第03話【ファーストアラート】

Last-modified: 2009-10-12 (月) 14:35:58

「ファーウェル!バスターブレイドだ!」
『Yes,バスターライフル』
「消費を節約しないと泣くからな。AMF展開しているから地面に撃って破片で物理的攻撃する!」
「行くよ!ストラーダ!!カートリッジロード!!」
『エクスプロズィオール!』

集中する砲火の合間を縫い、降下してくるヤマト。
片方のバスターライフルで地面向けて撃つ。魔法ではなく物理的な間接攻撃で相手を破壊する作戦だ。
魔砲は地面に直撃し、槍みたいな隆起を生ませ、逃げる9体のうち、3機の装甲を貫通させる。
「ふっ、撃つだけではなくこういう使い方もあるのだよ!」
槍型デバイス、ストラーダ。エリオは一発のカートリッジを消費することで、魔力を尖端に集中させる。
発生するヴェルカ式の魔法陣。
ストラーダを頭上で回転させ、その勢いの力を利用しつつ、足場を数回切り刻む。真下を通るガジェット四体中二体が、エリオの破壊した足場に行き埋めになり、内二体は倒壊から逃れ、粉塵の中から姿を現した。
「潰れてろぉー!」
スバルが残りの二体の内一体を迎え撃ち、残りをメイが迎え撃つ。
「ファフニール!ワイヤーモード!」
『Yes,mymaster!』
ファフニールはワイヤーみたいな武器に変形する。ワイヤーで敵を撃墜する作戦だ。
「当たって!」
ファフニールからワイヤーを射出。そのワイヤーはノコギリクワガタのハサミの様にガジェットドローンを真っ二つに破壊する。

スバルは得意のシューティングアーツを駆使してガジェットを足で挟み、背後をとっての一撃。今回のガジェットはAMFの発生面が一つしかないため、全開にされないかぎり、後方への影響は少ない。
「あと2体!」

「へぇ~、皆、よく走りますねぇ」
「危なっかしくてドキドキだけどねぇ~。でもヤマト君の指揮は完璧だよ!」
シャーリーの言葉になのはは言う。
「デバイスのデータはとれそう?」
「いいのがとれてます。六機ともいい子に仕上げますよ!レイジングハートさんも、協力してくださいね!」
『オールライト』

「連続、行きます!フリード、ブラストフレア」
チビ竜が放つブラストフレア。
一見、小さな火炎弾だが、その実、すさまじい熱量を秘めている。放たれたブラストフレアは地に着弾し、その炎と熱で二体のガジェットの動きが停止する。
「我が求めるは、戒めるもの、捕えるもの。
言の葉に答えよ、鋼鉄の縛鎖、連結召喚!
アルケミックチェーン」中心の円を囲む、4つの小さな円を四角で結ぶ珍しい魔法陣。その囲まれた円の中から召喚されるアルケミックチェーンが、ブラストフレアによって足止めされているガジェット二体、さらに付近を通過した一体を捕獲した。

「ほぉ~、召喚ってあんなこともできるんですね?」
「無機物操作と組み合わせてるね、なかなか器用だ」
感心するなのは。

そして、その間に、建物の屋上から屋上へと移動していたティアナは、最後の二体に、自分のデバイスで狙いを定める。
「こちとら射撃型、無効化されて、はいそうですかって下がってたんじゃ、生き残れないのよ!」
そう叫びつつ、カートリッジを消費。
魔法陣を展開する。
銃口の先に発生するオレンジ色の魔力。
(スバル、ヤマト!上から仕留めるから、そのまま追ってて!)
(新技のお手並み拝見と行こうじゃないか!)
(りょーかい!)
スバルとヤマトがガジェットを追う。

シャーリーは再び魔力弾を放とうとするティアナに驚いた。
「魔力弾!?AMFがあるのに?」
『いいえ、通用する方法があります』
レイジングハートの言葉に頷くなのは。

慎重に狙いを定めるティアナ。その魔力弾を包もうとする膜状の何か。
(攻撃の単体を無効化フィールドで消される膜状バリアに組み込む。
フィールドをつき抜ける間だけ、外郭がもてばいい…。そうすれば、本命の弾はターゲットに届く)

