少女の日記

Last-modified: 2021-07-13 (火) 06:00:18

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「お疲れさまでした!」
レギマを終えたレギオン控室に隊長の声が明るく響く
今日のレギマはなかなか健闘した S昇格を逃したのは痛かったが…それでもこのメンバーで昇格戦までこぎつけたのは快挙といえた
隊長自身の戦力はお世辞にも高いとはいえないし レギオン自体もレギマに重点を置いてはいない しかし隊長の人柄に惹かれて何となく加入しそのまま居ついてしまったS級リリィたちの働きによりレギオンの総合力はハイレベルを維持していた
私もそんなS級リリィの一人だった 私を含め前衛4人のS級がチームの主力だった
日々外征を消化し週3のレギオンマッチに向けての自己研鑽…それで十分だった
あるとき私たちのレギオンがBランクに降格した
思えばそれが全ての発端だ
S級の一人がレギオン脱退を表明した レギマ重点のチームから勧誘を受けていると…
「おめでとう!」
隊長はにっこり笑って彼女を送り出した
8人となったレギオン
彼女の代わりが簡単に見つかるはずもない
私の指導のもと、隊長が慣れない手つきで前衛を務めた
B帯のマッチで惨敗し、勝てる外征に勝てなくなった
一人また一人とS級が抜けていった
S級のおこぼれにあずかっていた者たちもやがて去っていった
隊長と私が最後のメンバーになった
「ごめんね」
そう呟く隊長にはやや疲れの色が見えた
S級リリィの中でも特に仲の良かった一人から、私が移籍の勧誘を受けていることを、隊長は知っていた
私にふさわしいステージで自らの実力を試したい…そんな思いも確かにあった しかし…
「このレギオンね先代隊長からもらったレギオンなんだ 色んなこと教えてもらったなあ…」
遠い目をして隊長が語る
「今までありがとう」
半ば無理やり背中を押される形で私もレギオンを脱退した 隊長だけを後に残して…
二人で再出発しようと言われなかったのが
少しだけ ショックだった
 
 
レギオンを移籍してしばらく経った日のことだ
今日のマッチ相手についてのデータが降りてきた
短期間でSランクへ急上昇してきた新興レギオン
乱暴なやり口で強力なメンバーを引き抜いているらしく評判はよくない
裏ではゲヘナとつながっているという真偽不明の噂さえある
面倒そうだ…そう思いながら画面をスクロールする
手が凍り付いた
運命?
そんな言葉とともに隊長の笑顔が鮮明に思い出された
かつての数倍に比する戦力値
まぎれもないS級リリィとなった彼女が そこにいた
 

どうもご無沙汰しております
ってほどでもないですけど…いちおうご連絡というか
こちらは割といい感じにやれてます メンバーの皆さんも優しい人ばかりで いいレギオンです
それよりね…やっぱりトップの世界は全然違いますね色々と 朝から晩までスケジュールがみっちり決まってて
しかも明日からもう実戦だとか!楽しみなような不安なような てかこっちギガント級とかいてますよヤバ
とりあえずまあ私はそんなところです
あと…………抜けた私が気にすることじゃないかもですけど そちらはどうですか?
 
 ・・
 
お疲れ様です
今日レギオン内でメンバーの入れ替えがありました
上位のレギオンじゃ結構あるあるみたいです リリィが自分にあったレギオンを選ぶ 戦闘スタイルとかでね 売り手市場ってやつです
私は今のレギオンでしばらく…というかずっとかな?やっていくつもりです ここ私向きですので 訓練とか大変ですけど心地いい大変さです
センパイたちの方はいかがでしょう?既読スルーしないでくださいねバレてますよ
 
 ・・
 
返事くれないとたいちょーにチクりますけどいいですか^^
 
 ・・
 
遅いんじゃ返事が!!!
たいちょーにもそれで怒られてたのもう忘れたんですか??まあいいや…
今日はちょっと相談がありまして
前にメンバー入れ替えがよくあるって話しましたよね?
それでまた一人前衛の人が抜けちゃって…今新しく入ってくれる方を募集中なんです 前衛で特に守備が上手い人!みんなの砦になるみたいなね
まあ………何が言いたいかっていうと センパイうちのレギオンに興味ありませんか?
レギオンの穴を埋めるのにセンパイがぴったりなんですよホントに
もちろんそちらの事情は存じてます センパイがたいちょーのこと好きでそっちに残ってるっての知ってますし
ただ何というか…選択肢のひとつということで
私もまた前みたいにセンパイと一緒になれたらやりやすいというか もっと上に行けるって思うんですセンパイとなら!
たいちょーには後で私から話しときます ちょっと…いやかなり気後れしますけど
でもこういうの一回キッチリしとかなきゃって思います センパイたちもずっと今のままってことはないでしょう?
これはセンパイだけの問題じゃなくて センパイとたいちょー二人の問題でもあるんですから…
以上 なんだか長くなってしまいましたが
あまり期待せず待ってますね
 
 ・・
 
センパイ!
ホントにホントにホントにホントにホントにホントにホントにホントに
ありがとうございます!
詳しいことはまた後で連絡しますがホントにありがとうございます!すごく嬉しいです
それとたいちょーからも連絡いただきました 私がすみませんって言ったら「大丈夫!頑張ってね」って……たいちょーって結構気にしいなとこあるから元気そうでホッとしました たいちょーはしばらくフリーでやっていくみたいです
あっセンパイがこっちに着いたらまず私からみんなにセンパイのこと紹介しますね!変な誤解されないように
だってセンパイが普通に自己紹介したら第一印象最悪ですよ 愛想よくできる自信あるならいいですけど ないですよね?
あとあとそれとポジションの話 センパイは前みたく私とペアですからねセンパイと一番うまくやれるの私だって自負してますんでね
あ~早くセンパイに会いたい!
 
 ・・
 
今日のマッチの情報もらってきました
きっと勝ちましょうね センパイ!
 

さらさら

突然のヒュージ襲来により、現場に急行可能なリリィと共闘して討伐にあたることもあります
リリィ同士の交流会での連絡先の交換はそういった意味でも重要です

単に名だたるリリィの方々とお近づきに、という期待もないわけではありませんが…

ただ難点なのが50人ぽっちしか登録できないこの残念な端末で…
あっという間にデータ整理に悩まされることになりました

あまり交流のない方、それともいつでも連絡を取れるレギオンメンバーから…?
と億劫になっていると、かつてのお姉様の名前が目に入りました

私をレギオンに迎え入れてくれたお姉様
寡黙ではあったけれどメンバーを牽引してくれたお姉様
突然いなくなったお姉様

胸の痛みは整理できそうにありません

独占欲

私の戦力値がまだ低かったころに拾ってくださった隊長
既にレギオンに所属していたメンバーの皆さんは私よりも倍近く強くて、追いつきたくて、隊長の役に立ちたくて頑張りました

ある日のレギオンマッチ
あれから成長した私も多少は皆さんの役に立てたかな、と思っていたら、
「さっきはありがとう!」
と、隊長からの言葉がありました
その言葉が凄く嬉しくて……幸せで、あぁ…私はこの人のためならもっと強くなれる、そう思ったんです

それからレギマを重ねて、暫く経ってレギオン再編は私たちのレギオンにもやってきた
一人抜けて、また一人抜けていくレギメンたち 私は隊長への恩義も忘れて……と思うと同時に「これで隊長は私のことをもっと見てくれる」と少し嬉しかったんです

結局、レギオンには新しい人たちが入りました
私とトントンの戦力の人たちです
やっぱり9人揃ったレギオンは8人とかとは違います
負けたとしても接戦で負けたり、勝つことが増えてきました
……でも、それに伴って隊長から私への言葉も減りました

お姉様、私、頑張ったんですよ

1位になったんですよ

なのに……どうして新しく入ってきた娘ばかり見るんですか?

そう言えたら自分の気持ちは楽になるけれど、お姉様には迷惑だろうから……今日も私はこの気持ちを秘めたまま、お姉様の背中を見つめる

2021年4月30日

私は何をすべきなのだろう。

2日前、4/28。いつものようにレギオンマッチの会場に向かっていた。
皆の士気は心なしかいつもより高かったように見えた。
私もその1人だった。下馬評では相手が有利と思われたが、それでも勝つ気でいた。
調子良く連戦連勝で進んできた中で勢いづいていたのだと思う。
いつも頼りになる隊長も、その日は落ち着きつつもどこか張り切っているようにも見えた。

惜敗だった。あと10秒、いや5秒あれば勝てる…というところでの敗北だった。

気づけば2日が経っていた。このガーデンに入学してからの数ヶ月間、
欠かさず日々の出来事を記し続けていたこの日記を
今の今まで存在すら忘れていた。
こうしてペンを動かしていても、頭の中は未だにまとまらない。
「私は何を、どうするべきだったのだろうか」

あの日、私は銃弾に身体を撃ち抜かれたような強い痛みを感じた。
もちろんそんなものは無い。実際にはそんな事は起きていない。
けれど、弾となるものは日々少しずつ積み重なり、いつしか弾の形を成し
目に見えない弾倉に確かに装填されていたのだ。
あの敗北は単なるきっかけに過ぎない。そこでトリガーが引かれたというだけ。
ただ負けただけならばきっとこんな想いは抱いてなかったはずだ。

敗北自体は何度もあった。当然、レギオンの様子は以前と何ら変わらない。
そこに居る私も何ら変わらない様子なはずだ。
いつも通り、優しく暖かい空気が満ち、各々が静かに過ごしている。

皆は優しいから、他を責めず、責は自にあるとだけ言う。
皆は強いから、それでも前を向いてすぐに歩き出している。
私は弱いから、今もこうして迷い続けている。自らの弱さを嘆いてばかりいる。
それでは何も変えられないと知りつつも、力を求める事しかできなかった。
とっくに気付いているのに。自分がずっと気にしていることが何かを。
そしてそれを言う勇気もなくただ抱えるだけの醜い弱さも。
静かにしていれば穏やかに過ぎ去ってくれるだろうという安易な甘さも。

私はこのレギオンが好きだ。
特に隊長には感謝している。穏やかで優しく、そして頼もしい姿に敬意を抱いている。
何度かメンバーの入れ替えもあったが、その度に頼もしい新入りも来てくれた。
初期からのメンバーである私はすっかり愛着が湧いてしまっている。
各々の自主性を重んじる空気も心地よかった。それでいて結束できていると思っていた。

だが、あの時、ふと感じてしまったのだ。
私達が見ているものは、本当に同じなのだろうかと。
9人という小さな世界の中で、意図せず見えてしまうことがある。
意図せず感じてしまうことがある。
それが真実かどうかは最早関係無く、そう見えて、そう感じてしまった瞬間に、
抗いようのない不安が忍び寄ってくる。それが火種となることも知っている。
そのうち脳裏に浮かんで消えなくなるのはいつも決まって同じ問いだ。
「私は本当にここに居て良いのだろうか。」
心の片隅では呪いのような希望を抱いてしまっている。
「こんな想いは私だけなはず。私が居なくなれば、変わらず丸く収まるのでは。」



