形成界編

Last-modified: 2008-09-23 (火) 11:00:06

天使禁猟区 至高天 形成界(イエツィラー)編

563 名前:天使禁猟区 42[sage] 投稿日:2005/07/29(金) 04:17:27 ID:???
【至高天 形成界(イエツィラー)編 ACT.1兎狩り】
インプロパチャイルド――あるまじき子供たち
天使は姦淫を犯す事が禁じられ、その証である子供たちはそう呼ばれていた。
天使同士の子供はその濃すぎる血故にまともに生まれてくる確率は低い。
異常に白い肌と赤い目を持つ者が生まれやすい事から兎とも称されている。
社会見学のため調査隊として、ならず者たちが多く住むといわれる最下層〝シャマイム〟へ
訪れたラジエルは、Iチャイルドのあまりの多さに驚く。
泣きながら連行されていく子供を見ると心が痛むが、
この悲惨な状況を根底から叩き直すためには仕方のない事なのだと自分を納得させる。
突如ラジエルに少女が襲いかかる。もつれあう二人は巨大な穴に落ちた。
翼が片方しかなく飛べない少女を抱えラジエルは着地した。
ここには片翼どころか羽一枚すらない天使と認められない天使たちが多くいるのだ。



565 名前:天使禁猟区 43[sage] 投稿日:2005/07/29(金) 04:25:30 ID:???
少女――シャトは自分を救ったラジエルへの敵対心をなくし、
自分をかばって着地したためについたラジエルの傷を治療するために隠れ家に連れて行く。
そこには大量のIチャイルドがいた。子供たちの親は既に極刑になったという。
「生まれながらに罪があるなんてばかげてる。
 奴らはただこの子たちを兎に見立てて狩りを楽しんでいるだけだ」シャトは言う。
他の調査員が探しにきてIチャイルドたちが捕まらないようラジエルは帰る事になった。
天界の政策の全てを否定するわけではないが、Iチャイルドたちの事情を知ったラジエルは
次にくる時はなにか君たちに貢献できるような事をしたいとシャトに言った。


ラジエルはシャマイムの貧しい人々のための救援物資をセヴィーに頼んだ。
それらをシャトのところへも持っていく。
シャトは何故はじめラジエルを襲ったのかを話し出した。
調査隊の大多数の者たちは〝兎〟たちが逆らえないのをいい事に
「気取るんじゃない出来損ないでも少しは俺たちの役に立て」と〝兎〟に好き放題をしていた。
ラジエルもその一人なのかとシャトは恐れて先に攻撃をしかけたのだった。
「おかしいだろ 狂ってるだろ。上の連中は愛し合う事を最大の禁忌にしているのに
 影では愛のない行為を強いているなんて」泣くシャトに触れようとして寸前でラジエルは手を止める。
「本当だ…何故なんだろ?何故好きな人に触れる事が罪なんだろう…?」


また来るという約束を交わし出ていくラジエル。シャトは支給されたケーキにナイフを刺した。
その瞬間、爆発が起きた。ラジエルが後にした家が粉々に吹き飛ぶ。
そしてシャマイム中に次々と爆発が起こった。支給品に爆弾が仕掛けられていたのだ。
爆発により怪我を負ったラジエルの元に、シャトの生首が吹っ飛んできた。


その大規模な爆発によりシャマイムは壊滅状態。これからも死者は増えつづけていくだろう。
支給品に爆弾を仕込んだセヴィーに「あなたを告発する」とラジエルは言う。
しかしラジエル一人が騒いだところで最高権力者の前ではどうにもならない。
セヴィーはまだ生きている者もいるのにコンクリートを流しこみシャマイムを埋めてしまうと言った。
「奴らは天界の汚点だ。浄化するにはいい機会だ」



17 名前:天使禁猟区 44[sage] 投稿日:2005/08/01(月) 02:07:13 ID:???
怒りで襲いかかろうとするラジエルをセヴィーは跳ね飛ばすと、
シャマイム爆破を手引きしした者だと偽り連行させようとした。
そこへザフィケルが飛びこみ、自分に免じてどうかお慈悲をと土下座をした。
それでは自分が犯人だと認めるようなものだと訴えるラジエルの頬をザフィケルは叩く。
「あの大惨事を招いたのは君です。援助品として君が申請したケーキやおもちゃの数々…
 誰でなくともIチャイルドのためだとわかります。あそこに罪深き子供たちが隠れているのだと!
 なのに君は不用意にも最高会にあの地へ入る大義名分を与えてしまった。
 彼らのためにいい事をしていると自己満足に浸りながら、君の愚かさがあの子達を惨殺したのです!」
冤罪は免れたが、ラジエルはその場に泣き崩れた。


ラジエルはザフィケルのもとへ訪れる。
「僕一人があんなところでわめいたって犯人に仕立て上げられ処刑されるのがオチだった…
 でも…あの時僕はあの方に頭を下げるより、潔白を叫びながら殺された方がどんなにか良かった!
 座天使長の名をこれ以上傷つけないためにも僕はここから出ていきます」
それほど決心が強いのなら面白いものを見せてあげよう、それからでも遅くはないと
言いながらザフィケルは服を脱いだ。ザフィケルの胸元には堕天使の烙印が押されていた。
一度堕天した者が上級天使になれるわけがない。どういう事ですかとラジエルは問う。
「知りたいでしょう本当の事を。見せてあげましょう、君の能力ならばたやすい事です」
そう言われ、ラジエルはザフィケルの胸の烙印に手を伸ばした。


ラジエルの頭の中にかつてのザフィケルの姿が浮かぶ。
ザフィケルはアナエルという女天使と密かに愛し合う一方で、
彼女の止める声も聞かずに兎狩りに精を出し虐殺を楽しみ、
アナエルの友人のライラにちょっかいをかけたりしていた。
「貴方の目はなんの真実も映し出さないのね…
 こうして触れ合っているだけでわかればいいのに…!
 貴方が見捨ててしまったこの世界にもまだ何かが残っている事を…」
最高会から命令されて行っている〝悪魔の研究〟とさえ称される
プロジェクトに恐れを抱き始めていたアナエルは時折ザフィケルにそう言った。
しかしザフィケルが行動を改める事はなかった。



