第1話 旅立ちの夜明け

Last-modified: 2009-11-01 (日) 13:53:41

「う~ん…ここはどこだ…?」
1人の男がベッドから目を覚ますと見知らぬ部屋にいた。
天井には豪華なシャンデリアがあり、辺りを見回すとお城?の肖像画があったり、本棚もあり、一通りの本が揃えている。
ベッドでもこれは金持ちが持っているベッドであり、貴族のお嬢様の部屋だというイメージが強い。
「飛ばされた後か思い出せない…今までのことははっきり覚えている…ファーウェルは無事か…?」
『問題ありません。でも他の仲間が心配ですね』
「なのは、フェイト、はやて、メイはどこに行ったんだろうか…」
彼は手に持っているファーウェルという剣に話しかけるとその剣は大丈夫だと答える。
彼の名前は一条寺ヤマト。時空管理局・機動隊「モビルエッジ」の隊長である。階級は空等一尉。
彼の持っている剣はインテリジェントデバイス「ファーウェル・ゼロ」


「おや、目が覚めましたか?」
ヤマトが目を覚めたのに気づいた少女。ヤマトから見たら10代後半だ。
妹のメイみたいなピンク色の髪に水色のドレスが特徴的だ。見ればお姫様だとうかがえる。
「はい」
「びっくりしましたよ。私の部屋にいきなり現れるんですから」
…?
ここに飛ばさレル前のことは全然覚えていないヤマト。
「あのーここはどんな世界でどこなんですか?」
「ここはテルカリュミレースの帝都ザーフィアスです」
テルカリュミレース?ザーフィアス?
明らかに知らない異世界と地名。どこかの管理外世界なのだろうか?
「聞きたいことがありますけど、あなたはどこから来ましたか?」
少女に言われた質問に答えないわけにもいかないヤマトであり、飛ばされた理由が分かるかも思いつつ、答える。
「出身地は第97管理外世界・地球で今は第一管理世界・ミッドチルダにいる」
「地球?ミッドチルダ?何のことですか?」
今の答えで少女が戸惑った。
まぁ無理もない。少女にとってはヤマトがここの世界の住人ではなく、ヤマトは異世界に来たのは確かだ。
「一応、自己紹介しておく。俺は一条寺ヤマト。ヤマトと呼んでくれ」
「私はエステリーゼ、エステリーゼ・シデス・ヒュラッセインです」
お互いは自己紹介し、いろいろと談話をした。
すると
ガシッという音が遠くから聞こえるヤマト
「鎧による金属音か?」
『そのようです』
ファーウェルが答える。するとエステリーゼが立ち上がった。
「エステリーゼ姫?」
「ヤマトはここに隠れてください!事情は後で言います!」
ヤマトは訳も分からないまま、エステリーゼの言う通りにベッドの下に隠れて、エステリーゼは自室を出て行った。
「いたぞ!あっちだ!」
「逃がすな!」
兜と鎧を身にまとった二人の騎士がエステリーゼを追いかける。


エステリーゼ自室
「ふぅー落ち着いてきたかな」
窓を見ると日が暮れていた。
地球やミッドとは違う夜景だ。でもそんなのんきにはいられない。
「エステリーゼ姫を助けないと!」
ヤマトはエステリーゼ自室を出て行った。
「ったく、最近の騎士団じゃエスコートの仕方も教えてくんないのか?」
エステリーゼを追い詰めた騎士をぶちのめした長髪で黒髪の青年がぼやいていた。
「えい!」
エステリーゼが壺らしき物を持ち、不意に青年の後ろから攻撃しようとするが、青年はひらりとかわす。
「おわ、何すんだ!」
「だって、あなた、お城の人じゃないんですよね?」
エステリーゼが青年が城の関係者ないと気付き、青年が、
「そう見えないってんなら、それまた光栄だな」
という瞬間に
『ユーリ・ローウェール!!どこだーーー!!』
『不届き者の脱走者め!逃げ出したのは分かっているのであーる!』
大きい声があたりまで響いてくる。
「またあいつらか。もう牢屋に戻る意味、なくなっちまったよ…」
『馬鹿もーん!!声が小さい!』
『ルブラン小隊長、声が大きすぎて耳が…』
