少女の日記Ⅱ

Last-modified: 2021-07-13 (火) 06:01:50

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トロフィー

 
日記を書こう、と思う。
こう書きだすのは、私に普段からその習慣がない証拠。
何か嬉しいことだったり、疎ましいことだったり、大きな節目があったわけじゃない。
ただ荷物を置いて休みたい時に書くのが日記のセオリーで……いや、そんな前置きもいらないかな?

私のいるレギオンは、とっても居心地のいいところ。
話に入っても入らなくてもいいし、基本的には自分のペースで活動できる。
流石に何日も顔出さなきゃクビだけど、そこはまあ、そうでしょ。

ただ最低限やるべきことをやっていれば、強制されることなんてない。
だから、というのもなんだけど。
だんだん自分の立ち位置が分からなくなってきて。

隊長や副隊長はいつも楽しそうにしてるけど、そういう雰囲気の中心はやっぱりあの人たちなんだって分かる。
だから頼れるし、ずっとここにいたいって思えるし。
あの子にあの子はレギオンマッチに詳しくて、2人がその気になった時のミーティングはいつも圧倒される。
リリィとしてどうなんだろうって思う時もなくはないけど、最近は特に競技大会じみたところあるし、仕方ないよね。
あの子は自分をしっかり持ってて、すっごくクール。
一言二言しか話さない代わりに、レギオンの活動にはいつも参加してくれてる。
あの子やあの子はまだ経験が少ないけれど頑張り屋で、つい構ってあげたくなるかわいらしさもある。

私は?
考えなしに前衛でCHARM振り回して、攻撃が集中する立場でもないのに防御重視の装備にしちゃって。
メンバーで会話する時もそう。気を利かせたつもりで浮いたことを言ってしまうのがしょっちゅうで。
自分のことは自分が一番よく知ってるなんてよく言うけど、私には粗しか見当たらない。

そんな私にも、いいところが一つだけあった。
この私を頼って、わざわざガーデンを渡ってまでレギオンに入ってくれた子が一人いる。
出会ったきっかけは確か、前の合同任務で一緒になった時かな。
他の子にしたのと同じように挨拶して、有効らしい戦術を一番に実践してみて……特別なことをした覚えはない、と思う。
その後レギオンの端末で連絡先交換して、それも忘れた頃に隊長の紹介で再会したのがあの子だったってわけ。

言ってはなんだけど、私のいるレギオン、もっと言えばガーデンの雰囲気ってちょっと独特なんだよね。
それだけに外からきたあの子の立ち振る舞いが目立ってしまうのも当然なわけで、見てる私の方がハラハラしてしまうことも珍しくない。
でも、あの子はそれを気にも留めなかった。
メンバーの誰にでも明るく話しかけて、聞き出した戦術はどんどん自分の動きに取り入れていく。
実際、あの子の姿勢はレギオン全体に影響を与えてると思う。
それも全員に強制するわけじゃなくて、元々やる気のあったメンバー達を引き上げる、前向きな方向で。

だから、あの子は私の誇り。
私がこのレギオンに貢献できた、ただ一つの成果。
ここ最近は特にそう思うから、こうやって書きだしていく気にもなった。

そういえば、どうして私を頼りに来たんだろう。
まあ、大方前のレギオンを離れることになって、偶然見た私の所属に空きがあったから、ぐらいのものだろうけど。
そんなことはこの際、どうでもいいか。

あなたは私のトロフィー。
たとえあなたが、不甲斐ない私を蔑んでいたとしても。
何時しかここに来たきっかけを忘れてしまったとしても。
私がそうだと思っていれば、それで構わない。

一つだけ、小さな我儘を言うとするならば。
私より先にいなくならないで。

……なんてね。
もしかしたらちょっと疲れてるのかも。寝よう。

流行らない

このレギオンに入った切っ掛けは本当にたまたまだった。
学園の掲示板にあった募集を見てまあ入ってみようかな、なんて軽い気持ちだったのだ。
「よっろしく~」
つとめて明るく、軽い感じであいさつする。固い雰囲気は苦手だ。
「よろしくお願いしますわ」
そう言ってにっこり微笑む可愛らしいお方はわがレギオンの隊長だ。
人当たりの良さそうな人でよかったなって安心していた私の気持ちはすぐに裏切られることになる。
「見てくださいまし!この麗しいフォルム!たまりませんわ~~~!!」
「は、はぁ…?」
レギオンに入るなり隊長が差し出してきたのはなんだかよくわからない不思議な動物のぬいぐるみだった。
狸のようなアライグマのような…ハクビシンのようなイタチような?
とにかく絶妙に可愛くない、有り体に言ってしまえば…とても流行りそうにないキャラクターだった。
どうやら隊長はこのなんともいえない生き物をどうにかして流行らせようとしているらしく
なんならこのレギオンを立ち上げたのもこのぶさいk…いえ個性的なキャラクターを流行らせるためだそうだ。
少し笑ってしまう。
別に馬鹿にしてるわけではない。リリィというのは命がけの仕事だ。
昨日談笑していたリリィが今日にも帰らぬ人となることなど日常茶飯事だ。
そんな中でこの奇妙な、人を食ったような顔をしたこいつがリリィの糧になっていると思うと無性におかしくなってしまう。
だから隊長にきいてみた。なんでこんなにこの変な生き物にこだわるんですかって。
「えへへ、わたしもね、ほんと言うとなんだこいつ意味わかんないなって思ってるんだよね」
まさかの回答だった。
「でもこれは前の隊長に託されたものだから。絶対に流行らせなきゃいけないの」
前の隊長?
「あれ?言ってなかったっけ?私は二代目なんだよ。もうほんとに聞いてよ、いきなり先代隊長はいなくなるし。いつの間にか私が隊長になってるし。もうホントにやめてやろうかって思ってたんだよね」
けらけらとなんでもないことのように隊長は言った。
「でもね。なんだかんだみんながいてくれたからさ。あなたが入ってくれたのもすごくうれしかったよ。だからもうちょっとだけがんばってみてもいいかなって。こいつもよく見ると可愛いしね」
ぬいぐるみをいじりながら照れくさそうに隊長は言った。
そんないじらしい隊長を見て私は…
「…流行ります」
「え?」
「流行りますよ!絶対!この…なんか狸みたいなやつ!」
「どうしたのよ急に」
苦笑する隊長を後目に私はこのとぼけた顔した生き物を隊長のために流行らせると密かに誓ったのだった。

隊員より愛を込めて

○月△日
レギオンに加入して1ヶ月の時が経ちました。
みな順調に打ち解け合い、連携の練度を高めている段階です。
明日は初めての当番。
まだヒュージとの実戦は不安でいっぱいで、現れない事を祈るばかりです。

○月△日
私達に外征任務の指示が下りました。
ちょうど他の有力レギオンが外征で学園を外している事と、先日の当番で成果を上げた事が選出理由のようです。
もうすぐみんなで作戦会議の時間です。ヒュージと戦わなくてはいけないのに、どこか心が踊ります。

○月△日
隊長のお姉様は私達の意見をなんでも聞いてくださいます。
ただ、外征の作戦においてのみは私達の意見を聞きはしても採用なさる事はありません。
お姉様の立てた作戦でこれまで失敗したり、被害が出たりといった事はないのですが、それでもどこか寂しく思います。

○月△日
初めてお姉様に作戦が採用されました!
明日の任務は絶対に成功させてみせます!

○月△日
失敗した。
お姉様に傷を負わせた。
お姉様のファンタズムがヒュージの伏兵を捉えてくださらなかったら、きっと私は死んでいた。
私をかばってお姉様は傷を負われた。
お姉様はかすり傷だと笑っていた。
みんなも私を責めるどころか励ましてくれた。
それでもお姉様が作戦を立てていたら、きっと無傷で任務は成功していたはず。
考えないと、これからの事を。

○月△日
堂々巡りをしている私のところに、他のメンバーが集まった。
みんながその胸中を語ってくれた。
私の作戦が採用されて嫉妬していた事。
失敗してしまえとさえ思っていた事。
けれどお姉様が傷つくのを見て、目が覚めたと。
たまたまこうなったのが私だっただけで、自分の立てた作戦で誰かを傷つけてしまう可能性はみんな等しくあった事。
お姉様はきっと、全ての責任を背負う為に今まで一人で作戦を立ててきた。
ならば私達はそれに答えられるよう、強くなります。
お姉様の作戦を滞りなく遂行できるよう、力をつけてみせます。

○月△日
お姉様の卒業が迫ってきました秋の暮。
最後の大仕事と言わんばかりに、一つの外征任務が舞い込んできました。
相対するはギガント級。
この任務、必ずお姉様への卒業祝いとしてみせます!

