セキホクジャーナル

Last-modified: 2009-05-27 (水) 11:08:03

セキホクジャーナル/小坂 理絵

352 :マロン名無しさん:2009/05/24(日) 13:40:58 ID:???
未解決から「セキホクジャーナル」いきます。超なつかしい。

■セキホクジャーナル(作者は小坂理絵。講談社るんるん掲載。全4巻)
基本は一話完結で、高校の新聞部を舞台に恋愛ありーの、友情ありーのでドタバタする
コメディもの。ほのぼの読めて、ほのかに可笑しく、ちょっとじーんとする所もある。
ヒロイン(主人公)がなんつーか実に小市民的で、それが独特の雰囲気を
かもしだしてるように思う。

■主な登場人物
<一年生>
●宮野柚枝(みやのゆえ)
主人公。怖がりなのに霊感があるせいで「心霊関係記事」担当にされてしまう。
まじめで素直ながんばり屋。
●佐久間藤吾(さくまとうご)
たいていポーカーフェイスだけど、その代わりか感情が行動に
でやすい男子部員。クールに見えて熱血漢。
●上島実香留(うえじまみかる)
柚枝の親友。気が強くて時に毒舌。
メンクイで先輩の毅太郎に惚れている。
<二年生>
●安原玄(やすはらげん)
スキンヘッドで新聞部の部長。手がでる足がでる暴言がでる、と
色々ひどい鬼部長だが、なんだかんだ部員からは信頼されている。
●叶浅葱(かのうあさぎ)
新聞部きっての才女。柚枝たちにも優しい先輩でしっかり者。
ひそかに毅太郎に思いを寄せているがそれを隠そうとしている。
●篠田毅太郎(しのだきたろう)
飄々としたイケメン。いつもクールであまり物事に動じない。



353 :セキホクジャーナル:2009/05/24(日) 13:41:41 ID:???
■第1話
セキホクミステリー特集という企画を組んだ新聞部。
部員達は各々、トップ記事をかけて噂の怪談話や心霊写真、謎の霊の声など
持ち寄って披露していた。怖がりの柚枝はそれらを前にすっかり怯えてしまう。
(みんな怖すぎるよ~。ミステリー特集だからってなんで
もっとお茶目にできないの~!?)

霊感少女として期待されるものの、極力怖いネタには触れたくない柚枝は
近所の猫にお面をかぶせて撮影した手作り人面猫の写真でお茶を濁そうとしていた。
「オマエその記事本気?」
そう声をかけてきたのは同じ学年の部員、藤吾だ。
部屋の隅でこそこそと、手抜きのネタを持ってきた時の部長の恐ろしさは
知ってるだろ、と忠告される。だが当の藤吾も、納豆と牛乳とみそをミキサーで
混ぜて作るミステリージュースなるものの作り方を披露して部長の鉄拳の犠牲となっていた。

「さー期待の柚枝ちゃんの記事はどうかな」
おずおず見せるが、当然部長がヤラセの人面猫で納得するはずがない。
柚枝は以前から(心霊的に)ヤバイと思っていた屋上に突撃取材をさせられる羽目になる。

「出そーな所がわかるんなら最初からそこいきゃいいのに。この手抜きっこめ」
藤吾にいわれ柚枝は必死に訴える。
「手抜きじゃなくてコワイんですっ!」

なんだかんだ結局屋上に行かされた柚枝はそこで、くっきりはっきり幽霊を見てしまう。
「ご、ご、ごめんなさい! 興味本位で記事にしようとしたりして
もーしません許してください!」
(ナニカと話してる……コワすぎるぜこの女…)
恐怖にかたまりながら幽霊に向かって必死に謝る柚枝の姿に、マジもんを
感じて怯える部員一同。



354 :セキホクジャーナル:2009/05/24(日) 13:46:14 ID:???
だが当の幽霊は怒って姿を現したわけではなかった。
むしろ、波長のあう柚枝に見つけてもらいたくて現れたのだという。
今までも、気付いてもらうためアピールを繰り返していたのだが誰も気付かなかったという。
どうも部員たちが集めた心霊ネタの正体は皆この幽霊の仕業だったらしい。

