コプリー 暗域 PART.6 目覚め

Last-modified: 2024-12-01 (日) 05:04:20

オアシス、アドミンセンター。
ペルシカ製造局の勤務スケジュールは最新のリストを参考にしてください。クロックさんが退院するまで、ここの責任者は私が兼任いたします。
製造局のマネージャーわかりました。それなら、待機中のプロジェクトは……
ペルシカD58を除いた、待機中のすべてのプロジェクトと生産ラインを起動してください。
製造局のマネージャー了解です。
ペルシカそれから、警備部門については……
シーモ警備レベルを2つ下げてはどうでしょうか。
ペルシカえっ?シーモさん……
 自分から近づいてきたシーモを見て、ペルシカは驚きの表情を浮かべた。
シーモ今のところ、エントロピーが進攻してくる気配はありません。このチャンスを有意義に使いましょう。
シーモ部門間異動は行わず、手の空いている者を見張りに当たらせます。それと、皆さんが留守の間に警備プランを更新しておきました。教授、ペルシカさん、後で目を通して頂けますか?
ペルシカ教授、いかがです?
{教授}彼の言う通りに。
{教授}それと、シーモ。
シーモはい、教授?
(選択)1.お疲れ様。A
2.おかえり。A
A{教授}私たちが不在の間、シーモは立派に役目を果たした。
これより、警備部門の全責任は正式にシーモに委ねられる。
{教授}今後、ペルシカは警備部門の業務に関与しないが、
毎月末には彼女に翌月の警備スケジュールを同期してやってくれ。
シーモ了解しました!ありがとうございます!
{教授}君自身の功績だよ。
ペルシカ医療部門に関しては……フローレンスさんが過激行為で1度の警告を受けていますが、現在の医療部門は緊迫した情況です。処罰は緊急事態が解除されるまで延期とします。
医療部門の事務スタッフ了解、来月の訓戒処分リストに加えておきます。
ペルシカそれと、後方部門は……
 アドミンセンターに戻ったペルシカはすぐさま仕事に取り組み、
不在中に溜まっていた業務を素早く処理し始めた。
ペルシカよろしい。各自、部署での業務を続けてください。
 すべての部門の任務を分配し終えると、彼女は資料を手にこちらへ近づいてきた。
ペルシカおまたせしました、教授。
{教授}これだけの任務を君一人で大変だったね。
ペルシカとんでもありません、こんなことでしかお手伝いできませんから。それに、報告書には教授直々に目を通して頂きませんと。
{教授}やっておくよ。アントニーナのほうは?
ペルシカ先ほど、医療部門からはもうすぐ結果が出ると。当直の医療チームが手術の準備を始めています。こちらも仕事を終えたら、様子を見にまいりましょう。
ペルシカオディールとタラナムさんを知った後では、クロックさんに頭が上がりません……
{教授}ペルシカ、そう気を病むな。
私たちだって彼女をあきらめなかった、そうだろ?
大丈夫、必ず救えるさ。
ペルシカ……ええ、あなたの仰る通りです。
{教授}その意気だ。笑顔、笑顔。
彼女が目を覚ましたら、どう声をかけるか考えておいたら?
ペルシカそのポジティブさが羨ましいですね。どう声をかけるか……ですか。でも私、口下手で……
ペルシカうーん……「早く良くなってください、クロックさん。製造局の業務が山積みですよ。それにあなたには色々教わりたいことが……」――こ、こんな感じでどうでしょう?
{教授}良くなって欲しいのは同意だけど、さっそく仕事の話とはね……
ポジティブなのはどっちなんだか。
ペルシカプッ……ふふふ。
ペルシカ教授。
{教授}ん?
ペルシカありがとうございます、色んな意味で。
 