隊長より愛を込めて

○月△日
進級して数日、対外的な評価の為にレギオンを設立。
既存のコミュニティに属している集団は避け、孤立している新入生からメンバーを抜擢。
レギオンの運用に失敗したとしても被害は最小限に抑えられると判断。
今後のスケジュールを調整。

○月△日
レギオン設立から2週間。
メンバー間によそよそしさは残るもお互いへの配慮故のもの。
個々の能力値も目立ったところはないが平均前後でバランスがいい。
案外と、いいレギオンになるのかもしれない。

○月△日
レギオンで初めての当番の日にいきなりヒュージが現れたのは幸か不幸か。
撃破は無事成功。戦闘経過に関しては特筆すべき点がない事が特筆事項か。
私のワントップ体制になっているのが功を奏してか、みな私の手足のように動いてくれる。
関係性も良好だ。

○月△日
外征任務が無事終わった。ハイタッチというのを初めてした。
無条件に慕ってくれているみんなの存在がどこか嬉しくもあり、背筋が伸びる思いだ。

○月△日
みんなが作戦を提案してくれる。
私にはないアイディアが多くて存外参考になる。
次の任務にはどれか参考にしてみよう。

○月△日
今日も任務は成功した。だけどどこか空気が重い。
私が負傷したせいだ。
自分の作戦のせいだと言っていたけどそれは違う。
私が作戦を立てていてもあの不意打ちは避けられなかった。
こんな時、なんて声をかけたらいいんだろう。
あんなに曇ったみんなをもう見たくないのに、答えが見つからない。

○月△日
沈んだ足取りで控室に入ると、いつも通りのみんなが出迎えてくれた。
私が何をするでもなく、この子たちは自分で解決してしまったらしい。
ホッとしたら涙が出てきて、また心配させてしまった。
嬉しさと同時に、遠くに行ってしまったような寂しさが胸を刺した。

○月△日
卒業前に箔をつけたいと、学園に外征任務の申請をした。
これまでの戦果もあってか、驚く程あっさりと申請は通った。
最初で最後のギガント級。

○月△日
私は幸せ者です。
最初はいつでも手放せるように作ったレギオンが、今では一番手放したくないものになりました。
私は指導者失格です。
本来ならみんなが自立できるよう導き育てるべきなのに、私の指示に従わせてばかりでした。
私は幸せ者です。
みんなに慕われ、誰一人欠ける事なくここまでこれたのですから。
私は臆病者です。
そんなみんなが私の手から離れていく事がどうしようもなく怖いのです。
私は幸せ者です。
ともに最期の外征に向かえるのだから。

私が作戦を放棄し、無抵抗にヒュージに殺されれば、みんな仇討ちをしてくれる。
作戦の要である私を失えば、遺されたみんなに持ちうる策はない。
あとはただ、蹂躙されるだけ。

これで私達、ずっと一緒だよね。

YES NO

この前、レギオンを抜けた。
 
居心地が悪かったわけではない。いや、むしろ良かった方だ。ノルマなどはないし、レギオン内の会話も和気あいあいとしていて雰囲気はとても良かった。
 
それだけに、私がここにいていいのだろうかと思ってしまった。レギオンでも強いわけでもない。これといった取り柄もなければ積極的に発言するわけでもないし、戦術の提案もしない。私はただそこにいるだけだった。お姉様たちの話す戦略は聞いてじっくり考えないと理解できなかったし、自分の考える戦略が適したものかの自信もなかった。
 
だから……段々とここにいていいのかと不安に襲われたんだ。少なくとも、自分が抜ければ一人の枠が開く。そうすればきっと私よりも優秀なリリィがやってくるだろう。私と違ってお姉様たちを的確に支援して、厄介な相手には上手くデバフをかけて危なくなったら回復できる。私は自惚れているわけではないけれど、一つはできていたのではないかと思う。
もっとも、それは『自分の他の能力と比べれば』という冠詞がつくのだけれど。
 
優しいお姉様たちはそんな私を責めなかった。こんな私でも受け入れてくれて、決して「ああしろ、こうしろ」とは言わなかった。
 
──その優しさが、心苦しかった。きっと被害妄想だって分かってる。あの優しいお姉様たちが私を疎ましくなんて思っていないはず。それは分かってる。信頼してるからこそ、分かる。でも……私の心は軋んでいく。いっそのこと責めてくれれば私は気分良く抜けられただろうって思う。優しいお姉様たちがそんな酷い人なわけないから叶わない望みだ。それに、そんな酷い人になってほしくないから望みたくもない。
酷いのは、身勝手な私だから。
 
どうか、私を恨んでください。
どうか、私を忘れてください。
どうか──幸せになってください。
 
 
 
 
 
 
私はそれだけを願って、眠る。このサナトリウムで夢を見る。
お姉様たちと私が笑顔で話し合う、そんな紛い物な都合の良い幻を。

他愛も無いこと

 
カップリング談義に花が咲く中

チャーミィ×ピュージ

そんな組み合わせもありかもしれない…深夜にふとそう思った。

7日以上前

 
授業が終わると私いつも通り一番ノリでレギオンの控室に入る。
日課になっているテーブル周りと窓の掃除を終え、お姉様達が来る前にお茶の準備を始める。
今日のお菓子は昨晩焼いておいた少し甘めのクッキー。紅茶はさっぱりしたものがいいでしょうね。
テーブルに各自のお気に入りカップを並べてお茶会の準備は万全だ。あとは皆さんが揃うのを待つばかり。
楽しいお茶会の時間を終えたら外征に向けて気持ちを切り替える。
制服も着替えCHARMのメンテも万全だ、今日もお姉様達と華麗な連携を決めて外征を成功させて帰ってこよう。

…今日の外征はちょっと失敗してしまった。ノインヴェルト戦術をうまく繋ぐ事が出来なくて
お姉様達に迷惑をかけてしまった。他のレギオンの倍近い時間をかけてしまうなんて後で反省会です、これは。
外征に時間をかけてしまったのでレギオンマッチの準備を行う時間があまり残っていない。
急いで準備をしなければ。
今日負けてしまうとまた勝星がリセットされてしまいます。昨日拾えた貴重な勝ち星を何とか維持しようと
お姉様達に向けて意気込みを語るとマッチの会場へと向かう。外征での失敗もここで取り戻さないと。

今日のマッチは快勝だった、相手のレギオンメンバーがたったの5人だったのは本当に大きかった。
こっちはお姉様達も含めて9人いるんだから負けるはずもない、チームワークの勝利だ。
これなら久しぶりに昇格出来るかもしれません。ちょっと気持ちが先走ってますが簡単な祝勝会を開きましょう。
お姉様達の好物をテーブルに並べて皆で食事をしました、お姉様達と過ごせるこの時間が何よりの宝物だ。

お姉様達が皆自室に帰って私は1人残って後片付けです。
今日使ったカップやお皿を綺麗に洗い、また明日お茶会を開くための準備も整える。
全部終わって自室に帰る頃には消灯時間ギリギリになってしまった。

「今日もお1人でお片付けをされてたんですか?」
「ええ、お姉様達に任せるわけにはいきませんから。明日の準備も万全ですわ。」
同室の娘に挨拶をして私はすぐにベッドに入る。明日もお姉様達のために頑張らないと。

「ほら、またあの娘1人でレギオン控室に。あのレギオンってもう…」
「ええ、隊長さんと副隊長さんも含めて外征任務中に失踪されて…。救援にいったレギオンが見つけたのは彼女だけだったそうですわ。」
「話し声が聞こえますが、どなたと話しているのでしょうか…」
「さあ……。外征やレギオンマッチにも登録しているみたいですが、いつも見かける時はお一人なのに一体どなたと参加されているでしょうね…」

今日も私は授業中にあったこと・これからやりたいことをお話すると、お姉様達は黙ったまま私に笑いかけてくれる。
ああ、皆がいてくれるだけで私は幸せだ。
何日、何年経ってもずっと一緒ですよお姉様…。

ちょっとした不安

私はレギオンを作った。
みんなでヒュージと戦う外征
将来行うと伝えられたレギオンマッチ
そのどちらも参加自由なまったりなレギオンを。
作った理由は唯一つ、自分のペースがわからなかったから。
そんなふわっとしたレギオンでも集ってくれた皆がいる。
こんなレギオンでもなぜかSランクにいる。
そして、今度のマッチでランク維持か降格かが決まる。

私は不安だ
皆の中でもやっぱり温度差がある。
レギオンマッチに積極的なお姉様や
鍛錬はマイペースだけど外征には積極的に参加してくれるあの子。
降格で亀裂が入ってしまわないかが、不安だ。
このレギオンも数人メンバーが入れ替わったことがあったけれど
明日からも変わらず皆と居られるといいな

決意

「構いませんわ。では残り一枠になったら一応お声掛けさせていただきますわね。
 ……やらずに後悔するよりもやって後悔するほうがマシですわよ?」

そう言うと彼女は踵を返しました。

数日前、ガーデンの掲示板で新レギオン設立の告知を目にしました。
来るレギオンリーグ、ギガント級ヒュージ討伐のため切磋琢磨できるメンバーを募集する……。
戦闘訓練もヒュージ迎撃も必要最低限の義務しかないこのガーデンでは珍しいなと思いながら、
それが私にはどうにも眩しく見え、覚悟も決まらないままに連絡してしまいました。

今のレギオンではうまくやれているはずなのです。
私は一番の新参者ではありますがレギオンメンバーとの仲も良好、だと思っています。
連携が求められる外征任務、レギオンマッチも一定以上の戦果を上げています。
なのにどうして、羨ましい、と思ってしまったのでしょう。

もやもやした気持ちを抱えたままでいるのが嫌で
レギオンのみんなにお話しました。

「実は新設されるレギオンに移籍しようか迷っていて…、
 でもこのレギオンが嫌になったとかそういうのじゃなくて…」
この報告を聞いたメンバーは驚いたり申し訳なさそうに顔を伏せたりしているように見えました。
暫しの沈黙の後、私が顔を上げると隊長が困ったように眉を寄せて笑っていました。
「そう……残念ですが仕方ないわね。
 けどレギオンリーグで当たることがあっても、その時は手加減なんてしないんだからね?」
残り数日だけどよろしくね、そう言ってこの話はおしまいになりました。

─自室のベッドでしばらく天井を見つめていました。
移籍するのを決断したはずなのに、もやもやが消えません。
みんなを裏切ったのは私なのに寂しさを感じるなんて……
そこまで考えてようやく気が付きました。

裏切ったと、そう感じる程に私はみんなのことが好きだったんだ。

やらずに後悔するよりもやって後悔するほうがマシ。
せめて悔いは残さないようにしたい、
そう思ってメンバーにこれまでの感謝を伝えました。

もうちょっと気の利いたことが言えなかったかな…と
自己嫌悪に陥りそうになっているところにかけられた言葉は
私なんかにはもったいないものでした。

私の心の中だけに刻んでおきたいのであえて記しません。
決して色あせることのない言葉です。

所属するレギオンが違おうとも、それは決別を意味するものではないのです。
あの子はうちのメンバーだったと誇ってもらえるよう、
みんなに恥じることのない私でいたい。

彼女に正式に移籍する旨を伝える私にはもう迷いはありませんでした。

「はい、皆さん快く送り出してくれました。これからよろしくお願いします!」

同室

寮の部屋に戻っても、だれもおかえりと言ってくれない。

「「ただいまー」」
2人揃ってただいまって言っちゃうからだ。

「隊長や他の人達、みんな経験豊富って感じだね」
「はい、知らなかった事が多いですね…」

食事も入浴も済んでるのだから、私は2段ベッドの上に寝転がる
掛け布団の上にだ、寝るつもりはまだない。

「風邪ひきますよ」
「まだ寝ないもん」
「いつも寝落ちしてるじゃないですか…」

「それよりこれ!見てよ私の戦力の上りっぷり!」
B5ノートサイズの情報端末に、パーソナルデータが表示される。
ガーデンからの支給品だ。
昔はこのぐらいのデバイスは誰でも持っていたらしい。

