今日100

Last-modified: 2019-05-23 (木) 13:03:38

string(56671) "â–¡2043å¹´7月15æ—¥  2043å¹´7月15æ—¥。  ゲーム史に残る名機が世に生まれて60年経った年に、一つのゲームが発売された。  ゲームのタイトルは<Infiniteインフã‚£ニット Dendrogramデンドログラム>。  製作者がどのような意図を込めたのか、「無限の系統樹」と名づけられたそのゲームはダイブ型VRMMO(バーチャル・リã‚¢リテã‚£・マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン)――仮想のゲーム世界にプレイヤー自身がå…¥り込んでプレイする……夢のゲームであった。  人がダイブ型VRMMOに夢想した期間は半世紀近くになる。  2000年代、ダイブ型VRMMOは漫画やã‚¢ニメーション、あるいはゲーム内ゲームの媒体で取り扱われ始めた。  それら創作物の中でダイブ型VRMMOは夢のゲームとして待ち望まれ、ヘッドセットにより視覚と聴覚の没å…¥感を高めた擬似VRは2010年代ごろから発表された。  そして五感全てを網羅する完全なダイブ型VRMMOは、2030年代から少数ではあるが発売された。  少数なのは開発難易度の高さと莫大な開発費が理由であり、先進的技術力と資金力のあるメーカーしか手を出せなかったからだ。  あるいは手を出しても完成にまで至らなかった。  いずれにしろ、ダイブ型VRMMOは少数しか世に出なかった。  そして、完成して世に出た少数も……すぐに落胆された。  最初のダイブ型VRMMO<NEXT WORLD>は、発売と同時にユーザーの失笑を買った。  「現実と寸分変わらぬリã‚¢リテã‚£」を喧伝していたが、リã‚¢リテã‚£に乏しく、五感が常に違和感に苛まれる拙い再現力だった。  「これぞグラフã‚£ックスの新世代」と謳いながらも、実際には従来のゲーム機と大差ないCGだった。  「ダイブすればåˆ¥ä¸–ç•Œã«æ²¡é ­ã§ãã‚‹ã€ã¨ã‚‚ã‚ã£たが、実際には普通のゲームと同じく現実の環境に左右されてしか遊べない。  極めつけは「安全安心の設計」を保障しながら、プレイ中やプレイ後に健康を害して病院に運ばれる被害者が続出した。  これらの事情から、最初のダイブ型VRMMO<NEXT WORLD>は売上と評判、さらには健康被害者との訴訟でも大敗し、開発会社は倒産した。  <NEXT WORLD>についてあるレビュアーは次の言葉を作品の感想とした。 「夢のゲーム機は作れたが、夢を作ることは出来なかった」、と。  それからもいくつかダイブ型VRMMOは開発されたが、成功と言えるゲームは一つも作られなかった。  <Infinite Dendrogram>が発売されるまでは。  <Infinite Dendrogram>は、発å£²ã¾ã§ä¸€åˆ‡ã®æƒ…å ±ãŒå‡ºãªã‹ã£た。  人知れぬまま迎えた発売日に、全世界のTVメディアやネットワークで発表を行ったのみだ。  発表で<Infinite Dendrogram>のメーカーはå£²ã‚Šã¨ãªã‚‹å››ã¤ã®è¦ç´ を提示した。  一つ、完全なるリã‚¢リテã‚£を保障。  五感を完璧に再現する。ただし痛覚はONOFFが可能なので安心してプレイいただける。  