自由に呼吸しているように見える那智のことを青比古は思うのであった。


いつものように青比古がトオコに真言告を教えていると、森の中に盗賊が現れた。
盗賊は威神の戎士をよく知らぬ無謀な若者の集団で、見張り役として傍にいた狂児や
比々希たちと小競り合いになる。
武器を持たぬ青比古をそれとなく庇おうとしたトオコは手傷を負い、それによって神鬼輪が
作動し、戦う凶器となる。そんなトオコを青比古はなんとか止めようとするが、神鬼輪によって
正気を失ったトオコはその手の剣を止めようとはしない。
それまで皆の手前を憚って「ヨオコ」の名で呼びかけていた青比古は、殺戮を止めるために
「トオコ」の名を呼ぶ。一瞬にして自分を取り戻すトオコ。だが、自らの血塗れの手と剣を見た
トオコは、「私を見ないで!」と叫ぶと森の中に駆け込んでいくのであった。
その様子を呆然と見ていた比々希たちは、なぜ「ヨオコ」を「トオコ」と呼んだのか青比古を責める。
加勢に駆けつけた那智は、納得のいく説明はできないにせよ、あれは「トオコに見えた」と言うのだった。


279 名前:イティハーサ14 投稿日:04/07/07 03:07 ID:???

律尊が村に戻ったことにより、真魔那として無事翼が生えそろった鷹野は、その翼で空を翔ることも
できるようになっていた。
律尊は鷹野たちに、外國では大蛇のごとき幻獣を駆る者が亜神・威神を消しているという噂と、
それらしき若者を自分を見たことを話して聞かせる。
今起こっているあらゆること、それらを確かめるためにも「不二山」へ向かうように語る律尊。
鬼幽たちもそこを目指しており、不二へ向かえばいずれトオコたちと道が交わることもあるだろうと話す。
自分たちは何をなすために不二へ向かうのかを問う鷹野に、律尊は、不二のたもとに「桃源郷としか
呼べぬもの」が存在することを告げる。
そしてそれを見た鷹野たちが何をなすべきかは、鷹野の意志に任せる、と。
たとえそのことがどのような結果を呼ぼうと、理屈でなく直感で物事の善悪を判断できる鷹野の判断を
尊重すること、そして律尊自身は不二へは同行せず永久蛇へ向かうことも告げる。
意志を伝えた律尊は、「その神を支配する」とまで言われる自分の「神名(カムナ)」を鷹野に授けるのであった。


280 名前:イティハーサ15 投稿日:04/07/07 03:10 ID:???

一方、自らの殺戮に驚き、激情のままに森の中に駆け込んだトオコは、無意識に助け手を呼ぶ。
呼びかけに応えたのは、かつて自分の身体を抜け出したときに出会ったヤチオウであった。
「これをはずして」と神鬼輪を指すトオコに、ヤチオウは「それはお前を護るためのものだ」と答える。
それでも人を殺めてまで生きていたくない、と返すトオコにヤチオウは、神鬼輪を与えられるのは
殺戮を好み悪しき心に惹かれる者のみ、トオコはそうではないのか、と問いかける。
かつて幼い頃の夢の中で、鳥を縊り殺す悦楽を知っていたトオコは、自分が「殺す」ことに少しの
悦楽も感じない人間では決してないことを認める。
そんなトオコに、ヤチオウは「それはいずれ塵に還元される」と語る。
そして自分が「人の子にして唯一神名を持つ者。すべての神々の神名を知る者」であると名乗るのであった。
そのやり取りを木陰から見ていた鬼幽に、「惑うべくして惑う神よ。あなたの惑いも選んだ道も誤って
はいない」と告げると、トオコに「不二へ行け」と言い残して去っていくのであった。
そのまま鬼幽と森に取り残されたトオコは、「私はヨオコにしてヨオコにあらず。もうあなたの意の
ままにはならない」と宣言し逃げ去ろうとするが、そのまま鬼幽に囚われ、深い眠りに落ちる。


574 名前:イティ3、4巻・トオコサイド[sage] 投稿日:2007/10/30(火) 16:45:58 ID:???