18 名前:天使禁猟区 45[sage] 投稿日:2005/08/01(月) 02:09:41 ID:???
ザフィケルは極秘任務としてある叛乱軍を制圧する事になった。
ターゲットは赤髪を逆立てた若い女。彼女は言葉が不自由だ。
薄闇の中、言葉にならないわめき声をあげながら銃をこちらに向ける女。
ためらう事無くザフィケルは彼女を殺した。
その途端女は座っていた椅子ごと倒れた。
女からカツラが落ち美しい金髪があらわになった。彼女はアナエルだったのだ。
直後、叛乱軍の住処が何者かに爆破された。


「アナエルは叛乱組織に拉致されていた。それを根城ごと爆破するなどもってのほか。
 お前の部下も一人として生き残らなかった。この責任はお前の死をもって償ってもらう。
 自害しろザフィケル。もうこれ以上座天使長の名を汚さぬよう。2度と転生の道など辿れぬよう」
アナエルが拉致されていたなど聞いておらず、爆弾を仕掛けたのもザフィケルではなかった。
ザフィケルが踏み込んだ時には既に叛乱軍は何者かに制圧されていたのだ。
アナエルを暗闇で別人に見せるための赤いカツラ、濃い化粧。
天使軍用の見なれた手錠を紐で無理矢理手にくくりつけ、
そして首には声を失わせるための一本の針が刺されていた。
全てはザフィケルを失脚させるためのセヴィーの策略だった。
だがそれはもうどうでもよかった。
暗闇とはいえ愛する者を見分ける事の出来なかった自分をザフィケルはなにより憎んだ。
「もとより転生の道など望んではいない…!こんな世になんの未練があるか。
 我が死に様を見届けるがいい神の奴隷共!!」ザフィケルは自らの首を刃物で刺した。
激痛で唸り声をあげるザフィケルのもとに強い光を持つ何者かが一瞬姿を現した。
その光を浴びた途端ザフィケルの首の傷は癒え、命を取り留めた代りに失明した。
それが後にも先にもザフィケルがはじめて見たセラフィタの姿だった。
その場にいた最高会の長老は正気を失い、全ての実権はセヴィフォタルタへと渡った。
彼は証人や資料が全て失われたこの事件をもみ消し、
代りにザフィケルに服従を迫り自らの手でザフィケルに刻印を刻んだ。
「この痛みを覚えておけ。お前は私のものだ」


アナエルは『サンダルフォン』と呼ばれるプロジェクトに参加していた。
それはメタトロンの死産した双子の弟と同じ名だ。



19 名前:天使禁猟区 46[sage] 投稿日:2005/08/01(月) 02:12:55 ID:???
アナエルはそのプロジェクトを恐れ、密かに叛乱組織と通じていた。
失明後のザフィケルはアナエルの意志を継ぎ叛乱組織の影の頭目となった。
全てを明かされたラジエルは、腐敗した天界に立ち向かおうとするザフィケルにより一層の忠誠を誓った。
「それでは…貴方に重大な任務を託します」


(ところ変わって元の体に戻った刹那)
九雷は刹那の体から取ったピアスは地獄でなくしてしまった。
その事を謝ると、ピアスは吉良にもらった物でまだ二つ残っているからいいと刹那は言った。
ウリエルがラファエルを呼び出せたのは、密かに連絡を取り合っているザフィケルからの
情報もあっての物なのだという。ウリエルは刹那がザフィケルと連絡を取れるように
通信機を渡して再び幽界へ帰っていった。加藤は刹那のもとに残った。
しばらくしてザフィケルからの連絡がきた。使いの者をよこすとの事だ。


ザフィケルの命令により刹那のもとへ訪れたラジエル。
通信装置により刹那とザフィケルは対峙する。
現在、天界で紗羅は裁判にかけられ処刑されようとしている。
『地水火風』を司る四大天使は一人でも亡くなると自然界の理は崩れ世界は乱れる。
ただし裁判により定められた死刑ならば、死の前に四大天使の力を他者に明渡す事ができる。
セヴィフォタルタは元素界を壊さずに合法的に紗羅を消そうとしているのだ。
紗羅を救うために、ラジエルがアナグラへ来る時に使った魔方陣から天界に行こうとする刹那。
しかしこの魔方陣は一人があと一回使うので精一杯だ。
刹那が使ったらラジエルが帰れなくなってしまう。ラジエルは反対する。
しかしザフィケルは、自分を信頼してもらうための人質としてラジエルを預ける、
ラジエルを残してこちらに来いと刹那に言う。
天界でライラに会えるかもしれないからと、幽界で廃竜に渡された種を手に刹那は魔方陣に入った。


(所変わってセヴィーに幽閉されている紗羅)
幽閉されてから、紗羅には聖巫女(シスター)がお付きとして常に傍にいる。
上級天使は身の回りの世話をさせるために、許可を取りグリゴールに肉体を与えている。
お付きの少女はその一人で元グリゴールなため、名前がない。
少女がよく紗羅に持ってくる、月の光を吸って咲く花・月神草(ムーンリル)から取り、
紗羅は少女にリルと名づけた。



347 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:01:42 ID:???
途中で終わってるようなので、形成界編・月華夜から続きを書きます。
前の方が書いたように相変わらず長い上にころころ視点は変わるわ複線だらけだわで
あまり簡潔にまとめられなくてすいません。


[至高天 形成界編 月華夜(つきはなのよる)]


天使達の首都・形成界ラキアへの転移途中、刹那はロシエルの残像を目にする。
卵の中の大きな顔、涙をこぼしながら口の中に通されたパイプ、それを食べる天使の胎児…
折りかなさるように倒れている人影、そして卵の前にはロシエルがてぐすねを引いている…。
ザフィケルと紗羅の声で幻覚の中から何とか目的地へ抜け出すが転送機から漏れた瘴気が
刹那の足に絡み、コートを引き千切る。ここは危険だから移動しようというザフィケル。
紗羅の居場所はわかっているが、その前にやってもらう事があると。
ロシエルは千切りとったコートの切れ端を見て薄ら笑っていた。
裏切者がこんな近くにいたなんて、おもしろい。
ダーリンあてに回線を繋ぐよう、誰かを繋いだ鎖を持ちながらカタンに指示を出す。


