ケンターチ3

Last-modified: 2021-05-17 (月) 22:23:31

公正

「何をすべきかは分かっている。そしてそれを実行するのが私だ」――ヤーダーム4、ケンターチ3のタイタン

「今度はどうだ?」

「反応はありません」

ヤーダーム4はゴーストを見上げた。「本当か?」

「もちろんです。少なくとも付近にベックスはいません」

「それなら――」

「彼らは退却したようです。彼らの目的は何だったのでしょう?」

ヤーダーム4は不満げな様子で崖の上から石を蹴り飛ばした。「おいおい。それだけのセンサーがついてるって言うのに、奴らの信号を全く受信できないのか?」

ヤーダーム4のゴーストは曖昧に返事をするように、空中で頷いた。「私は――」

「心配するな。別に嫉妬はしていない」

「本当ですか?」ゴーストが驚いたように言った。

「まったく、お前は本当に人間のことを理解してないようだな」

ヤーダーム4は辺りに視線を移したゴーストを観察した。言い訳を考えているのだろう。

「おい、もういい。今はそれどころじゃない。とにかく援護を頼む。チームの動的な部分の管理は任せてくれ。レッカナは言ってみれば船長だ。だが優れた船であるケンターチには帆が必要だ。帆がなければどこにも行けない」

「あなたがその帆ですか?」

「その通り。碇でもあるな」

「分かりました」とゴーストは言うと、シェルを回転させてその比喩の解読に取りかかった。「リスボン13は何ですか?」

「舵だ」

「船の… 舵? 意味が分かりません」

「舵は操縦装置につながってる。船に舵がなければ、船長は船を操縦できない。つまり船は海で途方に暮れることになる」

「つまり、彼がいなければあなたは迷子になると?」

「迷子? いや。自分たちがどこにいるかは理解できる。どこにたどり着くか分からなくなるだけだ」

「なるほど。それは… 深いですね。ところで、なぜそんなに船に詳しいのですか?」

ヤーダーム4は肩をすくめた。「さあ。ずっと昔から知っていることだ」

「それで… 本当に嫉妬していないのですか?」

「黙れ。本当に人間のことが分かっていないな」

公正 2

「大義のためとお前は言う。だがお前は一体何と比べて義の大小を判断している?」――ケンターチ3のハンター、リスボン13 [#r65d60b6]

彼女が話し始めた時、リスボン13はすでに立ち去ろうとしていた。

「お前は彼女を信用していない。私には分かる」

彼はつまづきそうになりながらも、足を速めた。

レッカナには多くのものが見えた。初めて彼女に出会った時も、その能力に彼は驚いた。彼の欠点、弱点、罪、そして後悔まで全てを見通すように、彼女は決して視線を逸らさなかった。

「彼女を信じる必要はない。俺はお前を信じている」

「それで十分だと?」

「もちろんだ」

それは事実だった。これからもきっとそうだ。その真実に彼は安堵した。彼らの危険に満ちた人生の曖昧さと混乱を切り離したのはその1本の剃刀だった。彼女は自分が望むものを知っていた。そんな彼女に側にいることを望まれたのであれば、これほど名誉なことはない。

彼女は任務のことを考えながら、彼の後に続いた。

「さて、のろま。一緒に来るか?」

「もちろん」

リスボン13は足を止めて彼女を待った。彼は外の景色を眺めた。恐ろしい光景だが独特の美しさがある。レッカナが彼に追いついた。

「変な感じだ。まるで鏡の向こう側にいるみたいだ」

「そうだな」

彼女の瞳は青く輝いていた。彼女の能力を知る前、それが最初に彼が気づいたことだった。その瞳の奥で何を考えていたのだろう。

彼女はこの任務についてどこまで知っているのだろうか。そしてどこまでこちらに伝えているのか。ブラックガーデンの真実を調べているクリプトクロノはどんな結論を導き出すのだろうか。

だが同時に、それが重要な問題ではないことに気づいた。彼女が答えを知っているなら、自分が問いを投げかける必要はない。

「お遊びで虫を撃ち始める前に、ヤーダームのところに戻ろう」

高揚

「どうだ? 私の実力が理解できたか?」――ヤーダーム4、ケンターチ3のタイタン

ヤーダーム4は腰に痛みを感じ、走ったことで足もズキズキしていた。だが今や、この不自然な谷で彼らの脅威となるものは存在しない。仲間を見渡すと、同じように辛そうな表情をしていた。冗談をいったところで、特に効き目はなさそうだ。彼らを怒らせるようなことを言う必要があった。