どうにも活動に身が入らぬ中で、ふと、廊下で見知らぬ子達の会話が耳に入ってきた。
「今度また新しいレギオンが発足するらしいですわよ。模擬戦や討伐任務などによる
 個々の能力向上と集団での連携強化を主軸に置いた、戦闘重視のレギオンらしいですわ。
 以前他エリアでもそのような話がありましたが、今度はエリア5で有志を集るそうですわね。」
私の属するエリアの話だった。

弾倉に2発目の弾が込められる音が、静かに響いた気がした。
次の衝撃に、果たして私は耐えられるのだろうか。
次のトリガーを引くのは、一体、誰になるのだろうか。

ちっぽけな私が今できることは、一体、何があるのだろうか。

敬愛するお姉様へ

○月△日
今日お姉様が隊長をやっているレギオンに誘われた。
レギオン活動で何をすればいいのかまだよく分からないけど精一杯頑張ろう。
○月△日
他のレギオンへ栄転される方が出て、メンバーが不足している。
しかしお姉様は学業がお忙しくて満足に募集活動が行えていないようだった。
何か私にも出来る事はないのだろうか…。
○月△日
お姉様に副隊長に指名してもらった!
お姉様が忙しくてレギオンに参加出来ない間は、私が精一杯フォローするんだ。
増員メンバーも確保出来たし心機一転ここから私達レギオンの再スタートだ!
○月△日
最近お姉様とお会いできていない。
私がいない時間にお部屋には来られているみたいですが、外征にも参加されないので心配だ。
もうすぐレギオン同士の演習授業も正式に始まるのに不安ばかりが積もっていく。
直接お会いしたいですお姉様……。
○月△日
今日は久しぶりにお姉様とお会いできた!
1名減ったメンバーも無事補充出来て、レギオンマッチの方針についてもお姉様が決めてくれたので
これで問題なくレギオン運営が続けられる。お姉様、外征にも戻ってこないかな…。
○月△日
今日もお姉様と会えないまま皆と外征任務に向かう。
まだ実力不足なのに前衛に出たがる娘に、暫く後衛に転向出来ないか相談してみるが聞き入れて貰えない。
やはり私だけではレギオンをまとめていくのは無理ですお姉様…。
○月△日
どうしても方針が折り合わず1人レギオンから抜けて貰う事になってしまった。
こんな事ではお姉様に顔向け出来ない、私はどんな顔してお会いすればいいのか。
新しいメンバーは確保出来たが、お姉様は許してくれるだろうか。少しでいいからお会いしたいです、お姉様…。
○月△日
今日もお姉様と会えない。
お姉様、私達のレギオンはSランク評価になったんですよ…?
お姉様は久しく参加を見送られていますが、皆頑張ったんですよ?
お部屋に来ているのでしたら、せめて書き置きでも欲しいです。
○月△日
今日もお姉様と会えない。
他のレギオンに救援を依頼することなく外征をこなせるようになった。
でもその場にはお姉様はいない。
○月△日
今日もお姉様と会えない。
○月△日
今日もお姉様と会えない。もう一ヶ月以上になる。
お姉様にお手紙を書いた、お姉様は読んでお返事をくれるだろうか。
○月△日
まだ、お姉様からの返事はない。
○月△日
レギオンの控室で久しぶりにお姉様とお会いした。
お手紙はちゃんと届いていた、良かった……。
そのまま、お姉様と二人きりで沢山お話をした。
つらかったこと、楽しかったこと、お互い何をしてたのか、どう思っていたのか
とりとめないお話を一晩中続けているうちに、気付いたら朝になっていた。
もうお姉様はお部屋にはいない、またお出かけになってしまった。
また暫くの間は、直接お会いすることは難しいのだろう。
でももう大丈夫、お姉様の想いはしっかりこの胸に残っている。
お願いされた隊長としての責務を立派にこなし、お姉様が帰る場所を守っていこう。
またお姉様と一緒にレギオンの任務を行えるようになるその日まで--

夢物語

ーーー始まりは、一人のお姉様が脱退されたことだった。
元々入れ替わりの激しいレギオンだ。これまでにも色んな人が入っては抜けていった。今回もすぐに埋まるだろう。
それがどれだけ甘い考えの夢物語だったのか思い知るのは、もう間もなくのことだった。

あれから数日経ち、私達のレギオンは未だに8人のままだった。
当然レギマも8人体制で、苦戦する日が続く。それでも何とか努力を重ね、作戦を練り、その日は何とか勝つことが出来た。皆で勝利を喜び、健闘を称え合っていた、そんな時だった。
お姉様が、また一人抜けた。
9人から8人になることと、8人から7人になることは、同じ一人減っただけに見えて重さが全く違う。抜けたお姉様に連れられるように一人、また一人と抜け、残ったのは5人だけ。控室はあっという間に閑散としてしまった。
そんな冷たい控室にリーダーの諦めたような声が響く。
「……これはもう、無理ですわね。明日の朝、このレギオンを解散しましょう。皆様お疲れ様でした」
嫌です。続けてください。きっとまた人は集まりますから。私、ここが好きなんです。まだ諦めたくない。
そんな思いとは裏腹に私の口から出たのは、
「……今までありがとうございました」
という、誰よりも諦めに満ちた、情けない声だった。

自室に戻り、ベッドに倒れ伏した。時刻は既に深夜を周り、早く寝ないと明日に響く。
なのに、眠れない。頑張って瞼を閉じても、脳裏には今までの思い出が走馬灯のように駆け巡り、苦しくて目を開けてしまう。
もしもあの時ああしていれば……あの日落としたあの一戦さえなければ……こんなことなら、私ももっと頑張ればよかった……。
今更どうしようもない後悔ばかりが浮かんできて私を苛む。どんなに自分を責めても過去は変えられない。あの時ああしていれば……だなんて、それこそとんだ夢物語だ。それでも考えずにはいられない。
だって、本当に好きだったから。頼れるリーダーと、優しいメンバーがいて、心から安心できる私のたった一つの居場所。それがあのレギオンだった。なのに、いとも簡単に消えてしまった。
抜けていったお姉様を恨む気持ちはない。それでも、どうしようもなく悔しくて寂しくて、でもどうにも出来なくて。今の私に出来ることは、一人静かに涙を流すことだけだった。

ーーーその日、私は夢を見た。
レギオンメンバー全員が集まって、作戦を話し合う。そろそろ出発の時間だ。
「今日は勝てるといいですわね」「頑張りますわ!」
他愛もない話をしながら、意気揚々とレギマに向かう。そんな、いつも通りの延長線上のような。
とても悲しい夢だった。

這い寄る幸福

勧誘を受けたのでなんとなく参加したレギオン
特に理想や士気が高いわけでもないけれど訓練や任務はそつなくこなせていた
仲間ともそこそこ楽しくやれていたと思う
平凡な1リリィという自覚はあったけれど日々に不満はなかった

果てがないほど続くように感じた日常だったけれど――
ある日突然1人のメンバーがレギオンを抜けた
なんだか記憶にも残らない取ってつけたような理由を言っていた
それが真実かどうか興味も湧かなかった
まあそんなこともあるか……というくらいの感想だった
自分でも驚くほど衝撃がなかった
欠けた人数で活動することがただ面倒だった

地道な勧誘活動の結果、しばらくして欠員が埋まった
新人は……愛嬌はあるけれど少し頼りない印象だった
まあ問題にならないくらい戦えればそれでいい
人当たりが良さそうなのに所属していなかったのか、どこかを抜けてきたのかはちょっとだけ気になった
でも詮索する度胸も厚かましさもないので気にしないことにした
とにかく埋まったことに――平凡な日常に戻れることに安心した

平凡な日常に戻ったと思った
でも少し違った
悪いほうに――ではなく、良いほうにだ
レギオンは新人のおかげでちょっとだけ明るくなった
意識しなければ気付かないくらい、ほんのちょっとだけ

彼女は特に多くを語ったり音頭を取ったりするわけではなかった
それはちょっとしたことの積み重ねのようなもの
分かりづらいことを少し噛み砕いて言い換えてくれたりするようなこと
誰かが少し失敗した時のさりげないフォロー
誰かの何気ない発言に付け足すような軽い冗談
軽い相槌
ちょっとした喜びの共有

彼女は単純に強くはないけれど、よく動いた
ヒュージが少し押して来れば牽制してくれた
射線が少し物足りなければ足してくれた
ここを越えられたくないというラインには率先して立ち塞がってくれた
敵の特徴を捉え、有効そうな手があれば試して見せた
彼女は指示を出したりしていないし、進言もしていない
でも指示役は指示を出しやすく、受けた側はどうすればいいかがわかりやすくなったと感じた

陳腐な表現に頼れば、潤滑油というところだろうか
彼女がいれば色々なことが少しずつ上手くいった

気付けば私は彼女のことをいつも目で追っていた
そして……急に少し不安になった

彼女といれば心が弾んで、もっと近付きたい、もっと私を見てほしいと思うのなら、答えは簡単だった
そんな気持ちが少しなくはないけれど、それほどの情熱ではなかった
彼女と自分を比べて不甲斐ないとか、羨ましい、妬ましいというほどでもなかった
不安としか呼べない、漠然とした、小さな感情

もっと私の心が豊かならこんなに小さな不安は気にならないのかもしれない
もっと私が賢ければこの感情を的確に言葉にできるのかもしれない

他のメンバーに相談しても理解してもらえる自信がない
なんと相談したらいいのかもわからない

たとえば――意識しなければ自然に呼吸していられるのに、呼吸することを意識した途端に少し息苦しくなるような感覚
ほんの少し前まで当たり前で、不満はないと思っていた平凡な日常をどう送っていたのかが思い出せない
あの平凡な日常のどこに私の心が置いてあったのかがわからない

いっそ恋だったらいいのに
それは恋だよ、と自分に言い聞かせていたら、いずれ恋だと錯覚するだろうか
あなたに恋しているみたい、と伝えてみたら彼女はどんな顔をするんだろう
どんな言葉を返してくれるんだろう

 * * *

今日、小さな忘れ物をした
支障はないけれど、ないと少し気分が下がるような小さな忘れ物
このことを彼女に話したらなんと言ってくれるかが少し気になって――
私はまた少し不安になった

色付いたままの世界

私がこのレギオンに加入したのは学園に入って間もない頃だった。
学園に入ると周りのみんなは次々とどこかのレギオンに加入していったけれど、
私は特にどこかのレギオンに入ろうと考えていたわけではなかった。
でも、「レギオンへの加入はリリィとしてやっていく上で今後メリットが増えるらしい」そんな噂が囁かれているのを耳にした。
だから特別に惹かれるものがあったわけではないけれど、たまたまメンバーを募集していたこのレギオンに入ったのだった。
あまり主体性があるとは褒められない行動原理だが、私はもともと流されて行動していることの方が多い気もする。

