Gr MP5

• 1950年代、H&K社は西ドイツ軍が機関短銃のトライアルに向けて同社のG3をもとにHK54を開発して、ドイツ連邦国境警備隊に正式採用され最前線の兵士に高い評価を得た。
  • その後、HK54をもとにフローティングバレルの採用とアイアンサイトの改良によって命中精度を向上し、輸出および警察向けの機関短銃に発展させたのがMP5である。
• メカニズムの点でもG3の特徴であるローラー･ロッキング/ディレードブローバック式を採用しており、またSMGとしては早くにクローズドボルトを採用*1している。
  • それまでのSMGで一般的であったオープンボルト方式は構造が単純でコストも安く耐久性を高くできる一方で、トリガーを引いてからボルトが前進した後に弾が発射される仕組みからタイムラグが発生する上に、きっちりと保持していても重いボルトが前後する衝撃によって銃口がブレてしまうため、命中率の面で不利な要素が多い。また、連射時の反動が大きくなってしまうという難点も存在していた。
  • 対してクローズドボルトでは引き金を引くと即座に弾丸が射出される事から、初弾の命中率が劇的に改善した。
  • 使用弾薬が拳銃弾のため長距離での精度や威力は望めないが、短距離(100m程度)であればアサルトライフルと同等の非常に高い精度を実現しており、ほどほどに取り回しが良くて弾がバラまければいいという既存のサブマシンガンとは一線を画す存在となった。
• また拳銃弾は貫通力の低さから一般市民を巻き込みかねない状況でのコラテラルダメージ*2を最小限に抑える事が可能で調達コストも安い*3ために、警察特殊部隊や軍の対テロ作戦部隊等での採用率が圧倒的に高い。
• 登場以来数多くの事件で活躍しており、その評価の高さとメディアへの露出から、警察特殊部隊といえばMP5というイメージを作った。
• 精密かつ特殊な構造上、定期的にH&K社へ送り返しての修理が必要なメンテナンス性の悪さがあったり、弾薬を撃ち尽くしたあとホールドオープンする機能がないために、マガジン交換の度にチャージングハンドルを操作せねばならないが、操作が下手だと閉鎖不良を起こすといった繊細かつ敏感な欠点も持ち合わせており、取り扱いには慣れが必要である。
  • また9mmパラベラムを使用するアサルトカービンというべき構造上、新世代のポリマープラスチックやアルミ合金を多用した世代はともかく、俗に第二世代とか戦後世代と呼ばれるM3やイングラム、UZIといったサブマシンガンと比べても重くてかさばる。
• その高精度と引き換えにSMGとしてはかなりお高い銃であるが、H&K社でも異例のロングセラーとなっている息の長い銃であり、後継としてフレーム素材をポリマーにして軽量化したり、構造をシンプルなブローバック方式にした銃も試作されたが、MP5の販売が継続して好調であった為に製品化は見送られた。その後、上記の試作銃をベースに.45口径弾モデルとして開発されたのがUMPである。
  • それでも細かな改良や納入先に応じたカスタマイズは随時なされており、強装弾に対応するなどして現代でも各国各組織で現役である。
• 日本においても警察ではSATや成田国際空港警備隊他、海上保安庁ではSST、海自ではSBUなど様々な部隊に配備されていることで有名。

・MP5直系
　MP5シリーズの基本となるバリエーション。A3前期型までのロアレシーバーを持つものはSEFトリガーグループと呼ばれる（セレクターポジションに書いてある文字に由来。それぞれ安全・単射・全自動射のドイツ語の頭文字。）。
　A3後期型からはセレクターポジションが文字に代わってピクトグラムで示されるようになり何処の国の人が扱っても一目でどのような射撃状態かがわかりやすくなった。点射機能を廃したタイプはネイビートリガーグループと呼ばれる。

・MP5F
　MP5A5のフランス警察モデル。3点射機能を標準装備、さらに大型の新型ストックを採用。日本警察採用モデルはさらに大型フラッシュハイダーを装備し強装弾にも対応。ちなみに日本での分類は「特殊銃」。

・MP5K系
　秘匿携行に特化したモデル。ストックを廃して大型拳銃より少し大きいか？というレベルにまで極端に小型化されているのが特徴。
　専用アタッシュケース内にレーザーサイトとともに取り付けられ、ケースの握り手のトリガーで射撃可能なMP5Kコッファーが有名で、
　平時の要人警護等で、露骨に銃火器を携行すると支障があるが拳銃では心もとない時などに使用されることがある。

・MP5SD系
　特殊部隊向けにサプレッサーを標準装備したモデル。内装式サプレッサーの為に大きく変わったハンドガードや銃口部分で容易に見分けがつく。一般的な後付サプレッサーと異なりアルミ合金製で耐久性が高く軽い。

・MP5 MLI
　H&Kが2014年に発表した最新のバージョン。ハンドガードとレシーバーにレールマウントが装着されており、全体も明るめのブラウンカラーで塗装されている。
　MLIはMid Life Improvementの略。

・その他
　他にも大口径じゃないと満足しないアメリカ合衆国への輸出向けに口径違いの10㎜弾モデルや40SW弾モデルなどが存在している。

【過去ログ】