ルブランという人の怒声がこれまた大きく響く。
ユーリと名乗る青年も呆れるほどだ。
「ユーリ・ローウェル?フレンの友達のユーリ?」
「そうだけど?」
「なら、騎士団にいた方なんですよね?」
「ほんの少しだけだけどな。それ、フレンに聞いたの?」
ユーリはエステリーゼに返答を待っていると
「はい」
「ふ~ん、あいつにも城の中に、そんな話する相手もいたんだな」
ユーリが先に進もうとするとエステリーゼが先回りする。
「あの、ユーリさん!フレンのことで、お話が!」
ユーリにフレンのことを話たいエステリーゼだが
「チョイ待った。あんた一体、何なんだ?フレンの知り合いなのに何で騎士団に追われているんだ?」
『こっちだ!』
すると槍を持った騎士と剣を持った騎士がやって来た。
「まだいたとはな」
「二人を逃がすな!」
二人の騎士が2人を追い詰める。
「行けるか?ファーウェル」
『Yes,Allright.Launchermode.』
ファーウェルがレイピアから長身のある砲台に変形する。
『非殺傷設定。ターゲット、ロックオン』
「行くぜ、ディバインバスター!」
死角からの砲撃でファーウェルの先端からミッドチルダ式魔法陣が発生し、蒼い奔流が二人の騎士を呑みこむ。当たったけど、非殺傷なのでしばらく気を失う程度だ。
「待たせましたね、エステリーゼ姫」
「ヤマト!」
ヤマトが2人のとこへ駆けつける。
「今のはあんたか?あんたは誰だ?」
ユーリがヤマトの方へ見る。ヤマトは指を振る。
「詳しい話は城を脱出してからだ!追っ手が来る!」
『Yes!』
「「剣が喋った!」」
「これも後だ!」
しかたがなく、三人はフレンの部屋まで逃げることにする。たくさんの騎士を蹴散らしながら、ユーリが胡散臭いおっさんから教えてもらった脱出経路へ向かう。
第二の回廊を歩いていると、三人は止まりだす
「たしか、この辺りだったような…」
「アンタの立ってるそこがフレンの部屋だろ…?」
二人の会話を聞いたヤマトは少し苦笑する。
(なんで、城の人なのに資質が一瞬分からなかったのかな?)
ユーリはエステリーゼをダメだこりゃと手を下げる。
エステリーゼが言うにはここはフレンの部屋であり、フレンの危機を駆けつけるためにここに来たのだという。
フレンの部屋に入る三人。中には誰もいなく、かたついている。


フレン私室
「やけにかたついているな。こりゃ、フレンの奴、どっかに遠出かもな」
「そんな…間に合わなかった」
エステリーゼが落胆する。
「どんな悪さをやらかしたんですか?姫」
ヤマトが意地悪そうに問いだすとエステリーゼは応える
「どうして、私、何にも悪いことなんてしてません」
「なのに騎士に追い回されるのか?常識じゃ計れねえな、城ん中は」
ユーリも追い討ちをかけるように言った。
「あの!ユーリさん、ヤマト!」
エステリーゼが2人を呼ぶと
「なんです?」
「なんだよ急に」
と藪から棒に返事をする。
「詳しいことは言えませんけど、フレンの身が危険なんです!私、それをフレンに伝えに行きたいんです」
エステリーゼがフレンの身に危険を感じて二人に頼み込む。返答は2人次代だが…
「俺は構いませんけど」
とヤマト。
「行きたきゃ、行けばいいんじゃないのか?」
とユーリが拒否そうに答える。
「オレにも急ぎの事情があってね。外が落ち着いたら、下町に戻りたいんだよ。ヤマトもいいと言ってるんだからヤマトに連れってってもらえよ」
「しかし…だったら私も連れて行ってください!フレン以外に頼める人がいないんです!それからヤマトと一緒に行きます。せめて、お城の外まで…お願いします、助けてください」
エステリーゼが必死そうにユーリに頼み込む。
流石のユーリも敵わないらしく、承諾する。
「わけありなのは分かったからせめて名前くらい、聞かせてくんない?」
ユーリがエステリーゼに名前を聞こうとすると。
バタン!