幽霊の名は康子(やすこ)。彼女は2ヶ月前に事故で死んだ関北高校の生徒だという。
彼女の気弱な弟、宗也(そうや)が今わの際に言った 
「おれ、学校でえらい目にあってんだぞ!気になるだろ、だったら死なないでよ姉ちゃん!」
という世にも情けない言葉が気になって成仏できていないのだという事だった。
康子は勝手に柚枝にとりつくと、この方が説明しやすいからと柚枝の口から部員に自己紹介をする。

そして弟の言葉の意味を知るため幽霊となってさ迷う康子が見たのは、
クラスメイトにひどくいじめられている弟の姿だった。
「高校生にもなってとんでもないのがいるなー」
「イジメはよろしくない」
加害者に呆れながら康子の弟に同情する部員だったが、康子の次の言葉に絶句した。
「いや、でもイジメられる側にも問題はある……場合もある。アタシどっちかつーといじめる側だったから気持ちわかる」

おいおい、と思う部員達に康子は言う。弟の宗也は暗いし気弱だし、根性ないし皆がムカつく気持ちも分かるのだと。
だが結局の所、康子はそんな弟が心配でたまらないのだ。
何度か直接弟にも会いにいったが、弟は幽霊となった姉にさっぱり気がつかないのだった。
弟がしっかりしてくれれば康子も安心して成仏できるのでは……と思う部員たちはできる事をする、と康子に約束した。

康子の気持ちを思い、どうにかしたい柚枝はさっそく彼女の弟宗也に会いにいって彼を励ます。
「おとなしくしてたら相手がつけあがるだけだよ、勇気ださなきゃ!」
「……勇気出すってどうすんのさ」

先生に訴える、と提案すれば後で仕返しされると返され、部活に入って先輩を
味方につける、とアドバイスすれば、部活なんか入ったらまたそこでも
いじめられると宗也はウジウジしている。歯痒く思う柚枝は
「そんなんじゃお姉さん、あなたが心配でいつまでも成仏できないよ!」と叱咤する。



355 :セキホクジャーナル:2009/05/24(日) 13:48:00 ID:???
宗也は、柚枝が姉を知ってることに驚きつつも幽霊になって心配している、という話をまったく信じない。
「なにもかももう遅いんだよ……お姉ちゃんはぼくが悲しませながら死んじゃった」

あの事故の後、苦しい息の下で弱々しいVサインを作りながら、姉は宗也に
がんばって生きるって約束して、と頼んだ。だが彼はその最後の望みに応えてやれずむしろ
困らせてしまった。姉に心安らかな最期を迎えさせてあげられなかった事を宗也はひどく後悔していた。

柚枝にはどうしたらいいのかわからなかった。それでもなお自分の力で解決しようとする彼女に、
なぜかわざわざ同行してきた藤吾が冷静に指摘する。
「……お前駄目だよ、全然見当違いなんだもの。先生に言えだの、先輩味方につけろだの。
康子さんの心残りである宗也が弱い人間だという問題の解決策からはおよそかけはなれている」
「ああもうっ頭にくるなーっ、指摘が具体的すぎて!」

だが柚枝にはどうしても言えないのだ。あんなに小さな体で気弱な彼に、やられたらやり返すような
強い人間になれなどという事は。人間、そう簡単にかわれるものじゃない。
おまけに彼は姉に負い目を感じ、ずいぶんと悩んでいる。
(もう遅い。お姉ちゃんは死んじゃった)
だったら当の康子さんから、直接は無理でも柚枝の体を貸して話をすれば何か変わるかもしれない。
そう気づいて柚枝は康子の元へ急いだ。

そんな時、宗也はクラスメイトから、彼が女子――しかもちょっと有名な柚枝に
かまわれていたという理由でクラスメイトに因縁をつけられていた。
柚枝の中に入った康子は、それを見つけて新聞部の面々に助けを求める。