正体がバレないよう髪を黒く染め変装した刹那に、アニマ・ムンディの集会に出席してもらうと言うザフィケル。
紗羅が気になって仕方がないが取引は取引。渋々演説を引き受ける事に。
一方、刹那が近くまで来ていると感じ取っていた紗羅はセヴィーの言葉でそれが真実だと知る。
さっきのは夢ではなかったと。喜ぶ紗羅に罪の意識、恥じ入る心もないのかと怒るセヴィー。
「助けに来たなどとふざけるな、お前をここから出すものか。
救世使とてのこのこ来ようものなら共に切り刻んでくれる!」
愛された事がないからわからないのか、愛されたいのなら愛していると自分からぶつけなければ何も壊せない。
みんなそうやって傷つきながら愛を勝ち取るもの。
戦う事も拒絶したそんな人の言葉には負けないと紗羅は怯えるリルを庇いながら気丈に言い返した。
そうは言ったものの彼は本気で紗羅をここに閉じ込め、刹那も捕えるつもりだろう。そして殺すつもりだ。
どうしたらいいと考えた結果、彼女はこれしかないと決意する。
「自分たちが入れ替わるゲームをしよう…」



348 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:06:27 ID:???
取り替えっこ、おもしろそうだと笑うリル。
ルールは簡単、着ている物を交換してお互いになりきって生活するだけ。
互いに成りすまし、誰にもバレないように。初めに見つかった方の負けだからなるべく顔を隠して喋らないように。
リルは服はともかくその長い髪がベールで隠れるかと心配する。
そんなのなんでもない、と、紗羅はリルの制止も聞かず髪を切り落とした。
服を替え、紗羅に見えるかと聞くリル。見えるが喋ったら一発だと、紗羅は笑う。
入れ替わって自分一人逃げるということは、何も知らないリルを利用する事。
(でも時間がない…どんな方法でも今は構っていられない!)
リルは尊敬していたあのジブリール様とゲームが出来るなんて夢みたいだと言う。
罪悪感を感じながらも「誰か来ても絶対に喋ってはいけない」と言って紗羅は部屋を出た。
広い屋敷の中出口を探して歩く彼女を衛兵の男が襲う。
「昨日の分もたっぷり可愛がってやる。
何の力も使えない『杭打ち(ステイカー)』が俺たちの役に立てるのだからありがたく思え」
その言葉にリルが何をされようとしていたのかを知った紗羅は力を使って弾き飛ばす。
あわやジブリールだとバレそうになったその時、行商の女性が助けてくれた。
気絶した男からマスターキーを取り出し縛り上げ、味方だと笑う女性は同僚だと
もう一人の男性・アフを紹介する。
女性は裏口へと案内しながら事情を説明する。
石売りをしているといろいろと噂を聞く、ジブリールが鬼のセヴィーに閉じ込められているという話も。
自分たちは恩がある、下層の天使の生活を良くしようと自ら働きかけてくれた天使などジブリールくらいだ。
下じゃそれをジャマに思ったセヴィーが秘密裏に亡き者にしようとしたのだともっぱらの噂だったのだ。
とりあえず助かったがみんながジブリールと呼ぶ事を申し訳ないと思う紗羅。
ついでにさっきの男が言っていた「杭打ち」について質問する。
シスターや、堕天使を改造して戦う事しか知らない戦闘使を創る時に行われる手術の一つがそれだ。
脳の中にミクロな針状の機器を埋め込んで機能をマヒさせ余計な事を考えないようにさせるもの。
リルの様な非力な者に何故そんなマネができるのか…これが本当に天使の住む楽園なのか、
ここの連中はみんな狂っていると紗羅は憤る。



349 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:07:28 ID:???
天の車(メルカバ)の中で紗羅を閉じ込めているセヴィーの居場所を確認する刹那。
情報によるとこの上の第4天マコノムの彼の領地内のどこからしい。
そうこうする内にラキア最果ての地、戦で死んだ天使の鎮魂のために
創られたという魂の墓地「メギドの丘」へ。
一面の野原の中に、組織の秘密基地となっている慰霊碑以外は何もない。
だが夜になるとムーンリルの花が一斉に咲き、道に迷った霊がその光を頼りにここへ帰ると言われている。
着替えを始めた刹那は服の中から例の種入りのピアスを発見し、目的の一つを思い出す。
ザフィケルはもしかすると自分の知っているライラかもしれないが、彼女に会う事はかなり難しいと言う。
以前、友人アナエルの頼みで彼女の失踪理由を調査した事があるのだが、
彼女の存在は天使名簿から消されてしまっていた。
彼女達の行っていた研究自体シークレットであった上、
彼女の巻き込まれた事件は事の真偽さえ定かではない。
彼女を襲ったとされる他の研究員の裁判記録さえ残っていないのだ。
文字通り闇から闇へと葬られたあの事件と、彼女の生死を知るためには事件をもみ消した
宰相セヴォフタルタに聞くしかない。
ライラはアナエルと同じく知りすぎてしまったが故に消されたのだろう。
何しろ彼女の行っていた研究は「サンダルフォン」と「メタトロン」を産み出すためのもの。
メタトロンの後見人と言う名目でのし上がった彼にはその秘密を知る者は邪魔者にすぎなかったのだから…
なんてやつだと思いつつも演説の準備は進む。豪奢な衣装に膨大なカンペ。
要は皆の希望通りの救世使を演じればいいのだが刹那には当然無理。自分の言葉で語りかけはじめる。
そのカリスマ性に拍手喝采の聴衆。そんな中刹那はエアバイクをふんだくって逃げ出した!
追いついてきたザフィケルに24時間以内には戻るから安心しろと言う。
ただしその時は紗羅も一緒だ! 呆れつつもザフィケルは思う。
(あの子は不思議な魅力を持っている…稚拙な言葉でも魂を感じられる。
セヴォフタルタでもアレクシエルでもない、新しいタイプの指導者。人を引付ける力。
だがまだ足りない、あの救世使はまだ大事な事に気付いていない…)



