43M

• 設計者のデダイ・キラーイ・パールはオーストリア=ハンガリー帝国の大学に所属していた工学技術者で、第一次世界大戦で砲兵士官として従軍した後に、スイスのSIG社で従軍時の経験を元にKE7軽機関銃やMKMO短機関銃などの自動火器の設計をしていたという経歴の持ち主である。
• ハンガリーの再軍備が許された事で故郷に戻ったキラーイは、ダヌビアでいくつかの銃を設計した後に、9x19mmLuger弾よりも強力な9x25mmMauser弾を使用する自動火器を開発した。*1この銃が39Mという名でハンガリー軍に採用されている。
• 39Mはハンガリーの国情や国土に非常に適応しており、寒冷な土地でも動作不良が起こりにくく、防寒具を着た相手にも充分なストッピングパワーを持つなど前線の兵士にも好評であったが、銃床が長くかさばるという欠点があり、ストック部を切断してヒンジでサイドスイング式に改良した39AMが開発されている。
  • しかし、39AMはストックを折りたたんだままでは射撃できないという欠点があった。
  • また、ライフルグリップでは連射時の反動が制御できないという意見や、マガジンが邪魔で装弾不良が起きるなどの欠点が見付かった事から、39Mを全面的に改良したモデルが開発された。これが43Mである。
  • 43Mは基本的に39Mのショートバレル、フォールディングストックのカービンモデルと言うべき銃だが、39Mでの不具合を解消するために細部まで仕様変更が及んでおり、共通のパーツはほとんどない。
• 動作機構はキラーイが発明したレバーディレイドブローバック・クローズドボルトという方式で、他には類似例がない独特の構造をしている。

• 39M/43Mのもう一つの特徴が、前方へマガジンを折り畳めるマガジンウェルを持つことで、折り畳んだマガジンはハンドガード中央のスリットに収まり、バネ仕掛けで自動的に薬室の蓋も閉まるという優れものだった。
  • このため、40発という大容量マガジンでも携帯時の不便がなく、銃内部への異物の混入も起こりにくい。
  • 43Mでは非常に珍しい銃身方向への角度がついたストレートマガジンとなっており、マガジンリップが強化されて39Mで起きていた装弾不良が解決されているが、垂直に挿入する39Mや39AMのマガジンとは互換性が無くなっている。
• ストックも39AMとは異なる金属製で下方向への回転式となっており、ストックのアーム部分が収まるところはくびれていて、畳んだままでも問題なく射撃が可能となっている。
  • また、ピストルグリップやストックの手が触れる部分には金属部にわざわざ木製パーツが取り付けられている*2など凝った造りをしており、極寒の東部戦線ではじめハンガリー軍が置かれた寒冷な戦場でも良好な作動を保ったと言われている。
• セレクターもユニークで、円柱状の機関部後方にまたぐようにリング状のレバーがあり、E（Egyenkent）セミオート、S（Sorozat)がフルオート、Z（Zarva）がセーフティで回転させることで切り替える。
  • ちなみにこの並び方はAKシリーズと同じで、一見すると特殊に見えるが、パニック時に勢い余ってセレクターをフルオートに合わせてしまい、弾薬を無駄に消費しない為の配慮である。
• フロントサイトは典型的なマウザー式だが、リアサイトはスライダーとフリップ式で600mまで対応するなど、サブマシンガンとしては長距離の射撃を想定しており、一般的なサブマシンガンとは一線を画す性能を持っていた。
• 反面、他国では採用されていない弾薬を使用している事から、自軍からしか弾薬の供給が出来ないという大きな欠点も抱えている。
• 第二次世界大戦ではハンガリー軍の主力武器として使用されたほか、ナチスドイツがMP43(u)の名で採用している。
  • ハンガリーがソ連に占領された際に生産設備が根こそぎ略奪された上に、戦後はソ連で余剰兵器になっていたPPSh-41が供与されたため、39M/43Mは1950年代に全て退役した。*3
  • 退役した39M/43Mは中古武器市場に出回る事もないまま、大半がスクラップとして処分されてしまったので、現在は技術資料等として保存されていた僅かな数の個体しか残っていないという。*4
  • 第二次世界大戦の末期には、弾薬を9x19mmLuger弾としボルトを単純な一体型のシンプルブローバックとした44Mが試作されているが、何丁製造されたかすら定かではない。
• 余談だが、設計者のキラーイは戦況の悪化を察して大戦末期にスイスへ逃れると、戦後はドミニカ共和国へ移住してサン・クリストバルというカービン銃*5を開発している。
  • フランスのMAT-49短機関銃が、MKMO短機関銃や本銃に似たマガジンの折りたたみシステムを採用するなど、自動火器の歴史に影響を残した技師の一人といえる。

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