急いで助けに行った先輩の毅太郎や藤吾が間に入って康子の弟は助けられる。
心配する康子だが、見た目が柚枝なので宗也は彼女を邪険にする。
「や、やめろよ。元はといえばキミと話したからこんなはめに……」
「なんだとてめえっ!」 激昂して弟の頬をはる康子。

「てめえの情けなさ棚にあげてなんて言い草だ!
この子はお前のために必死になって、体まで貸してくれたんだぞ!」



356 :セキホクジャーナル:2009/05/24(日) 13:56:33 ID:???
宗也は柚枝の中に姉がいることをなかなか信じきれないようだったが
弱々しいVサインの話に、彼は姉がここにいる事をやっと理解する。
「お姉ちゃん!」 溢れる思いから康子に抱きつく弟。
だが外身は柚枝なので藤吾がひどく動揺する。毅太郎から中身は康子さんだから落ち着けと
いわれるが、めそめそ柚枝に泣き付く宗也に「分かったから離れろ」と剣呑な視線を向けていた。

「おれ、ずっと後悔してた……。お姉ちゃんが成仏できないのはおれがこんなんだからなの」
「……そうだよ」 弟を奮起させるため、あえて突き放す康子。
あまりに長くとりついていると柚枝の体がおかしくなる。康子は一旦柚枝の体から出て行った。
康子は消えたが、宗也は考えていた。姉はもういない。現状を変えるには自分が変わるしかないのだ。
宗也は突如立ち上がると、逃げたいじめグループを追いかけ、彼らに詰め寄った。

「おれの嫌いな所を言え! 全部なおすから。さあ、言え!
おれ変わんなきゃいけないんだ、約束しなきゃならないんだ!」

呆れて小馬鹿にするいじめグループの面々だが、宗也の剣幕に鼻白むとその場を去っていった。
康子はそれを全て見ていた。ありったけの勇気を振り絞り、自分への悪意と対峙した宗也の姿を。
彼女は思わず涙を流す。その瞬間、頭上から光が射した。

「すごいじゃん!宗也くん、言い負かしちゃったよ」
宗也の成長に喜ぶ柚枝。こんなんじゃまだだめだ、お姉ちゃんが安心できない…と首をふるが
他の部員たちも、大きな声ではっきりものを言う相手をいじめる奴はいないと励ます。

「……だってさ。簡単なことだったじゃん」
宗也は驚いた。それは康子の声だった。顔をあげると、今まで姿を見ることも
声を聞くこともできなかった懐かしい姉の姿がそこにある。



357 :セキホクジャーナル:2009/05/24(日) 13:58:22 ID:???
「宗也のおかげで、もう安心していけるよ」
康子の頭上にはあたたかくやわらかな光が射していた。宗也は泣いた。別れの時が近づいているのだ。
「お姉ちゃん!!」
少しずつ消えていく康子に宗也は力強くVサインを見せる。
〔がんばって生きるって約束して〕
今度こそ、宗也は姉の願いに応えたのだ。

一方新聞部では部長が怒りの声をあげていた。
「なに~~っ、記事にしない!?」
柚枝は康子の事を記事にして、彼女をさらしものにしたくないと思ったのだ。
しかも柚枝だけでなく他の部員も自分のネタが康子の事だったため、載せないと言っている。
「そんな事言って、もう人面猫しかネタが残ってないんだぞ!!」

「記事ならここにありましてよ部長」
そんな中、おもむろ記事を差し出したのは藤吾だった。シンデレラかおまえは!とつっこみが入る。
彼は関北高校につたわる七不思議を調べあげ、興味深い記事を書いていた。
こんな立派な記事ができてるのに、なぜ藤吾はミステリージュースなど披露したのか。
不思議に思った柚枝だったが、あっと気付くように、その理由に思いたった。