「…短期間にずいぶん上がってますけど…」
「すごいっしょ」
自慢げに言う私に、彼女は何か言いたげにじーっと見つめてきて
私は思わず目を逸らす。
そうしたら…。

「貴方は、人当たりがいい割に、負けず嫌いで頑固なのは知ってますから」
「違うやい、やれることをやってるだけだもん」
「ほら、頑固じゃないですか」
「むぅ…!」

「むしろさー、君は前衛任されてるんだから、もっとやる気出してこうよ!」
「私もやれることを無理なくやってますよ」
「マイペースなんだから…」
「…でないと、貴方が無茶する時に助けられないでしょう」

夜半に目が覚めた。
私は犬や猫のように、眠りが浅くて音に敏感なのだ。
暗い部屋に、人の側にいる熱。吐息と匂い…。

私は、いつものように話すうちに寝落ちてしまい。
彼女は、いつものように2段ベッドの上に潜り込んできたのだ。
背中の温もりを感じて、私は目を閉じる。

日記

誰かの日記を読んだ

私はそれを告げる事ができなかったけど

誰かの日記を読んだ

私の知っている彼女の日記かどうかは分からないけど

誰かの日記を読んだ

私が彼女にしてあげられた事はそれ程無かったと思うけど

彼女の日記を読んだ

『息災でありますように』

そう書き加えて、私は日記を閉じた

おまけ

チャットログ「昨晩の出来事を覚えていないの!!」
覚えていなければ、レギオンチャットのログが消えてもいいって言うの!?

閉じていた瞳

また向上に意欲的な新しいレギオンが設立されるらしく、盛んにメンバー募集が行われている
周囲は誰かが移籍するんじゃないか、引き抜かれるんじゃないかという話題で持ちきりだ
あのレギオンから誰かが抜けるらしい、誰かは必死に引き止められているらしい……といった噂も飛び交っている

幸い私が所属するレギオンには特に様子が変わった人もなく、日々平穏に過ごしている
あなたのレギオンは大丈夫? なんていう友人の冗談も笑って軽く流せた
……ほんのちょっとだけ悪い冗談
実は以前、私のレギオンから抜けた人がいたけれど、それは昔のこと
それは彼女もわかっているから、もう笑い話にしようとしてくれたのかもしれない
実際なにも問題なんてないとは思うけれど……
なんだかその言葉が残滓として胸にこびり付いたように感じて、つい1人になってから余計な想像をしてしまった

うちのエースのあの子は、もしかしたら物足りなさを感じていて密かに葛藤していたりしないだろうか
あの子が抜けたら……戦術を一から見直さないといけなくなって大変だろうな

ムードメーカーのあの子が抜けたら……少し静かなレギオンになってしまうかもしれない
意識の高いレギオンに移りたいとは考えてなさそうだけど……なんて思ったら失礼かな
でも、レギオンを明るくしてくれているあの子が、実は移籍を考えていたりしたら……結構ショックかもしれない
メンバーが抜けたその昔、来てくれた彼女が去るというのは想像したくない

隊長は……いや、隊長が抜けるわけないか
隊長が移籍するなんて言い出したら、もう笑うしかないかもしれない
きっとレギオンは空中分解するだろうな

私が仄かに憧れているあのお姉様が抜けたら……

……おかしい
他愛のない想像だったはずなのに、すごく苦しい
まるで喉元を締め付けられているみたいに息が詰まる

お姉様は強くて、でも優雅で、いつも落ち着いている
私の目標で、ずっと背中を追っている人
リリィなら誰しもそんな先輩が1人くらいはいる――そのくらいのつもりだった

お姉様がいなくなる
それを少し想像しただけで涙が溢れてきた
怖いのは移籍だけじゃない
リリィなら戦って命を落とすことだってある
それが身近に、明日にも起こることかもしれないということに私は気付かないでいたかったんだ
お姉様が私の中でこんなにも大きな存在になっていたことも……

 * * *

もう目が腫れていないか鏡を見て確かめた
こんな感情をぶつけたら、きっとお姉様を困らせてしまう
後悔しないように、今できることを考えよう
背中を眺めているばかりじゃなく、お姉様の隣に立てるくらいに、少しずつ……

せめてメンバーだけでも幸せに

 
「隊長をやってくれませんか?」
その一言から私はレギオンの隊長になった。
私が隊長なんて…、そんな柄でもないしカリスマや指導力なんて全然ないただの平凡なリリィなのに。
そう言って断ろうと思ったのですが、相手も勇気を振り絞ってお願いして来ているのにそれを無下にするのは
この後相手が抱く思いの事を考えるとどうしても出来ませんでした。私がここで頷くだけで少なくとも
この娘の気持ちは救われる、そう思い気付けば隊長になることを承諾していました。

今日も外征の時間が始まる、皆集まってくれるのでしょうか。
この最初の外征通知は毎日心配になる。外征のたびに飛んでくる通知を迷惑がってる方はいないでしょうか、
挨拶をしてくださった方にはちゃんと挨拶を返せているでしょうか、今日もちゃんと勝てる相手を選べているでしょうか…。
そんな不安も抱えながらも何人か集まってくれたメンバーに深く感謝しつつ外征を開始する。
参加されていない方をみるたびに、本当にこの時間設定で良かったのだろうかと申し訳ない気持ちが溢れ出してきます。
もしかしたらメンバー全員が参加出来る理想の時間があったのではないかと…。
そんな事を考えながら外征をこなしていく。2戦目の開始段階で参加メンバーが減っていると
もう気が気ではない。開始通知が飛んでない、もしくは見落とされてるのだろうか。このまま倒してしまえばその方だけ
2倍の報酬を受取る事が出来なくなってしまう、そんな事を考え少しでも時間を稼げないかとわずかに手を緩めてみたりもしている。
勿論、参加してくれている他のメンバーに悪いのでほんのちょっとだけど…。
外征が全部終わったらスタンプで挨拶して解散だ。気がきいた事が言えたり話題を出せたらいいんだろうけど私にそんな器用な事は
出来ません。率先してお話を始められる方が本当に羨ましいです…。

レギオンマッチの時はもっと緊張している。
外征と違って必ず勝てるわけではない、そもそもメンバーが全員集まったためしなんてありません。きっと私が不甲斐ないせいなんでしょう…。
そんな戦いなのにわざわざ集まってくれたメンバーに報いるためにも何とか勝利をプレゼントしたい。
でも1人で出来る事なんて限られています。精々戦況を少し動かすためにオーダーを1回使ってみるくらい。
かといって、指揮を取るなんて事は私にはとても出来ません。
私の発言で嫌な気分になる方がいたら…、命令されて不快に感じないだろうか…、もし私の判断が間違っていて負けるような事になったら
私は何を言われるんだろう…。
そんな後ろ向きな思いばかりが胸から出て来る状態で発言なんて出来るわけがありません。
結局今まで一度も指揮どころか作戦すら話す事が出来ず、参加してくたメンバーは個々の判断で戦い、勝ったり負けたりする日々です。
勝った時はいいのです、皆さんきっと喜んでくださっているので。問題は負けた時。
ああすれば良かった、こうすれば良かったという感想が浮かんではそれを言われたメンバーがより落ち込んだり怒ったりするかもしれないと
考え言葉にすることなく私の胸の中で消えていく。私に出来ることはごめん…と謝って自分自身のミスを言うことだけです。
皆嫌になってないかな…、明日また集まってくれるのかな…そんな不安でいっぱいになりながらその日を終える。

メンバーが1人抜ける事になった、新しいレギオンへ移籍するそうだ。もっと真剣にマッチに取り組みたくなったというその発言で
私は謝罪の気持ちしか出てこなくなった。毎回マッチで9人揃えられない隊長でごめんね…、作戦とか指示とか提案出来なくてごめんね…。
そんな事を実際口にだしたら相手を困らせてしまう、私に出来るのはせめて最後くらい気持ちよく移籍出来るように
笑顔で送り出してあげることだけです。それが私がそのメンバーへ出来る精一杯の恩返しになると思って、「ごめんね」でもなく「行かないで」
でもなく「頑張って」と言葉を贈る。私はちゃんと笑えているでしょうか。

誰でもいいので私の判断が合っていると言って欲しい、考えややり方は間違ってないよと言って欲しい。こうすればいいよと教えて欲しい。
そんな常に自分を支えてくれる誰かを求めている時点で私はやっぱり隊長には向いていないのでしょう。
それでも…私一人が苦労するだけで皆が楽しんでくれているのであればと、今日も私は虚勢だけで塗り固められた隊長を演じる。

置き手紙

 
この前、レギオンからメンバーが抜けた。
 
その彼女も知るところだろうけど、既に欠員補充と再編の目途は立っている。
一人の脱退も、頭数としてだけならそれほどの重荷にならなかったということだ。
尤も、残された側が何も感じなかったというわけもないのだけれど。
 
入隊当時の彼女は、端的に言って未熟なリリィだった。
ただし戦略や精神性云々の話ではなく、単純に力不足だったというだけだ。
勿論、それが悪いというわけでもない。
そもそもレギオンマッチや外征任務の効率を重要視しているレギオンではなかったし、
そのような段階からここを頼って来てくれた時点で、むしろ有難い存在だったと言える。
 
