L85A1

L85はSA80ファミリーのアサルトライフルで、EM-2以来となるプルパップ方式の採用で本体をコンパクトにすることにより、標準ライフルに加えて短機関銃も同時に置換しようとしていた。

• 内部構造は殆どAR-18と同一で、実質的にはAR-18のブルパップ改造版とも言える。
  • 事実、この銃につながる最初のモックアップは、スターリング・アーマメント社製のAR-18を無断で改造して作られたもので、事実を知ったスターリング社は製造権を主張したが結局うやむやのままとなった。
• 動作機構はショートストロークガスピストン・クローズドボルトで、原型となったAR-18と同様に生産性を重視し、スチールプレス加工やプラスチックのパーツが大量に用いられている。
• またフリーフローティンフバレルを採用しブルパップ方式に付きまとうアイアンサイトの照準線の短さの問題をSUSAT光学照準器を標準搭載することで補うなど先進的な設計思想も盛り込まれている。
  しかし後に｢史上最悪の軍用アサルトライフル｣として悪名を馳せることになるこの銃の問題は、多分に銃その物よりその周囲の状況に起因していた。
• 最大の問題は財政の健全化を何よりの主命題としていた、英国政府からの圧力にあった。
  • 生産性のためにしばしば信頼性が犠牲にされたのもさることながら、より大きな問題はスケジュールに関する圧力だった。納期が遅延すれば余分なコストがかかると政府から恒常的に急かされ続けた結果、後に上げられる問題が試験の段階でしばしば明らかになっていたにも関わらず放置されてしまったのである。
• 悪いことに当時銃の生産を担当していたエンフィールド造兵廠は、民間への払い下げのために業務整理の最中であり、製造現場の士気は地に落ちていた。結果的にエンフィールド造兵廠で生産された部品は品質管理に大きな問題を抱え、この銃の問題の大きな原因となることになる。*1
• それに加えて、この銃の設計チームは優れた工学者達が揃っていたにも関わらず、誰も実際に銃を設計した経験がなかったという問題があった。
  銃ほどに複雑な機械製品では、実際に銃がどのようなものなのか理解していないことが、非常に致命的な問題を産むのである。
  事実、設計チームが設計中に行った「改良」は、その多くが意図せずして「改悪」となってしまっていたのだ。
  試験の段階で明らかになった諸問題が放置されたのは、設計チームの銃に関する経験のなさの表れでもあった。
• これら2つの原因が絡み合った結果、試作型からどんどんと設計は改悪されてゆき、更には試験の段階で発覚した問題も有耶無耶にされたままL85A1は制式配備された。そして、実戦で使用された湾岸戦争では、以下のような問題が一挙に噴出することになった。
  • 重心が後方に寄りすぎているため、フルオート射撃時の反動が非常に大きい。
  • 引き金が固く、射撃精度に悪影響が出る。
  • セレクターレバーがグリップより離れた銃床の左側面についているため、操作のために一々手を放す必要がある。
  • 排莢不良の多発。ボルトについているコッキングレバーが排莢時に薬莢にぶつかり排莢口に挟まる、最悪そのまま跳ね戻ることもあった。
  • 給弾不良の多発。マガジンのスプリングが弱いため、ほとんどの兵士が28発までで運用していた。また、マガジンキャッチのスプリングが弱く、マガジンが自重で落下することもあった。
• プラスチック部品の破損が多発。

上のような問題を政府に報告した報告書が外部に漏洩したため、L85に関する問題は遂に明るみに出ることになる。当然ながら大スキャンダルとなり、政府の不誠実な態度もあいまって、L85の評判は地に落ちることになった。
そして遂に進退窮まった政府は、当時英企業傘下にあったH&K社に設計の改修を依頼することとなった。

• 百戦練磨のH&K社チームはL85A1をつぶさに分析して、小規模な、しかしほぼ全ての部品に渡る改良を実施*2した。
• 改良後のL85A2で上のような動作不良は解消されるに至り、L85の動作不良が平均99発に1回と言われるものだったのに対して、L85A2では平均25200発に1回となっている。
  ただし、当然そのような大改修には費用がかさみ、本来の省コスト路線は意味をなさなくなった。*3
  また2009年には、これまで使用されていた光学照準器SUSATをTrijicon ACOG等に置き換えるなどの小改良を行っている。
  2017年にはさらに小改良を重ねたL85A3が発表され、翌2018年から制式採用されたが、完成品を置き換えるのではなく、A2の部品交換による小規模なものにとどまっている。
• また銃身を延長しバイポッドを標準装備、銃床(機関部)下部に伏射用のグリップ、後部にショルダーレストを付けたL86LSW（Light Support Weapon）の他、カービンモデルのL22、訓練用のL98等があり、L86は、遠射能力と精度の高さからマークスマンライフルにも転用されるなど、素性は決して悪くなかったことを証明している。(なお分隊支援火器としてはミニミに取って代わられている。)

【過去ログ】