〔手抜きのネタを持ってきたときの部長の恐ろしさを知ってるだろ〕

彼は自分が先に部長の怒りを発散させることで、柚枝をかばってくれたのだった。
「藤吾くんっ、ありがとう!」
その事を理解した柚枝は藤吾に感謝する。柚枝に礼を言われた藤吾は彼女の見ていない所で、上機嫌に喜んでいた。

そして後日。廊下でいじめグループの一人とすれ違う宗也。
ぎっとにらまれ一瞬ひるんだが、気を取り直すと彼は笑顔で明るく挨拶をする。
相手はどうにも毒気をぬかれてしまい、元気よく走っていく宗也の後ろ姿を眺めていた。
彼は、変わり始めたようだった。

(おしまい)



358 :マロン名無しさん:2009/05/24(日) 14:09:23 ID:???
結局ミステリー特集は七不思議より人面猫の方が大ウケだったという
オチがつくんだけど、漫画で読んでると面白いんだけど、文章にしたら
なんか不憫だったので省きました。

あと長くてごめんなちい。でも大好きな漫画だったので超楽しい。
せっせと書いて2話以降書いたらまた来ますノシ 全25話です(確か)



360 :セキホクジャーナル:2009/05/27(水) 00:38:31 ID:???
■第2話
前回のミステリー特集が好評だったため、部長のゴリ押しで第2弾を行うことになった新聞部。
「……それは2番せんじもいいところなのでは?」
「前回ので出し切っちゃってミステリーネタなんかもう残ってねーよ」と藤吾と毅太郎含め
部員は全く乗り気でない。怖がりの柚枝もぜったいやりたくないと思っていた。
だが部長はあきらめない。「うるせえ!時代は今、ミステリーなんだよ!!」
そう言うともう決まっているというテーマも発表する。

「心霊研究会潜入24時!!」

心霊研究会というのは新聞部の隣の部屋で不気味なオーラを放ちながら活動している同好会のことだ。
具体的に何をやっているのかは新聞部は知らない。
「では宮野先生、いってらっしゃい!」またもやお鉢がまわってきたのは柚枝にであった。
激しく抵抗するが、結局取材をするはめに。部室からむりやりしめだされ「こんな目にあってまで
わたしはなぜ新聞部に……」と自問自答しながらむなしく部室の扉を引っかいていた。

だがどうにか気を取り直し、心霊研究会の扉をたたく柚枝。
「……はぁい」「きゃーーーっ!」
にゅうっと扉からでてきたのは不気味な人物だった。
思わず悲鳴をあげてしまった柚絵だったが、怯えながらも取材をしたい旨を伝えると部室に入った。

「あああ~っ、降霊かなにかやってるでしょーっ!」
そこはどんよりとした空間で、彼女の目にはあちこちに暗い影が見えていた。
「おお分かりますか……簡単ですよ。紙と十円玉があればすぐ……」
「コックリさんじゃないですか!」
柚枝はコックリさんなんか駄目!ぜったい!と窓を開けると近くの幽霊たちを追い出しはじめた。
しぶしぶ出て行く浮遊霊達。(ホントにしぶしぶと書いてある)

それを見て心霊研究会のメンバーは色めき立つ。霊を目視でき、除霊までできる柚枝は
それこそ心霊研究会に必要なメンバーだと柚枝に転部を勧めてくる。
まったくもって嫌だが、はっきりそうも言えずに新聞部を理由に断る柚枝。



361 :セキホクジャーナル:2009/05/27(水) 00:42:09 ID:mhYfg0zf
だが、同好会会長の沖は「新聞部が納得すればいいんですね」とつぶやくと新聞部へと行き、
そこで柚枝と「3年はネタに困らない!セキホク大スクープ集」というあやしげなブツとの交換を迫る。
うっかり取引成立してしまい、それを沖から聞いて柚枝はショックをうけた。

そんな彼女に声をかけてきた人物がいた。
「きみ、幽霊がみえるんだろ? 誰だってそんな変なやつ仲間にしておきたくないんだよ。
でもここの人は違うよ。君の能力も、僕の能力も肯定して、必要としてるんだ」