350 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:09:48 ID:???
マコノムへ続く門でエアバイクを乗り捨て上に行きそうな荷物に侵入する刹那。
そしてその後ろでラキアへ行こうとしている紗羅一行。互いに何かを感じ、まさに振り返ろうとする。
先に振り返った紗羅が刹那の姿を見つけ、切れ切れにその名を呼ぶ。
が…刹那が振り返ろうとしたその瞬間、カーゴの扉は閉まり発車してしまった。
紗羅は必死に刹那を呼ぶがもう遅い。
刹那は超快速の重力に耐える事に必死で、誰かが呼んだような気がした事には構っていられなかった。
紗羅は自分を迎えに来てくれた事を悟り、上に戻らなければと焦る。
そんな彼女を宥めようとする行商の女性は、うっかりジブリールの名を出してしまった。
気が付いた警備兵は絶対に逃がすなと銃を撃ち始める。
そこへアフが口から衝撃波を繰り出し何とか逃亡に成功する。
アフは珍しい変異亜種(アイオーン)、天使同士の間にできたIチャイルドの生き残り。
Iチャイルドのほとんどはまともに育ちはしない。
その証拠にアフは体の成長だけ異様に早く視力は極端に弱い。
生まれつき肌は真っ白だし翼には羽がないし体毛も一切ない…
だが、時として未知の強力な能力を持った者が現れる。
「アフ(怒りの天使)」のように…彼らをアイオーンと言うのだ。
一方無事に宰相の領地に到着した刹那は、そこでセヴィーと対面し、
紗羅が先程までこの場所にいた事を知る。
セヴィーは紗羅が逃げ出した事を聞いて、彼女の身代わりとなったリルのいる部屋へと向かう。
ジブリールの行方を尋ねるセヴィー。だがリルは何も答えない。
お前の脳を解析すれば済む話だと激昂するセヴィーに、
いてもたってもいられなくなった刹那は七支刀を解放する!
だがその背後に見えた光景…気味の悪い、化け物のような…
七支刀ははじかれ、地獄ではそれを感知した吉良が冷や汗を流していた。  
セヴィーの背後に見えたたくさんの目と、はじき返された七支刀に慄く刹那。
そしてセヴィーはそれが刹那であることに気付く。まんまとエサにひっかかってくれた…。
だが捕えようとしたその瞬間、爆発音とともに停電が起こる。
それに乗じて刹那はリルを連れて逃げようとするが、彼女は紗羅を信じて待つために刹那を拒んだ。
逃がすなと命令するセヴィーは何かを踏みつける。それは、アレクシエルのピアスだった。



351 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:10:49 ID:???
無事に脱出し、屋敷に爆弾を仕掛けたと聞かされて驚く紗羅。
そこへ水の守りの力を感じて慕ってきた雲クジラが誘導するようにやってきた。
ジブリールは水の守護天使、こんなにもみんなに大事に思われている。だが今の自分は…
思い悩む紗羅の視線の先に、出迎えてくれている人物…ザフィケルが現れる。
紗羅は彼が死後の自分の魂を閉じ込めていた本人だと確認し、
目覚めのために呼び続けてくれたラジエルの行方を尋ねる。
彼は既に救世使に献上したと言う。彼の眠れる能力は必ずや役に立つだろうから。
それはアフと同じ系統樹を持つ「気」、あの子もアイオーンだからか…紗羅の問いにザフィケルは答えない。
この時のためにあの子を拾い上げ育てて来た、だからこれでいいとだけ言う。たとえ二度と会えなくても…
あの子を愛しているのにか、と紗羅は言う。あの子は力になりたいと思っていたはずなのに、何故?
だが昔の貴女だって己の犠牲を顧みない勇敢な女性だったと言うザフィケル。
かつて果敢にも正面からセヴィーの政策に反発し戦ってきた。だがそんなのは知らない、
今は無道紗羅でしかないのだから自分以外の運命なんて背負えない。
どうして好きな人に会いたいと思って行動する事がいけないのか、刹那だって自分に会いたがってくれている。
自分達が二人で幸せになるのが罪だと言うのか…だがそれを卑怯な物言いだと切り捨てるザフィケル。
今の紗羅は罪悪感を自分の中で必死に正当化させようとしているようにしか見えない。
愛する人と一緒にいたいと願う事は当然で、総てを投げうって愛に生きるのも滅びるのも自由。
けれどそれに犠牲が生じるならば、誰も傷つけずにいられないなら、その傷口を直視し自覚すべきだ。
ザフィケルの言葉にリルを思い出し涙を流す紗羅。
刹那のためなんかではなく、逃げ出すために、自分のエゴのために利用した。踏みにじった。
あの男のした事と何の違いがあるというのか!



352 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:11:45 ID:???
救世使が転送機を使って逃げた事を報告されるセヴィー。
だがそれはセヴィーが来た時のままなので、行き先はそのまま、研究所(ラボ)…ホワイト・ルーム。
余計なものを見られる前に捕獲しろ、そして相変わらず口を割らないリルを殺せと言うセヴィー。
研究所へは侵入者が向かった事を報せる電信が入る。
宰相もそちらへ向かっている、くれぐれも「揺り籠」に近付けてはならない、と。
その部屋には、頭部や上半身だけをコードで繋がれた、培養ポッドが…。
それは至高天向上の為の必要不可欠な研究の大事なサンプルだと言う。
より完璧な遺伝子を得る為、科学の、至高天の発展の為多少の犠牲は止むを得ない。
またも感じるあの吐き気、頭の中に直接捻りこんでくる悲痛な叫び…
彼らが生きている事を知った刹那。針だらけのその顔で、自分を見ている事にも…!
どうして命を弄ぶのか…なぜ天使(なかま)にこんな事ができるのか…


 天使だからできるんだよ


その時聞こえてきた声と、赤ん坊の泣き声。そこには巨大な…カプセル状の物体、揺り籠が。
この中に赤ん坊がいると感じる刹那。自分が来たときからずっと、ここから見ていたのだと…
そこへようやく登場した警備兵。刹那は第二天ラキアへ続く大空気口の金網を銃で撃ち壊し入り込む。
何とか地上へ登りかけた刹那を見下ろすのは、セヴォフタルタ。
このまま落ちれば門を通らずラキアへ辿り付くが、五体はバラバラで顔の見分けもつかないだろう…
そしてセヴィーは落し物だとアレクシエルのピアスを示す。
ライラの行方を問うが逆にその話の出所がついザフィケルから聞いたものだと口にしてしまう刹那。
セヴィーはその名に低く笑う。刹那の手に杖先を突き刺し、踏みつける。



353 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:13:18 ID:???
ライラ…彼女があの中のどのポッドの臓器になったのか、自分にもわからないのは本当だと…
その言葉に衝撃を受ける刹那。だから廃竜は彼女が死んでいないと言ったのか!?
許せないと言う刹那に総ては歪みを正すため、一点のシミもないただ白い世界のためだと語るセヴィー。
服従を迫る彼にセヴィーの杖を逆に握って飛び上がった刹那は、銃床でセヴィーの冠を砕いた。
これが答えだと中指を立てて雲クジラの背に乗り刹那は去っていった。
(だが逃げられると本気で思っているのか、ザフィケル…!)


