実に久しいことであった。彼は目の前の現象の衰退を停められなかった。また、また一人想い人を亡くしてしまった。
彼は涙を流さなかった。怒りに身を震わせなかった。命を絶つような行為もしなかった。
彼は一体どんな反応をしただろう。過去、互いに好意を寄せ合っていた一人の女性がその身を死という深淵の闇に沈め至らしめられるのを、ただ見ているしかなかったという事があった。それが...二度目、起こったのだ。目の前で...。その時彼は泣いた、身体の水はおろか、骨の髄まで隙間無く絶望という名の渇獣が巡るが如く、泣いた。
さあ二度目、彼は何をした?
刹那...
天上天下に跋扈したる全ての神々がその眼を奪われたであろう。
彼は喰った。
水気を帯びた嫌な咀嚼音をたてながら。
残酷に散るは、女であった。今、彼に言葉を発したとしても彼が受け取るその言葉の全てが「喰」という言葉に血色に塗り替えられそうな程の惨状であった。
肉は余す所なく喰み尽くし、血は一滴たりとも零さんと啜り尽くした。
そして骨は擦り切れるまでしゃぶり尽くした。
その後彼の取り巻き及び彼と女の跡形を目にした者はいなかったという。
全ては闇の中、食人者である彼しか知らない。
ならば、なぜ、このノンフィクションを君は読んでいる?
彼とは今、君が読み上げたこの禍々しい呪詛記を筆に働かせた張本人なのだ。
自己紹介は終わった。
待ってろ