「フィールド系防御をつき抜ける、多重弾膜射撃。AAランク魔導士のスキルなんだけどなぁ…」
「AA!?」
なのはの呟きに驚くシャーリー。ティアナの魔導士レベルは陸戦Bだ。
本来ならば出来ないはずの高等テクニックである。

(固まれ!固まれ!固まれ…固まれぇ!)
魔力弾を外皮が徐々に覆っていく。やがて、全てを包み込み、そして
「バリアブル・シュートォ!!」
放たれた魔力弾はガジェットを追うヤマトとスバルを追い越し、一体に着弾。
AMFの効果により、バリアを消失させるが、魔力弾本体までは消されず、貫通。
そして、残った魔力弾をティアナは巧みにコントロールし、最後の一体をAMFを展開する前に撃破した。

「うむ、良い技だ。バリアを消失させてまでAMFを貫通させるとはAAランクのスキルじゃないのか?」
(えっ、記憶の一部がまた取り戻した…)
「ティア!ナイス、ナ~イスだよ、ティア!
や~ったね、さっすがぁ!!」
はしゃぐスバル。
一方、当のティアナは疲労困憊していた。
なので、息も絶え絶え呟く。

「はぁっはぁっ…スバル…はぁっ…うるさい…!」
屋上に仰向けで大の字に寝転がる。
「これぐらい…当然よ…。」そういい放ったティアナの顔には、どこか満足気な表情をしていた。

夜。
スバルはソファによりかかり、ティアナとキャロは寄り添うように、エリオとメイは壁にもたれて、着替もせずに訓練服のまま眠っている。あのあとも、なのはによる訓練が続いた。
皆、グロッキー状態でフラフラになりながらこの部屋までたどりついた。
1人、ヤマトだけは1人ベランダにいて、コーヒーを持って夜風に当たっていた。
「皆、疲れた顔して寝てるな。俺も疲れているけどね」
『それだけやりがいがあるんですよ』
「高町なのは、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、八神はやてか…ここの世界の記憶はまだ完全じゃないけどいろいろあったなぁ」
『どんな風にありましたか?』
「翠屋…なのはさんの両親が経営している喫茶店。あそこによく世話になった。メイとここにいさせてもらった時はお手伝いもしたよ。そしたら桃子さんが喜んでくれて」
昔に思い耽るヤマト。
「こんな時間か…明日も早朝訓練があるぞ。今のうちに休息せねば」

075年 五月 AM5:45 時空管理局遺失物管理部 機動六課隊捨 玄関前

エリオは訓練前の柔軟を行っていた。
その上をキャロの竜であるフリードが飛んでいるのだが、キャロというか、女性隊員はまだ表に出てきていない。フリードはゆっくりと翼を羽ばたきながら地に足をつける。
「おはよう、フリード。」
フリードに気付いたエリオがそういうと、フリードは嬉しそうに目を細め、キュックル~~と鳴いた。
「おはよーエリオ。」
「あっ、おはようございます。ヤマトさん」
「おはよう、エリオ君」
エリオの隣に並んで一緒に柔軟を始めるヤマト。
「おはよう、エリオ君、ヤマト」
続いてやってきたのはメイ。
「おはようございます。メイさん」
「ウォーミングアップ、ウォーミングアップ」
とヤマトの横で柔軟をするメイ。

しばらくすると、ティアナ、キャロ、スバルがやってくる。
一通り挨拶をしてからスバルが
「今日もやるぞぉ!!」
「「オー!!」」
掛け声をかけ、キャロとエリオが拳を振り上げる。
ティアナは無反応、ヤマトとメイは少し微笑を浮かべた。
(張り切っているな)
(私たちも負けられないね)

「はい、せいれーつ!!」
なのはの掛け声に、皆が集まる。擦り傷と誇りを被り、息を切らすスバル、ティアナ、キャロ、エリオ。
それに対して被ダメージ率10%未満のヤマトとメイ。スーパーコーディネイターの力なのか?と思う2人。
ティアナは二人を見て何で涼しい顔してんのよ?
って感じである。