落ち込む紗羅と不適に笑うザフィケル。
その時窓の外一面に、雲クジラの大群が…!そしてその背に乗る刹那の姿が見える。
刹那を迎えに行かなければ、貴方のように目的の為に大事なものを切り捨てるなんてできないと言う紗羅。
切り捨てたわけではない、胸の奥深くに仕舞いこんで抱いていくだけ…
二人を責めているわけではない、それが決めた道なら後悔しない様にすればいいと言うザフィケル。
思う道を思うがままに…決して後悔しないように。帰り道を間違えないように…。
二人はメギドの丘で再会する。抱き合って喜び合うのも束の間、転移してきたメルカバからセヴィーが。
驚く刹那たち、その時地面が揺れ、小型のメルカバがあらわれた。こちらはザフィケル。
二人はそのメルカバに向け走り出した。セヴィーの兵が後方から紗羅に向け銃を撃ってくるのを
雲クジラが庇い、その傍に撃たれた雲クジラが落ちてくる。
そして、雲が晴れる…月の光が辺りを照らした。


貴女には傷つけた者の傷口を見る勇気がありますか?


月の光を浴びて一斉に花を咲かせるムーンリル。
辺りに咲き誇るその花に、紗羅は一緒には行けないと涙をこぼした。



354 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:15:08 ID:???
驚く刹那に残ると言う紗羅。もう前のように何もかも投げ出すことはできない。
ザフィケルに止められたまま必死に呼びかける刹那だが、紗羅の背後にはどんどんと兵が近づいてくる。
「気付いてあげて。刹那のまわりで傷つき涙を流している刹那を大事に思う人達に。
 大好きよ刹那…真の救世使となったら迎えに来てね」


そして紗羅の元にたどり着いた兵は刹那にも銃を向ける。
だが紗羅は自分をセヴィーの元に連れて行くのが先だとそれを止めた。
ただし、自分の身代わりになったシスター見習いを解放するのが条件だ。
だが紗羅の想いが理解できない刹那。ザフィケルを振り切り、連行されていく紗羅の元へ走り出す。


 ああ若き救世使よ 貴方のその過信と愚かさが 貴方に欠けている物が何なのか
 この身を以って教える事になろうとは


白い制服の撃った銃撃から刹那を庇ったのは、ザフィケルだった。
彼は刹那だけをメルカバに乗せ、行けと絶叫する。彼には成すべき事があるはずだと。
そしてザフィケルを置いて、メルカバは出発した…。



355 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:17:03 ID:???
[至高天 形成界編 悠久の中空回廊] 


刹那の足元にはザフィケルの砕けた眼鏡が落ちていた。
最大加速で追手をぶっちぎると指示を出す、行商人だった女性。
このまま自分達だけ逃げるのか、お前らのボスなのにザフィケルを見捨てるのかと刹那は訴えかける。
しかし命令でなければ誰がお前のような無責任な救世使を助けるものかと逆に責められ、
ようやく自らの浅はかな行動のツケを思い知らされる。


連行されてきた紗羅とザフィケル。セヴィーは無道紗羅として生を受けていた間の
実の兄との不貞の嫌疑について 裁判を受けてもらうと告げた。そしてリルの独房へ案内される紗羅。
彼女は騙した自分をきっと憎んでいるに違いない。
しかし拷問を受けたボロボロの体で「おかえりなさい…サラ様…」と微笑むリルに改めて紗羅は涙を流す。


窖への転送機の目前でついに追手に追いつかれた刹那達。応戦するもアフや行商人の女性は撃たれてしまう。
「私達の死が一体何を残すのかよく見ておけ」と女性は敵もろとも自爆する。
一面に起こる大爆発。その影響を受けながらも、刹那の転移は完了した。
転送機の側ではクライとノイズが眠りながらも待っていた。
心配するクライの様子に紗羅の言葉を思い出し、刹那は謝意を告げる。
謝って済む事ではない、彼女達が身を以って教えようとした真実。
紗羅やザフィケル…これからその責任を取らなければならない。すべては自分の招いた結果だから…!
ラジエルは壊れたザフィケルの眼鏡を手に、告げられた事実に震えだす。


それで一人、おめおめと生きて帰ってきたというのか…
多くの同志の命を犠牲にして、ザフィケルを見捨てて…
それでも救世使か、そんな卑怯者が願いを託した救世使だなんて、
そんな奴のために死にもの狂いで戦ってきたのか。


涙を流し訴えるラジエルの言葉に刹那は言い返すことができない。
本当に救世使なのか…一体何を救ってくれると言うのか。そんな救世使は認めない、心底軽蔑する。
「無道刹那…!! 僕はお前を許さない…!!」
誰の手も借りない、信用しない。自らの手でザフィケルを救い出す!
ラジエルは走り去ってしまい、どうやって償えばいいのかと刹那はただ頭を抱えた。



356 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:18:45 ID:???
形成界 第五天マティ最大の収監施設として名高い中空回廊。
脱出不可能な孤島の監獄島…それは、湖の上に浮かぶ浮遊城のようだった。
かつてアレクシエルの天使の結晶を邪鬼族の襲撃で奪われた時に
責任を取って辞職した前権天使長の時代よりも警備は強化されている。
ジブリールは責任を持って監視するとセヴィーに約束する、眼帯をつけた現権天使長サリエル。
紗羅が収監された塔を眺め、次は例の部屋へと望むセヴィー。
その時その胸から音楽が聞こえだす…それは救世使の落としたピアスから聞こえていた。
セヴィーはそのピアスを紗羅のいる塔の方へ投げ捨てると、さっさとザフィケルの房へ案内しろと告げた。
同じ頃ザフィケルは羽を拘束具で戒められ、拷問を受けていた。
それは気を失う事すら許されない、永遠の責め苦…。


クライが持ってきた食事も受け取ろうとせず閉じこもっている刹那。
何でも出来ると思い上がり、たくさんの命を犠牲にした。自分には救世使の、指導者の資格なんかないと落ち込む。
そんな刹那を吉良と加藤が手荒く諭す。
みんなを信頼し頼るべき、お前を待っているのだから。望んでお前の側にいるのだから…。
好き好んでお前の側にいるみんなに、もっと優しくしてやれと…。
その言葉に今までの事を思い出す刹那。
そう、今すべき事は自分の失態を悔いる事ではない。
彼らの命懸けの努力を無駄にしないために今出来る事を考える…
真の救世使になるために何が必要なのか、どうすべきなのか、
みんなで一緒に歩いていかなければならなかったのだ。
そして天界へラジエルを連れ戻しに行く事を決意する。
もちろん一人で勝手に行くとはもう言わない、転送機はもう使えないし手段も定かではないが…
もし手があるなら、助けて欲しい。もう一つだけわがままを聞いて欲しい。刹那は頭を下げる。



