オアシス、アドミンセンター。 | |||
ペルシカ | 製造局の勤務スケジュールは最新のリストを参考にしてください。クロックさんが退院するまで、ここの責任者は私が兼任いたします。 | ||
---|---|---|---|
製造局のマネージャー | わかりました。それなら、待機中のプロジェクトは…… | ||
ペルシカ | D58を除いた、待機中のすべてのプロジェクトと生産ラインを起動してください。 | ||
製造局のマネージャー | 了解です。 | ||
ペルシカ | それから、警備部門については…… | ||
シーモ | 警備レベルを2つ下げてはどうでしょうか。 | ||
ペルシカ | えっ?シーモさん…… | ||
自分から近づいてきたシーモを見て、ペルシカは驚きの表情を浮かべた。 | |||
シーモ | 今のところ、エントロピーが進攻してくる気配はありません。このチャンスを有意義に使いましょう。 | ||
シーモ | 部門間異動は行わず、手の空いている者を見張りに当たらせます。それと、皆さんが留守の間に警備プランを更新しておきました。教授、ペルシカさん、後で目を通して頂けますか? | ||
ペルシカ | 教授、いかがです? | ||
{教授} | 彼の言う通りに。 | ||
{教授} | それと、シーモ。 | ||
シーモ | はい、教授? | ||
(選択) | 1.お疲れ様。 | A | |
2.おかえり。 | A | ||
A | {教授} | 私たちが不在の間、シーモは立派に役目を果たした。 これより、警備部門の全責任は正式にシーモに委ねられる。 | |
{教授} | 今後、ペルシカは警備部門の業務に関与しないが、 毎月末には彼女に翌月の警備スケジュールを同期してやってくれ。 | ||
シーモ | 了解しました!ありがとうございます! | ||
{教授} | 君自身の功績だよ。 | ||
ペルシカ | 医療部門に関しては……フローレンスさんが過激行為で1度の警告を受けていますが、現在の医療部門は緊迫した情況です。処罰は緊急事態が解除されるまで延期とします。 | ||
医療部門の事務スタッフ | 了解、来月の訓戒処分リストに加えておきます。 | ||
ペルシカ | それと、後方部門は…… | ||
アドミンセンターに戻ったペルシカはすぐさま仕事に取り組み、 不在中に溜まっていた業務を素早く処理し始めた。 | |||
ペルシカ | よろしい。各自、部署での業務を続けてください。 | ||
すべての部門の任務を分配し終えると、彼女は資料を手にこちらへ近づいてきた。 | |||
ペルシカ | おまたせしました、教授。 | ||
{教授} | これだけの任務を君一人で大変だったね。 | ||
ペルシカ | とんでもありません、こんなことでしかお手伝いできませんから。それに、報告書には教授直々に目を通して頂きませんと。 | ||
{教授} | やっておくよ。アントニーナのほうは? | ||
ペルシカ | 先ほど、医療部門からはもうすぐ結果が出ると。当直の医療チームが手術の準備を始めています。こちらも仕事を終えたら、様子を見にまいりましょう。 | ||
ペルシカ | オディールとタラナムさんを知った後では、クロックさんに頭が上がりません…… | ||
{教授} | ペルシカ、そう気を病むな。 私たちだって彼女をあきらめなかった、そうだろ? 大丈夫、必ず救えるさ。 | ||
ペルシカ | ……ええ、あなたの仰る通りです。 | ||
{教授} | その意気だ。笑顔、笑顔。 彼女が目を覚ましたら、どう声をかけるか考えておいたら? | ||
ペルシカ | そのポジティブさが羨ましいですね。どう声をかけるか……ですか。でも私、口下手で…… | ||
ペルシカ | うーん……「早く良くなってください、クロックさん。製造局の業務が山積みですよ。それにあなたには色々教わりたいことが……」――こ、こんな感じでどうでしょう? | ||
{教授} | 良くなって欲しいのは同意だけど、さっそく仕事の話とはね…… ポジティブなのはどっちなんだか。 | ||
ペルシカ | プッ……ふふふ。 | ||
ペルシカ | 教授。 | ||
{教授} | ん? | ||
ペルシカ | ありがとうございます、色んな意味で。 | ||
オアシス、D71臨時観察拠点。 | |||
手術室とつながっていたはずの観察室は、 エントロピーのソースコードを解析するための作業室に改造されていた。 | |||
アントニーナは大きな椅子に小さく縮こまり、 目の下に真っ黒なクマをこしらえたまま、一心不乱にキーボードを叩き続けている。 | |||
アントニーナ | クラック失敗?ありえない、あのちっこいタコじゃ問題なかったのに…… | ||
アントニーナ | もしかして、無害な小型エントロピーと感染性のあるウィルスとでは何かが違うのか? | ||
アントニーナ | 構造はどう見ても同じソースなのに……ここを変えてみるか……うげッ! | ||