鬼幽は逃げようとするトオコに術をかけ、捕える。
「鷹野・・あの頃にかえりたい もう目覚めたくない」
心を閉じたトオコの天幕には蔦が急激に這い上がり、繭のように包んでしまった。
「ヨオコにこのような力はない」鬼幽は青比古を呼ばせる。


ヨオコに執着するヒビキは青比古を拷問して、トオコとヨオコの関係を聞き出そうとしていた。
そこに那智と那智に惚れて仲間になった女盗賊黄実花が現れ、青比古を救う。
死にたがっている青比古に那智は「お前に死を与えるのはこの俺だ」と宣言する。


青比古は「人は存在するだけで哀しい。しかし那智のように深く傷つくこともない
自分は人としての何かが欠けている人間なのだ。」と那智に言う。
那智は青比古が欠けた魂を持つがゆえに、世界と調和できる唯一の人間なのではないかと感じた。


青比古を前に威神たちは語り合う。鬼幽は神を必要としない青比古を恐るべき存在だと語る。
一人の威神が青比古を洗脳しようとすると、ヤチオウが現れ、その威神を消した。
 青比古はトオコの心に入り、トオコが心を閉ざせばヨオコをも封印してしまうことになる、と
語る。トオコはヨオコと1つになったつもりで、ヨオコのかつての所業を嫌悪している自分に気付く。
「あたしはほんとうにヨオコとひとつになる」トオコはヨオコの魂に呼びかけ、
2つの魂は融合した。トオコは鬼幽にそのことを告げ、共に行くかわりに自分と青比古を
客人として遇するように告げる。


575 名前:イティ3、4巻・トオコサイド2[sage] 投稿日:2007/10/30(火) 16:47:32 ID:???

主長は荒んでいるヒビキを説得しようとしていた。ヒビキの妹、サキは那智に恋をし
、那智を逃がして死んだ。ヒビキは那智が自分を連れて行ってくれなかったこと、サキの死
のことで彼を恨んでいた。黄実花がそれを盗み聞きし、トオコらに告げる。
 黄実花は那智が、頬に傷のある自分に桂を重ねているので追い出さないことに気付き
桂に嫉妬する。


 トオコらは威神側の人間たちの人気者になっていった。そんなある日ヒビキが威神に操られた。
那智や青比古が止めに入り乱戦の最中、トオコは鷹野のように威神の力を切り無効化してみせる。
 鬼幽は威神を自分の下に召集することを決める。
 夢歩きを始めた青比古を探すトオコは、途中ヒビキに会い、自分とヨオコの
関わりを話すが、鷹野を慕うトオコの話はヒビキを傷つけた。
 青比古を那智が見つけてくるが、彼は宿命のままに正気を失いかけていた。
那智は自分が殺すまで破滅するな、と怒鳴り、青比古を正気に戻す。


579 名前:イティ3、4巻・鷹野サイド1[sage] 投稿日:2007/10/30(火) 19:41:08 ID:???

 トオコがヨオコと一体化したその日、鷹野らは不二に向けて旅立った。
その日は鷹野の誕生日。トオコの咲かせたお祝いの花の香が鷹野にも届いた。
火夷は鷹野の思いやりに触れたり、桂と青比古の関係をおちょくって姉弟のように
漫才を繰り広げたりと次第に彼等になじんでいく。
 吹雪の中ある村に着いた三人は、威神側の襲撃から村を守る。3人
は、荷を盗もうとしたママナの少女タミアとその父を吹雪から救う。
 鷹野は威神の信徒を切り殺すが、それは攫われた幼馴染、天平だった。
「どうして俺達が殺しあわなきゃいけないんだ!」人でない方がずっと楽だった。
鷹野はそう感じる。
 タミアの母は体に鱗を持つママナだった。盗賊に襲われた際、水を操る能力で
盗賊をミイラ化させた後、ショックで身投げをした。タミアも鱗が生えてきたため、
父と共に救いを求め不二の桃源郷を目指していたのだ。
 タミアの父はママナの故郷である塵となって消えた偉大な大陸の話をする。アスカという科学技術大陸
ムウという宗教大陸。2つの間に情報の交流はあったが、行き来はできなかったという。
ママナの先祖はアスカから来た。


(トオコサイド補足:この頃鬼幽もまた、トオコに真実を見極めよ、と告げていた。青比古は桂を思いながら新たな櫛
を作っている。)


580 名前:イティ3、4巻・鷹野サイド2[sage] 投稿日:2007/10/30(火) 19:42:52 ID:???