357 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:19:45 ID:???
それに吉良と加藤、そしてクライが賛同するが、彼女にお前も自分と一緒で自覚を持つべきだと刹那は言う。
クライには他の仕事を頼みたい、考えていた事…地獄と手を組む気はないかと。
どう考えても窖の邪鬼の残党だけではあの一糸乱れぬ天使軍に太刀打ちできない。
信念や団結力の問題ではない。
だったらいっそ敵の敵は味方という事で悪魔と同盟を結び天界を討つ。
だが考えさせてほしいというクライはふとある事を思い出した。
いろいろありすぎて忘れていたが…あの地獄の底で見た魔王ルシファーの顔…!
まさか…?! クライは振り返って吉良を見た。


牢獄の内側と外側で対峙するザフィケルとセヴィー。
両脇に設置された房の扉からは、羽落としを終えて正気を失った罪人が騒ぐ姿が見える。
羽落としは天使の象徴である羽を切り落とす屈辱的で残酷な極刑。
翼はアンテナの様に意志とアストラル力を変換させる媒体であると同時に、
外界のあらゆる細菌類から体を守る防波堤でもある。
つまりその羽をなくすという事は、全く力を使えないばかりか大気中の有害な菌や微生物に体を侵食される事と同じ。
腐り果てていく身体の苦痛…やがては醜い肉塊と化し、最後は脳に至る。
生きながら朽ちて彷徨う異形の者と化すのだ。
「見えぬが故の恐怖というものもあるだろう…誇り高きお前がこの様な惨めな姿に、哀れな事だ。
だがそう簡単に殺すわけにはいかない…それが、自分を裏切り続けたお前にふさわしい罰だ」
何故、そこまで自分に執着し、憎むのか。切れ切れに問いかけるザフィケル。
「お前が…彼女を汚したから。お前がアナエルを堕落させたんだ。ザフィケル」
セヴィーの言葉に、ザフィケルは悔しげに唇を噛んだ。



358 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:20:35 ID:???
元主天使STだったアナエル。青い瞳と輝ける黄金の髪。
誰もを魅了せずにはおかなかったその美貌をと才能を持った彼女は
研究チームの指揮官に任命され、上級天使としての前途は輝かしいものだったはずだ。
ザフィケルさえ、現れなければ…
彼女は悪名轟く座天使長とのスキャンダルに塗れた。
あの美しかった両の羽根をもぎったのはお前なのだから私にその羽根を奪われても文句はないだろうと
セヴィーは告げる。
ザフィケルは既に死んだ事になっている。
統主を欠いたアニマ・ムンディの残党を一掃する事など造作もない。
神が目覚めたならその所業を見て必ず神罰が下るとこぼすザフィケル。
だがその様子をセヴィーはあざ笑い衝撃の事実を口にする。
神はもういない…正確には、住居である最上階のエテメナンキごと行方不明。
次の天地大戦の為に永の眠りについているというのは、最高会が展開を手中にする為に発表した詭弁なのだ。
そう、我々はとうの昔に神に見捨てられていたのだ。
代わりに聖人アダム・カダモンが神によって隠されたエテメナンキより奇跡を起こし地球を助けた。
エテメナンキはアダム・カダモンを幽閉したまま最上界のどこかに姿を消している!
セヴィーは二人でアダム・カダモンを手中にし、新たなる創世記を作り上げよう。そのためならば
一度だけ生き残るチャンスをやってもいいと言う。
「貴方は…何もわかってはいない…両の光を失った私のこの目よりもさらに…何も見えてはいない…!
貴方のその業が貴方の顔を醜くさせているのに気付かない」
拒絶するザフィケルの言葉に、激昂するセヴィー。
「何故、かつて最も勇敢で猛将と恐れられた誇り高きお前がこんな姿を晒すのか、何故自分を苦しめるのか…
お前は以前と少しも変わっていない…その冷たい瞳には何も映そうとはせず、私を永遠に拒み続ける…」
セヴィーはザフィケルにくちづけると、その首をかき抱いた。
だが今度はそうはいかない 烙印を押し手足を縛め鎖に繋いでも
それでも私の手の中から飛び立とうというのなら、お前の羽根をもぎってやろう。
「お前が私を堕落させたんだ…!!」
ザフィケルは悟った。セヴィーの仮面の下の素顔を。
その心の時間が…あの悪夢の夜から止まってしまっている事を…



359 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:22:15 ID:???
ザフィケルを救うために単身マティへ乗り込むラジエル。同じ目的でアニマ・ムンディに協力を願い出る刹那。
応じた元座天使長の副官だったアニマ・ムンディの女性からザフィケルの居場所と、
近く彼が羽落としにされる事を聞く。
しかし彼はこうなる事を予測し、覚悟して指令を残していったのだ。
「私の身に何があろうとも決して私を助けに来てはいけない」
「私の身自身がこの勝利の妨げになろうものなら私は自ら命を断つ」
「何人たりともこの命に背く事は許されない」と…。
その様はまるで、自分を罰して欲しいかのような、死に急いでいるような…
命令がなければすぐにでも助けに行く。
だがそれでは獄中で耐えているザフィケルの意志を無駄にしてしまう。
ならばやはり自分達が行くしかないと言う刹那。ザフィケルの部下でも何でもないのだから、命令など関係ない。
信頼を裏切った借りは返す。今さらの言葉などしらじらしく響くだけだろうが…
もう一切迷惑はかけない、自分達だけでやるべき事をやる。
再び刹那を信じたメンバーは救済を彼に託す。そしてメカニック担当のリウェトという天使が
戦闘用メルカバを貸してくれた。ただし、条件として加藤を内部構造の解体。
マッドサイエンティストの彼は極めて有機体に近い精巧な人工生命体の
加藤にかなりの興味を持ったようだ。速攻で加藤を売る刹那と吉良。
吉良の助けで中空回廊に刹那が向かっている頃、セヴィーが見守る中でザフィケルの羽落としの儀が始まろうとしていた…。
(やはり足がここへ向いてしまった、だがもうこれで弱い心につき動かされることはない。最後だ。
これでまた一つ、過去を、己の存在を脅かすものがこの世から消える。
この大いなる野望を貫くために、ザフィケルの死が必要なのだ…)
ギロチンの刃が落ちる、その瞬間を見ようとせずに背を向けるセヴィー。そこに、ザフィケルが声をかけた。
「お前の選んだ道だ 最後までしっかりと見届けよ セヴォフタルタ
 いや…
       ラ イ ラ  」



