創造界編

Last-modified: 2008-09-23 (火) 11:17:12

天使禁猟区 至高天 創造界(ベリアー)編

425 名前:天使禁猟区[age] 投稿日:2007/04/14(土) 23:23:54 ID:???
[至高天 創造界編 天地大動]


通信会議で中空回廊の一件をメンバーと話し合っているセヴィー。
救世使は根城と言うべき窖に戻るだろうと答えた所でロシエルが現れる。
「窖には天使の結晶がある事も知っているはず…もしかして、一人占めしようとしていたのか。
行方不明中のエテメナンキを開く鍵が僕とアレクシエルにあると知って…」
隠していた内容をその口からあっさりと暴露され、セヴィーは焦った。
創世神が隠れる前、対なるロシエルとアレクシエルの心と体に刻み込まれた封印。
ロシエル一人でも意味がなく、死んでいるアレクシエルの体だけでもダメ。
彼女を甦らせる方法は唯一つ、体を手中にし、生まれ変わりの無道刹那を殺す事…
神がこの世にいないという事実に我々を意のままにしていたのかと色めき立つ会議のメンバー。
怒ったセヴィーは背後の部下に、境界警備隊最高責任者…ミカエルを呼ぶように指示を出した。
そしてロシエルは、鬼のいぬ間に欲しいものをいただきにいこうかと笑う…。


アレクシエルの天使の結晶に祈りを捧げるクライ。最近体調が悪いようだ。
だがその時…クライの脳裏に未来視の龍・翡翠が何かを告げようとしている姿が映る。
何が起こったのか…しかし、クライの意識はそこで途切れて行く…。
どうやら微熱が続くのは病気ではなく、クライの体が子供から女性へと変わる準備に入ったのだと言う。
だから今は気の流れが狂い、神龍とは連絡が取れない。それゆえ代々龍上主には女は向かなかったのだが…
クライは自分が大人の女になるという事実をただぼんやりと想っていた。
ずっと女にはなりたくない、いつかアレクシエルを守れる強い奴になりたいと思っていた自分が…



426 名前:天使禁猟区[age] 投稿日:2007/04/14(土) 23:26:39 ID:???
結界を抜け窖を目指す刹那達をミカエルは次々に攻撃する。
だが彼は吉良の姿を認めると、羽を収めてその場を去ってしまった。
「何故あいつがこんな所に」と震えが止まらないミカエル。
だから救世使に近づくなと言っていたのかと、その怒りをラファエルに向けた。
全員離脱していくその様子に、なんだか知らないが助かったと刹那たちは安堵した。
窖には無事着いた。が、やけに静か過ぎる。
刹那は何かを感じてその部屋…アレクシエルが安置されている場所へと急いだ。
扉を開く…セヴィーが足留めにもなりゃしないと言う言葉。
そこには、数々の邪鬼の死体の中、アレクシエルの体を抱くロシエルの姿があった。


何もかも知っていたなとラファエルに怒りをぶつけるミカエルにラファエルは語りだす。
かつてアレクシエルが封印を解き、今は救世使が引き継いだあの魔剣・七支刀御魂剣は、
魔王ルシファーの魂を宿した物だと。
かつてミカエルの兄として天界で栄華を極め――そして堕天使の王として天界を裏切った闇の指導者…
それがどうした事か何千年か前、秘密裏に天界に捕らえられ魔剣へ封じられたという。理由はわからない。
だが今や人と剣の姿に別れ救世使と共に戦っているということは、
ミカエルの耳に入れるわけにはいかないと思った。
またあの時のように壊れていくのを見たくなかったから。
そして二人の会話を聞いてしまった副官のバービエルに、ラファエルは他言無用だと言い含める。
魔王の本体は地獄を支え続けているが、抜殻だ。だが現在ルシファーの魂を持つ人間が死ねば…
おそらく魔王の本体も崩れ落ち、支えを失った地獄は大地ごと崩壊して天と地のバランスが狂う。
どんな天変地異が起こるのかは、わからない。


吉良が突然胸から血を流した。"あいつ"が来ている事を感じとった吉良は、
心配する加藤に不知火を託し「人間ごっこはもう終り。それでも楽しかった」と去る。
そして無事だったクライ達を連れロシエルによって既に痛めつけられていた刹那の元へ…。



427 名前:天使禁猟区[age] 投稿日:2007/04/14(土) 23:27:37 ID:???
圧倒的な力で二人をいたぶるロシエル。
彼は刹那を殺せばお前が狂おしいほど慕うアレクシエルは甦ると唆す。
「この世に創り出された使命を、絶対悪として産み出された意味を思い出せ…。
どうしたって人間の感情などわかりはしない、アレクシエルが欲しいならその人間を殺してみせろ!」
部屋に辿りついた加藤が、それを止めようと声をあげる…
「悪いな、刹那。俺はこの暗き太古の怨念と、あの女への思いを断ち切らなきゃならねぇんだ」
吉良は自らの体ごと、背後のロシエルを刺し貫いた。


 俺は 人間になりたかったわけじゃない
 ただ 吉良朔夜でありたかっただけだとしたら――?


貫かれた体…ロシエルは"ルシファー"へ怒りをぶつけるが、
そのまま七支刀で左肩から右の腰にかけ斜めに切断されてしまう。
「…俺が死んでも…やってけるな?」
息も絶え絶えに言う吉良だったが、半身を失っても尚死なず一瞬で再生したロシエルによって
四肢をバラバラにされてしまう。
砕け散る七支刀の水晶…嘘だと叫ぶ刹那の眼前、吉良の頭の残骸を踏みつける足。
攻撃はやまず刹那の左の翼も引き千切られた。
痛みに呻く刹那に、自分が憎いかと声をかけるロシエル。
憎いと激昂する刹那の右目に指を突き立てたロシエルは、
その目で見てもまだ自分が死なない事がわからないのかと言う。
四肢をバラバラにして炎で焼こうが、首を切り落とそうが死なない…死ねないのだ!
あの時、自分が狂う前ならまだ間に合ったかもしれないのに殺してはくれなかったと訴える。
「僕の永劫の地獄よりも人間供の未来を選んだくせに!!」
そして…魔王ルシファーの魂を持った者の死によって、
地獄に根を張っていたルシファーの本体が崩壊が始まった。
「殺しに来てもらおうじゃないか…エテメナンキに…僕と君を産んだ…アダム・カダモンが待っているよ…」
ロシエルはカタンと共に、アレクシエルの体を持ってその場から転移して消えていった。
刹那はなすすべもなく、白くなる意識と降りしきる瓦礫の中、ロシエルの名を呼ぶしかなかった。


裁判の準備のため兵士に連行される紗羅。
その耳にどこからか女の歌声が入る。
…それは、いつかセヴィーが投げ捨てたアレクシエルのピアスからこぼれた、
発芽した廃竜の種子から聞こえていた…



428 名前:天使禁猟区[age] 投稿日:2007/04/14(土) 23:29:12 ID:???
一方刹那は、片羽が千切られ片方の目が潰されたひどい有様で拘束され、ミカエルと対面していた。
刹那は変な発光体に守られ、窖からここ天界へ飛ばされてきたのだと説明される。
魔王の体の支えを失った地獄は全壊を防ぐため最終手段に出た。
サタンは魔王の本体を捨て、天界と地獄を結んでいた楔を切り七層の大地ごと大転移を行い、天界に体当たりをしたのだ。
天界と地獄の大地は不自然な形に融合し、地獄の上2層と天界の下2層が砕けて大被害を受けた。
おかげで今は天界と地獄の境界線を作り、侵入してくる悪魔を捕まえるのに大忙しだと言う。
最高会はアレクシエルの体を取り戻してきた事で大騒ぎらしい。
これでまたロシエル派は株を上げ、セヴィー側はアセってジブリールの裁判を早めたそうだ。
ロシエルを敵視するセヴィーにすれば四大元素の後見人の座は大きいだろうと言うミカエル。
だからこそさっさとジブリールを極刑にしてその力を手に入れたがっている。ロシエルを潰すためにも。
そして地獄で吉良がロシエルに殺されたと聞きミカエルは言う。
「天界最大の汚点叛逆者ルシフェル…あいつを粛清するのは誰でもないこの俺だ!
 この双子の弟ミカエルの手で…今度こそ…!」
最高会よりの御召しでルシフェルが御前天使の筆頭に選ばれた日の事を思い出すミカエル。
前途は洋洋、誰も敵う者はなく、人望も厚く指導者としての資質を兼ね備え、
そのカリスマ的な輝きは他の天使を遥かに凌駕した。
二人が生まれる時 最高会の長老は視えぬ目で未来を視たという。


 生まれ落つ二人の皇子(みこ) 一方は光の使い 一方は闇の使い
 闇の皇子はやがて自分の闇に全てを取り込み 万物の世界を混沌へと誘い
 この世を滅ぼす永遠の敵対者となりましょう