レギオンに入ってからはレギオンへの寄付やヒュージ討伐のための外征への参加(強力なヒュージが相手では大きな被害は出さなくとも失敗することもある)といった活動を
レギオンのメンバーと共に行うようになった。
確かにレギオンの活動に参加してはいるのだが、所属レギオンの活動だから参加するという義務感でしかないのも事実だった。
だからレギオン同士での対抗試合、レギオンマッチが開催されると発表があっても
また何か活動が増えるのか、くらいにしか感じなかった。
私のレギオンも参加するのなら、私も周りに合わせて参加するだけだ。

だから、私は何度かレギオンマッチに参加した後の自分に驚かされた。
レギオンマッチを行うにつれて、勝てば嬉しい(これは当たり前のことかもしれない)だけでなく、負ければ悔しいと感じることが分かったのだ。
負けて悔しいだなんて!周りに流されて参加しているだけのこの私が?
負けた後にふと気づくと、周りにいる同じレギオンのメンバーたちも悔しそうな顔をしていた。

今までレギオンのメンバーについての私の認識は、顔と名前は分かる。そしてそれなりに一緒に活動してきている。その程度だった。
そんなメンバーたちと今、おそらく私は同じ思いを胸に感じている。次は勝ちたいと思っている。そのためにももっとみんなのことを知りたいと思っている。不思議だった。

私は少しずつ、事務的な会話以外でもレギオンでの会話に参加するようになった。
仲間たちについても得意なことがそれぞれ違うという当たり前のことにも気づいていった。
考え方や大事にしているものも違う、でも戦う時はきっとみんな同じことを思っている。
お互いのことが分かるにつれて、だんだんとみんなの息も合うようになってきた。
私も自分から提案を出してみるようにもなった。自分の行為がみんなに貢献していると感じられることもあった。それが嬉しいと思えることができた。
みんなと一緒に勝てれば嬉しいし、負ければ悔しい。
勝った時にみんなと喜ぶのは楽しいし、負けた時にみんなで反省するのも悔しいけれどちょっと楽しい。

今夜もレギオンマッチが開催される日だ。勝てるだろうか、それとも負けてしまうだろうか。今からドキドキしている。
でも私には分かっている。勝っても負けてもきっとみんなと一緒なら楽しいんだ。
このレギオンがなくなってしまうことなんてないだろう。
このレギオンの仲間はもう一人もいないけれど、このレギオンでも私は同じ様に仲間と一緒に楽しんでいる。
このレギオンはなくなってしまった。あまりにも急なことで理解ができなかったけど、このレギオンはなくならないだろう。
このレギオンでも勝てれば嬉しいし、負ければ悔しい。このレギオンがなくなると告げられた夜はすごくショックで眠れなかった。
でもこのレギオンはなくならないだろう。
だってみんなと一緒に喜んだり悔しがったりするのがこんなに楽しいんだから。
そんなことありえないって私には分かっている。

色付いたままの世界.png

お慕いする貴女へ

「お姉様に愛を伝えたんです!」
「私のシルトがとっても可愛いの」
「昨日はお姉様と夜更かししたんですよ~」

ガーデンを行き交うリリィの方々の楽しそうな声を今日も聞く。
周りのリリィのみんなはお姉様やシルトの方々に愛を伝えて、お互いの気持ちを確認して楽しそうに日々を過ごしている。
では、私は? 答えは単純明快、NOだ。
慕うお方はいる。とっても素敵な方。私の所属するレギオンのリーダーで、戦力の値としては一番ではないものの、楽しそうにレギオンではお喋りしてオススメの作品を教えてくれたりする。
ヒュージを討伐するときにもユニークな作戦名を考えてくれて、緊張する心を和らげてもくれる。

私はそんなお姉様が大好きで大好きでたまらない。
お姉様のお役に立って、「よく頑張ったわね」って褒められたい。お姉様に微笑みかけられるだけできっと私はその日はずっと幸せでいられるだろう。
……でも、私はまだそんな想いを伝えられずにいる。勇気がないから。お姉様にこの想いを伝えて引かれないだろうか、お姉様はこんな私から好意を伝えられて迷惑じゃないだろうか。それにお姉様はとても可愛らしい方だから、もう他の方に告白されているかもしれない。
そんな意気地のない気持ちが私の心の中で鎌首をもたげて苛む。
あぁ、いっそのこと……お姉様がシュッツエンゲルの誓いを交わしたと報告してくれないだろうか。そうすれば諦めがつく。お姉様の幸せを願いながら、お姉様への想いを心の中で育てていける。

──雨が降り始めた。この驟雨はまるで私の心境みたい。でも雨なら流れてなくなるけれど、この気持ちはなくなることがない。

……これも良い機会かもしれない。この驟雨のように、私の気持ちも流してしまおう。結果がどうなるであれ、お姉様に気持ちを伝えて……それから、どうなっても私は……ずっとお姉様をお慕いするんだ。

「お姉様!
私は……私は、貴女をずっと好いています……!」

──あぁ、どうか……笑顔で向き合えますように。

『お姉様…私は、私は貴女のことが大好きです!
 ずっと…好いています…!』

意を決して、お姉様に伝えた日。一瞬の沈黙の後、帰ってきたのは笑顔で告げられた「ありがとう」という一言。
お姉様からの気持ちは帰ってこなかった。
もちろん無視されたり、拒絶されたりしないだけでも十分だ。でもそれでも……私はどこかでお姉様から「好きだ」と伝えられることを夢見ていたのかもしれない。きっと、それが夢なことにも気付かないくらいに浮かれていたことを。

夢から醒めるには、十分な雨だった。驟雨は私を濡らして、火照った頭を冷ましてくれた。笑顔でお礼を告げたお姉様に私も笑顔で「それだけ、伝えたかったんです!」と伝えた。それくらいは、演技する余裕はあったはずだ。
だって演劇が得意な私なのだから。お姉様を慕っているからこそ、お姉様を困らせたくない。だから私は明日もお姉様になにも変わらないように接しよう。
お姉様を慕っている私。お姉様のためにチャームを振るう私。

──でも、あぁ……お姉様……貴女を、私だけに見ていてほしい。それが無理なら……好いてもらうことができないなら、傷になりたい。恨まれたい。それでお姉様の中に私が刻まれるのなら……恨まれるのも、悪くないと私の中の仄暗い私が目を覚ます。

弱さと限界

私は目を背けたのだ。前を向き、先を見つめるべき時に。
私は逃げたのだ。涙を拭い、次への一歩を踏み出す時に。

眼前に迫る恐怖に、全身を覆う重苦しい不安に、
敗北という事実の痛みに、
私は今度こそ負けたのだ。

脳裏で誰かが囁いた
「仕方ないよ、精一杯やったんでしょ?」
遠くで声が聞こえた
「貴女だけが悪いの?じゃああの方は?」
すぐ隣から声が響く。私によく似た声だった。
「貴女に何ができるっていうの?」

とてつもなく甘い香りのする言葉達だった。
それを掴むのは簡単だ。
そしてそれをすることで、もう立ち上がれなくなるのもわかっていた。
立ち上がらなくて良いのかもしれない、とも。

私はただの平凡なリリィ。
カリスマ性など微塵も無く、強靭な強さも持ち合わせていない。
周囲を包む優しさも、戦況を見通す聡明さもない。

そんな私だから、きっと、もう、誰も…

などと思いながらも我に返り、呆然とした頭をなんとか動かそうとする。
せめて余計な迷惑をかけぬよう止まっていた足を進めようとした。
が、何やら周囲が騒がしい事に気付いた。

ふと振り返ると、そこにはレギオンの面々がいた。
疲労の色が隠せていない。目を赤く腫らしている者もいる。
それでも懸命に言葉を絞り出している。
どうすればよかったのかと、
私達は何をすべきなのだろうと、
懸命にもがいている。その先にあるものに触れようと。

私も確かにそれを望んでいたのに。
望むだけで何もしていなかったのだ。
その事実からも目を逸し、周囲の優しさに甘えていたのだ。
それでも許されるだろうと、許されるべきだと。


この日記は私の決意。私の小さな秘め事。
この先で何が起こるかはわからない。
私やその周囲があっけなく崩れ去ってしまうかもしれない。
それでも、親愛なるお姉様方に胸を張れるように。
もう、自分自身には嘘をつかないように。
私は今日も前に立ち、眼前の敵を見据えるのだ。
きっとたくさん迷う。何度も間違える。駄目なところだらけの私。
けれども、私を、お姉様を、思い出を、今のこの気持ちを守るために。

たとえ今がどんなにつらくとも
求める星が目に見えずとも
それでも前に進むんだ。
果てしなくても、遠くても、一歩ずつ前へ。

そしてまた、あの日のように笑いあえますように。

遼縁

マルチバトルが実装されて間もない頃のことです…わたくしは野良で出会ったお姉様をフォローしようとしたことがありました…でもそのお姉様はすでにフォロワー上限に達していて…フォロー出来なくて…それがすごくショックで…宝物をなくしてしまった子供みたいな気持ちになってしまって…自分でもすこし驚くぐらい落胆してしまいました…
そのお姉様は素敵な方で…圧倒的に強かったとかそういう意味ではなく…梨璃さんのように明るくて…人懐っこくて…わたくし以外の野良の方へも当たりがとても優しくて…分け隔てのないぬくもり…自然な気遣いというか…言葉の選び方やスタンプの反応からそのお姉様の愛らしい心根が垣間見えたような気がしました…あんな感覚は初めてでした…あんな感じはあのお姉様だけでした…
たった一度…マルチバトルで肩を並べただけ…それなのに…人となりとでも言うのでしょうか…他の方たちとは違って…きらきらと輝いて見えた…そんな素敵なお姉様と出会えた……出会えたのに……そのお姉様をフォロー出来なかった…
…まぁそうですわよね…こんなにも素敵な方なんですもの…気さくで…ありがとうのスタンプばかりか言葉までくださって…ちょっとオーダーを撃ってレアスキルを使っただけなのに…嬉しそうに…
フォロワー上限…当然と言えば当然ですわ…あのお姉様の隣になら誰だって並びたくなりますもの…わたくしの席なんて初めから無かった…わたくしなんかがお友達になれるわけなどなくて…分不相応というべきなんでしょうね…
でも…あのお姉様の名前は覚えていますわ…マルチバトルをリロードしていればいつか…どこかで…もしまた出会えたのなら…あの人がまだリリィを続けてくれているのなら…もう一度会いたい…フォローし合えなくてもいい…今度はわたくしからスタンプを押して…ご挨拶したい…ただそれだけ…

情動

ひと月くらい前の話だ
この「」合ヶ丘女学院でレギオンマッチ重視のレギオンを旗揚げするという噂が学院内を駆け巡った
私は今のレギオンから移動するつもりは無かったのだが、もしもその新しいレギオンに身内の誰かが移籍するのならそれは名誉な事だし、何より移籍する方自身が決めた事なのだから快く送り出そう
私の所属するレギオンのお姉様達ならきっと誰が送り出されることになってもそうするだろう…などと漠然と考えるくらいに留まっていた
それから暫くして、ひとりのお姉様が我がレギオンから件の新興レギオンに移籍する事を打ち明けた
私はその時夜間警戒任務に当たっており、移籍するお姉様とは短い通話でしか言葉を交わす事が出来なかったが、後で他のお姉様に伺ったところ快く送り出す事が出来たとの事だった
その後の我がレギオンは、新しいメンバーを勧誘するチラシを書いたり、新たなお姉様が加入したり(その中の1人はお姉様のシュッツエンゲルの方だと言うのだから驚きである)、レギオンマッチや外征を行ったり、こっそりお姉様が移籍したレギオンの試合を観に行ったり、楽では無いながらも充実した日々が続いていた

ある日の夜、お姉様が移籍したレギオンが大敗を喫したと報じられた…
その知らせを見た瞬間に、言いようの無い昏い情動が沸き立った事を、今でも鮮明に覚えている
何故?あのレギオンに集まったのは学院外の実力者にも引けを取らないメンバーの筈だ
何故だ?戦力が拮抗していても、上の戦力の相手にも緻密な戦略を立てそれを実行に移すことで快勝をしていたのをこの目で何度も見たのだ
どうして? 信じられない なんで? 信じたくない 嘘だ 悔しい 何故? 私に直接関係のある事ではないのに
同じ学院のレギオンだから? 違う 何度も試合を見ていたから? 違う 最強を目指すレギオンが負ける事が許せないから?
違う…違う!違う違う違う!!