彼女は、少しずつ力をつけていった。
自身に合った役割を考え、CHARMを調整し、戦況に応じた手札を整える。
現状を思えば、本人がその成果に満足することはなかったのだろうけど。
私の知る彼女は、紛れもなくレギオンの勝利に貢献する一人前のリリィだった。
 
 
 
成長していく貴方を見守るのが、私の密かな楽しみだった。
無口だった貴方が次第に打ち解け、輪に入っていく姿を嬉しく思った。
胸中で思い悩んでいただろうか、目に見えて口数の少なくなった貴方の様子に、一抹の不安と寂しさを覚えた。
 
 
 
こんなチャーミィも総毛立つような戯言、彼女に面と向かって伝えられるはずもない。
レギオンメンバーとしてはともかく、個としての私は傍観者に等しい存在でしかなかったのだから。

抱えきれなかったものは、ここに置いていく。
誰の目に触れようと、認識されず朽ちていこうとも構わない。
万が一彼女がこれを拾い上げたところで、誰が宛てたものかまでは分からないだろう。
言いっ放しは気分がいい。
 
 
 
 
 
 
さようなら、忘れ得ぬ日々よ。
また会いましょう、杯の主。

月が  ですね

『月が綺麗ですね』
 
かつて私がお姉様に言った言葉です。
 
その時のお姉様は確か、困ったような、喜んでいたような、とにかく言葉にしにくい笑顔をしていました。
 
返事は貰っていないと記憶しています。ですがもしかしたら『ありがとう』の一言くらいは貰っていたかもしれません。覚えてない時点でその時の私はそれが儚い言葉であることを悟っていたのでしょう。
 
「彼女のように強くなりたいです」
 
自分は太陽のように上手く光ることができないのは自覚していました。だから月のように綺麗に美しいリリィになろうとお姉様に私は宣言したのだと誤魔化したことだけははっきりと覚えています。
ここで素直になれていれば、私はもっと上手く笑えていたのでしょう。
 
 
お姉様を恨んでいるか?
いいえ。まさかそんなわけがありません。お姉様に感謝こそすれ、恨むなどこんな私ができる所業ではありません。恩を忘れるなんて天地がひっくり返ってもないと断言できます。
 
なによりも、お姉様の笑顔が好きなのです。なによりも、お姉様の幸福こそが私の幸福なのです。なによりも、お姉様こそが私の全てなのです。
 
だからお姉様の笑顔を曇らせることはあってはならない。天に煌めく太陽を遮ることなど、太陽に憧れるイカロスがしてはいけないことです。
太陽の光を受けられる月は幸せ者です。その光を受け入れ、自分も他者へと輝きを魅せられるのですから、隊長の笑顔を貰うに相応しい。
 
少し、羨ましかったと告白します。お姉様の幸せこそが私の幸せだと思っていたから隊長の笑顔が私に向けられないことが悲しかったのです。
それに気付いた自分に、なんで気付いたのだと怒りました。
 
その末路がこの私です。
眼下に映る月はとても綺麗で、とても眩しくて、私ではなり得なかったそれに向けて言葉を紡ごうとして、ただ息が「こひゅー」と鳴るだけでした。
 
 
 
月が  ですね、お姉様。

頑張ろう

「今日も勝てましたわね」
「接戦でしたが皆さんのおかげですわ!」
「次のマッチも頑張りましょ!」

活気の溢れるレギオン控室に声が飛び交います。このレギオンはレギオンマッチに積極的ではないけど皆んな自分の役目に合った動きをしているおかげで成績も悪くないです。

「では、お疲れ様でした」
「ご機嫌よう」
「ごきげんよー」

ひとしきり今日のレギオンマッチのことや外征、開催されている討伐任務について話し合ったあと解散の時間がきました。一人、一人と控室を出ていくのを見ながら私は隊長に話しかけようとして。

「ふふ、また頑張りましょうね!」

そう声をかけられたら「はい、お姉様!」と元気よく返事をしました。
頑張りたいのは事実ですから。

「また言えなかった」
暗い自室で一人呟きました。
『しばらく休みたいんです』
そう言いたかったんです。もう私は疲れていました。週に4回のレギオン同士の力比べに毎日の外征任務は最初は楽しかったしお姉様の役に立てるように工夫するのは嬉しかったです。

でも、私は最近それが苦痛になってきてしまいました。お姉様に会うのは楽しい。だけど戦うのは苦しいのです。だから休みたいと思ったけれど、そうしたらレギオンを抜けて休んだ方がいいと言われるのが怖いんです。

私はお姉様と離れたくないんです。お姉様とは一緒にいてもでも戦うのは嫌になってきているのがわがままな私。
何かを得るためには我慢が必要です。だから私はこうして口に出して自分を鼓舞、あるいは呪います。

『明日も頑張ろう!』

隊長会議議事録(妄想)

「ーーーそれで、その…隊員のみんなが私のことを好きって言ってくれるのは嬉しいんだけど…その…なんか最近貞操の危機を感じてきて…みんなのところはどうなのかなって…」
「私のところはそうでもないかな?あ、でも…一人頼りにしてる副隊長がいて…私はその人のこと個チャでお姉様って呼んでるんだけど、その人にならまあ…いいかな…っなんちゃって!」
「うーん、私のところもみんなが私を愛してくれてるけど、貞操の危機は感じてないかな?みんな私のペットみたいなものだし」
「ペ、ペット!?」
「うわぁ、凄いですね…」
「それにもしも襲われても、返り討ちにすればいいかなって。戦闘力は私が一番だし」
「へー、凄いゲヘなー。私なんか隊長なのにレギオンだと下の方ゲヘ」
(ゲヘ…?)
(ゲヘ…?)
(ゲヘ…?)
「で、でもゲヘさんのところは凄いですよね!精力的にいっぱい勧誘されてて!そのバイタリティは見習わなきゃって思います!」
(ゲヘさん…?)
(ゲヘさん…?)
「そうゲヘ?まあ確かにうちに新しい子も入ったし、隊長としてより一層頑張らなきゃいけないと思ってるゲヘ」
「新しい子が?」
「入った?」
「へぇ…」
「えっ何か急にみんなの雰囲気が変わったゲヘ…どうしたゲヘ…?」
「そっか…あの最近やってきたばっかりの新人さん…ゲヘさんが食べちゃったんですね…」
「へー…」
「えっ何のことゲヘ!?」
「ゲヘさん…ちょっとこっちでお話しませんか…?」
「ゆっくり話し合いましょうよ…美味しいお菓子にラムネもあるんですよ…」
「さあ遠慮しないで…さあ…」
「う、うわー!お持ち帰りされちゃうゲヘー!」

緊張の会合

 
ある日レギオンの控室に1通のメッセージカードが届いた。
何でもレギオンの隊長同士を集めたお茶会、もとい隊長会議が開催されるらしい。
私のような小規模レギオンにまでお誘いが来るとは思っていなかったため正直驚いた。
「あの…、このようなものが届いたのですけれど。どうしたら良いでしょうか」
他の大手レギオンも来られるような催しに私達も参加していいのかレギオン内でも意見が割れました。
恐れ多いという意見も多かったですが、他のレギオンの内情や方針を知る良い機会だという方向で
最終的に意見が一致、私は参加で返事を返す事にした。本来私は参加するような立場でもないのだが…。

会議の場につくと、既に他レギオンの隊長が何人も集まられていた。
私が着席した後も続々と入ってくる、有名な方も多くやはり参加すべきではなかったかなと少し萎縮しつつも
挨拶をして、なんとフォローもさせてもらった。これはちょっと嬉しい。
今回の内容は議事録として残るらしい、その一言で少しざわついた。これは迂闊な発言は出来ないなと
私も気を引き締める。私だけの評価ならともかくレギオン全体の評価を下げるわけにはいかない。
そういえば議題を聞いていなかった、どんな事を話し合うんだろうか。

蓋を明けてみると会議とは名ばかりのただの雑談会だった。どのレギオンの隊長も気さくに話を振ってくれるし
相槌も返してくれる非常に話しやすい場が生まれていた。
ちょっと好きな事について熱意が溢れすぎている隊長や変な語尾で背伸びしている隊長もいたが
どこのレギオンもきっと楽しいんだろうなというのが言葉の節々が伝わってきた。
メンバーと支え支えられの良い関係を築けているのだろう。
私のレギオンだって負けてないんだぞ!と声を高くして言いたかったがさすがにそれは自重した。
大手レギオンとは違うまだまだ小規模レギオンなのだからあまり目立たないようにひっそりと参加しないと…。
ちょっと私も場の空気にあてられて気持ちが昂りすぎていたみたいだ。
しかし、議事録に残ると言われていたのにここまで色々話してしまっていいのだろうか。一応オフレコらしいけれども。
意外だったのが、Sランクになるようなレギオンでも外征やマッチの参加率が常に9人ではなさそうだという事だった。
強いレギオンの方々は毎日フルメンバーで最高難易度の外征をこなして、マッチも全員で行っていると思っていた。
毎日全員集まれないようなレギオンでも上を目指せるという事実は勇気を貰えた気がした。
22時を過ぎると外征やマッチに向かわれる隊長も増え自然と口数も減り解散となった。
あまり発言出来なかったが、聞いているだけでも楽しい有意義な時間だった。

参加してきたことをレギオンメンバーに報告しつつ、私も他のレギオンに負けないような関係をこのメンバー達と
築いていこうと、改めて心に誓った。
……、自分がしてしまった変な発言が議事録に残ってないといいけど。

7+2

いつも平然としている方なのだが、今日は珍しく緊張しているのを自覚した
理由は分かっている 初めての外征任務だからだ
今まで通り隊長が任務を受領し、全隊員へ招集をかける
フォーメーションと戦術の最終確認をするのがレギオンでの私の役目
変更点は多かったけれど、メンバー全員が理解出来ているのは経験の賜物だろう
「それじゃあ、いくよ。」
隊長の号令と共に全員が駆け出す