二つ、単一サーバー。  仮に億人単位でも全プレイヤーが同じ世界で遊戯可能。  三つ、個別選択可能なグラフã‚£ックス。  現実視、3DCG、2Dã‚¢ニメーションの中からどうやって世界を見るかを選択できる。  四つ、現実時間とゲーム時間の乖離。  ゲーム内では現実の三倍の速度で時が進む。 ã€€ç™ºè¡¨ã¯æƒ…å ±ã‚’ç›®ã«ã—ãŸä¸–ç•Œä¸­ã®ãƒ¦ãƒ¼ã‚¶ãƒ¼ã®åº¦è‚ã‚’æŠœã„ãŸã€‚  そんなことが可能なのか、と。  どれだけの予算と技術を使えば実現できたのか、と。  そして失笑した。「誇大広告を出すならもう少しリã‚¢リテã‚£を出せ」、と。  全世界同時中継というインパクトのある発表であったが、内容があまりにも荒唐無稽だった。  そのため、元々ゲームに触れない層も含め99.9998%の人々は信じず、嘘と決めつけてゲームを買おうとはしなかった。  しかし、残る0.0002%の人々は「嘘みたいだけどæœ¬å½“ãªã‚‰â€¦â€¦ã€ã€ã€Œè©¦ã—ã¦ã¿ã‚ˆã†ã€ã€ã€Œä¿ºã¯ä¿¡ã˜ã‚‹ã€ã¨ã‚²ãƒ¼ãƒ ã‚·ãƒ§ãƒƒãƒ—ã®åº—é ­ã«èµ´ãã€è³¼å…¥した。 ã€€å°‚ç”¨ã®æ©Ÿå™¨ã®ä¾¡æ ¼ãŒæ—¥æœ¬円にして1ä¸‡å††å‰å¾Œã¨ã„ã†ã€ç ´æ ¼ã‚’é€šã‚Šè¶Šã—ã¦æš´æŒ™ã¨è¨€ã†ã»ã‹ãªã„å€¤æ®µè¨­å®šã‚‚å¾ŒæŠ¼ã—ã—ãŸã€‚  彼らは「ま、嘘でも一万円だしな」とゲームを購å…¥し、プレイした。  そして彼らは<Infinite Dendrogram>が本物であると知った。  リã‚¢リテã‚£に呆然とし、グラフã‚£ックに歓喜し、ゲームからログã‚¢ウトしてから時計を見て驚愕した。  全てが真実だった。  夢のゲーム機が現実となった瞬間だった。  発売日の翌æ—¥、世界が発売日プレイ組の口コミに騒然とする中、メーカーから第二の発表があった。  それはゲームの内容についてのもの。  発表のプレゼンターであった男性、<Infinite Dendrogram>の開発責任者を名乗るルイス・キャロルはTVやネットの画面越しにこう言った。 「昨æ—¥ã¯ä¸»è¦ç´ ã®èª¬明で終わってしまいましたので、本日はゲームシステムを説明させていただきます」 「æ—¢にプレイを始められた方はお気づきと思われますが、<Infinite Dendrogram>にはある特徴があります」 「それは真の意味で無限の可能性とオンリーワンを提供するというものです」 「数千を超えるジョブの組み合わせ、スキル構成、そしてそれらよりもなお明確なオンリーワン」 「<Infinite Dendrogram>では、プレイヤーの皆様それぞれに<エンブリオ>がプレゼントされます」 ã€Œï¼œã‚¨ãƒ³ãƒ–ãƒªã‚ªï¼žã¯çš†æ§˜ã®è¡Œå‹•ãƒ‘ã‚¿ãƒ¼ãƒ³ã‚„å¾—ã‚‰ã‚ŒãŸçµŒé¨“å€¤ã€ãƒã‚¤ã‚ªãƒªã‚ºãƒ ã€äººæ ¼ã«å¿œã˜ã€ç„¡é™ã®ãƒ‘ã‚¿ãƒ¼ãƒ³ã«é€²åŒ–ã„ãŸã—ã¾ã™ã€ 「色違いでもパーツ違いでもなく、固有スキルも含めて真の意味で無限のパターンに」 「それこそが――<Infinite Dendrogram>です」 「そう、<Infinite Dendrogram>は新世界とあなただけの可能性オンリーワンを提供いたします」  その言葉が、ダイブ型VRMMO<Infinite Dendrogram>が一大ムーブメントとなる最後の切っ掛けだった。   ◇  □2045å¹´3月16æ—¥ 椋é³¥玲二  俺、椋é³¥玲二むくどりれいじはゲームのパッケージを前にæ­£座していた。  緊張している、自分でもそう実感できる。  我ながら大袈裟とも思うが、一年半越しでついにこのゲーム、<Infinite Dendrogram>をプレイできるのだから緊張もする。 「長い、道のりだった」  発å£²å½“æ™‚ã¯é«˜æ ¡äºŒå¹´ã®å¤ã€ã“ã‚Œã‹ã‚‰å¤§å­¦å—é¨“ã«å‘ã‘ã¦é ‘å¼µã‚‹ãžã¨æ°—åˆã‚’å…¥れたところで発表・発売されたこのゲーム。 ã€€æã‚‰ãå½“æ™‚ã®é«˜æ ¡äºŒå¹´ã€ä¸‰å¹´ç”Ÿã ã£たゲーム好き学生は俺のように絶望したはずだ。 ã€€é«˜æ ¡å—é¨“ã®ã¨ãã‚‚æ€ã£たが、どうして受験シーズンに限ってこんなに面白そうなゲームが出るのだろう、と。  しかしそれも遂に変わる。 ã€€éƒ½å†…ã®å¤§å­¦ã«ã¯ç„¡äº‹åˆæ ¼ã€‚  大学å…¥学を機に一人暮らしもスタート。  今ならば、今ならば思う存分ゲームを出来る!  引越しは昨æ—¥完了し、手伝ってくれた家族ももう帰っている。  そして今æ—¥の朝、開店直後の時間帯にゲームショップに直行し、<Infinite Dendrogram>を購å…¥した。  発売から半年間は本当に品薄でプレミã‚¢ä¾¡æ ¼ã‚‚ã¤ãæ”¾é¡Œã ã£たらしいけど、さすがに一年半も経った今は普通に買えた。  ちなみにうちの兄は発売日に買っていた口だ。  この一年半、「早く一緒にデンドロしようぜー」と電話してくる兄が恨めしいやら羨ましいやら……。  だがそんな思いも今æ—¥までだ! 「……いざ!」  意を決し、パッケージを開ける。  箱の中から現れたのは、ヘルメット型のゲーム機と解説書だった。  解説書を読んでみると、ヘルメットを被りスイッチを入れるとゲームの世界にはå…¥れるらしいと分かった。 ã€€ä»–ã«ã‚‚æ˜ åƒã‚„æ™‚é–“ã«ã¤ã„ã¦è‰²ã€…ãªèª¬明が書いてあるが、凄いとしか言いようがない。  本当、どうしたらこんなゲームが作れるのだろう。今の技術水準より十年二十年単位でレベルが高い気がする。  しかし物怖じもしていられない。  è§£èª¬æ›¸ã«ã‚ã‚‹ã¨ãŠã‚Šã«ãƒ˜ãƒ«ãƒ¡ãƒƒãƒˆã‚’é ­ã«è£…着し、推奨姿勢として描かれている図に従いベッドの上で仰向けに寝転がる。  そして俺はゲームのスイッチをå…¥れた。  瞬間、視界が暗転する。 â—‡ 「はーい、ようこそいらっしゃいましたー」  気がつくと自室ではない空間に俺はいた。  部屋の内è£…ã¯æœ¨é€ æ´‹é¤¨ã®æ›¸æ–Žã‚’æ€ã‚ã›ã‚‹ã€‚  目の前では見知らぬ猫が、作りの良さそうな木製の揺椅子に座りながら俺に話しかけている。  ……猫? 「お邪魔します」  戸惑いもあるが、まずは挨拶を返してみる。 「うん、いいねー。礼儀æ­£しい人好きだよー」  猫はペラペラと日本語を話す。  