それは同好会員の神林(かんばやし)だった。彼には予知能力があると聞き、驚く柚枝。
会長の沖やもう一人の会員は、特別な力への憧れをしきりと語る。それを聞いて、柚枝は
ずっと嫌だった霊能力も良いものに思えるようになるのかも……と自分に言い聞かせはじめていた。

その頃新聞部では。
「これも、これも! これも!全部ガセネタじゃないですか!」
くだんの「セキホク大スクープ集」はまったくもって使えない代物であった。
こんなものを中身も確認せず部員を引き換えにするなんて、と藤吾は部長に向かって怒りをあらわにする。

「まぁまぁ、安原ばっかり責められないだろ。3年はネタに困らないなんて聞いたら誰だってグラっと」
「きませんよっ! スクープなんて俺らが走り回ってもめったに取れないのに
あんなコックリさんなんかやってそうな奴らにできるとでも思ったんですか!」
取り成す毅太郎だったが、藤吾の剣幕にそれもそっすね…と思わず引いてしまう。

「……ええいっ、とにかく契約は無効だ! 大手をふって柚枝ちゃんを奪回するぞ!」
立ち直った部長は額に青筋を浮かべて、部員を引き連れ心霊研究会の部室へと向かった。

またもや心霊研究会のメンバーはコックリさんをやっている。おキツネさまが降臨なさっちゃってるのを
見てあわてて柚枝がそれを止める。

「すごいね。ホントに幽霊が見えるんだ……」
感心する神林だが、柚枝は予知能力のほうがすごいと思う、と伝える。だが、彼にはぴんとこないようだ。
「いつからなんだろう……昔はそんなの全然なかったのに」



362 :セキホクジャーナル:2009/05/27(水) 00:44:36 ID:???
そうぽつり語る神林はなぜかさみしげであった。それが放っておけず柚枝は
「でも同士が近くにいるのはいいかも。新聞部なんて冷たいんだもん」と
神林にあわせるように話をする。すると神林は「そうだよ、異質なものは除外されるんだ」と暗い顔で語った。
その言葉と彼の表情に柚枝はすっかり戸惑ってしまう。
(異質なものは除外だなんて、そこまでわたしも気味悪がられてはいないと思うけど……)

「おお新聞部といえば」
会長の沖はあわてて部室に鍵をかける。するとほとんど同じタイミングで新聞部員が
部室にやってきて、開かない扉を乱暴に扉を開けようとしていた。
「おらっ!うちの“霊感少女Y”返しやがれ!!」(……なめられてはいるけど)

柚枝は売られた恨みから硬い声で叫ぶ。「なんの用ですか! いっかい売った者に!!」
「柚枝~、ごめんね。あたしたちが悪かったから帰ってきてー」
浅葱のやさしい声に一瞬ぐらっとくる柚枝だったがここで折れては…とためらっている。
すると新聞部員達は「完全にへそ曲げとるな、それも無理もない」一旦その場から帰ってしまった。
柚枝は本当は新聞部に帰りたいのになぜか心霊研究会に残ることになってしまい小さくため息をついた。

期末テスト前。柚枝はわからない所があり、勉強の得意な浅葱に教えてもらおうと
ついつい無意識に新聞部の部室に向かってしまう。あわてて心霊研究会の部室にいくと中から話し声がする。

「――では神林くん。次は日本史の問題を頼むよ」
会長の声だ。試験勉強中かな? とのぞいた柚枝は、中の光景に思わず息をのんだ。
椅子に力なく座っている神林になにかタチの悪いものがついている。

それは下級霊のようだったが、これが彼の予知能力の正体だったらしい。
その霊の言葉を復唱するように神林は試験の内容を口にしている。
研究会のメンバーは彼の能力を試験の問題のカンニングに使っているのだった。

(神秘の力なんてもちあげて、ずるっこに使いたいだけじゃない。許せない!記事にしてやるっ!)
思わずいつも持っていたメモに書き付ける柚枝。ってちがうわー!と思わずメモを投げ捨てる。
すっかり新聞部員としての習性が染み付いてしまっているのだった。