オアシス、D71臨時観察拠点。
 手術室とつながっていたはずの観察室は、
エントロピーのソースコードを解析するための作業室に改造されていた。
 アントニーナは大きな椅子に小さく縮こまり、
目の下に真っ黒なクマをこしらえたまま、一心不乱にキーボードを叩き続けている。
アントニーナクラック失敗?ありえない、あのちっこいタコじゃ問題なかったのに……
アントニーナもしかして、無害な小型エントロピーと感染性のあるウィルスとでは何かが違うのか?
アントニーナ構造はどう見ても同じソースなのに……ここを変えてみるか……うげッ!
 アントニーナは手中のカップに入っている真っ黒な液体を見た。
アントニーナまっっず……ペルシカがあれだけ砂糖を入れたがる理由、わかったかも。
パナケイア眠いなら、いくつか薬を提供できますよ。
アントニーナいえ、結構です。最遅でもあと20分。先に手術室を手配しておいてください。クロックさんの容態は一刻を争いますから。
パナケイア規定にはそぐいませんが……
フローレンスもぉ~、パナっち。こんな時にヤボなこと言わな~い。アンナっちがそう言ってるんだから、信用してあげなきゃ。
アントニーナフローレ……
 フローレンスは有無を言わさず、パナケイアを引っ張って手術室に入った。
ペルシカあっ、廊下を走ったら危ないですよ!
アントニーナん……?ペルシカさん、教授、来たんですか。
ペルシカソースコードの解析はどうです?
アントニーナあと少し……もうすぐです!ペルシカさん、砂糖をお願いできますか?それと、こいつも。
 アントニーナはふりむきもせずに、真っ黒な塊を投げてよこした。
小さなエントロピーキキッ、キキキーーーッ!
 にわかに頭上に何かが覆いかぶさり、ヌルヌルした感触が私の顔面を這った。
小気味よく鋭い鳴き声が小さく響く。
ペルシカこれは……生態セクターで拾った、あの小さなエントロピー?
{教授}何でもいいから取ってくれない!?
小さなエントロピーキキッ、キキッ!
 小型エントロピーは触手でめいっぱい私の耳を引っ張った。
離れたくないらしい。
ペルシカプッ……教授が気に入ったようですよ?
アントニーナそれは良かった。拾ってからというもの、まとわりつかれて困ってたん……ぶふッ!?
アントニーナペッ、ペルシカさん!どんだけ砂糖入れたんですか!?甘ったるッ!!
ペルシカえっ?い、いつもの量ですけど……
アントニーナ……なんて恐ろしい……砂糖にコーヒーを入れたのかと思いましたよ……
アントニーナえ、待って……まさか本当に砂糖にコーヒーシロップを……
アントニーナつまりここは……実はロジックが逆で……それからここは……
ペルシカア……アントニーナさん……?
アントニーナ逆行解析……小型エントロピー……コーヒー……バグ……
ペルシカまずいです、支離滅裂な発言をし始めました……まさか、壊れたんじゃ!?
{教授}落ち着け、ペルシカ。彼女なりの集中力を高める方法なんだろう。
{教授}彼女を信じよう、ここは待つんだ。
アントニーナソースコード……再コンパイル……暗号化……タコ……ヌルヌル……ウザい……
{教授}……だ、大丈夫、たぶん……
小さなエントロピーキッ!
 そして、小型エントロピーが私の前髪と耳たぶを延べ166回もてあそんだ後――
アントニーナできた!
 アントニーナは興奮気味に叫ぶと、体を椅子に預けて微動だにしなくなった。
ペルシカアントニーナさん?
アントニーナスゥ……スゥ……
ペルシカね……寝てる?
パナケイアペルシカさん、データの転送を頼めますか?
 アントニーナの叫びを聞いたパナケイアが、手術室のガラス越しに語りかけてきた。
ペルシカはい、すぐに……教授、アントニーナさんをお願いします。
(選択)1.お姫様だっこでアントニーナを静かな場所に連れて行く。B
2.椅子に乗せたままアントニーナを静かな場所に連れて行く。C
3.椅子を引き抜く。D
B{教授}目を覚ました時、面倒なことにならないといいけど。
 泣くに泣けず笑うに笑えず、私はアントニーナを抱き起こすと、
キーボードの位置をペルシカに空けた。
 小型エントロピーが頭から肩へと滑り降り、
小さな触手でアントニーナの頬をそっと突いた。
小さなエントロピーキキッ、キキキッ!
{教授}静かにしてれば可愛いんだよなぁ、お前もそう思うだろ?E
C 私はアントニーナを乗せた椅子を部屋の隅へと動かし、上着を脱いで彼女にかけた。
小さなエントロピーキキッ、キキキッ!
{教授}しッ、静かに。E
D ドンッ!
アントニーナうぉわあぁぁっ!な、なに、どんなバグ!?
ペルシカきょ、教授?
アントニーナ……
 先ほどまで寝言を言っていたアントニーナは、私たちを見てすべてを察した。
彼女の顔がとっさに赤くなる。
アントニーナ教……授……!
{教授}あっ、その、ただ、本当に寝たのか確認しようと思って……
{教授}それに、ペルシカに場所を空けてあげないと……
アントニーナなーるーほーどー……それは確かに。
アントニーナここじゃ狭すぎます、表出ましょうか?
 私はペルシカに視線で助けを求めた。
ペルシカ場所が空いて助かりました、さっそくデータの転送を始めますね。
{教授}えっ、うそ……ペルシカ……?
{教授}あっ、アントニーナ、待って、引っ張らないで痛い痛い痛い……!E
E ペルシカが操作を終えると、フローレンスとパナケイアは素早く行動を始めた。
 一番の難関は克服した、だが一瞬たりとも油断はできない。
ここからが正念場だと誰もが知っていた。
 ガラスの向こうで、クロックが病床に横たわっている。
姿はボンヤリとしていて、はっきり見えない。
 