今日は初めての、7人での外征任務

「受領する任務のランクを下げませんか?」
参謀役として、隊長に進言すべきだろうか
何度も頭によぎったけれど、結局口にはしなかった
隊長も、副隊長も、隊員も、誰一人任務に関して何も言わなかった
討伐対象の上位エアルム種なら、今まで何度も戦っている
初めて挑んだ時、前衛が一撃で蹴散らされたのは今でもはっきりと思い出せる
みんなで鍛え直して戦術を練り上げて、それでも紙一重だった初めての撃破
安定して任務をこなせる頃には、連携もパス回しも見違えるような練度になった
エアルムだけじゃない、この100日間で数多くの任務を経験した
その全てが私たちの糧となり、このレギオンを育ててきた
みんな同じ事を思っている
9人で培ってきたものが、私たち7人を支えている

かくしてレギオンはエアルムの撃破に成功、負傷者を出さずに済んだのは上出来だ
控室で幾つかの改善点と今後の予定を確認してお開きになった
私の葛藤は杞憂に終わったが、お陰で安心することが出来た
任務達成よりも、みんなの気合を感じられたのが一番嬉しい
戦意充分ならやれる事はいくらでもある、次の演習に向けて作戦を立てなければ
レギオンマッチ演習は対ヒュージ戦闘とは勝手が違う
新しいメンバーが揃うまで辛い試合が続くだろう
7人相手に油断してくれるような温いレギオンが来てくれたら……
そんな甘い考えが許される戦いでないのは、嫌なくらいに思い知らされている
負けるのは悔しい、でも怖くはない
私が怖いのは、心が折れてしまうこと
今まで積み重ねてきたものが終わってしまうこと

私は、私たちは、この逆境を乗り越えられるだろうか
ふいに7人と2人の顔が浮かんでしまい、胸が苦しくなる
必死に涙をこらえて、言い聞かせるように静かに呟く

「 私たちはまだ戦える こんなところで終わりじゃない 」

広がる溝と近付く終焉

今日のレギオンマッチも終わって皆で控室に戻ってきた。
参加したメンバーはああすればよかった、次はこうしようと熱心に議論し合っている。
その目は程度の差こそあれど皆楽しそう。明日こそ勝ちたいという熱意がそこにはあった。
あたしはそんな輪に入ることなく、扉の近くで壁によりかかりその光景を眺めていた。
いつからだろう、こんな気持ちになるようになったのは。

レギオンが出来た当時、メンバーはそれぞれの事情もあるので外征任務は来れた人だけで
頑張って挑もうとリーダーと皆で決めた。マッチが追加された時も一緒だった。
あたしもレギオン活動ばかりに時間を割く事が出来ないので、参加は精々数日に1回するくらいだった。
参加しても3人か4人しか集まっていないような状況で、とてもじゃないけど活発なところみたいな戦果が上げられるわけじゃない。
でも、たまたま集まったメンバーで外征に挑んでみたり、マッチ相手にぶつかって少ない人数なりで
最後まで戦ってみるのがすごく楽しかった。
勝ったら嬉しいし、負けても今日は負けた負けたと笑い合ってそのまま解散して終わりというのも居心地良かった。
自分が出来るところまでやってみて、それでちょっと結果が出たり出なかったりと変化が感じられたんだと思う。

そんな状況がある時からだんだん変わり始めた。
あまりに参加する気もやる気もないメンバーが入れ替わっていく。入れ替え自体にはあたしも賛成だった、
全然来ないしやる気もなくなっているメンバーを見てるよりは、一緒に戦える仲間のほうがそりゃ嬉しいに決まってる。
初期からの仲間が居なくなることは寂しいけど…、会えなくなってしまってるから意味もないし。
入れ替わっていくうちに、4人くらいだった参加メンバーが5人になり6人になり…、気付けば9人揃う事も
夢じゃない平均参加率になっていた。おかげで色んな外征任務に挑戦出来るようになって外征は本当に楽しくなった。
皆で協力して強いヒュージを倒せる達成感は良いものだ、もっと都合をつけて外征の時間を作ろうって思えた。

反面、マッチは何だかだんだん窮屈になっていった。
参加メンバーが増えて勝てるようになったしより強い相手とも戦うようになった。
一度勝てるようになってくるとやっぱり勝ち続けたいと色々戦い方を考えたりああしようこうしようという話し合いが
増えたのだ。
最初はあたしも参加してた。でも、すぐに温度差が出来てる事に気付いてしまった。あたしはただ皆でマッチに参加して
自由に個々でやれることだけやって勝った負けたと体験を共有出来たらそれで良かったんだ。
けど皆は違った、個々で頑張るんじゃなくてレギオンとしてチームワークで頑張って勝ちたいと考えてるみたいだ。
マッチはレギオン同士の勝負なんだからそう考えるのは自然だっていうのは分かる。でもあたしにはそういうのは
向いてなかったし、だからこの自由なレギオンに入ったんだ。
マッチは外征と違ってたまに参加して真正面からぶつかって笑って帰ってくるのが最高に楽しかったんだと最近気付いた。
それにそうやって役割を決めていくと、あたし自身の力が不足している事実があたしの心にのしかかってくる。
そんなにやる気があるなら、あたしではなくもっと有能でやる気がある人をスカウトしたらいいんじゃないか
このレギオンにはもう安心出来るポジションはなくなったんじゃないかと最近よく考えるようになっている。
あたしはただメンバー皆とバカをやりたかっただけなのにな…。

リーダーに相談すべきだろうか。きっとリーダーは話せば親身になってくれる。
こんなあたしでも嫌な顔一つせずに毎日迎えてくれてきたし他のメンバーの発言にも気を配ってるのが何となく分かるから。
でも、そんなリーダーに負担をかけたくないとも思ってしまう。
それにもし話しかけて万が一リーダーから無視されたり素気ない態度を取られてしまったらと思うと怖くて堪らない。
「色々考える事があって面倒な上に確実に勝てるわけじゃないから、マッチを真剣にやりたくないだけじゃない?」
なんて言われたらあたしは本当に何も言い返せない…。
リーダー、こんなあたしに気付いて心配して話しかけてくれないかな。なんて女々しい事まで考え出してしまっている。

このままだとよくない。序列を決めるリーグが始まるという通知も出たし、マッチに対する温度差はさらに広がっていくだろう。
あたしが覚悟を決めないといけないタイミングは、きっともうすぐそこまで来ている…。

記念日

大事な事があった日を記念日とするなら、今日はわたしの記念日。

「私と一緒に来てくれませんか」
そう言ってあの娘がわたしに手を差し伸べてくれた。
目標をなくし、皆ただいるだけになっていたレギオン。
そんな場所に偶然やってきたあの娘とわたしは2人で色んなところへ行った。
強い敵も倒したし綺麗な景色だって見た。いくら声をかけても他のメンバーは
誰も参加しなかったけど、2人で一緒にいられるだけでわたしは毎日が楽しかった。

そんなある日、珍しく真剣な目をしてあの娘は言った。
「ここじゃやりたい事が満足に出来ません…、みんなやる気もなくて変わろうって思ってもくれない。
 ですから先輩、私と一緒に来てくれませんか」
新しくレギオンが発足されるらしい。それでならもっと色んな事に挑戦出来るかもしれない。
だから一緒に行こう、あの娘はわたしに言ってくれた。
その小さな手を微妙に震わせながらわたしに向かって差し伸べてくれた。
今の状況から変わってしまうのが怖い。だけどこうしてわたしの前にいるあの娘も怖い中で
勇気を出して声をかけてくれた。ならわたしも勇気を出そう、ちっぽけな勇気をかき集めて。
この先どうなるのか、何が待っているのか分からないけど、あの娘と2人ならやっていけると信じて進もう。
わたしは笑顔でその手をそっと握りしめた。

だから今日は記念日。わたしとあの娘の2人で揃って1歩踏み出せた、大事な大事な記念日。

レギマ大変ですね~お姉様の詩

全ては過去、私たちは別々の道を歩き出した。

いつかまた笑いあって話せることを願います、友として。

器と石ころ

レギオンと言うのは器だと思う。まぁレギオンだけじゃなく個別の意識を持った存在が集まってできたもの全てにいえるけれど
何を言うわけでなくてもその集団での役割とか個性とか…そういうのが集まって形作る器に沢山の思いやそれぞれの考えが入って一つの世界になる

そんな素敵な世界。けれど感情のある人間だもの、どうしたって不平不満ていう石ころが生まれる
私のポケットにはそんな石ころがいくつかある。ほんの些細な事から生まれた小さな小さな石ころ
これを器に投げ入れたらどうなるのだろう?
感じているより強いけど思っているより弱いこの器
私が投げ込もうとする石ころはそのまま受け止められるのか脆いところに当たってひび割れ朽ちていくのか…

なんて考えて私はポケットから手を出す
みんなで作ったこの大切な器を壊したくないから
明るいリーダーにさりげなくフォローするメンバー。この世界はきっと一度ひび割れたら元に戻らないから

少し重くなってるポケットを隠しながら今日も私は器の中の世界で楽しく笑っている

『お姉様』

「私、ついにあの人と付き合うことになったの」

お姉様から大切な話があると呼び出された私が聞いた言葉がそれでした。大好きなお姉様。慕っていて、誰よりも大好きなお姉様。
もう、私の中にさっきまでのウキウキした気分はありません。隊室ではなくて個室に呼び出されたから、ついに告白だなんて浮かれていたのは私だけでした。

『どうして私じゃないんですか?』

そうは言えませんでした。凄く嬉しそうな笑顔をしたお姉様が幸せそうで、私では見たことがない笑顔をしていたからです。そんな姿を見せられたら……身を引くしかありません。お姉様と付き合うのは私が良かった。お姉様の嬉しそうに笑う姿は私が独占したかった。そうは思いますが、それで曇るお姉様の姿は見たくないから。

「おめでとうございます! ふふ、お姉様とっても幸せそうです」
「ふふっ、ありがとう。貴女も良い人が見つかったら分かるわよ?」

そう楽しそうに話すお姉様に、その「良い人」は貴女しかいないんですよ、と言いたかったけれど我慢して、その日はなんとか乗り越えました。
 
 
 
 
 