 桂は威神の戎士の剣を拾って、自分も戦いたいとごねる火夷に説教をしていた。
鷹野もまた幼い火夷を戦わせたくないと願っていたが、同時に自分もまた、かつての火夷同様
内心戦いを楽しんでいると桂に告白する。


 鷹野らの仲間でいるために戦いたいと泣く火夷をなだめている鷹野は、ヤチオウが亜神を
襲っている現場を目撃、割ってはいる。なぜ亜神を消そうとするのかという
鷹野の言葉にヤチオウは
「ただあうべき者だけがそれを知ることになる。知る不幸より知らぬ平穏を選べ。総ての
人に関わることだ。現在だけでなく一万年余も未来のあらゆる人々にかかわることだ」
と言い、それでも「知ること」を願う彼に「不二へ行け」と告げる。


 桂は火夷からヤチオウの顔が桂にそっくりだと聞かされ、死んで鳥居に捧げられた
幼い弟を思う。そしてヤチオウが孤独なのではないかと感じるのだった。
 鷹野は助けた神、香夜から普善神・天音の支配する不二の桃源郷に招待される。
神鏡は桂に任せ、香夜と二人きりでいくと言われ、火夷はすねてしまった。
鷹野は桂に二度と会えないという予感を覚える。


 一方青比古は桂に渡す櫛を作りながら、櫛を直接渡す前に狂ってしまう自分を
予感し、始めて哀しみという感情を覚えていた。トオコは青比古に未来を諦めないように
と諭すのだった。


581 名前:イティ5巻・トオコサイド2[sage] 投稿日:2007/10/30(火) 20:11:56 ID:???

 キョウジは青比古を狂気から救って欲しいと主長に頼むが断られる。
鬼幽の戎士の主長は目に見えぬ神の信徒の出身で、鬼幽に随うことで
「知る」ことを得ようとしていた。
 トオコも鬼幽に同じことを頼むが、彼から、青比古は神に頼らない人間で
あり、ただ「知る」ことを欲し自分と共に不二を目指しているのだと諭される。
そして彼はトオコにも不二で総てを見極めよと言うのだった。


 青比古は律尊が己の存在意義を問うたり、トオコが威神と戦ったりする
不思議な夢を見る。
 トオコに宿命が迫ってきていること、自分にはもう時間がないことを感じた青比古は、
トオコに陰石の真言告を教えることにした。


 トオコとキョウジが青比古の目に見えぬ神の教えについての講義をを受けている最中に、
威神が鬼幽のもとに結集しはじめる。威神にそそのかされた那智は黄実花を
殺そうとする。青比古は那智が黄実花に対して関心を持ち始めていることに気付き、
黄実花をなぐさめる。彼女は何か思いついたようで、明るい表情になるのだった。


 不二への道すがら、トオコは他の威神の戎士と出会い、争いになる。他の威神の
勢も不二に集結しつつあった。トオコはその様子を悲しげに見つめるヤチオウに気付いた。 


582 名前:イティ5巻・鷹野サイド1[sage] 投稿日:2007/10/30(火) 20:51:10 ID:???

 鷹野は桂と最後の夜を過ごしていた。鷹野はトオコへの思いの大きさを語り
「生まれ変わりでもしない限り、俺はまともな恋もできない」という。
桂は「恋であろうとなかろうと、お前達の思いは永遠だ」と語る。
 不二への旅立ちの日、鷹野は桂に「一番幸せにしたいのはトオコ、一番幸せになってほしいのは
桂」だと、火夷には「再び会えると信じてくれ」と語る。しかし、桂らにはそれは
永遠の別れを告げているかのように感じられた。
火夷は桂に弟子入りし、剣を学び始める。
火夷はママナとしての才を発揮、戦闘センスを見せ始める。タミアに思いを寄せ始めたり
と年頃の少年らしい面も出てきた。
 しかし彼は同時に、威神の戎士の殺戮跡を見てパニックを起こしかける等、
過去の自分の行いへのトラウマに苦しめられるようになっていた。
桂は自分の過去と向き合うように言い、タミアは火夷に告白して慰めた。
 タミアはママナとしての才を発揮し、水を操る力を手にした。
桂らはついに不二の見える海にたどり着いた。


583 名前:イティ5巻・鷹野サイド2[sage] 投稿日:2007/10/30(火) 20:53:51 ID:???