「奴らの力を見誤ったな」とヤーダーム4は言った。

リスボン13は素早く振り返った。だがレッカナがリスボン13の腕を引き止めた。

良いぞ、とヤーダーム4は心の中で思った。彼女はしっかり手綱を握っている。これはヤーダーム4の中に自然に湧き上がってきた考えだ。だから彼は何も言わなかった。

「確かに」とレッカナは言った。「ただおかげで展望が見えてきた」

「展望?」何とも馬鹿げた話だ。疲れ切ったヤーダーム4はあくまでも怒ったふりをしていただけだったが、今では本気で憤りを感じていた。それでも、レッカナは意図もなく口を開くタイプではなかった。「その展望とやらは命をかけるほどのものなのか?」

レッカナとリスボン13の間で何らかの意思疎通が交わされた。彼女は答えなかった。そしてリスボン13はいつものように、彼女に代わって述べた。「あの防衛は常軌を逸していた」確かにそれは間違いなかった。「中継装置に拘束用の鎖。エンジェリック。ベックスはよほど俺たちを追い出したいようだ。つまり奴らはここを自らの弱点だと思っている」

彼女の顔色が多少良くなってきたことにヤーダーム4は安堵していた。一方でリスボン13は胸を張っていた。その様子はまるで――

「そう、弱点だ」とヤーダーム4は言ったが、その言葉に大きな意味はなかった。彼の口からさらに言葉が発せられた。「奴らの一番の弱点かもしれない」

ヤーダーム4は驚きのあまり口を閉じた。その意見は間違っていなかった。彼が絶対にそんなことを口にしないというわけでもない。ただ… 彼はそんなことを言うつもりはなかった。

「そう。だから私たちは――」とレッカナが話し始めると、リスボン13は手に入れた武器を構え、辺りを見回した。

ヤーダーム4の体が揺れた―― まるで睡眠時痙攣だ。もう疲れは感じなかった。彼も銃を構えた。「今のは何だ? どこからだ?」

レッカナも加わり、未知の存在に備えるため防御態勢を取った。肩をヤーダーム4に寄せながら、彼女は銃を構えた。「私には何も聞こえない――」

「お前だ。お前からだ。何せお前は英雄だからな」

悟り

「今やベックスでは我々を止められない。誰にも不可能だ」――ヤーダーム4、ケンターチ3のタイタン

ヤーダーム4は体を翻し、洞穴を見回した。

「聞こえたか? 一体何者だ?」ヤーダーム4は声を押し殺して言った。

「聞こえた」とレッカナとリスボン13は同時に言った。彼は身震いした。彼らに聞こえたということは、自分の心の声ではないということか?

3人のガーディアンたちはゴーストを呼び出した。

「ゴースト?」ヤーダーム4が最初に聞いた。「何がどうなってる?」

仲間がゴーストたちと話し始めたので、ヤーダーム4は歩いて距離を取った。

「何をお探しですか?」ゴーストが質問した。

「何でもいい。全部だ。私は… いや… 私をスキャンしてくれ。何か、誰かを探せ」

「なるほど。分かりました…」ゴーストは理解しないままに、ひとまず命令に従った。「それで、ええと、何を探せば――?」

ヤーダーム4が見ていると、ゴーストのスキャンが突然止まった。そしてゴーストが音を立てて地面に落下した。

ヤーダーム4が拾い上げたゴーストから、光が消えていくのを感じた。

「ヤーダーム、リスボン、大丈夫?」レッカナが少し離れた場所から言った。

「ああ、問題ない」だがヤーダーム4は動揺していた。彼は状況が飲み込めなかった。

権勢

「自分の立場は理解している」――ヤーダーム4、ケンターチ3のタイタン

ヤーダーム4はリスボン13が考え込む様を観察した。

彼はこちらに彼女をけしかけてくるつもりだろう。

そうはさせない。

俺たちは彼を受け入れた。そして彼は俺たちからの贈り物を受け取った。だが今では俺たちを恐れている。これが正しいことと言えるのか?

答えは否だ。だが彼は昔から変わり者だった。

そんなことを考えているとヤーダーム4は体に驚くほど温かみを感じた。リスボン13は彼の友人だった。

「俺たちはこんなことのためにここまで来たわけじゃない」とリスボン13が言った。

「当然だ。こんなこと誰が予想できる?」レッカナが口を挟んだ。「でもこうなってしまった以上、当初の任務の内容に何の意味がある? こちらのほうがはるかに重要だ」

「おまけに素晴らしい。この素晴らしい感覚を忘れるな」とヤーダーム4は出し抜けに言った。彼は、「素晴らしい」以上に適した深みのある言葉で表現しようとしたが、リスボン13がそこに割って入った。

「だがこの――俺たちに与えられた力は――間違った側からもたらされたものだ」

レッカナは彼の方を見ることができなかった。「私には分からない」

分からないとは何だ? それに何の意味がある? 何によってもたらされたかがそんなに重要か?