×××
 
 
 
 
「もっとっ…もっと、愛してくださいっ……」

月明かりしかない部屋の中、私は一夜限りの相手にそんなことをお願いする。
お姉様を取られて以降、私はこうして身体を重ねては自分を慰める。
幸いにも私の容姿は悪くないみたいで、少し声をかければ簡単に相手が見つかります。
中には自分と付き合わないかと言ってくれる人もいたけれど、私はそれに頷くことができませんでした。
お姉様の幸せそうな笑顔。お姉様の見たことの無い照れた顔。お姉様があの女とキスするのを見てしまった時の困った笑顔。それらが頭によぎって、私はそんなお姉様みたいに幸せになれるのだろうかと不安になるからです。
だから今日も私は行きずりの関係で自分を慰めているだけで満足するんです。

「はぁっ、はぁ……えへへ……気持ちよかったです」

ぴと、とお姉様に少し似ているリリィに頬を寄せたら頭を撫でてくれました。お姉様の撫で方とは違うそれは気持ちいいけれど、どこか物足りなくて。
こんな時にお姉様ならどうしてくれるんだろう、お姉様ならもっと──そう考えてしまう自分が嫌になるから身体を求めてしまいます。
気持ちよくなった時なら、お姉様のことを忘れられるから。
 
 
 
 
 
███
 
 
 
「貴女……なに、してるの……?」
「お姉様……」
「あぁ、この人が例の『お姉様』?」

その日は雨の強い日でした。いつものように身体だけの関係で募った相手を自室に連れ込んで、快楽を求めるだけの行為をして。なにもかもを忘れるように仮初の愛してもらうことをしていたら訪ねてきたのは未だに慕うお姉様。
あぁ、この人にだけは見られたくなかったのに。

「貴女……なにしてるの、離れてっ!」
「へぇ……この子を捨てた人がそんなこと言うの、ねぇお姉様?」
「捨ててなんかない…私は、私は……!」

ぼんやりとした頭でなにも言えずにいたら、お姉様たちの間で口喧嘩が起きてしまって。
どうしよう。宥めなきゃ。なのに、私の口は──

「お姉様が悪いんですよ……?」

言葉を紡いだ。

Re:

 
私も書いてみようと思いました。
理由はただ一つ、特別な人がいるから
彼女とはリリィになる前から付き合いで
お互いに理解して合っている。…つもり。

彼女との付き合いは本当に長くて、一緒に色々な事をしてきました。
だからリリィになろうと思った時も
また一緒にやれたらいいなぁ…と仄かに思っていた
そしたら、その想いは即座に叶ってしまいました
彼女もリリィになる事を決めていたからです

そんな訳で、私と彼女のリリィとしての生活が始まる事になりました
私達が最初にやったのはレギオンを作る事。
本来レギオンは九人で組むものだけど
私達は二人のレギオンを作った
二人きりのレギオン、二人きりのリリィ生活。

二人だと人数を必要とする外征等で困る事はあったけど
それ以外、大きく困る事はありませんでした
学園から割り振られるヒュージ討伐をこなして行けば
CHARMや装備の強化に必要な資材は手に入るし
私がリリィになる切欠となった
先輩リリィ達の活動記録を読む事も出来ました
なにより……
彼女とリリィをしている事が楽しかったから
それで十分でした、最初は……

以前からそうだったけど、彼女は私と比べ活動的です
二人で一緒に楽しい時を過ごす事ができたのも、彼女の力あってこそ
私もそんな彼女に付いて行くのが楽しくて……
でも、リリィとなって過ごすうち、それだけではダメな気がしてきた
より活動的となった彼女

そんな彼女を見るうち、私の中にある想いが生まれました
もしかしたら、私は彼女の世界を狭めているのかもしれない、と
だとしたら、私はどうするべきなのか?
そんな悩みが積もり行く中、転機が訪れました。

それは彼女からの「どこかのレギオンに入ってみない?」と言う言葉。
私の反応を伺う感情の見える言葉。
これは私達にとって大きな変化となる事だから
つまり今の二人きりレギオンを終えて
人数の揃ったレギオンに入ろうと言う事だから

ここで私が拒否し、今のレギオンを続けたいと言えば
きっと彼女は承諾する事でしょう。彼女はそう言う子だから
彼女は活動的ではある一方で、私の事を考えてくれる子だから
ならば私の答える言葉一つしかありません。
「うん、いいよ」
これが今の私に出来る事だから

そこからは流れる様に事が進み
私と彼女の新たな生活が始まる事になりました。
新しい場所での新しい生活、この先に何があるのか
今はまだわからない。
でも、わかる事が一つだけあります
それは、きっと彼女と新しい物を見つける事が出来る
そして、私も変わる事ができるはず……

気付かれない手紙

 
「いい加減にしてくれません」
ルームに声が響き渡る。
「いつまであの方を庇っているのですか?お姿を見かけなくなってからもう2ヶ月ですわよ、2ヶ月。やる気がないと言われても当然ですわ」
「で、でも…。お姉様だってご用事があるのですよ」

話題になっているのは私のお姉様の事。
お姉様が外征にもマッチにも参加しなくなってもう2ヶ月以上が経っている。
『ちょっと私事が忙しくて中々外征の時間には来れないの、ごめんなさい。』
最後にお会いした時にそう言われ、それなら終わるまで待っていますとお返事してからもうかなりの時間が経ってしまった。
毎日レギオンルームには来ている、でも外征の時間に現れる事は一度もない。
メンバーもはじめのうちは理解を示してくれてた。けれども流石に2ヶ月も続くと不満を隠さなくなってきている。
「用があるのは知っています!けれど2ヶ月も顔すら出さないのは薄情ではありませんの!
 せめてたまには伝言の一言や近況報告くらいすべきでしょうに」
「それは…、私も欲しいですけど…」
「本当に1週間のうちに1回も顔出す事すら出来ませんの?それが何週間も連続するなんて事ありますの?
 おかしいと思うのは当然ですわ。このレギオンの事なんてどうでもいいって思われているのではなくて」
「そんな事はありません!このレギオンを作ったのはお姉様なんですよ!そのお姉様がどうでもよくなってるなんて
 そんな悲しいこと…」
「……はぁ。とにかく、少しは顔を出すように言って下さいな。あなたに免じてもう暫くは待ちますわ。」
そう言って彼女は部屋から出ていった。
彼女が怒るのも最もだ、お姉様は新しく参加したメンバーへのご挨拶にすら来てくれていない。
自分でレギオンを作っておきながら不誠実だと言われても何も言い返せない。
でも、私はお姉様をまだ信じていたい…。お姉様は本当に忙しくて顔を出すのが気恥ずかしいだけなのだと。
だからお姉様へお手紙を書いた。お姉様からお返事が貰えるなら最悪文通という形でも情報をメンバーに伝えられるから…
次はいつ参加出来そうですか、たまにちょっと無理しても顔くらいは出せませんか?

お姉様に手紙を出して5日目。返事はまだない。
ルームには相変わらず来ているのに…、ちゃんとお手紙がありますよと通知も出ているはずなのに。
どうして…、どうしてお返事を下さらないのですかお姉様。もしかしてレギオン内の会話すら目を通されてないのですか…。
リリィの掲示板に伝言も残してみた、もう諦めた方がと何人からも言われた。
それでも私は信じたい、レギオンに所属している以上ちゃんと会話くらいは目を通してくれると。通知に何時か気付いてくれると。
私たちはお姉様に見捨てられていないと・・・

手紙の結末

 
「これで全部かしら」
棚に飾ってあったお気に入りのカップをそっと包むと鞄を仕舞い、お姉様はそう呟いた。
今日はお姉様がこの部屋に来る最後の日だ。
私をこのレギオンに拾ってくれてから数ヶ月、ずっと一緒だったお姉様。
最近はお会い出来る機会も少なかったけれど、お姉様がいるだけで頑張ってこれた。
そんなお姉様とのお別れがもう目の前に迫っている…。
ずっと一緒に居て欲しい、また一緒に外征に行きたい、籍をおいてくれているだけでいい。
久しぶりに直接お会いして隊を抜けるというお話を聞いてから
色んな言葉が何度も頭の中を巡った、けれどもそれを口にしたところで
誰も幸せにならない事を私も分かっている。ワガママを言ってお姉様を困らせてしまったら
それこそお姉様に申し訳なくなってしまう。
お姉様にはいつも笑っていて欲しい、だからこそ私も笑ってお見送りするんだ。
「これ、メンバーの皆さんからのお手紙です。後で読んで下さい」
「ありがとう…、大切に読むわね」
お姉様へのお別れの言葉をメンバーの皆がメッセージボードに書いてくれたのに、
メッセージボードは簡単に書かれたメッセージを流していってしまう。
こういう時こそ気を利かせてくれてもいいのに…、そう思いながら
ちゃんとお姉様へ届くよう1つ1つを大切にお手紙にしたためた。
折角の皆の想いが、伝わらないで消えてしまうのは本当に寂しかったから。
「さて、いつまでも居るわけにはいかないしもう行くわね」
「まだもう少しお時間があるのでは」
「このままだと名残惜しくてずっと動けそうにないもの。進まないとね」
そう言ってお姉様はそっと抱きしめてくれた。久しぶりの温もり、けれどもうこの部屋で
この温もりに包まれるのはこれで最後。
「離れても、お姉様はお姉様のままですよね…?」
「当たり前じゃないの。ちょっとだけ違う道を歩くだけよ、ほら貴方もちゃんと背筋を伸ばしなさい。
貴方はこのレギオンの隊長なんだから」
抱きしめていた両腕が離れ、お姉様は鞄を手にする。部屋の扉は既に開いている。
「迷惑をかけてばかりだった隊長でごめんね。貴方に出会えて本当に良かったわ」
「お姉様が心配しないよう、これからも隊長を頑張りますね…。何処にいってもお姉様が自慢出来るように、
 抜けた事をお姉様が後悔するくらいに」

「お姉様、今まで本当にありがとうございました。いってらっしゃい」
…お姉様、私ちゃんと笑えていますか…? 笑顔でお見送り出来ていますか…?
隊長として、しっかり背筋を伸ばして立っていますか?
 