360 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:23:34 ID:???
「ライラ 額の傷なんて気にする事ないわ。貴方はとても素敵な人よ ライラ 私の大切なお友達…」
アナエルはそう言ってくれていた。
ザフィケルには彼女に近づかないように忠告したが、強引にくちづけられてしまう。
「私を愛しているからこそ、二人を引き裂きたいのだろう
親友という仮面の下でアナエルを妬む心を押し殺してきたんだろう
誰よりも側にいる自分より何もかも優れたアナエルを」


自分がそんな感情に突き動かされるはずがないと気丈に振舞うライラ。だが、部屋に戻ると、そこには…!


 こんな事、あるはずがない――


あんな女はいなかった、あんな奴は存在しない。あんな忌わしい事があるはずがない…
錯乱するセヴィーを心配する羽切りの執行人達。だが、彼らの手がいつかのようにその髪を掴む…


 ジャア 消シテアゲル
 ――君ヲイジメル物ミンナ潰シテアゲル――


響いた謎の声と共に、羽切りの執行人達の頭が弾け飛んだ。
力なく頽れるセヴィー…ずり落ちた冠の下から現れた額には、逆十字の形をした、古傷…
血塗れの部屋の中、セヴィーは一人、力なく笑った。
壊れた監視カメラの先で、サリエルはその謎の光景に呆然としていた。



361 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:24:33 ID:???
いつかセヴィーの背後に見た物の存在を感じとる刹那。全身が総毛だって震えが止まらない。
そんな中、刹那は乗り込んできたラジエルの姿を垣間見、すっかり変わってしまった彼の様子に冷や汗を流す。
今の彼はどんな手段でも取りかねない…。
時は一刻を争う…最下層へと二人は急ぐ。また『招かれざる客』を迎えるため、サリエルも下へ向かう。
通風孔を抜けて最下層に出た吉良と刹那。この先がザフィケルのいる特別房のはず。
数々の惨たらしい死体が散乱する中、現れたラジエルが何をしにきたのかと刹那に銃口を向ける。
そこへ一際大きく聞こえてくる悲鳴と、何かを齧るような、舐めるような音。
腐った身体で他の囚人の血を舐めるように這い蹲っていたのは…誰あろう、ザフィケルだった。
ショックを受けるラジエル、既に遅かったのだ。自分がわかるだろうとラジエルは手を差し伸べる。
仲間の所へ共に帰ろう。きっと良くなる、元通りになると――
だが無常にもラジエルの肩に、ザフィケルが食いつく。
ラジエルを止めようとする刹那だが、彼は肩を齧られ続けられながら撃たないでくれと
背後で銃を構える吉良に懇願する。
しかしさらにその背後から飛んできた杖のような物がザフィケルの右胸を貫いた。
剣先に仕込んだ毒性のウィルスが腐敗した細胞を収縮させて全身に回れば死が訪れる…
言いながら銃を構え現れたのはサリエルだ。
暴徒が制御室まで破壊したらしい、まもなくこの中空回廊は強酸の海に崩れ落ち、跡形もなく消えるだろう。
刹那が救世使と知ったサリエルは、沈むのはこの島だけでジブリールの収監された
孤高離宮は離れた浮島にあると告げる。
このまま中空回廊ごと心中したくなければ武器を捨てておとなしく投降しろと言う。
どのみちザフィケルは元には戻らない。彼の腐敗は既に脳に達している。死して亡者(グール)となる運命。
刹那は星幽界にいた亡者が羽を切られた天使の成れの果てだということを知った。



362 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:26:17 ID:???
彼にはもう、ラジエルは自分以外の生き物…餌にしか感じられないのだ…
伸ばされたザフィケルの腕をとり…どうぞ食べてくださいとラジエルは涙を流した。
ラジエルは特異能力たる他人の意識体と同調しそのアストラル力を無差別に増幅・放出する力と…
力を使った時になるIチャイルドの如き赤い瞳をひた隠しにし、憎しみさえ抱いて生きてきた。
そして士官学校でその力を放出し…政府の研究所で研究対象にされてしまったのだ。
あの地獄の様な日々から救ってくれたのは全てザフィケルだから。
憎んでいたはずの力の使い方を教えてくれ、その能力を誇りにせよと教えてくれたのも…
全部ザフィケルの恩に報いるためだから、最後くらい役に立って死にたいと。


子供の肉を喰わなければ、と迫るザフィケル。
だが、その触れた頬…いつか、触った、顔…


その時一際大きな爆発音と共に天井が崩れだす。今がチャンスだと、刹那は七支刀を解放させ
サリエルに斬りかかるが解放されたサリエルの持つ邪眼の力で操られてしまう。
何故か邪眼の効かない吉良が不知火を突きつけるが、その顔を見てサリエルは驚く。
まさか、以前ロシエルが言ったミカエルの「招かれざる客」とは貴方の事かと。
だが…サリエルの右目を、ザフィケルが貫いた。そう、彼は目が見えないのだ…!