 手術はとても長く感じられた。
 ペルシカ、ソル、それにアントニーナ。シーモも2回様子を見に来た。
 私は小さなエントロピーと一緒に、手術室の前で待ち続けた。
ペルシカ教授、コーヒーです。
{教授}うん、ありがとう。
ペルシカ少し休憩されてはどうですか?ここは私が。
{教授}大丈夫だよ、それなら一緒に待とう。
ペルシカはい……
ペルシカ心配いりません、クロックさんはきっと無事です……きっと。
{教授}ああ、きっと。
 
ソル教授!手術……まだ終わってないの?
{教授}まだだね。始まって1時間くらいかな。
ソルそ、そっか……だ、大丈夫だよ!こーゆー手術は初めてなんだからさ、時間がかかって当たり前だって!
{教授}確かにな。今のところは順調のようだ。
ソルうん……
ソルあ、そうだ!お湯、準備してこよっか?クロックが起きた時に使うかもしれないし。
{教授}いいね。頼んだよ、ソル。
 
アントニーナ……
{教授}起きたのか、アントニーナ?
アントニーナええまぁ。たいして眠れませんでしたし。
{教授}クロックの出迎えには間に合いそうだ。
アントニーナ人のセリフ、奪うのやめてもらえます?
アントニーナ……
{教授}……
アントニーナ……座っても?
{教授}どうぞ。
アントニーナ……
{教授}大丈夫だ、自分の成果に自信を持て。
アントニーナ言われるまでもない。
 
シーモ教授……
{教授}しッ。
{教授}クロックの傍に座る私は、シーモに静かにするよう示した。
シーモす、すみません。手術室の扉が開いてたので、つい……
{教授}手術は順調だったよ。目を覚ますまで時間がかかるそうだ。
シーモ……彼女の、容態は?
{教授}……みんなを信じよう。
{教授}椅子を運んできたら?
シーモあ、いえ、結構です。巡回がありますので……
{教授}警戒レベルを下げたんじゃなかったか?
シーモ……はい。万が一があるといけませんから……
シーモ準備が整ったら……また来ます。
{教授}うん、焦らないでいいよ。
シーモお疲れ様です、教授。クロックさんによろしくお伝え下さい。
{教授}わかった。
 私の返事を聞く前に、シーモは足早に手術室を立ち去った。
 遠のく足音が響く中、長期間の疲労がたたったのか、私は激しい眠気に襲われた……
 
小さなエントロピーキキッ、キキキーーーッ!
{教授}……ん?うっ……寝てたのか……?
小さなエントロピーキキッ、キキキッ!
{教授}静かにしなさい。
 私は無意識に音のする方を探り、小さなエントロピーを捕まえようとした。
だが手に触れたのは、まったく違ったぬくもりだった。
{教授}……
クロックきょう、じゅ……
 やや朦朧とした視界には、目を開けて精一杯の笑顔でこちらに手を振る、
クロックの姿があった。
クロックひさしぶり。
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