幼い頃のミカエルは、その災いの星は自分の事だと思っていた。



429 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/14(土) 23:30:30 ID:???
同じ遺伝子を持ちながら極端に成長の遅いミカエルとどんどん天賦の才能を開花させていく兄。
初めは兄の後を追っていくばかりだったが、次第にあまりにも出来の違う兄に対し反発していく様になった。
そして勃発した天と地が分かつ初めての神と叛逆天使達との戦い、第一次天地大戦。
堕天使軍の長元熾天使ルシフェルは自らを闇の王ルシファーと名乗り、
ミカエルは能天使を率いて自ら志願し、決戦の大地へと赴いた。
果てしなく続く死闘、幾千もの天使たちの命が散っていく中、最後のミカエルとルシファーの直接対決。
誰も手を出すな、こいつだけは自分の手で倒し、裏切った真実を暴いてやると向かっていくミカエル。
今、兄は一体どんな顔をしているのだろう。今まで下だと思っていた弟に切りつけられ、
生まれて初めてであろうその屈辱の顔は…
…だが、彼はやはり、いつもと同じ様に笑っていた…。
それでも自分は勝ったのだと自らに言い聞かせるように言うミカエルを
「相手の圧倒的な力の前に屈した俺と同じ負け犬だ」と一笑する刹那。
激昂したミカエルは部下・カマエルに命じ刹那を殺そうとする。
それを阻止したのは刹那を「主」と呼ぶ奇妙な女だった。


その頃紗羅の裁判を画策するセヴィーは、バービエルを人質にとりラファエルに協力を迫っていた。
裁判前のジブリールに面会し、精神安定剤だと偽って薬を飲ませるだけでいい。
…余計な口を利けなくするだけのものだ。
ラファエルは彼女の様子を思い起こしていた…。



430 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/14(土) 23:33:14 ID:???
[至高天 創造界編 異端審判(ホーリーインキジション)] 


その女は、手が4本あり金属のような光沢を放っていた。
彼女は刹那が足から抜き取った破片に手を伸ばす…
だが不気味に思った刹那が自分に触れるなと言うと、そこで動きは止まる。
そしてカマエルが彼女を撃つ。
彼の体は幾多の戦争の影響で半分以上が作り物、あの程度の攻撃では死なないのだ。
彼女はカマエルを睨みつけながらも黙って銃撃を受けていた。
機械のようなぎこちない動きを見せる彼女に大丈夫なのか、何故逃げないのか声をかける刹那。
だが、先程刹那が動くなと命じたからだと答える彼女。
そういうことか、と…刹那は、自らの閉じ込められた檻を破壊するように命じた。
その傷が一瞬で癒える…彼女が檻を破壊すると、刹那はカマエルをやるよう命じ、一人逃げ出した。


刹那に言われた負け犬という台詞を思い出し、一人反論するミカエル。
兄に勝った、そう思っていないと壊れてしまう。あの時みたいに――
決戦の後、魔王軍は地獄の大地へと退却し、ミカエルは天地大戦で一番の英雄となった。
だが、あいつの笑顔が、敗北感が悪夢となって襲いくる。
狂って暴走し、近づく者全て焼き尽くしたミカエル。みんな恐れて近づこうとはしなかった。
なのに、何も恐れずただ一人、真っ直ぐ近づいてきたのは…ラファエルだった。
気を抜けば骨まで一瞬で燃え尽きてしまうのに。そんな態度はおくびにも出さず、慰めも、叱咤もなく…
頭に触れたラファエル、制御できない自身の炎。焼けていくラファエルの手…
自身が兄の呪縛から逃れなければ、勝ったと思わないうちは、何度戦っても勝てないと言うラファエル。
みんな、自分を置いて行ってしまう…自分を裏切って…!



431 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/14(土) 23:34:41 ID:???
一閃。
熱気は消えていった。どこにも行かないとラファエルは言った。
誰もルシファーを理解できないし、その心には住めない。
それが悔しければもっと強くなって嫌でも忘れられないようにすればいい。
まだ始まったばかりなのだから…
泣きながら焼けた顔を治せと怒鳴るミカエルに、煙草の火を貸してくれないかと笑っていた。
変な奴だと思いながらも、ラファエルに救われたのだった。
そして、救世使に対する怒りの正体を思い悩むミカエルの元へ、刹那が逃亡したとの連絡が入った。


裁判前の健康診断だという名目で会いに来たラファエルを快く迎える紗羅。
ラファエルは脈拍が速いからとセヴィーから渡された薬を精神安定剤だと言って渡す。
バービエルは責任感の強い軍人女性、手足の自由がきく拘束状態ならば自害の恐れがあるからだ。
だから急がなければ…。
しかし嬉しさのあまり紗羅が涙をこぼす。
色々あって気が張っていたから、優しくされて気が緩んだらしい。
礼を述べ、ラファエルを本当はシャイで優しい人だと評する。何も答えずそのまま去るラファエル。
彼はセヴィーから裁判中に余計な邪魔が入らぬよう
ミカエルの隊と合流して地獄との国境を悪魔の侵略から防ぐ任務を与えられていた。


――任務に背けば反逆罪でラファエルの手も後ろに回る、という訳だ。


そして何も知らない紗羅は疑うことなく薬に口をつけ、
緊張した面持ちで裁判所へ足を踏み入れた。



432 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/14(土) 23:36:39 ID:???
襲い掛かる能天使に力が使えない刹那は銃で応戦し、それをあの奇妙な女が庇う。
遥か昔より自分に刷り込まれた命令、存在理由はアレクシエルを守る事だと言う彼女。


例え彼がこの小さな赤い鉱石の破片となろうとも…


そう言って刹那の傷口から取り出された七支刀の破片にくちづける。
それが長き時彼と共に生きてきた自分に残された唯一の記憶、例え彼の魂が離れようとも
その思いはこの細胞一つ一つに刻まれている。そう言うと彼女は光を放ち七支刀へと姿を変えた。
「天に封じられた魔の神剣七支刀は 地球上にはない第五番目の元素エーテルを合成した超自然物質。
 この世で最も固く 知能を持つ鉱石で作った無二の剣に、
 驚異的な生命力を持つ凶悪なるある堕天使の魂を移植したシロモノだ
 俺の炎の剣と並ぶと噂に聞いたソレがまさか…かつての俺の兄・魔王ルシファーの
 魂を封じ込めてあったとは…驚きだがな」
そこへ講釈を垂れながら現れたのはミカエルだった。
その剣は魔王ルシファーだった男の魂がなくなった後も必死で奴の思いだけを残し、
お前を護るために存在している七支刀の抜け殻だと評するミカエル。
だがこれからは奴の精神力は使えない、お前自身がそれを制御し同化すれば
今まで以上の力を発動させる事も可能だと。
しかしそれそれはルシファー以上の逸材だったらの話…
天界中を震え上がらせたあの大叛乱の首謀者、最大の裏切り者 悪の根源となった男。
それがアレクシエル如き女一人に心奪われ、何があったかは知らないが剣の姿になり下がり
死の瞬間までそいつを護ろうとしていたなど笑える話。
どうしたって納得はできないと刹那に向かっていくミカエル。
それはお前が兄貴を誰よりも好きだからだと、七支刀を構えた刹那が言う。
ミカエルの剣は弾かれ、刹那がマウントポジションを取った。
自分が子供の姿をしているのはそのせいだとミカエルはようやく悟った。
兄に認めて欲しい心、ここにいると知って欲しいと甘えた心が、成長を止めていたのだ…



433 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/14(土) 23:37:56 ID:???
その時、腹に響くような重い鐘の音が鳴り響く。裁判が始まる…!
水の天使ジブリールにかけられた嫌疑、救世使との不義の関係について。
前代未聞の公開天上裁判を知らせる鐘の音。
その様子は総ての階級の天使達に全国規模で流されるとミカエルが説明する。
裁判がどこで行われるのか教えて欲しいと願う刹那。
殺されると念を押しながらも、必死な様子の刹那にミカエルはとうとう折れた。


メタトロンに眠れないのかと尋ねるお付きの杭打ちシスター。
やはりセヴィーの薬を飲んだ方がいいのではないのか、頼まれて量を減らしてきたが
その余りがたくさんあると言う。だが心ここにない様子でメタトロンは呟く。
「水も、火も、土も、風も動く。ライラは必死になっている、自分を見逃す程に。
メタトロンの好きなジブリール…」
不審な様子に確認しようとしたシスターの腕の中、白目をむいて倒れこむメタトロン。
彼女はドクターを呼ぶために駆け出しながら、白い制服の親衛隊に彼のことを頼んだ。
メタトロンは息をしていない…確認する彼の前でうさぎの人形が手から落ちた。
訝る親衛隊の背後に、メタトロンが飛び上がる。
人形からは、幾多の眼球や爪、牙や赤ん坊の手のような物を持った肉塊が這い出し彼を襲った!
数分後、ドクターを連れシスターが部屋へと戻ると、そこにメタトロンの姿はなく、ボロボロになった
うさぎのぬいぐるみと絶命した籠の中の鳥が残っているだけだった。
メタトロンは親衛隊の男に手を引かれ、どこかへ歩いて行った…。



434 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/14(土) 23:39:57 ID:???
ジブリールの裁判が行われる場所を聞いてどうするというのか。
わざわざ自分からセヴィーの手に落ちていくつもりか。
それでも教えて欲しいとミカエルに縋る刹那は、右目が酷く痛むのを感じた。
ロシエルにやられたその目は毒を吸い出さなければ失明するかもしれないと宣告される。
それでも行くのか、自分の目一コくらい女のためなら惜しくないのかと…
なお願う刹那にお前達そういうところはそっくりだと言ったミカエルは、
この上のマコノムの中心部にある裁きの城だと答えを与えた。
だがどうやって行くつもりか、今の警備は前の比ではなく強化されているからまた門を突破するつもりなら無駄だ。
お前にも兄への譲れない思いがあるように、自分にも譲れない大事なものがあると刹那は言った。
例え殺されようと、右目を失おうとも、たとえ無謀な賭けであろうとも…。