しかしなぜかその語尾は常に伸びていた。 「ここはゲームのログイン画面みたいなもの?」 「大体合ってるよー。ここは入り口ー。ここで色々設定してもらってから<Infinite Dendrogram>に入ってもらうんだよー。あ、僕は<Infinite Dendrogram>の管理AI13号のチェシャだからー。よろしくねー」  管理AI……なるほど、道理でファジーな受け答えをするはずだ。  管理AIは、現行のスーパーコンピãƒ¥ãƒ¼ã‚¿ã‚’ä¸¸ã€…å·±ã®è„³ã¨ã™ã‚‹äººé€ ã®é›»è„³çŸ¥性だ。主な用途はその名の通り管理であり、一体いれば小国のデータベースやネットワークを高速、且つ完璧に管理できると言われている。  その管理AIで13号ということは、他にも12体は同じレベルの管理AIがこのゲームの管理に携わっているのだろう。 「よろしくお願いします」 ã€Œã‚ˆãƒ¼ã—ãƒ¼ã€‚ã˜ã‚ƒã‚ã¾ãšæç”»é¸æŠžã­ãƒ¼ã€‚ã‚µãƒ³ãƒ—ãƒ«æ˜ åƒãŒåˆ‡ã‚Šå¤‰ã‚ã‚‹ã‹ã‚‰ã©ã®æ–¹æ³•ãŒè‰¯ã„ã‹é¸ã‚“ã§ã­ãƒ¼ã€  猫……チェシャがそう言うと周囲の風景が一変した。  書斎から広々とした空間……どこか中世ヨーロッパ風の町並みになっている。  そこには多くの人々が歩いていたが、一定周期でその姿が切り替わっていた。  いや、姿ではなく見え方が切り替わっている。  現実に見るような姿からCGの姿に、CGからã‚¢ニメに。  ã‚¢ニメーションはレンダリングされたCGã‚¢ニメーションではなく、TVã‚¢ニメみたいだ。 「……いや、これどうやってんの?」 ã€Œè¦–è¦šã§æ‰ãˆãŸæ˜ åƒã£て結局は脳の処理を通るからねー。やりようはあるのー。という訳でこんな感じで見え方変わるんだけどどれにするー? あ、後でã‚¢イテム使えば切り替えることも出来るよー」 「そのままで」  何となくゲームにæ…£れるまでは普段どおりの見え方がいいと思ったのでそうした。  ã‚¢ニメとして見えているのに触覚があるってどういう感覚なのかも気になりはしたけれど。 「オッケー」  その言葉と共に景色は元の書斎へと戻った。 「次はプレイヤーネームを設定してもらうねー。ゲーム中の名前は何にするー?」 「レイ・スターリングで」  これは俺が以前からゲームではよく使っている名前だ。  まぁ、単に苗字を椋é³¥の英名にして、名前をもじっただけ。 「じゃあそうするねー。次、容姿を設定してねー」  チェシャがそう言うと、目の前にのっぺらぼうのマネキンと、æ²¢山の画面が現れた。  画面の中には「身長」、「体重」、「胸囲」などの言葉と共に並んだスライド式のバーや、目や鼻が収まった画面がある。 「これは……」 「そこにあるパーツとスライダー使って自分のゲーム内での姿ã‚¢バターを作ってねー。あ、僕みたいに動物型にも出来るよー」  と言われたものの……。  あまりにもスライダーとパーツが多すぎてどこから手をつけていいものか。 「ゆっくり悩んでいいんだよー。こっちは現実の三倍の時間があるからさー。……あー、でも前にログインとログã‚¢ウト繰り返しながら地球時間で一ヶ月かけて作った人いたなぁ……」  凄まじい努力と集中力だ。俺にはそこまで出来そうもない。 ã€€ãã‚Œã«ç´ äººãŒä½œæˆã™ã‚‹ã«ã¯ã‚ã¾ã‚Šã«ãƒ¢デリングが細かすぎてこのままではどうしても不出来なものになる。