アントニーナは手中のカップに入っている真っ黒な液体を見た。 | |||
アントニーナ | まっっず……ペルシカがあれだけ砂糖を入れたがる理由、わかったかも。 | ||
パナケイア | 眠いなら、いくつか薬を提供できますよ。 | ||
アントニーナ | いえ、結構です。最遅でもあと20分。先に手術室を手配しておいてください。クロックさんの容態は一刻を争いますから。 | ||
パナケイア | 規定にはそぐいませんが…… | ||
フローレンス | もぉ~、パナっち。こんな時にヤボなこと言わな~い。アンナっちがそう言ってるんだから、信用してあげなきゃ。 | ||
アントニーナ | フローレ…… | ||
フローレンスは有無を言わさず、パナケイアを引っ張って手術室に入った。 | |||
ペルシカ | あっ、廊下を走ったら危ないですよ! | ||
アントニーナ | ん……?ペルシカさん、教授、来たんですか。 | ||
ペルシカ | ソースコードの解析はどうです? | ||
アントニーナ | あと少し……もうすぐです!ペルシカさん、砂糖をお願いできますか?それと、こいつも。 | ||
アントニーナはふりむきもせずに、真っ黒な塊を投げてよこした。 | |||
小さなエントロピー | キキッ、キキキーーーッ! | ||
にわかに頭上に何かが覆いかぶさり、ヌルヌルした感触が私の顔面を這った。 小気味よく鋭い鳴き声が小さく響く。 | |||
ペルシカ | これは……生態セクターで拾った、あの小さなエントロピー? | ||
{教授} | 何でもいいから取ってくれない!? | ||
小さなエントロピー | キキッ、キキッ! | ||
小型エントロピーは触手でめいっぱい私の耳を引っ張った。 離れたくないらしい。 | |||
ペルシカ | プッ……教授が気に入ったようですよ? | ||
アントニーナ | それは良かった。拾ってからというもの、まとわりつかれて困ってたん……ぶふッ!? | ||
アントニーナ | ペッ、ペルシカさん!どんだけ砂糖入れたんですか!?甘ったるッ!! | ||
ペルシカ | えっ?い、いつもの量ですけど…… | ||
アントニーナ | ……なんて恐ろしい……砂糖にコーヒーを入れたのかと思いましたよ…… | ||
アントニーナ | え、待って……まさか本当に砂糖にコーヒーシロップを…… | ||
アントニーナ | つまりここは……実はロジックが逆で……それからここは…… | ||
ペルシカ | ア……アントニーナさん……? | ||
アントニーナ | 逆行解析……小型エントロピー……コーヒー……バグ…… | ||
ペルシカ | まずいです、支離滅裂な発言をし始めました……まさか、壊れたんじゃ!? | ||
{教授} | 落ち着け、ペルシカ。彼女なりの集中力を高める方法なんだろう。 | ||
{教授} | 彼女を信じよう、ここは待つんだ。 | ||
アントニーナ | ソースコード……再コンパイル……暗号化……タコ……ヌルヌル……ウザい…… | ||
{教授} | ……だ、大丈夫、たぶん…… | ||
小さなエントロピー | キッ! | ||
そして、小型エントロピーが私の前髪と耳たぶを延べ166回もてあそんだ後―― | |||
アントニーナ | できた! | ||
アントニーナは興奮気味に叫ぶと、体を椅子に預けて微動だにしなくなった。 | |||
ペルシカ | アントニーナさん? | ||
アントニーナ | スゥ……スゥ…… | ||
ペルシカ | ね……寝てる? | ||
パナケイア | ペルシカさん、データの転送を頼めますか? | ||
アントニーナの叫びを聞いたパナケイアが、手術室のガラス越しに語りかけてきた。 | |||
ペルシカ | はい、すぐに……教授、アントニーナさんをお願いします。 | ||
(選択) | 1.お姫様だっこでアントニーナを静かな場所に連れて行く。 | B | |
2.椅子に乗せたままアントニーナを静かな場所に連れて行く。 | C | ||
3.椅子を引き抜く。 | D | ||
B | {教授} | 目を覚ました時、面倒なことにならないといいけど。 | |
泣くに泣けず笑うに笑えず、私はアントニーナを抱き起こすと、 キーボードの位置をペルシカに空けた。 | |||
小型エントロピーが頭から肩へと滑り降り、 小さな触手でアントニーナの頬をそっと突いた。 | |||
小さなエントロピー | キキッ、キキキッ! | ||
{教授} | 静かにしてれば可愛いんだよなぁ、お前もそう思うだろ? | E | |
C | 私はアントニーナを乗せた椅子を部屋の隅へと動かし、上着を脱いで彼女にかけた。 | ||
小さなエントロピー | キキッ、キキキッ! | ||
{教授} | しッ、静かに。 | E | |
D | ドンッ! | ||
アントニーナ | うぉわあぁぁっ!な、なに、どんなバグ!? | ||
ペルシカ | きょ、教授? | ||
アントニーナ | …… | ||
