ブレーメン2

Last-modified: 2013-05-20 (月) 22:35:22

ブレーメン2/川原 泉

315 名前:ブレーメン2 投稿日:04/07/10 16:35 ID:???
<注記>
この作品は、作者、川原泉が1985年に発表した短編「アンドロイドはミスティ・ブルーの夢を見るか?」
の設定を引き継いだ続編である。…が、発表年に13年の開きがあり
必ずしも連続した作品ではなく、「アンドロイド~」を知っていると笑いどころが少々増えるくらいである。
「主人公キラ・ナルセは若年だが卓越した技量を持つ女性航宙士である」
「彼女は、ある事件をきっかけに、自社の社長ナッシュ・E・レギオンの秘密 ── 彼が、銀河にも数体しかない
 超A級アンドロイドを影武者として所有していることとか、幼少期に厳しい教育を受けた彼が『遠足』『駄菓子』等
 子供じみたものに異常な愛着を示すこととか ── を知ることになった」
の2点を知っておけばとりあえず十分である。

【Mission1 ブレーメンのおんがくたい】
24世紀、人類は人口問題に直面していた。といっても人口爆発による資源不足ではない。
22世紀にハイパー・スペース航法が発明され、人類がその版図を全銀河に広げたことによる人的資源の不足
早い話が「人手不足」である。人工知能を持つロボットは開発されていたが、
人間並みの判断力を持つ高性能AIは未だ超高級品であり、労働力として量産することは困難であった。
この問題に活路を見出したのが、科学者D・モーゲンスターン博士である。生物と遺伝子工学の権威である彼は
労働力問題の一方で、地球人口の減少により、かつては重大問題だった「野生動物の保護」が
陳腐化している現状に着目。各種動物に遺伝子改良を加え、人間と同等の知性と作業能力を持った
「はたらく動物」ブレーメンと呼ばれる新生命体を完成させたのである。
手法に賛否両論あるものの、労働力問題の解決策としてブレーメンは着実に普及し始めた。
しかし、人間が忌み嫌うような危険作業の押し付けや、彼らブレーメンを動物とみなしての差別・虐待など
社会的待遇は低く、モーゲンスターン博士の真意である
「人間と理解し合い、パートナーたりうる、人間以外の知性体」という理想は未だ遠かった…。



316 名前:ブレーメン2 投稿日:04/07/10 16:36 ID:???
【Mission2 ジャックと豆の木】
西暦2306年8月、盆休み中に突如本社から呼び出されたキラ・ナルセを待っていたのは、
社長ナッシュ・E・レギオン直々の彼女を大型輸送船船長に任命するという辞令であった。
昇進を喜ぶ彼女だったが、この辞令には落とし穴が。彼女が船長となった新造船「ブレーメン2」の乗員は
副長:ダンテ(マウンテンゴリラ)、航宙図士:シルビア(ウサギ)、航宙士:オスカー(クロヒョウ)をはじめ
甲板員、警備員、機関士、はては船医にいたるまで船長以外全て「はたらく動物」ブレーメン。
前例の無い人事に不安を抱きながらも、キラ船長は航海へと出発する。
出港直後、リトル・グレイ(現在確認されている唯一の地球外知性体。言語は通じるが思考形態が異質で
まともな会話が成立しない)に居候されるトラブルはあったものの、極めて勤勉なブレーメン達の手で
航海は順調に進んでいた。…が、第一寄港地を前に事件が起きる。
乗組員がスタナー(麻痺銃)で撃たれ昏倒する被害が続発。犯人の移動経路も武器調達の手段も不明。
純朴なブレーメン乗務員たちが怯える中、キラ船長は捜査を続行。犯人が船内の点検通路に隠れている可能性を見抜き
通路を調査した結果…隠れて乗り込んでいたナッシュ社長を発見。社長の悪癖「お忍びの宇宙遠足」であった。
腹いせに社長を宇宙漂流刑にしようとするキラ船長と「傷害事件は私と無関係」と主張する社長。
そのとき、誰もいないはずの点検通路から悲鳴が上がる。駆けつけた一同が見たのは、一人の密航者が
リトル・グレイにまとわりつかれ辟易している姿だった。
傷害事件の容疑者として逮捕された男は、地球出身のジャック・王と名乗る。
彼は動物好きが昂じて自然保護運動にはまり、伝説の自然保護団体「グリーン・ピース」を名乗っていた。
(前述した通り、24世紀で自然保護運動は死語化しているので)誰にも相手にされなかった彼に、ある企業が
ライバル社の新事業である「ブレーメン2」を妨害すれば、動物を労働に駆り立てる悪行が阻止されると吹き込んだのだ。
意気盛んにテロ計画を実行したものの、まじめに働くブレーメン達の姿を見て、
己の信念をぐらつかせていたジャックを吊るし上げる気にもなれず、一同は彼を第一寄港地で(減刑嘆願書付で)
官憲に引き渡したのだった。