四大天使のジブリールが裁かれるという前代未聞のこの事態。
あまつさえ上級裁判には御前天使の全員出席が決まりなのに誰一人として現れない。
今回、最高会に任命された裁判長は古き使いとされる黄道十二宮の天秤宮ズリエル。
傍聴の天使達の雑談の中、ここは公の場だから、
セヴィーも卑怯なマネはできないだろうと必死で自分を励ます紗羅。
だが、開廷と共に現れた裁判長はセヴィーであった。
ズリエルは急病の為欠席、宰相セヴォフタルタが代行するとの事。
出席していたロシエルはこれが墓穴にならなければいいと大笑いし、
来てよかっただろうと供をしていたカタンに同意を求める。
これでジブリールの命は宰相に握られたも同然…傍聴席は騒がしくなる。
どうあっても自分を有罪にする気なのだと紗羅は青くなる。
聖なる書物の上に手を置き、神の御名において真実のみを述べる事を誓うよう指示される。
だが喉が何かおかしい。 それでも途切れ途切れに紗羅は宣誓する。



435 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:33:20 ID:???
被告ジブリールは自ら志願して地上に人間として転生し、
無道刹那――アレクシエルの魂を持つ少年の妹となり彼の守護天使となった。
何故自分からその四大天使の位を捨て、アレクシエルの魂の近くに行く事を希望したのか。
読み上げられたその文に愕然とする紗羅。
天地大戦前、ジブリールは常から有機天使アレクシエルの思想に同調し、
事ある毎に熾天使最高会に意見していた。そして幾度も下級天使の元へ降り、その思想を説いて回った。
だから同志アレクシエルに同情し、自分の意志で無道刹那の監視人を買って出たのだろうと…


反論しようとした紗羅だが、声が出ない事に気がつく。
しかし無情にも上告文は更に読み上げられていく。
無道刹那の妹、紗羅として地上で転生してから自ら傾倒していた同志の魂に惹かれ、
人間としては実の血の繋がりのあった兄妹でありながらあろう事か無道刹那に惹かれていったのだと…
何故こんな大事な時に声が出ないのか。紗羅は裁判前の診断を思い出し
その時ラファエルにもらった薬のせいで声が出ないのだと悟る。
異議があるならば何かを言うようにと促される紗羅。これは最後のチャンス、反論するなら今しかない。
「さぁ!お答え下さいジブリール様!!」


その頃ラファエルは監視の白い制服を野郎は嫌いだと振り払いながら任務へ急いでいた。
問題はバービエル、彼女がいつ行動に移すかが大問題だ。
その時警備室に鳴り響く警報…例の女が監視カメラを壊したのだと。
急いで部屋へと向かった警備兵が見たもの…それは、自害したバービエルの姿だった。
彼女の指輪は指に密着して外せないタイプのものだったが、その中に毒が仕込んであったらしい。
このことは内密に処置をし、ラファエルの耳には入れない事にする。急いでセヴィーに連絡をしなければ…
しかし監視カメラはどうやって壊したのだろう?



436 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:36:51 ID:???
一応病室で蘇生措置を施すために運ぼうと、監視カメラを見つめるもう一人を呼ぶ警備員。
その背後で…バービエルは指輪から針状のものを伸ばすと一人の胸を貫いた。
そう、全ては自作自演。自ら傷つけた足を晒し、その血で毒を飲んだように見せかけたのだ。
彼がその痴態に目を奪われた隙をついて膝蹴りを食らわし、鍵を奪って手錠を外す。
追っ手に肉弾戦で応戦しながら、バービエルは逃亡を開始した。


息を切らせて瓦礫の山を進む刹那。羽がないから傷は治らないしアストラル力も使えない。
満身創痍状態だ。悪魔に襲われあわやという時にミカエルが助けに入る。
それでも兄貴の認めた男か、どれ程の男か見せてもらうまで救世使とは認めないと言う。
だが勘違いするな。自分は自分だけの味方、誰の命令も聞かない。
裁判所へ向かうのは兄妹のように身近な存在である元素天使を得体の知れない覆面男に
好き勝手にされるのは気に食わないからだとツンデレなミカエル。
二人はメルカバに乗り込むが、刹那の突然右目が痛みだし蹲る。腐食が顔中に広がっていたのだ。
しかしそこから何かが見える。裁判所…たくさんの人々、セヴィー、そして紗羅。
以前東京でウロチョロしていた天使…カタン。彼が「ロシエル」と呼びかけた事で、
刹那はそれがロシエルの視点だと気付いた。
そこで追いつめられ責め立てられる彼女の様を指をくわえて見ていろと笑うロシエル。
黙っている事は不利益にしかならないと言われるが、口元を押さえ何も言わない紗羅。
様子が変だと刹那は訝るが…


裁判は続く。ここに彼女に大変詳しい方からの信用の置ける証言をお目にかけたいと示された立体映像。
地上より採取した無道紗羅の遺体――最高会よりの依頼で精密検査をした結果、妊娠している事が判明。
DNA鑑定では間違いなく近親者との間の子供、99.7%の確率で無道刹那の子であると言える――



437 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:39:01 ID:???
それがラファエルの証言だった。紗羅と刹那は衝撃を受け…傍聴席も騒がしくなる。
ラファエルまでもが…セヴィーは何としてもジブリールを死刑にする気でいるのだ。
天界最高位の医師の証言、しかも被告人とは深い絆で結ばれているはずの四大天使。
何か申し立てる事はないのか、沈黙で答えしは事実に相違ないと、
自分の犯した過ちを認めると言うのかと責め立てるセヴィー。


ジブリールよ さあ この衆人環視の中
お前の正義とやらを聞かせてもらおうではないか
訴える事が出来るというのなら やってみるがいい――


バカな自分にも解る事が一つだけあると…紗羅は涙を流しながらセヴィーを指差した。
許さない、どこまでも汚い手で陥れると言うのなら告発する。
セヴィーはその様子を一笑に付すと、被告人はお疲れのようだからしばらく休廷とすると告げた。
再開は20分後…刹那はもどかしい想いを抱え届かぬ手を伸ばす。


気絶した警備兵…開く扉。
ここはどこかと訊くメタトロンに見えるだろうと答える白い制服の男。
『かつて僕と君の眠っていた場所…棺桶の如き出る事の許されなかった胎内容器…揺り籠だ…』
「ぼく あれがこわいよ サンダルフォン…」



438 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:40:50 ID:???
ラファエルの元にバービエルから通信が入り、脱出した事が判明した。
自分の存在が上官の障害にならぬ最善の方を考えて行動するのが副官の常。
毒を飲むのはそれらが全て断たれた時の最終手段だ。
それに自分以外の誰がラファエルの女性関係を監視できるのか、そこの女にもキス以外は許さない。
ハートマーク付きの宣言に、ラファエルの膝に乗った女性がひきつった。
信号を出すのですぐに落ち合おうと確認しあう二人。
だが白い制服がラファエルに銃をつきつける。副官の元へ行くのは立派な軍規違反。セヴィーの命に背く事。
そうなれば四大天使の位は剥奪、ジブリールの二の舞となって裁かれ極刑の目に遭ってしまう。
バカでもわかる図式、人質が戻ってもこれ以上彼女に関わって痛い目に合うなど正気の沙汰じゃない。


だが、あの娘だけが――


ラファエルは男に攻撃を加えた。何故かと問われ、何故だろうかと返す。
宰相直属の白い制服をぶっ殺し、セヴィーを敵に回してまで、何をしようとしているのか…


無事ラファエルと落ち合ったバービエル。だが本当は判断に苦しんだと言う。
ラファエルが宰相に逆らわないつもりならこのまま人質でいた方がいいのかと。
でもこうして来たという事はバービエルの勘が当たったという事。ラファエルにも女心が通じたと。
ただ"彼女"を放っておけないだけだと言うラファエルに、それが何故かと問い返すバービエル。
ラファエルのしようとしている事は叛逆行為、セヴィーと天界全体を敵に回さんとする重大な賭け。
そうまでしてジブリールを助けたい理由…同じ四大元素で生まれた時の仲間だからか?
だがラファエルはそれを否定する。
彼女を助けたいのは古くからの友人だからではなく…彼女が無道紗羅だからだ。
真摯な気持ちで紗羅を助けたいと言うラファエルに「よく言えました」と慈愛に満ちた顔で微笑むバービエル。
自ら逃走に利用した車を彼に与えると、後の事は全部引き受けたという。
力天使STには自分から告げておく。去るも残るも自由だと。
したい様にすればいい、バービエルはどこへなりとも供をするから…!