ゲームではなく本物の人間の顔を作れと言われているようなものだ。  ならば。 「現実の姿をデフォルトにちょっと弄るってできますか?」 「できるよー」  チェシャはフリフリと尻尾を振った。  するとマネキンだったものが俺そっくりになる。 「あとはこれをベースにいじればオーケー」 「サンキュー」  あとはわりと簡単だった。  目の色を変えたり髪を金髪にしたり、ちょっと身長足したり、他の設定をそのままに顔つきのベースとなる人種を変えてみたりする。  ……そういえばリã‚¢ルの俺の顔をã‚¢ニメやCGにするとどうなるのだろう?  ちょっと気になる。  いっそ無変更のままでログインして、ゲーム中で切り替えã‚¢イテムを手にå…¥れたら試してみるか? ã€€ã§ã‚‚æµçŸ³ã«ã‚ªãƒ³ãƒ©ã‚¤ãƒ³ã§ç´ é¡”ãƒ—ãƒ¬イはなぁ……。 「……やめておこう」  それから30分はかけて俺のキャラクターモデリングは終わった。 「完成、っと」 「オッケー。じゃあ他の一般配布ã‚¢イテムも渡しちゃうねー」  チェシャは空中に向けて肉球付きの猫の手を振った。  するとカバンが一つ、何もない空間から落ちてきた。 「これがレイの収納カバン、所謂アイテムボックスねー。中は収納用の異次元空間だからー。ついでにレイの持ち物ならå…¥るけどー、逆に言うとレイの物以外はå…¥らないからー」 「なるほど」  便利なカバンだが犯罪には使えないということだろう。 「まー、PKしてからランダムドロップしたのを拾ったり、《窃盗》スキル使って盗んだりすればいけるんだけどねー」 「…………」  何と言ったものか。 「ちなみにねー。《窃盗》スキルのレベルが高い人はこの四次元○ケットみたいなã‚¢イテムボックスの中からも盗めるからー。気をつけてねー」  異次元空間にも対応したSFチックな泥棒にどう気をつけろと言うのだ。 「ちなみにそれは初心者用だけど、他にも色々種類あるからー。盗まれにくいのとか、小さいのとか、容量が大きいのとかー」 「ちなみにこれの容量は?」 「サイズは教室一個分くらいかなー。重さは地球換算で一トンくらい?」 「結構å…¥るな。十分だ」 「商人やると足りないらしいけどねー。そういう人は買い換えるかなー」 ã€€é«˜ä¸€ã®é ƒã®ã‚¢ルバイトで見た業者の倉庫を思い出す。たしかに教室一つ分ではまるで足りないだろう。 「あ、ã‚¢イテムボックスの類は全壊すると中身ばらまかれるから耐久度には注意してねー」 「気をつける」 「次は初心者装備一式ねー。レイはどれにするー?」  チェシャは本棚から取り出したカタログを俺に見せる。  そこには色々な武具が一揃いで載っている  和装、洋装はもちろん、中華やインド、中東や南米の歴史的な衣装のようなもの、逆にSFæ˜ ç”»ã®ã‚ˆã†ãªè¡£è£…もある。 「じゃあこれで」  選んだのはインナーとジャケット、ジーンズ、そしてバンダナの組み合わせだ。  どことなく前世紀の名作RPGの男主人å…¬ã«ä¼¼ãŸæ ¼å¥½ã 。  ちょっと時代遅れだけど、兄の影響でレトロゲーもやっていた俺の好みには合致する。 「オッケー。じゃあ初期武器はどれにするー」  カタログの別のページを開く。  木刀や刃を潰した模擬剣、ナイフ、弓、スリング、杖、その他諸々の武器が載っている。 「ナイフで」  衣装に合わせた。 