StG-940

• 冷戦当時の共産主義国ではAK-47シリーズのコピー品が盛んに生産されており、各国の主な輸出品の一つでもあったのだが、あまりにも盛んになりすぎた結果、AKシリーズの本家である当のソ連製AKが売れなくなるという、ソ連にとっては頭が痛い問題が発生していた。
  • そのため、ソ連は新型ライフルであるAK-74のライセンス生産については、ライセンスされた当事国で使用する分に限って許可するという制限を設けた。これに頭を抱えたのが、AKシリーズを大量に輸出していた東ドイツであった。
    • 東西に分割された後も優れた工業力を持っていた東ドイツは、当時出回っていたAKシリーズの三割を生産していたと言われるほど盛んにAKを輸出しており、東ドイツにとってのAKシリーズは経済を支える重要な商品となっていたのである。
    • そこで東ドイツはAK-74を利用して、輸出用の新型ライフルを開発する事にした。これがヴィーガーである。
• ヴィーガーの内部構造はほぼAK-74のままだったが、ハンドガードやストックは黒いポリマー製に置き換えられ、デザインも一新されている他、照準器の配置なども変更されている。
• 輸出用に開発されたヴィーガーには、各弾薬に対応した複数のモデルが存在しており、AK-47の7.62×39mm弾を使用するStG-910系、AK-74の5.45×39mm弾を使用するStG-920系、そして、西側の標準弾薬であった5.56×45mmNATO弾を使用するStG-940系の三つの系統が存在していた。
  • 更に、銃のタイプによって末尾番号が割り振られており、標準型のアサルトライフルは1、折り畳みストック型は2、折り畳みストック式で短銃身のアサルトカービン型は3、機関銃型には4、狙撃型には5の数字が割り振られている。
  • つまり、StG-940系にはアサルトライフルのStG-941から、狙撃型のPG-945*2までの五種類しか無いため、“StG-940”という銃は存在しない。そのため、StG-940はもっぱらStG-940系の銃全体を指す言葉として使用されている。
    • ドルフロで使用されているのは、一般的なアサルトライフル型のStG-941である。
• ヴィーガーは高い工作精度*3によって十分な命中率と耐久力を持つ銃となっており、輸出用という目的通りにインドやペルーとは輸出契約が結ばれていた。
  • だが、ヴィーガーにとっては不運な事に、同時期に東ドイツの命運が尽きてしまう。1989年11月にベルリンの壁が崩れると東ドイツは事実上の崩壊状態となり、1990年6月には部品工場が閉鎖、8月にはヴィーガー自体が生産中止となってしまった。産みの親たる東ドイツが完全に消滅したのは、それから二ヶ月後の1990年10月の事である。
    • 統一後のドイツ連邦はH&Kのアサルトライフルで装備を統一したため、ヴィーガーは違約金を払った上でキャンセルされ、既に生産されていた物も廃棄処分となっている。
    • インドやペルーとの輸出契約も破棄されたため、統一ドイツ政府は多額の違約金を支払う事になったという。
  • こうしてヴィーガーは冷戦終結という歴史の大波の中へ消えていったのだが、その後も旧東ドイツの技術者がヴィーガーをベースにした民間向けセミオートライフルを発売したり、アメリカでは流出した設計図を元にした“StG-2000”*4が販売されたりしていた。皮肉な事に、東ドイツの消滅後もヴィーガーの子孫は他国で細々と生産され続けていた様である。

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