439 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:42:42 ID:???
あまりにもジブリールに不利な証拠ばかりが揃っているこの裁判。
だが彼女は反論しないからやはり事実なのか、誇り高き四大元素の御前天使が…
しかしジブリールの様子はおかしい。傍聴席も異変を感じとっていた。
そして裁判が再開される。
ラファエルまでもが紗羅を騙し薬を飲ませて口封じをした今、一人の味方もいない。
紗羅の本体まで地球から回収し、あんな扱いや、証言まで…二人の子供だという胎児まで…
もう命のないホルマリン漬けの赤ちゃん。あれは本当に二人の子供だろうか。
だが何も考えられない紗羅。
これが最後の審議、これ以上黙秘を続けるのなら全ての罪を認めた事になるとセヴィーは告げる。
ラファエルは軍人なのだからセヴィーの命なら断れないはず。
彼を恨むのは筋違い、自分が勝手に期待しただけ。
この天界でただ一人、味方をしてくれたなんて思い上がってしまっただけ…
黙ったまま沈んでいる紗羅に勝ち誇ったようにセヴィーは言葉を浴びせる。
四大元素ともあろう者が人間界の仮の姿とはいえ実の兄と歪んだ愛情関係を持ち、
その罪の証を作り出そうとしていたと認めると…異議はないのかと!
「異議はある」
突然、そこに闖入者が。開廷中だと警備兵に止められながらも扉を開けて入ってきたのはラファエルだ。
命令をきかなかったのかと慄くセヴィー。
何故ここに彼がいるのか、これもセヴィーの罠なのかと思う紗羅。
だがいつもバッチリ決めているラファエルとは違って、髪はバサバサ服もあちこち汚れて別人のよう…
そして、ラファエルは突然紗羅にキスをした!
刹那やセヴィー、聴衆の驚く中、彼の手がその喉に触れ治癒の淡い光が灯る――
「やめてよ!! このスケベ!」
紗羅はラファエルの頬を平手で殴り、そして自分の声が戻った事を悟った。



440 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:45:11 ID:???
だがこの様な厳格な場での禁を犯す行為、これだけの証人の前で言い逃れは出来ないと
ラファエルが責め立てられる。四大天使も地に落ちたものだとこれ幸いと告げるセヴィー。
しかし紗羅は実の兄である刹那と愛し合ったのは神に誓って本当だと毅然と言い返す。
昔は何とかこの気持ちを殺そうとがんばった、この思いは禁じられた異常な事だとわかっていた。
それでも好きだという気持ちは消せなかった。でも後悔はしていない、自分は幸せだ。
恥知らずと反論するセヴィーに、好きな人に好きだと伝える事すら許されない、
愛さえないこの天国に育った神の為に生きる貴方達にはわからないと返す紗羅。
全ての感情を殺してまで清く正しくただ神の決めた戒律の上を転がってゆく、
不自然で可哀相な人形達…貴方たちはおもちゃの兵隊。
「そして…お可哀相なセヴォフタルタ様…」
その言葉に激昂するセヴィー。
紗羅は震えを隠すようにラファエルの服を握りしめ、言葉を続けた。
そんなにしてまで自分の仮面の下の真実を隠したいのか…この大観衆の前でセヴィーを訴える!
今、自分はジブリールではなく無道紗羅としての記憶しか持っていない。
それは刹那を好きで、その思いが自分を紗羅でいさせているのだと信じている。
だがかつてジブリールが人間として刹那の守護天使となり紗羅として転生したのは
決して当人の意志ではない。全てはセヴィーの企みだ!
その様な世迷言で侮辱する発言は許さぬと激昂するセヴィーに、ラファエルが写真を示す。
長い眠りから目覚めたジブリールの首筋にあった針の跡。分析して調べれば、
それが宰相殿お得意の神経針の跡だとはすぐ解る事。
ラファエルが裏切る…セヴィーは今の発言を記録から削除し、裁判中継を中止するよう命令を出した。
そして衛兵に、命令違反と公衆の面前での淫らな行為による罪でラファエルを拘束するようにと。
卑怯者と罵る紗羅、不敵な笑みでなされるがままのラファエル。
傍聴席の天使は正統な裁判ならどんな発言も記録すべきだ、
放送を続けこの事態を全天使に説明すべきだといきり立つ。
モニターを眺める群集も、その様子に釘付けだ。



441 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:49:10 ID:???
そして裁判所内に走る衝撃…そこに現れたのはフードを被った長身の男が放ったものだった。
彼はこの裁判は無効だと言う。偽証や偽裁判長が横行しては宣誓の意味がない。
席から降りた男は、上告文を読み上げていたフェリエルにこれまでの代行を労い、フードをはずした。
「私は正統なる司法官 裁きの天使四大元素ウリエル」
ロシエルの目を通し、刹那も星幽界にいるはずのウリエルの存在に驚きを隠せない。
おもしろくなってきただろうとロシエルは笑う。
(実は裁判前に彼はウリエルが入廷するのを見破っていたのだが、面白いからと黙っていた)
そしてウリエルは1枚の書類を示して見せた。
「天界司法全書によれば
 「裁判長は天使名簿に正式登録されし第一階級以上の最高司法官資格を有する者から選抜されるべし」
 ――とあります
 神聖な裁判を汚す者よ 天使名簿に名前のない貴方は一体何者なのか? セヴォフタルタ」
周りがきなくさくなってきたのでしばらく通信を断ち、地下に潜ると言っていたザフィケル。
彼は自分の運命を察知していたようだった。
ウリエルに託された、彼の組織が長年かけて調査した血と泪の結晶――独裁者の失墜のための極秘データ。
そしてそれは同時に彼の最期の形見となった。
ザフィケルがその生涯の全てをかけて貫いた志――そしてそれは今ウリエル自身の悲願でもある。


ウリエルの言葉に汗を流すセヴィー。自分の名が天使名簿にないというのはどういう事かと問う。
正しくは"貴方の名"がないのだと言うウリエル。
確かにセヴォフタルタという天使は何億というデータの中に一人だけ存在している。
彼は目立たないながらもST候補生の一人となり、第一次天地大戦ではそれなりの戦果を上げていた。
だがその大戦で全滅となった戦いでの唯一人の生き残りとなり、その時に顔と体を負傷、
治療不可能な程のその傷を隠すようになった…
だが本当にその傷のために素顔を隠しているのか、という疑問が生まれる。
生還後のセヴィーは見る間に頭角を現し、熾天使となりついにはメタトロンの宰相となりこの天界の副王となった。



442 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:52:52 ID:???
まるで以前とは別人のような出世ぶりだが、大戦前の素性を知る者も語る物もいない。
何故ならかつてのセヴィーの過去を知るものは皆ことごとく危険な任務を与えられ死亡しているのだから――
セヴィーの素顔を知るものはこの世には誰もいない。
調べれば調べるほど、関わった者の不審な死にぶち当たる。
以前のデータを消して回ったのが今のセヴィーならその意味するところは一つ。
本物のセヴォフタルタではないのだ。
大戦の時に死んだセヴォフタルタの名を騙る偽者ならば亡霊に名などあるはずがない。
――この裁判は無効だ!


ウリエルの証言に、中継を止めてはならないと命令する責任者。
これは重大な事実、全天使に真実を伝えなければ。
躊躇する作業員に対して彼は、責任は全て持つと堂々と宣言した。


騒がしくなる裁判所内。ラファエルは警備兵を振りほどき、ウリエルが肉声を発している事に気付く。
かつて彼が密かに愛していたアレクシエルを裁いた、呪言の力をも持つその声。
自責の念に耐え切れず自ら声帯を引きちぎったはずなのに…。
何を考えているのかわからない奴だが、これで前回の貸しはチャラにしてもいいと思った。


長い事無断でその座を放棄してきたウリエルの言葉にどれ程の信憑性があるかと言うセヴィー。
自分が死んだセヴィーの偽者だという証拠はあるのかと反論する。
そこでウリエルは立体映像を写し出し、その男を知っているかと問うた。
傍聴席の者は誰も彼を知らず、またセヴィーもそんな男は見たこともないと答える。
その映像は一片の奥歯のDNAより復元した歯の持ち主。
つまりセヴィーが知らぬと答えたその男こそが本物のセヴォフタルタだ!
言い逃れできなくなったセヴィーに追い討ちをかけるように紗羅が言葉を浴びせる。
ラファエルを脅して偽証させたり、紗羅に裁判で声を出せないよう薬を飲ませた事も、
みんなの前で告白してみろと。 激昂したセヴィーが攻撃を加える、それを庇ったのはラファエルだ。
そして傍聴席からも人々がなだれ込み、紗羅…ジブリールを庇う。
見苦しい真似は止めろとセヴィーに盾突く彼ら。



443 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:55:01 ID:???
勝手なマネをするとお前達も捕えると脅しかける警備兵の銃を押さえ込むラファエル。
彼女がさっき言っていた言葉を聞いていなかったのか、
それとも…本当に自分で考える事もできないおもちゃの兵隊に成り下がったのか。
ジブリール…無道紗羅の言葉に嘘偽りを感じたか。真実を見つける心も失った人形だったのかと呼びかける。
傍聴席の心はひとつになり、皆がラファエルとジブリールを解放し真実を告げろと糾弾する。
セヴィーは未だ映像が天界中に配信され続けている事に気付き慄いた。


ロシエルは笑いながら君の罪深い恋人を見ろと言う。
こんな状況だからこそ芽生える思いもあるとは思わないか、
少なくともラファエルは彼にしては珍しく本気だと…
このまま自分の右目で黙って見ていろと笑うロシエルに、お前の思い通りにはさせないと言う刹那。
七支刀を振りかざし、右目を抉る事でやっとロシエルの呪縛から逃れられた。
心配するミカエルに出発すると言う刹那。もう遊んでいる暇はないのだ。


所内の天使達の怒号か飛び、セヴィーは頭を抱える。
何とか言ったらどうか、その目は俺達が怖いとでも言うのか…甦る記憶。
だがこんな場面に出会ったことなんて一度もない。
抗議してみればいい、あの自慢の声で。
こんな事が自分の身に起こるわけがない…あの女が自分なのだろうか。
もう歌なんか歌えないようにしてやる、悲鳴すらもあげられないように…締め上げられる、首…