「オッケー。じゃあ装備と武器を……とりゃー」  気合が入っているのかいないのか分からないチェシャの掛け声と共に俺の姿は一変した。  先ほど選択した衣装に切り替わり、腰のベルトにはナイフがぶら下がっている。  おー、チェシャが用意した姿見で見るとモデリングしたキャラに中々似合う。 「そうそう、これ最初の路銀ねー」  チェシャは俺に五枚の硬貨を手渡す。それはどうやら銀貨のようだった。 「銀貨五枚で5000リルねー。ちなみにおにぎり一つで10リルくらいだよー」  そうなると1リルは凡そ10円くらいか。ならば5000リルはそれなりに大金だ。 「最初からこんなにもらっていいのか?」 「うん、そのお金がなくなる前にお金稼げるようになってねー」  以後は金銭的な支援はないらしい。  この金銭は計画的に使わねばならない。 「さて、いよいよだけど<エンブリオ>を移植するねー」 「おお、噂の」  <エンブリオ>。  それがゲームとして<Infinite Dendrogram>の最大の特徴だとは聞いている。  プレイヤーによって真の意味で千差万別化するオンリーワン。ã‚¢イテムやè£…å‚™ã¨ã„ã†æž ã‚’è¶…ãˆãŸç›¸æ£’だと聞いている。  æ—¢にプレイしている兄は「もしここまで出来のいいダイブ型VRMMOでなく、ただのMMOだったとしても、<エンブリオ>があればヒットはしただろうな」と言っていた。 「<エンブリオ>の説明はいるー?」 「折角だから聞こうかな」  固有システムのチュートリã‚¢ルは聞いておくのが正解だと思うし。 「オーケー。エンブリオは全プレイヤーがスタート時に手渡されるけれど、同じå½¢なのは最初の第0å½¢態だけー。第一形態以降は持ち主に合わせて全く違う変化を遂げるよー」  うん、それが楽しみだ。  やã£ã±ã‚Šã‚²ãƒ¼ãƒžãƒ¼ã¨ã—ã¦ã‚ªãƒ³ãƒªãƒ¼ãƒ¯ãƒ³ã®ãƒ¦ãƒ‹ãƒ¼ã‚¯è¦ç´ ã£て言葉は心惹かれる。 「千差万別だけど、一応カテゴリーはあるよー」 「あ、それは知らなかった」 ã€€ãªã‚‹ã¹ãå‰æƒ…å ±é®æ–­ã—ã¦ã„ãŸã‹ã‚‰ãªãã€‚  知るとやりたくてたまらなくなって受験投げそうだったから。  兄からも「é¢ç™½ã„ã‚ˆã€ã¨ã„ã†æƒ…å ±ã—ã‹èžã„ã¦ã„ãªã„ã€‚ã²ã‚‡ã£とすると兄も俺が受験投げるのが心配で具体的には言わなかったのかもなぁ……。 「大まかなカテゴリーで言うとー。  プレイヤーが装備する武器や防具、道具型のTYPE:ã‚¢ームズ  プレイヤーを護衛するモンスター型のTYPE:ガードナー  プレイヤーが搭乗する乗り物型のTYPE:チャリオッツ  プレイヤーが居住できる建物型のTYPE:キャッスル  プレイヤーが展開する結界型のTYPE:テリトリー  かなー」 「ほぅ」  もう今から自分の<エンブリオ>が何になるかワクワクしてくる。 「ちなみにこれらのカテゴリー以外にレアカテゴリーや、<エンブリオ>が進化すると成れる上位カテゴリーもあるからー。オンリーワンカテゴリーもあるしー。成れたらいいねー」 「そんなのもあるのか! ……あれ? それだとレアな奴になるまでキャラクター作り直しとかする人いるんじゃ」 「あー。このゲーム、キャラの作り直し出来ないんだよねー」 「え?」 