私は気付いた
だって…お姉様が居るのだあのレギオンには、私達を後ろから、支えてくれた、お姉様が、居るのだ…

こんなのは馬鹿馬鹿しい情動だ
それでも涙が止まらなかった

2021/5/3

昨日は久々の勝利の興奮からか話が盛り上がってしまい
自室に戻った後に気づけば日記を書くのを忘れてぐっすりと寝てしまっていた。
寝間着に着替えるのも忘れ、寝起きの髪もボサボサだ。
でもなんだか清々しい気分!
…なので、こうして昨日の分もまとめて書いていても仕方ないのです!


昨夜、お姉さまもとても嬉しそうだった!
もちろん私も嬉しい!
勝てたのはもちろんだけど、嬉しそうなお姉さまの
お顔が見られたことが、何より幸せ!

真面目でいつもいろいろなことを考えてくれる、けれどどこか抜けたところもあるお姉さま。
お喋りも嫌いじゃないみたい。つい口数が多くなってしまうところも可愛い。
戦闘でも頼りになる。わたしはいつもあの背中を見ることで安心して戦えている気がする。

そんなお姉さまは最近少し様子が違っていたように見えた。
口を開くとつい口数が多くなるのはいつものこと。
…ただ、どこか余裕がないような、何かにおびえているような
そんな雰囲気を感じてしまう。
表情はいつも通りだ。わたしの視線に気づくと少し照れくさそうに、にこやかに微笑んでくださる。
お話される内容もいつも通りだ。ご自身の提案や意見をつぶさに語ってくれる。
なぜこんな事を感じたのかわたしにもわからない。
最近負けが続いてしまったので、少しナイーブになっていたのかもしれない。
直接お話できればいいのだけれど、そんな勇気は出てこない。
わたしにできることは心の中で想うだけ。こうしてそれを日記に密かに綴っておくことだけ。
噂に聞く「シュッツエンゲルとシルト」のような関係に憧れはするけれど
今のわたしにはそんな勇気も魅力も強さも資格もなにもない。
でも、もっとがんばってお姉さまにふさわしいリリィになるんだ…!

そういえば最近お姉さまはますますお強くなられたようだ
今度、思い切って声をかけてトレーニングについて教えていただこうかな…
2人きりで直接会話したことはあんまり無いので緊張するけれど…
…がんばるのよわたし!いつまでも今のままでいいと甘えてちゃいけないわ!

「お姉さま!ずっと…お慕い申し上げておりました…!」

…なんて言えるなら苦労はしない。まだ私にはその勇気も自信もない。
お姉さまを困らせるのなんて絶対に嫌だ。
今は単なるレギオンの一員というだけの存在だと思われているに違いない。
わたしにできることは、もっと魅力的なリリィになることだ!


わたしの大好きなレギオン。わたしの大好きなお姉さま。
いまの関係もとても心地よい。でも、もっといろいろなことを
このレギオンで、お姉さまのそばで、これからも感じていきたいな。

お姉さま、これからも一緒に頑張りましょうね!

同じ時間を生きる貴女達へ

「コールド負けなのに…なんでみんな喋らないの…ねぇ…?」
伝えたい相手がいないガーデンの控室で大粒の涙を零し、声を震わせながら呟く。
私のレギオンは23時にレギオンマッチを行う…俗にいう23時組のレギオンだ。

当初はノルマを消化するためにレギオンマッチに参加し、勝敗は二の次…というのがレギオンの方針であったが、
私を含め戦いの熱に当てられ
強さを求め最近開発されたというアステリオンマギカノンを手にしリリィスタッツでの戦闘測定値が19万を超えるお姉様、
チャームに込める属性を統一し戦いを意識したお姉様が出てきた。
一方入隊時から全く戦力測定値が上昇しないお姉様もおり(方針的にはこちらが正しい)、
結果弱くはないがバランスが悪い歪なレギオンが誕生したのだ。

そしてガーデン側からのキャンペーンと称したノルマ増加に伴いレギオンマッチに積極的に参加するようになってからレギオン内の雰囲に変化が現れた。
ギスギスはしていない、ただ目指す方向が違うためか極端に会話は減ったのだ。
私はこのレギオンが好きだ。このガーデンに入学して初めて入ったレギオン。この会話の減少が崩壊の予兆に思えてならなかった。

レギオンを崩したくないその一心でメンバーに積極的に声をかけたり戦術を学んだり、敵レギオンの情報を調べて報告などを自主的に行うようになり、
リーダーにも様々な作戦の提案を出し、自分にできる範囲でレギオンを繋ぎとめようと頑張った。

だがその程度でどうにかなるほどレギオンマッチは甘くなどなく、続く敗北がレギオンの空気を重くしていった。
それでも私は声をかけ続けた。たとえ言葉が減り、返事がなくても。いつかは報われるはずだと信じて。
そして前述のコールド負けをしたのだ

レギオン控室で感情を爆発させるわけにもいかないのでガーデンの控室まで走り人目もはばからず泣いた。私は無力だった。
後悔と不甲斐なさに打ちひしがれているとリリィ達の声が聞こえてくる。
「コールド負けした時にどうしたらよかったとか話す事なんてありますの?」
「接戦負けは堪えますけどコールドなんて…ねえ」
その言葉に何も返せなかった
23時組の外征開始のサイレンが鳴り(コールド負けしたので15分開始の外征まで時間があった)、
私はぐちゃぐちゃになった心のまま構わず外征へ向かう。ここで行かなかったらレギオンがバラバラになってしまう気がして。

外征中なのにさっき耳にした言葉が頭から離れない。
(どうすればよかったんだろう…どうするのがよかったんだろう…)
言い訳染みた考えが止まらない。戦っているのが何度も倒したエアルム型ヒュージだからという慢心もあったのかもしれない。
ふっと足元が光る。お姉様のオーダー「朱雀炎武」だ。
――しまった。
血の気が引いていくのを感じる。
本当なら私がレアスキル「鷹の目」で優位になれる場所をとってから「火烈なる布陣」を繰り出さなくてはいけなかったのに。
私がしなくちゃいけなかったのに。私に課せられた仕事なのに。

「あ…合わせます!鷹の目!」
今の陣形のまま優位な場所へ移ればまだなんとかなるはずだ。弁解のようにレアスキルを発動する。
「…え?」
私の目からは涙が出るだけだった。不安定な心はレアスキルの発動に失敗していたのだ。
チャームが急にグンと重くなり、戦闘中なのに尻もちをつく。理解が追い付かない。私は…どうしたいんだろう…?

その後医務室で目が覚める。ほんの少しだけ寝ていたようだ。お医者様からレアスキルが使えなくなったのは一時的なものだからと説明を受けた。
あと私を連れてきてくれたのはリーダーで、レギオンのお姉様達がエアルムを討伐したそうだ。
他に何か言っていませんでしたか、と尋ねたが何も言っていなかったと返され今日はゆっくり休みなさいと優しい言葉をかけられた。

ガーデンの宿舎への帰り道。
「私はお姉様のオーダーに鷹の目を合わせられませんでした…お叱りの言葉でもいいので何か言ってください…お姉様…」
絶望が私の心を満たしていた。

……………………………

外征はあるものの今は連休期間ということでガーデンの宿舎は深夜なのにお祭りのような賑わいを見せていた。
23時組に新しいレギオンができるとかで名前を出し合っているようだが、私はとても混ざる気分にはなれなかった
…というよりは混ざると感情を爆発させて流れを遮ってしまいそうなので水を差したくないので遠くの椅子に座った。
「新しい…レギオンか…」
何を考えても涙がにじんでくる。

ふと少し横を見ると少人数のリリィの集まりが目に入った。前から見かける同じ23時組のレギオンだ。
彼女達も大敗を喫してしまったようでひどく落ち込んでいる。

23時は遅い時間のため、わざわざこの時間活動しているレギオンに移籍しようとするリリィは少なく、人員確保にとても苦労する。
メンバーが少なくなり解散するレギオンも多く、実際それなりに見てきた。
23時から22時に移動してから活躍をしているリリィもよく見る。
そのため負けることが…負けて人が去ってしまうことが極端に怖いのだと思う。

「自分も含めてもうちょっとこうどうにかなりませんでした今回の試合内容…」
「4、5連敗してますわ…もうここまでなのかしら…」

胸が締め付けられる。とても他人事には思えない。
人の心配する余裕もないぐらい弱っているはずのに、たまらず声をかける。
「時間で同じっていうのも変な仲間意識ですけど…同じ23時として応援していますわ…お互い頑張りましょう…」

なんだかおかしな言葉だった。でも励まさずにはいられなかった。
名前も所属するレギオンも知らない同じ時間に戦うリリィ達。
同じ苦しみを背負っているリリィがここにもいると、悲しみを理解できるリリィがここにいると伝えたくて声をかけた。
救うつもりでかけた言葉には自分の願望も籠っていた。

……………………………

翌日になりチャームを持てるまでに回復しレギオンマッチへ参加。
コールド勝ちできてしまった。
勝利に喜ぶレギオン控室。私の求めていた世界はそこにあった。

ガーデン控室で昨日の私を見ていたリリィに昨日の事は吹っ切れたんですの?と聞かれ、
「ええ…悪い夢を見ていたみたい…」
と満面の笑みで返した。

昨日私が倒れた後にリーダーがこのままではいけないとメンバーを集め、戦力が上がらないお姉様に相談、戦闘指南を施したりしていたそうだ。
そのお姉様もその提案を快諾。
ノルマをこなすだけだったレギオンが勝利を目指して緩やかに動き始めたのだ。

この喜びを、記念すべき日を日記に書きとめようとページを開いた。ガーデン控室で書くのが悪いのだが、からかいながら覗いてくるリリィもいる。
冗談だと受け取りつつ微笑みながら書き始める。
今日の日記の副題は…「同じ時間を生きる貴女達へ」。この日記は誰にも見せるつもりはない。
ただ、心の中で同じ23時を戦うリリィを応援するつもりで今回の日記を書こうと思ったのである。

その時他の23時組が帰ってきた。目に大粒の涙を浮かべていた。
コールド負けしてきたようだ。
今まで考えもしなかったことが頭の中で全て繋がる。
私は逃げるように自室へ帰った。

……………………………

(私は本当にバカだった…浅はかだった…"同じ"23時に戦うということは…)
(名前もレギオンも知らないリリィ達…)
(もし今日戦ったレギオンがあの子達だったら…?)