「さて、これで早朝訓練は終わり、ラスト一本。皆まだ、頑張れる?」
六人は元気よく、覇気の篭った返事をする。
「じゃあ、シュートイベイションをやるよ?レイジングハート」
『All right, アクセルシューター』
なのはの足元に桜色の環状魔法陣が発生。周囲の空間に発生する数多の魔力弾。
「私の攻撃を五分間、被弾無しで回避しきるか、私にクリーンヒットを入れればクリア。
誰か一人でも被弾したら最初からやり直しだよ?
それから、ヤマト君とメイがの二人は空中戦ができる分、私もちょっとだけ本気を出すからね?さぁ、頑張っていこう!」
「ちょっと質問いいですか?障壁で防御した場合はどうなりますか?」
質問をするヤマトの問いに答えるなのは
「障壁の使用は可能。防御は被弾には入らないよ」
「このボロボロ状態でなのはさんの攻撃を五分間捌き切る自信ある?」
「ない!」
ティアナの質問にスバルはきっぱりと答えた。
「同じく。」
エリオもスバルに同意見だ。
「じゃあ、なんとか一発いれよう。」
ティアナがデバイスを持つ手に力を込める。
「よぉし、メイ、エリオいくよ!」
「はい!スバルさん。」
「わかったわ」
ストラーダを、ソードモードを構えるエリオとメイ。

「準備オーケーだね!じゃあ、いくよ!!」
なのはが腕を振り上げ、振り下ろすと一斉にアクセルシューターが発射される。
「全員!回避!!散開!間違って味方に当てるなよ!」
ヤマトの掛け声に一斉にその場から飛び退く全員。桜色の光弾が地に着弾すし、粉塵を巻き上げる。
ヤマトは飛翔し、メイは向かってくる弾を回避して、なのはへ飛翔する。
「ファフニール!カートリッジロード!」
グリフォンの赤い翼から緑色の鮮やかな粒子が噴出する。
「へぇ~、早いねぇ。でも…レイジングハート!」
『All right』
追加のアクセルシューターがメイの行く手を阻む。
「きゃっ」
「メイ任せて!!」
突然の声と共になのはの背後へと繋がる青い道。
「ウィングロード?スバル?」
「はぁぁああ!!」
リボルバーナックルを振り上げるスバルを視界に捕える。直ぐ様なのははアクセルシューターをコントロール。
スバルへと狙いを定めると同時、後方の廃ビルの中からこちらを狙っているティアナにも狙いを定め、放つ。
しかし、二人が突如として姿を消す。
「フェイクシルエットか…やるなぁティアナ」
『Master!』
レイジングハートが警告。なのははとっさに後退する。直後に目前を駆け抜ける漆黒の翼。
「うん、いい狙いだ。ヤマト君はホントに正確な射撃だね。」
呟きつつ、なのはは腕を横に振り、アクセルシューターの8つを半分ずつヤマトとメイに向け放つ。
「俺たちを狙ってくる!スバル!」
直後に再び出現するウィングロード。
今度は本物だった。
スバルのリボルバーナックルを受け止め、ヤマトとメイに向け放ったアクセルシューターの二発にスバルを狙わせる。

一方、アクセルシューター三発に追われているメイ。なのはと、レイジングハートによってコントロールされているそれは、鋭い射角でメイを狙い打ってくる。
『ドラグーン』
アクセルシューターからある程度距離をとった後、三基のドラグーンを展開。
ドラグーンから魔力弾が発生。狙いは正確で三発全てを破壊する。

「おっとと…、うわぁ」
と悲鳴をあげているのはスバルである。アクセルシューターを避けた際に、ウィングロードでバランスを崩し、落下しそうになったのでそんな声をあげたのだ。

