ファルミネイター

Last-modified: 2021-05-13 (木) 21:51:59

1.
「純粋な知覚エネルギーを持った生物を、忠誠を誓うように説得できるのか? 故郷を去る自由は、誰にとっても魅力的なものだ」――カバルの皇帝、カルス

カルスは目の前で音を立てているアークの嵐に向かって手を振った。その巨大なエネルギーが振動し、部屋の中心にある黄金の紡錘につなぎ止められた。
「お前は素晴らしい」
アークボーンの戦士に向かってカルスは言った。その目はちらつく光に揺れながら、何も映し出していなかった。「お前なら素晴らしい影になれるだろう」
壁のパネルがカバルの言葉を描いて燃えた。『小さい船だ』
皇帝は反り返って大笑いした。「お前の種族の星間コンジットに比べれば、どんなものも小さく見える。だが、リヴァイアサンの力は巨大だ。保障する」
『お前に仕えてやる。だから、仲間には手を出すな』
「もちろんだ。ワシが欲しいのはお前だけだ。お前はただいるだけで肉を引き裂いてくれる」
カルスが手を動かすと、金属の外殻が頭上の暗闇から下がっていった。こうして、ファルミネイターは新しく仕えることになったこの旗艦の甲板を自由に歩き始めることとなった。
2.
「ワシとカウンシラー達がこのファルミネイターの拘束アーマーを完成させられる前に、彼女の存在そのものが五感を襲った。彼女は素晴らしかった」――カバルの皇帝、カルス

政治家サウールは逃亡していた。そして、ファルミネイターが後を付けていた。彼は皇帝に対するクーデターに携わった外交官だった。ファルミネイターは詳細については知らなかった。彼女にとって、この有機体の社会力学は理解が困難で、彼女自身との関連性も見出せなかった。
サウールは彼女がまだそこにいることを知らなかった。彼女を引き離したと思っていた。だが、船生まれの彼女は二足歩行動物がめったに上を見ないことを知っていた。
彼女は標的の遥か頭上に潜み、アーマーの特定のリミッターを無効にしてアークを自由に流し、空高く舞えるようにした。
下にいる政治家は明るく照らされた道を選択した。その道を左折すると行き止まりだ。そこで彼女は降下した。
3.
カウンシラー達がこのファルミネイターが星間飛行船を脱出する方法を考案し、彼女の種族は憤慨した」――カバルの皇帝、カルス

黒焦げとなった政治家サウールが消えてなくなる前に、いくつか明らかになったことがある。サウールはこのファルミネイターのことを、その容姿から「光の戦士」、「ストームマスター」の1人と勘違いしていた。彼女はその「光の戦士」に会ってみたかった。自分と似ている二足歩行動物など、これまで見たことがなかった。サウールが彼女達を滅ぼすために軍を動かしていると言った時、彼女は少し後悔した。
彼女は他の報告もカルスに送った。レッドリージョンの兵器庫の位置と艦隊の動きについてだ。カルスにとって重要なのは1つだけだった。カルスの留守中に軍が実権を手に入れた今、カバルの世界のあちこちで軍のパレードが行われる。辞任日となれば、神話のプラエトルに敬意を表し、ソル星系の端で開かれる式典に、必ずガウルの旗艦が姿を現すはずだ。
そして、その式典で影がドミヌスを倒すのだ。
4.
「彼女は何者だった? 光の生物か? それともスペクトルの反対側か? カウンシラーは分析を終えられなかった」――カバルの皇帝、カルス

ファルミネイターは、戦いの準備をしている他の影の様子がおかしいことに気が付いた。
カルスの執行部隊は複数の種族で構成されていたため、いつも怒鳴り合いをしていたが、ドミヌス・ガウルを抹殺するという任務を与えられたことによって、一夜にしてその口論が収まった。
カルスはこの兵士達を、賄賂を与えたり、故郷への富や資源を約束することで集めてきた。そして、その誰もがこの任務で命を落とすことを予感していた。レッドリージョンの力がどんどん大きくなっている。それに気づいた時、彼らの心がある意味1つになったのだ。
ファルミネイターには理解できなかった。いや、興味さえもなかった。カルスが星間コンジットのアークボーンをそっとしてさえいれば、彼女はリヴァイアサンでの仕事を全うし続けるだけだ。皇帝の敵を、破壊するだけだ。