揺り籠が開かれていく…とうとう5番目の封印が解かれた。


ミカエルのメルカバは警告を受けていた。
戦闘メルカバ禁止区域に侵入している、これ以上聖域の上空侵犯を続ければ警法により撃墜すると。
だがやるとなったら徹底的にやると彼も覚悟を決めていた。


響く警告音。震えるメタトロンの手をとり次の封印解除へ導く、白い制服の男。
ここから自分を出してくれたらジブリールは君にあげる、自分はセヴィーが欲しいのだと言う。
だから二人で分けよう、自分達は双子の兄弟なのだから…!
メタトロンはサンダルフォンの名を呼び涙をこぼした。



444 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:56:31 ID:???
警報が鳴り響く中ついに揺り籠が、開く…


 此彼に行き 雷光いず 恐ろしかりしその面 燦然と無数の遍く目あり
 その黄金色の玉の如し生物に手足はなく 6枚の輝ける羽を頭部より生やし

 ああ災いだ 災いだ


ミカエルが裁きの城へ突っ込む。
セヴィーは糾弾され続ける事に、あの女は自分ではないと恐慌に陥った。


  胎  動


開かれる目、腕…羽から飛び散る針。


 やっと見付けたよ――ライラ
 僕を産んでくれる美しい人


赤ん坊の泣き声が響き渡り、裁判所が大爆発を起こした。


瓦礫の中、一体何が起こったのかと身を起こすセヴィー。
落ちた冠に、マスクも外れていることに気付く。
そこへ訪れたのは、刹那。セヴィーの姿を見て、驚いた様子を見せる。
「…あんた…まさ…か…!」



477 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:43:32 ID:???
消して 真っ白にして  ライラを 殺して


ポッドの中の肉塊に伸ばされる、血だらけの腕…


[至高天 創造界編 白ノ世界]


おててつないで、と無垢な笑顔で笑いかけてきたメタトロン。
だがもう歌えない。あの頃の様に真っ白な心で天を称える事も出来ない。
あの頃の声はもう失われてしまった。歌を歌えない籠の鳥は羽根をむしられ追放されるだけ。
白い世界…歪みもなく一点の曇りもない、ただ真っ白な世界…


そこにいるのがセヴィーだと気付いた刹那。
その顔には、額に逆十字の傷、そして頬には天界における犯罪者の証として烙印があった。
その時セヴィーの顎から何かが落ちた。落ちた機械は変声機だろうか。
それは掠れてはいるが女の声…まさか本当に…
「あんた…ライラ…?」
頭を抱え、その名はやめろと恐慌に陥る…。


 烙印を――汚された女には背信の証を!!


押された焼印、何故自分を避けるのかとライラに迫る男。君を好きだと言ったからかと…
だが…その女は消したのだ!!



478 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:44:54 ID:???
友達のアナエルの身を心配する風でいて実はいつもザフィケルを見ている、
それに気付くべきで目を背けてはいけないと言う男。
神に背く感情であろうと天使達の気持ちは止められない。自分も、君への気持ちが止められないと。
だがライラにとって大事なのはサンダルフォンだけだ。
双子のメタトロンには体があっても力はなく、時折サンダルフォンの脳波を受け取るだけ。
片やサンダルフォンには力があっても体がない。
きっとこの肉と眼球の塊から完璧な肉体と力を持った御子を作り出してみせる…。
その努力が報われ新参者だがライラはサンダルフォンの研究チームのチーフに任命された。
滞っていた研究も、ライラが来て飛躍的に躍進した。怠慢な研究員は人員削減のため切り捨てていく。
しかしお前のせいだと、切り捨てられた研究員達がライラに襲いかかった。
抵抗するライラの首を締め上げる彼ら。
「何とか言ってみろ、サンダルフォンに子守唄を歌ってやるその声で…!」
そしてようやく助けに来たのはライラに好意を持つ男…星幽界で廃竜となっても彼女を思い続けた彼だった。
「お前達がクビになったのはエリート所員ということを笠に着てやりたい放題をし、
いい加減な仕事をしたツケだ。
自分達の無能を彼女のせいにするな!さあ わかったら早くその汚い手を離すんだ!このブタ野郎!」
うつろな意識でそれを聞いていたライラ。汚いブタ野郎…その通りだ。
ではその薄汚いブタの手に堕ちた自分は何か…
例え合意がなくとも禁を犯した女は「魔王の妻(リリス)」の烙印を押され下層に落とされる運命――
ライラの喉が潰された事を悟った彼は、こんな事なら避けられていても側を離れるのではなかったと後悔する。
人知れぬ地にこのまま2人で逃げよう、これ以上君を悲惨な目に遭わせるわけにはいかないと訴える。


だが本当に自分を汚したのは、乱したのは、土足でズカズカと入り込んだのは、この男――


ライラは彼の持ち込んだナイフで、彼の胸を突き刺す。
そしてやっと現れた警備員を前にこの男が私を汚したのだとライラは訴える。絶望に彼女の名を呟く男…
ライラは警備員が止めるのも聞かずに駆け出した。
あの男…ザフィケルもいつか消さなければいけない。自分の心を犯す汚れた者達を全て消す!
ライラはサンダルフォンへ願う。お前が本当に全能の力を持つのなら助けて欲しい。世界を綺麗にするために。
だから一番汚い物も消さなくては。…ライラを消さなくては…!
答えは返った。ライラをこの世から消してあげると――



479 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:46:21 ID:???
裁判…あの男が処刑されても何も感じない。あの夜を知る者はこの世から消え去ればいい。
そして頬に罪人の証の烙印を押され、ライラは消えた。そんな汚れた女はこの世にいない。
自分はライラなんかじゃない…。あの女を知る者も乱す者も、何もかもこの世から消滅したのだから…
その呟きに、消えないと返す刹那。消したつもりでも必ず残る何かがあると。
愛も憎しみも人の心に残り、生きている者を苦しめたり救ったりする。
人の思いだけは決して消えたりはしない…
刹那は廃竜の思い…「もう苦しんでほしくない」「今も変らず心の平安を願っている」その事を伝える。
どうしてそんな姿で独裁者を演じているのかはわからない。
でも彼は恨んでないと言っていた…そして昔のライラは確かに彼を愛していたし、彼は変らず今も愛していると…
ばかな事を、と吐き捨てるセヴィー…ライラ。
自分を死刑にした女を恨んでいないと? この私があの男を愛していたと?
その背後に、突然あらわれた白い制服。だがその感じは、あの時の…!


男の放つ波動に弾き飛ばされた刹那は、瓦礫の中気絶した紗羅を発見する。
瓦礫が崩れる…だが刹那の伸ばした腕は、目の痛みに一瞬気をとられた瞬間、届かなかった。
彼女を救ったのはラファエルだ。


紗羅を抱えて飛び去ろうとする彼にどこへ連れて行くつもりだと怒鳴りつける刹那。
破壊神(=ミカエル)と来てくれたおかげで裁判はめちゃくちゃ。
もう少しでセヴィーを完璧に落とせるかもはずだったのにと言うラファエル。
全国の天使にはアピールできたかもしれないが、無効裁判に殴りこんでのウリエルの告発もまた
法的には無効に近い。
ほとぼりが冷めて彼女の身の安全がわかるまで隠れるしかない、と。
だがそれは自分の役目で紗羅は自分の女、小さい頃からずっと守ってきたのだと返す刹那。
ずっと一緒にいて、喜びも悲しみも二人で乗り越えてきた。紗羅が愛しているのは自分だけだ!
「…"今は"… …だろ? これからは彼女は俺が守る」
刹那は許さないと怒鳴りながらも、紗羅を連れ去るラファエルを追うことは物理的にできなかった。



481 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:49:53 ID:???
そんな最中でも相変わらずウマの合わないミカエルとウリエル。しかしバカなやり取りをしている間もない。
白い制服の軍団が、この裁判に関わった者全ての身柄を一時拘束する、と集まってきたのだ。
そこに響き渡る、セヴィーの声…救世使と四大天使全員を見つけ次第逮捕せよ、と。
勿論それは白い制服に取り付いたサンダルフォンが変声機で命じたもの。
彼は「やっと捕まえた」と愛しそうにライラを抱え連れて行く…。
その光景をロシエルは楽しそうに物陰から見ているのだった。
女の事は後だととりあえずメルカバで逃げ出す一行。
何故あの時紗羅に手が届かなかったのか…迎えに来たのに、約束通り助けに来たのに…歯噛みする刹那。


紗羅が目を覚ますとそこにはラファエルがいた。
ラファエルは事の顛末を話し、子供もヤラセだったと告白。
そして地上から密かに持ち出した紗羅の死体を見せ反魂の術を施してくれた。
無事元の体に戻った紗羅はどんなに感謝しても語りつくせないと頭を下げる。
あの時、薬を飲まされたと知り映像のラファエルを見たとき、この世で一人ぼっちなのだと思った。
でも仕方のない事だとも…セヴィーの力は絶対でラファエルの立場が危ない事は想像がついたからだ。
それなのに来てくれた…セヴィーに追われる身になってまで。そして元の体にも戻してくれた…
ただキス一つの貸しがあったのを思い出してもらいに帰っただけだとそっけなく告げるラファエル。
いくら君でもそんなカッコでひっつかれたら変な気を起こすと軽口をたたく。
それに怒った紗羅の指に壊れた指輪をみつけたラファエル。
こんな安物はずしてもっといい物をプレゼントしようかと言うが…紗羅は精一杯それを拒絶した。
それは初めて刹那がくれたもの…
そういえば、気を失っている間確かに刹那の声を聞いた。もしかしたら助けには来なかっただろうか?
だがその問いに、救世使など来なかった、とラファエルは冷たく答えた。
気のせいだったのだろうか…だがきっといつか来てくれる、その日を信じている。
紗羅はただ祈るようにそれだけを想っていた。