鷹野の前に、香夜を媒介に天音が光臨し、「争いの無い世界が不二にはある。
あなたにはそこで私の剣となってヤチオウと戦ってほしい。」と告げ、消え去った。


 鷹野は不二への入山の試練の場、幻霧の森に入る。ここでは天音を固く信じる
者しか先へは進めない。鷹野はトオコの幻を追いかけ、迷いながらも、天音に
帰依しきることはできなかった。突然、トオコの幻が実体化して襲ってきた。
実はこれは、天音の部下のママナで暗示の力を持つ空子都(クスト)のスタンドプレー
だった。しかし鷹野が天音に忠誠を誓うことはなかった。
 天音は部下の巫女、サライが不吉な存在の来訪を予知したこと、
鷹野が自分に随わない亜神、律尊の下にいたこと等、不安要素を抱えつつ
鷹野を不二に入れる。


 クストはアスカ生れの両性具有のママナで、アスカの消滅の生き残り。鷹野に好意を持っていた。
クストは天音の剣となって戦うよう鷹野に言う。しかし鷹野は天平の一件もあって
殺人に疲れ果てていた。香夜は火夷から鷹野の優しい性格を聞いていたため、
彼を案じる。
 不二では天音の信徒が、天音にのみ強い祈りを捧げ、幸せに暮らしていた。
鷹野は優しい人々に囲まれ、律尊がこの桃源郷の何を判断しろというのかといぶかしむ。
その、律尊は永久蛇で、また鬼幽は自分の天幕で、それぞれ世界の真実についてそれぞれ問い続けていた。


584 名前:イティ6巻・桂サイド[sage] 投稿日:2007/10/30(火) 21:33:20 ID:???

 タミアが海で遊んでいると、足に鱗が生えてきた。更にタミアの周りで
波が自在に動く等、不思議な出来事が起こるように。
 そこに先ほどトオコとやりあった威神の戎士の一団が来て、タミアを捉える。
桂らは戦うが、多勢に無勢。タミアの父はタミアをかばい、死んでしまう。
そこへ那智が乱入、桂を救う。しかし、怒ったタミアは戎士らをミイラに変え、
津波を起こす。
津波の暴走に呑まれる直前、桂は高台で青比古とトオコが叫んでいるのを見る。
「生きてもう一度会えた!青比古、狂うほどこがれたお前に・・」


桂はタミアに救われ、洞窟に避難した。しかし、人魚になってしまったタミアは
もう人間には戻れなかった。イルカと暮らすことになった彼女を置いて、桂らは
旅立つ。
火夷は、足を怪我した桂を心配し、神鏡を自分が持つと言う。桂は火夷を一人前と
認め、「弟にしてやる」と言って抱きしめる。本当は鷹野も弟にしたかったのだ
と言う桂。火夷は鷹野が彼女の弟分にならなかったのは、彼女が初恋の人だったから
だと気付いていた。


585 名前:イティ6巻・トオコサイド1[sage] 投稿日:2007/10/30(火) 21:53:43 ID:???

 津波に呑まれた那智は鬼幽に救われたが、意識が戻らない。青比古は桂を津波から救えなかったショックで
呆然としていた。そこへ黄実花が、青比古に那智を診てもらおうとしてやってくる。
 青比古は「自分には時々自分と他人の区別がつかなくなる、だからこれはきっと必要なことなのだ」
と言い、自分に殺意を持つ那智を診ることに決める。
 青比古は那智に向かって「桂は生きている、そう信じている」と語りかける。
那智は桂への思いを自分の前で口にする青比古に憤り、目を覚ます。


