S-ACR

• アメリカ陸軍はM16に代わる新たな制式アサルトライフルを決めるために、1980年代後半にAdvanced Combat Rifle*1計画、通称ACR計画を開始したのだが、ステアーACRはこの計画へ参加する為に開発されたアサルトライフルである。このACR計画はの2倍の命中率で新兵にも扱いやすく軍用ボディアーマーを貫通しうる能力という設定されたハードルが高かった事から、革新的な(しかし、後の銃にはあまり繋がらなかった)技術を用いた小銃が多数参加していた。
• ライバルだった銃にはケースレス弾を使用するH&K G11K2を筆頭に、一つの弾薬で二発の弾丸を発射するデュプレックス弾*2を使用したコルトACRなど、革新的ではあるもののどこか変な銃が名を連ねている。
• ステアーACRも他のACR計画参加ライフルと同様に革新的な技術*3が投入されており、フレシェット弾を使用するブルパップ式アサルトライフルという非常に特徴的な銃となった。
• フレシェット(flechette)弾とは フランス語で投げ矢の意味の通り小さな矢の様な形をしている弾丸の事で、その形状から空気抵抗が小さく高初速で直進性に優れ、反動も極めて小さいことから｢光線銃のよう｣と評された。作動方式は3点バーストで専用マガジンも24発とされた。
• ステアーACRが使用した弾薬は、長さ41mmの有翼弾頭をサボット(Sabot 正しくはサボーでtは発音しない。本来はフランス語で木靴の意味。銃身内でのガイドと保護、弾道の安定化を行う。画像右手前が装着状態)と炸薬とともに全長45mmのプラスチック製の薬莢内に完全に収めた、一見学校用のチョークか印鑑のような見た目(画像奥)をしている。
  
  • 射出された弾頭(画像左)はAPFSDSにそっくりなものの、重く固いタングステンや劣化ウランを使用するAPFSDSとは異なりスチール製で対物能力は有しない。ただしACRプロジェクトが要求するケプラー繊維のボディアーマーや硬質樹脂や鉄製のヘルメットは貫通するだけの能力は持っていた。
• 使用する弾薬が特殊な事や、ACR計画が高い命中率を要求していた事から、作動方式も非常に独特な構造をしており、薬室が上下に動いて装填、排莢する。排莢口はマガジンのすぐ前に真下を向いて開いていたため、ブルパップ式に付き物の排莢口の向きという問題は存在しなかった。試作弾薬はやや高価であったものの、使用材質や技術は極めて安価かつ一般的なもので、量産されれば5.56x45mmNATO弾の半額以下で調達可能というのがステアー社の主張であった(むろんセールストークであった可能性もある)。
• 外装はポリマー製でブルパップ式の欠点の一つである照準線の短さを補うために光学式スコープが取り付けられているなど、見た目はステアーAUGに似ており、トリガーやグリップはほぼAUGの形状のままである。このために当初はAUGの改良型という説もあったが、前述の通り内部構造は全くの別物と言っていい銃であった。
• しかし、弾頭が軽く人体内での弾頭の変形(マッシュルーミング)も起きないためストッピングパワーに欠け、通常弾に比べて風雨の影響を受けやすく*4屋外では実質使い物にならないなど様々な欠点も露呈している。これらの欠点は改善が可能とされていたのだが、ACR計画が掲げていたハードルがあまりにも高すぎたために他の参加ライフルと同様に試作品止まりで終わった。
• 結局ACR計画は上手くいかずに頓挫し、アメリカ軍は現在でもM16の系譜にあるM4カービンを制式装備として使用し続けている。本銃に限らずトライアルに参加した銃は要求を満たすためにみな特殊な弾薬を使用するなど全ての装備や施設、在庫を置き換えるにはコストがかかりすぎ、陸軍の目算が甘すぎたのが一番の原因であった。ほぼ同じ目的だったソ連のアバカン計画が使用弾薬は既存のもののみとし一定の成果を見せたのとは対照的である。

• それまでの銃とは全く違った近未来的な外見やその弾薬から、ゴルゴ13*5やスプリガンといった90年代の作品では最先端の銃として扱われていたほか、徹甲弾としての能力も持つと誤った解説をされることも多い。またエヴァンゲリオンのパレットライフルのモチーフになったと言われている。

【過去ログ】