大きい音ともに扉が倒れる。エステリーゼが近づこうとすると逆に下がる。
「オレの刃のエサになれ…」
出てきたのはセミロングヘアーで金髪、黒髪、赤髪が混ざっている男性。
突然、右手の刃の横一閃で花瓶を割り、狂気そうな顔でユーリを見つめる。
「ノックぐらいしろよな」
ユーリが呆れる。
「オレはザギ…お前を殺す男の名、覚えておけ、死ね、フレンシーフォ…!」
と言いつつ、ユーリに襲いかかる。
ザギは三つの短刀で使いつつ、ユーリを攻撃する。
「死ね!フレン!」
「だから、人違いだっての!」
ザギの攻撃を防御しつつ、呆れるユーリ。まだ区別もついていない。
「蒼破刃!」
ユーリの剣から飛び出る風の衝撃波がザギにヒットする。
ザギはダメージを受けながらもまだ向かってくる。
「刃の錆になれ、空破特攻弾!」
ザギの体当たり攻撃。
「なんの!ハッ!」
防御しつつ、技の隙を見せたザギを攻撃するユーリ。
「いい感じだ」
「はあ?何がだよ。こっちはちっともよくねえよ」
ユーリは相手、間違えんじゃね?と思い、呆れる。
「いいな、その余裕も。あはは!!さあ、上がってキタ!!上がってキタ!!いい感じじゃないか!!」
不気味で高笑いするザギ。戦闘のボルテージが最高潮に達したらしい。
「急に変わりやがったな」
「あははははははっ!!」
襲いかかってくるザギの攻撃を剣で防ぐユーリ。
「くっ」
少し痛みが伝わったようだ。
「わたしもお手伝いします!」
「俺も加勢させてくれ」
ユーリのサポートをしたいヤマトとエステリーゼ。
「ヤマトはいいが、お前は来るな!」
「でも!」
「ああ、いいぜ!何人でも掛かって来い!」
ザギはまるで三人を弄んでいるかのように挑発する。
「言われなくても!」
戦闘に加勢するヤマト。
「無理しねえでヤバくなったら退けよ」
ユーリがエステリーゼに注意を促す。
「はい」
仕切り直しで3VS1の戦いが始まる。
「あははは!いい感じじゃないか!」
戦闘中でも高笑いをするザギ。ヤマトはため息をしながら、斬りかかる。
「いいな」
「落ち着いてください。こうやって相手のペースを乱そうとしています」
「お前が落ちつけ。あいつにそんな意図があるように見えねえて。」
ユーリがまるでザギのペースに乗せられているように見えるエステリーゼに一喝をする。
「もしかして、アレが素?」
「ゴチャゴチャ喋っていたら、死ぬぜ!フレン!」
「だから、人違いだって!