363 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:27:49 ID:???
[天使禁猟区 至高天 形成界編 告解]


誰が助けに来いなどと言ったのか。自分が捕まった事で孤立するだろう彼と組織を橋渡しするはずが
何のためにラジエルを窖にやったのか。
ウイルスのために一時的に脳が活性化したのと、ラジエルに触れられた事で正気を取り戻したザフィケルの激が飛んだ。
しかしこれはこうしていられるのも束の間…また再び食いかかるに違いない。
その時は唯一の亡者の急所である心臓を貫くようラジエルに指示をする。
そして事の原因は自分だと詫びる刹那にザフィケルは全て自分が仕組んだ事だと言った。
救世使としての自覚を持ってもらうため、わざと反感を買う言動で刹那一人を暴走させ、失態を演じさせた。
折角戻ってきた無道紗羅を説得して自らセヴィーの元へ投降させたのも、
最愛の恋人が敵の手にあれば彼女を取り戻すまで、セヴィーを憎み死に物狂いで戦ってくれるであろうから…
今まで聖人顔の裏で数々の非道な行いを繰り返してきた。それは全て聖人アダム・カダモンに再び出会うため
昔と何一つ変われない、目の光を失っても心に見える光などありはしない、あの頃のままだとザフィケルは思う。


アナエルはあの時、ザフィケルの子を身篭っていた。
ザフィケルは自分の中で何かが変わるのを感じていた、だから彼女の申し出を受け入れ
次の任務を最後に軍を抜ける約束をしたのだ。
だが、除隊許可が降りるかどうかという重大任務だったはずの仕事は彼らの罠だった。
最高会がこの汚れた手の知りすぎた男をただで手離せるわけもなく、アナエルごと闇に葬られてしまった…
あれがセヴォフタルタの策略かどうかはもう、知る術もない。
アナエルの亡骸を抱きながら、ザフィケルは子供の事を思い出す。
彼女の屍からまだ形も成さぬ胎児を取り出し、施設に侵入してそれを人工羊水へ入れたが既に子供は死んでいた。
だが…子供ももう、死んでしまっていた…
ラジエルには、死んでしまった子を重ねていたのかもしれないと言う。
今日までこの灰色の天国を憂う聖職者を演じてきたのも、あの日自刃で血の海に消える運命であった
自分を奇跡の力で生きながらえさせ、こんな姿になってまでもなおも重い枷をはめ続けるあの方に
恨み言を言うため。
ザフィケルは何故あの時見殺しにしてくれなかったと虚空に向かって叫んだ。



364 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:30:04 ID:???
崩れ行く中空回廊、そこへ突っ込むリウェトのメルカバ。
刹那達の足場も次々に崩れていくが、そこにアダム・カダモン…セラフィタが光臨する。
周りの時間が止まり…中空回廊は一時その姿をとどめた。
セラフィタは優しくザフィケルに語り掛ける。
「貴方の望みはもう叶っている…今こそ心を開いて真実を見つめる時。その時その瞳に映る物は何なのか…」


ザフィケルの記憶に見えてくる映像。
アナエルの子供を人工羊水に移した後、ザフィケルは警備兵に見つかりその場から逃げ出していた。
だが…その後で胎児は息を吹き返し、警備兵が呼んだドクターのおかげで無事に生きることができたのだ。
それこそ運命と言うべき数々の偶然を経て、その子供は成長し、またも運命の巡りあいをする事となる。
既に望む物を手に入れていたというのに、それがあまりにも身近にありすぎて気付かなかっただけ。
悲しみが深すぎて…優しい穏やかな時間に身を委ねるのを恐れていただけ…
今、どんな真実が見えるのか。ザフィケルの目に、光が満ちる――!


そこにいたのはアナエル…ではなく、金の髪と、青い瞳を持つ…ラジエルだった。
何故今まで気付かなかったのか…いや、この子が本当にそうであろうとなかろうと、どちらでも構わない。
目が見えるのかと手を差し伸べたラジエルを抱きしめるザフィケル。
約束してほしい、もう二度と激情に流され我を忘れた行動をとらないと…
救世使を信じ、時には助言し良き理解者となる事を。
座天使長ザフィケルの名のもとに、候補生ラジエルを今より
「世界の魂(アニマ・ムンディ)」の統主に任命する!
その言葉に、涙を流しながらも使命を全うする事を誓い、敬礼するラジエル。
そこでザフィケルの正気は途切れ…身体は醜く変貌し、ラジエルに襲い掛かる。
心配する刹那に、手を触れるなと言うラジエル。
正確に、その心臓を撃ち貫く――他の誰でもない…君の手で…
ザフィケルは満足そうな笑みを浮かべ、その場に崩れていった。


「この方は私の手で…私の… …ですから…」



365 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:33:20 ID:???
そして時が動き出し、光が消えていく。
セラフィタはこれ以上自分の力は使えない、見つかってしまうと言う。
一刻も早く自分のもとへ来て欲しいと刹那に願う、このままでは本当に自分の力が封印されてしまうと。
最高会も…そして地獄も、セラフィタの存在に気付きエテメナンキを探しはじめているのだから。
そうなれば地球の時間が動き出してしまう…
そして彼は消えてしまった。その波動が、天界にいるはずなのに前より弱い事を感じとった刹那。
見つかるとは、一体誰に…?


そこへやってきた加藤、ラジエルと…4人、リウェトの待機するメルカバへと急ぐ。
中空回廊が沈んで行く…ザフィケルとの記憶を思い出し、ラジエルはただ涙を流した…


ラジエルは天界に残ると言う。地下から活動し、常に連絡を取り合う方が刹那の役にも立つだろうと。
刹那とラジエルは空っぽの墓標を前にしていた。
遺体を中空回廊へ置いてきて良かったのかと訊く刹那に、心はもうあそこにはなかったと答えるラジエル。
迎えに来ていたのだという、マリン・ブルーの瞳の金髪の、とても美しい方が…
いや、もしかすると今までもずっといたのかもしれない。
確かに彼は自分の憎しみを利用したかもしれないと思う刹那。
だがラジエルも自分も…本当の事をわかっている。
自殺しようとした刹那にかつて投げかけた厳しい言葉の裏の本当の意味。
決して甘やかさず強く生きる道を示してくれた。
あれが真実だったからこそ、今刹那も生きているし、紗羅も従ったのだ。
ラジエルはあのアダム・カダモンが見せた映像を見たのだろうかと刹那は思う。
ザフィケルの、子供の事を…
そういえばザフィケルの最後の時、「この方は私の…」何だと言ったのかと問う。
「私の…大切な…恩師ですから」と、ラジエルは答えた。



366 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:34:40 ID:???
一方ロシエルの元に、サリエルからの手紙が届いていた。
それは彼が自身の身に万が一の事が起こった時にだけロシエルの手元に届くようにしていたもの。
ザフィケルの羽落としの際に記録されていたあの謎の光景を映したディスク。
それを手にしてロシエルは笑う。
「君の皮膚の内側から…ジワジワと優しく狂わせてあげる…!
 楽しみだね…セヴィー…
 君を喰いつくすその瞬間まで待っててね…もう…すぐだから…!」



天使禁猟区・至高天 形成界編/おわり

創造界編へと続きます。