 トオコは鬼幽と共にいた。鬼幽はトオコに天音を偵察しに不二に行くように
言い、自分の神名を彼女に与える。青比古は鷹野に会えと彼女を励まし、
キョウジは青比古の護衛を請け負う。
 トオコは出立前に那智に会い、一狼太としての自分を受け入れろという。
しかし、常闇に安住する性の彼はそれを拒否する。トオコは人それぞれに救われる方法
は違うのだと思い知る。また、トオコは威神の一人から鷹野が天音のもとで
殺戮マシーンのようになっていると知る。
 出立の日、青比古らだけでなくヒビキも見送りにきた。彼は、「自分は悪の
快楽なしでは生きられない人間だ」、といいながら、トオコの身を案じる。
トオコは、ヒビキが悪に安住できない人間だと知った上で、
それでもいいから生きろと彼に言うのだった。


 那智は目を覚ました後、何故か放心状態だった。そんな彼に黄実花は、
「青比古を破滅させる方法を知っている」と挑発する。
 しかし一方で黄実花はその方法を使うことで、那智がいなくなってしまうのでは
と恐れ、那智には「死んだも同然でいいからそこにいてほしい」のだと青比古に漏らす。


青比古は、キョウジの略奪品から真言告の巻物を見つけ、鬼幽のもとに持っていく。


586 名前:イティ6巻・トオコサイド2[sage] 投稿日:2007/10/30(火) 21:54:56 ID:???

トオコは幻霧の森に入った。クストはトオコへの嫉妬から、トオコを
トオコの内なる悪を具現化した魔物に襲わせる。しかしトオコは魔物を
青比古にもらった棒でたたき伏せた。
 そこに現れたのは鷹野だった。しかし、鷹野はなぜか、トオコが分からない様子
で、彼女を始めて会うもののように扱い、去ってしまう。


 入れ替わりにヤチオウがやってきた。彼は「運命がお前を贄に欲している。
拒んでくれても構わない」といいながら、陰石の首飾りを与える。
里に入った彼女は、鬼幽から鷹野が暗示をかけられて記憶喪失になっている
ことを告げられる。里の空気は穏やかだったが、トオコはヨオコのことを封じて
しまわないためには、その空気を受け入れることはできないのを分かっていた。
 トオコは陰石の真言告をつかい、神鬼輪から自由になる。再び彼女の前に
現れたヤチオウは「合うべき者はやはりお前だった。」と言う。
トオコは「あたし、永久蛇へ行くことになるの?」と問う。ヤチオウは答えず、再び
定めから逃げよ、と彼女に言うのだった。


587 名前:イティ6巻・鷹野サイド1[sage] 投稿日:2007/10/30(火) 22:20:03 ID:???

 鷹野は、アスカとムウの歴史についてクストから講義を受けていた。
 アスカは科学の力で戦争を繰返していた。ママナも遺伝子操作で生物兵器として
作られた存在だった。アスカとムウは結界で封じられた世界だったが、突然塵と消えた。
クストは宗教で統一されたムウを理想郷と信じ、不二に再現しようとしていた。
 鷹野は里に近づく戎士と戦っていた。しかし、殺戮に心を痛め、汚れを嫌う
里人からは敬遠され、傷ついていた。


 鷹野はクストに、天音には帰依できない、目に見えない神の教えは神鬼輪をはめられた
者であっても見捨てないのだ、と告げる。鷹野を独占したいクストは、彼の記憶を
消してしまう。クストは鷹野を、予知された「危険な存在」と感じ、自分の
制御下に置こうとしていた。鷹野は天音の指示のままに殺戮を繰り返すマシーンと化した。
 トオコが鷹野と森で会った後、サライもトオコを見かける。サライと香夜は
トオコと鷹野を案じる。
 鷹野はクストに森であった少女の話をする。クストは少女のことを忘れ、自分と
子供を作るように迫る。
 クストは天音のもとに全ての神鏡を集めようとしていた。トオコは鬼幽の指示で、
神鏡の1つが鬼幽の下から離反した威神と共に海岸にあるというデマを流す。
海岸に出向いた鷹野は、対峙した鬼幽から「トオコを忘れたか」と言われ、
動揺して海に落ちてしまう。


一方、青比古は陽石を使って真言告を唱えてみるが、幻体験を起こして倒れた。
そして、黄実花は酒の席で、那智に「あの方法」を教えてしまう。


588 名前:イティ7巻・鷹野サイド1[sage] 投稿日:2007/10/30(火) 23:14:48 ID:???