「でも、誤解なら戦うより話し合った方が!」
「オレに会ったのが運の尽きだな!」
「話し合いより、倒した方が早いと思うよ、ユーリ」
「そうだな!」
「あははは、強いな!あはははは、いてぇ、いてぇーー!」
半場、狂気状態のザギは呆れた三人に攻撃しながらヤマトの方へ向かう。
「来たな。ファーウェル、一番の最善方は?」
『相手の攻撃を防御しながら反撃です』
これが一番方法らしい。
予想通り、ザギが攻撃を仕掛けてくる。
「この時を待ってた!」
『Roundshield』
ヤマトは空いている左手を前に出して円形の障壁を発生させ、ザギの攻撃を弾く。
それで弾かれたザギは体をよろめく。
『今です!』
ヤマトは防御した瞬間、ディバインバスターのチャージを始めていたらしく、よろめきが終わった時には完了していた。
「くらえ!必殺、ディバインバスター!!」
剣状態から放たれる蒼い奔流がザギを呑みこむ。
「あはははは!強ぇぇ、強ぇぇぇー!」
砲撃を喰らいながら高笑いする。
「オレ、フレンに見えないよな?」
「見えませんね」
「フレンという人が分からないが…」
戦闘が終わり、ザギが疲労状態になっている。
「相手、完璧に間違ってるぜ。仕事はもっと丁寧にやんな」
「この人はフレンじゃありません」
エステリーゼがユーリがフレンでないことを言う。
「そんな些細なことはどうでもいい!さあ、続きをやるぞ!」
「そりゃ、どういう理屈だよ。ったく、フレンもとんでもねえのに狙われてんな」
ユーリは半端呆れながら言う。
「ザギ、引き上げだ。こっちのミスで、騎士団に気付かれた」
青いフードをかぶり、両手には仕込みナイフを装備しており、赤眼のゴーグルの人物がザギに近づく。
バシッ
ザギが赤眼の男を斬りつけて。倒れて立つ赤眼。
「き、貴様…」
「うわはははははっ!オレの邪魔をするな!まだ上り詰めちゃいない!」
また高笑いをするザギ。
「騎士団が来る前に退くぞ。今日で楽しみを終わりにしたいのか?」
赤眼がザギに忠告するとザギはまた赤眼を何度も斬りつけて退散する。
どうやら、落ち着いたらしい。
「…女神像の話にかけておいとまするか」
「あの、ユーリさん」
「わかったよ。ひとまず三人で城の外まで一緒だ」
「はい、あのわたし、エステリーゼっていいます」
「まだ俺の自己紹介が完全にしていなかったな。俺は一条寺ヤマト。ヤマトと呼んでくれ。こっちは相棒のファーウェル。俺の剣だ」
『』
ヤマトとエステリーゼは自己紹介をすんだ。
「ああ、エステリーゼ、ヤマト、こっから出ようぜ」
エステリーゼは何かを見る。
「待ってください、ドアを直さないと…」
よく見たらドアが取れており、エステリーゼはそれに気づいた。
「そんな事している場合じゃないでしょうが」
ヤマトとユーリは呆れる。
「でも…」
「しゃあねぇな。待ってな」
ユーリとヤマトはドアの修復作業をした。
「さ、行くぞ」
三人はひとまず、女神像のある部屋まで目指すことにする。邪魔をする騎士を蹴散らしながら。
T字路に出た三人。辺りは煙に包まれている。騎士団も駆けつけている
「なんだ?この煙は」
「…さっきの連中のせいか、これ…?オレのせいとかになってねぇよな」
「ケガ人が出てなければいいけど」
心配するエステルに
「騎士団も自分たちの身くらいはちゃんと守ってんだろ」
ユーリが言う。
「まぁ、自分の身は自分で守れだもんな。ん?」
ヤマトが音を聞き分けると聞き覚えのある声だった。
「ユーリ・ローウェル!どこに逃げおった!」
「ほら、元気なのが来たぞ。この声、ルブランだな」
ユーリ逮捕に燃えるルブランの声だ。
「あの…お知り合いなんですか?」
エステリーゼがユーリに質問すると
「ま、ちょっと前にな。…と、そんなことより急ぐぞ」
「その通りだったな。ユーリの言う通りだ」
ヤマトも納得し、先に進もうとするとエステルがよろめいた。