482 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:51:59 ID:???
紗羅を連れ去ったラファエルを許さないと思いながらも、刹那は右目の義眼手術を受けていた。
だがもがれた片羽は…一度失った天使の羽は元へは戻らない。
片羽さえあれば繋ぎ合わせることもできようが。
大分体力が低下しているのでしばらくは残った片羽もアストラル波に戻して安静にするしかない…
という話をウリエルから聞かされていたミカエルだが、そんな事はどうでもいい。
付いて来いと言うから付いて来たらそこは叛乱組織の真ん中だった事についてご立腹なのだ。
ウリエルは今は亡きザフィケルの遺志を継ぎ、白い政界の打倒を目指し「世界の魂」に協力しているのだった。
予定では彼の合図で待機していた組織の者が裁きの城を占領し、セヴィーを人質にとる手筈だったのだが…
計画が丸つぶれだと言う彼に、文句は行きたがった救世使に言えと怒るミカエル。
そしてもちろんこれはウリエル自身の意志。いつまでも逃げていてはいけないと、
アレクシエル…刹那に教わったから。
ミカエルもそうだろう、と確認するものの照れ隠しに誤魔化されてしまう。
そしていろいろ吹っ切れたというウリエルは喉元をさらして見せた。文明の利器に頼る事にしたと言う。
喉のわずかな振動を感知して以前と変わらぬ声を再現する変声機…数値を調整すれば
どんな声でも自由自在のシロモノ。
それがセヴィーのしていた物と同じだと刹那は気付く。
あの裁判で押さえつけられていた民衆が心を一つにしている。
世論を味方につけた今、セヴィーを討ち取るこの絶好のチャンスを逃す手はないと言うラジエル。
創造界第6天「ゼブル」の白の館に侵入し、大熾天使付宰相セヴォフタルタを拘束…または討ち取る!
ミカエルは真の敵は悪魔軍だけだから静観すると言い、
刹那もライラの顛末を確かめるため「世界の魂」に同行する事を決意した。

 
突然いなくなったメタトロンは、いつの間にか戻ってきたが眠ったまま。
そのまま起きる気配もない…シスターはセヴィーに飲ませるように言われていた薬を、
嫌がっていても飲ませるべきだったのかと思う。
その時隣の部屋から物音が…彼女は薬を隠した箱を取り落とした。



483 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:53:32 ID:???
ライラは自分がいつの間にか部屋に戻っている事を不思議に思っていた。
ドアを開き、その姿と素顔に驚くシスターと…彼女の足元に散らばる薬…
それを見、あの薬を飲ませなかったというのかと激昂するライラ。
必死に謝罪するシスターだったが、そのままライラは彼女の息の根を止めた。
「あいつが起きてしまったら…」
その呟きに、背後に迫るものがある。水の音と、針の刺さった影…
君が刺した針が痛い、抜いて欲しいとサンダルフォンがライラに迫る。
悲鳴をあげてうずくまるライラだったが、大声で笑いながら謝罪する白い制服に入ったままのサンダルフォン。
針など目覚めた時にみんな取ってしまった。
このシスターのおかげで少しずつ表に出ることができたから。
彼女の隠したあの薬こそメタトロンの中からサンダルフォンが出てくるのを押さえる為の物。
メタトロンと違い実体を持てなかったサンダルフォンは彼の意識を介してしか
この世に接触できない。ライラに実体を封印されてしまったから…
だから夢を通して少しずつメタトロンに語りかけるしかなかった。
あの時願いを叶えてあげたのに、ひどい話だ…。
自らの存在を消して完全なる別人になり過去を葬る為、体の骨格を薬で男性の様に変え
完璧なまでに独裁者へと変貌していったライラ。
だが全てを手に入れるとサンダルフォンが恐ろしくなった。
だから第七の封印を持って揺り籠にサンダルフォンを閉じ込め、
彼の与えてくれた力でその体にいくつもの封じ針を打ったのだ。
だが本当に恐ろしかったのは、サンダルフォンを封印したのは…
自分を利用しているだけ、あの男達と同じだと知ったからだとライラは訴える。
誤解していると笑ったサンダルフォンは何故かメタトロンを連れてきた。
"アレ"は自分と同じ遺伝子を持っていないとダメだし、
この体でもメタトロンの今の体でも意味がないと言う。
慄くライラの目の前で、白い制服の体は溶けメタトロンの体へ吸収されていき、
成人男性のそれに近く変貌していた。
何をするのかと怯えるライラに、子供を創るのだと言う。
もうメタトロンの体を通さなくても生きていける自分専用の体を。
自分の血を引いた魂のない器を。



484 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:54:42 ID:???
「僕を産むのは君でなくちゃあ!」
あくまでも明るいその言葉に、ただ衝撃を受けるライラ。
「僕はあの男達とは違うよ 僕は僕なりに 君を愛しているんだよ ライラ」
君は逃げる 僕は追う 捕まえる――
逃げないで 愛しい貴女 呪う様に 愛してあげる ずっとずっと
「この体中の眼で見詰めていてあげるから」
悲鳴をあげるライラ。そして彼女に覆いかぶさるサンダルフォン…。


あれっきり裁判中継が流れる気配はない。民衆には何が起こっているのかはわからなかった。
だがラファエルや、この天界を憂いて姿を消していたウリエルでさえ戻ってきた。今こそ決起する時…!


そこで何をしているのかと、誰かが近づいてくる。
動けるのならば自分を助けろ、崖の上に自分の部隊がいるから…
頭部に怪我を負ったその男が問う…お前には、何故顔がない…?


うなされて目が覚めた男。またあの夢だ。自分の顔はきちんとこの様についている。
それに自分にああ言った男の顔はまぎれもなく自分の顔。一体あの夢はなんなのか…。
苦悩する男は天使軍の一部隊の隊長。
彼は窖の被害調査に行って崖から落ち、記憶の全てを失っていた…。
病み上がりの体を圧し、彼は叛乱軍狩りに出ると部下達に命令を下した。



485 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:55:48 ID:???
どこかで泣いているメタトロン。サンダルフォンはこうして時々意地悪をするのだ。
ここへ閉じ込められている間は、あいつがメタトロンの体で悪さをしている時。
ここはとても暗くて寂しくて、セヴィーも誰も助けてくれない…
そこでメタトロンはかつて優しくしてくれたジブリールに会おうと駆け出した。
辿りついた光の先、いつかのように椅子に座したままのジブリールに必死に呼びかけるメタトロン。
だが彼女はもう眠ってしまった…と、そこへ紗羅が現れる。
彼女に、ジブリールがいつ起きるのか問うメタトロン。だがそれは彼女にもわからない。
紗羅の魂がジブリールの体から抜けた直後に切ったはずの髪も元に戻ったし、
力も甦り裁判の為に付けられた拘束具も砕け散った。
結局、紗羅が入っている間のジブリールはやはりジブリールではなく、紗羅だったという事だ。
メタトロンはよくわからないながらも、それじゃあやはり自分は一人ぼっちなのだと言う。
神様もちっとも願いを聞いてくれない、誰も自分のそばにはいてくれない…
「本当にあなたは一人ぼっち?よく考えて…いつも君を心配してくれる人がいないか…」
その言葉にメタトロンはある一人の事を思い出す。
だっていつも叱る、忙しそうで…でも、手袋をしていたが眠れない時はずっと手を握っててくれる…
本当にいつも忙しいのに呼べばいつも駆けつけてくれる。眠るまで頭を撫でてくれる。
あの手の暖かさを感じるととても安心して眠ってしまう…あの手の暖かさが、大好き…
やはり一人ではないからその人の所へ帰るようすすめる紗羅。きっと心配していると。
そしてその人に本当の気持ちを伝えればいい。
ずっと抱いていて欲しい、寂しいと…言わなければなにも伝わらない。
その言葉を受け、メタトロンは笑顔で紗羅の頬にキスをした。
「ジブリールと…セヴィーのつぎに…すきだよ「サラ」が」
そして…消えていった。
あの子がセヴィーと言った事に驚きを隠せない紗羅。そこへラファエルがやって来る。
あれこそがセヴィーの最高の切り札、現大熾天使長メタトロン。
ジブリールを慕い、精神体となって迷い込んできたらしい。
あの子がこの天界の王者だという事に紗羅は二重の驚きを示す。