317 名前:ブレーメン2 投稿日:04/07/10 16:39 ID:???
ブレーメン2、とりあえず二章分投下。細かいことを言うと、キラ船長の出港とリトル・グレイの出現までが
Mission1、スタナー事件の部分がMission2なのですが、投稿の関係上少しズレています。



463 名前:ブレーメン2 投稿日:04/07/29 00:44 ID:???

【Mission3 やぎさんゆうびん】

トラブルに見舞われつつも第一寄港地を通過したブレーメン2。こっそり船に乗り込んでいたナッシュ社長は
いまさら送り返すこともできず、かといってタダメシ食わせるつもりも無い、ということで甲板員として雇用扱いとなった。
次の寄港地へ向かう途中、救難信号を受信したブレーメン2は救助へ向かう。
そこで彼らが見たものは乗員ほぼ全員が虐殺された囚人護送船であった。
唯一の生き残り、ヘルツォーク刑務官を保護して帰艦し、連邦軍の到着を待つキラ船長。だが
周囲の油断を突いてヘルツォーク刑務官は逃走し、ブレーメン2のシャトルを奪って脱出しようとする。
それを阻止したのは、先のスタナー事件で負傷し療養中の、白ヤギのアベル図書館長であった。
ヘルツォークの正体は刑務官ではなく、護送船の流刑囚。かつてモーゲンスターン博士の元で働いていた彼は
ブレーメンの改良遺伝子を自分に移植するため、アベル館長の双子の兄弟、黒ヤギのカインを殺し
その遺伝子をナノマシンによって自分に移植、自らを超人化しようとした。
だが、白ヤギのアベルには、黒ヤギカインにのみ通じる奇妙なテレパシー能力が備わっており
以来アベルは(相手が接近している時のみ)黒ヤギの遺伝子を継ぐヘルツォークの心を感知できるようになったのである。
それ以降もヘルツォークは違法な人体実験や麻薬の製造密売に手を出し、
終身流刑にされそうになったところを護送船の人間を皆殺しにして逃走のチャンスを図っていたのだ。
アベル館長と、異変に気づいて駆けつけたキラ船長たちに捕らえられそうになったヘルツォークは
小型爆弾を放って船に穴をあけ、シャトルを奪ってまんまと逃走に成功してしまった。
ブレーメン2乗組員から死者が出なかったのは不幸中の幸いだが、船に大穴を空けられてしまい
怒りに燃えるキラ船長であった。