「その目立つ格好も、どうにかした方がいいな」
「確かに…それじゃ格好の的ですよ」
ドレスが派手なので外に行っても直ぐに騎士団にばれてしまう。
「着替えならこの先のわたしの部屋に行けば…」
「んじゃ、それでいこう」


エステリーゼ私室前
「ここが私の部屋です。着替えてきますので少し待っていてください」
エステリーゼ私室に着いた三人。まぁヤマトは飛ばされた先が彼女の部屋だったので知っている。
「わかった」
「手短にね」
と言い、エステリーゼは部屋に入る。
ヤマトは壁にもたれて座りファーウェルのチェックをし、ユーリは辺りを見ていたが、彼女の私室のドアへ近づこうとする。
「念のため」
左手に持っていたのはサーベルである。
「心外だな。覗くわけないだろ」
(一瞬、行こうとしたくせに)
ヤマトは少し苦笑しながらカートリッジを生成する。
「フレンから『あったら用心するように』って言われてますから」
と告げてドアを閉めた。
「余計な事吹き込みやがって」
苦笑しながら
「フレンという人はエステリーゼを心配しているんだよ」
「どうだかな。後で聞かせてくんない?あんたの事とか」
ユーリはヤマトのことが聞きたいと要求すると
「余計な詮索はするな、と言いたいところだけど、話すことがいっぱいあるから後でな」
その言葉でユーリが同意する。
しばらくすると
「お待たせしました」
エステリーゼである。まるでイメチェンしたかのようだ。
「あ、あの…おかしいです?」
「…いや、似合ってねえなと思って」
「似合っていますよ、姫」
意見が分かれるユーリとヤマト。
「そうでしょうか?」
とまだ疑問を持つエステリーゼだが、ユーリに近づき、右手を差し伸べると
「何、これ?」
「よろしくって意味です」
握手をするユーリとエステリーゼ。続いてヤマトにも握手をする。それまたヤマトとユーリも握手。
「時間がない、急ごう」
「はい!」
ヤマトが行くぞというとエステリーゼが元気に返事した。



女神像の部屋
「ふーん…これか」
透き通る材質でできており、特殊な形状な剣を持っており、大きな翼がある女神像。
「この像に何かあるんです?」
「秘密があるんだと」
ユーリが適当にいう。
「一見、どこから見ても何も変わらない変哲な女神像だけと…」
「動かしたら秘密の抜け穴があるとかな」
ユーリがジョークで言うと「まさか…」とエステル。
「やってみる価値はあるんじゃないの」
物の試しにヤマトが女神像を手前に引くと
「ウソだろ!?」
「まさか、本当に…」
「うわ、本当にありやがった…」
噂が本当で三人は拍子抜けをする。
「もしかして、ここから外に?」
「保障はない。オレは行くけど、どうする?」
「俺は行くさ。姫は?」
ヤマトも行くと決めている。残るのはエステリーゼだ。
「…行きます」
「なかなか勇気のある決断だ。しかし、あのおっさん、まじかよ。見た目通り、胡散くせえな」
ユーリとヤマトが進もうとするとエステリーゼがユーリを止める。
「どうした?やっぱりやめんの?」
「いえ、手、怪我してます。ちょっと見せてください」
エステリーゼがユーリの左手に治癒術をかける。すると左手の怪我が消えていく。
「どれ俺も」
ヤマトも見様見真似で少し破損したバリアジャケットにファーウェルを当てる。破損がなくなっているのではないか。
『グレイト!!』
「マジかよ!?見様見真似でやったんだが」
ヤマトは剣と魔法のファンタジーな世界に来ていると確信した。元の世界は魔法で充実しているが、ここでは魔物や村、街などがある。
「ん?」
ユーリはエステリーゼの左手にあるブレスレット?らしき物を掴むと
「きゃあっ!」
「あ、悪い…きれいな魔導器(ブラスティア)だと思ったら、つい、手が」
ユーリは適当にいい訳をする。
「本当にそれだけです?」
(魔導器?聞き慣れないな。姫のブレスレットやユーリのブレスレットみたいなものが魔導器なのか?)
