MAS-38

• MASはサン=テティェンヌ造兵廠(Manufacture d'Armes de Saint-Etienne )の略語で、制式名称は"Mle1938"である。
• フランス軍はそれまでサブマシンガンを採用していなかったのだが、1930年代に入ってサブマシンガンの配備を決定し、各地の造兵廠が提案した複数の試作品の中からサン=テティエンヌ造兵廠案のMle1935をベースにしたMAS-38を採用した。
• 使用している7.65×20mmローン弾は、本来は米軍がスプリングフィールドライフルを塹壕戦で使用する為のモジュール「ピダーセン・デバイス｣用に開発した弾薬で、これをフランス軍が制式拳銃弾として採用した物である。
  • ピダーセン・デバイスはボルトアクション小銃のボルト部分を引き抜いて*1換わりに差し込むことで、長い銃身を持った一種のピストルカービンに変えてしまうという後付け用のパーツで、1919年に投入すべくすさまじい勢いで生産が行われたものの、投入直前で第一次大戦が終結し、戦後の試験で不具合が多数発見されて破棄されたという代物だった。
  • この際に並行生産されて倉庫を圧迫していた大量*2の弾薬をフランスが捨て値で引きとって制式採用し、その後もフランスと契約したレミントン社が生産を続けている。
    • 一説には｢敵国だったドイツの9×19mmルガー弾を採用するのが嫌だったから制式採用した｣とも言われている*3。
• 動作方式はシンプルブローバック・オープンボルトの標準的な方式を採用しているが、薬室に対して銃身が6度ほど下に傾いて取り付けられており*4、ボルトもこれに合わせてカットアウトされている。ボルトのバッファーチューブは木製ストック後端まであり、見かけよりも機関部は大きい。これは小型化と射撃速度の低下による反動の低減を企図したものだが、塹壕や他の掩体、遮蔽物に身をひそめたまま銃身だけを出して撃つ時にも有利となっている。
  フロントサイトは左側にオフセットされ、リアサイトは折りたたんだ時に引っかからないよう埋没式になっているのだが、起こした時の高さが不足しているために非常に実用性が低い。
  • 機関部自体も削り出し加工の高品質なものだが、総じて非常に高コストで量産性は低く、兵器という面ではショーシャやリベロールより退化している部分もある。
  • セーフティはトリガー自体を斜め前へ折り畳む事で、物理的に指が引き金に入らなくなる様にする物となっており、フルオートオンリーの為にセレクターは存在しない。
  • 排莢部にダストカバーが取り付けられてる上に、マガジン挿入口には未装填時に閉める為の蓋まで付いており、徹底的に異物の侵入を避ける工夫がなされている。これはフランスの植民地にアフリカの砂漠地帯が多かったのが大きく影響している。
• MAS-38はその名の通り1938年にフランス軍の制式サブマシンガンに採用されたのだが、1940年にドイツがフランスに侵攻するとフランスはごく短期間で降伏してしまったため、MAS-38が活躍出来た期間は短かった。
  • のだが、ドイツが治安部隊や警察向けに"MP722(f)"の名前で採用しており、フランスが占領された後も生産が続けられていた。
• 戦後はフランス軍の制式サブマシンガンとしてMAT-49が採用された為に、フランス軍の制式サブマシンガンとしては短い期間しか使用されなかったが、警察等の公的機関では戦後も長く使用されていた。
  • この警察用モデルは単なる流用ではなく、軍用モデルより長い銃身と伸縮式のワイヤーストックを持つ。廃止された木製ストックに埋まっていたバッファーチューブは短縮され連射速度が向上している*5。
    • またマガジンウェルに折り畳み機構が設けられ、銃身と並行にしてホルスターやバッグに収める時などにひっかかりにくくなった。
• 官給品なので現在もフランス政府が保有しており、ダストカバーのない(金具は残っている)個体やセミオート化されたものも確認されている。
  • 大戦中、イタリアの共産パルチザンがムッソリーニを処刑する際に使用したという説が存在しているほか、現在でもインドシナやアフリカといったフランスの旧植民地では、裏ルートで流通しているという。

【過去ログ】