 
 
この申請を出してしまえば、お姉様は正式にレギオンから除隊になる。
後はボタンを押すだけ、ただそれだけでぜんぶおしまい。
何時までも申請出来ないのはお姉様にもメンバーに悪い、日付が変わったその時にこの申請を出そう。
だから、だからそれまでの少しの間だけは思い出に浸ってもいいですよね。
…………………
そして、壁にかかった時計は0時の訪れを告げた。

BSS

「相談なんですが…わたくしレギオンを抜けようと思いますの」
それはあまりに突然な隊長の言葉だった。
その言葉に私の頭は真っ白になってしまった。
「え…?どうして?」
「わたくし少し疲れてしまいまして…元々隊長業も成り行きで引き継いだようなものですし…」
表情からも疲れの見える隊長に私はなんと声をかければいいのかわからなかった。
何を言っても空気の読めない発言になってしまいそうで…
隊長には辞めてほしくなくて、でもそれを強要もしたくなくて…
頭の中がぐるぐると回って…私は…結局何も言えなかった。

そんな中で率先して隊長に声をかけた子がいた。
その子は隊長を優しい言葉で励まし、なおかつ重荷になるようなことは一切言わなかった。
すごいなって思う。
私は悩みに悩んで結局当たり障りのないスタンプを押すことしかできなかったのに。
――次の日、その子は副隊長に任命されていた。
それについては全く異論はなかった。
彼女は古参の一人で戦闘力は私と同じくらいだけど戦術理解は私なんかよりずっと優れていて
今まで役職がなかったのが不思議なくらいだったからだ。
だから私は素直にその就任を祝福した。
そして時を同じくして隊長がレギオンの脱退を考え直すと仰って下さった。
よかった。これですべて丸く収まったんだ。

それからしばらく経った後、何気なく隊長会議のログに目を通していた時のことだ。

――私がつらいときに支えてくれたのが今の副隊長ですわ。本当にうれしかったですわ!

どう見ても私たちの隊長の言葉だった。
そんな微笑ましい、ノロケにも見える言葉を目にした私は…

ふと、水滴がデスクの上に落ちたのに気付いた。

あれ?
なんで?
なんで私、泣いているんだろう?
何も悲しいことなんてないはずなのに。
なんで?
なんで?
なんで?

私の脳裏に一つの言葉がよぎる。

もしもあのとき…あの子よりも先に隊長に声をかけていたら…
ほんの少し、勇気を出していたら…
今隊長の隣で寵愛を受けているのは…私だったかもしれない。

そんなのは都合のいい妄想だ。
あの子は行動して私は行動しなかった。
明確な、当たり前の差だ。

分かってる。
分かってるけど。

なぜだか後悔と切なさで胸が張り裂けそうで止まらなくて
私は一人泣いた。

私たちのエトワール

お姉さま
寡黙で実際の統率はサブリーダーが担ってると他の方は思っているかもしれませんけれど
実際には個別に一人づつ丁寧にフォローなど入れて調和を保っていると私は知っておりますわ
だってお姉さまが私だけに個別に話してるとは考え難いですもの

そう例えるならば私たちのエトワール(お星さま)
ソレイユ(太陽)ほどには眩しく見えないけれども遠方から私たちの上に密かに君臨するとこしえの輝き
あなたのやさしい光で満たされる夜空を密かに楽しみにしておりますわ

あの方だけは許さない

終了の合図が鳴り響く。
勝った…あの方のいるレギオンに…
顔を上げると悔しそうにしているリリィ達の姿が見える、あの方も同じような顔をしているのだろうか。
この試合に勝つことだけを考え一人で鍛練を重ね、CHARMを馴染ませてきた。
あの方のいるあのレギオンを叩き潰すことだけが目的だった。
なのにどうしてだろう、憎いあの方を叩き潰せたのに達成感もなにも湧かない。
それどころかこのチクリとする感情は…

お疲れ様ですと声をかけ合うメンバーに会釈をしてその場を立ち去りそのままラボに向かう。
私は感情の昂ぶりでスキラー数値が一時的に上昇する代わりに負のマギを溜め込みやすく定期的な検査が必要らしい、難儀な身体だ。
端末でログを遡りながら中盤の改善策を考えているうちに目的地に辿り着く。
扉を開くと出迎えたのは私の嫌いな職員、この人はいつも私を憐れむような目で見る、それがとてつもなく嫌だった。

着替えを済ませるといつもの装置に繋がれる、最初は気味が悪かったが慣れるものだ。
装置が作動すると眠気に襲われる。
、、、め、、ね、、、
不思議とこの時だけは何もかもから解放された気分になれる。

そういえばお姉ちゃん元気にしてるかな?
──あの方だけは許さない、私を見つけてくれなかった──

わたしの大好きな優しくてなんでも知ってる自慢のお姉ちゃん
──あの方だけは許さない、私を置き去りにした──

マディックになることを最後まで反対され家を飛び出してから一度も会えていない
──あの方だけは許さない、私を戦場で見殺しにした──

顔を思い浮かべると何故か涙を流しながらわたしを抱いている
──あの方だけは許さない、私達のレギオンを捨てた──

白衣が※※※の血で汚れていて
──あの方だけは許さない、私の全てを奪い去った──

お姉ちゃんわたしちゃんと大事な人たちを守れたかな?
──あの方だけは許さない、復讐してやる──

あの方って誰な縺ェ繧薙〒縺励g縺?°縺雁ァ峨■繧?s蜉ゥ縺代※窶ヲ──────

検査が終わった。何度目でも検査後の頭痛には慣れない。
対抗戦後の悔しがりながらも立ち上がり未来を見ていたあの方達の真っすぐな瞳が浮かぶ…憎い…
次に当たった時こそ、あの方のいるレギオンを完全に叩き潰し全てを奪ってやる。
あの方のいるあのレギオンも、あの方のいるあのレギオンも、あの方のいるあのレギオンも全てだ。

私はあの方だけは許さない

焦憧

 私はとあるレギオンの副隊長を務めている。
隊員たちの意識は比較的高いように思えるし、隊長はそんなみんなをぐんぐん引っ張ってくれている素敵なお方だ。
私は副隊長として隊長のサポートをしていくうちにその人柄に惹かれていった。
隊長と二人でレギオンの運営について真面目に話し合っているときにも、何故か心が弾んでしまう。

 * * *

 ある日、学園の掲示板に「副隊長会議参加者募集中!」と書かれた張り紙を見つけた。
私は面白そうだと思い我先にと参加申請を提出した。
集まった副隊長のみんなは素敵な人たちばかりでとてもキラキラしていて、私なんかが入るには少し場違いに思えた。
それでもみんなは私のことを優しく受け入れてくれてとても居心地のいい場所だった。

 副隊長が集まって話をするのだから当然隊長の話題になることも多い。
みんな自分の隊長のことが大好きなようだ。
そして話を聞いていると深い信頼で結ばれた隊長と副隊長も居るようだった。
(いいなぁ…私もそんな風になれたらなぁ…)
そんな淡い気持ちはどんどん積み重なって大きく膨れ上がっていった。

 * * *

 隊長は私のことをどう思っているのだろう。
仕事を手伝ってくれるだけの隊員?
信頼を寄せている副隊長?
それとももっと特別な……あるいはなんとも思っていないのか……
気になりだしたらキリがなくって、でもそんなことを直接聞く勇気はわたしには無かった。

 それでもモヤモヤは消えないから、私は学園にある掲示板にその悩みを書いた紙を張り付けた。
別にそれによって答えが出るとも思っていない。
ただ吐き出して気を落ち着けたかっただけだ。
その行為に満足して踵を返すとさっそく誰かの目に留まったのか話し声が聞こえてきた。
「~~~だゾ!」
「私が書いたみたいな内容ですわ」
その中で一人の声に私はハッとなった。
「もっと気楽にやればいいですのに」
今のは私の隊長の声だっただろうか…?
遠くかすれていてハッキリと判別することはできなかった。
そもそも今のは私の投書に対しての発言なのかも定かではない。
だから私には何の関係もないただの学生の話し声だろう…そう思おうとしても何故か心がざわつく。

 私は自室に駆け足で戻った。
張り紙をして落ち着かせたはずの心には小さな孔が空いていた。

辞表

最近、レギオンのみんなと居る時間が息苦しい。
何か環境に変化が有ったわけではない。
今まで通り隊員は良い人たちばかりだし。
変わってしまったのは私の方だ。
何度も辞表を出そうとした。
でもそんな大きな決断を下せるほど私は強くなかった。
隊長に辞表を出すときのことを考えると足が震えて止まらなかった。
「私が抜けるとレギオンに迷惑がかかっちゃうし…」
そんな言葉で責任を大好きだったはずのみんなに押し付けて辞表を破り捨てる。
自室に戻ったらまた辞表を書こう。
明日は決断することができるだろうか。

大好きなメンバーの皆へ

「今日もちゃんと言えなかった…」
レギオン活動が終わり自室に帰ってきた私は今日も1人で反省会。
隊長としてメンバーにちゃんと感謝を伝えよう、そう思い立ってから早1週間。
ありがとう 嬉しかった 助かりました
そんな簡単な言葉すら私は口に出して言う勇気が出せなかった。
いつも通りスタンプを押して挨拶して、いつも通りスタンプでお別れ。
ちょっとした会話をしたり、レギオンマッチについて話す時はあんなにスラスラと
言葉が出てくるのに。一番伝えたい思いはどうしていつも言えないのか。
やっぱり外征が終わった時に勢いに任せて言っちゃうのがいいのかな。