486 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:56:52 ID:???
貨物船に偽装したままセヴィーの城へ向かう刹那とウリエルを含めた「世界の魂」のメルカバ。
空中警邏隊に見つかりそうになったその時、あの隊長が刹那に目を止めた。
こいつを見ていると何か思い出せそうで思い出せない…既視感はこんなにも感じるのに。
彼が判断に迷う中、ついに刹那の正体がお尋ね者の救世使だとバレてしまう。
大手柄だと喜ぶ部下に、銃を取り出そうとするラジエル。
だが、その部下の体を背後から一刀両断したのは他ならぬ隊長だった。
その他の警邏隊メンバーも姿を現したウリエルに次々倒されていく。
隊長に向け銃を構える「世界の魂」のメンバー。だが刹那がそれを止める。
彼の持っている刀は、不知火…!? まさか、彼は…!
「よくここまで辿り付けたな、教え子よ。自分の本当の顔は思い出したか?」
ウリエルに諭され、彼は…加藤は全てを思い出す。
あの隊長は、顔を、全てを忘れた加藤の前に現れた瀕死の男を模した姿。あの後すぐに死んだのだ。
その姿をしたまま吉良の残した刀を持ち歩き…天使達に発見されたのだった。
刹那は感極まり、ただ加藤に抱きついた。


ベッドの上で目覚めたメタトロンはセヴィーを探す。
扉を開いたメタトロンは、暗くてよく見えないがそこにいるのはセヴィーだと判断する。
ちゃんと自分の気持ちを伝える…サラに言われた事を思い出し、たどたどしく言葉を紡ぐメタトロン。
セヴィーが好き…怒るし、忙しいけど…自分を見てくれるセヴィーの目や、触ってくれる手が好き。
ずっと抱っこしていてほしい。
そう言って、メタトロンがセヴィーに触れようとする…彼の小さな手が、髪を撫でる。
半裸状態で放心していたライラは思い出した。
漆黒だった君の髪がすっかり真っ白になったと、その髪にくちづけてきたサンダルフォンを…!
悲鳴を上げこれ以上自分に触るなと恐慌するライラ。
叫ぶ彼女の尋常ならざる様子に、シスターが二人部屋を訪れる。
うち一人はセヴィーを落ち着かせようとし、もう一人はメタトロンを連れ出す。
やっぱり自分が嫌いなのか、悪い子だからなのか…メタトロンは泣きながら連れて行かれてしまう。
残ったシスターはすごい汗だと声をかけた。その声…



487 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 19:03:28 ID:???
「それで君は何を得たのか、理想の世界を創り上げるために鬼になり、
そのためにはどんな犠牲も厭わなかったのに…そんな思いまでしてもう自分を偽るのは止めるんだ。
もう隠すことは何もないはず、あの時本当に助けて欲しかったのは誰か…」
優しく声をかけるザフィケルに、ライラはただ抱きついた。
だが彼は一変して不気味に笑う。何が汚れなき白い世界か…
その体は、彼の最期の時と同じく腐り果てていた。
両羽を奪い、自分を生きながらの腐る野獣に変えた貴方が…
今さら自分になら自ら足を広げて身を投げ出すというのか?
「君は今も昔も――ただの堕落した弱い女でしかないんだよ セヴォフタルタ」
彼は――ロシエル。衝撃に目を見開くライラ。別れを告げて彼女にくちづけるロシエル。
「僕のの勝ちだね…楽しかったよ…君と遊ぶのは。
君の創った神経質な有刺鉄線の天国は自分の目にも美しかった。
でも安心していい、君の願いは半分だけ叶えてあげる。
この世界の全てを真っ白に変えてあげるから――」


その頃あんな戦争ごっこには付き合っていられない、と刹那とは別れていたミカエル。
部下のカマエルとの通信中、不意に悪寒を抱く。
その源、空をゆく機影…カマエルの呼びかけにも答えず、冷や汗を流してそれを見上げていた。


まずウリエルと共に別働隊が主戦力と見せかけ正面攻撃、
敵をひきつけその隙に手薄の城内に統主の船が潜入する。
刹那はその隊へ合流…「世界の魂」の作戦会議、だが加藤がこれだからお前らには任せられないと文句をつける。
彼は自ら刹那の顔に化けて囮になり、敵の目をひきつけてやるとの事。
加藤の体を心配する刹那だが、ウリエルに宇宙樹の生命力を分けてもらったから平気だと言われてしまう。
それからあの崩壊の時…クライと、ノイズははぐれてそれっきりだと言う加藤。
大岩が雨の様に降る中、不知火で防いでいたが無駄だった。これは吉良が置いていったもの。
まるでこうなる事をわかっていた様に、自分の形見のように置いていった…
ふざけるなと加藤は思う。この目で見てもまだ信じられない、
今にも笑いながら憎まれ口きいて現れるようで…その思いは、刹那も同じだった。



488 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 19:05:51 ID:???
セヴィーの城の天使軍は加藤とウリエル率いるダミー隊に攻撃を集中させる。
その隙に、本体は警備の手薄になった南側付近へ向い、「白の館」へと突っ込んだ。
何としてもセヴォフタルタを拘束し、メタトロンを保護するように、とラジエルが命じる。
が、その瞬間 館内に響く衝撃――七支刀がそれに共鳴している、何事が起こったのか…
とにかく進んだ彼らが見たものは、一面に広がる警備員達の死体――
続く扉はずっと開いていて、人の声…歌声が聞こえてきていた。
罠かもしれないと思いながらも、この事態の理由を知らずに引き返すわけにもいかない。
そこで見たもの…生首をかき抱き、ぼんやりと歌うライラの姿。
それがセヴォフタルタだと知り騒ぐ「世界の魂」のメンバー。女ではないのかと…
だが静かにしろと彼らを諌めたのは他ならぬ彼女だ。
赤ちゃんが起きてしまう、この子は怒るととても怖い。
うるさくするとお腹を喰い破って出てくるかもしれない…
今もお腹の中から見ている、自分の事、みんなの事…真っ赤なたくさんの目で見張っている…
刹那はそれが、やはり"あの"ライラであるのだという事を確信した。
セヴィーを拘束しようとするラジエル。
だが…天界を恐怖政治で押さえつけたあの独裁者はもう、どこにもいない…と刹那は彼を諌める。
その瞬間、感じる霊気…殺気でさえない凍りつくような感触。悪意の塊のようなもの。
さすがの七支刀も彼の前では恐れをなしている様だと、背後から声をかけてきたのはロシエルだ。
感謝してほしいくらいだ、こいつの試運転とはいえこの城を一瞬で落としてあげたのだからと言う。
それとも今度は君達が彼と遊んでくれるのか…
ロシエルを肩に乗せた、黒衣の人物が、白い制服の死体を抱えて立っていた。
これはお前の仕業か、そこの化物を使ったのか…セヴィーを狂わせたのも…そうロシエルに叫びかける刹那。
礼を言う必要はない、君らの為にやったわけではないと言うロシエル。
彼がお腹をすかせていたからだと傍らの黒衣の人物を指し示す。
「ホラごらんよ。また新しいエサがやって来た。喰い散らかしておやりよ…」



489 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 19:07:48 ID:???
ウリエル達の隊は敵の動きに統一性が欠けている事を不審に思っていた。
敵艦内でも「白の館」本部と交信しようと必死だった。
だが交信は途絶え続け…このままでは叛乱軍に押されたまま。
そして敵の援軍があらわれる。その機影は、ロシエルの武装親衛隊を意味する黒の羽十字章。
ロシエルという言葉に反応した加藤は、ウリエルの制止を聞かず一人、中へと侵入。
その光景に慄く。だがその死体の山は刹那達にやられた感じとは違う、この空気。
剣が共鳴して頭が割れそうな…加藤はそれを知っている…!


その目がまだ治らないのかと刹那に言うロシエル。
アレクシエルの治癒力があればそんなのたちどころに治してみせるのに。
最も、羽を片方奪われては有機天使の威厳も形無し。天使の象徴でもある翼をとられる屈辱…
大した救世使を掲げているものだと皮肉るロシエルに、
同胞にそれ以上の侮辱は許さないと銃を向けるのメンバー・ヴァシル。
刹那がそれを止めるが、もう遅い…ヴァシルはあっさりと黒衣の男に殺されてしまう。
あまつさえ、そこへ駆け込んできた黒の羽十字章の部隊。ロシエルは刹那達を捕えるよう命じる。
「この城の者を全滅させ、宰相セヴォフタルタを発狂させるに至らしめ、大熾天使長の暗殺を企てた、
救世使「無道刹那」と叛逆者の集団「世界の魂」を!」
ロシエルは最初から刹那たちを罠にはめ、罪を着せる気でいたのだ。
怒りのままロシエルに向かっていく刹那。だが黒衣の男が刹那を襲う!
貫かれたその体…だが、それは寸でのところで刹那を庇い、入れ替わっていた加藤だった。
ひっかかりやがってと低く笑う加藤がその男に切りかかる。しかし…
「お前のその体は…創り物の藁人形だったな…」
斬られた仮面が落ちる…その下から現れた、傷一つない吉良の顔…。
「その不知火では主人の体を傷つける事は出来ない。亡者は死霊らしく土に還れ」
吉良の顔をした黒衣の男は加藤の体を切り裂く。その様子に高笑いするロシエル。
そこへ、やっと壁を突破してきたウリエル。退くために助けに来たのだ。
ラジエルは連行されようとするセヴィーに目を止め、
銃を構えるが…ロシエルが笑う中悔しさにその銃を下ろすしかなかった。
あんな物を殺してもザフィケルは喜びはしない…!



490 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 19:09:20 ID:???
あの感じ…あの船は確かに「白の館」へ向かっていた。
あの悪寒を知っていると思うミカエル。
確かめなければならない、この目で…
雑魚を蹴散らし、白の館を映像でとらえたミカエルはあの船を発見する。
そこにいる人物を拡大して映し…彼はその姿に衝撃を受ける…!