ヤマトは少し悩む。
「ほんとにそれだけ。手、ありがとな」
ユーリはエステリーゼに礼を言う。
「い、いえ、これくらい」
「ほら、行くぞ」



ザーフィアス用水路
梯子から降りると数匹のねずみらしい動物がいた。ねずみにしては丸々していて、よたよたしている。
「ここにも魔物がいやがるな…」
「魔物?」
「これが魔物…」
ヤマトはまさにファンタジーな世界に来ていると確信を高めた。魔物を見るのは初めてらしい。
するとねずみの魔物がこちらに向いた。
「…っと、ちゃちゃっと片付けますか」
「ユーリさん、前からも!」
前方にも同じ魔物が出てきた。
「ち、厄介だな」
ユーリはコンパクトソード、エステリーゼはサーベル、ヤマトはファーウェルのソードモードを構える。
魔物の名はラトラト。ザーフィアス用水路に住みかとしているねずみ。
数は多くて、群れにまたがって行動しており、大中小というサイズだ。
一匹の能力は高くないらしく、三人でも簡単に倒せた。
「楽勝!」
「いっぺんに襲われた時はどうなるかと思いました…」
快勝そうなヤマトとは裏腹にエステリーゼが少し落胆している。
「敵は各個撃破が戦闘の基本だけど、たまにゃこういうのもある」
「それじゃ集団戦闘は避けた方がいいな」
ヤマトが要は集団戦闘を避けて進めればいいと思ったが
「少ない敵を相手にして確実に倒すか、いっぺんに多くの敵を薙ぎ倒すか、それは好みによるけどな」
「ユーリさんはどっちなんですか?」
エステリーゼがユーリに自分のスタイルについて問うと
「どっちでもいいだろ。さ、急ぐぜ」
と急ぐばかりに適当にいいながら、ヤマトも階段を下りて行く。
「あ、ちょっと…待ってください」
エステリーゼも急ぐように降りて行く。
用水路の構造はシンプルで騎士団が緊急時だけしか使用しないのでねずみも住むようになったが、比較的大人しい。
「梯子だ」
暗い通路ながら、ヤマトの目はよく見える。地上への梯子だ。
三人は梯子に上り、
「うわ、まぶし!あーあ、もう朝かよ。一晩無駄にしたな。貴族街に繋がってんのか」
ユーリは太陽の光を手で防ぐ。
出たのは帝都の貴族街の無人の屋敷前だった。
時間はもう夜が明けていて、朝になっている。
「地上か…これは何かな?」
ヤマトは上を見上げると巨大な剣みたいオブジェの周辺にいくつかの魔法陣が発生しており、街全体を囲んでいる。
「結界かな?ミッドやベルカはと違うけど」
『結界魔導器(シルトブラスティア)です。街を魔物から守るために作られた魔導器のようです。さっき、レディの私室の書斎で読んだんじゃありませんか』
「そうだったな」
ファーウェルが結界魔導器のことでヤマトは少しド忘れしていた。
「窓から見るのと、全然違って見えます」
「そりゃ大げさだな。城の外に来るのが、初めてみたいに聞こえるぞ」
少しはしゃぐエステリーゼを少し大げさみたいに言うユーリ
「俺だって外に出るのは初めてだよ。飛ばされたのが、エステリーゼの部屋だったからな」
「そりゃそうだったな」
納得するユーリにヤマトはユーリからずらす。
「そ、それは…」
「ま、お城に住むお嬢様ともなれば好き勝手に出歩けないか」
「は、はい!そうなんです」
適当に済ますエステリーゼ。
「ま、とりあえず脱出成功で」
ユーリが右手を上げるとエステリーゼが左手の人差し指を彼の右手のひらを突く。
ヤマトは少し安心そうに微笑し、ユーリも笑う。
「あはは」
「あ、あの、何か間違えました?」
「いや、別にな…」
一瞬、空気が凍ってしまいそうな雰囲気だったが、ユーリの行動で解ける。
「で、ヤマトやエステリーゼはこれからどうすんの?」
「俺は旅して、仲間を探しに行く。あと4人だ。魔導師で空を飛べるけど、ズルはいけないなと思う」
「フレンを追います」
「ヤマトはいいとして、フレンの行き先は知ってるのか?」