「いつも外征に来てくれて本当に嬉しい!ありがとう!」

でも、その後のマッチに差し障るようだったら悪いし…。ならマッチの後でなら

「マッチに参加してくれてありがとう!皆と一緒に戦えて楽しかった!」

でもマッチの後の感想や反省の邪魔になっちゃうな…。
いっそ唐突に言っちゃうか

「このレギオンに所属してくれて本当にありがとう。
 こんな隊長に付いてきてくれて、皆大好きだよ」

いやいやいや、さすがに恥ずかし過ぎる。無理だよ無理無理…。
結局いつもと同じように答えも出せず就寝時間になってしまった。
はぁ…、私がちゃんと言葉にしてメンバーに伝えられる日は来るのかな…。

たなびく思慕

 
――レギオンの隊長と副隊長は恋仲になりやすいらしい
私の所属するガーデンでは、そんな噂が流れていた。
実際のところは分からないけれど、確かに何組かの隊長と副隊長が仲睦まじくしている様子は見かけたことがあるし、
苦楽を共にする二人が結ばれるという話はもっともらしい。噂の信憑性は高いように思えた。

どういう経緯でお付き合いが始まるのかな。レギオンの運営に支障はないのかな。
興味はあるけど、確認する方法はなかった。
誰と誰がそういう関係なのかは知らないし、それを探ろうにも他のレギオンに親しくしている人がいない。
一番身近な私たちのレギオンは、そもそも副隊長が決まっていないからだ。

ちょっと残念だけど、逆にいいことを思いついた。
今後もし、私たちの隊長が副隊長を選ぶなら。それは誰で、その人は隊長とどういう関係になるのかな。
面白そうだから少し考えてみることにした。

まずはやっぱりあの人かな。いつも隊長と肩を並べて、ヒュージに向かっていくあの人。
隊長だって信頼できる人を副隊長に選ぶだろうし、だったらあの人を選ぶのかな。
あの人だって隊長のことを深く信頼しているだろうし、そしたら恋人になっちゃうのも時間の問題かもしれない。

私より治療の上手なあの人だって、可能性は高そうだ。
普段は前に出ないけど、前線に立ってもレギオンで一番強いあの人。
強い人が上に立った方がレギオンがまとまりやすいと思うし、そういえばあの人も隊長を優先して治療しているような気がする。
もしかして、もう親密な関係だったりするのかな。

でもレギオン運用のことを考えたら、あの人が副隊長というのもあり得そうに思えた。
模擬戦で勝った後、浮かれる私たちを引き締めてくれるあの人。
隊のことを考えたら一番いい選択かも。これだったら、恋仲からは遠いのかな。わからない。

他の人たちはどうだろう。
今まで挙げた人ほどは目立ってはいないけれど、みんな真面目だし。
私の隊長はよくメンバーのことを見ているから、それぞれの良いところを見つけて、それで誰かが選ばれるかもしれない。
選ばれたら、隊長とお話することも増えて、それから、それから、もっと親しくなっちゃうのかな。

隊長は、どうして副隊長を決めないのかな。
もしその日が来たら、誰が選ばれて、隊長と、どうなっちゃうのかな。
面白そうだと思ってたけど、なんだかこわいな。

ほんの些細な言葉

 
日記を書いている者同士で集まりませんか?
掲示板を眺めているとそんな張り紙を見かけた。
日記…、たしかに書いた事はあるけれど他の方のように
人に見せれるようなそんな素敵な日記ではない。みっともなく
自分の思いをただ書きなぐっただけの、そんな読み物にも満たないもの。
それでも、自分にも参加資格があるなら他の作家さん達と話してみたい…
気付けばあたしはその張り紙の連絡先にメッセージを送っていた。

会議は最初から作家同士で話に花が咲いたとても明るい場だった。
皆さんご自分の作品を紹介し褒めあってる、とても温かい場。
だからこそ余計に私は自分が場違いなところに来てしまったと思い始めてた。
あたしが書いたのはたったの1つだけ…、やっぱりこんな素敵な会に
参加していいような立場じゃなかったかもしれない…。
全然発言することも出来ずにただ座っているだけ。もう席を立とうかと思い始めた頃にそれは耳に飛び込んできた。
「あの日記、凄く良かったですわ」
あれ?あたしの日記が話題になってる…?誰にも読まれてなんかないだろうと思ってたあの日記が?
それはほんの短い時間だった、沢山ある話題のうちの小さな小さな1言。
それでも、自分の書いた日記を良かったと言ってくれた人がいた。
その事実であたしは胸がいっぱいになってしまった。もう声すら上げられない。
そこからは涙を堪えるのに必死で話されていた会話の内容は碌に覚えていないまま、気付けば会議は一段落していた。

ほとんど話すことは出来なかったし交流も出来なかった。
でもとても優しくて温かいものを貰えた、そんな素敵な場だった。
またいつか日記を書こう、そして今度はこの日記を書いたのは自分だと胸を張って言えるようになろう。
そうあたしはひっそりと心に誓った。

気づいて、気づかないで

 
私のレギオンのお姉様達はとても優秀で優しく誇らしいです

私は戦略を提案できるわけでもない、面白いことを言って場を和ませられるわけでもない
火力も限界がきて伸ばせていないし後衛なんてもっとボロボロ
こんな私がお姉様達と並んで戦うことが許されるのでしょうか?
きっとこう言ったら優しいお姉様達は私を引き止めるでしょう
貴女が必要だからと言ってくれるかもしれません
でもそれは私がたまたまこのレギオンにいたからです
私以外の立派なリリィが入っていればもっと頼りにされ愛されていたに違いません
戦力が低くてもお話上手な方ならレギオンの結束を強くできていたでしょう
私は結局このレギオンに大した貢献はできなかった
縁という言葉がありますがこれは呪いだと思います
私がたまたまここにいたせいでお姉様達は私という存在が必要という思い込みに縛られているのです
こんなこと言ったら今度はそんなことないと叱ってくれるんでしょうね
でもそうなんです
お願いです、私を必要ないと糾弾してください、追い出してください
そんなことお姉様達ができるわけがないのに、願ってしまってごめんなさい
私、自分で決意できるよう強くなりますね
このレギオンリーグで私はきっと…

梅雨は嫌いだ、頭が重く思考が暗くなる
また酷いことを書いてしまった
こんなこと優しいお姉様達に伝えられるわけがない

呪い

貴女に呪いをかけました
きっと貴女は優しいから
そんな私に微笑んで
赦してくれると知っています
その優しさを他の方にも向けている
そんな事実に耐えられず
私しか見えなくなる呪いをかけました
貴女の心が離れぬよう
ただ心のうちでお呪い

6月8日

2021年6月8日

お姉様へ

紅巴さんの誕生日だから疑似姉妹になってお祝いしようだなんて
面白い冗談だと思って笑おうとしていたら……
突然お姉様が寄り添ってきてくださってすごくびっくりしました

「仲良くなるチャンスだと思いまして……」

お姉様、というのも半ば私が勝手に呼ばせていただいているだけですし
しかも人前ではまだそうお呼びしたことがありませんし
白状すると、もっと親密になれたら嬉しいと思っているのは私のほうだけだと思っていました
なのに、いつも冷静で穏やかなお姉様にそんなふうに真っ直ぐ言っていただけて……
驚きのあまりすっかり動転してしまいました

「ごめんなさい……ただ早いほうが良いと思ったのですわ」

それって……それってつまり……
……ごめんなさい! やっぱり言わないでください
知りたいけど、まだ知りたくないんです

ゆっくりと近付いて行けたらいいなと思っているんです
芽吹いて……葉が出て……茎が伸びていくのを見守るみたいに
花が咲くまでの時間を大切にしたいんです

早く手に入ったものは早く過ぎ去ってしまいそうな気がして……

……すみません、わがままですよね

夜になって、こうして筆をとっていたら少し冷静になってきました
お姉様と呼ばせてくださいって、そもそも私のほうからお願いしたのに
いざこんなことになったら慌てるなんて、おかしいですよね

その……シュッツエンゲルの契りを結びたいとか……そういう結論を避けて
半端な状態のままで、間合いを測るみたいにして……
はっきりしなさい、って怒られてもしかたないかも……

もしも……お姉様が私の手を取ってくださるのなら……
その前にもう少しだけわがままをお許しいただけるなら……

もう少しだけ……心の準備をする時間をいただけないでしょうか

 * * *

……チャーミィ……紅巴さん……これで満足ですか?
お誕生日おめでとう

Re:6月8日

 
まずはありがとう
あなたの日記を読んですぐに書いたものですからおかしな所がないか不安ですけれど
今ここに書くべきだと思いました

私は口下手で……
あまり気の利いた言葉が言えずあなたが「お姉様」と呼んでくれているのにふさわしくないのではないか
私がはしゃいでいるだけであなたは誰にでも「お姉様」と呼んでいるのではないかと……不安になってしまったのです

そんな時紅巴ちゃんの誕生日が来て
チャーミィの言葉が目に入ったのです
───疑似姉妹の契……

私達の関係を確かめるのに丁度良い日だと思いました
副隊長会議でリアクションを用いた愛のささやきがありましたので私もと思い
レギオンチャットであなたにハートを贈りました
それに気づいてくれるかどうかは賭けでしたが、あなたは私に気付いてくれました

あなたへの想いを100%告げられたとは思っていませんが……
その半分でも伝わっていれば嬉しいですわ

その後は恥ずかしくなってしまってリーグのお話に話題をすり替えてみたり……
すこし巫山戯てみたりもしました

あなたの日記を読んでとても嬉しくなりました
私は急かしたりなんかしません 怒ったりもしません
信用してくださいとも言いません
これからあなたと一緒にそれを証明できるように努力しますわ

これからもこのレギオンであなたと一緒にやっていきたいと心から思っていますわ

 * * *

……紅巴さん……おめでとう……そしてチャーミィ……ありがとう。

違うからこそ

 
お姉様と言葉を交わすたび、自分とは違う人なのだということを思い知らされます

私にはない考え、私にはない意志、私にはない輝き

貴女が持っているものを私は持ち得ないのに、それでも貴女は私が大切だと言ってくださる

お姉様が持っていないものを私が持っているのだと言ってくれるのだと言ってくださる

こんなにも違うのに、こんなにも違うからこそ惹かれ合ったのだとしたら

なんて尊い、私と貴女の違い