青比古は、真言告によって「人間の魂は幾度も生まれ変わる」ということを知る。
主長は青比古に自分の一族に伝わる巻物を渡し、「曖昧で胡乱な存在こそが真理に近い」のではないかと語り合う。
 ヒビキはトオコがいなくなって以来、更に荒れていた。青比古に当たる彼に、青比古は「現世で救われない人間は
傷を抱えたまま転生してしまう」と諭す。ヒビキにされるがままの青比古はキョウジに「自分にはヒビキと違い
命の価値が分からない」と言い放つ。
 黄実花は青比古に、桂に会ったときに「愛している」といってやれとからかう。


 火夷は不二を前に、かつての自分の罪におびえ、落ち込んでいた。桂は「お前はいい男になる。
だから誰かに許してもらおうなんて思うな」と言う。
 鷹野はタミアに助けられたが、記憶は戻らなかった。タミアは「一番幸せにしてやりたい人の名を思い出せ」
と鷹野に言う。そこへやってきたクストに、タミアは桂が神鏡を持っていると喋ってしまう。
クストは鷹野を不二に戻し、自分は香夜と共に神鏡を追う。


 トオコは幻霧の森で戎士から人々を守るために戦っていた。しかし彼女は、人は何故戦いに快楽を見出すのかと
疑問を持っていた。そこにサライがやってきて、天音に帰依するように言う。サライは天音に依存し、天音を
否定するトオコのことを理解しようとはしなかった。
 鬼幽は鷹野を救うため、自分の戎士を囮に彼をおびき寄せようとする。
荒んでいるヒビキに主長は、幻霧の森でトオコと鷹野の再会を助けるように指示する。


589 名前:イティ7巻・2[sage] 投稿日:2007/10/30(火) 23:16:28 ID:???

不二に戻っていた鷹野は、不思議な衝動に駆られ、森へ向かう。トオコは森で戦っていたが、助けに来たヒビキと
合流し、鷹野と再会する。ヒビキは鷹野に叫んだ。「目をあけろ!! 耳をすませ!!そこにお前のトオコがいるんだ!」
トオコは子供の頃、鷹野が戦いに悩んでいたことを理解してやれなかったことを侘び、「今のあたしなら分かるの
一緒に泣こう」と語りかける。鷹野は記憶を取り戻し「お前はいつでも俺を守ってきたさ」と言い、トオコを抱きしめた。
 鷹野はトオコとこれまでの事を語り合った。鬼幽の疑問は天音が那智のような人間を救済できるかということ。
律尊の疑問は亜神でも救えない人間がいるということ。トオコと鷹野は、トオコが神路を開いて永久蛇に行く時は一緒だと
約束する。鷹野は火夷らと合流するため飛び立っていった。


 鬼幽は那智に桂が生きていると教えるが、那智は自分のやり方で、自分の人生にここで決着を付けたいと語る。
「神にかかわりなくそれぞれにそれぞれの救いがあると思うのです」と那智。
 那智は生まれ変わっても、桂に出会わぬ幸福より、出会う不幸を選ぶだろうと語った。


 桂らのもとにクストと香夜が現れ、神鏡を渡せという。神鏡を守って逃げようとする火夷のもとに、今度は鬼幽の配下で
ありながら鬼幽にひそかに敵意を持っていた威神・呪王が現れ、火夷を攫った。
 香夜は鷹野に助けを求めるが、呪王に心の闇を引き出された火夷は、崖から投身自殺してしまう。
「おれ みんなと出会うために生れてきたんだ」火夷は鷹野に抱かれ、笑いながら息絶えた。
 そこに香夜を媒介に天音が現れ、火夷を救えなかったことを嘆くが、鷹野は「威神は死によって人の時を止めてしまうけど
亜神もまた生によって人の歩みを止めてしまう」と天音の救いを拒否する。
 クストは威神との決着が着くまでは天音の下を去ることは許さないと言う。鷹野は自分の初恋は桂だったと告白、飛び去ってしまう。


590 名前:イティ7巻・3[sage] 投稿日:2007/10/30(火) 23:54:13 ID:???