激しい動悸が止まらない。
ひたすら許してほしいと祈る。
23時は夜間戦闘なのでレギオンマッチ中相手の顔がよく見えない。
見えたほうがどれだけ気が楽だったか。

『時間で同じっていうのも変な仲間意識ですけど…同じ23時として応援していますわ…お互い頑張りましょう…』

自分の言葉が頭の中でリピートされる。この言葉に嘘はなかった。心からの言葉だった。実際は綺麗なだけの言葉だった。

「私は…私はそういうつもりじゃ…本当に…本当に…っ…ああああああ!!!!」

もし、もしあの子達のレギオンを倒してしまったのが私達のレギオンだったら…
もし、この敗北が新しくできるというレギオンへ向かうための切っ掛けに…崩壊に繋がってしまったら…
もし、違ったとしてもこれから先戦うかもしれない…

私はこの次からどう戦えばいいのだろう。誰を守ればいいのだろう。
レギオンマッチにあるのは勝ちか負けその二つのみ。

「悪い夢…悪い夢よこれは…」

23時組の外征開始のサイレンが鳴り響く。私はその日はじめて外征を欠席した。

23.png

私も描いてみようって思った!

日記は誰でも書いてもいいってスレで確認したから。
私も描いてみようって思った!

ダメだったら言ってね、私は常識はあると思ってるんだけど
私の常識はちょっと違うことがあるから。

そんな私だけど、理解のある彼女さんがいます!
出会ったのは、リリィになるずっと前で、何年も前なんだけど。

ずっと一緒にいて、一緒にいるのが当たり前って家族みたいな
関係で。

私がリリィになりたいって思った時には、
もうすでに、彼女はリリィだったので、ちょっと笑った。

私は人付き合い下手くそで、でもちょっとだけ人より力持ちだったり
するのが自慢だけど。
それがどうした?ってこともなくて。まぁダメな奴なんだけど。

私より、彼女の方がダメっぽい感じで、いつも私の背中を
追いかけてきてると思ったんだけど。

二人レギオンのままじゃ、レギオンマッチも外征もこなせいから
二人で、レギオンに移籍しようってはなしたら、割と簡単に説得できました。

今のレギオンに人を集めたら、外征やレギマの管理大変だよーとか
そんな感じの話。

で、2人でレギオンを移籍して。私は戦力に自信もないし、募集してたレギオンの
募集枠に従って後衛でお願いします。

彼女は、しっかり前衛で入ってました。戦闘力も抜群です。

ずっと私に控えめにして気遣ってたのかコノヤロー…って感じです。
彼女は、物理得意だから、私は回復メモリアで半分固めて、あとは物理ATK↑積んでます

この固めで戦闘力17万なので、もうちょっとがんばったらすぐにもっとあがるので。
上がんなかったら、ごり押ししってでも上げるので。
私を出し抜いてただで済むと思わないでよね!

 
 些細なボタンの掛け違いだとすれば、それは私の驕りだろうか。
全ての責が私にあるとするならば、それは卑屈に過ぎるだろうか。

往く一月、私の所属するレギオンから一人のリリィが巣立っていった。

彼女は、所謂後衛戦力のトップに位置するリリィだった。
豊富な戦術論を修め、緊急時にはその実力を前衛戦力にも活かせるオールラウンダー。
対する私は、自身の加入当時から既に引退を危ぶまれていた前衛リリィに取って代わっただけの、単なる力自慢。

呼び名からも分かる通り、彼女と私は特別深い関係にあったわけではない。
強いて言えば、レギオン内でも比較的発言の多かった彼女に私も便乗する場面がいくつかあった程度だろうか。
ともあれ、頭も地力も中途半端な私にとっては、彼女もまた憧れるリリィの一人だった。

――ひずみは、何でもない瞬間に生じる。

リリィの戦力維持、意欲向上をお題目としたレギオン対向の模擬戦プログラム。
定期的に組まれるそれをこなした翌日、私達は夜間の外征任務に備えて各々準備を進めていた。

『――私も含めてですが…後衛はこの陣形を突き崩す手段が乏しいように思いますわ』

おもむろに彼女が語る。
先日のマッチ相手は、忌憚なく言えば私達より格の落ちるレギオンだった。
当時は中々勝利を手に出来ずにいた時期なのもあって、レギオン内が一時的な賑わいを見せていたことをよく覚えている。
彼女は、そこに浮き上がった不審点を見逃さなかった。

彼女の手にする携帯端末に表示された画面を、私ともう一人の後衛リリィが覗き込む。
この時隊室にいたのは私たち3人だけだった。

『うーん、特防下げはどうにも手数が足りないんですよね…』

痛いところを突かれたとばかりに、後衛リリィが口ごもる。
レギオンに支給された携帯端末を通して戦況を見れば、
前衛の行動や後衛の支援、または相手からの妨害によって増減するリリィの攻撃力や防御力…
有体に言えばパラメータがある程度可視化され、これを目安に適切な支援、妨害手段を取るのが模擬戦の基本となる。
彼女の端末を見れば、マギエネルギー単体の攻撃に対する耐性、つまり特殊防御の極端な向上を観測された、相手前衛の面々が映し出されていた。

『……なるほど』

これは相手側の戦略ではなく、むしろこちらが何も手出ししなかった結果だと、一様に減少した他のパラメータ値が物語っている。
終始優勢に事を進められた一戦だっただけに、野放しになった点がコントラストをいっそう強めたという訳だ。

尤も、この穴に全く気づきがなかったというわけではない。
斯く言う私も、これ以前に先輩の前衛リリィと一言、二言特殊攻撃が通じにくい旨について言葉を交わしたことがある。
それでも問題が表面化しなかったのは、私達がCHARM本体による質量攻撃を主とする前衛編成だったからだ。
当時は特殊攻撃も多少入り混じった編成だったかもしれないけれど、あくまで補助用と割り切っている節はあった。
彼女が問題視したのも、現状の体制というよりは将来的な戦術の幅を加味してのものだったのだろう。
だけど、

『道理で以前から、お相手の特防が積み上がりがちだったわけですわね』

私が発した一言は完全に余計だった。
誓って悪気はなかった。軽口のつもりだったけれど。
同じ後衛のリリィならまだしも、普段会話もない前衛からでは嫌味とも取られかねない発言だった。

『……一丁前にそこだけはしっかり固めていますのね、と思ったものですが』

私がその程度の不文律に気づいたのは、眉尻を下げ、伏せた目でそう呟く彼女を認識した瞬間だった。

『っ……ま、まあ私は通常攻撃寄りに編成組んでますから……あまり、問題はありませんわ……!』

あくまで言い切らない情けなさをアクセントに、私は彼女の返事を待たず、急ぎ足で隊室を後にした。

顔が熱い。
そのままにしても分かるぐらい、心臓が早鐘を打っている。
努めて申し訳なさそうな彼女の貌が、焼き付いて離れない。

しかしながら、それは日常の一コマに過ぎないと私の心は言っていた。
反省して、改めて。
時間が経てば何でもないことに取って代わられる程度のものだろうと、片隅の期待も首をもたげていた。

――亀裂は、見て見ぬ間に広がっていく。

少し時が流れても、変わらず模擬戦の日はやってくる。
うら若きリリィの身なれど専業とまではいかないのが世知辛いところで、その日の私は副業の残件処理に追われていた。
事前にレギオンへの周知はしてきたし、枠を空けるぐらいならと後衛との一時的な役割交換も打診していたので、正直気持ちは軽かったのだけれど。

結局、私は開戦間際に間に合った。間に合ってしまったというのが適当なところだろうか。
これでも私は加入当初、少しの間だけ後衛を務めていた経験もあり、多少のブランクがあろうとある程度は大丈夫だろうと高を括っていた節はあった。
それに――あの時以来碌にやり取りもなかったけれど――、彼女の前衛での勇姿に少し期待を寄せていたのもあったかもしれない。

結果から言えば、その日の私たちは惨敗した。
単純に相手が一枚上手だったということもあるだろうけど、まず目を向けられたのは私の役割交換だった。
前衛と後衛、お互い一人ずつの練度不足が招いた敗北。

彼女は、後衛から動かなかった。
軽率な判断だったとひとりごちる私を見る目は、冷ややかだった。
そんな顔をしていた、気がした。

――器は二度と、戻らない。

それから程なくして、彼女は別のレギオンに移籍した。
レギオン対向の模擬戦、近い内にはリーグ戦も開かれるらしいそれを主軸とした、異色の新興レギオンだ。
私は相も変わらず副業にかかりきりで移籍理由の仔細を聞くこともなかったけれど、どうしても先の2件が頭から離れなかった。

斯くして銛は、私の胸に打ち込まれた。
些細なボタンの掛け違いだとすれば、それは私の驕りだろうか。
全ての責が私にあるとするならば、それは卑屈に過ぎるだろうか。

あくまで私の主観に過ぎない。
実際に聞けば、全く関係のない理由なのかもしれない。
それでも私は、仮定から先には進めなかった。
喰い込んだ銛を引き摺りだす勇気は、初めから持ち合わせていない。
 

 レギオンに支給される携帯端末には自身の所属レギオンのみならず、
他のレギオンやガーデンに所属するリリィの連絡先を保存しておける帳簿機能が存在する。
その保有数は最大50件と何とも頼りないものだけれど、私はその半分も埋められないほどのヘボリリィだ。
私の加入当初、または私より後に加入したレギオンメンバーが申請してくれた分はありがたく登録しているものの、
私から申請する分には既に時期を逸してしまっているのでは?という出不精の言い換えでずっと動けずにいた。

そこで登場するのが当ガーデン最大の特徴である、学園管理の匿名掲示板だ。
不特定多数のリリィが匿名でヒュージ討伐やリリィ同士の模擬戦に関する情報交換を行えるほか、
時にはリリィを模したドールやリリィ同士の関係性を肴にリリィオタクが熱を上げるなど独特の雰囲気が形成されている。
レギオンのメンバー募集や帳簿の登録依頼もその一環で、私もこの度は連絡先の公開に踏み出したわけだ。

少し間を置いて連絡先一覧を見れば、瞬く間に同ガーデンからのフォローで場は埋め尽くされていた。
喜びと少しの困惑が入り混じりながらも登録手続きを行っていく中で、一つ見覚えのある名前が私の目に留まった。