先ほどまで寝言を言っていたアントニーナは、私たちを見てすべてを察した。 彼女の顔がとっさに赤くなる。 | |||
アントニーナ | 教……授……! | ||
{教授} | あっ、その、ただ、本当に寝たのか確認しようと思って…… | ||
{教授} | それに、ペルシカに場所を空けてあげないと…… | ||
アントニーナ | なーるーほーどー……それは確かに。 | ||
アントニーナ | ここじゃ狭すぎます、表出ましょうか? | ||
私はペルシカに視線で助けを求めた。 | |||
ペルシカ | 場所が空いて助かりました、さっそくデータの転送を始めますね。 | ||
{教授} | えっ、うそ……ペルシカ……? | ||
{教授} | あっ、アントニーナ、待って、引っ張らないで痛い痛い痛い……! | E | |
E | ペルシカが操作を終えると、フローレンスとパナケイアは素早く行動を始めた。 | ||
一番の難関は克服した、だが一瞬たりとも油断はできない。 ここからが正念場だと誰もが知っていた。 | |||
ガラスの向こうで、クロックが病床に横たわっている。 姿はボンヤリとしていて、はっきり見えない。 | |||
手術はとても長く感じられた。 | |||
ペルシカ、ソル、それにアントニーナ。シーモも2回様子を見に来た。 | |||
私は小さなエントロピーと一緒に、手術室の前で待ち続けた。 | |||
ペルシカ | 教授、コーヒーです。 | ||
{教授} | うん、ありがとう。 | ||
ペルシカ | 少し休憩されてはどうですか?ここは私が。 | ||
{教授} | 大丈夫だよ、それなら一緒に待とう。 | ||
ペルシカ | はい…… | ||
ペルシカ | 心配いりません、クロックさんはきっと無事です……きっと。 | ||
{教授} | ああ、きっと。 | ||
ソル | 教授!手術……まだ終わってないの? | ||
{教授} | まだだね。始まって1時間くらいかな。 | ||
ソル | そ、そっか……だ、大丈夫だよ!こーゆー手術は初めてなんだからさ、時間がかかって当たり前だって! | ||
{教授} | 確かにな。今のところは順調のようだ。 | ||
ソル | うん…… | ||
ソル | あ、そうだ!お湯、準備してこよっか?クロックが起きた時に使うかもしれないし。 | ||
{教授} | いいね。頼んだよ、ソル。 | ||
アントニーナ | …… | ||
{教授} | 起きたのか、アントニーナ? | ||
アントニーナ | ええまぁ。たいして眠れませんでしたし。 | ||
{教授} | クロックの出迎えには間に合いそうだ。 | ||
アントニーナ | 人のセリフ、奪うのやめてもらえます? | ||
アントニーナ | …… | ||
{教授} | …… | ||
アントニーナ | ……座っても? | ||
{教授} | どうぞ。 | ||
アントニーナ | …… | ||
{教授} | 大丈夫だ、自分の成果に自信を持て。 | ||
アントニーナ | 言われるまでもない。 | ||
シーモ | 教授…… | ||
{教授} | しッ。 | ||
{教授} | クロックの傍に座る私は、シーモに静かにするよう示した。 | ||
シーモ | す、すみません。手術室の扉が開いてたので、つい…… | ||
{教授} | 手術は順調だったよ。目を覚ますまで時間がかかるそうだ。 | ||
シーモ | ……彼女の、容態は? | ||
{教授} | ……みんなを信じよう。 | ||
{教授} | 椅子を運んできたら? | ||
シーモ | あ、いえ、結構です。巡回がありますので…… | ||
{教授} | 警戒レベルを下げたんじゃなかったか? | ||
シーモ | ……はい。万が一があるといけませんから…… | ||
シーモ | 準備が整ったら……また来ます。 | ||
{教授} | うん、焦らないでいいよ。 | ||
シーモ | お疲れ様です、教授。クロックさんによろしくお伝え下さい。 | ||
{教授} | わかった。 | ||
私の返事を聞く前に、シーモは足早に手術室を立ち去った。 | |||
遠のく足音が響く中、長期間の疲労がたたったのか、私は激しい眠気に襲われた…… | |||
小さなエントロピー | キキッ、キキキーーーッ! | ||
{教授} | ……ん?うっ……寝てたのか……? | ||
小さなエントロピー | キキッ、キキキッ! | ||
{教授} | 静かにしなさい。 | ||
私は無意識に音のする方を探り、小さなエントロピーを捕まえようとした。 だが手に触れたのは、まったく違ったぬくもりだった。 | |||
{教授} | …… | ||
クロック | きょう、じゅ…… | ||
やや朦朧とした視界には、目を開けて精一杯の笑顔でこちらに手を振る、 クロックの姿があった。 | |||
クロック | ひさしぶり。 | ||
>> CHAPTER 6 // E N D . . . |