トオコは天音に囚われる。そのことを知った鬼幽は夜明けに不二に進軍することを決意した。
青比古は桂が生きていることを黄実花から聞かされる。青比古はキョウジに「以前の約束」について
確認する。
トオコは天音から自分に帰依するようにいわれる。しかし彼女はヨオコの存在を葬ることはできないと語り
「わたしはわたしであることを受け入れました
わたしであることの希望と絶望の両方を だから選べないのです 亜神の世も 威神の世も」
と言う。神を真っ向から否定するトオコを恐怖した天音は、トオコを術で気絶させ、軟禁する。
しかし、サライはトオコの存在に不思議な安らぎを感じてもいた。


那智は黄実花に冷たく当たるようになった。亜神の主長のつけた傷は今だ腫れていた。それは彼の中に
一狼太が息づいている証拠だった。


クストはトオコを殺そうとするが、何故かできなかった。入ってきた鷹野はクストをとがめるが、同時に
クストを一人にしてしまった罪悪感も感じていた。香夜に彼は「クストを抱きしめてやってくれ」と言う。
クストは鷹野の子を身ごもっていた。自分の子のためなら何でもするつもりだった。
 鷹野は今のトオコが「人はゆらいで人となる」という目に見えぬ神の教えを体現している者に見えた。
人は調和を揺るがす存在。だから天音の作った完全な調和の世界では、真理は見えてこないのだ。
鷹野はトオコを抱きしめ「トオコ 兄妹 やめようか」とささやく。


591 名前:イティ7巻・4[sage] 投稿日:2007/10/31(水) 00:08:13 ID:???

鬼幽の進軍が始まった。鷹野は天音側として戦い、里人は天音に祈りを捧げて支援する。
森では幻霧の中で、突然ヒビキが那智に襲い掛かった。ヒビキは那智に殺されることで全てを終わりにしたかったのだ。
那智は青比古の名を呼んだ。


戦いの中、那智は別の戎士に襲われた黄実花をかばい致命傷を負う。
那智は意志で神鬼輪の作用を押さえ込みながら、青比古に自分に止めを刺せと言った。
「殺せ 一狼太を!!それでお前は破滅する お前はやるさ おれがそれを望んでいるのだから」
「狂え!狂気の檻の中で 桂を残してどこにも行かせやしない お前を破滅させるのは俺だ」
自我と他我の境界を持たない青比古に、自分の殺害を強要することで、破滅させると同時に、この世に繋ぎとめるのが
那智の「救い」だった。那智は安らかに逝き、青比古の心も砕け散った。
黄実花は青比古に、那智を安らかに死なせてくれることを望んでいたのだ。
キョウジは約束どおり、植物状態になった青比古を桂の下に運ぼうとする。しかし、呪王がキョウジを襲い、青比古を攫った。


592 名前:イティ7巻・5[sage] 投稿日:2007/10/31(水) 00:10:24 ID:???

トオコに鬼幽が那智の死を伝えた。人には神に拠らず、それぞれの救いがあるのだ。鬼幽は答えを見つけた。
トオコは目覚め、鬼幽の神名を呼んだ。
鬼幽は里に侵入、ヤチオウの目的が、自分と天音を対決させることだったと語る。
天音と鬼幽の戦いの中、鬼幽の仮面が壊れた。彼の素顔は亜神のものだった。彼は亜神でありながら亜神に救えぬもの
を救うため威神になった神だったのだ
トオコは鬼幽を助けるため、自分の命を削り陰石の真言告を使う。クストはそれを止めようとしたが、香夜が彼女を背後から抱きとめた。
真言告により香夜は消滅した。鷹野は自分の意志で天音に刃を向け、彼女を倒した。「なぜ滅びの道を歩むのです」天音は消滅した。
鷹野は天音に刃を向けた場合、自分も死ぬ呪いをクストにかけられていた。クストはトオコに盛るはずの毒を呷り、お腹の子供を道連れに
自害した。
そこに呪王が現れ、青比古を人質にトオコから鬼幽の神名を奪おうとする。それを救ったのは鷹野に呼ばれた律尊だった。
律尊は永久蛇で「知る」ことを得、満足したと語り、力を使い果たし消滅する。
天音の信徒達は、天音なしでは生きていけなかった。トオコは桂を新たな指導者に立てるように言い、永久蛇への神路を開いた。
彼女を迎えに来たのはヤチオウだった。神鬼輪と天音を消滅させたトオコは真理に至る資格を得たのだ。
目に見えぬ神の声が語りかけてきた。


593 名前:イティ7巻・6[sage] 投稿日:2007/10/31(水) 00:38:50 ID:???