さらに、背後には迫り来る二発のアクセルシューター。
「ば、馬鹿!危ない!スバル、何やってんのよ!!」
「ごめ~んティア、撃ち落としてぇ~。」
と迫り来るアクセルシューターから必死で距離をとろうと疾走するスバル。
「あぁ~、もう…。今撃ち落とすから!」
狙いを定め、トリガーを引くと、ポシュッと間抜けな音をたて魔力が霧散した。
「何で、私ってばこんなときに…。」
消費したカートリッジのリロードを慌てて行うティアナ。
リロードを素早く行い、アクセルシューターに狙いを定めトリガーを引く。
それを合図に跳躍するスバル。アクセルシューターはそのまま通り過ぎ、さらにティアナの射撃魔法がアクセルシューターを撃墜した。

「フリード!」
主の声にキュックル~と返事をし、ブラストフレアを二発連続で口から吐き出す。
可愛いらしい姿の外見とは裏腹に、とんでもない破壊力をもつ火炎弾が死角からなのはを狙うが、さすがは管理局のエースオブエース。難無く回避。
『Caution!』
なのはが振り向いた先に現れる、ストラーダを振り上げるエリオ。
だが、なのはは冷静に対処。
ラウンドシールドを発生させ、押し返すと再びアクセルシューターを発生させる。
焦るエリオ、今は空中。狙われれば確実に被弾してしまう。なのはのコントロールによる4つのアクセルシューターがエリオを囲むように射出された。
目を閉じるエリオの腕を誰かが掴み、引っ張りあげる。
ヤマトだった。
「しっかり捕まっててくれよ!」
言うやな否や、加速するヤマト。背後にはアクセルシューター。エリオはヤマトの首に必死でしがみつく。
追尾してくるアクセルシューターを振り払うため、急減速して避け、止まる。
「今だ!エリオ君」
「我が魂は疾風の翼、若き早騎士に駆け抜ける力を!」
『ブーストアップアクセレレイション』
そこへ、キャロからの強化魔法がエリオのストラーダにかけられる。
輝きを増し、バックファイアから溢れ出す閃光。

『ソニックブラスト』
アクセルシューターを撃墜し、上がった爆煙をソードと真空破で切り裂き現れるメイ。
ティアナの射撃、フリードのブラストフレアを避け、スバルのリボルバーナックルでの一撃を防御するなのはは、取り合えずスバルを障壁で押し返す。
ソニックブラストの効果でを障壁で防御するわけにはいかない。
『Master,』
なのははメイを見据える。しかし、レイジングハートが警告したのはメイではなかった。
なのはの頭上を影が覆った。雷の様に急速降下してくる白銀の剣。
それがなのはに障壁をはらせ、動きをとめさせた。
そして、反対側には真空に身を纏う真紅の剣をつき出すメイの姿。
なのはは迷わず障壁を左右に展開する。
右にヤマト、左にメイ。
だが、ヤマトはアクセルシューターから逃れるため、自ら後退。
『ブラスト』
なのはの鉄壁の障壁が砕け散り、桜色の魔力が宙に霧散し、メイとなのはが至近距離で交差する。
手を伸ばせば届く、そんな距離だ。
「無理をするなメイ。このまま被弾されるぞ」
体勢を崩したまま、無理矢理ファフニールを振るうが、レイジングハートに受け流される。
『シュペーアアングリフ』
声。
人の口から発せらるのとは違う声。
いつのまにか先程のメイと同方向に現れたエリオが電光石火のスピードでなのはに突撃を仕掛けてきている。
メイはその場から待避する。なのははエリオを迎え撃つためレイジングハートを構え、自らも攻撃を行うため向かっていった。
場に緊張が走る。
当たるのはどっちの攻撃か、この攻撃が当たらなければ体力的に次はない。