あの人だ。
偶然同じ場にいたらしい彼女が出遅れた私を気遣い、フォローを投げてくれている。
それだけで、私は許された気がした。
私も、彼女も改まって話すことはもうないだろう。
けれど、前を向ける気がした。

ならば、やることは一つ。
勇んで登録ボタンに指を伸ばし――

「相手のフォロワー数が上限に達しているため、フォローできません。」

――膝から崩れ落ちた。 

隣のあなたへ

「私ね、このレギオンでSランクまで行きたい!」
リーダーがそんなことを言ってたのはまだレギオンメンバーが7人でランクがCランクに上がってすぐくらい
普段能天気な事ばかり言ってるくせにあんたにそんな野心あったの?何て驚いたのを覚えている
「ならさっさとメンバー勧誘してきなさいな」丸めた雑誌で彼女の頭を軽く叩いた
「は~い行ってきまーす」控室から出ていく彼女を見送りながら私は一つ決意した

彼女とはアルフォートだったかハイボールだったかそんな名前のヒュージ討伐隊に配属されたのが出会いだった。
隣で肩を並べて戦っていて不思議とタイミングがぴったりだった
前のレギオンがリリィ同士のごたごたで分解解散してしばらく一人でいいかなと思っていた私に「お友達になりませんか?」なんていきなり話しかけてきて…
まぁ気分も良くてOK出しちゃった私も私だけど
それから数日して「私!レギオン立ち上げたいの!そのメンバー第一号にならない?」と唐突に言ってきた。断ろうと思ったけれど無下にするのもとか思って参加した。

それから色々あってレギオンメンバーを集め戦って別れて…気が付けばAランク。そして2勝2敗
勝てばSランク…負ければBランク。何の因果か相手も同じ状況で天国と地獄の分水嶺
「うわ~みんなぁ緊張するね~」なんていつもの調子で言ってるけど手が震えてるの隠せてないのよ。まぁ隣にいる私くらいしか気が付いてないだろうけど?
「Sランクだろうが何だろうがやることは変わんないんだから」「うん、そうだね!頑張ろう!!」にへらと笑う彼女

試合開始までのタイマーがゆっくり時を刻んでいく
まぁ相手のレギオンも負けられないでしょうしここまで来るのに悔しい思いもしてるんでしょうね?それはこちらも同じ
勝負の世界だしそれは仕方ないの。でも私は隣にいるこの子をSランクに連れて行くと決めてるのよ
悪いけどどいてもらう。
けたたましい試合開始を告げるブザーが鳴った

貴女に会いたい

わたしは入学当初に隊長に誘われてレギオンに入った創設メンバーの一人だった。メンバーはあっという間に定員の9人になり、レギオンは順調に動き出した。

ある日、一人の隊員が副隊長に任命された。わたしや隊長と同じ前衛ポジションでどんどんと実力を伸ばし序列1位となった方だった。
わたしはそれを祝福したけれど、少し、嫉妬した。

それからわたしは鍛錬に明け暮れた。わたしも隊長に認められたい、その一心で。ついにわたしは序列1位まで上り詰めた。しばらくして、わたしは隊長から副隊長になってくれないかとお願いされた。天にも昇るような気持だった。わたしは二つ返事で了承した。これでもっと隊長と仲を深められる!もっと頼ってもらえる!

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隊長があまり隊室に来なくなった。レギマや外征にもほとんど来ていない。どうも隊長は最近忙しくしているようだ。だったらわたしがその穴を埋めなくては。

隊長が隊長を辞任した。新しい隊長はわたしともう一人の副隊長のどちらでもない隊員だった。新隊長就任と同時にわたしたちは副隊長を解任となり、新しい副隊長が選出された。新隊長と親しくしていた隊員だ。わたしは副隊長ではなくなってしまったことに少し気を落としつつも、元隊長とこれからも一緒に戦えるならそれでいいと思った。

元隊長の姿をもう随分と長い間見ていない。元気にしているだろうか。また貴女と一緒に戦場に立ちたい。この頃になるとわたしもレギオンにあまり顔を出さなくなっていた。あの人のいないレギオンは色褪せて見えた。

元隊長がレギオンを除籍になったらしい。もうずっと連絡も取れず行方も分からないからだそうだ。新しい隊員がレギオンに加わった。そこはあの人の席なのよ?…言葉には出来なかった。

わたしもレギオンを辞めた。わたしはあの人と一緒じゃないと戦えない。あの人の言葉が、笑顔が、温もりが、恋しい。わたしはあの人を探しに行くことにした。

わたしだけの隊長、愛しい人、貴女は今どこで何をしていますか?

お姉様と一緒なら

 
初めてレギオンに所属し外征に参加した時、私はノインヴェルト戦術のやり方をよく分かっていませんでした。
自分のマギを込めた後、どうすればパス出来るのか分からずに右往左往していた私を助けてくれたのは
同じ後衛にいた先輩リリィのお姉様。慌てて禄に声も出せない私に優しくパスの方法を教えてくれました。
外征が終わった後、レギオン内で謝罪した時もそのお姉様は真っ先に気にしないでと言ってくださいました。

リリィになったばかりの私と違い1回りも2回りも立派なお姉様は、レギオンの中でも回復の要です。
前衛メンバーが誰一人倒れる事がないよう常に忙しそうにヒールを飛ばしているそのお姿に追い付きたいと
私も同じように回復を集め続ける事にしました。いつかお姉様と肩を並べる一流のヒーラーリリィになる。
その時から、お姉様は私の目標となったのです。

それから一ヶ月、ようやくお姉様の後ろ姿が見えるくらいに私が成長した時にそれは起きました。
「前衛が足りていませんので、どなたか前衛へ回ってください」
今まで前衛を担当していた1人が戦死し、前衛ポジションに空きが出来てしまったのです。
新しいメンバーも募集しているそうですが、集まらないので今居るメンバーでやりくりするとのこと。
隊長は後衛よりも前衛不足を危惧したのか私達後衛の中から前衛転向者を求めてきました。
しかし、お姉様に追い付く事が一番の目標だった私はとても前衛を出来るような状態ではありません。
自分が指名されない事だけを祈りながら俯いてただ震えていました……。
「私がやります」
その声にハッとして顔を上げると、お姉様が手を上げて立候補されていました。
唖然とする私に気付くと『仕方ないわね、貴方は』とばかりに苦笑され、私はまたお姉様に助けて貰った喜びと
押し付けてしまった罪悪感で胸がいっぱいになってしまいました。
お姉様と前衛後衛で離れ離れになってしまう事に寂しさを覚えつつも、お姉様なら前衛になっても大丈夫だろうと
その時の私はすごく楽観的に考えていたのです。

その日以降、私達のレギオンはマッチで負け越すようになりました。
回復一筋だったお姉様は、私と同じように前衛を満足にこなせるだけの準備が出来ていなかったのです。
後衛である私達も、回復の要になっていたお姉様が欠けたために回復が全然追いつかなくなり
足りなくなった回復を補おうとした結果、満足に支援を送る余裕すらない状況が続いています…。
何もかもが上手くいかないまま過ぎる日々、空気が重くなるばかりのレギオンルーム、苛立ちを抑えられていない隊長。
そしてついにランクが最低位まで降格してしまったその日、レギオンルームに怒号が響き渡りました。
「後衛はもっとちゃんと仕事をしてくださいな!!前衛が満足に攻撃出来ずに困ってますのよ」
無理に後衛からお姉様を転向させておいて追加メンバーも集められていない隊長のその一言に私は我慢出来ませんでした。
「お姉様を前衛にしたのですから後衛が足りないのは当然でしょう!自身の方針ミスを後衛に押し付けるのはやめてください!」
さすがにお姉様を後衛に返して!とは言えませんでしたが、初めての隊長へ反論に周りやお姉様もビックリしています。
隊長は顔を真っ赤にして何か言おうとしたようですが、結局そのままその日は解散となり皆自室に帰りました。

翌日、いつも通りレギオンルームに向かった私は、その扉を開くことが出来なくなっていました。
私はレギオンから追放されていました。所属欄に無所属と表示されようやくその事実に気付いた私は涙が溢れるのを止めることが出来ませんでした。
もうお姉様と同じ時間を過ごすことが出来ない…、あれだけお姉様が助けてくれたにも関わらず、私の迂闊な一言で全てが終わってしまったのです。

一晩中泣いて、私はもう全部がどうでも良くなってしまいました。
新しいレギオンを探す事もせず、自室で寝て起きるだけの日々。もうここで終わってもいいんじゃないかな…。
そんな時、自分宛の通知が来ている事に気付きました。こんな私に通知を送るなんて誰だろうと端末を開くと
【新しいレギオンを作りました。参加して頂けませんか?】
差出人はお姉様でした。驚いた私が着の身着のまま慌ててその新レギオンの控室に駆け込むと、そこにはいつもの微笑みを浮かべたお姉様が。
「私も抜けてきちゃった。2人だけのレギオンになっちゃったけどいいかしら」
ああ、私はお姉様さえいてくれたら良かったんだ……。私はただ泣きながらお姉様の差し出した手を縋り付くように強く握りしめた。
私が居なくなった事に気付いたお姉様は、後衛の人達と一緒になって隊長と口論したらしい。
しかし、いくら話しても無駄だと悟ったお姉様は自分からレギオンを抜けて来たんだそうだ。
ランクは初期、メンバーも2人だけ、外征もまた最初から、何もかもが0からの再スタートになってしまった。
これからきっと大変な毎日が待っているけどもう不安はない。私の前にはまたお姉様がいるのだから。2人ならきっと大丈夫。

元のレギオンメンバーも殆ど入隊してくれてあっという間に9人揃った、お姉様の人望と行動力はすごかった。

大嫌いな貴女とその後日談

思えば、初めて出会ったその時から、貴女のことは気に入りませんでしたわ。

私のいたレギオンには、後衛職なら誰もが憧れる素敵なお姉様がおられました。
バフとデバフを一手に担い、戦況を見極めて支持を飛ばしオーダーを撃つ。レギマが終われば貢献度ランキング1位をほぼ独占状態の、まさにレギオンの要、後衛の星。
そんなお強くてお美しいお姉様をも差し置いて、回復量と回復回数で常に1位を誇っていたのがこの私ですの。
支援と妨害のお姉様と、回復の私。二人でレギオンの後衛二枚看板として活躍しましたわ。お姉様が皆を奮い立たせ、私が皆を癒やす……まるで比翼連理の如く、それはそれは仲睦まじい光景でしたの。
貴女が私達のレギオンに入ってくるまでは。