464 名前:ブレーメン2 投稿日:04/07/29 00:45 ID:???
【Mission4 第6の封印】

ヘルツォーク事件の顛末を宇宙連邦軍に引き渡し、次の寄港地へ向かうブレーメン2。
だが、その寄港地カルナックは混乱状態にあった。かの星が属するバステト星系が、恒星バステトの
超新星爆発で吹き飛ぶ寸前だという。しかもこの惑星、非文明主義の新興宗教団体が保有しており
その教団の教主エリシャは「自分たちは神様に従っているから平気」と避難勧告を拒否。
さらに信者の子供を人質に取り、避難勧告に応じようとした穏健派を妨害しているのだ。
成り行きでカルナック住人の避難に協力することになったブレーメン2。
調べていくうち、さらに悪い事実が見つかる。
教団幹部は、カルナックに生息する動く木「ドリアード」から麻薬を生成し、信者に内緒で売りさばいているらしい。
人質の子供たちは、ドリアードと感応できる能力を買われ、何も知らぬまま麻薬製造に協力させられているのだ。
キラ船長とナッシュは、密かに教団の隠れ家へ忍び込もうとするが、キラ船長が見つかって軟禁されてしまう。
ナッシュの提案により、催眠ガス「サンドマン」を使って人質もろとも全員眠らせ、まとめて連れ出す作戦が取られる。
隠れ家の人間は全員確保できたが、教主エリシャは「子供たちの精神はドリアードと深く結びついている。
ドリアードと引き離してこの惑星から連れ出せば子供たちは死ぬぞ」と脅してきた。
はったりかもしれないが、子供たちの命を賭けて試すわけにも行かない。超新星爆発が目前に迫った今
ドリアードを捕まえて回るひまも無い。万事休すかと思われたそのとき、突然リトル・グレイが歌い出した。
イングランド民謡「グリーン・スリーヴス」である。
なんの脈絡も無いこの歌に、なぜか惑星中のドリアードが寄り集まってきて子供たちと一緒に
ドリアードを避難させる手はずは整った。
先のヘルツォーク事件でエンジンが不調になり、ブレーメン2の航行速度が危険域脱出に足りないのでは
という問題があったがキラ船長はとっさにスイングバイ航法(天体の重力を利用して加速する方法。
現在ではそれなりに活用されているがこの話の舞台である24世紀ではすでに大昔の技術である)を行って無事脱出。
死者・負傷者ゼロで全住民の避難が完了し、ついでに麻薬取締法違反の教団幹部は当局に引き渡されたのだった。



520 名前:ブレーメン2 投稿日:04/08/07 02:49 ID:???
【Mission5 黄泉国より】
次の目的地マホロバ星系を目指すブレーメン2に便乗してきたのは、スカイ・アイ社のライバル社Ωヴェリタスの社長
ラウル・ダ・シルバであった。マホロバ星系の惑星イザナミに居る妻のところへ行くという。だが、イザナミは
男性の無精子症を起こす放射能があるため、男子立入禁止の星なのだ。なぜ、そんな星へ奥さんを迎えに行くのか?
問い詰められて、ラウルは彼の妻ジゼル・コールラウシュ・ダ・シルバにまつわる話を始める。
宇宙山師だったラウルの曽祖父は、息子の借金を返済するため、当時の相棒だったジゼルの曽祖父を裏切ったのだ。
以来ダ・シルバ家は、何も言わず去っていったコールラウシュ家への贖罪を悲願とするようになった。
ラウルが、やっと探し出したコールラウシュの末裔ジゼルと結婚したのは、贖罪ではなく彼女に一目惚れしたから
なのだが「両家の因縁ゆえに玉の輿に乗った」などと噂を立てられて憔悴したジゼルは、ついに家出してしまったのである。
自分で迎えに来たラウルの誠意は認めるが、彼をイザナミに降ろすわけにも行かない。妥協案として
キラ船長と女性ブレーメン数名が、使者としてイザナミの鉱山で働いていたジゼルの元へ向かう。
その時、鉱山内で火山性の地震が発生。キラ船長たちは、ジゼルと共に鉱山内に閉じ込められてしまった。
事故の知らせを聞いて、何が何でも自分で助けに行くと息巻くラウル。
もはや彼を止められぬと察したナッシュは彼に、ステルス・スーツ
(Mission2のジャックが着ていたもので、元々ブレーメン2の妨害のためラウルが彼に渡したもの)
を渡し「気休めにはなる、着ていけ」と促す。
だが、このスーツには欠陥が。グレイのメス「ラージ・グレイ」に外見がそっくりなので、これを着ていると
大量のリトル・グレイに懐かれてしまうのだ。案の定リトル・グレイの群れにたかられてしまったラウルだが
なんとかグレイの群れを御し、彼らとともに鉱山になだれ込んでジゼルとキラ船長一行を救助した。
話し合いによってラウルとジゼルは和解。
さらに、ステルス・スーツにイザナミの特殊放射線を防ぐ効果がある事がわ寝