キャロ、ヤマト、スバル、メイ、ティアナの五人が見守るなか、二人の攻撃がぶつかり合い、爆煙をあげる。
煙の中から放り出されたエリオが、言うことを聞かない足を酷使し、何とか着地した。
煙が晴れ、その場に空中で浮遊するなのはのバリアジャケットにストラーダによる損傷があった。
ジャケットの胸部が破れ、インナースーツが剥き出しになっている。
「んっ、合格だよ。」
エリオ、キャロ、スバル、ティアナ、ヤマト、メイが歓声をあげ、エリオはヤマトと互いに成功の握手をした。
「やりましたね。ヤマトさん」
「キャロちゃんのサポートあってからこそだよ」
スバルとティアナは手を取り合って、メイとキャロはお互いに視線合わせ、微笑んでいる。
「それじゃあ、一旦集合しようか。」
パタパタと走ってなのはの前に集合する六人と一匹。その間に、なのはは武装を解除する。

「皆、チーム戦にも大分なれてきたね?」
「はい、ありがとうございます。」
なのはに成長を認められ嬉しいのか、六人とも笑顔だ。
最初に異変を察知したのはキャロのチビ竜、フリードである。
「どうしたの?フリード?」
「何か焦臭いような…。」
キャロとフリードやりとりをみていたエリオが辺りを見回す。
「言われてみれば…」
ヤマトも同様に…
「機械が煙を立ち込めている匂いみたいだな」
メイも同様だ。するとティアナが原因を発見した。
「スバル、あんたローラー」
「ほぇっ?」
と間抜けな声をあげながら自分のローラーブーツへと視線を落とすと、何だかヤバいことに煙が上がっていた。
「しまった~、無茶させちゃった~」
「限界度を超えてしまったんだよ」
スバルがブーツを脱ぎ、胸元に抱きしめる。
スバルの事をある程度知っているティアナはともかく、他四人はそんなスバルの行動を意外そうな表情で見ていた。
「オーバーヒートかな?
あとでメンテスタッフにみてもらおう」
「はい…。」
「ティアナのアンカーガンも結構厳しい?」
「ぁ、はい、騙し騙しです…。」
成程、二人のデバイスは相当ガタがきているらしかった。
「皆、訓練にも慣れてきたし、実戦用デバイスに切り替えかなぁ~」
それから、
「ヤマト君とメイちゃんのデバイスには追加プログラムがあるから、今、私に預けてくれる?」
ヤマトとメイは頭の上にはてなを浮かべながら、ただの飾りになったデバイスをなのはに渡した。
「それじゃあ、戻ろっか?」
なのはの言葉に、皆笑顔でうなずく。
こうして、長い早朝訓練は終わりを告げた。

「じゃあ、一旦寮でシャワー使って、ロビーに集まろうか?」
今は、早朝訓練からの帰りで、寮に向かう途中だ。
色々と皆で話をしながら歩いていると、徐々に近付いてくる車の音。
「あっ?あの車って…?」
いち早く気付いたティアナ。そのティアナの言葉に、一同が立ち止まると、一台の黒塗りの車が七人と一匹の前で停止した。
屋根がすっと消えサイドの窓も消えると、車の中が露になり、中に乗っているのがフェイトとはやてであることがわかった。
皆がもの珍しそうにその車を見ながら、
「すご~い!」
「これはオープンにもできる車…カーマガジンで見たことあるけど。これほどすごいとは…」
ヤマトは感心する。
「地上での移動手段なんだ」
微笑みながら言うフェイト。
「ところで皆は、訓練の方は頑張ってるんか?」
助手席に座っているはやてが、汚れた六人の訓練着を見ながら言う。
「あ~…、えと…」
「がんばってます。
言い淀むスバルの代わりににティアナが言った。
はやては満足そうに頷く。
「エリオ、キャロ、メイ、ごめんね。私は三人の隊長なのに…。あんまり見てあげられなくて…。」
困ったような表情を浮かべるフェイト。
「え…あの、いや…」
心配してくれていたのがよっぽど嬉しいのか、エリオは喜びを隠せないらしく、言葉になっていなかった。
「大丈夫です」
と言ったのはキャロだ。各言うキャロも何だか嬉しそうな表情をしている。
「ヤマト君達は調子どう?まだあかんか?」
はやてがヤマトを見て微笑む。
「何とかやっているよ。記憶もだいぶ思い出したし」
「この調子や、頑張りや。メイちゃんもや」
「ありがとう」
「六人とも良い感じで育ってきてるよ?いつ出動になっても大丈夫」
会話もそこそこに、なのはが全体を評価してそう言うと、はやては、それは頼もしいと上機嫌だ。
六人も上官にそう評価された事が嬉しいのか、何だか嬉しそうである。
「ところで、二人はどこかにお出掛け?」
なのはがはやてとフェイトに聞く。
「うん、ちょっと六番ポートまで」
「教会本部でカリムと会談や。夕方には戻るよ」
「私は、お昼には戻るから、お昼は皆で一緒に食べようか?」
はい!と一同。
それを川切りにフェイトが運転する車は走り出し、一同はそれを敬礼で見送った。