彼を"ルシファ"と呼んで促すロシエル。
刹那は「世界の魂」に急かされながら、ただその姿が信じられず…
去って行く彼の背に呼びかけるしかできなかった。
これは夢ではないのか。ロシエルの手で殺されたはずの彼が…
ロシエルの味方となって、自分の目の前で加藤を切りつけるなど…!


ミカエルから話を聞き、間違いないのか確認するラファエル。
自分があいつを見間違うわけがない、見上げてきたあの冷たい灰色の目は確かに兄だった!
吉良朔夜として救世使の側にいたあの男がロシエルに与してルシファーとして復活した…
何を考えているのかと激昂するミカエル。
そしてその話を聞いてしまった紗羅。あの先輩が刹那を裏切るわけがないと言う。
(ロシエル…またあいつの所為なのね…!?)
そこへ駆け込んでくるリル。
たった今、至高天全土に向けてロシエルが重大発表をするという映像がTVで流れたのだ。


ラジエルも、あれは亡くなったはずの吉良だと証言する。でも何故ロシエルと共にいるのか…
甦った事は不思議ではないと言うウリエル。
彼が真実ルシファーの魂を持つのならば…四大天使やロシエルを含む御前天使の魂は不滅に近いからだ。
たとえ肉体が滅び去ろうとも魂が朽ちる事はない。定められた符号が合えば再生させる事は可能。
ロシエルは何らかの方法でそれを手に入れ、意図的に彼を再生させ…
自分の都合のいいように「ルシファー」を創り出したのではないか。
例えば魔王としての力はそのままに、ただ「人間」だった頃の記憶を封じているとか…
その言葉に喜びを見せる刹那。
吉良朔夜としての記憶を失っているのなら、またそれを思い出させれば元に戻るかもしれない。



491 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 19:11:10 ID:???
だがそれを否定し、満身創痍の加藤が現れる。
「あいつは何もかも知っていた、記憶なんか失ってはいない…!
全部わかってて本気で俺を殺そうと…!」
――少しも笑っていない あの冷たい無機質な灰色の瞳――
悔しげに吐き出す加藤の言葉を、刹那は黙って見つめることしかできない。
その時突然、周辺のスクリーンのスイッチが自動的にオンになった。
至高天全土に流される映像…セヴォフタルタ亡き今、無機天使ロシエルが最高司令として就任すると…!


『誇り高き我が同胞よ 心して聞くがよい。まず先の天界裁判であきらかとなった事件…
宰相セヴォフタルタはニセモノであり、かつてライラと呼ばれた堕天使であった事が判明した。
私はセヴォフタルタの宰相降任を宣告に「白の館」へ向かったが
すでにそこは叛乱組織「世界の魂」によって侵略されその惨状は目を覆う有様…!
彼らの目的であったセヴォフタルタは彼らによって拷問に合い…精神に異常をきたしていたのです。
私は直ちに精鋭部隊を召集し、見事「世界の魂」よりメタトロンを奪回、
セヴォフタルタを保護してテロリストどもを制圧した』


その発表に唖然とするラジエル。刹那も歯噛みしてそれを眺める。
民衆からは四大天使と救世使が逮捕されていないようだが、彼らを取り逃がして
「世界の魂」を制圧したといえるのかと疑問が出る。
そこへ、この男が証拠だとロシエルが引き出したのは…ルシファーに殺されたはずの、同士ヴァシル。
彼は自らを「世界の魂」の統主と名乗り、ザフィケルの遺志を継ぎこの世の浄化の為に
天界を手中にせんがため戦ってきたと言う。そして拘束を解きロシエルに襲い掛かる。
天界は我が組織の物、お前の様な古き血の使いなど目障りなだけだと…!
そんな彼を背後から真っ二つにするルシファーの姿。その様子にただロシエルを称える民衆。
これからも邪悪なる者から天界をお守りくださいますように…


『約束しよう 私の愛しい者達よ
何度災厄がこの世に降り注ぎ神が我らを試そうとも
私は天上の道標となり我らの楽園の栄華のために悪しき魂を屠っていこう』



492 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 19:12:24 ID:???
死人さえも操り、まんまと「世界の魂」を悪者に仕立てたロシエルに怒りの収まらない面々。
何故ラジエルがいるのにヴァシルを統主と偽ったのか…説得力に欠けるからだとウリエルが言う。
「世界の魂」を悪の組織とアピールし、自分を天界を救った英雄にするために…
ヴァシルの様な屈強な男を必要とした。
おそらくロシエルはセヴィーにとどめを刺す好機を、政権を手に入れるこの瞬間を虎視眈々と狙っていたのだ。
ザフィケルの…死んでいった同志達の理想をこんな風に踏みにじるなど許せないと激昂するラジエル。
だがあれはやはり先輩だったと呆ける刹那。ロシエルはわざと自分に見せていたのだ…!


ロシエルにルシファーをそばに置くのは危険だと進言するカタン。
あの男は創世神に成り代わろうと刃を向けた男。魔王に魅せられし者は自らの暗黒面に落ち、
その深淵に引き摺られると言うが…彼の瞳は、その深淵そのもの…
だが余計な心配だとロシエルは右手を示し、ルシファーはそこに恭しく口付ける。
お休みの時間だと言われ素直に去って行く…
この血水晶がある限り、彼の魂は主に従うしかないと服の下に仕込んだものを見せるロシエル。
剣だった間、彼がアレクシエルの虜だったように…
だが相手はかつての天地大戦の引き金となった大魔王。
手綱を握るのは核弾頭を扱うような危険な賭けでは…?


血水晶のたった一片の欠片を手に、一体どうなっているのか困惑する刹那。
一人たたずむ加藤を発見し、彼も落ち込んでいるのかと声をかけようとするが…
壁を殴り、涙を零しながら悔しがる彼にかける言葉はない。
ただロシエルが許せない、必ず先輩を正気に戻し、お前を殺してやると決意を新たにするのだった。


一方であの騒ぎの中、捕らえられていたライラはかつて自分が幽閉した
ジブリールと同じ孤高離宮に幽閉されていた。
窓は最上階の一つのみ、力を封じられた塔内では飛んで逃げる事もできない。
蔦の絡みついた小さな牢獄の中、腹に手をのせたままぼんやりと椅子に座すライラ。
あれがかつて栄華を極めた宰相セヴォフタルタの姿とは、誰が想像しえたろう。



493 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 19:14:12 ID:???
姿はすっかり元の女性のそれになり、髪はかつてのように短く切られ、
白いワンピースとショールに身を包み、頬の烙印にはガーゼが貼られている。
そして気になる事はあの腹の子、誰の子かもわからないが異常に成長が早い…。
そこに、窓の外から歌が聞こえてきた。かつて自身が投げ捨てたアレクシエルのピアス。
そこに入っていた種が成長し、蔦となり歌っている。
それはライラ自身の声。まだ全てを信じていた頃、自分の歌った…
『そう これは「哀しみの賛美歌(キリエ・レイソン)」 これは僕の記憶の中の初めての君の歌声…
 礼拝堂で一人 その木漏れ陽の中唄う君の姿に 僕は目が離せなかった…ライラ…』
蔦に手を伸ばそうとしたライラの前に、窓から廃竜だった男が現れる…。
ライラは声ならぬ声で、貴方を愛した事などなかったと告げた。
貴方の私を見る目はいつも一途すぎて私を怯えさせるだけだった、と。
『わかっていた。僕はライラを守れなかったし、座天使長のように危険な魅力を持っているでもない。
だが君が知らないだけで、君は本当に禁欲的で美しい天使だった。今も昔も…。
無実の罪で羽落としとなり、魂は未練がましく彷徨って廃竜という姿を借りようとも…
伝えたいばかりにやってきた。
あの男たちでさえ、それゆえライラに激しいいらだちを感じて行動してしまったのだと。
ただそれだけを伝えたかった…。だがこれ以上は入れないし、君に触れる事は叶わないから…』
彼はライラに背を向けるようにして窓辺に座る。


貴方を死刑にした自分に恨み言を言いに来たのではなかったの?…何故入れないの?


『自分も君を壊した者の一人だから、君の中であの男達と自分が同じ存在になってしまうのなら…
もう君を壊したくない。僕にはもう君を攫って飛べる翼もないし…』
男の背は、切り落とされた羽の痕が痛々しく残るのみ。



494 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 19:16:10 ID:???
それを目の当たりにしたライラは、涙をこぼしてただ彼の背に抱きついた。
彼女を優しく抱きとめる、廃竜だった男…ショールと幾枚かの羽根を残して、彼女は落ちていった。


真っ白い世界はどんなところか、自分も連れて行ってくれるのか…そう、無邪気に問いかけてきたメタトロン。
だが探していたものはここにあった…


 ああ ここだったんだ
 私の探していた ただ 羽根だけが舞い散る
 白い 白い 真っ白の世界は…


「羽根を真っ赤に染めた ――白い鳥が一羽 逃げちゃった…」
自分の胎児ごと潰れたが、まあいい。
代わりの女はいくらでもいる、と呟き血だらけの羽根を握りつぶすメタトロンの体のサンダルフォン。
例えば…メタトロンのお気に入りのジブリールは今眠っているから、
サンダルフォンが体にいる間彼が会ったあの子…
そう――「サラ」に、あの子に僕の体を産んでもらおう…


「サラ」…「ムドウサラ」に、決めた…

天使禁猟区・至高天 創造界編/おわり

至高天 神性界編へと続きます。次で最終章です。