「イオのことを覚えているだろう」とヤーダーム4は進み出て言った。「俺たちは貨物コンテナの中に閉じ込められ、四方からファランクスが近づいてきていた。そしてお前――お前だ。お前は背面に開いていた小さな穴から外に出て全力で逃げた。あの時はお前に見捨てられたかと思った」

「そんなことをするわけないだろ」とリスボン13は吐き捨てるように言った。

本気で言っている。いいことだ。

「分かっている」とヤーダーム4は続けた。「全体が銃撃を受けてガタガタと揺れた。そして爆発が起こった。隙を見ながらこちらが撃ち返していると、突然、空気を切り裂くかのように、お前の叫び声が聞こえた。まるでバンシーの悲鳴のようだった。そしてお前がインターセプターを飛ばして戻ってきたんだ――サイオンが乗ったままで、おまけにサイオンの頭を使って操作してな!」

「覚えている」とリスボン13はその場から離れようとしたが、ヤーダーム4は彼を逃がさず、無視できないように話を続けた。

「そしてお前は側面から4体のファランクスの間を走り抜けた。それから――レッカナ、お前も覚えているだろう?」

「忘れられるはずがない」

よし。覚えていて当然だ。

「インターセプターを飛ばしながら次々とファランクスのシールドの間を移動し、その爆発をも乗りこなした。そして奴らの後ろに着地した瞬間、ドカンだ! あんな美しい光景は初めて見た」

リスボン13は足を止めると、ヤーダーム4と視線を合わせた。

今だ。流れを変えるなら今しかない。

「今もその時と同じだ。俺たちは同じことをやっている。この宇宙はあのコンテナみたいなものだ。シティ、バンガード、そしてトラベラー――どれも同じ箱の中に入っている。俺たちは今、その後ろの穴から抜け出したばかりだ。そこにはインターセプターがあり、しかもサイオンの姿はない」

リスボン13は目を細めた。彼が思いを巡らせている!

「ただこの比喩はここで少し輝きを失う。なぜなら1台のインセプターの代わりに、そこにはお前のインセプターと、私のゴリアテ、そしてレッカナのスレッシャーがあるからだ。これだけの戦力が揃っている状況で、この戦いはどうなると思う?」ヤーダーム4は勝利を確信し、そこで言葉を止めた。自分のファイアチームに対する敬意と愛で、今にも呼吸困難に陥りそうだった

リスボン13は口を歪めた。ヤーダーム4は目に見えるほどの変化を感じていた。その心の瞳の中で、舵が激しく無軌道に回転しているのが見えた。

「不恰好な戦いになるだろうな」うなるようにリスボン13は言うと、背中を向けた。

誘惑

「これが間違いなら、私は正しさなどいらない」――ヤーダーム4、ケンターチ3のタイタン [#fccc4178]

「こんなはずじゃなかった」とレッカナは困惑した様子で言った。

「まだ終わっていない。勝ち目はある」レッカナは納得していない様子だった。ヤーダーム4は方針を変えた。「いいか、リスボンはためらっている。新しい力を使うのを恐れているんだ。だから真正面からぶつかる。数も力も、有利なのはこちらだ」

「ダメだ」

「ダメ?」

「リスボンは恐れていない。彼は怒り、追い込まれ、裏切られたと感じている」とレッカナは言った。彼女の目には光が戻り、新たな奇襲を警戒して辺りを見回している。

「裏切られた?」馬鹿げた話だ。「裏切ったのはあいつだ!」

「そうだ。ただ彼はもう私たちのことを友人だとは認識していない」

「なるほど、奴にも言い分があるわけだ。なぜ急に考えを変えたんだ? 目的は同じだったはずだ。それが今じゃこの有様だ!」

レッカナは自身を見つめ、彼に目線を戻した。「私たちの選択は正しかったのだろうか?」

レッカナが自身を疑っている? 明らかに混乱している。彼女には集中してもらう必要がある。

「当たり前だ。シティに戻って、お前の指示のもとで学んできたことを共有する。ただその前に、ブラックガーデンから脱出しなくては。いいか、リスボンと戦う必要はない。だが衝突を避けるには、あいつの考えを知る必要がある」

レッカナはうなずいた。

「よし。あいつは背後から攻撃してくるか? それとも真正面に立ちはだかるか? ベックスがまた襲ってくるのを警戒すべきか?」

レッカナは目を閉じた。呼吸を落ち着かせている。ヤーダーム4は周辺の警戒を続けたが、それでも時折レッカナを振り返り、まぶた越しの目の動きを確認した。

数分後、レッカナの呼吸が速まり、目を開けた。

「ダメだ。私たちの道を紡ぎ出す糸の数があまりにも多すぎる」

「問題ない。風の吹くままにやるだけだ」とヤーダーム4は呟いた。

「え?」

「俺たち自身で進むべき道を決めるしかないと言ったんだ。自分たちの物語は自分たちで作るしかない」

ヤーダーム4は作り笑顔を浮かべ、レッカナは彼が最初に言った言葉が聞こえなかったふりをした。