「聖王教会騎士団の魔導騎士殿、本局の理事管。
カリム・グラシアさんかぁ…。私はお会いしたことはないんだけど…」
道中、不意にフェイトがはやてにそんな会話を振る。確に、ただ運転するだけ、と言うのも面白くないかもしれないし、小学三年生からの付き合いなのだから、こういうときは気軽に話しかけられるのだろう。
「あぁ、そうやったねぇ」
「はやてはいつから?」
ん~、としばらく考え込み、はやては口を開く。
「私が教会騎士団の仕事に派遣で呼ばれたときのことで、リィンが生まれたばっかの頃のはずやから…8年ぐらい前の頃かなぁ…」
「そっか…」
ハンドルを捌き、アクセルを適度に踏み込んだり、緩めたりしながら、フェイトははやての話に耳を傾ける。
「カリムと私は、信じてるものも立場もやるべき事も全然ちゃうんやけど…。
今回は二人の目的が一致したから…。
そもそも、六課の実質的な立ち上げをやってくれたんは、ほとんどカリムなんよ?」
「そうなんだ?」
交差点を過ぎ、風景が流れていく。
「お陰で私は人材集めの方に集中出来た」
気楽そうに笑うはやて。
「信頼できる上司…って感じ?」
「ん~、仕事や能力はすごいんやけど…あんまり上司ってかんじはせぇへんなぁ…。
どっちかっていうとおねぇちゃんって感じや」
フェイトの問いに答えるはやて。
「そっか。」
おかしそうに笑いながフェイトは頷き、ハンドルで進路調整を図る。
「まぁ、レリック事件が一段落したら、ちゃんと紹介するよ。
きっと気があうよ?フェイトちゃんもなのはちゃんも」
はやての言葉にフェイトは再度頷いた。

「皆、まだかなぁ~」
と一人ロビーの階段に座りぼやいているのはエリオ・モンディアル。
フリードもそれには同意見なのか、ク~、といつもよりトーンが低い鳴き声を漏らした。
「仕方ないよ…。女の子だしね」
エリオがびっくりして声のしたほうをみやると、ヤマトがやって来た。
「お待たせ、エリオ君」
2人と一匹になってから10分後…
「ヤマトさんとメイさんのデバイスの追加プログラムはなんでしょうね」
「多分、性能の強化や新しい魔法が組み込まれているかなーと思う」
「そうだといいですね」
談話から5分後…メイ以外の女性陣が戻って来た。
「あっ、ヤマトとエリオ」
「遅い、遅すぎる…あいつは一体どこで油を売っているんだ?俺が上がってから15分経つけど…」
「メイなら最終段階に入っているらしいよ」
こうスバルは言った。ヤマトの反応は…
「またこれか!浴びる段階で20分はかかり、最終段階で10分はかかる。時間に余裕はないのかね?時間はよ!待っている身にもなってほしいよ!」
「その言葉…聞いたわよ…」
ヤマトの背後に突き刺さる言動。
「まさか…」
「そのまさかよ!」
メイが不意にヤマトを蹴飛ばす。ヤマトは5メートルも飛んだ。
「凄いキック…」
「スバル、あんた、見習えば?」
と茶化すティアナ。
「許してくれ!メイ!俺が悪かった!今の無しにしてくれ!今度、翠屋のケーキをおごるから許して!」
「本当なの?なら許す」
「絶対守るから」
ヤマトは立ち上がり、エリオにこう言われた。
「仲がいいんですね」
「そりゃそうですよ。何だって双子だから」