363 :セキホクジャーナル:2009/05/27(水) 00:46:11 ID:???
急いで部室に入り、柚枝は神林の肩を掴んで揺り起こす。
「やめなよ! あなたこんなことに利用されてくやしくないの!?」
神林は表情をなくした顔で、絶望的につぶやいた。

「……予知能力がついてから……みんなに気味悪がられて疎外された…。
ぼくの力を必要としてくれたのは……彼らだけだった」
「こんな事に必要とされたって……」 柚枝は義憤にかられ、思わず涙ぐむ。

「よし柚枝ちゃん奪還、第二弾! ほーらゆえちゃんでておいでっ! 藤吾が面白いことやってるよー!!」
そこに、とんでもないタイミングで新聞部が空気を読まずにやってきた。
「ええいこんなときにっ。天照かわたしは!!」
「きみはいいよ……、多少異質でもあんなによびかけてくれる人たちがいるんだから…」神林はさみしくつぶやく。
「メ……ヤスバコノ…」
「だまらっしゃい! 何が目安箱じゃ」
これまた空気読まない下級霊を一喝して、柚枝は神林に向き直った。

「神林くん、あなたの予知能力は天性のものじゃないのよ。変な下級霊のイタズラよ!
あなたが気をしっかりもってなくそうと思えばなくせるものなのよ!」

心霊研究会のメンバーは余計な事をと柚枝を批判するが、彼の力をカンニングに使ってるような
彼らに言われたくない。そんな事いえた義理ですか!と柚枝は怒っていた。

(なくせる……? こんな、悪用しかされないような力が、なくせる……?)
それを聞いた神林は強く願った。こんな力、消えてしまえと。柚枝も一緒になって祈る。
その強い意志は少しずつ、黒い影のようだった神林の憑き物を遠ざける。
下級霊はオオオ…と低い悲鳴をあげながら彼から離れていった。
「やった…」  思わずつぶやく柚枝。神林はこれで普通に戻れる。
それが分かり、すっかり喜んでいる彼に柚枝は一緒に喜びつつも、仲間を一人なくしてしまったようだ、と
複雑な気分であった。だが神林は柚枝にいう。

「能力もってるやつばっかりが仲間じゃないだろ。きみも帰りなよ。
君を、必要としている仲間のところに……」



364 :セキホクジャーナル:2009/05/27(水) 00:48:50 ID:???
柚枝はようやく新聞部へと帰っていった。柚枝の帰還を喜ぶ部員たち。
「よかった、このままでてこなかったらどうしようかと思ったよ」
「みなさん……そんなに…」

(ほんとね神林君、わたしこんなに幸せものだったのね)
思わずじーんと感動してしまう柚枝だったが、どうも様子がおかしい。

「まったく待ちくたびれたぞ! このメモの真偽をたしかめたくてな!!」
部長が掴んでいる紙切れは、柚枝が神林の予知を前にして思わず書き付け捨てたメモだった。
「ユーレイのテスト問題予知!」「特ダネじゃん!」
興奮している部長や部員達とは反対に柚絵の感動のテンションが一気に下がっていく。
「そーですか……待ってたのはあたしじゃなくてこのメモについてですか。
へーへー、ほーほー…」
「このネタ、ホントよね、柚枝」「ねっねっ」
目を輝かせながら迫る部員たちの前で柚枝はメモを破り捨てる。
神林が元に戻った今、それを蒸し返すようなネタを記事にするわけにはいかない。
「いえ、ガセでした」
すわ特ダネか、と思っていただけに部員たちもショックだったようだ。
うぎゃー、などと奇声を発している。
「ええい仕方ない、企画変更だ!」
部長が、叫ぶなり拳を振り上げて宙に吼えた。

「お次は聖なる霊地。恐山体験レポートだ!!」
「「宮野先生、ご無事で!!」」
「……心霊研究会に帰らせていただきます」

今回のことにまったくこりない新聞部一同なのであった。

(おしまい)