「実は、今日レギオンに新しい子が入ってくれるのよ。私達と同じ後衛担当でね。お友達になれると良いのだけど」
控室でお姉様がそう仰るものだから、最初は私も期待してたんですわよ。最初は。
でも隊長に連れられて入ってきた貴女を見て、すぐに失望に変わりました。なんて生意気でいけ好かない方なんでしょうって。
お嬢様にふさわしくない粗野な見た目に、つっけんどんな振る舞い。隊長に紹介されてもお姉様に挨拶されても笑顔一つ返さない無礼なところ。
何よりその目。控室に揃ったメンバーを見定めるようにねめつけ、「こんなもんか」と言わんばかりの冷たい眼光。私心臓がドキッとして、心底不愉快になりましたわ!
その上新参者の癖に我がレギオンの誇る栄光ある戦術に口を出したり、私の送った挨拶代わりのスタンプを無視したり……(おかげで私のスタンプから会話が一日止まってしまいましたわ!こんな屈辱初めてですわ!)。
とにかくいけ好かない最低なやつ。それが私から貴方への第一印象でした。
ところが翌日になってその印象は更に地に落ちることになったのですわ。

次の日、貴女が加入してから初めてのレギマがありましたわ。後衛希望ということでしたのでひとまずお姉様の隣でレギオンの全体的な動きを見てもらい、そこからポジションを決めるということになりましたの。
普段は私の立ち位置であるお姉様の隣を奪われてイライラしていたところに、私の耳に届いた一言。恐らく生涯忘れませんわ。
「というわけでこれが私達のレギオンなのだけど……どうかしら?どのポジションをしてみたいとか、ある?」
そう問いかけるお姉様に対して、貴女は
「そうですね、私は回復に回ろうかと思います。今一番手薄なので」
イマイチバンテウスナノデ。貴女ははっきりとそう仰りましたわ。こともあろうに!回復担当である私の目の前で!
その瞬間CHARMを放り投げて貴女の胸ぐらを掴み、思いつく限りの罵詈雑言を浴びせようかと思いましたわ。そうしなかったのはひとえにお姉様が隣に立っていらしたから。
落ち着くために深呼吸を過呼吸になるまで繰り返し、それから心に決めましたの。
「絶対に貴女を追い出してやる」と。

その日から私の孤独な戦いが始まりましたわ。
貴女のことを常に無視し(結局貴女は一度も話しかけてこなかったので意味はありませんでしたけど)、控室では悪口を聞こえるように言いふらし(お姉様に叱られてすぐやめましたわ)、ありとあらゆる嫌がらせをしました。
それでも貴女はどこ吹く風。それどころか段々とレギオンに馴染みだし、メンバーに笑顔を見せ始め、遂には隊長やお姉様とレギオンの戦略について話し合うまでになりましたの。
そう、腹の立つことに確かに貴女はお強いリリィでしたわ。特に回復に関しては私に勝るとも劣らない腕前で、常に回復の貢献度ランキング1位を競い合っていました。初めて回復回数で抜かされたのを見た日には悔しくて悔しくて眠れませんでしたわね。
実力があり、戦略に明るく、たまに見せる笑顔が可愛い。気付いた頃には貴女はレギオンの中心人物で、あのお姉様ですら貴女を頼りにしていましたわ。日々の会話に自然と貴女の名前が出るほどに。
それがどれだけ私の心を傷付けたのか、貴女におわかり?

あれは私が初めてお姉様のお部屋にお呼ばれした日。私、この日を心から楽しみにしてて、ダイエットに励んだり、オシャレなお洋服を特注で用意したり。精一杯めかしこんで準備して、「お姉様、失礼します」なんて震える声で扉を開けましたの。
そこにお姉様と一緒に貴女がいたものだから、私の頭の中は真っ白になってしまいましたわ。
固く閉じてしまった喉をどうにか開いて「どうして貴女がここに……?」って聞いたら、お姉様がこともなげに
「あら、言ってなかったかしら?この子から借りた戦術書を返すついでにお部屋に呼んだの。いつも感想戦と称してお茶会してるのよ。あなたも一緒にどうかしら?」
あぁ、貴女は何度もこの部屋に訪れているのね。私は初めてなのに。そう思った瞬間、頭の中の何かが切れて。その場で回れ右して逃げてしまいました。
頭の中を埋めていたのは「嫌い」の二文字。
嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。
嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。
嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!
私からお姉様を奪う貴女が嫌い!レギオンでの立場を奪う貴女が嫌い!私にその笑顔を向けてくれない貴女が嫌い!!
本当に本当に……貴女なんて、大嫌い!!!!

ーーーなんて、フフ。懐かしいですわ。後から聞いた話だと、あの日お姉様は仲の良くない私と貴女の親交を深めるために呼んだのだと聞いて、全くお姉様らしいとため息が出ましたわ。
結局、憧れのお姉様は私達のどちらかを選ぶどころか隊長と共に別のレギオンに移り、私も貴女も今は違うレギオンで別々の道を歩んでいますわね。
貴女と会うことももうないでしょう、せいせいしますわ。
……でも、たまに思うんですの。同じレギオンにいながら言葉すら交わすことなく去っていった私達ですけど。
もし。もしも。たった一言でも声をかけていれば、どうなっていたのかしら、と。
結局いがみ合う関係になった?それとも……お友達になれたのかしら。
真相は闇の中ですわ。それでも万が一、奇跡が起きてどこかの戦場で相まみえることができたら、その時は……。

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油断

 
その日もいつも通りの朝だった。
GWも近付き段々暖かくなってきた中であたし達はレギオン控室に集まり今日の外征予定を見ていた。
「今日からエアルム型以外に新しい討伐対象ヒュージが増えるそうよ」
「またこの間の四角いやつみたい感じなのかしら。今の私たちなら楽勝よね」
最近のあたし達は調子にのっていた。まだ高ランクレギオン程の強さはないが
エアルム型の少し強いくらいなら危なげなく討伐出来るくらいに成長しており
それ以外のラージ級についても負けなしの常勝街道を突き進んでいた。
だからその時も深く考えずに、エアルム型と同じ4段階目の強さを外征対象として申請してしまった、
詳細資料に記載されていた特徴についての情報さえきちんと目を通すことなく。
皆すっかり忘れていたんだ、ヒュージとの戦いが命懸けの危ういものだって事を。

ファイ型と接敵したあたし達はいつも通り攻撃重視で戦闘を開始した。
ノインヴェルト戦術を安定して決めるため、強化形態に移行するまでは各自のレアスキルを温存し
堅実に削っていく定番の流れだ。
エアルム型と違い、相手の防御フィールドもさほど硬くなかったので攻略は順調に進んでいた。
「今回も楽勝ね。大して攻撃力もないし、ただ耐久力だけがある木偶の坊ですわ」
「ほら、ちゃんと集中しなさい。相手はこれでもラージ級なのよ」
違和感を覚え始めたのは弱点への集中攻撃オーダー指示も一段落した頃からだった。
前衛で戦っているメンバーの防御フィールドはしっかり強化されているにも関わらず怪我が目立つようになっていた。
しかし、これくらいならエアルム型と戦う時でもよくある怪我だとヒール任せに戦闘を続けてしまった。
「はぁはぁ…。本当に、耐久力だけは高いヒュージですわね」
「おかしいですわ。先程から攻撃がどんどん重くなっているような…」
「そ、そんなはずは有りませんわ。CHARMの防御フィールドもちゃんと展開されていますし、まだ強化形態にも-」
それは一瞬だった。突如突進してきたファイ型に前衛メンバーの1人が大きく吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
防御フィールドは消えていないのに、ファイ型の攻撃はそんなもの意に介さずリリィを吹き飛ばしてしまった。
かなりのダメージを受けたのか、メンバーはわずかに身じろぎするだけでもう満足に動けないみたいだった。
「後衛!早く救護を!急いで!」
あたし達は慌てて集中してヒールをかけようとした、でもヒュージは待ってはくれなかった…。
牽制射撃を物ともせずに突っ込んできたファイ型に再度跳ね飛ばされピクリとも動かなくなったメンバーのその姿をみて、そこでようやく
あたし達は自分たちの失策を悟った。ファイ型の攻撃力がどんどん上がり続けていたのだ。
1人、また1人と前衛を担当していたメンバーが悲鳴を上げて倒されていく。最早戦闘どころではなかった。
隊長が撤退を宣言した。が、ヒュージから簡単に逃亡出来るようなら苦労はしない。
前衛最後の1人になった副隊長が囮を買って出てくれている間に、あたし達は全力で後退し何とか撤退することが出来た。
最後まで戦場に残った副隊長は結局帰ってこなかった……。

たった1日であたし達のレギオンは半分になってしまった。朝一緒にお茶をして、談笑してた彼女達はもうこの場にいない。
体どころか遺品の1つすら持って帰って来てあげる事すら出来なかった。
彼女達はまだあの戦場で横たわっているのだろう。ヒュージしかいないあの廃墟に…。
どうしてもっと慎重に行動しなかったんだろう…、今までと同じようにもっと弱い個体で情報収集から始めなかったんだろう…。
どうしてレアスキルを温存しちゃったんだろう…。
俯いたままブツブツと呟く隊長の手から零れ落ちた資料にはこう書いてあった。
「ペネトレイ種ファイ型はDEFは低いがATKバフを使いダメージアップを狙ってくる。
 合わせて複数体にDEFデバフを行ってくるので強化状態へいち早く移行させること」

 

私は鳥

つがいに出会い幸せの歌を囀る

私は鳥

つがいを失い絶望の歌を囀る

私は鳥

つがいの幻影に渇望の歌を囀る

私は鳥

かつてのつがいの姿に喜びの歌を囀る

私は鳥

つがいを奪った者達に怨念の歌を囀る

私は鳥

復讐の炎に身を焦がす悦びの歌を囀る

私は鳥

潰してやる

私は鳥

つがいは再び姿を消した

だけど不思議……絶望は無い

今までの狂おしい程のあの感情はいったい何だったのだろう?

つがい…………つがい?

私は鳥

なにものにも縛られない自由の歌を囀る

あら?あのお方ステキですわね?