ミッドチルダ北部、ベルカ自治領「聖王教会」大聖堂。

「ごめんな、すっかりご無沙汰してもうて…。」
窓際の日当たりの良い場所。そこではやてとカリムはお茶を飲みながら、久しぶりの再会に言葉を掛け合う。
「気にしないで、部隊の方は順調みたいね。」
「カリムのお陰や。」
とはやてが微笑みかけると、カリムも微笑み、答える。
「そういうことにしとくと、色々お願いもしやすいかな…。」
「…なんや、今日の会って話そうは、お願い方面か?」
持っていたティーカップをはやては置いた。
カリムの顔から笑顔が消え、真剣な顔付きになる。
不意に空間にモニターとパネルを開き、いくつか操作すると、部屋のカーテンが一斉に閉じ、室内が薄暗くなる。
はやても真剣な顔付きになり、先ほどまで自分達に光を注いでくれていた窓の方に顔を向けると、6つの空間モニターが開かれていた。

「これ、ガジェット?新型?」
「今までのⅠ型以外に、新しいのが二種類…。戦闘性能はまだ不明だけど…。
これ…。」
カリムはモニターを操作し、円形のガジェットが写るモニターをアップにする。「ガジェットⅢ型は割りと大型ね。」
円形ガジェットと人を比較すると、明らかにガジェットの方が大きかった。
「まだ正式には発表してないわ。監査役のクロノ提督にはさわりだけお伝えしたんだけど…。」
カリムの話に耳を傾けつつ、モニターをみていたはやては何かに気付く。
「これは?」
写っているのは何かの装置か、はたまた箱か?形は四角に近いが、八角形の銀色の立方体が写っている。
「昨日付けで、ミッドチルダに運びこまれた不審貨物。」
「レリック…やね?」
「その可能性は高いわ。
Ⅱ型とⅢ型が発見されたのも昨日からだし…。」
そっかと頷くはやて。
「ガジェットたちが、レリックを見付けるまでの予想時間は?」
「調査では、早ければ今日、明日…。」
「そやけど…、おかしいな…。レリックが出てくるのがちょい早いような…。」考え込むはやて。
「だから、会って話たかったの…。これをどう判断すべきか…。どう動くべきか…。
レリック事件もこのあと起こる事件も…対処を失敗するわけには…いかないもの…。」
カリムが何だか真剣に悩み、緊張を張りつめているので、はやてはパネルを操作し、カーテンを明け、薄暗い部屋を明るくした。
「まぁ、何が起きても大丈夫。カリムが力を貸してくれたお陰で、部隊はもう、いつでも動かせる。
即戦力の隊長達はもちろん、新人フォワードたちも実戦可能。
予想外の緊急事態にもちゃんと対応できる下地ができてる。
そやから、大丈夫。」
力強く頷くはやてに、カリムは少しだけ安堵した。