「先日、騎士の巡礼に出ると、話していましたから…」
どうやら、フレンは騎士の巡礼で行ったらしい。
「あ~あれか。帝国の街を回って、善行を積んでこいってヤツ」
「はい。だから花の街ハルルを目指します」
「俺の仲間もそこにいてくれたら幸いだけどな~」
ヤマトは少しため息をしていた。
「騎士の巡礼では最初にハルルへ行くのが慣わしですから」
「となると、結界の外か」
「ユーリさん達は結界の外を旅したことあります?」
エステリーゼが2人に質問すると
「俺はこの世界に飛ばされてたからない」
ヤマトは拒否する。
「少しの間だけならな。興味はあるけど、下町を留守にするわけにはいかないしね。オレも下町に戻るから、街の出口まで案内するよ」
ユーリは今回で懲りたらしく、下町に戻って平穏に暮らしたいのでエステリーゼとヤマトを下町の出口まで案内する。
「ありがとうございます」
「恩に着るよ」


帝都・市民街にある下町へ続く坂道
「そこの脱獄者!待つのであ~る!」
「ここが年貢の納め時なのだ!」
ユーリにとって聞き覚えのある声だった。
「ばかも~ん!能書きはいいから、さっさと取り押さえるのだ!」
シュヴァーン隊の小隊長のルブランと部下であるアデコールとボッコス。アデコールとボッコスはユーリに名前で『デコボコ』と呼んでいる。本人たちはそれを嫌っているらしい。
「ど、どうしましょう?」
「んなもん…こうするのに決まってんだろう!」
ユーリは付近に落ちている小石を拾ってはデコボコに投げつける。
「ごがっ!」
「もふっ!」
見事にクリーンヒットし、倒れるデコボコ。
「下町に逃げるぞ」
「おう!」
三人は油断している隙に下町へと逃げ込む。
「おお、ユーリ!どこに行っとったんじゃ!」
聞こえる老人の声。ハンクスという人だ
「ちょいとお城に招待受けて優雅なひと時を満喫してた」
(また、ウソを…)
冗談で言うユーリの横にいるヤマトは少し苦笑していた。
「何をのんきな…その娘さんとお兄さんは?」
「こんにちは、エステリーゼと申します」
「ユーリの友達のヤマトです」
少し困ったハンクスは
「いや、こりゃご丁寧に…いや、それよりも騎士団じゃよ。下町の惨状には目もくれず、お前さんを探しておったぞ」
ユーリは頷くと
「やはり騎士団ともめたんじゃな」
「ま、そんなことだ。ラピードは戻ってるか?」
「ああ、何か袋をくわえておったようじゃが…」
「その袋は?」
「おまえさんの部屋に置いてある筈じゃよ」
ユーリが得た戦利品はユーリの部屋に置いてあるらしい
「なら、あとで取りに行って振ってみな。いい音するぜ。モルディオも楽しんでいた」
「モルディオさんに会ったのか?」
「当人は逃げちまったけどな。アスピオって街の有名人らしいんだ」
「…逃げた?という事は、やはりわしらは騙されて…」
「ああ、家も空家だったし、貴族って肩書きも怪しいな」
「そうか…」
ハンクスは落胆した。
「水道魔導器(アクエブラスティア)も、水漏れ通りこして止まっちまったみたいだな」
「これが水道魔導器…」
ヤマトは水道魔導器を見る。噴水のような物で下町の連中はここで水を汲み上げている。今は動かす源である魔核(コア)がモルディオと名乗る者に抜き取られているので作動していない。泥水がある噴水だ。
ヤマトは手をグーにしていた。下町の連中は必死に汗水垂らして頑張っているのに水かなくては生きていかれない。モルディオのことが許せなかった。
「ああ、魔核がなくてはどうにも動かん」
「残りの水で、しばらく大丈夫だよな?」
「ああ、じゃが、長くは持たんよ。後は腹壊すの承知で川の水を飲むしかないのかの」
「騎士団は何もしてくれねえし、やっぱドロボウ本人から魔核を取り戻すしかねえな」
「まさか、モルディオを追いかけて結界の外に出るつもりか?」
「心配すんなよ。ちょっくら行って、直ぐに戻ってくるから」