「仮にもう一つ機器を買って始めても、その人は一つ目と同じキャラでログインして<エンブリオ>もそのままなのさー。なにせこっちの方でユーザーの脳æ³¢データが登録されているからねー」 「…………」  脳æ³¢データの登録。  うん、それはちょっと怖い。 「もし仮にリセットできても結局はその人のパーソナルだからねー。同じような<エンブリオ>になると思うよー」 「そういうものなんだ」 「でー。話している間に<エンブリオ>移植完了ねー」 「え? ……おわぁ!?」  気づくと、俺の左手の甲には淡く輝く卵å½¢の宝石が埋め込まれていた。 「それが<エンブリオ>ねー。第0å½¢態はそんな風にくっついているだけなのだけど、孵化して第一å½¢態になったら外れるからー」  つまり今は卵を温めているようなものか……。 「ちなみにこれ、卵のまま壊れることは?」 「しないよー。第0å½¢態で<エンブリオ>に当たるダメージは全部プレイヤーに行くからー」  あー、なるほど。プレイヤーが死んでも<エンブリオ>は無事、と。 「孵化後の第一å½¢態からは普通に傷ついたり壊れたりするけどねー。それも時間掛けて自己修復するけどー」  何となく生物っぽい。 「ちなみに卵のくã£ã¤ã„ã¦ã„ã‚‹å ´æ‰€ã¯ç¬¬一å½¢æ…‹ã«ãªã‚‹ã¨ç´‹ç« ã®åˆºé’ã«ãªã‚‹ã‚ˆãƒ¼ã€‚ãã‚ŒãŒã“ã®ä¸–ç•Œã§ã®ãƒ—ãƒ¬イヤーの証明書みたいなものだからー。じゃないとプレイヤーとの見分けつかないからねー」 「へぇ」  いやでもさすがに、人間とNPCを見間違えは……するのだろうか? ã€Œã‚ã¨ç´‹ç« ã«ã¯ï¼œã‚¨ãƒ³ãƒ–ãƒªã‚ªï¼žã‚’æ ¼ç´ã™ã‚‹åŠ¹æžœã‚‚ã‚ã‚‹ã‚ˆãƒ¼ã€‚ç”¨äº‹ãŒãªã„ã¨ãã¯å·¦æ‰‹ã«ã—ã¾ã£ておくのー。このゲームをプレイする限りはずっと一緒ですのでー。大事に扱ってくださいねー」 「ああ」  まだ俺の<エンブリオ>がどういう風に進化するかは分からないけれど……まぁ、結局はパーソナル次第って話だからなるようになるか。 「よろしくな、相棒」  もちろん<エンブリオ>から返事はなかったが、どことなく輝いた気がした。 「じゃあ最後に所属する国を選択してくださいねー」  チェシャは書斎の机の上に地図を広げる。  それは古びたスクロール型の地図だったけれど、広げ終えると変化が起きた。 ã€€åœ°å›³ä¸Šã®ä¸ƒç®‡æ‰€ã‹ã‚‰å…‰ã®æŸ±ãŒç«‹ã¡ä¸Šã‚Šã€ãã®æŸ±ã®ä¸­ã«è¡—ã€…ã®æ§˜å­ãŒæ˜ ã—å‡ºã•ã‚Œã¦ã„ã‚‹ã€‚ 「この光の柱が立ち上っている国が初期に所属可能な国ですねー。柱から見えているのはそれぞれの国の首都の様子ですー」  それぞれの光の柱の周囲には、国の名前や説明が光の文字となって浮かんでいる。  白亜の城を中心に、城壁に囲まれた正に西洋ファンタジーの街並み  騎士の国『アルター王国』 ã€€æ¡œèˆžã†ä¸­ã§æœ¨é€ ã®ç”ºä¸¦ã¿ã€ãã—ã¦å¸‚äº•ã‚’è¦‹ä¸‹ã‚ã™å’Œé¢¨ã®åŸŽéƒ­  刃の国『天地』 ã€€å¹½çŽ„ãªç©ºæ°—ã‚’æ¼‚ã‚ã›ã‚‹å±±ã€…ã¨ã€æ‚ ä¹…ã®æ™‚ã‚’æµã‚Œã‚‹å¤§æ²³ã®ç‹­é–“  武仙の国『黄河帝国』  無数のå·¥å ´ã‹ã‚‰ç«‹ã¡ä¸Šã‚‹é»’ç…™ãŒé›²ã¨ãªã£て空を塞ぎ、地には鋼鉄の都市  機械の国『ドライフ皇国』 ã€€è¦‹æ¸¡ã™é™ã‚Šã®ç ‚æ¼ ã«å›²ã¾ã‚ŒãŸå·¨å¤§ãªã‚ªã‚¢シスに寄り添うようにバザールが並ぶ  商業都市郡『カルデã‚£ナ』  大海原の真ん中で無数の巨大船が連結されて出来上がã£ãŸäººé€ ã®å¤§åœ°  海上国家『グランバロã‚¢』  深き森の中、世界樹の麓に作られたエルフと妖精、亜人達の住まう秘境の花園  妖精郷『レジェンダリã‚¢』 「おお、おおお……」  æ­£直、どこも行ってみたい。  天地はそりゃあもう安土桃山時代な雰囲気だし。  黄河は中華ファンタジーの香りがするし。  ドライフはロボとかありそうだし。  カルデã‚£ナのバザールは歩くだけで観光気分になれそうだし。  グランバロã‚¢も海が呼んでる男のロマンって感じだし。  レジェンダリã‚¢に至っては考えるまでもない。  けれど……。 「ã‚¢ルター王国で」 「オッケー。ちなみに軽いã‚¢ンケートだけど選んだ理由はー?」 「兄が待っているので……」 「あ、そうなんだ……」  ゲームを買った直後に店先で兄に電話したら「じゃあã‚¢ルター王国の首都で待ってるから」と言われた。  ……うん、待たれているから仕方ない。  ていうかあの兄はなぜã‚¢ルター王国を選んだのか。  たしかロボとか戦艦とか好きだったはずなのに、なぜドライフ皇国やグランバロã‚¢ではないのか。  まぁ、これは本人に聞くしかない。 「あとで所属国家変えられるイベントもあるから、気を落とさないでねー」 「うん、ありがとう……」  気を取り直そう。  ã‚¢ルター王国も普通っぽいけどいい国かもしれない。 「じゃあã‚¢ルター王国の王都ã‚¢ルテã‚¢に飛ばすよー」 「あ、ちょっと待った。このゲームって何を目的に進めればいいんだ?」 ã€€å­ä¾›ã®é ƒã‹ã‚‰éŠã‚“ã§ã„ãŸã‚²ãƒ¼ãƒ ã§ã¯ã€ã‚ªãƒ³ãƒ©ã‚¤ãƒ³ã‚²ãƒ¼ãƒ ã§ã‚‚é‚ªç¥žã‚„魔王を倒すのが設定上の目的だった。  このゲームもそうなのだろうかとチェシャに尋ねると……。 「何でもー」  と、返された。 「何でも、って?」 「だから、何でもー。英雄になるのも魔王になるのも、王になるのも奴隷になるのも、善人になるのも悪人になるのも、何かするのも何もしないのも、<Infinite Dendrogram>に居ても、<Infinite Dendrogram>を去っても、何でも自由だよ。出来るなら何をしたっていい」  チェシャの口調が変わった。 「君の手にある<エンブリオ>と同じ。これから始まるのは無限の可能性」  間延びした喋りから、語るような口調に。 「<Infinite Dendrogram>へようこそ。“僕ら”は君の来訪を歓迎する」  その言葉の直後、周囲から書斎が消え去った。  机も、書架も、チェシャさえも消失し、俺自身は空に浮かんでいた。 「え?」  眼下には見覚えのある世界のå½¢。  さっきまで見ていた地図と同じå½¢の大陸を見下ろしている。  やがて俺の体は吸い込まれるように大陸の一点、俺が選択したã‚¢ルター王国へと向かって――高速で落下していった。  こうして、俺は<Infinite Dendrogram>の世界に足を踏みå…¥れた。  To be continued"