場所は変わって…。
「へぇ~、これが…」
「私たちの新デバイス…ですか?」
いつもどおり、スバルの言葉をティアナが引き継ぐ。目の前には青い宝石がついている首飾りと、白に赤のラインに黄色い宝石が埋め込まれたカード。
それから真紅のロザリオみたいな物がついているネックレス。
「そーでぇーす!設計主任私。協力、なのはさん、フェイトさん、レイジングハートさん、リィン曹長。」
と元気よく声をあげているのはシャーリーだ。
「ストラーダとケリュケイオン、ファーウェルは変化なしかな?」
「うん、そうなのかな…」
エリオの言葉に、残念そうに言うキャロ。
「追加プログラムの追加と言うと?」
「違いまーす!」
ヤマトの頭にボスっと着地するリィン曹長こと、リィンフォースⅡ。
「おっと、びっくりしたなぁ」
「変化無しは外観だけですよ?」
そのまま、ヤマトの頭から飛び下り、エリオとキャロの前まで飛行する。
「二人はちゃんとしたデバイスの使用経験がなかったですから、感触に慣れてもらうために、基礎フレームと最低限の機能だけで渡してましたです」
「あれで最低限?」
「ホントに?」
エリオとキャロは驚いている。
「ヤマトとメイ、以外が扱うことになるデバイス、四機は六課の技術スタッフたちが技術と経験を合わせて完成させた最新型。
部隊の目的に合わせて、エリオやキャロ、スバル、ティアに合わせてつくられた文句なしに最高の機体です。」
次にヤマトとメイの前にリィンは移動し、追加プログラムについて今度は説明を始める。
「ヤマトとメイ、二人のデバイスは元々が二人に合わせてつくられているのか変更部分はあまりなかったです。
ヤマトのファーウェルは連射性能とチャージ性能、燃費を中心に向上。また、インスペッサミラージュの持続時間を長くしておきましたです。
それからメイは前回こちらに来たときに使っていた魔法を追加しておきましたです」
「これなら…」
2人の言葉はこれしかでなかった。
「ただの道具や武器とは思わないで大切に、だけど性能の限界ぎりぎりまでおもいっきり使ってあげてほしいです。」
リィンがそうはなしていると、ドアが開き、なのはがようやく、姿を現した。

「ごめん、ごめん、待ったぁ?」
「なのはさ~ん」
なのはに向かって飛んでいくリィンフォース。
「丁度よかった。じゃあ、使用方法説明しますね?」シャーリーの言葉に六人が頷く。
「まず、この子たちには何段階かにわけて出力リミッターがかけられてるのね?
最初はそんなにびっくりするほどのパワーがでるわけじゃないから、まずは、それで扱いを覚えていって。」
「で、各自が今の出力を扱えるようになったら、私やフェイト隊長、リィンや、シャーリーの判断で対処していくから…。それから、ヤマト、メイの二人のデバイスは出力リミッターはかけられなかったけど…。
ファーウェルのトランザム、それからファフニールのALICEは使用するときは私たちに許可をとること…。いいね?」
「はい」
「トランザムとALICEと言うのは?」
とスバルが疑問を浮かぶ。その問いはヤマトが答える
「トランザムは一定時間、デバイスの能力の全てが3倍上がるんだけど、効果が切れたらデバイスにものすごく負荷がかかり、酷い場合だと魔法が一定時間使われなくなる。諸刃の剣だな。続いてALICEはトランザムと違ってデバイスの能力向上が小さいけど、その分、負荷が少ない」
シャーリーをなのはが引き継ぎ、

「丁度、他四機はみんなと一緒にレベルアップしていく感じですね。」
なのはをリィンが引き継ぐ。
「出力リミッターっていうと、なのはさんたちにもかかってますよね?」
リミッターの話で思い出したのか、ティアナが口を開いた。
「あぁ、私たちはデバイスだけじゃなくて…、本人にもだけどね」
「「「「えぇ?」」」」
エリオ、キャロ、スバル、ティアナの四人は驚く。だが、ヤマトとメイの頭上には?が4つぐらい立っていた。
「能力限定って言ってね。うちの隊長と副隊長はみんなだよ。
私とフェイト隊長、シグナム副隊長とヴィータ副隊長、それからはやて部隊長にもだよ。
それから、ヤマトとメイにもかかってるみたいだね。
何でかかってるのか私達は分からないんだけど…」

「えっ?俺たちにもでありますか?」
ヤマトが耳を疑い、なのはに再度、確認する。
「うん。
スバルとティアの試験の時に、怪我をして現れたあなたたちを治療するとき、治療と一緒に魔力検査を行ったの。
そしたら、リンカーコアとは別の、だけど連動している魔力の塊があったんだ。でも、普段はそれに…。
そう、ティアのバリアブルシュートみたいに魔力外皮が張られていて、圧縮されてる魔力の塊を見つけた。
見た目、種みたいだから、医療班の人たちも、私もそれをSEEDって呼んでるけどね」
まんま何だけどね~と笑うなのは。
「それじゃあ…続きを…」
とシャーリーがモニターを操作しようとしたとき、室内に警報が鳴り響いた。

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