目に見えぬ神は、自分達は意識を持つ情報体、秩序ある混沌だと語り始めた。
今までの戦いの全ては人と言う種を進化の道からそらさぬためになされたこと。 
人間は転生によって、世代を超えた莫大な情報を魂に継承し、進化していく。
それゆえに不安定で、調和を求める自然の摂理に反した不安定な存在である。
1万年後、宇宙には天音のような唯一神が光臨し、全てが無と言う名の絶対的な調和に帰るときが来る。
その時、人間が調和と言う名の安らぎを拒否し進化を択べば、世界は破滅から救われるのだ。
目に見えぬ神は人間と言う種に破滅に対する希望を見出した。


アスカやムウ、不二もまた、目に見えぬ神の作った人間という種の実験場だった。
神鏡は絶対的な知識の集積。その欠片を巡る人間や神々の争いを起こし、その記憶を
人間の魂に刻むことで、目に見えぬ神と多神、多様な価値観の存在を多くの人間の魂に残そうとしたのだ。
鬼幽はトオコのような人間を探すために作られた存在だった。


 ヤチオウと一体化することで、トオコは人類の行く末を見守るものになる。
トオコと一体化することでヤチオウは人間として必要な知識を得ることができる。
しかし、トオコがヤチオウと一体化すれば、トオコと言う人間は消滅してしまう。
1万年後に人間が世界の存続を選んだ場合だけ、その後ヤチオウと1つの魂として輪廻の輪に戻れるのだ。


 トオコは1万年後に、生まれ変わった鷹野に神鏡を渡すために、ヤチオウと同化する道を選ぶ。
鷹野は、計画のために多くの人間を犠牲にした目に見えぬ神に怒るが、鬼幽は目に見えない神も
人間と言う種を愛しているのだという。


鷹野の怒りに呼応し不二は噴火、トオコと鷹野は抱き合い1万年後の再会を約束する。
「幾度姿が変わっても、見つけて鷹野を護り続けるから また会おうね」
「信じるよ お前がそう言うのなら お前につながる総てを護るために おれは幾度でも戦う」


594 名前:イティ7巻・終[sage] 投稿日:2007/10/31(水) 00:59:21 ID:???

ヤチオウはトオコと同化することで孤独から救われた。


 桂は不二の里のリーダーとして活躍している。植物状態の青比古の面倒は
すっかり丸くなったキョウジが見ていた。鬼幽の元主長はならず者を随えて山人の長に。


黄実花はヒビキが生きる希望を見出すまで、自殺防止のために監視をするつもりだ。
黄実花は青比古について「持っている世界が広いほど自分が希薄になっていく。
那智は自分の命の重みで彼をこの世に繋ぎとめ、青比古は自分を壊してそのことを受け入れたのだ。
那智と自分の区別がつかないくらい自分が希薄になっていたのだろう。」と語る。
黄実花たちは青比古が見せてくれた広い世界や価値観の存在を受け入れて生きようとしていた。


ヤチオウが青比古の前に現れ
「あなたには総てを知っていて欲しい あなたの御魂もまた未来の人類にとって貴重な道しるべになるだろうから」
と言う。
桂がヤチオウを見かけ、追う。
「鷹野がどうなったか知ってる?知ってるんでしょう?あなたは私の弟?」
桂はヤチオウが笑顔なのを見て安心する。
「幸せに」ヤチオウは笑顔で去っていった。


 桂は、青比古がキョウジに自分の体を桂に届けるように頼んだこと、新しい櫛を青比古の懐に見つけたことで幸せだった。
「みんないなくなっちゃった こうしてお前だけが残ってくれた・・」突然青比古が目覚め、桂にキスをした。
「話すことがたくさんある だが一番初めに言う言葉はこれしかない」「・・・・・」青比古は桂にささやいた。


これらの物語はすべて多くの魂に刻まれ、世々伝説として甦るだろう。それがこの星の神名となる。


長々とすみません。はしょると伏線がつながらないので・・・。
最後の「目に見えぬ神の言葉」は自己流に要約したので、
もしか解釈まちがってるかも・・。