きっと私のお姉様ですわ

また会えた貴女に誓う

 
「はぁっ……くっ……」

学園から渡された新たに現れたヒュージ討伐任務、ゲボイデと名付けられたヒュージの前に私は苦戦していた。
本来ならレギオンや同じ学園の仲間と共に任務に当たるはずだったのに、私は道を間違えてゲボイデと単身遭遇してしまった。道を間違えたことで慌てて仲間に連絡しようとして連絡用端末は破損しており助けは呼べない。
撤退しようと思って振り返ればやってきた道はゲボイデの攻撃で破損。まともに走ることはできなくなっている。
取り敢えず今は助けを待とうとゲボイデの攻撃を凌いでいるけれど、このままでは先に私が力尽きるだろう。

「しまっ──」
足を滑らせる。目の前にゆっくりと広がる青い空と迫ってくるゲボイデの触手。チャームはあらぬ方向を向いて、防御はきっと間に合わない。
もう、ここまでなんだ。
「最後にあのパンケーキ……食べたかったな」
ぽつりと呟いて、目を閉じて痛みがやって来るのを待つ。と同時に鳴る金属音と、
「だったら、食べるまでは死ねないね」
そう言葉を紡ぐ、一人のリリィ。
その姿は私のいるレギオンに所属しており、もっと自分の力を磨くと別のレギオンに移籍したお姉様。
「お姉様……!」
まさか、会えるなんて。こんなところで、またお姉様と言葉を交わせるなんて。さっきまでの絶望に染まった心が明るく晴れる。お姉様がいるなら、こんなヒュージなんて敵じゃない。
「ほら、立って。立たないと一緒に食べに行ってあげないよ?」
ゲボイデを睨みながらそう意地悪に言うお姉様に「はい!」と返事をして立ち上がる。スカートを整えてお姉様の横に立ってチャームを構えたら、もうさっきまでの弱い私はいなくなった。
「強くなったね」
「お姉様に追いつきたくて、頑張ったんです!」
胸を張って、貴女に誇れる自分になれるためにと心の中で補足する。大丈夫、もう私はお姉様に護られるだけの私じゃない。
お姉様と頷きあう。そして……共に地を蹴った。

   

「お姉様!もしよろしければこの後…」
「ごめんね。でもまだ助けに行かないと」
ゲボイデの残骸を確認後。かつてお姉様と共に食べたパンケーキを提供するカフェに行こうと誘う私を先手をうって断るお姉様が少し恨めしい。
でも、仕方ない。お姉様は私より強いんだから、助けを求められる。そして断らない。そんな人だから私は慕っているんだし、また会いたいと思っているんだから。
「分かりました。私はこの辺りを巡回しておきますね」
「うん、お願い。でも無理はしないで?
 それじゃあ……あ、今度一緒に行こうね。新商品出たらしいから」
お姉様は言うだけ言うとすぐに立ち去っていってしまった。
私はまだお返事をしていないのに。
まぁ……断るわけがないから返事なんてどうでもいいかもしれないけれど。
それでもお姉様とまた会える。また一緒に言葉を交わせるなら構わない。
その時まで、私は決して死なない。そう決めて、チャームを握りしめた。
 

言葉にする勇気が欲しい

今日、ボクのレギオンの隊長が変わった。
新しい隊長は初期の頃から隊長に変わって音頭を取ってくれていた副隊長。
隊長、…前隊長はただの1レギオンメンバーになっていた。

ボクが前隊長と会ったのはレギオンの勧誘合戦が活発な時期だった。
やる気はあるが目的はなく、どこのレギオンに入ればいいのか迷って眺めているだけだったボクに
初めて声をかけてくれたのが前隊長だった。
レギオン内ではあまり積極的じゃないけど、少しずつ少しずつ強くなっていく前隊長の事がボクは好きだった。
隊長がいたから、あまり人付き合いが上手くないボクはこのレギオンでずっとやっていけたんだ。
それだけに隊長の交代はショックだった。大変だったのならボクに相談してくれても良かったのに…。
きっと新隊長と前隊長の間では色々話し合いがあったんだろうと思うと胸の奥にチクリと痛みがはしる。
もっと色々チャットしてみたら良かったんだろうか、でも話すの苦手だしな…。

新隊長が空席になった副隊長の席につく人を募集してた。
そこは前隊長が座って欲しいと思ったけど、彼女は立候補してくれない。
推薦とかしてもいいのかな…、でも勝手に推薦して迷惑だったら悪いし…。個別に聞いてみようかな…、でも返事貰えなかったら…。
そんな事を考えているだけで結局ボクは何も行動出来なかった、本当にボクは自分からは動けないダメな娘だ…。
立候補したメンバーがいたので、このままだと副隊長も決まってしまう。
そうなれば前隊長は本当にただの1メンバーになってしまう、何か嫌だな…。
分かってる、まだレギオンに残ってくれているだけでも十分なんだって。
もしかしたら居なくなってしまうんじゃないかって不安だったから、隊長が交代してもずっと残ってくれてるのは嬉しかったし。
でもこのレギオンは彼女が結成したレギオンなんだ、結成者の彼女が運営に何も関われなくなるのは違う気がする。
せめてこのモヤモヤ感だけでも新隊長に聞いてもらおう!それでも解消しないようだったらこのレギオンを離れる時かもしれないな…。
そう、決めたはずなのに結局ボクは誰にも何にも言い出せなかった。いつも通り、声を上げることなくその日は解散となってしまったんだ。
ごめんね、またボクは勇気を出せなかったよ…。

次の日、ちょっと憂鬱な気分でレギオンルームに行く。少し時間が早いのかボクが一番で部屋には誰もいなかった。
新しい副隊長をちゃんと確認しようと、レギオン名簿を開いたボクは目を疑った。
そこには、副隊長のマークが輝く前隊長の名前があった。
そっか…、副隊長って2名指定出来たんだ。なんだよもう…、最初から指名する気だったのならそうと先に言ってくれよ。
きっと前隊長と新隊長の間では最初から決まってたんだろうな。また2人だけで決めて本当に…。
ボクの杞憂は要らないものだったみたいだ。本当に良かった。
今はまだ無理でも、何時かボクからちゃんと声を上げられるになろう。
そして前隊長が抜けたりしないように、今度こそボクが彼女を助けてあげるんだ。
ボクが彼女の一番になるんだ!このレギオンからは絶対逃さないからね。

一番嫌いなのは

 
嫌い嫌い嫌い。
自分が参加日を決めた言い出しっぺなのに全然マッチに来ない人が嫌い。
まったりを言い訳に決まってる参加日に参加して来ない人が嫌い。
どうせログインしかしなくて戦力値一切変わってないのにずっと居座る人が嫌い。
ログインする元気はある癖にデイリー消化のチャット書き込みすらしない人が嫌い。
やる気ないなら抜けてよ!自分で分かってるんでしょう、熱意が冷めたって!何時までその冷めた心でしがみついてるの。
どうしてゲームでまで他人に迷惑をかけるの、お願いだから心労を増やさないでよ。
皆が楽しく気軽に遊びたいだけなのにどうしてそういう事するの…?方針に合わなくなったならさっさと自主的に出ていってよ……。

コロコロと物理と特殊を切り替える癖にどっち重視なのか言わない人が嫌い。
誰かが提案するとすぐに流されて自分の方針を持ってない隊長が嫌い。
最初に言わずに全滅した後でこうすれば勝てるのにと情報後出しにしてくる人が嫌い。
どう見ても精一杯頑張ってたのにごめんね…って言ってくるヘボリリィが嫌い。
勝ちたいなら勝ちたいって言ってよ!勝つ方法知ってるならちゃんと教えてよ!言われないと分かんないよ!
負けたのは皆の問題なんだから自分の責任だって思い込まないでよ、一緒に責任を負わせてよ、一緒に反省会しようよ…。

まったりなら何してもいいの?ルールに決まってないから自由でいいの?
それで他のメンバーが傷つかないと思ってるの…?
ルールを厳しくしたらいい?厳しくしようと話しても空回りして必死だってみんな嘲笑ってたじゃない!
最初に集まってた時はあんなにやる気だしてチャットしてたのにみんなどうして静かになっちゃったの。
スタンプの1つでもいいから反応してよ、私だけ毎回みんなに反応して馬鹿みたいじゃない……。

こんな事ばっかり思って実際には何も口に出せない自分が嫌い。
勝ち負けなんて気にしない楽しめたらそれで良いって建前で自分の悔しいって思いを誤魔化してる自分が嫌い。
さっさと自分にあった新しいレギオンに移ればいいのに行動に移せない自分が嫌い。
新しいレギオン設立で募集の話が出てるのに羨ましいと思うだけで何もしない自分が嫌い。
やる気あるメンバーが抜けて他のレギオンに移籍したのをショック受けてる自分が嫌い。

気付けば他人に求めてるばかりの自分自身が本当に大嫌い…。

愚か者

2021年5月8日
日付は変わってしまったけれど、忘れないうちに記しておこうと思います。
救いようのない馬鹿な私の、その馬鹿さによって救われる方がいることを願って。

これを読んでいる貴女は今の自分をどう思いますか?
お慕いしているお姉様やご同輩、妹分はいますか?
所属しているレギオンのことは好きですか?
今の自分の気持ちがどうなっているか、わかりますか?

その想い、伝えられていますか?

私は駄目でした。
…いえ、隊長にご相談はしました。
本当はそれすらも悩みましたけれど。

隊長は貴女が思うよりもっと頼りになる方かもしれません。
レギオンの皆は貴女が思うより優しい方々かもしれません。
各々がいろいろな事を考えていて、浅はかな貴女の考えよりも
ずっとずっと、複雑で強い思いを抱いているかもしれません。
悩みを抱えながらも強く気丈に過ごしているのかもしれません。

私はそう信じきれませんでした。
そこに手を伸ばし探ろうとできませんでした。

怖かったのです。
拒絶されることが。関心が無いと理解することが。
今の雰囲気が壊れることが。
それにきちんと向き合うことが。
自分がその変わるきっかけとなることが。

ただの甘ったれでした。
どうしようもなく弱かったのです。
自らこそがノイズとなったような感覚が拭えませんでした。

その結果、私は心配してくださる隊長に背を向けて、
レギオンのみんなを裏切って、
別の地へ行くことを決めました。
それが更なる負担となることもわかっていて、
それでもワガママを押し通しました。

もう決めたことなのです。
そうすべきと、この馬鹿な私自身が。

なので、私に決断したことの悔いはありません。
ただし、それに至るまでのプロセスは
とても恥ずかしく、みっともないものだったと思います。
レギオンの皆様もきっと驚いてしまったものだと思います。
きっともっと上手くやる方法がいくらでもあったはずです。

何が言いたいのかまとまりませんね。

とにかく、あなたが周囲のその方々を
本当に大切に想っているのならば
どうかそれを伝える前に勝手に諦めぬよう
勇気を出して自らの気持ちをきちんと見つけて
それに寄り添って行動できるよう
この馬鹿が、どこかで祈っておりますわ。

苦手

私は貴女が苦手なの
ミステリアスというか何考えているのか分からないというか…ちょっとマイペースな貴女が
ほぼ同じタイミングでこのレギオンに加入して、確かに仲良くしましょうって言ったわ
レギオンでの役目は私は前衛、貴女は後衛
しっかり援護してくれるとても頼りになるわ。それは認める
でもねノインヴェルトのパスは毎回私に投げてきたり回復や援護も私優先だったり控室ではさりげなく隣に座ってきたり…
仲いいねぇなんて隊長は言うし、割と好き勝手してても許してくれるけれどなんとも言えない気持ちになる
そもそも普通に戦ったら私と同じ…いえ私よりちょっとだけ強いくせに何で後衛にいるのよ貴女は…
…ちょっとだけ、本当にちょっとだけ強いだけよ

「何で私の後ろばかりにいるのよ」
控室で二人だけになったから聞いてみたら
「あなたが活躍しているのを見るのが好きなのよ」
「ふぇ!?」
なんていうものだから私は随分間の抜けた顔になっていたと思う
「そういう面白い反応も好きよ?」
「趣味悪い…」
「自分でもそう思うけれど大好きなんだもの。仕方ないでしょう?」
「…っ!」
思わず控室から飛び出して自室に籠った。今日のレギオンマッチにどんな顔して出ればいいのよ…!

私は貴女が苦手、そんな貴女を嫌いになれずいつの間にかあなたが後ろにいると安心すら覚えるようになった自分が自分で分からなくて…少し苦手になった