「はん。誰が心配なんぞするか。ちょうどいい機会じゃ。しばらくは帰ってこんでいい」
余裕な笑みを浮かぶハンクス。
「はあ?なんだよ、それ」
「おまえさんがいなくても、わしらはちゃんとやっていける。前にフレンが言っておったぞ。ユーリは、いつまで今の生活を続けるつもりなのかとな」
「余計なお世話だっての」
フレンに呆れるユーリ。
「ユーリ・ローウェ~~ル!!よくも、かわいい部下をふたりも!お縄だ、神妙にお縄につけ~!!」
ルブラン1人でここまで来た。まぁしつこいなぁと思ったヤマトである。
「ま、こういう事情がもあるから、しばらく、留守にするわ」
「やれやれ、いつもいつも、騒がしい奴だな」
少女がハンクスの前に来て、挙手する。
「これで金の件に関しては、貸し借りなしじゃぞ」
下町の連中はやる気満々である。
「年甲斐もなくはしゃいで、ぽっくりいくなよ?」
「はんっ、おまえさんこそ、のたれ死ぬんじゃないぞ」
ユーリとヤマトは出口へ駆ける。
「あ、待ってください!おじいさん、わたしも行きます」
「あやつの面倒みるのは苦労も多いじゃろうが、お嬢さんも気を付けてな」
エステリーゼも駆ける。
ルブランも駆けるが連中に止められる。
「騎士様、噴水はいつ直るんですかい?」
「騎士だ、かっこいい~♪」
「わ~い、わ~い」
「ばあさんの入れ歯を探してもらえんかの?」
「ばかも~ん!通れんではないか!公務の妨害をするでな~い!」
三人が走ろうとすると…
前方から他の下町の連中がこちらへ駆けつけ、人ごみに呑まれる三人。
「彼女を泣かせるんじゃないよ!」
「何、勝手な事言ってんだ。…って、ちょ、押すなって!今、叩いたヤツ、覚えとけよ!」
ユーリが愚痴を言いながら、ヤマトも
「足踏んだやつ、誰だ?ファーウェルの錆にしてくれるよ!ファーウェル、大丈夫か?」
『No,problem』
「花の街ハルルに行くならほら、これ持って行きな」
ユーリに渡されたのはこの世界の地図のはずだが…
「ん?地図か…これ、道しか書いてねぇじゃん」
よく見たら自分の周囲のところしか書かれていなく、それ以外は白紙のようだ。
「仕方ないだろ。普通の人は街を離れないし、それでも作りはマシな方だよ。空白は自分で書き込んでいってくれ。まずは地図にあるデイドン砦に行くといい」
ようやく人ごみから脱出することができた三人。
「ユーリさんはみなさんに、とても愛されているんですね」
「冗談言うなよ、厄介払いが出来て、嬉しいだけだろ?」
皮肉そうに言うと、ユーリの右手には金貨が詰まった小袋がある。
「誰だ!?こんなの投入れたの!こんなの受け取れるか」
「ええ~い!待て~!どけ~い!」
ルブランが人ごみの中を進む。
「げっ…しょうがねぇ、いったんもらっとくか」
食べると傷が癒されるアップルグミ4個と食べると精神力が落ち着くオレンジグミ4個と食べると生命・精神力両方を回復するミックスグミ4個とパンとモチモッチン粉の食材各5個をもらい、
この世界の通貨である1,000ガルドも貰った。
人ごみを脱出したルブランは尚も3人を追い続けるが、一匹の犬に阻まれて、倒れる。
「な、何事だ!」
「ラピード…狙ってたろ。おいしい奴だな」
「犬?」
「ラピードって犬のことだったのか」
「じゃ、まずは北のデイドン砦だな」
「え?あ、はい!」
「どこまで一緒かわかんねえけど、ま、よろしくなエステル、ヤマト」
「こちらこそよろしくな!ユーリ、エステル」
ユーリとヤマトはエステリーゼのことを略したかのようにエステルという。
「はい!、エステル…エステル…こちらこそよろしくお願いします、ユーリ、ヤマト!」
「しばらく留守にするぜ」
「行ってきます」
三人と一匹は下町を後にした。


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