Hatred and Discipline 4

Last-modified: 2012-05-30 (水) 04:06:05
 

Page 12345678?9?10?11?12?

 

―もう駄目かしら…

 

Ellis Halstaffは観念した。

 

―出血がひどい…

 

いつものように玄関から村へ出る、などというのは論外だ。
Ralynを見捨てるなんて。Ralynは生まれてまだ半年、歩くことも出来ない。まだ何も出来ない。

 

彼女は無傷の手で階段の手摺を掴み、使い物にならなくなった足をなんとか引き寄せた。

 

力が入らない。
何故? どうして娘のSahmが私を殺すの?

 

家事を終えた後、EllisはSahmの容態を見に行った。出来れば、水浴させてやりたい。
Sahmは笑っていた。母親のお気に入りの包丁をシーツから引っ張り出し、母親の足に突き立てた。
そして、胸に突き立てた。5回、6回。いや、もっと。
Ellisは呆然として動けなかった。
正気に戻り、何とか逃げ出したが。

 

意識が朦朧とする。
階段を半分程登ったところで、Sahmのパタパタという足音が迫ってきた。

 

振り返ると、階段の下に娘が居た。
きれいな金髪をした、彼女の娘だ。
倹約を続け、収穫祭の為に買ってやった、ピンクのレースの服を着ている。
右手に包丁を持ち、服は赤黒く染まっている。
肘から先は血でべっとりで、包丁の先から血が滴っている。

 

「待ってよ、ママ。まだ足りないの」

 

―Sahmは遊んでいるの? 何故こんな…?

 

彼女は、何とか一段後ずさった。

 

Sahmは一段飛びで迫ってくる。
「待ってよって、言ったの!」

Sahmが階段の血溜まりで滑り、前のめりに転ぶ。
右手が空中で弧を描き、Ellisが身を引いたところに、包丁が深々と突き刺さる。

 

Sahmの叫び声が周りに響く。
Ellisは、何とか身体を動かして最後の2段を登り、2階へと辿り着いた。
動かなくなった右足を引き摺り、Ralynの部屋へとよろよろと進む。

 

―部屋に入って、ドアに閂を掛ければいい。そうすれば…

 

彼女はドアを開けた。そして、凍りついた。
Ralynのベッドは空っぽだった。
ベッドの手摺は壊され、破片が床に散らばっている。

 

壊れたベッドの手摺に捉まったが、意識はさらに朦朧としてきた。
意識が遠のくと共に、手足が冷たくなってきたのが分かる。

 

「見いぃ付けたぁぁぁ!」

 

振り返ると、Sahmが満面の笑みを浮かべていた。
在りし日のパパと遊んでいる時に見せた笑み。

 

視界がぼやけ、Ellisは後ずさりした。
ベッドの手摺を掴み、引き抜き、震える手で突き出した。
先端は鋭く、長い。

 

「Sahm、何をしたの? あなたの弟でしょう?」

 

Sahmは包丁を下げた。
唇の端が下がり、眉毛が寄った。眼を見開き、泣き始めた。
思いがけずやらかしてしまい、何とか言い逃れをしようとする時の表情だ。

 

「私を苛めるの? ママ?」

 

海上の船の様に床が揺れる。自分の手と、持っている破片も定かで無くなってきた。

 

「どうしてなの…?」
Ellisはすすり泣き、声は上擦った。
「どこか具合が悪いからなのね? それなら、Bellikの所へ行きましょう―」

 

足首に痛みが走った。
突き刺すような衝撃が身体を駆け抜け、彼女は痛みで叫んだ。

 

ベッドの下からRalynが這い出てくるのが見えた。
ニコニコと母親を物欲しそうな目で見上げ、小さな歯はぬらぬらと赤く輝いていた。

 

世界は闇に飲まれていった。Ellisの腕がだらりと下がり、頭は項垂れた。
慈悲深くも、Sahmの刃が胸に振り下ろされるのを感じることは無かった。

 
 
  • なんという猟奇小説 さすがDiablo -- ページ作者? 2012-05-20 (日) 01:22:13
  • 仕事自体は素晴らしいけど、フォントの大きさ変えたりするのはどうかと思うのよ -- 2012-05-20 (日) 02:12:54